動学的最適化 (非確率的) Shigeki Isogai Department of Economics, Pennsylvania State University April 13, 2014 Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) 本スライドでやること 最適成長モデルを用いて動学的最適化の方法を解説する. 特に動的計画法 (Dynamic Programming; DP) の考え方につい て詳しく説明する. Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) 最適成長モデル 経済には永遠に生きる一人の代表的個人が存在し,代表的個人 は消費の列 {ct }∞ t=0 から効用 ∞ ∑ β t u(ct ) t=0 を得る.β ∈ (0, 1) は主観的割引価値である. 個人は各 t 期に生産量 yt のうち一部を消費 ct に,残りを投資 it に回して資本を蓄積する. 蓄積された資本は財の生産に使われる.生産技術は資本ストッ ク kt の関数 f (kt ) で表される. 最初期の資本ストック k0 は既に決まっているとする. 資本は 1 期時間が経つごとに減耗していく.減耗の割合を資本 減耗率 δ ∈ [0, 1] で表す. Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) 最適成長モデル すると資本蓄積の式は kt+1 = (1 − δ)kt + it 経済の資源制約は yt = ct + it また生産技術は yt = f (kt ) で表される. it を消去して整理すると f (kt ) = ct + kt+1 − (1 − δ)kt が得られる. この制約の下で代表的個人は効用を最大化するように {ct }, {kt } を選ぶ. Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) 最適成長モデル (sequential approach) まとめると,代表的個人は以下の最適化問題を解く. max {ct },{kt } ∞ ∑ β t u(ct ) t=0 s.t. f (kt ) = ct + kt+1 − (1 − δ)kt , t = 0, 1, 2, · · · k0 given 注意すべきは操作変数,制約条件ともに時間の数だけ (つまり 無限個) あること. しかし,実際のところ無限個のラグランジュ乗数を使ってやれ ば解くことができる (厳密性に関してはちょっと微妙?). t 期に対応する制約条件のラグランジュ乗数を λt とする. Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) 最適成長モデル (sequential approach) ラグランジュ関数は以下のようになる: L= ∞ ∑ β t u(ct ) + t=0 ∞ ∑ λt {f (kt ) − ct − kt+1 + (1 − δ)kt } t=0 t = 0 の時を除いて kt が二回登場することに注意しながら一階 条件 (FOC) を求めると t = 0, 1, 2, · · · について [ct ] [kt+1 ] β t u ′ (ct ) = λt (1) ′ (2) −λt + λt+1 f (kt+1 ) + λt+1 (1 − δ) = 0 Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) Euler 方程式 λt を消去すると t = 0, 1, 2, · · · について { } u ′ (ct ) = βu ′ (ct+1 ) f ′ (kt+1 ) + 1 − δ が成り立つことがわかる. これを異時点間の最適化条件,もしくは Euler 方程式という. 左辺は t 期に消費を増やすことによる効用の増加,右辺はそれ によって t + 1 期に得られるはずだった消費を放棄することに よる効用の減少 (または機会費用の効用による表現) を表して いる. どちらかが大きければ消費の仕方を変えることで効用を増加さ せることができる. Euler 方程式 (と追加の条件) によって動学的最適化問題の解が 特徴付けられる. Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) 動的計画法:有限期のモデルの場合 次に動的計画法について解説する. まずは次の T 期のモデルについて考えてみる. max {ct },{kt } T ∑ β t u(ct ) t=0 s.t. f (kt ) = ct + kt+1 − (1 − δ)kt , t = 0, 1, 2, · · · T kT +1 ≥ 0 k0 given 最終期に「借金」を残さないよう,制約 kT +1 ≥ 0 が追加され たこと (これを終端条件という) を除けば以前の問題と同様で ある. Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) 動的計画法のアイディア:動学的整合性 ラグランジュ乗数法による解法は,いわば t = 0 期に一度に将 来の消費量と資本蓄積の量を決めてしまうようなやり方 だった. もし消費者が十分に合理的ならばそのように一度に決めた計画 と,各期その場その場で決める計画とは結果的には同じになる はずである. このような消費者の合理性を動学的整合性という. つまり「今日何するか決めたら,後は明日の自分が上手いこと やってくれるだろう」ということ. Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) 後ろ向き帰納法 そこで「明日の自分が上手いことやる」の部分,つまり最終期 を考えてみよう. T 期が始まった時点で資本蓄積 kT が前の期から持ち越されて いる. この状態で T 期の消費を決める. 