H23年度発表要旨集 - 科学技術振興機構

第二回全国受講生研究発表会
要旨集
平成23年9月17日(土)~9月19日(月)
場所:東京大学 情報学環 福武ホール
主催:科学技術振興機構
・・・目次・・・
頁
●未来の科学者養成講座
第二回全国受講生研究発表会プログラム・・・・・・・・・
7
●発表要旨
○1日目
発表テーマ一覧(1日目)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
口頭発表1 井戸川 直人
トゲアリの一時的社会寄生・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
口頭発表2 秋元 勇貴
千葉県におけるメダカの遺伝的多様性とその実態・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
口頭発表3 佐藤 帆南
二重振り子の製作とその解析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
口頭発表4 岡 良樹
人工雪結晶生成実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
口頭発表5 大城 萌香・柴田 眞侑
蛍光試薬を用いた細胞内活性酸素の検出・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
口頭発表6 早坂 美月・田中 光
ハイブリットマイクロカプセルを作って金を捕まえてみよう!・・・・・・・・・・・24
○2日目
発表テーマ一覧(2日目午前)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
口頭発表7 岡田 健裕・小網 麻衣
脳梗塞巣に集積する細胞 BINCs の TLR3 リガンドによる活性化・・・・・・・・・・ 30
口頭発表8 野寄 修平
飛行機の着陸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
口頭発表9 永谷 春果
遺伝子組み換えで遺伝子の働きを調べる
分裂酵母の栄養感知の機構について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34
口頭発表10 ローン・ジョシュア
「小型風車における風向変動による発電性能への影響の研究」
~水平軸と垂直軸風車の比較~・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36
口頭発表11 宮澤 小春
生態から見た森の鳥たちの1年間(戸隠森林植物園の鳥類相)
・・・・・・・・・・・ 38
口頭発表12 今城 有貴
蝋燭のゆらぎ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40
3
●発表要旨
○2日目
口頭発表13 藤家 咲
コダカラベンケイソウの生育と環境適応‐・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42
口頭発表14 大内 富久美
魚類の胚細胞の分化の仕組みについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44
発表テーマ一覧(2日目午後)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49
口頭発表15 藤田 琴実・丸岡 真由美・中野渡 滉希
ヒトデを用いて、卵成熟と受精の仕組みを知ろう!・・・・・・・・・・・・・・・50
口頭発表16 関 梓
シリカナノパウダー担持フタロシアニン固体による一重項酸素生成剤の開発・・・・・・・・ 52
口頭発表17 小島原 知大
メダカへの Fra1 遺伝子導入・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54
口頭発表18 朝倉 江里佳・田中 郁也・東山 慎太郎・片川 冴香・杉本 拳
がんに対する免疫療法の開発に挑戦!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56
口頭発表19 川中 寅生
特異な求愛行動を示すカワヨシノボリの神経系の形成と行動に関する研究・・・・・・・・・・・・ 58
口頭発表20 日髙 拓也
生成条件による炭酸カルシウムの結晶構造のちがいについて・・・・・・・・・・ 60
口頭発表21 上田 紗百里
ヒヨコの衝動性について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62
口頭発表22 鈴木 昇太
無限等比級数の和に関する考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 64
口頭発表23 須藤 舞子・浅倉 由香
君が天文学者になる 4 日間 in 仙台・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66
口頭発表24 高野 成章
Fe 添加 GaN における光誘起吸収の光強度依存性・・・・・・・・・・・・・・・・68
口頭発表25 四宮 有紗
ハダカデバネズミ iPS 細胞の機能解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70
4
●発表要旨
○3日目
発表テーマ一覧(3 日目)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
75
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合1
大熊 祐一
津波によって陸上に運ばれた砂の起源についての研究
-1640 年北海道駒ケ岳噴火津波の事例から-・・・・・・・・・・・・・・・・ 78
佐藤 茉莉香
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合2
自 律 型 海 中 ロ ボ ッ ト に よ る に よ る 熱 水 チ ム ニ ー の 押 倒 し 手 法 の 開 発・・・・・80
杉本 隆介・光武 亨
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合3
長崎・原爆資料(米国・国立公文書館所蔵・航空写真)の WEB 公開・・・・・・・82
黒田 幹大・北川 颯人
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合4
自律型ロボットを用いたサッカーロボットの製作・・・・・・・・・・・・・・・・ 84
進藤 友恵・渡辺 雄太・藤田 琴実
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合5
超臨界流体のふしぎな特徴とその応用技術・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86
原
朱音
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合6
ある退化型二階非線形微分方程式の時間大域解と減衰・・・・・・・・・・・・・・88
ポスター発表 化学1 藤原 那奈
亜臨界水熱処理を用いた廃棄物系バイオマスの資源化・・・・・・・・・・・・・・90
ポスター発表 化学2 大坂 宙矩
シリコン単結晶の表面再構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・92
ポスター発表 化学3 榛葉 有希
X線で見る酸化物超伝導体・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・94
ポスター発表 化学4 新谷俊貴
コバルト錯体とバナジウム錯体の溶液および固体中の色分析・・・・・・・・・・・96
ポスター発表 化学5 岡田 瑞穂・谷 望未
電子レンジを用いた高温超伝導体合成の試み・・・・・・・・・・・・・・・・・・98
ポスター発表 動物系1 道内 真輝
河川性魚類の種多様性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100
ポスター発表 動物系2 金指 莉乃・木戸 美怜
古代生物を診てみよう~現生オウムガイ類が持つ古生物の秘密~・・・・・・・・・102
ポスター発表 動物系3 宇佐美 賢祐
森林性ジャコウアゲハの幼虫における体色変化
~森林性個体でも体色変化を起こせるのか?~・・・・・・・・・・・・・・・・・104
ポスター発表 動物系4 吉橋 佑馬
モジホコリの変形体が生きていく戦略とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・106
5
ポスター発表
動物系5 後藤 優佳
ウニの割球解離・接着実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・108
ポスター発表 植物系1 大宮 早織・野上 優水
~組織培養法によるイチョウ(Ginkgo biloba L.)精子誘導の研究 Ⅱ~・・・・・・・・・110
ポスター発表 植物系2 加藤 巽・門間 貴大
ダーウィンが見た「動く植物」の仕組みを探ろう・・・・・・・・・・・・・・・・・112
ポスター発表 植物系3 櫛田 和花奈
セイタカアワダチソウのアレロパシー作用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・114
ポスター発表 植物系4 今川 瑞季・羽藤 真鈴
培養マスト細胞を用いたスギ花粉によるヒスタミン遊離・・・・・・・・・・・・・・116
ポスター発表 生命系1 佐藤 耕平・守屋 千尋
細胞間コミュニケーションを評価する・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・118
ポスター発表 生命系2 小田原 冬季
記憶と学習の関係、神経伝達の仕組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・120
ポスター発表 生命系3 伊藤 千慧子
人工酵素によるメタロチオネイン遺伝子の破壊・・・・・・・・・・・・・・・・・・122
ポスター発表 生命系4 山下 莉奈
アロエ抽出物の創傷治癒に及ぼす影響の解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・124
ポスター発表 生命系5 久永 めぐみ
Rat 肝臓由来 XanthineOxidase の抽出・精製・・・・・・・・・・・・・・・・・・126
● メモ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・129
6
未来の科学者養成講座
第二回全国受講生研究発表会 プログラム
開催日時: 2011年9月17日(土)~9月19日(月)
開催場所: 東京大学 福武ホール(本郷キャンパス)ほか
〒113-8654 文京区本郷7-3-1
1日目
9月17日(土)
Ⅰ部 14:00-17:40
13:00~
開場・受付
14:00~15:15
開会式
於:東京大学 福武ホール
◇開会挨拶
◇来賓挨拶 文部科学省科学技術・学術政策局(未定)
◇記念講演
細野秀雄 東京工業大学フロンティア研究機構教授
「超電導研究の最先端から」
◇諸連絡
****<休憩15分>*****
15:30-17:30
受講生発表
1発表あたり20分
(発表12分 質疑応答6分 評価記入2分)
◇発表1~6
17:30-17:40
(15:30~17:30)
諸連絡
すみやかにチャーターバスに分乗し宿泊所に移動
*宿泊所にて各自夕食をとってください(夕食18:30~19:15)
1日目
Ⅱ部 19:30-21:00
19:30-21:00
受講生交流会
21:00~
自由時間
7
於:日本青年館ホテル
2日目
9月18日(日)
●午前の部●
8:30~
9:00-11:55
Ⅰ部 9:00-17:30 於:東京大学 福武ホール
開場
受講生発表
◇発表7~10
(9:00~10:20)
****<休憩15分>*****
◇発表11~14 (10:35~11:55)
12:00~
昼休み(1時間)
*各自昼食をとってください
●午後の部●
13:00-17:10
受講生発表
◇発表15~18 (13:00~14:20)
****<休憩15分>*****
◇発表19~22 (14:35~15:55)
****<休憩15分>*****
◇発表23~25 (16:10~17:10)
17:10~17:30
諸連絡
★受講生は「口頭発表コメントシート」記入し、提出
★審査員の2日目分の審査シート回収
すみやかにチャーターバスに分乗し宿泊所に移動
*宿泊所にて各自夕食をとってください(夕食18:30~19:15)
2日目
Ⅱ部 19:30-21:00
19:30-21:00
受講生交流会
21:00~
自由時間
8
於:日本青年館ホテル
3日目
9月19日(月)
9:00-15:30
8:30~
開場
9:00-9:10
9:10-12:00
ポスター発表進行説明
ポスター発表(分野別)
於:東京大学
福武ホール
1発表あたり20分
(発表10分 質疑応答10分(評価記入込み))
分野別発表終了後、自由に発表を聴いてください。
12時までに審査員は審査ノート、
受講生はコメント記入の上、提出してください。
12:00~14:00
昼休み&自由時間
14:00-15:30
表閉会式
◇彰状授与と受賞者コメント
◇参加者感想・コメント(参加者・実施機関)
◇講評
伊藤卓 未来の科学者養成講座推進委員会委員長
◇閉会挨拶 JST理数学習支援部長 岩渕晴行
◇アンケート記入・諸連絡
注意)上記の発表時間は、若干変動することがあります。
9
10
1日目
発表テーマ一覧
●1日目●
発表
テーマ
講座大学
氏
名
1
トゲアリの一時的社会寄生
筑波大学
井戸川
2
千葉県におけるメダカの遺伝的多様性とその実態
千葉大学
秋元 勇貴
16p
3
二重振り子の製作とその解析
埼玉大学
佐藤 帆南
18p
4
人工雪結晶生成実験
北海道大学
岡 良樹
20p
5
蛍光試薬を用いた細胞内活性酸素の検出
早稲田大学
6
ハイブリットマイクロカプセルを作って金を捕まえてみよう!
13
東北大学
直人
頁
大城 萌香
柴田 眞侑
早坂 美月
田中 光
14p
22p
24p
口頭発表1 筑波大学
トゲアリの一時的社会寄生
井戸川 直人(創価高等学校 2 年)
担当教員:松崎 治
1
TA:清水 将太
背景
トゲアリ Polyrhachislamellidens の女王は、コロニー創設時に他種のアリの巣を乗っ取る。
一時的社会寄生と呼ばれるこの習性は大変興味深いものではあるが、未だに謎も多い。演者は、
トゲアリに見られる社会寄生のメカニズムの研究を中心に、本種の生活史の解明を目指している。
2
実験方法
地中で生活するアリは、視覚に頼らず匂いで敵味方を識別する。トゲアリの女王は宿主の巣に侵
入し、ワーカー(働きアリ)を捕まえてその匂いを身にまとい、宿主の身内になりすまして女王を
殺すという。このことを確かめるため、以下のような実験を行った。
■実験 1:ワーカーに対する寄生行動
■実験 2:宿主女王への攻撃
4 つの条件で 2 頭のアリを観察容器に投入し、
トゲアリとクロオオアリの女王を 1 頭ずつ観
その相互作用を観察した。
察容器に投入し、相互作用を観察した。
Ⅰ トゲアリの女王とクロオオアリのワーカー
Ⅱ 触角を切除したトゲアリの女王とクロオオアリのワーカー
Ⅲ 出身コロニーの同じトゲアリの女王と同ワーカー
Ⅳ 出身コロニーの異なるトゲアリの女王と同ワーカー
表 1:実験条件
3
結果
■実験 1
トゲアリの女王がワーカーを抱え込み、ワー
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
カーの体表を舐める「寄生行動」と、ワーカー
が女王の触角や足にかみつく 「反撃」の 2 種
類の行動が、右の表の通りに観察できた。
寄生行動
+
-
-
+
反撃
+
+
-
+
表 2:実験結果
■実験 2
観察したすべての条件で、トゲアリの女王がクロオオアリの女王の頸部に腹側から噛みつき、
数日間組み敷いた。最初、クロオオアリは激しく抵抗したが、噛みつかれてからは目立った抵抗
はしなかった。クロオオアリは次第に衰弱し、トゲアリが離れた時点で全ての個体が死んでいた。
クロオオアリの死骸をトゲアリが積極的になめる様子もみられた。
14
口頭発表1 筑波大学
4
考察
実験 1 の条件Ⅰは、トゲアリが宿主のコロニーに侵入した直後の状況を模したものだ。
この条件で観察されたような応酬が野生のコロニーでも行われていると思われる。
また、条件Ⅱでの結果より、トゲアリの寄生行動は触角で感受する何らかの信号物質によって
解発されると考えられる。さらに条件ⅢとⅣを比較すると、血縁者同士は寄生を行わないことか
ら、コロニーによって異なる巣仲間認識フェロモンが寄生行動の直接の解発因なのではないか。
この物質は触角で感受される。
実験 2 では、トゲアリの女王が宿主の女王を攻撃し、死に至らしめるまでの様子を記録するこ
とができた。社会寄生において、トゲアリが宿主の女王を殺すことが不可避なら、野生のトゲア
リの女王もこのように宿主の女王を殺すのだろう。
5
今後の展望
トゲアリ以外の社会寄生を行うアリを対象に同様の研究を行い、寄生の方法や宿主との関係を
比較したい。また、アリの信号伝達物質である炭化水素を抽出し虫体に塗布する等の化学的な操
作を行って、社会寄生に関与する物質の種類と役割を明らかにしたい。
◇主要参考文献
1) 野外でのトゲアリとクロオオアリの混合巣/郡場央基
2) トゲアリの寄生生活/郡場央基
3) トゲアリの観察と飼育/酒井春彦
4) 日本産アリ類全種図鑑/アリ類データベースグループ
<講座担当教員のコメント>
徹底したフィールド観察を長く続け、トゲアリの生態について、環境も含めた包括的なイメージ
を得ている点が貴重で、社会寄生のメカニズムを図示するに至ったことは特に優れている。今後、
さまざまな分野への展開が期待される。
15
口頭発表2 千葉大学
千葉県におけるメダカの遺伝的多様性とその実態
秋元 勇貴(千葉市立千葉高等学校 2年)
担当教員:野村 純(千葉大学教育学部)
Key words: phylogeography , conservation , Oryziaslatipes , mitochondrial DNA ,
PCR-RFLP , Geographic variation
◇研究の目的・意義
近年、各種メディアで「生物多様性」についての話題が増えてきている。昨年は COP10(生
物多様性条約第 10 回目締約国会議)が開かれ話題となった。大きなスケールで起こっている生態
系や種の多様性の問題などと比較し、
「遺伝的多様性」は一見、規模が小さく感じられるが、生態
系自体にも影響する重要な問題である。この遺伝的多様性を保つためには外部からの遺伝子汚染
を防止することが基本であり、そのために事前に個体群ごとの遺伝的特徴を調べておくことが必
要である。本研究でメダカをサンプル生物として用い、千葉県内の比較的近い地域での実態調査
を行い、遺伝的多様性の保存方法を探った。また同時に地理的条件との関係も探った。
◇研究の方法・プロセス
メダカの採集
それぞれ内房、外房、下総台地に属する
ⅰ.千葉県千葉市緑区
ⅱ.千葉県長生郡白子町
ⅲ.千葉県八千代市 の 3 地点から採集した。(図 1,2)
DNA抽出
図 1.メダカの採取地点
メダカの尾鰭を 2~3mm ほど切断し、DNA 抽出の材料とした。DNA 抽出液(BuccalAmpTM DNA
Extraction Kit、EPICENTRE BIOTECHNOLOGIES 社)を 50μl 添加、これを 65℃で 5 分間、98℃で 3
分間加熱して抽出した。
PCR 法によるミトコンドリアチトクローム b(mtCytb)遺伝子の増幅
抽出したテンプレートの DNA に、DNA 合成酵素 ExTaq、プライマー(DNA 合成の鋳型)、dNTP(DNA
合成の素材)、バッファー、純水を加え混ぜた。これを 94℃で 2 分加熱を 1 サイクル、94℃で 1
分 30 秒、55℃で 2 分、72℃で 2 分加熱を 33 サイクル行い(PCR 法)、メダカの mtCytb 遺伝子を増
幅した。これをアガロースゲル電気泳動法で解析した。(Takehana et al.2003)
PCR-RFLP 法
切断された DNA 断片の長さが遺伝子多型により同一種内で異なる制限酵素断
片長多型(RestrictionFragment Length Polymorphism)という現象を用いて DNA の変異を調べた。
メダカの遺伝的分類に用いられる 4 つの酵素(HaeⅢ、MboⅠ、MspⅠ、RsaⅠ)により酵素切断を行
った(高山-渡辺絵理子 et al.2005)
シークエンス
さらに PCR 産物の塩基配列を DNA の前後から読み取った。DNA 配列データは sequence scanner で
確認した。3’端から配列データの方向、塩基を SeqConv で反転、前後をつなぎ、PCR 産物全長の
遺伝子配列にした。また、CLUSTALW を使ってアラインメントした。
16
口頭発表2 千葉大学
◇ 結果と考察
A
B
A
C
D
図 2.捕獲したメダカ(A 緑区産、B 白子町産、C 八千代市産黒色型、D 八千代市赤色型)
PCR-RFLP 法の結果 電気泳動の結果より、検体のはプロタイプは千葉市緑区産はB27、
白子町産は B3 か B4、八千代市産はともに B11 という結果になった。
図 3.電気泳動の結果一例
図 4.採取地点別の酵素切断のパターンとハプロタイプ
シークエンスの結果 八千代市産どうしでは合致率が 91%であった。一方、八千代市産に対
し千葉市緑区産、白子町産の順で遺伝的な差異が大きくなっていた。
図 5.アラインメントした部分例(塩基が一致しなかった部位)
図 6.シークエンス結果の樹形図
◇ 考察・今後の展望
PCR-RFLP 法の結果より、千葉市緑区産の個体は茂原市、八千代市産の個体は佐倉市などに見られ
るメダカのハプロタイプと一致した。しかし、白子町産の個体は本来県内に生息していないハプ
ロタイプであるため、人為的な遺伝子汚染の可能性が高いと考えられる。加えてシークエンスの
結果より、八千代市産の黒色型、赤色型 2 個体の Cytb 遺伝子の 91%の塩基配列が一致したこと
から、人為的に放流された赤色型個体と元来生息していた黒色型個体の交雑が疑われる。
現在、千葉市緑区産の個体と茂原市に生息する個体のハプロタイプが一致したことから、千葉
県という地理とメダカの遺伝的分布の関係によって、県内に生息する淡水生物の遺伝的多様性の
保護に役立つのではないかと考え、地理とメダカの遺伝的分布の関係について探っている。
◇ 主要参考文献
Geographic Variation and Diversity of the Cytochromeb Gene in Japanese Wild Population of Medaka,
Oryzias latipes(Takehana et al.、2003)、山形県内に生息する野生メダカにおける種内分化の分子遺伝学的解析
(高山-渡辺絵理子 et al.、2005)、千葉県九十九里浜平野の完新統の発達過程,第 4 紀研究(増田富士男 et al.、2001)
<講座担当教員のコメント>
国内におけるメダカの分布と進化、特にその遺伝的解析をベースとして、環境保護の観点から独自の
調査を千葉県内の分水嶺によりわけられた水域ごとに調査ポイントを設定し、遺伝的多様性に関する
環境問題を提起している点が評価できる。
17
口頭発表3
埼玉大学
二重振り子の製作とその解析
佐藤 帆南(埼玉県立不動岡高等学校 3 年)
担当教員:池口 徹 教授(埼玉大学大学院 理工学研究科)
◇研究の目的・意義
台風や地震などのように,突発的で予測のつかない現象は数多く存在する.しかし,これらの
複雑に振る舞う現象の中には,ルールが隠されているものもある.これらの現象は決定論的カオ
スと呼ばれている.本研究では,カオス的現象に対する理解を深めるために,カオス的な振舞い
を生じる二重振り子を研究対象にした.その際,二重振り子を実際に製作し,二重振り子の示す
複雑な振舞いが本当にカオス的であるのかどうかを確かめるための解析を行った.
◇研究の方法・プロセス
(a)初号機
まず初めに,二重振り子を製作した.必要な材
(b)二号機
料(図 1)はホームセンターなどで入手した.製
作した二重振り子は上部の振り子の板が一枚のも
の(初号機,図 2(a)
)と二枚のもの(二号機,
図 2(b)
)の二種類である(図 2)
.次に,二重振
り子を同じ初期位置から動かす実験を複数回行い,
最初の時点での微小な差がすぐに拡大してまった
く違う動きになるというカオスの本質的な性質が
図 2:二重振り子
図 1:材料
存在するかを解析する.具体的な実験手順を以下
に示す.
1.製作した二重振り子の撮影
製作した二重振り子の動きを,ビデオカメラで撮影した.撮影した動画
から二重振り子の動きを抽出するために,二重振り子の回転軸と先端に青
色と赤色のマーカーをつけた(図 3)
.撮影開始前は,後ろの壁に空けた
穴から出した板で振り子を支え,この板を穴から引き抜くことで,毎回同
じ位置から振り子を動かせるよう工夫した.
図 3:マーカーの位置と振り子
撮影時の支え
初号機,二号機ともに 5 回ずつ,計 10 回撮影した.
2.角度,角速度データの抽出
1000
撮影した動画から,二重振り子につけた
800
マーカーの軌跡を xy 座標平面上のデータ
y
600
に変換した(図 4)
.
400
次に内積の公式を用いて xy 座標値から
1,
2 角度(図 5 のように定義)を求め,
続いて角度から角速度
1,
2
を計算した.
計算には C 言語で作成したプログラムを用いた.
200
0
400
600
800
1000
1200
1400
1600
x
図 4:座標データへの変換.
軌跡の色はマーカーの色に対応.
18
図 5:
1,
2
の定義
口頭発表3
埼玉大学
3.微小な差の拡大の様子を観測
異なる 2 つのトライアル a,b に対する初期時刻 t
(a)
1
(0 ) ,
(a)
1
(0),
2
(a)
(0 ) ,
2
(a )
(0) と
(b )
1
(b )
(0), 1 (0), 2
(b)
(0), 2
(b )
0 における状態値
(0) の間には微小な差が存在
する.もし二重振り子の振舞いがカオス的であれば,この微少な差は時間とともに指数関数的に拡大し
ていくことが知られている.そこで,時刻 t におけるトライアル a,b 間の 2 点間距離 d ab (t ) を以下
により定義する.
2
(a)
d ab ( t )
1
(t )-
(b )
1
横軸に t ,縦軸に log d
ad
(t )
2
+
(a)
1
(t )-
(b )
1
(t )
2
+ (a)
2
(t )-
(b)
2
(t )
2
+ (a )
2
(t )-
(b )
2
(t )
(t ) をとったグラフにおいて傾きが正となる部分が存在すれば,d ab (t ) は指数
関数的に増加したことになる.このとき,二重振り子の振舞いはカオスであると考えられる.
◇結果と考察
図 6 は, 5 回のトライアルから任意の 2 トライアル a,b について d ab (t ) を算出したものである
(各 10 通り)
.
図 6 より,初号機,二号
(a)
(b)
機ともに,0 ≦t ≦1 におい
て, log d
ad
(t ) の傾きが正
になること,すなわち初期
状態では微小な差であった
のが,徐々に増加していく
ことがわかる.これは,
図6:時間経過による距離の拡大の様子.
(a)初号機,
(b)二号機
初期状態における差が,時間が経つにつれて指数関数的に拡大しているということである.これらの結
果より,二重振り子の振舞いはカオス的であるといえる.
また,二号機は初号機と異なり,上部の振り子の板が 2 枚のため動作が安定している.そのためトラ
イアルごとの d ab (t ) のグラフに大きな違いが少なかったと考えられる.
◇今後の展望
本研究では,三重振り子も製作したが自重に耐えられず,なめらかに動作するものを製作するまでに
は至らなかった.構造的な観点からも検討を加え,なめらかに動く三重振り子を製作し,同様な解析を
行いたい.本研究を進めるにあたり,多大なご協力をいただいた島田裕氏(埼玉大学大学院 理工学研
究科 博士課程)に感謝いたします.
◇主要参考文献
T. Shinbrot et al., “Chaos in a double pendulum”, Am. J. Physics.,60(6), pp. 491-499, 1992.
<講座担当教員のコメント>
二重振り子の製作から,データ取得・解析まで熱心に取り組んだ.解析によりリアプノフ指数を算出し,
それが正となることも示しており,十分に評価できる.
19
口頭発表4 北海道大学
人工雪結晶生成実験
岡 良樹(北海道札幌西高等学校 2年)
担当教員:杉山 慎
◇研究の目的・意義
北海道に住む私にとって、雪は身近な存在である。この雪の結晶には様々な形があることが知ら
れている。そこで実際に雪結晶を観察して形の違いや成長の仕方を比較してみたいと考えた。しか
し自然中で観察される結晶は生成時の温度や湿度などの条件をコントロールすることができず、ま
た採取時の環境にも左右される。そこで、室内で温度や湿度の条件を設定することができる雪結晶
生成装置を作製し、これらの条件を変えることで様々な環境のもとで人工の雪結晶を作る実験を行
った。
◇研究の方法・プロセス
・装置の開発
1936 年に北海道大学の中谷宇吉郎が対流型雪結晶生成装置を作製して、
世界で初めて人工雪結晶
の生成に成功した。その後、1958 年にハーレットとメーソンが成層型雪結晶生成装置を用いて、雪
結晶の生成に成功した。これらの装置は、供給した水から発生した水蒸気と、冷却された空気が出
会うところで、糸を核として結晶が成長する構造である。
当初、装置底面に設置したペルチェ素子を冷却源とする成層型雪結晶生成装置(東洋製作所)を
参考に、アクリルパイプとウレタンフォームを組み合わせて装置を自作した。しかし、結晶生成部
を氷点下に冷却することができず、雪結晶生成には至らなかった。そこで、冷却された空気による
対流で結晶生成部を冷却する、対流型雪結晶生成装置を作製した(図 1)
。この装置は上面にペルチ
ェ素子を設置し、発泡スチロールを主材としている。これにより、雪結晶の生成に充分な-30℃程
度に冷却することが可能となった(図 2)
。
図 1 自作した雪結晶生成装置
図 2 装置内部の空気の温度変化
装置本体に加え、結晶撮影用の光源、温度
冷却開始 20 分で装置内部の温度が一定になる。ペルチェ素子
ロガーなどから構成される。
に加える電圧を変えることで、温度をコントロールできる。
・実験手法
装置底面に脱脂綿を置き、底面から 50mm の位置にナイロン糸と温度ロガーを水平に設置した。ペ
ルチェ素子に 12V の電圧を加えて、結晶生成部の温度が安定するまで約 30 分間冷却した。その後、
注水口から水を 2.5ml 供給し、
電圧を調整しながら結晶生成部の温度を一定に保ち 10 分間結晶を成
長させた。前面の観察窓から顕微鏡を用いて結晶を撮影し、大きさの測定と形状の観察を行った。
20
口頭発表4 北海道大学
◇結果と考察
供給する水の温度と結晶生成部の冷却温
度に対する結晶の大きさを図 3 のグラフに
示す。 供給する水の温度が高く、結晶生成
部の冷却温度が低いほど結晶が大きくなる
ことが分かる。多数の針状結晶(A)が急速に
成長するものや、一本の枝状結晶(B)が時間
をかけて成長するものがあった。結晶が成
長しない(C)条件もあった。
生成する結晶の大きさは、水蒸気量と結
晶生成部の冷却温度に依存していると考え
られる。供給する水の温度が高いと多くの
水蒸気が発生し、結晶生成部の冷却温度が
低いと、多くの水蒸気が凝固して結晶とな
るからである。
2.0mm
A
1.5mm
1.0mm
B
C
B
A
1mm
C
1mm
1mm
◇今後の展望
A
B
C
自然界では空気中の塵や海塩粒子など、
図 3 温度・水蒸気量を変えて観察される様々な雪結晶
さまざまなものを核として雪が成長してい
観察された雪結晶の大きさと形状の分類は、それぞれ図の
る。今回の研究では雪結晶の核としてナイ
マーカーの大きさと色で表わしている。
ロン糸のみを用いて実験を行っていたが、
核を綿糸や動物の体毛などに変えることに
より生成される結晶の形状の違いを研究してみる必要もある。
1 年間を通し、大学教員や大学院生の方々の指導のもと研究を行って、一般高校生は知りえない
大学の活動内容や雰囲気を知ることができた。この研究活動は、継続して研究することの大切さや
発表の仕方を学ぶことができる、非常に良い機会であった。今回の経験から、今まで大学受験を目
標として勉強をしていたが、入学後のことを考えて、高校生のうちにしっかり基礎を固めて、自分
の研究をするために勉強していこうと思うようになった。
◇謝辞
雪結晶生成装置の開発にあたり、
小嶋真輔氏(株式会社 東洋製作所)には多くのご協力をいただい
た。心から感謝の気持ちと御礼を申し上げる。
◇主要参考文献
遠藤浩司 他 (1998): 結晶雪観察を含めた複合化観察素材の開発, 第 14 回 寒地技術シンポジウ
ム予稿集
Hallett J., B.J. Mason (1958): The influence of temperature and supersaturation on the habit
of ice crystals grown from the vapour. Proc. Roy. Soc., A247, 440-453.
前野紀一, 黒田登志雄 (1986): 「雪氷の構造と物性」古今書院
中谷宇吉郎 (1949): 「雪の研究」岩波書店
<講座担当教員のコメント>
北海道人には馴染みの深い雪ですが、その微細な構造や成長過程に触れる機会は少ないと思います。
その謎を解くため、実験装置の設計・製作から、温度・水蒸気量を変化させた実験まで、根気づよく取
り組んでくれました。岡君と指導にあたった大学院生の努力で、見事な結晶が成長しています。
21
口頭発表5 早稲田大学
蛍光試薬を用いた細胞内活性酸素の検出
大城 萌香(早稲田実業高校
柴田 眞侑(晃華学園高校
2年)
1年)
担当教員:細川 誠二郎
◇研究の目的・意義
活性酸素は、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化の過程で発生するもので、近年、老
化やがん化との関係で注目されている。蛍光試薬を用いて異なる種類や状態の動物の培
養細胞内の細胞内活性酸素を検出する。
◇原理(図1参照)
蛍光試薬が細胞内に入ると、DCFH‐DA がエステラーゼによって脱アセチル化され
ることで、DCFH となる。その後、活性酸素と反応することで DCF という蛍光性の物
質に変化する。DCF にレーザー光 488nm を照射し、530nm の蛍光を観察する。
図1
DCFH‐DA の 変化
◇研究の方法・プロセス(図2参照)
1.ヒトがん細胞とマウス正常細胞をそれぞれ観察用ディッシュに入れたものを6つず
つ用意する。
2.6つのうち一つに resveratrol(活性酸素抑制試薬)を 100μmol/L を加え一晩培養
し、他の1つに pyocyanin(活性酸素誘導試薬)50μmol/L を加え2時間培養する。
対照として resveratrol の DMSO 溶液および pyocyanin のエタノール溶液もそれぞ
れ違うディッシュに加えて培養しておく。
3.培養後、そこに蛍光試薬(DCFH-DA)を加え、30 分培養する。
この時、蛍光試薬のみを加えたものを1つ培養し、残り一つは何も加えない。
4.PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄し、その後、さらに PBS を加えて培養す る 。
5.蛍光顕微鏡で細胞の様子を観察する。励起光は 488nm を用い、蛍光は 530nm を観
察する。
22
口頭発表5 早稲田大学
図2
ディッシュの状態
◇結果と考察
蛍光剤を含まないもの以外では全て蛍光が観察された。
また、背景もぼんやりと緑色に光って見えた。これは、DCFH‐DA が培地中で加水
分解された後、ディッシュ内の酸素によって酸化されたことが原因だと思われる。
結果の詳細については口頭発表にて報告する。
◇今後の展望
Resveratrol は、長寿を促すとして注目を集めているタンパク質 sirtuin を活性化し、
sirtuin は活性酸素を取り除く酵素 Mn-SOD の発現を誘導する。我々の細胞はミトコン
ドリア内でエネルギーの源となる ATP を作る際、酸素を利用するために副生成物として
活性酸素が生成するが、活性 Mn-SOD によって細胞内の活性酸素を取り除くことにより、
細胞の遺伝子やタンパク質、脂質の損傷や老化を防いでいる。活性酸素は細胞の老化の
みならず、様々な疾病の原因と考えられており、活性酸素量を減らすことによって長寿
が可能になると期待されている。
したがって、活性酸素を可視化する本実験の原理は、長寿物質の探索に利用できる。
◇主要参考文献
Carl P. LeBel ら,”Evaluation of the Probe 2‘,7‘-Dichiorofluorescin as an Indicator of Reactive
Oxygen Species Formation and Oxidative Stress”, Chem. Res. Toxicol. 1992, 5, 227-231.
<講座担当教員のコメント>
プログラムの1年目は有機化学の講義と実験をやってきました。2年目になって本テ
ーマにより、有機化学を中心として物理化学(蛍光の原理)から分子生物学まで、幅広
い学習内容になりました。
23
口頭発表6 東北大学
ハイブリットマイクロカプセルを作って金を捕まえてみよう!
早坂 美月(宮城県仙台第二高等学校 3 年)
田中 光(福島県立福島高等学校 2 年)
担当教員:三村 均教授
◇研究の目的・意義
アルギン酸は昆布の細胞間を充填する粘質多糖であり、製剤用機材、医用材料、製紙などに
用いられている。この研究は、アルギン酸モノマーから、二価金属イオンを架橋剤として、ア
ルギネートゲルポリマーの作り方を実験的に学ぶ。マイクロカプセルを実際に作って、レアメ
タルである金イオン(Au(III))を選択的に吸着分離することを目的に研究した。
◇研究の方法・プロセス
1. ゾル・ゲル法によるマイクロカプセルの製造・観察
超純水(50ml)と粉末状の Na-ALG(0.75g)を混ぜたアルギン酸ナトリウム溶液(Na-ALG)
に、TOA(tri-n-octylamine, 第三級アミン抽出剤で、Au(Ⅲ)に対して高い選択性を持つ)
を1g加えて作ったゾルを、図1の実験装置により 0.5 M Ca(NO3)2 溶液 150ml に滴下
し、ゾル-ゲル法により MC を作った。ゲルを水洗・乾燥させ、マイクロカプセルを作り、
走査型電子顕微鏡(SEM)観察、デジタル顕微鏡観察、微小部 X 線分析(EDS)と赤外
吸収スペクトル(FT-IR)分析を実施した。図2は Au を吸着したマイクロカプセルのデ
ジタル顕微鏡写真である。
図2 Au 吸着 MC の顕微鏡写真
図1MC 製造装置
2. Au 吸着の時間依存性を調べるバッチ試験
試験管5本に、
それぞれ TOA-MC(50mg)と 10 ppm Au 溶液(5ml)を入れ、
試験管 5 本を、
一定時間(5,10,30,60,120 分)振とう機で振とうした。試験管と、イニシャル用試験管
10ppmのAu 溶液(1M の HCl で調整されたもの)1ml を 10 倍に希釈し、
それぞれ ICP-AES
(プラズマ発光分光分析器)を使い、Au(III)イオン濃度を測定し、Au の吸着率(%)
を算出した。
3. カラム実験(破過実験と溶離実験)
アスピレーターを用い、
使用する TOA-MC を脱気し、円筒カラムに TOA-MC を充填し、
カラム実験装置を組み立てた。用いた溶液の Au(III)の濃度は、1,000 ppm である。
溶離実験の際は、TOA-MC(Au 吸着後のもの)を使い、溶離剤としては 1 M HCl-0.5 M
Thiourea(TU、チオ尿素)を使用した。フラクションコレクターの滴下条件は、カラム法
では 100 drops/tube に設定した。
24
口頭発表6 東北大学
◇結果と考察
1. ゾル・ゲル法によるマイクロカプセルへの Au の吸着
SEM およびデジタル顕微鏡観察で、TOA-MC の Au を吸着する前と後を比べた結果、
吸着前に MC に観察された穴が埋まっており、黄色に呈色していることから Au が吸着
されているたことが分かった。
また、
微小部 X 線分析(EDS)から、吸着前は Ca が 100%、
吸着後は Au が 55%、残りが Cl であり、成分組成は変化している(炭素、水素、酸素は
EDS では検出されない。吸着前の Ca は、ゾル・ゲル反応の際に Ca が架橋している。)
。
EDS 分析でも MC に Au が吸着されていることが確認できた。
2. Au 吸着の時間依存性
試験開始から 50 分ほどで、Au 吸着率はほぼ 100%に達し、それ以降の変化はなく、吸着
は平衡に達することを確認した。Au 吸着はかなり速いことが分かった。
3. カラム実験(破過実験と溶離実験)による Au の吸着と回収
いずれも ICP-AES による Au の濃度の分析を行ってグラフを作成した。
図3が破過曲線、
図4が溶離曲線である。
図3 破過曲線
図4 溶離曲線
破過曲線は、溶液の取りこぼしや試験官がバラバラになってしまったせいもあり、値の
ばらつきは多かったが、
全体的に流出液の Au の濃度が上がっていく傾向が確認された。
溶離曲線では、10ml くらいで Au の濃度が下がっていき、MC から Au はほとんど溶離
されていることが分かった。
◇今後の展望
この実験を通して、実験の進め方、まとめ方などを学べた。そして破過実験のばらつきから、
実験において正確性がいかに大切なのかを学べた。今後、このことを学校での研究に生かしてい
きたい。
◇ 主要参考文献
三村 均、小野寺嘉郎、バイオポリマーによる機能性材料による包括固定化およびその展望、
金属、Vol.69, 57-62(1999).