最大化問題は max u(cT ) cT s.t. f (kT ) = cT + kT +1 − (1 − δ)kT kT +1 ≥ 0 kT given Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) 後ろ向き帰納法 資本を残す意味はないので kT +1 = 0,従って cT = f (kT ) + (1 − δ)kT が解となる. 最適化の必要条件 u ′ (cT ) = λT は成り立っていることに注意しよう. このときこの問題の価値関数を { VT (kT ) := max u(cT ) : f (kT ) = cT + kT +1 − (1 − δ)kT , } kT +1 ≥ 0 と書く. Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) 後ろ向き帰納法 次に T − 1 期の最適化を考える. このとき T 期になってからの意思決定問題は既に解いている から,わざわざ解き直す必要はない.従って最適化問題は以下 のようになる: max u(cT −1 ) + βVT (kT ) cT −1 s.t. f (kT −1 ) = cT −1 + kT − (1 − δ)kT −1 kT −1 given kT がわかっていれば T 期の問題は次の期に解けるから T 期 の効用を価値関数でおきかえることができる (β で割引くのを 忘れずに). Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) 後ろ向き帰納法 制約条件を用いて kT を消去すると max u(cT −1 ) + βVT [f (kT −1 ) + (1 − δ)kT −1 − cT −1 ] cT −1 FOC は u ′ (cT −1 ) = βVT′ (kT ) 包絡線定理と T 期の問題の FOC により { } { } VT′ (kT ) = λT f ′ (kT ) + 1 − δ = u ′ (cT ) f ′ (kT ) + 1 − δ 従って { } u ′ (cT −1 ) = βu ′ (cT ) f ′ (kT ) + 1 − δ を得る.これはラグランジュ乗数法で解いたときの条件と一致 する. Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) 後ろ向き帰納法 以後同様に解いていくことによって消費の列 {ct } と {kt } を求 めることができ,その条件はラグランジュ乗数法で導出した Euler 方程式と一致する. このようにして動学的整合性の考え方と価値関数を用いて逐次 的に問題を解いていくのが動的計画法である. ここで重要なのは t 期の問題を解くには前期から持ち越された 資本の量 kt を知っていれば十分だったということ. このように各期の問題を解くのに十分な情報を与える変数を 状態変数 という. 状態変数は一つとは限らない. Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) 動的計画法:無限期の問題 では当初の問題 max {ct },{kt } ∞ ∑ β t u(ct ) t=0 s.t. f (kt ) = ct + kt+1 − (1 − δ)kt , t = 0, 1, 2, · · · k0 given を解いていこう. 無限期のモデルでは最終期はないが,どの期から始めてもその 後にさらに無限期が続く,という意味ですべての期の問題が相 似的である. 異なりうるのは最初に与えられている資本ストックの量だけ. 資本ストックの量を状態変数として動的計画法を用いる. t 期の問題の価値関数を V (kt ) とおく. Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) 動的計画法:無限期の問題 このとき価値関数は以下の方程式をみたす: V (kt ) = max {u(ct ) + βV (kt+1 ) : f (kt ) = ct + kt+1 − (1 − δ)kt } ct 価値関数に関してこのような式が成り立つことをベルマンの最 適性原理といい,この式をベルマン方程式という. この問題の性質は特定の時点 t に依存しない (これを定常性と いう) ので,時間の添字を省略し,来期の変数には ′ をつけて 表すことにする. また上の問題を操作変数 c に関する最適化と考えるよりも来期 の状態変数 k ′ に関する最適化と考えた方が計算が楽になるこ とが多い.そこで制約条件を用いて c を消去する. Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) 動的計画法:無限期の問題 従ってベルマン方程式は { [ ] } V (k) = max u f (k) + (1 − δ)k − k ′ + βV (k ′ ) ′ k と書き換えられる. 最適化問題の FOC から u ′ (c) = βV ′ (k ′ ) を得る.これを解けば (解けるとしよう)k ′ , c を k の関数とし て表せる: k ′ = ϕ(k), c = ψ(k) これを政策関数 (policy function) などという (残念ながらよい 日本語訳がない). Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的) 動的計画法:無限期の問題 policy function を用いると価値関数は V (k) = u [f (k) + (1 − δ)k − ϕ(k)] + βV [ϕ(k)] で与えられる. 包絡線定理により { } V ′ (k) = u ′ (c) f ′ (k) + 1 − δ これを 1 期ずらして FOC に代入すれば Euler 方程式 { } u ′ (c) = βV ′ (k ′ ) = βu ′ (c ′ ) f (k ′ ) + 1 − δ を得る. Shigeki Isogai 動学的最適化 (非確率的)
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