<講座担当教員のコメント>
数多くの実験サンプルの製造、分析を根気づよく行い、TA 学生にも進んで質問し、金イオンの
分離回収に成果を上げました。今後、この研究で学んだ、実験での精緻さ、そのための準備、心
構えなどを活かしてステップアップして欲しいと思います。レアメタルの分離回収に興味を持ち、
環境負荷低減やリサイクルを学んだことは今後の研究に大いに役立つものと考えています。
25
26
2日目
(午前)
発表テーマ一覧
●2日目午前●
発表
7
8
9
テーマ
講座大学
脳梗塞巣に集積する細胞 BINCs の TLR3 リガン
ドによる活性化
愛媛大学
飛行機の着陸
九州大学
遺伝子組み換えで遺伝子の働きを調べる
静岡大学
分裂酵母の栄養感知の機構について
(理学部)
氏
名
岡田 健裕
小網 麻衣
頁
30p
野寄 修平
32p
永谷 春果
34P
10
「小型風車における風向変動による発電性能への影響の研究」
~水平軸と垂直軸風車の比較~
長崎大学
ローン・ジョシュア
36P
11
生態から見た森の鳥たちの1年間(戸隠森林植物園の鳥類相)
筑波大学
宮澤 小春
38p
12
蝋燭のゆらぎ
千葉大学
今城 有貴
40p
13
コダカラベンケイソウの生育と環境適応
埼玉大学
藤家 咲
42p
14
魚類の胚細胞の分化の仕組みについて
29
北海道大学 大内 富久美
44p
口頭発表7 愛媛大学
脳梗塞巣に集積する細胞 BINCs の TLR3 リガンドによる活性化
岡田 健裕(私立済美高等学校 3 年)
小網 麻衣(私立愛光高等学校 2 年)
担当教員:田中 潤也、杉本 香奈(愛媛大学医学部)
◇研究の目的・意義
脳梗塞などの急性重症脳傷害核心部では神経細胞は既に死滅しているため治療の対象とはならな
いとされ、殆ど研究されてこなかった。本研究室の田中教授はこの傷害核心部に集積する細胞を
BINCs (Brain Iba1+/NG2+ Cells)と命名し、BINCs がさまざまな脳保護的因子を多量に産生するこ
となどにより、傷害拡大を防いでいることを見出した。一方、この細胞は起炎症性物質も産生し、
組織を破壊するといった好ましくない面も併せ持っている。この BINCs の機能を調節し、より脳
保護的にすることが重傷脳病態の新たな治療法の開発につながるのではないかと考えている。
脳梗塞など種々の重症脳病態において、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現が認められ、
産生された NO による組織傷害が報告されてきた。この iNOS の発現は傷害核心部にも認められ、
梗塞巣拡大に関与している可能性が考えられる。iNOS の発現誘導因子として Toll 様受容体 4
(TLR4)のリガンドであるリポポリサッカライド(LPS)が知られているが、通常無菌的である脳
梗塞において LPS が iNOS の誘導因子となることは考えにくい。そこで、私達は iNOS の発現誘
導因子として他の TLR リガンドが作用する可能性を想定し、実験を行った。
◇研究の方法・プロセス
① 中大脳動脈一過性閉塞(MCAO)によるラット脳梗塞モデルの作成
② 脳梗塞巣の BINCs における iNOS、TLR3 発現の観察(免疫蛍光染色法)
③ TLR リガンドの培養 BINCs の NO 産生への影響の検討(Griess 法、ウェスタンブロット)
④ TLR3 リガンドである合成 2 重らせん RNA の polyI:C (pIC)の梗塞脳スライスカルチャーの NO
産生に対する効果の検討(Griess 法、定量的リアルタイム RT-PCR 法)
◇結果と考察
① 脳梗塞モデルラットの作成
MCAO 処置した翌日に磁気共鳴イメージング(MRI)装置を用いて、梗塞巣
右
左
の分布を観察した。図 1 に示す通り、右脳に梗塞巣(白い部分)が確認でき、
梗塞巣モデルラットの作成手技を習得できたことが分かった。
図 1. MCAO 処置 1 日目の MRI 画像
② 脳梗塞巣における iNOS 発現の確認
梗塞脳の組織切片を iNOS、CD11b(マクロファー
ジのマーカー)抗体を用いて免疫蛍光染色法により
染色した。その結果、梗塞巣に iNOS を発現してい
るマクロファージが存在していることが観察できた
(図 2)
。
図 2. 梗塞巣の組織切片を免疫蛍光染色した画像
左は iNOS(緑)
、中央は CD11b(赤)
、右は Hoechst(核)/iNOS/CD11b の染色画像
30
口頭発表7 愛媛大学
③ 培養 BINCs の NO 産生量、iNOS 発現量に及ぼす TLR リガンドの影響
培養 BINCs には TLR3,4,6,8,9,10 をコードする mRNA の高発
現が観察された。その中でも脳梗塞巣内でもリガンドが存在す
る可能性のある、TLR3 および TLR9 に着目した。培養 BINCs
に TLR3 のリガンドである pIC、TLR9 リガンドである非メチ
図 3. 培養 BINCs の iNOS 発現量に及 ル化 CG 配列である CpG を添加した。その結果、pIC を添加
ぼす TLR3 リガンド(pIC)
、TLR9 リガ すると BINCs の NO 産生量および iNOS タンパク質の発現増
ンド(CpG)の影響
加(図 3)が認められた。
④ 脳梗塞巣の BINCs における iNOS、TLR3
発現の観察
梗塞脳の組織切片を免疫蛍光染色法により
TLR3(緑)
、トマトレクチン(赤:マクロフ
ァージのマーカー)
、iNOS(紫)の局在を調
べた。図 4 の矢印で示す通り、iNOS 陽性細
胞は梗塞巣核心部に集積するマクロファージ
図 4. 梗塞巣の組織切片を免疫蛍光染色した画像
であり、TLR3 陽性細胞と一致することが分
緑は TLR3、赤はトマトレクチン、紫は iNOS、Merge は
かった。
Hoechst/TLR3/トマトレクチン/iNOS の合成画像
⑤ 梗塞脳スライスカルチャーの NO 産生、iNOS mRNA 発現におよぼす pIC の影響
生体に近い条件下でpIC の影響を検討するため
に、MCAO 処置後 5 日目のラット梗塞脳を 400
m の厚さでスライスし、pIC を添加して培養
した。その結果、pIC を添加することにより
NO 産生量(図 5. 左のグラフ)
、iNOS mRNA
発現量(図 5.右のグラフ)が増加した。
図 5. 梗塞巣スライスカルチャーの NO 産生量、
iNOS mRNA 発現量に及ぼす pIC の影響
以上より、無菌的な脳傷害における iNOS 誘導因子は TLR3 リガンドであることが示唆された。
◇今後の展望
TLR3 リガンドにより、脳梗塞巣核心部の起炎症性が増強されることが判明した。今後 pIC に相当す
る内因性 TLR3 リガンドの本態が分かれば、新たな治療法が生まれる可能性がある。
◇主要参考文献
Smirkin A, Matsumoto H, Takahashi H, et al. Iba1(+)/NG2(+) macrophage-like cells expressing a variety
of neuroprotective factors ameliorate ischemic damage of the brain. J Cereb Blood Flow Metab (2010) 30:
603-15
<講座担当教員のコメント>
脳病巣核心部を対象に丁寧な研究を行い、TLR3 が病態を修飾している可能性を示唆した先駆 的
な研究で、脳外科、神経内科等の領域で今後の発展につながる可能性がある。両名とも実験が好き
でたまらない様子で、熱心に取り組むと同時に、細胞によるシグナル検知・伝達、遺伝子発現など
高度な内容の理解を深めることができた。
31
口頭発表8 九州大学
飛行機の着陸
野寄
修平(大分県立大分上野丘高等学校
担当教員
井上
3 年)
清一郎 先生
◇研究の目的・意義
2010 年 度 の 九 州 大 学 エ ク セ レ ン ト・ス チ ュ ー
デント・イン・サイエンス育成プログラム物理
運動方程式
学では、高校の物理では教わることのない微
ma
分・積分を用いて物体の運動を理解することを
学んだ。高校範囲では理解できない、力が変化
質量×加速度
f
していく空気抵抗やばねの関わる運動も運動
方程式を解き、運動の様子も理解できるように
なったので、理解をより深くするために生活に即した問題を考え、物理が実生活にど
のように活きているか学んだ。
◇研究の方法・プロセス
「飛行機が胴体着陸する際の運動の考察」を行う。
最初は計算しやすくするため空気による抵抗力を大きさが物体の速さに比例する
粘性抵抗としていたが、その後、より実際の状況に近づけるために大きさが物体の速
さの 2 乗に比例する慣性抵抗として考察した。
①運動方程式を立てる
y
x
o
図 1
着陸時に機体にはたらく力
図1のように胴体着陸をする際、機体には重力、垂直抗力、摩擦力、空気による
抵抗力がはたらく。このことから、飛行機の進行方向をⅹ軸の正、鉛直上向きをy
軸の正としてそれぞれの方向について運動方程式を立てる。
x:m
y:m
t
dv x
dt
dv y
kv x2
摩擦力 f は物体にはたらく垂直
抗力 N に動摩擦係数
mg
dt
0 : x 0, y
式1
N
N
0, v x
f
0
をかけて
N で 表 さ れ る 。ま た 、 k は 空 気
抵抗の比例定数である。
v0 , v y
0
運動方程式と初期条件
dv x dv y
はそれぞれⅹ軸方向、y軸方向の速度を微分したもので、加速度を表す。
,
dt dt
32
口頭発表8 九州大学
◇結果と考察
運動方程式を解いて、
mg
tan
k
vx
x
m
log
k
1
t
kg
m
kv02
cos
mg
静 止 ま で の 時 間 t stop
k
mg
arctan v0
t
m
arctan v 0
kg
kg
m
k
mg
k
mg
arctan v0
静止までに進んだ距離 l
静 止 ま で の 摩 擦 力 、空 気 抵 抗 の 仕 事 W1 ,W2 、エ ネ ル ギ ー の 変 化
W1
W2
E
l
m2 g
log(1
2k
mgdx
0
l
0
0
2
x
kv dx
1
mv02
2
t stop
0
3
x
kv dt
m
log 1
2k
kv02
mg
E は次のように表せる。
kv02
)
mg
1 2
mv0
2
1
mv02
2
E
m2 g
log(1
2k
W1 W2
kv02
)
mg
0
よ っ て 力 学 的 エ ネ ル ギ ー の 変 化 は 非 保 存 力 (こ こ で は 摩 擦 力 、 空 気 抵 抗 )の し た 仕 事
に一致し、エネルギーは減少していることがわかる。このとき、失われたエネルギー
は 、音 、熱 、光 と し て 放 出 さ れ て い る 。こ の よ う に 空 気 抵 抗 を 利 用 し た 運 動 の 停 止 は 、
飛行機はもちろん、新幹線の緊急停止用ブレーキにも使われたことがある。また、空
気 抵 抗 に よ っ て 速 さ が 10m /s (36km/h)前 後 に な っ て い る 雨 粒 も 、500~ 2000m の 高 さ
か ら 降 る た め 、空 気 抵 抗 が な け れ ば 、100~ 200m /s (360~ 710km/h)と い う も の す ご い
速さで落ちてくることになる。空気抵抗のありがたみを感じた。
◇今後の展望
今回、物体の運動をモデル化して、摩擦力、空気抵抗のみを考えて物体の運動を
考えることで運動方程式をもとにした考え方を理解することができた。運動方程式
を基にすればどんな運動でもわかるので、今後は、高度な数学を学んで、物体には
たらく力が増えたより実際の運動に近いモデルを考えてみたい。
<講座担当教員のコメント>
初め、解きやすい粘性抵抗中の運動の考察を課題として与えたが、容易に解いてし
ま っ た の で 、慣 性 抵 抗 の 働 く ジ ェ ッ ト 機 の 胴 体 着 陸 と い う 、よ り 現 実 的 な 課 題 と し た 。
これも独力で解いた。大学 2 年終了の学力がある。
33
口頭発表9 静岡大学理学部
遺伝子組み換えで遺伝子の働きを調べる
分裂酵母の栄養感知の機構について
永谷 春果(静岡県立富岳館高等学校 3年)
担当教員:瓜谷 眞裕
◇研究の目的・意義
遺伝子はタンパク質の設計図である。タンパク質は体を作ったり、身体機能の調節をしたり、
酵素などとして働き、生命現象に関わっている。そのため遺伝子組み換えを行うと、生命現象を
変化させることが可能である。
生物は、栄養を感知して環境に適応している。その中でも栄養を感知して細胞増殖などに関わ
っている Tor に注目し、機構について研究を行った。Tor(Target Of Rapamycin)は、免疫抑制剤
ラパマイシンの標的となるタンパク質であり、哺乳類から分裂酵母まで様々な生物に存在する。
分裂酵母を実験材料に使用した理由は、培養や遺伝子の解析が容易で、基本的な事柄がヒトと
似ているからだ。分裂酵母の場合、NH3(窒素)が栄養源となるので、NH3(窒素)がある時は細胞増殖
を行い、ない時は細胞増殖を行わない。
本研究では、Tor2rs 株の Psk1 にタグが付いたタンパク質を作る株(遺伝子組み換えによる変異
株)を作製することを目的とした。この変異株を用いて、Tor2 の情報伝達を行う下流にある Psk1
のリン酸化状態を検証することができる。
◇ 研究の方法・プロセス
変異株 Tor2rsPsk1-HA 株と
Tor2rsPsk1-GFP 株を作製するた
め、以下の方法を用いた(図1)。
① RCR(Polymerase Chain Reaction)
により、タグ付けをするための遺
伝子断片を増幅した。
② 遺伝子組み換えにより、PCR で増
やした DNA 配列(PCR 産物)を
Tor2rs 株に組み換えた。
③ 選別により、遺伝子組み換えが成
功した分裂酵母は薬剤 G418(薬剤
カナマシンに似ている)に耐性
なので、G418 培地で生育するこ
図1 研究の方法・プロセス
とができるが、遺伝子組み換えが
成功しなかった分裂酵母は、生育する
ことができない。チェッキング PCR により、予定した配列に挿入されているかを確認した。
34
口頭発表9 静岡大学理学部
④ ウエスタンブロットにより、遺伝子組み換えをした分裂酵母からたんぱく質が作られたのか
検出した。
◇ 結果と考察
遺伝子組み換えによる変異株(Tor2rsPsk1-HA 株)の作製に成功した。G418 培地で約 20 個のコロ
ニーが生育した。その中から 8 個チェッキング PCR(図 1-③)を行ったところ、2 個からバンドが
検出された。その 2 個にウエスタンブロット(図 1-④)を行ったところ、1 個の変異株からタグが
付いたタンパク質が作られていることが確認できた。大半の遺伝子組み換えが起こらなかった原
因は、ピペッティングが不十分など様々考えられるが、まだ確かなことはわかっていない。
Tor2rsPsk1-GFP 株は成功しなかった。原因は HA よりも GFP の分子量が大きいため、遺伝子組み
換えが起こりにくく、組み換えが起こっても Psk1 のタンパク質の機能に支障が生じたため、生育
できなかったと考えられるが、HA と同様にまだ確かなことはわかっていない。
遺伝子組み換えという最新の遺伝子研究は、食物 医療 工業などの幅広い分野に活用されてお
り、社会に貢献することができる。本研究で、PCR やウエスタンブロット、二種類の電気泳動な
どの原理を学んだ。原理を理解するのは難しかったが、粘り強く探究し、他者に分かり易く伝え
る方法を考え、これらの力が身に付いたと思う。
◇ 今後の展望
Tor2rs 株では、ラパマイシンによって Tor2 の働きが抑
えられ、リン酸化が付加されなくなることが予想される
(図2)。よって、Psk1 が Tor2 から指令を受けて細胞増殖
に関わっていることが検証できるのではないかと考える。
ラパマイシンによって Tor2 の働きが抑えられるというこ
とは、遺伝子組み換えによる変異株の作製が、癌化 肥満
の予防、あるいは治療に役立つものであると考えられる。
今後、ラパマイシンを添加した時に Psk1 のリン酸化状態
が変化するのか、ウエスタンブロットでバンドシフトから
検証されていくだろう。
図2 Tor2 と Psk1 のリン酸化の予想
◇ 主要参考文献
山本正幸編 酵母による遺伝子実験法羊土社 1994
<講座担当教員のコメント>
難しかったと思いますが、熱心に取り組んでくれました。いろいろな実験手法の原理を理解し
ながら研究を進め、最後にやっと目的の変異株ができたのは粘り勝ちです。変異株を作ったとこ
ろで時間切れになりましたが、その後、この株を使って興味深い結果が出てきています。
35
口頭発表10 長崎大学
「小型風車における風向変動による発電性能への影響の研究」
~水平軸と垂直軸風車の比較~
ローン ジョシュア(精道三川台高等学校 2年)
担当教員:林 秀千人
1. 研究の目的・意義
再生可能エネルギーの需要が増える中、小型風車もその需要
を延ばしている。小型風車は主に大型風車の設置が難しい市街
地・ビル屋上などに設置される。よって設置する風車の種類・
形状を選択する上での性能判断基準は大型のものと大きく異な
る。特にその設置場所である市街地の激しい風向変動の中でも
高い発電効率を維持できるのかどうかは性能を判断する上で重
図 1(水平軸と垂直軸)
要な点である。小型風車は大きく分類して水平軸と垂直軸風車
の二種類の風車が存在する。(図 1) 水平軸風車の最大の特徴は正面から風が吹いているときの発
電効率が高いことである。
反面、
風向きが変わるたびに方向を変える必要がある点が欠点である。
一方、垂直軸風車の最大の長所は全方位の風に対応できる点である。短所は発電効率が水平軸風
車より低いことである。市街地のように風向変動が多い場所に風車を設置する場合、水平軸風車
は正面からではなく斜めから吹く状況が長くなり、
発電効率が減少する懸念がある。その点から、
市街地設置用風車としては垂直軸風車のほうが望ましいと考える。しかし、どの程度の風向変動
でどの程度性能が変動するのかのデータがないことから、小型風車を設置する場合に数字上、効
率が高い水平軸風車を選ぶ傾向にある。
本研究は水平軸風車と垂直軸風車を実際に制作・設置し、風向風速変動・発電量・回転数など
のデータ収集を行い、風向変動による両風車の発電性能への影響を調べる。さらに、数値シミュ
レーションを行い、流れの様相と関係を調べる。それにより、小型風車を設置する設置場所に合
った風車を選択する助けになることを目指している。特に、野外実測では「風向変動が大きい時
に水平軸風車の発電量が減少し、垂直軸風車は変化しない」という仮説が成り立つことを確認し
たい。
2.研究の方法・プロセス
2.1 各種データの野外実測
市街地におけるデータ実測に使
用する風車は、水平軸・垂直軸双方で最も発電効率が高いプ
ロペラ型・ジャイロミル型(図1参照)である。プロペラ型は 6
枚翼で直径 1070mm のものを、ジャイロミル型は 5 枚翼で
直径 1000mm、高さ 900mm、翼型は風車によく使用される
NACA6521 である。発電機には自転車用の発電機の一種であ
るハブダイナモを使用した。また、風向と風速の計測用にロ
ジャイロミ
ル型
プロペ型
ータリーエンコーダーを使用した風向計と風杯式風速計を使
用する。小規模ビルの屋上と、住宅地2箇所の合計3ケ所で
観測を行う予定である。風向きが変わったときに水平軸風車
36
図 2 実測風車完成予想図
口頭発表10 長崎大学
が向きを変えるのにかかる時間は短いほど風向変動が多いときの発電量は多くなると考える。し
かし、実際は風車によってこの時間は変わってくるので、実測用風車の垂直尾翼の大きさは 5 段
階に分けて計測する予定である。
2.2 流体シミュレーション
流体数値計算のモデルは野外実測で使用するものと同じである。プ
ロペラ型風車の流体シミュレーションは風速 V=6m/s・周速比φ=2・計算格子点数 約 365 万点・
回転数 n=Vφ/2πR≒270[rpm]で、ジャイロミル型の流体数値計算は風速 6m/s・周速比 4・計算
格子点数 約 275 万点・n=Vφ/2πR≒455[rpm]の条件で行った。プロペラ型風車に関しては、風
向を 5°刻みに変えて 45°まで計算を実施した。
3.結果と考察
実測実験は8月下旬を予定しており、実際の風向
変動と風車発電量の関係がどのようなものになるか
は分らない。しかし、流体シミュレーション結果か
ら、図3のように羽根の位置により流れが大きく異
なり、図4から風向変化が多い時に水平軸風車の発
電効率が極端に低下することが分る。一方、垂直軸
風車の発電性能は図5のような流れの様子を示し、
これは風向で変わらない。引き続き、実際の風車で
図 3 水平軸風車
どの程度風向変動がおこるの引き続き実験を行う必
(45°方向受風時のベクトル図)
要がある。
図 5(ジャイロミル型風車の圧力分布)
図4 風向変化による水平軸風車のトルク変化
4. 今後の展望
今後は制作した発電用風車、風向風速計を使用して、多くの場所で長期的なデータをとり、よ
り信頼のできるデータを作っていきたい。また、そのデータを利用して、周囲の地形・建築物と
風車の発電量の関係についての研究も行いたい。
5.主要参考文献
小型風車ハンドブック
牛山泉 三野正洋
垂直軸風車制作ガイドブック 松山文雄 牛山泉 西沢良沢
<講座担当教員のコメント>
参考文献を百冊ほど調べ、手間が掛かり難しい新たなテーマを自分で設定している。オリジナル
のアイデアをもとに実験と解析もしっかりしており、高く評価できる。
37
口頭発表11 筑波大学
生態から見た森の鳥たちの1年間(戸隠森林植物園の鳥類相)
宮澤
小春(長野市立柳町中学校
担当教員:土岐田
2年)
昌和
Ⅰ.研究の目的と意義
長野市北西部の戸隠高原(標高 1,200m)は、日本野鳥の会によって「重要野鳥生息地」
( IBA)
に選定されている。しかし、定量調査は 1980 年以降行われていなかった。そこで、戸隠森林
植物園の鳥類相とその季節変化を明らかにするために、ルートセンサス調査を行うことにし
た。
Ⅱ.研究の方法とプロセス
園内に約 3 ㎞のルートを設定し、その両側 25mずつ合計 50mの道幅に出現した野鳥を記録
した。観察は公式日の出時刻に開始し、約 3 時間かけて行った。2009 年 4 月 18 日から 2011
年 7 月 24 日の間に 68 回のカウント調査を行った。2009 年 12 月 28 日以降の調査(55 回)で
は、さえずった個体数を区別した。記録数は、生態的特徴の観点(移動タイプ、採餌場所、
採餌方法、巣の形態)から考察した。
(注)「移動タイプ」について
留鳥:植物園で1年中生活し、そこで繁殖する鳥。
漂鳥:春夏秋を通じて植物園で生活し、繁殖するが、冬は近くの低地に移動する鳥。
夏鳥:春、植物園に渡来し、夏の間、繁殖して、秋には南の国へ渡っていく鳥。
冬鳥:シベリアなどの北地で繁殖し、冬を植物園で過ごす鳥。
旅鳥:春と秋の渡りの途中、植物園を通過する鳥。
迷鳥:不定期に植物園に出現する鳥。
Ⅲ. 結果と考察
1)個体数と種数の季節変化について(表1)
◆全 92 種合計 17,926 羽の野鳥を記録した。移動タイプごとに個体数が多かった順は、留
鳥(18 種 10,279 個体)、漂鳥(21 種 3,264 個体)、冬鳥(7 種 1,977 個体)、夏鳥(17 種
1,605 個体)、旅鳥(21 種 633 個体)、迷鳥(8 種 168 個体)だった。
◆毎回の調査では、出現した種数と個体数がほぼ比例した。種数も個体数も、冬は少なく、
春に急増した。5月以降、秋まで減少した。秋は個体数だけ劇的に増加した。春の増加は急
激で、夏以降の減少はなだらかだった。
表1 移動タイプごとの総個体数と種数の年間変化 (1回の調査当たりの平均)
留鳥
漂鳥
夏鳥
冬鳥
旅鳥
迷鳥
個体数(合計)
種数
12月
105.8
2.2
0.0
24.0
1.8
0.2
134.0
17.8
冬
春
夏
秋
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
88.3 115.3 122.8 159.6 196.4 136.3 160.7 127.5 146.5 171.6 176.2
0.3
4.0
7.8
54.0
92.9
75.0
70.5
74.3
33.5
49.6
19.7
0.0
0.0
0.0
4.0
63.9
70.9
53.2
22.8
6.0
1.0
0.0
7.7
1.7
7.8
11.0
4.6
0.0
0.0
0.0
1.8 102.1 140.5
0.0
0.0
5.8
2.1
0.9
0.4
0.2
0.5
1.5
41.6
37.7
2.3
1.3
0.0
0.6
4.7
3.7
0.5
3.8
0.5
6.6
1.0
98.7 122.3 144.2 231.3 363.4 286.3 285.0 228.8 189.8 372.6 375.0
13.3 14.7 16.2 24.7 36.2 34.0 31.7 31.3 26.3 28.9 25.2
2)移動タイプごとの季節変化について(表2)
◆どの季節でも留鳥の優占度が高かったが、夏と秋には他の移動タイプの割合が高まった。
◆留鳥も春と秋は渡りで増加した。留鳥が園内で越冬できるのは、樹上で木の実を割った
38
口頭発表11 筑波大学
り樹皮下の虫を取り出したりして餌を採り、閉鎖型の巣(樹洞)を利用するからだと考えら
れる。
◆冬鳥でも園内で越冬する個体は少なかった。樹洞を寝床としないことや、地上で餌を採
る種が主であることが原因だと考えられる。
◆漂鳥は、園内に生息した期間が種によって異なった。採餌場所や採餌方法が異なる、多
様な種が含まれるからだと考えられる。
◆夏鳥は、園内に生息する期間が短かった。越冬地が遠いこと、飛翔昆虫に飛びついて採
る種が多いことが原因だと考えられる。
◆旅鳥は、秋には北方から大群で渡ってきたが、春には群れが観察されなかった。春と秋
では、渡り方に違いがあると考えられる。
◆迷鳥は、開けた河原や里に生息する種のため、森林内にはニッチが無いと考えられる。
表 2 出 現 し た 全 92種 の 生 態 ご と の 内 訳
留鳥(18種)
冬鳥(7種)
漂鳥(21種)
夏鳥(17種)
旅鳥(21種)
迷鳥(8種)
採餌場所
樹上(非地上)
17
5
10
11
10
8
地上
1
2
11
6
11
0
採餌方法
取り出し 飛びつき
15
3
5
2
12
9
1
16
5
16
2
6
閉鎖型
12
0
5
3
2
1
巣の形態
開放型
6
7
16
10
19
7
託卵型
0
0
0
4
0
0
3)さえずりの季節変化について(表3)
◆52 種 3,757 羽がさえずった。個体数が多かった順は、留鳥(15 種 1,811 羽)、漂鳥(14
種 1,106 羽)
、夏鳥(17 種 829 羽)
、冬鳥(4 種 10 羽)、旅鳥(2 種 3 羽)、迷鳥(0 羽)だった。
◆さえずりは 1 年を通じて観察された。さえずった種数と個体数はほぼ比例した。
◆留鳥はさえずりが長期間に分散し、
夏鳥は短期間に激しくさえずった。
漂鳥は中間だった。
◆留鳥と漂鳥は、閉鎖型の巣を利用する種の方が、開放型の巣を利用する種よりも早くさ
えずり始めた。閉鎖型の方が、早くから繁殖活動や縄張り争いをはやく始めたと考えられる。
表3 移動タイプごとのさえずった個体数と種数の年間変化 (1回の調査当たりの平均)
冬
1月
5.3
0.3
0.0
0.0
0.0
5.7
2.7
春
夏
4月
5月
6月
7月
43.1
63.6
55.2
50.2
16.7
47.1
44.8
39.8
1.3
36.9
48.2
36.8
0.6
0.3
0.0
0.0
0.0
0.3
0.0
0.0
61.7 148.2 148.2 126.8
14.4
25.0 27.6 23.2
秋
10月
5.8
3.2
0.2
0.6
0.0
9.8
5.4
12月
2月
3月
8月
9月
11月
留鳥
2.8
32.3
24.6
34.7
7.5
3.8
漂鳥
0.5
1.7
2.6
32.7
1.5
0.5
夏鳥
0.0
0.0
0.0
18.7
3.0
0.0
冬鳥
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
旅鳥
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
個体数(合計) 3.3
34.0
27.2
86.0
12.0
4.3
種数 2.0
7.7
8.0
23.7
7.0
2.3
Ⅳ.今後の展望
◆戸隠の鳥類相の特殊性を明らかにするために、今後、低地の鳥類相を調べて比較したい。
◆さえずりの季節変化を考察するためには、実際の繁殖活動を観察する必要がある。
Ⅴ.主要参考文献
中村登流(1988) 森と鳥と.261pp, 信濃毎日新聞社,長野
由井正敏(1988) 森に棲む野鳥の生態学.237pp,創文,東京
<講座担当教員のコメント>
日の出時刻に行った計50回を超える調査には、プロの研究者も脱帽である。宮澤さんの調
査により、戸隠高原の鳥類相に関する30年の空白が埋められ、鳥類相の時代変化も追える
ようになった。これは研究者の実績として高く評価できる。
39
口頭発表12 千葉大学
蝋燭のゆらぎ
今城 有貴(共立女子高等学校 2年)
担当教員:板倉 嘉哉先生、東崎 健一先生(千葉大学教育学部)
1.
研究の背景
蝋燭の炎を見ていていたとき、長い時間見ていても飽きず、また心が癒されるような気がした
ので、調べてみると蝋燭のゆらぎには1/f(パワースペクトルが周波数 f に反比例するゆらぎのこ
と)が関係していることがわかった。蝋燭の研究では、2本の蝋燭を近づけると、同期現象(2本が
同じようにゆれること)がおこることなどがわかっている。しかし、蝋燭1本での研究は少ないと
感じたため、1本だけを使用した場合を調べる事にした。
2.
目的
蝋燭の種類によってゆらぎの成分がどのようにかわるのかを調べる。
3.
方法
表1和蝋燭と洋蝋燭
和蝋燭
(1)蝋燭
本実験では、和蝋燭と洋蝋燭の2本を使用した。2本
木蝋(櫨)
パラフィン
直径
約 10 mm
10 mm
材質
和紙+い草
木綿糸
直径
4.5 mm
1 mm
中空
中実
芯
る。蝋燭の芯に洋蝋燭は中心に空洞の無い木綿糸が使
われているのに対して、和蝋燭では図2のように和紙
洋蝋燭
燃料
の蝋燭の違いを表1にまとめた。
和蝋燭と洋蝋燭の大きな違いは芯の材質と構造にあ
はぜ
構造
洋蝋燭
和蝋燭
とい草で作られたストローのような構造をしている。
この特徴はファラデーの著書*1 でも「これはアルガン
が石油ランプに応用して、その価値を高めたみごとな
工夫と同じものであります。」と記述されている。
洋蝋燭
和蝋燭
(2)実験装置
図2 使用した蝋燭(左:全体,右:断面)
目視だけでは、炎のゆらぎを数値として正確に測ることがで
蝋燭
高速度カメラ
きないので、本実験では高速度カメラを使用して、図3のよう
な実験装置で蝋燭の炎を動画として記録した。
(3) 動画の解析
スペクトル
等の算出
フェレ径
4.
重心位置
ェレ径(射影幅)のゆらぎを周波数分析した。
2値化
動画
出すため、図4のような処理を行い、重心位置やフ
周波数分析
図3画像の撮影装置
撮影した動画から、炎のゆらぎを数値として取り
結果と考察
図4 動画の処理手順
(1)炎の形
時間とともに炎の形がどのように変化していくのかを調べた。和蝋燭(図 5)は、時間とともに炎
が大きくなったり小さくなったりすることが観察された。洋蝋燭(図 6)は、あまり変化は見られず、
炎はほぼ同じ大きさのままであった。 影絵(図 7)からは異なる炎形状の存在が確認できた。
図5 炎の形(和蝋燭)
図6 炎の形(洋蝋燭)
40
図7 炎の形(影絵:和蝋燭)
口頭発表12 千葉大学
(2)重心位置(y方向)の時間変化
50 画/s 撮った動画を処理して、和蝋燭と洋蝋燭の重心位置(y方向)が時間が経つにつれてどのよ
うに変化していくのかを調べた。和蝋燭(図 8)は、周期的に重心位置が上下に変動している。また
そのゆれ幅は時間とともに大きくなるが、しだいに小さくなっていく(振幅:約 25pixel)。洋蝋燭(図
9)は、周期性は見られず細かくy方向に重心位置が変動している(振幅:約 1.4pixel)。
図8 y方向の重心位置変化(和蝋燭)
図9 y方向の重心位置変化(洋蝋燭)
(3)周波数ごとのパワースペクトル
図 8,9 の重心位置の時間変化をエクセルの FFT ツールで周波数分析し、どの周波数にどのくら
いのエネルギーが含まれているのかを調べた。和蝋燭(図 10)は、特定の周波数のところに周期的
な大きなゆらぎがあるが、洋蝋燭(図 11)にはないのがわかった。
図10 パワースペクトル(和蝋燭)
5.
図11 パワースペクトル(洋蝋燭)
まとめ
洋蝋燭の炎は重心位置が細かく変動しているだけで周期性がないのに対して、和蝋燭では重心
位置が特定の周波数で大きくゆらいでいることがわかった。この大きなゆらぎには、和蝋燭の真
ん中に開いている穴が影響していると考えられる。
6.
今後の展望
和蝋燭の炎のゆれが周期的にゆらぐ条件や仕組みについて解明していきたい。
7.
主要参考文献
1
* ファラデー著,「ロウソクの科学」
,角川書店./武者利光著,「ゆらぎの発想」,NHK 出版.
<講座担当教員のコメント>
・発表者は面白い現象を見つけた。ファラデーが感性的、洞察的に感銘を受けた和蝋燭の炎は更
に奥が深そうである。現在の観測と解析手段を用いてどこまで解明できるかが楽しみである。(東
崎)
41
口頭発表13 埼玉大学
コダカラベンケイソウの生育と環境適応
藤家 咲(千葉県立柏の葉高等学校 3 年)
担当教員:金子 康子(埼玉大学教育学部)
◇研究の背景・目的
以前から建築に興味があり、サイエンスキャンプで鹿島建設へ行った。そこで「今後は環境に
配慮するのが建築に携わる者の責任だ」と言われ、その一つの例として“屋上緑化”と出会った。
そして調べていくうちに実際に取り組んでみたいと思い、埼玉大学の未来の科学者養成講座に応
募した。当初は様々な植物を育て、どの植物に一番気温の減少効果が現れるかを測定しようと試
みたが、実験を開始した時期が冬であり思うように植物が育たなかった。さらに調べてみると屋
上という環境はとても過酷なため、屋上緑化に適する植物にはいくつかの条件(①手間がかから
ない、②増殖が早くある程度の大きさで密生できる、③乾燥や寒暖の差に耐えることができる)
をクリアしなくてはならないことが分かった。そんな時、コダカラベンケイソウという植物を見
かけた。コダカラベンケイソウが屋上緑化に適しているのではないかと思い、コダカラベンケイ
ソウの生育の様子と構造を調べていくことにした。
◇研究方法
1.コダカラベンケイソウが生育する様子を観察し、屋上緑化に適した植物の条件(前述①~③)
を満たしているか調べた。
2.コダカラベンケイソウの構造を観察した。カミソリの刃で葉を薄く切り、顕微鏡で観察した。
細胞内のでんぷんはヨウ素液で染色して観察した。次の(a)~(c)の比較を行った。
(a) 成熟葉(2 カ所)と不定芽の葉の表皮の様子。
(b) 吸水葉(長期間水につけて生育)と乾燥葉(約 2 週間大気中に放置)の断面構造とでんぷん
の様子を成熟葉と不定芽の葉の両方で比較観察。
(c) 乾燥植物体を放置しておくと外側の葉からしなびていった(図 6)
。乾燥植物体の葉の齢(外
側から「老」
「中」
「若」とした)による断面構造とでんぷんの様子を比較観察。
◇研究の結果と考察
1.〈屋上緑化に適している植物の条件とコダカラベンケイソウの生育の様子〉
条件①手間がかからない
無性生殖で葉の端にある切れ込みに小さな芽をたくさん付け、この芽は土の上に
落ちて根を張り、新しい植物体へと育っていくため、この条件は満たしている。
図 1 不定芽がつく様子
図 2 不定芽が地面に落ち、成長している様子
条件②増殖が早くある程度の大きさで密生できる。
図 3、図 4 の写真から、この条件を満たしている。
図 3 密生している様子 図 4 成長の様子(左:3/29 右:5/17)
42
口頭発表13 埼玉大学
条件③乾燥や寒暖の差に耐えることが出来る。
図 5、図 6 は大気中に 2 週間水も栄養も与えずに放置したものである。放置した季節
は冬(12 月 27~1 月 9 日)で空気が乾燥していたにも関わらず枯れていなかった。
またコダカラベンケイソウは寒さに弱いと言われているが、埼玉県が位置する地域の
気温であれば冬でも屋外で生育できた。このことから、この条件を満たしているとい
える。
図 5 放置している様子
図 6 約 2 週間放置したコダカラベンケイソウ
2. (a)〈成熟葉と不定芽の葉の比較〉
どの状態の葉でも孔辺細胞の周りに赤い色の細胞が見られた。また、不定芽の葉の細胞より
成熟葉の細胞壁が厚いことが分かった。成熟葉、不定芽の葉とも、葉の裏面より表面に気孔
が多く見られた。
(b)〈吸水葉と乾燥葉の比較〉
不定芽の葉の吸水葉の細胞は乾燥葉の細胞に比べてみずみずしく、細胞が柔らかくなってい
た。また、でんぷんも吸水葉のほうが乾燥葉よりも大きく、多く含んでいた。成熟葉の吸水
葉と乾燥葉とでは、吸水葉のほうが葉が厚く、乾燥葉の細胞は吸水葉の細胞に比べて扁平で
あった。でんぷんの大きさ、量には目立った違いが見られなかった。
(c)〈乾燥植物体の葉の齢による違い〉
葉の厚さは老に近づくにつれて薄くなっていき、細胞の形は扁平になっていった。一方、細
胞壁はだんだん厚くなっていった。さらに興味深い現象がでんぷんの分布にみられた。ふつ
う植物は、老化していくと若い葉に栄養を送るため、その葉自身のでんぷんが少なくなる。
しかしコダカラベンケイソウの場合は老化しても多くのでんぷんを溜めていた。
以上の研究より、コダカラベンケイソウは過酷な環境でも生育する為に、細胞壁を厚くして乾
燥を防いだり、老化しても最後まで葉にでんぷんを溜め養分を蓄えたりとあらゆる工夫を行って
いるらしいことが分かった。
◇今後の展望
最終的には実際に屋上を緑化して地球環境に貢献したいが、高校生の今はコストの面でも実験
環境の面でも難しい。そこで、その前段階として様々な種類の植物を育て、それらが屋上緑化に
適している植物かどうかチェックし、同時に植物による気温の減少効果が見られるか検証する。
さらに気温の減少効果が見られた植物と見られなかった植物とでは構造にどのような違いがある
のか観察してみたい。
また、コダカラベンケイソウと同じベンケイソウ科のセダムは屋上緑化によく用いられている
が、屋上緑化に適していないという説を日本大学の模擬講義(2011 年 7 月 31 日受講)で耳にし
たので、今後はその説を詳しく調べ実際に検証してみたい。
<講座担当教員のコメント>
屋上緑化を通して地球環境に貢献したいという明確な目的意識を持ち、意欲的に研究に取り組
んでいた。顕微鏡観察のための切片作製など、細かくて難しい操作にも粘り強く取り組み、技術
を習得して、たくさんの貴重な観察結果を得た。詳細な顕微鏡観察から、コダカラベンケイソウ
の環境適応の仕組みを解明する鍵となりうる新たな知見を得ることができた。
43
口頭発表14 北海道大学
魚類の胚細胞の分化の仕組みについて
大内 富久美(北海道室蘭栄高等学校 2 年)
担当教員:山羽 悦郎
◇研究の目的・意義
今、iPS 細胞が話題になっている。iPS 細胞は、条件によって様々な組織や器官、例えば“角
膜”や“皮膚”などに分化する能力があり、これを“分化万能性”と言う。その為、自分の細胞
からその組織を作って移植する「再生医療」に役立つことができると考えられている。魚類の胚
盤細胞にも似たような能力がある。初期の胚盤を構成する細胞は、ひとつひとつには“多能性”
という、様々な器官にもなりうる能力がある。しかし iPS 細胞と異なる点は、胚盤の全ての細胞
がひとつの組織や器官になるわけではない。胚盤を構成する細胞は、発生のプログラム(設計図)
に沿ってそれぞれ色々な種類の器官や組織へ分化する。例えるならば、iPS 細胞による器官形成
はいきなり絵具で色を塗ってしまう感じで、魚類の胚盤からの器官形成は下書きから書いて途中
修正できる感じである。
私は再生医療について興味がある。魚類の発生過程について理解することで、将来の研究に役
立つと考え、ゼブラフィッシュの卵を用いて今回の研究を行った。
◇研究の方法・プロセス
ゼブラフィッシュの胚を材料として、
「魚類胞胚期の胚盤の多能性を再検討し、胚盤の分化を制
御する機構を明らかにすること」を検証する為、実験Ⅰ,Ⅱ,Ⅲと計3つの実験を行った。
胚盤を操作するため、受精卵はトリプシンの入った淡水魚用リンガー液に浸して卵膜を除去し
た。卵膜を除去した胚は、淡水魚用のリンゲル液を満たした、アガロースで底面を覆ったガラス
シャーレ内で培養した。
実験Ⅰでは一部の胚は、蛍光物質FITCを顕微注射し、細胞を蛍光で標識した。実験Ⅱ、Ⅲでは
組織学的な観察のために、胚をブアン氏液で固定後、テクノビット7100で包埋して樹脂切片を作
製した。切片はトルイジンブルーで染色した後、カバーグラスで封入し観察に供した。
実験Ⅰでは、胚盤の多能性を再検討するため、蛍光物質 FITC でラベルした中期胞胚期の胚盤を、
同時期のラベルしていない胚盤上部(動物極側)に移植し、その後の胚を蛍光視野と可視光で観察
した。
実験Ⅱでは、胚盤のみで発生する能力があるかを調べるため、後期胞胚期と 30%epiboly 期の胚
を用いて、卵黄を除去し、胚盤のみで培養した。また実体顕微鏡の下でタイムラプス撮影をして、
胚体の変化を観察した。
実験Ⅲは、胚発生での卵黄の部分の働きを明らかにするため、胞胚期に卵黄を流出させた胚を
作製した。卵黄の残存量が多少により胚A、胚Bと、胚盤のみを胚Cと、そして何もしていない
対照を胚Dとした。これらの発生過程をタイムラプス撮影し、それらの形態形成を比較した。
44
口頭発表14 北海道大学
◇結果と考察
*実験Ⅰ:移植胚は正常に発生し、FITC でラベルした胚盤部分は頭部に分化した。本来別の個体とな
るはず胚盤が、他の胚盤と共に一つの個体を形成した。このことから移植された胚盤は移植胚の予定
運命に従って分化した、つまり移植された時期の胚盤には多能性があると考えられた。
*実験Ⅱ:後期胞胚期、30% epiboly期で切除した胚盤は、共に切除直後は球形であったが、その
後伸長が観察された。二つを比較すると、30% epiboly期の方には内部構造が認められたものの、
どちらも正常には発生しなかった。また組織切片を作成したところ、後期胞胚期では脊索が、
30%epiboly期には脊索に加えて体節も観察された。これらの結果から、図1に示すように、胚盤は
すべて同じ細胞で構成されているのではなく異なる性質の細胞が集まっていること、また発生が
進むと胚盤の分化する能力が変わってくるが明らかとなった。
*実験Ⅲ:図1の左で示したように、卵黄を流
出させた胚AとBには、対照胚Dと同様に、眼
や体節が観察された。しかし、卵黄を完全に取
り除いたCには、それらの器官は外部から明確
に認められなかった。図1の右の結果より、卵
図 1,卵黄をつけた卵の発生
黄には胚盤を正常に発生させる性質があること
がわかった。卵黄を流出させた直後の胚を組織切片にして調べたところ、A,B,Dの胚には卵黄
の表面に核が多数含まれた“卵黄多核層 yolk syncytial layer”と呼ばれる細胞質の存在が確認
された。しかし卵黄を除いたCにはなかった。以上より、卵黄が少しでも残った胚は正常に発生
することがわかった。そして正常な発生には卵黄の量ではなく、卵黄多核層が必要ではないかと
考えられる。
◇今後の展望
3つの実験から、1)胚盤には多能性があるが、2)胚盤のみでは正常に発生する能力は無く、
3)卵黄の特に卵黄多核層が必要であると考えられた。しかし、本当に卵黄多核層が必要かどう
か結論づけるには、卵黄多核層の働きが無くても正常に発生するか、卵黄多核層が実際に胚盤に
働きかけている作用を調べることが必要だと考えられる。その実験として、卵黄多核層の働きを
阻害する物質の注入、卵黄多核層のみの除去、卵黄多核層のみの胚盤への移植、などの実験を行
う必要がある。
このような実験で人間の卵黄多核層に相当する機能を用い、多機能性のある細胞に作用させる
ことで新しい器官や組織を作り出すことが出来ると考えられます。
◇主要参考文献
浅島誠 野崎伸二 (2004) 分子発生生物学. 裳華房. 東京. pp159.
Kimmel CB, Ballard WW, Kimmel SR, Ullmann B, Schilling TF. (1995) Stage of embryonic
development of the zebrafish. Dev Dyn. 203(3):253-310.
<講座担当教員のコメント>
本研究は、直径 1mm に満たない胚を材料とし、顕微注入や胚盤の移植などの微細な顕微操作
を行って解析した。材料の採取や実験器具の作製なども、自分で行った。材料と器具を自分で用
意し、自分で操作・解析し、自分で次を考えた研究であることを評価したい。
45
46
2日目
(午後)
発表テーマ一覧
●2日目午後●
発表
テーマ
講座大学
氏
名
頁
藤田 琴実
15
ヒトデを用いて、卵成熟と受精の仕組みを知ろう!
東北大学
丸岡 真由美
50p
中野渡 滉希
16
17
シリカナノパウダー担持フタロシアニン固体による一
重項酸素生成剤の開発
メダカへの Fra1 遺伝子導入
東京大学
関 梓
52p
慶應義塾大学
小島原 知大
54p
朝倉 江里佳・田中
18
がんに対する免疫療法の開発に挑戦!
福井大学
郁也・東山 慎太
郎・片川 冴香・
56p
杉本 拳
19
特異な求愛行動を示すカワヨシノボリの神経系の形成と行動に関する研究
愛媛大学
川中 寅生
58p
20
生成条件による炭酸カルシウムの結晶構造のちがいについて
九州大学
日髙 拓也
60p
21
ヒヨコの衝動性について
静岡大学
(理学部)
上田 紗百里
62p
22
無限等比級数の和に関する考察
長崎大学
鈴木 昇太
64p
23
君が天文学者になる 4 日間 in 仙台
東北大学
24
Fe 添加 GaN における光誘起吸収の光強度依存性
東京大学
高野 成章
68p
25
ハダカデバネズミ iPS 細胞の機能解析
慶應義塾大学
四宮 有紗
70p
49
須藤 舞子
浅倉 由香
66p
口頭発表15 東北大学
ヒトデを用いて、卵成熟と受精の仕組みを知ろう!
中 野 渡 滉 希 (青 森 県 立 三 本 木 高 等 学 校 3 年 )
藤 田 琴 実 (埼 玉 県 立 浦 和 第 一 女 子 高 等 学 校 3 年 )
丸 岡 真 由 美 (埼 玉 県 立 浦 和 第 一 女 子 高 等 学 校 3 年 )
担当教員:経塚 啓一郎准教授(東北大学生命科学研究科)
◇初めに
私 た ち は 2010 年 8 月 22 日 ~ 26 日 の 5 日 間 , 東 北 大 学 付 属 浅 虫 海 洋 生 物 学 研 究
セ ン タ ー に 泊 り 込 み ,実 習 に 参 加 し た . そ こ で 私 た ち は イ ト マ キ ヒ ト デ を 用 い て
個体発生の出発点である卵成熟・受精に関する研究を行った.
◇研究の目的・意義
ヒトデの体内で産生される卵は減数分裂の第一分裂前期で分裂を停止する. 受精が起こるた
めには卵の成熟が必要だが, それはどのように行われているのだろうか. 本研究では卵成熟誘
発物質を確認するとともに, 卵成熟の進行と受精との関係を調べた.
ヒト,そして哺乳類は体内受精を行うためその卵成熟や受精を観察することは難しい.しか
しイトマキヒトデは体外受精をし,受精も海水中で行うためその観察が容易である.そこで私
達はヒトデを用いて卵成熟と受精の実験を行うことに決めた.
◇研究の方法・プロセス
<実 験 Ⅰ >
目 的 : 未成熟卵に 1-MA(※1)を加えて卵の成熟を進行させ,最適受精時期を調べる.
※1
1-MA…1-メチルアデニン,濾胞内で産生される卵成熟誘起ホルモン.ヒトデ卵を成熟させる.
実 験 方 法 : イ トマキヒトデの体内から未成熟卵の入っている卵巣取り出し, 濾胞細胞を除去
する. 1-MA を未成熟卵に加え, 加えてから 0 分(加える前)/30 分/60 分/90 分たった卵を用意
する. それぞれに同じ希釈度の精子を加え, 受精したかどうか受精膜の有無によって確認する.
その後細胞分裂の形状から正常受精率(二分割卵率)計算した.
結果:
受精率
正常分裂率
考 察 : 卵が成熟すれば受精することは可能である. しかし, 正常な発生が行われない場合も
あり, それが最もみられるのは未成熟卵に 1-MA を加えてから 60 分後である. 正常な発生を行
わせたい場合は 1-MA を加えてから 30 分後が最も適している. それ以降は二分割する正常受精
卵は減り, 多極分裂をするものが多くなる. これは一つの卵に精子が複数入ったために起こる
と考えられ, 適正な受精時期を過ぎて卵の成熟が進行したものでは多精を防ぐ機構が失われて
50
口頭発表15 東北大学
いるものと考えられる。
<実 験 Ⅱ >
目 的 :「GSS(※2)は卵成熟を誘起すると言われているが,卵母細胞に直接作用して卵成熟を進行
させるのか」という仮説を検証する.また, GSS は何倍希釈のとき最も卵を成熟させるかを調べ
る.
※2 GSS: 生殖巣刺激物質. ヒトデの放射神経内で合成され, これが未成熟卵を包む濾胞細胞に働きかけ,
1-MA の生産を促す. 卵の成熟を間接的に誘起させる.
実 験 方 法 : イトマキヒトデより放射神経を取り出す. そこから GSS を抽出し,十分の一, 百
分の一, 千分の一, 一万分の一にそれぞれ海水で希釈する. それぞれの液中にイトマキヒトデ
の卵(濾胞細胞付き)を入れ卵成熟したかどうかを卵核胞の崩壊によって確認する.
卵核胞崩壊率
結 果 :以 下 の 通 り .
考 察 : ①②より,GSS の濃度が1×10
のときの濾胞崩壊率が一番高く,濃度が下がるにつ
れて崩壊率も下がる.また①での濾胞崩壊率が総じて高いのは他より多く放射神経を採取して
いたからと思われる.また,GSS は濾胞細胞に働きかけるため濾胞がないと卵成熟は進まない.
実験では「濾胞なし」は崩壊率0%となり,正しいことが確かめられた.
(②の「濾胞なし」で
崩壊している個体があるのは,既に卵成熟を開始している個体があったため 1-MA が混入したと
思われる).但し「卵巣あり」より「濾胞あり」の卵核崩壊率が高かったのは,「濾胞あり」の
ほうが何も障害がなく直接 GSS が濾胞に届くためと考えられる.
(*他にも受精したときの卵のカルシウムイオン濃度の変化の観察等も行いましたが,スペースの
都合上省略させて頂きます.
)
◇今後の展望
地球にはありとあらゆる生物が生活しているが, それぞれ受精が起こる前に卵成熟が進行す
る. 卵成熟の進行中, いつ正常に受精するかは, 動物の種類によって異なっている.今回の研究
ではイトマキヒトデのみを用いて実験を行ったが, 他の生物とその発生を比べることで種の形
態・生体の分化の共通性, 特異性を見出すことができると考えられる.
◇参考文献
・経塚啓一郎准教授の資料
・キャンベル生物学 Neil.A.Campbell 著 丸善出版
・細胞の分子生物学 Bruce Alberts 著 ニュートンプレス出版
<講座担当教員のコメント>
浅虫センターでは海産無脊椎動物,イトマキヒトデの卵と精子を用いて,卵成熟と受精機構の実習を
行いました。卵母細胞が受精可能になるために必要な卵成熟誘起ホルモンの役割及びその作用経路
を明らかにするために,参加した3名の高校生は作業仮説を立て,それを検証するための実験を組む
という,科学研究者として必要な作業を彼ら自身で行うことにより今回の発表に至りました。このこ
とは彼らが,将来科学者として十分に活躍できる素質を持つものと期待しております。
51
口頭発表16 東京大学
シリカナノパウダー担持フタロシアニン固体による一重項酸素生成剤の開発
関
梓(埼玉県立上尾高等学校 2 年)
担当教員:石井 和之
◇研究の目的・意義
活性酸素の一種、一重項酸素は、本来体に悪い物質だが、反応性が高いので様々なことに有効
利用できる。有害物質があるところに活性酸素が発生できれば、有害物質を分解してくれるので、
使い方によっては、非常に良い利用法がある。例えば、光がん治療に利用することができる。光
増感剤を投与して体内に浸透させると、がん細胞に集まる。そこにレーザーを当てると活性酸素
を発生させることができ、がん細胞を壊すことができる。
本研究では、赤い色の光を吸収して、活性酸素をたくさん発生させることができるフタロシア
ニンという分子に着目した(図 1)。赤い色の光は、多くの化合物が吸収しない光であることから、
選択的にフタロシアニンが吸収できる。図2のように人間の指であれば赤い光を透過することが
でき、生体内でも活性酸素を発生させることができる。
私は、活性酸素をたくさん出せる固体を合成するという目的で研究を行った。固体である理由
は、他の物質と反応した後でも、ろ過や遠心分離で分けることで簡単に取り出すことができるか
らである。しかし、フタロシアニンは固体だと、単量体の性質を失い、活性酸素をほとんど発生
させることができないという問題点がある。そこでシリカナノパウダーにフタロシアニンを担持
させることによって固体でも活性酸素を発生させることができる、全く新しい物質の合成を試み
た。
図 1 フタロシアニン分子模型
図 2 人間の指を赤い光が透過している図
◇研究の方法・プロセス
トルエンの中にフタロシアニン(中心元素:ケイ素、軸配位子:水酸基、水酸基を介してシリ
カへ吸着することを想定)とシリカナノパウダーを入れ 1 時間かくはん、5 時間加熱還流を行い、
その後ろ過して青色の固体を取り出した。取り出した固体、シリカナノパウダー担持フタロシア
ニンの電子吸収スペクトルをシリカゲルと同じ屈折率を有するクロロホルム溶媒中で測定するこ
とにより、固体でも溶液中と同じような単量体の性質をもっているかを調べた。次に、活性酸素
の生成を観測するために発光スペクトルを測定した。発光スペクトル測定は、レーザーパワーが
2mJ、積算回数は 800 回で行った。
◇結果と考察
フタロシアニンの固体の電子吸収スペクトルは、ブロードな形状を示す(図 3A)。これは、分
子と分子の相互作用が強いため、単量体の性質を持ってないことを示している。そのため活性酸
素は発生しない。一方、フタロシアンの溶液の電子吸収スペクトルはシャープな形状を示し(図
3B)、単量体の性質を持っていることを示している。そのため、活性酸素を発生させることがで
きる。シリカナノパウダー担持フタロシアニンは、固体であるにもかかわらず、溶液中と同じよ
うなシャープな電子吸収スペクトルを示した(図 3C)。これよりシリカナノパウダー担持フタロ
シアニンは、固体でありながら分子間の相互作用が弱く、単量体としての性質を持っていること
52
口頭発表16 東京大学
が明らかとなった。シリカナノパウダー担持フタロシアニンの発光測定を行った。測定した発光
スペクトル(図 4)を見てみると、1275nm のところにピークがあることがわかる。これは、活性酸
素(一重項酸素)の発光を示している。これより、シリカナノパウダーにフタロシアニンを担持
させることによって、単量体の性質を有する固体フタロシアニンを合成することに成功した。そ
のため、光エネルギーを吸収しても、分子間相互作用によりエネルギーを放出することなく、酸
素にエネルギーを渡し、活性酸素を生成できたと考えられる。
吸光度
吸光度
波長/nm
図 3B フタロシアニン溶液の
電子吸収スペクトル
波長/nm
図 3A フタロシアニン固体の
電子吸収スペクトル
発光強度
吸光度
(a.u.)
波長/nm
波長/nm
図 3C シリカナノパウダー担持フタロシアニンの 図 4 活性酸素(一重項酸素)の
電子吸収スペクトル
発光スペクトル
◇今後の展望
今回の体験を通して学校では味わえない研究室の雰囲気というものを実感し、違う世代の人と
接する機会を持つことができ、人との関わり方を学ぶこともできました。発表では、普段体験で
きない緊張感があり、内容をきちんと伝えられる説明力と幅広い知識が必要だと感じました。知
性・感性・意志を磨いて、女性の視点で、世の中がもっと便利になるようなものを研究し「みん
なの役に立てる科学者」になりたいと思います。
◇主要参考文献
K. Ishii, Y. Kikukawa, M. Shiine, N. Kobayashi, T. Tsuru, Y. Sakai, and A. Sakoda Eur. J. Inorg. Chem.,
2975-2981 (2008).
<講座担当教員のコメント>
関さんは、片道 1 時間 30 分以上の通学時間をかけ、半年間、研究室へ通いました。化学の実験
は時間がかかるのですが、大学院生に教えてもらいながら、一連の合成、測定、解析を自分自身
で行っており、大学卒業論文程度の研究成果を得ております。
53
口頭発表17 慶應義塾大学
メダカへの Fra1 遺伝子導入
小島原 知大(筑波大学附属駒場高校 2 年)
担当教員:松尾 光一先生(慶應義塾大学医学部共同利用研究室 教授)
研究の背景
Fra1 遺伝子産物をマウスに導入すると、骨を増やす働きがあることが知られている。遺伝子導入
はマウスで行われることが一般的であるが、今回私は“視覚的効果”を重視した実験を進めたく、
体が透けており、解剖を行わずして遺伝子の発現を確認できるというメダカを用いた実験を行っ
た。
仮説
哺乳類と魚類という種を超えても Fra1 遺伝子産物は骨を増やすという働きがある。
手順
◆Fra1 をメダカに導入する
Fra1 遺伝子をメダカに導入するために、プラスミドの設計、T2A の導入を中村貴先生にしていた
だいた。まず、Fra1 を PCR にかけて増やした。次に、①Fra1PCR 産物と Vector を Sal1 と Mlu1
でそれぞれ制限酵素処理
を行った。70%Et-OH を
用いて DNA の精製をし
た。②続いて Ligation、
Transformation を行っ
た。使用した培地はカラ
マイシン培地である。マ
スタープレート方式で植
菌をし、ミニプレップ、
③ダイジェスト行った。
シークエンスで使用した
プライマーはそれぞれ
F-5’-CGACTTCTTCCAAACTGTCCC-3’,R-5’-TCGCCCTTGCTCACCAT-3’である。シークエンス
後、④塩基配列の確認を行った。続いて⑤制限酵素処理を pTIS10-mOIBMP4 は Xho1、Not1、
EcoR1、3_OsxFra1_T2A_EGFP は Xho1、Not1 で行った。Ligation、Transformation、植菌、
ミニプレップ、⑥ダイジェストをし、プラスミドが完成した。出来たプラスミドをメダカに導入
するための⑦インジェクションは清水厚志先生による。
◆メダカの飼育
インジェクション後、Fra1 遺伝子導入メダカ第一世代(以下 TgF1)が誕生した。そして、解析を進
めるために TgF1 を育て、野生型メダカ(以下 Wt)と交配させた。そして Fra1 遺伝子導入メダカ第
二世代(以下 TgF2)が誕生し、解析を進める段階に入った。採卵は高田康成先生、清水晃允さんに
よる。飼育は、高田康成先生、清水晃允さん、小島原による。
54
口頭発表17 慶應義塾大学
◆RNA を用いた解析
RNA は一般的に DNA を転写する働きがあることが知られている。今回は転写の逆である逆転写
をして cDNA を合成した。そして PCR を行い、①Fra1 の発現の有無を調べた。また、βアクチ
ンについても調べた。
結果
◆Fra1 遺伝子をメダカに導入する
①電気泳動の結果、適切な位置にバンドが出、制限酵素処理が成功した。
②培地のコロニーの数が Test:NC=1657:26 であり、Ligation、Transformation、ともに成功した。
③電気泳動の結果、サンプル番号 1、3、4 において適切な位置にバンドが出た。
④一部に Mutation が見られた(1 番目の Leu が Phe になっていた)が、#3-5 では 9 番目の Val、
#3-3 では 3 番目の His まで確認できた。
⑤電気泳動の結果、適切な位置にバンドが出、制限酵素処理が成功した。
⑥電気泳動の結果、サンプル番号 1、3 において適切な位置にバンドが出た。
⑦インジェクション後採卵し、稚魚が誕生し、UV をあてて GFP の有無を調べたところ、下の写
真のように発現していた。左は 2011 年 6 月 30 日撮影、右は 2011 年 5 月 24 日撮影。
◆RNA を用いた解析
①電気泳動の結果、βアクチンのバンドはサンプル番号の 1~6 のすべてに適切な位置に出た。ま
た、Fra1 のバンドは GFP+で出ていたが GFP-にもバンドが薄く出てしまった。
考察
マウスの Fra1 は哺乳類と魚類という種を超えて発現する。が、これから先の実験で骨を増やす
働きがあるのかどうかを調べて行きたい。
<講座担当教員コメント>
非常に優秀な高校生である。研究の背景をしっかり把握し、研究態度も申し分ない。小島原君
の御蔭で新しい研究系が確立できた。
55
口頭発表18 福井大学
がんに対する免疫療法の開発に挑戦!
福井県立武生高等学校(2 年)1・高志高等学校(2 年)2・藤島高等学校(3 年)3
発表者: 朝倉 江里佳 1・片川 冴香 2・杉本 拳 2・田中 郁也 2・東山慎 太郎 2・泉 玲央 3
担当教員:伊保 澄子(福井大学医学部生体防御研究室)
◇研究の動機・目的・意義
がんは日本人の死因第 1 位を占めています。現在のがん治療は身体的負担が大きく、またがんで
家族を亡くした仲間もいることから、私達は皆で討議し、身体に優しくがん細胞を殺す方法を開発
してがん患者の期待に応えられるようになりたいと考えました。
研究に取り組むに当たり、免疫のはたらきについて、先生の指導を受けながら調べました。そし
て生体では、免疫監視というしくみで、がんが発生したらまだ小さいうちに免疫細胞が取り除いて
くれることがある、と考えられていることを知りました。次に、がんに対する免疫療法について英
語資料を読んだところ、免疫細胞が体に不要な細胞にアポトーシスを起こすことをがん治療に応用
する研究が注目されていることがわかりました。
アポトーシスとは細胞にもともと備わっているしくみによって自ら死ぬことをいい、生体を良い
状態に保つために起こるので体には無害です。したがって細胞に死のシグナルを発生させる細胞死
受容体を活性化すると、副作用のないがん治療法の開発が可能になるかも知れません。しかしアポ
トーシスのメカニズムは完全には分かっていません。そこで私達はその一端を明らかにし、がん細
胞の細胞死受容体の活性化を狙った治療法の開発にアプローチしたいと考えました。
平成 22 年度は、免疫細胞がつくる細胞死受容体のリガンド Tumor Necrosis Factor- Related
Apoptosis-Inducing Ligand (TRAIL)によるがん細胞のアポトーシスを検討し、研究開発につなぐ課
題を抽出することを目的としました。
◇研究のプロセス・方法
初めに、
細胞がアポトーシスを起こす様子を観察しました(平成 22 年 7 月)。
次に 2 人 1 組になり、
白血病由来のがん細胞株 Jurkat、CEM、K562 について TRAIL 感受性を調べました(平成 22 年 8 月)
。
その結果を解析し、平成 23 年 1 月には、TRAIL が結合する二つの受容体、アポトーシスを誘導する
Death Receptor(DR)とアポトーシスを誘導しない Decoy Receptor(DcR)の細胞膜上での発現の有無
を調べました。そのうえで、TRAIL 感受性と TRAIL 受容体の発現の関係について討議し、研究開発
につなぐための課題を抽出しました(平成 23 年 2・3 月)。
<TRAIL 感受性の測定方法> Jurkat、CEM、K562 に TRAIL 希釈液(0, 1, 10, 100 ng/mL)を添加し
て 1 日培養した後、アポトーシスを起こした細胞のみに反応する蛍光標識試薬を加え、蛍光強度を
フローサイトメーターで測定する。
<細胞膜表面の TRAIL 受容体の測定方法> 各細胞に蛍光標識した抗 DR 抗体、抗 DcR 抗体、コン
トロール抗体を反応させた後、細胞の蛍光強度をフローサイトメーターで測定する。
◇研究の結果と考察・課題抽出
3 種類のがん細胞株について TRAIL 添加培養後のアポトーシス細胞の割合を求めたところ、図 1
と 2 に示すように、Jurkat は TRAIL に強い感受性があり、100 ng/mL の TRAIL でほとんどの細胞が
アポトーシスを起こすことがわかりました。一方 CEM はほとんど感受性がなく、K562 はやや感受性
がありそうな結果が得られました。私達はこの結果について討議し、
「細胞の種類により TRAIL の感
受性が違うのは DR、DcR の発現量の違いによるのだろう」と推測しました。
この点を検証するために TRAIL 受容体の発現を検討したところ、Jurkat と K562 には DR が発現し
ていること、CEM では検出されないことがわかりました(図 3)。DcR はどの細胞株にも検出されませ
んでした。
56
口頭発表18 福井大学
アポトーシス細胞の
割合(%)
Jurkat
CEM
明視野観察
K562
蛍光観察
TRAILの濃度(ng/mL)
図1がん細胞の TRAIL 感受性
Jurkat
CEM
K562
細胞数
1
10
2
10
蛍光強度
3
10
4
10
10
1
10
2
10
3
10
4
10
1
10
2
10
3
10
4
図3がん細胞株の膜表面 DR
( :陰性コントロール, ―:抗 DR 抗体)
図2 Jurkat 細胞を蛍光標識したアポ
トーシス検出試薬で染めたときの顕微
鏡像
上:TRAIL(-),下:TRAIL(100 ng/mL)
今回の研究から、がん細胞には TRAIL に反応してアポトーシスを起こすものと起こさないものが
あり、その差の要因は DR と DcR の有無では完全には説明できないことが推測されました。
そこで私達は、
「がん治療法の開発に向けて、CEM や K562 のように TRAIL 感受性がない、または
低いがん細胞を殺すにはどうしたらよいか」を討議しました。その結果、実験で用いたがん細胞株
について TRAIL によるアポトーシスの誘導やその抑制のメカニズムを検討し、得られた成果を応用
しようと考えました。
具体的に来期は、
① Jurkat について TRAIL の DR への結合を阻止して TRAIL 感受性の変化を調べ、
また ② CEM については遺伝子の導入や転写促進により DR を細胞表面に発現させて TRAIL 感受性を
測定し、TRAIL 感受性への DR の関与の有無を明らかにします。 さらに K562 では、TRAIL の DR への
結合が弱い可能性やアポトーシス阻害物質の存在が示唆されるので、その仮説を検証します。
その成果をもとに、先生にアドバイスを求めながら私達なりにアイディアを展開し、がん細胞の
細胞死受容体の活性化を狙った治療法の開発に挑戦していきたいと考えています。
◇今後の展望
この研究を通して私達は、物事の本質をつかむためには正しく観察し、熟考し、仮説をたてて検
証することと、全体を把握する洞察力が大切であることを学びました。今後、ラボで得た知識と経
験を活かし、私達が進む生命科学分野で人々の役に立てるような、革新的で時代を超える新しい発
見をしていきたいと思います。
◇主要参考文献
・日本免疫学会編, 2008. からだをまもる免疫の不思議: 羊土社, 東京.
・Mellier, G., Huang, S., Shenoy, K., and Pervaiz, S., 2010. TRAILing death in cancer:
Molecular Aspects of Medicine 31, 93-112.
<講座担当教員のコメント>
本講座では、科学的思考と直観的思考を習得することを目標に、がん免疫療法の研究開発を体験
させた。受講生全員が自主的、自立的にかつ協力して研究に挑み、最先端の分子標的治療の研究領
域で争点となっている課題に迫った点が大きく評価できる。
57
口頭発表19 愛媛大学
特異な求愛行動を示すカワヨシノボリの神経系の形成と行動に関する研究
川中
寅生(愛媛大学附属高等学校
担当教員:村上
3年)
安則(愛媛大学理学部)
◇研究の背景
動物の行動は神経によって制御されている。神経系の形
態や機能に関する研究は多いが、魚類のような小型の動物
に関しては不明な点が多い。しかしながら、成体の条鰭魚
類においては、実に様々な形態の脳が存在することが分か
っている。こうした脳の多様性がどの様にしてもたらされ
たのかを知るためには、脳がつくられる過程を観察する必
要があるが、魚類ではそうした知見は少なく、中でもハゼ
図1
類の神経系に関する知見はほとんどない。
カワヨシノボリの雄
また、ハゼ類はその繁殖期に特異的な求愛行動を示すことがわかっている。こうした行動
は、脳の特定の領域で制御されていると考えられるが、どの領域が関与しているかについて
は不明である。
◇研究の目的
発生期から成体になるまでの神経回路のパターンを把握することはとても重要になる。そ
こで本研究ではハゼ科淡水魚であるカワヨシノボ
リ Rhinogobiusfumineus(図 1)の発生中の胚の神
経系並びに神経回路を観察し、他の魚類のパターン
と比較することによって、その進化的な共通性と多
様性について考察した。さらに、ハゼ類に特異的な
繁殖行動の神経基盤を知るための第一歩として、カ
ワヨシノボリを用いて実験室の水槽内で求愛行動
を再現させる実験系の開発を行った。
図2
求愛行動を再現する実験用水槽
◇研究の方法
カワヨシノボリは 2011 年 5 月中旬(繁殖期前)
に愛媛県松山市の重信川で採取した。水槽(横 60cm×縦 30cm×高さ 36cm)で雌雄別々に
して飼育した。水温は 20℃になるように設定した。
1.カワヨシノボリの求愛行動の再現:まず、成熟した雄のカワヨシノボリを 1 匹、小型
水槽(横 30cm×縦 15cm×高さ 20cm)に投入し、セメントタイル(10cm×10cm)の下に巣を
作らせた。雄が巣を作ったら成熟した雌のカワヨシノボリを無色透明のケージ(8.5cm×
8.5cm×16cm)に入れて、ケージごと水槽に投入した。雌をケージに入れることにより、雄
からは雌が視認でき、一方で雄と雌が直接接触できないようにした。その後、求愛行動が確
認できたら、30 分後に雄を水槽から取り出し、脳を採取した。採取した脳は、後に神経活
動の解析に用いることができるように、OCT コンパウンド(Sakura)に包埋し、-80℃で保
存した。
2.カワヨシノボリの神経発生の観察:巣を作った雄のいる水槽に、雌をケージに入れず
にそのまま投入し、雌が産卵できる状態のものも作った。雌の産卵を確認した後、継時的に
58
口頭発表19 愛媛大学
受精卵を採取し、4%パラフォルムアルデヒドを用いて胚の固定を行った。固定した胚は抗
アセチル化チューブリン抗体(Sigma)を用いて神経細胞を特異的に染色し、DAPI(Sigma)
で細胞核を染色した後、共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss)で観察した。
◇結果
カワヨシノボリ雄と同種の雌を入れた場合に、雄による明瞭な求愛行動が観察された。一
方で、カワヨシノボリ雄とシマヨシノボリ雌をお見合いさせた場合には、雄による配偶行動
は見られなかった。
カワヨシノボリの発生に関しては、受精後二日で体軸の形成と眼の原基が形成され、四日
目に眼に色素の沈着が見られた。六日から
七日目にかけて、明確な下顎が出現し、魚
の基本的な形態が完成した。その後、卵黄
を消費するまで卵の中に留まり、受精後 2
週間以上を経た後に孵化した。六日目にお
ける神経系の形態は、嗅神経、視神経、三
叉神経、顔面神経などの主要な脳神経が観
察された(図3)。中枢神経系では、手綱
交連や、中脳視蓋に入力する神経繊維が観
察された。この形態は、同じ時期のトラフグ
図3
受精後 6 日目の胚の神経系(緑)
(フグ目)、ヒラメ(カレイ目)で観察され
るパターンときわめてよく似ていた。
◇考察
カワヨシノボリの雌雄で種特異的に配偶行動が観察されたことから、今回開発した実験系
は、水槽内で簡単に配偶行動を誘起するために有効であると考えられる。また、配偶行動を
行った直後の雄の脳は採取しているので、今後、配偶行動に関わる神経回路を同定する研究
が可能であると考えられる。
また、発生期のカワヨシノボリの神経系が、同じ時期の他の魚類のそれときわめてよく似
ていることから、条鰭魚類では成体における脳形態は大きく異なっていても、発生期ではそ
の形成に関わる機構が種を超えてよく保存されていると考えられる。このことから、条鰭魚
類の脳は、基本的な神経発生機構は維持しつつ、発生の後期にそれぞれの系統で独自の改変
を加えることで進化してきたと考えられる。
<講座担当教員のコメント>
この研究以外にも、結果には結びつかなかったが、面白い試みにもチャレンジするなど、
良く努力した。夏の暑い中、飼育生物が調子を崩さないように、毎日の丁寧な世話をし、細
かな解剖作業も、何度も練習を重ねることによって習得した。研究に対する態度、研究内容
とも、高校生とは思えないものでした。
59
口頭発表20 九州大学
生成条件による炭酸カルシウムの結晶構造のちがいについて
日高 拓也(修猷館高等学校 3 年)
担当教員:
(前田 米蔵、梅林 泰宏、栗崎 弘輔)
◇研究の目的・意義
宝石として有名な真珠は、炭酸カルシウムの微結晶がレンガのように積み重なり、キチン質等
の高分子がその隙間を埋めたような層状構造をとっている。最初自分は真珠の生成をテーマに研
究を行おうと思ったが、この層状構造を作り出すのは非常に難しく、今回のテーマとしては断念
し、その代わりに真珠の主成分である炭酸カルシウムに着目した。真珠を構成する炭酸カルシウ
ムの結晶構造はアラゴナイトと呼ばれ、私たちの良く見かける炭酸カルシウムの結晶構造である
カルサイトとは少し異なっている。今回の研究では、数ある炭酸カルシウムの生成方法の中でも
カルシウム塩水溶液と炭酸塩水溶液を反応させて結晶を得る不均一沈殿法を用いて、アラゴナイ
ト系炭酸カルシウムを得るための生成条件の検討を行った。
図 1
真珠の層状構造―茶色の部分が炭
酸カルシウム、黒い線が高分子を表す
図 2 カルサイト面(左)とアラゴナイト面(右)の原子
配列像 - 画像中青い点はカルシウムを表している
◇実験方法
今回はカルシウム塩として塩化カルシウムを、炭酸塩として炭酸カリウムを使用した。
(反応式) CaCl2 + K2CO3 → CaCO3↓ + 2KCl
実験は以下の手順で行い、それぞれ設定した生成条件(溶液の濃度、温度)のもとで生成した炭酸
カルシウムの結晶中にアラゴナイト結晶とカルサイト結晶がどの程度含まれているのかを調べ、
生成条件のちがいが結晶構造に与える影響を考察した。なお、今回の実験ではカルシウム塩と炭
酸塩の溶液の濃度は等しい濃度で反応させた。
1)各濃度(0.050,0.20,0.50 mol dm-3)の塩化カルシウム、炭酸カリウム水溶液を調製する。
2)ビーカーに炭酸カリウム水溶液を 20 cm3 取って温度(30 ℃,50 ℃,70 ℃、90 ℃)を調節し
た後に、温度を保ち溶液を攪拌しながらビュレットで塩化カルシウム水溶液を 30 秒ごとに約 1
cm3 ずつ加え、20 cm3 加えたところで反応を終える。
3)得られた炭酸カルシウムの結晶を含む溶液をろ過し、固体のみを取り出す。
4)取り出した結晶を粉末X線回折を用いてその結晶構造を調べる。
◇結果と考察
今回得られたデータの一部を図 3、図 4 に示す。図 3 は 0.20 mol dm-3 の溶液を使って様々な温
度で生成した結晶の X 線回折強度の結果を、図 4 は温度変化(30 ℃から 50 ℃)に伴うカルサイト
結晶の減少率を 2 種類の濃度(0.20 mol dm-3, 0.50 mol dm-3)で比較したものである。図 3 を見る
と、温度が上昇するにつれて結晶中のカルサイト結晶の割合は低くなり、反対にアラゴナイト結
晶が生成するようになっていることが分かる。他の濃度でも同様の結果が得られた。
60
口頭発表20 九州大学
図 3 0.20 mol dm-3 溶液で生成した結晶の強度分布(左)と 0.50 mol dm-3 溶液で生成した結晶の強度分布(右)
(X 線源…Mo 管球 波長 0.709Å)
これらのことから、温度を上げれば上げるほど
カルサイト結晶はできにくくなり、アラゴナイ
ト結晶はできやすくなることが分かる。
次に、30 ℃で生成した結晶が 100 %のカル
サイト結晶であったとし、30 ℃から 50 ℃への
温度変化によってカルサイト結晶が何%まで減
少したのかを、ピークの強度比から求め、濃度
ごとに比較すると、0.20 mol dm-3, 0.50 mol dm-3
溶液どちらで結晶を生成してもその減少率に違
いはほとんど見られなかった。このことから濃
度が結晶構造に与える影響は小さいと分かる。
図 4 濃度の違いによる温度変化に伴うカルサイト
結晶の減少率の違い
以上のことより、アラゴナイト結晶を安定して生成するには高温であるほど良く、濃度は高い
ほど 1 回で得られる結晶の量が多くなり生産的であると考えられる。
◇今後の展望
今回は不均一沈殿法を用いてアラゴナイト結晶を生成するための条件を検討した。しかし、今
後人工真珠の合成を目指すためには、結晶構造のみではなく真珠を構成するために理想的な大き
さや形の結晶を生成するための条件を検討する必要がある。不均一沈殿法は生成する結晶にむら
があるために、結晶の大きさなどをそろえるために均一沈殿法を使う必要が出てくる可能性も十
分に考えられ、また層状構造を作り出す方法も大きな課題の一つである。
◇主要参考文献
・フリー百科事典 wikipedia 「真珠層」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9C%9F%E7%8F%A0%E5%B1%A4
・神鳥和彦、
「粉体 X 線回折測定による固体構造の研究」
・http://www.ganko.tohoku.ac.jp/shigen/tsukamoto/members/araki/r.html
<講座担当教員のコメント>
結晶生成における結晶型を決定する因子の解明は機能発現物質の開発における大きなテー
マである。今回は温度が結晶型を決めることを見出したが、なぜ温度が結晶型を決定するの
か更なる研究の解明に発展する可能性を秘めている。
61
口頭発表21 静岡大学理学部
ヒヨコの衝動性について
上田
紗百里(静岡大学
担当教員:竹内
1年)
浩昭
◇研究の背景
私は高校3年の夏休みに静岡大学で行われた SSS(静岡サイエンススクール)に参加し、神経
行動学入門として動物が何を感じ、何を考え、どのように動くのか明らかにするため様々な実
験を見せていただいた。カラスの態調査やアホロートルの苦み抑制実験、人の味覚実験などを
体験し、私はその中でヒヨコの衝動性についての実験に特に興味をもち、さらに実験を進めた
いと思った。
※衝動性:将来期待される報酬よりも目先の報酬を選んでしまうこと。
◇研究の目的
本来目先の利益にとらわれずに大きい報酬を選択すべき状況でも、我慢できずに目の前の報
酬を選択してしまう個体(高衝動性個体)もいる。この選択の個体差が何によるものなのかを
遺伝子型も含め検討することが本研究の目的である。
◇研究の方法・プロセス
衝動性試験
赤、青、緑のランプを用意して以下のような意味を関連づける。
・赤…赤のランプをつつくと大きいミルワーム(ヒヨコの報酬)が1秒後に与えられる。
・青…青のランプをつつくと小さいミルワームがすぐにもらえる。
・緑…緑のランプをつついても報酬は無い。
これらの意味をヒヨコに学習させ、テストで赤と青の二つのランプを提示してどちらをより好
むか調べる。
衝動性(%)=[(青をつついた回数)/(青と赤をつついた回数)]x100
この衝動性実験の前提として
1. ヒヨコは小さいミルワームより大きいミルワームを好む
2. ヒヨコはランプの色の好き嫌いではなく、報酬のサイズと待ち時間で選らんでいる。
この二つが成り立つことを検討しなければならない。
①ミルワームのサイズによる嗜好実験
12 羽のヒヨコを用いて 2 回ずつ試行した。小さいミルワームと大きいミルワームもそれぞれ
ガラス瓶に入れて、3 分間でヒヨコがつついた回数を測定した。
②色による嗜好実験
15 羽のヒヨコを用いて 2 回ずつ試行した。赤、青、緑のビーズをそれぞれ糸でくくりつけて
ヒヨコの前に提示し、3 分間でビーズをつついた回数を測定した。位置による誤差が出ないよ
うビーズの位置は毎回入れ替えた。
③衝動性試験
食事制限をした3個体のヒヨコを用いて衝動性試験を行い、同じ個体で性格関連遺伝子(セロ
トニントランスポーター遺伝子)の多型を調べ、衝動性との関連を検討した。
62
口頭発表21 静岡大学理学部
◇結果と考察
①ミルワームのサイズによる嗜好
ヒヨコは食事制限をしてもしなくても大きいミルワームを好んだ。とくに制限している方が
大きいミルワームをつついた割合が大きい(図1) 。
②色の嗜好
つついた回数の合計は緑が一番多かった。それはヒヨコにはよくつつく個体とあまりつつか
ない個体がいて、よくつつく個体に緑を一番つついたものがいたためと考えられる。1 回目と 2
回目で色の嗜好性が異なる個体が多くいた(11 羽/15 羽)。これにより赤、青、緑の中ではヒヨ
コ全体としてとくに好きな色はない、と考えられる(図2) 。ビーズ位置(左、右、真ん中)の嗜
好性についても調べたところ、左をつついた回数が一番多かったが、真ん中を好んでつつく個
体が最も多かった。しかし両方とも大きな差ではないことから、位置による嗜好性はないと考
えられる。
①②より衝動性実験の前提はクリアしたので、衝動性試験は衝動性を測るのに適した実験方
法だと言える。
③衝動性試験
3個体のヒヨコは異なる衝動性を示したが、この3個体のセロトニントランスポーター遺伝
子の多型を調べた結果、遺伝子型に違いは見られなかった。よって、他の遺伝子の個体差が衝
動性に影響しているのではないかと考えた。
図1.制限給餌の有無とサイズの嗜好性
図2.つつきにおける色の嗜好性
◇今後の展望
今回は衝動性を左右する遺伝子を見つけることができなかったので、今後は衝動性の高い個
体と低い個体を比較して遺伝子にどのような違いがあるのか詳しく調べていきたい。
◇主要参考文献
日本比較生理生化学会編,「動物は何を考えているのか:学習と記憶の比較生物学」,共立出
版,2009
<講座担当教員のコメント>
高校 3 年生のため受験勉強の合間での研究となりましたが、自発的かつ積極的によく考え・
手を動かして遂行しました。ねばり強く取り組む姿勢も高く評価できます。
63
口頭発表22 長崎大学
無限等比級数の和に関する考察
鈴木 昇太(長崎大学教育学部附属小学校 6 年)
担当教員:北村 右一
◇研究の目的・意義
本研究の目的は,
「無限に数を足し合わせること」の意味を考えることです。そして,有限個の
数を足し合わせた和が,個数を増やすと無限に足し合わせた和に近づくようすを,図で示すこと
ができたことと,有限の和が無限の和に近づくことを式で説明できたことが,この研究の意義で
す。
◇研究の方法・プロセス
本研究のきっかけは 2 つあります。
ひとつは, 0.999
1 が成り立つことです。この式は
9
10
9
10 2
9
10 3
1
(1)
1
10
1
10 2
1
10 3
1
9
(2)
と表すことができ,9 で割ると
が成り立ちます。
もうひとつは,正方形の等分割を繰り返すこ
とです。左の図では,面積 1 の正方形を二等分
しています。そして,右側の長方形をまた二等
1
22
分します。これを無限に繰り返すと,
1
2
1
22
1
23
1
1
2
が成り立ちます。
この図をヒントにすると,正方形を横に 10 等
分して右はしの長方形を縦に 10 等分すること
を繰り返しても,式 (1) が成り立つことを説明
できます。
1
23
1
24
1
25
このように,最初は図を利用して具体的に
1
3
1
32
1
33
や
などを計算しました。次に
1
5
1
52
1
53
3
5
32
52
33
53
図 1 等分割の繰り返し
を求めようとしましたが,うまく図に表すこと
ができませんでした。それでも有限個の和を考えることによって,この無限の和も計算すること
ができました。そして無限の和が求まると,長方形の面積の和として図に表すこともできるよう
になりました。
64
口頭発表22 長崎大学
図を使った説明では,最初の長方形と相似でだんだん小さくなる長方形の面積が,分割を無限
に繰り返すと 0 になることを使います。10 分の 1 なら
1
10
1
0 .1 ,
10
2
1
0.01 ,
10
3
1
0.001 ,
10
4
0.0001
となって指数が大きくなると 0 に近づきますが,10 分の 9 では
9
10
9
0 .9 ,
10
2
9
0.81 ,
10
3
9
0.729 ,
10
4
0.
となるので,指数が大きくなってもあまり 0 に近づいているようには見えません。けれど,この
ようなときでも 0 に近づくことを,式を使って説明できました。
◇結果と考察
自然数 n , a , b について, a
b
a
b
a
2
b
a
b ならば,次の式が成り立ちます。
b
a
b
a
2
3
b
a
b
a
3
n
b
a b
b
a
n
b
a
1
n
,
b
a b
また,次の式が成り立ちます。
b
a
9b
1
10
◇今後の展望
この研究では,分母が大きな自然数の分数をかけ合わせたものを無限に足しました。ほかにも
無限に足したものの和を求めてみたいです。
<講座担当教員のコメント>
本研究で得られた結果は,高校のカリキュラムでも扱う無限等比級数の和であるから,目新し
いものではない。しかし,有理数に限定しているとはいえ小学校算数とべき乗,大小関係の知識
のみで,文字式を用いた抽象化と高校カリキュラムを超える収束概念の基礎を把握しつつある点
が高く評価できる。
65
口頭発表23 東北大学
君 が 天 文 学 者 に な る 4 日 間 in 仙 台
浅倉 由香(福島県立福島高等学校 3 年)
須藤 舞子(宮城県仙台向山高等学校 3 年)
担当教員:田中 幹人 GCOE 助教(東北大学理学部宇宙地球物理学科)
研究の目的
NASA が打ち上げたハッブル宇宙望遠鏡(HST)によって撮影された星雲の写真を見
ていた際に、星雲が色鮮やかに輝いて写っていることを不思議に思い、その要因を探す
ことにした。
太陽の8倍以上重い星は、生涯の最後に超新星爆発を起こす。その爆
発の跡を超新星残骸と呼ぶ。一方、8倍以下の軽い星は、爆発を起こ
さず惑星状星雲となって、宇宙空間へと消えてゆく。
ところで、星は一生の間に内部で水素・ヘリウムそしてより
図1HST で撮影されたかに星雲
原子番号の大きい重元素を核融合により生成するので、星の終焉
とともにそれらの元素も宇宙空間にまき散らされる。つまり、超新星残骸や惑星状星雲
には元素が含まれているということが分かる。そこで、元素というキーワードから私達
が思い起こしたのは炎色反応だった。炎色反応で現れる色の原因は元素にある。その原
理と同じように星雲の色は元素が要因なのではないかと考え、星雲の色と成分元素の関
係を探ることにした。
研究の方法
観測日時 9月4日 PM9:00~AM6:00
使用した機材 口径 51cm 反射望遠鏡とCCDカメラ
実施する日程や星雲の明るさ(暗すぎるとうまく観測できない)等を考慮して、観測対
象をかに星雲(超新星残骸)と土星状星雲(惑星状星雲)に決定した。
観測方法Ⅰ 撮像《星雲のおおよその色がわかる》
B・V・R・I バンドと呼ばれる、特定の波長の光だけを集めるための4種のフィルターを
望遠鏡に取り付けて撮影を行う。バンドの波長域は B:3500~5200Å V:4800~6500
Å R:6000~7000Å I:7000~9000Å。
観測方法Ⅱ 分光《星雲の構成元素のおおよその量がわかる》
望遠鏡に分光器を取り付けて撮影することによって、天体の光を波長毎に分解できる。
分光のグラフは横軸に波長(単位:オングストローム)、縦軸に光の強度をとり、スペク
トルと呼ばれる。特定の波長に対応する元素は、理科年表を参考にして特定した。
結果
かに星雲(超新星残骸)の観測結果(※分光データはぐんま天文台から引用)
かに星雲のスペクトル
S
120
等級
N[Ⅱ]
100
80
O
Ne
60
40
20
グラフの横軸はバンドの種類・縦軸は等級
グラフの横軸は波長(単位Å)
かに星雲は緑・赤の色合いが強い。
B=13.0、V=11.5、R=12.3、I=13.7(等級)
0
4500
5000
5500
6000
6500
7000
図 2 かに星雲の撮像結果
グラフの縦軸はカウント値
酸素・ネオン・窒素・硫黄が多く含まれる。
土星状星雲(惑星状星雲)の観測結果(※分光データはケック望遠鏡から引用)
※土星状星雲の観測では観測中に手違いがあり、Bバンドの撮像データをとることがで
きなかった。
66
口頭発表23 東北大学
暗い
H
Ar[Ⅲ
等級
H
Ar
N
X
O[Ⅱ
]
図 3 土星状星雲の撮像結果
図 4 土星状星雲の分光結果
v=7.5、R=9.0、I=6.5(等級)
グラフの横軸はバンドの種類・縦軸は等級
赤の色が強いことが分かった。
グラフの横軸は波長(単位Å)
グラフの縦軸はカウント値
水素・キセノン・酸素・アルゴンが多い。
考察
分光結果のグラフは光の量を表しているため、バンドの波長ごとに面積を調べること
で光の量の比を出すことができ、撮像結果と照らし合わせることができる。
分光結果からかに星雲のVバンドとRバンドの比率は 1:1.34、土星状星雲のVバンドと
Rバンドの比率は 1:86.7。かに星雲の比率は観測誤差であるかもしれないので、土星状
星雲の結果から考えると、分光結果から、Rバンドの方がVバンドより明るく、撮像の
結果もRバンドが明るい。よって、VバンドとRバンドだけに着目すれば、2 つは対応し
ている。しかし、分光結果のIバンドのデータがないため正確に対応しているとは言え
ない。
結論
VバンドとRバンドの波長域では元素と色は対応している可能性が高い。しかし、B
バンドとIバンドの領域ではデータが取れなかったため、対応は分からなかった。
今後の展望
今回の実験では分光の観測に失敗してしまったため、分光のデータはぐんま天文台と
ケック望遠鏡のアーカイブデータから引用した。撮像結果と分光結果を正確に対応させ
ることができなかったが、観測波長域が異なっていたので天候の良い日に観測を行い、
分光器のスリットに天体が入るよう、しっかりと調節し、同じ条件で観測データを取得
することによって、撮像結果と分光結果を比較する。
研究を終えての感想
この研究のテーマは東北大学から与えられたものではない。研究チームである 4 人の
高校生だけで問題提起から考え、自ら進んで背景知識を学び、自力で考察してまとめた
ものだ。チームのメンバーは天文学者を目指している人、天文学には全く興味がない人
など多様だった。観測やデータ解析のために徹夜をして懸命に取り組んだ経験は未来の
研究者を志すための大きな自信となった。
主要参考文献
君が天文学者になる 4 日間―予習テキスト―
理科年表
<講座担当教員のコメント>
私は研究環境を高校生たちに提供しただけで,実際何もしておらず,研究テーマの立
案から,実験・データ解析,そして発表まで,高校生が主体的になって行った.その結
果,観測天文学の素養を身につけただけでなく,研究者にとって大事なことに気づくこ
とができた.特に,実習で得た学びを日々の高校生活でいかし,1年経った今,研究に
取り組む者として,また人間として,飛躍的に成長していることは,高校生たちの本実
習を通じた最大の成果である.
67
口頭発表24 東京大学
Fe 添加 GaN における光誘起吸収の光強度依存性
高野 成章(東京学芸大学附属国際中等教育学校 高校1年)
担当教員:志村先生 藤村先生
研究の目的・意義:
GaN(窒化ガリウム)は青色 LED に使用されている素材である。また、現在ホログラフィックメモリ
ーという体積型記録装置の記録媒体として注目されている。ホログラフィックメモリーは参照光
と信号光によってデータを書き込むのでその光の適切な波長、強度などを、実験を通して調べる
必要がある。
今回の実験では、光誘起吸収(フォトクロミズム)の起源の理解を目的とした。
研究の方法とプロセス:
図 1 の測定光学系で三種類の実験を行った。
I. 吸収スペクトル
ハロゲンランプからでてくる光を、試料を置かず
フォトディテクターによって波長ごとにその強度
を測定した。次に、試料を置き、透過した光の量
を同様に測定した。最後に、二つのデータを比較
して吸収係数を算出し、波長ごとに吸収係数の値
図 1 測定光学系図
を表すグラフを作成した。(吸収スペクトル)
II. 光誘起吸収(フォトクロミズム)
照射された光によって吸収スペクトルが変化する現象
を、光誘起吸収という。Fe 添加 GaN の光誘起吸収を測
定するため、まず、吸収スペクトルの実験で吸収係数
を測定した。そのあと、波長が 403nm のレーザーを試
料に当て続けながら、同様に吸収係数を測定した。二
つのデータを比較し、吸収係数の変化量を算出し、グ
図 2 GaN の光誘起吸収スペクトル
ラフを作成した。
図 2 から、レーザーを当てると、吸収係数が増加することが分かる。
III.吸収変化の時間応答
ハロゲンランプからの光の波長を一定にし、レーザーが光ってから消えるまでの間に試料の透過
光量、近赤外線放出量の時間変化の様子を、オシロスコープによって取得した。このステップを、
照射するレーザーのパワーを変えて繰り返した。
オシロスコープから得られたフォトルミネセンス(この実験の場合、近赤外線放出量)、フォトク
ロミズムの時間応答曲線を、プログラムを使用し、電子の移動を表す指数関数 y=A(1-exp(-t/
τ))+y0 に、当てはめることで、A(光吸収、光放出の規模), τ(時定数=光の吸収や放出をす
る速さ)の値を見積もった。
68
口頭発表24 東京大学
結果と考察:
フォトクロミズムの場合、一つの指数関数で当てはめる
ことはできなかったが、ニ重指数関数 A1(1-exp(-t/τ1))
+ A2(1-exp(-t/τ2))+y0 に当てはめることはできた。電子
の移動を表す指数関数を二つ使用したことから、フォト
クロミズムは二つの起源から行われていることを考察し
た。また、図 3,4 より、レーザーの光強度が増加すると
フォトクロミズム、フォトルミネセンスが増加すること
図 3.フォトクロミズムとレーザーの強度の関係
が分かる。
さらに、図 5 から、フォトクロミズムの時定数の逆数 inv
tau 2(1/τ)と、フォトルミネセンスの inv tau
が、
ほぼ同じだと考えられる。したがって、フォトクロミズ
ムの一つの起源とフォトルミネセンスの起源は同じだと
考察した。
以上の結果から、図 6 のような電子モデルを考
図 4.フォトルミネセンスとレーザーの強度の関係
察した。起源 1 ではフォトクロミズムがどこで
行われているか不明であるが、起源 2 では、フ
ォトクロミズムとフォトルミネセンスの起源が
同じことから、起点が E2 と考えた。E2 から上
PC-Inv tau 1
位にかけての吸収がフォトクロミズムとして観
PC -Inv tau 2
PL -Inv tau 1
測され、E2 から E1 に落ちる際、フォトルミネ
センスが観測されるという結論に至った。
今後の展望:
図 5.フォトクロミズム、フォトルミネセンスの時定数
吸収変化の光温度依存性、光電流測定などの
物性を調べて、Fe 添加 GaN の物性の理解を深める。
フォトクロミズムのフォトルミネセンスと一致
していない起源はなにであるのか、なぜフォト
E3
フォトクロミズム
E2
クロミズムには二つ起源が存在するのかを調べる。
フォトルミネセンス
E1
主要参考文献:
野村昭一郎.「技術者・工学者のための量子論」
図 6.GaN の電子モデル(起源 2)
竹内淳. 「高校数学でわかるシュレディンガー方程式」
<講座担当教員のコメント>
データの取り直し、ノイズの原因究明など実験上の数々の困難にも負けず、確からしい信号がとれるまで粘り強く実験
をしてくれました。また、未習の微分方程式にも果敢にチャレンジし、この材料で何が起こっているのか、どうしてこ
のような信号が観測されたのかを懸命に理解しようとしていた点は大いに評価できると考えます。
69
口頭発表25 慶應義塾大学
ハダカデバネズミ iPS 細胞の機能解析
四宮 有紗(茗渓学園高等学校 3年)
担当教員:三浦 恭子先生(慶應義塾大学医学部生理学教室 特別助教)
・研究内容の背景および目的
ハダカデバネズミ(右下写真)は、アリやハチに類
似した分業制からなるカースト社会をもつ真社会性げ
っ歯類である。ハダカデバネズミは体長 10cm 程であ
るが、げっ歯類に異例の長寿命,超癌化耐性という非
常に興味深い特徴を合わせもつ。マウス/ヒトと異な
り,ハダカデバネズミには現在のところ自発的な腫瘍
形成は一切確認されていない。このことから、ハダカ
デバネズミは,未知の新規ガン化耐性機構を備えてい
ると考えられ,新たなガン抑制機構を同定し,将来的
にヒトに応用するための新規モデル動物として,極め
て有用性が高い。
・デバ iPS 細胞をつくる
人工多能性幹(iPS)細胞は、体細胞に Oct3/4, Sox2, cMyc, Klf4 を導入することにより得られる,
胚性幹(ES)細胞様の細胞である。iPS 細胞樹立過程においては、癌遺伝子や癌抑制遺伝子が重要
な役割を持つことが知られている。癌化耐性であるハダカデバネズミから iPS 細胞が樹立出来れ
ば、癌化過程と iPS 細胞誘導過程の共通点・違いについて、新たな観点から理解を深めることが
できる(下図参照)。
また、ハダカデバネズミの特
異な生態(女王のみが繁殖に
携わる)ゆえに、ハダカデバ
ネズミ ES 細胞の樹立は極め
て困難である。そのため、ハ
ダカデバネズミ iPS 細胞は、
種々解析のためのマテリア
ルとして今後重要な役割を
もつと考えられる。
近年慶應義塾大学生理学
教室の三浦らにより、「癌化
耐性である」ハダカデバネズミから iPS 細胞が樹立された。本研究では、このハダカデバネズミ
iPS 細胞の性質を解析するための実験を行った。
70
口頭発表25 慶應義塾大学
―行った実験内容
実験1:未分化マーカーの発現確認
方法:免疫染色により,ハダカデバネズミ iPS 細胞における未分化マーカー(Oct3/4,E-cadherin)
の発現を確認する。
実験2:多能性の確認(分化誘導)
方法:胚葉体(Embryoid body: EB)形成法を用いた分化誘導を行う。その後免疫染色により,ハダ
カデバネズミ iPS 細胞は種々体細胞への分化能力をもつかどうか、確認する。
―実験結果
免疫染色の結果、ハダカデ
バネズミ iPS 細胞におい
て,一部の未分化マーカー
Oct3/4,E-cadherin)が発
現していた(右写真は
Oct3/4 マーカーの発現を
示す)
。
EB 形成後の免疫染色に
より、ハダカデバネズミ
iPS 細胞は、外胚葉系・中
胚葉系の細胞に分化する
ことがわかった。
-考察および今後の課題
ハダカデバネズミ iPS 細胞は,未分化状態にあり,ある程度の多能性を持つと考えられる。今後,
さらに他の未分化マーカーの発現の有無について、検討が必要である。
また、現在のところ内胚葉系への分化が確認されていないため、ハダカデバネズミ iPS 細胞が内
胚葉系に分化する能力をもつかどうか,EB 形成後、免疫染色による内胚葉マーカーの発現確認
を行う。
未分化なハダカデバネズミ iPS 細胞を免疫不全マウスに移植することによりテラトーマを形成さ
せて、In vivo における三胚葉への分化能の確認を行う。
<講座担当教員のコメント>
情熱を持って、研究に取り組んでくれました。遠方から慶應義塾大学だけでなく、理化学研究
所にも通って下さいました。再生医学のモデル動物を作るという世界をリードする研究に取り組
まれたことは四宮さんの将来にも糧になると思います。能力だけでなく性格も研究者に向いてい
ます。
71
72
3日目
発表テーマ一覧
●3日目●
分野
テーマ
物理・数学・地学・
津波によって陸上に運ばれた砂の起源についての研究
工学・総合1
-1640 年北海道駒ケ岳噴火津波の事例から-
物理・数学・地学・
工学・総合2
物理・数学・地学・
工学・総合3
物理・数学・地学・
工学・総合4
物理・数学・地学・
工学・総合5
物理・数学・地学・
講座大学
自律型海中ロボットによるによる
熱水チムニーの押倒し手法の開発
長崎・原爆資料
(米国・国立公文書館所蔵・航空写真)の WEB 公開)
自律型ロボットを用いたサッカーロボットの製作
氏
名
頁
北海道大学
大熊 佑一
78p
東京大学
佐藤 茉莉香
80p
長崎大学
長崎大学
杉本 隆介
光武 亨
黒田 幹大
北川 颯人
82p
84p
進藤 友恵
超臨界流体のふしぎな特徴とその応用技術
東北大学
渡辺 雄太
86p
藤田 琴実
ある退化型二階非線形微分方程式の時間大域解と減衰
九州大学
原
朱音
88p
化学1
亜臨界水熱処理を用いた廃棄物系バイオマスの資源化
北海道大学
藤原 那奈
90p
化学2
シリコン単結晶の表面再構成
東京大学
大坂 宙矩
92p
化学3
X線で見る酸化物超伝導体
榛葉 有希
94p
化学4
コバルト錯体とバナジウム錯体の溶液および固体中の色分析
埼玉大学
新谷 俊貴
96p
化学5
電子レンジを用いた高温超伝導体合成の試み
岡山大学
河川性魚類の種多様性
愛媛大学
道内 真輝
古代生物を診てみよう
静岡大学
金指 莉乃
工学・総合6
動物系1
動物系2
動物系3
静岡大学
(理学部)
~現生オウムガイ類が持つ古生物の秘密~
森林性ジャコウアゲハの幼虫における体色変化
~森林性個体でも体色変化を起こせるのか?~
岡田 瑞穂
谷 望未
(理学部) 木戸 美怜
98p
100p
102p
筑波大学
宇佐美 賢祐
104p
動物系4
モジホコリの変形体が生きていく戦略とは
筑波大学
吉橋 佑馬
106p
動物系5
ウニの割球解離・接着実験
埼玉大学
後藤 優佳
108p
75
発表テーマ一覧
分野
植物系1
テーマ
講座大学
~組織培養法によるイチョウ(Ginkgo biloba L.)
精子誘導の研究
Ⅱ~
福井大学
名
大宮 早織
野上 優水
加藤 巽
頁
110p
植物系2
ダーウィンが見た「動く植物」の仕組みを探ろう
植物系3
セイタカアワダチソウのアレロパシー作用
千葉大学
植物系4
培養マスト細胞を用いたスギ花粉によるヒスタミン遊離
愛媛大学
生命系1
細胞間コミュニケーションを評価する
東北大学
生命系2
記憶と学習の関係、神経伝達の仕組み
九州大学
小田原 冬季
120p
生命系3
人工酵素によるメタロチオネイン遺伝子の破壊
慶應義塾大学
伊藤 千慧子
122p
生命系4
アロエ抽出物の創傷治癒に及ぼす影響の解析
千葉大学
山下 莉奈
124p
生命系5
Rat 肝臓由来 XanthineOxidase の抽出・精製
慶應義塾大学
久永 めぐみ
126p
76
東北大学
氏
門間 貴大
櫛田 和花奈
今川 瑞季
羽藤 真鈴
佐藤 耕平
守屋 千尋
112p
114p
116p
118p
77
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合 1
北海道大学
津波によって陸上に運ばれた砂の起源についての研究
-1640 年北海道駒ケ岳噴火津波の事例から-
大熊 祐一(北海道札幌藻岩高等学校 2年)
担当教員:西村 裕一・中村 有吾
◇研究の目的・意義
近年、北海道南部太平洋岸では大きな津波は発生していない。しかし文献によると、江戸時代前期の
1640 年に北海道駒ケ岳が噴火し、山体崩壊により内浦湾の周辺で 700 名余りの死者を出す津波が発生
した(日本地質学会、2010)
。この津波については、津波堆積物,すなわち津波により陸上に運び上げ
られて堆積した砂などの堆積物
(津波の事典、2009)
を基に伊達市や白老町などで調査が行われている。
しかし、この津波堆積物を構成する砂の起源については詳しく調べられていない。津波はいったいどこ
の砂をどうやって運んでくるのだろうか.本研究では、1640 年北海道駒ケ岳噴火津波による津波堆積
物の構成物の特徴を詳しく調べ、記録のない過去の津波の様子を考察しようと試みた。 なお、この研
究を始めて半年後の 2011 年 3 月 11 日に東北地方太平洋沖地震による津波が発生した。津波が単なる海
水の流れではなく砂や泥を含んでいること、津波が引いた後には砂などが堆積していることは、テレビ
の映像でもよくわかった。また、仙台平野では平安時代に同規模の津波が起きたことが津波堆積物の研
究で明らかになっていたことも、繰り返し報道された。衝撃的なだけでなく、私にとっては、研究の意
義や重要性を実感する出来事であった。
◇研究の方法・プロセス
この津波を研究するにあたって、伊達市アルトリ、登別市
富岸、苫小牧市勇払(図 1)の 3 か所でフィールド調査を行っ
た。調査地点では、それぞれの調査地点では、海岸からの
距離の異なる 3 か所で、ジオスライサーを用いて津波堆積
物と考えられる地層を観察し、試料を採取した。また GPS
内浦湾
を用いて調査地点の測量も実施した。さらに、歴史時代の
津波堆積物と構成物を比較するために、それぞれの調査地
*図 1 試料の採取地点
点に近い海岸の砂も採取した。
採取した試料については、粒度分析、鉱物組成分析、微化石(珪藻)分析を行った。粒度分析では、そ
れぞれの試料をふるい分けして粒径ごとの割合を求めた。鉱物組成分析では、試料を双眼実体顕微鏡で
観察し、その砂を構成する鉱物の分類を行い、砂の特徴を記載した。また、津波堆積物や海岸の砂に含
まれる珪藻化石を 800 倍の生物顕微鏡で観察し、種類ごとの量を調べた。鉱物や珪藻は、野尻湖火山灰
グループ(2001)や野尻湖ケイソウグループ(2000)を参考にして鑑定した。
◇結果と考察
まず、1640 年北海道駒ケ岳噴火津波による津波堆積物は、伊達市アルトリ、登別市富岸、苫小牧市勇払
の 3 地点で、それぞれ海岸から 100m、460m、1000m の地点まで分布することが確認できた。津波堆積物
78
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合 1
の層は、いずれの地点でも有珠山の火山灰(1663 年噴火)
伊達市
アルトリ岬
の数 cm 下にある(図 2)
。また、伊達市アルトリでは、津
波堆積物の直上に、駒ヶ岳 1640 年噴火の火山灰がわずかに
0
海岸から
100m
北海道大学
苫小牧市
勇払
登別市
富岸
海岸から
460m
海岸から
320m
海岸から
1000m
見られた。津波砂層の厚さは少なくとも、伊達市アルトリ
で 5cm、登別市富岸で 2cm、苫小牧市勇払で 2cm であった。
25
粒度分析からは、海岸から離れるにつれ、粒径の割合の
ピークが細かくなる傾向にあることがわかった(図3)
。
これは砂が津波によって海から運ばれる際、粒の大きなも
50
75
のを先に堆積させることを示すものだろう。また構成物(珪
藻など)は、砂の起源を知る手がかりとなる。今回津波堆
有珠火山灰
津波堆積物
100
積物と識別した砂には、割合としては少ないが(全体の 3%
ほど)
、海に住む珪藻(たとえば Cocconeis scutellum)が
125
(cm)
*図 2 各地点の柱状図
含まれていることを確認した。また、鉱物の特徴は、歴史
時代の津波堆積物と今日の海岸の砂とでは明らかに異なって
いることもわかった。これらのことから、津波堆積物の起源
20
)
%
( 10
海岸から
460m地 点
0
としては、海岸や海底の砂に加えて海岸以外(陸上など)に
もあるかもしれず、またこうした砂の特徴は津波発生当時の
海岸の特徴を反映したものであることが考えられる。
20
)
(%10
海岸から
320m地 点
0
20
現在の海岸の砂
)
%
( 10
0
◇今後の展望
2
0
.
1
5
.
0
(mm)
津波堆積物は記録に残っていない津波の様子を知る重要な手
5
.2
0
3
.1
0
7
0
.
0
*図 3 粒度分析結果(登別市富岸の例)
がかりである。また一方、今日の観察では知ることができな
い当時の海岸の情報も含んでいる。このような知見をもとに調査や研究を進めることは、今後、北海道
のように自然が残っている一方で詳しい歴史が残されていない地域で自然災害の歴史や海岸環境の変
化を調べる上でおおいに役立つであろう。
◇主要参考文献
・日本地質学会(編),『日本地方地質誌 1 北海道地方』,朝倉書店,631 ページ,2010 年.
・朝倉邦造,『津波の事典』,朝倉書店,341 ページ,2007 年.
・野尻湖火山灰グループ,『新版 火山灰分析の手びき』,地学団体研究会,56 ページ,2001 年.
・野尻湖ケイソウグループ,『ケイソウのしらべかた』,地学団体研究会,105 ページ,2000 年.
<講座担当教員のコメント>
大熊君はフィールドで常に生き生きとして見えた。彼は目的意識をもって場所を選定し、地層を丁寧に観察し、その上
で採取した試料を多角的に分析した。フィールドサイエンスの基礎的プロセスを理解してくれたのだと思う。研究活動
中に東北地方太平洋沖地震津波が発生した折り、彼は自身の研究との関連性を認識し、現地調査にも参加したいと言っ
てくれた。実際には連れて行くことはできなかったが、実に頼もしい言動であった。
79
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合 2
東京大学
自律型海中ロボットによるによる熱水チムニーの押倒し手法の開発
佐藤 茉莉香(神奈川県立寒川高等学校 2年)
担当教員:浦 環 Blair Thornton 中谷 武志 能勢 義昭
◇研究の目的・意義
近代、私たちの身近なところから世界各国で、さまざまな技術の進歩や急速な経済成長が進んでいま
す。その反面、産業で必要となる金属資源が希少なものになっている、重大な問題が発生しています。
これにより、海底資源に関心と注目が集まる中、その実態はまだ把握されていません。このため、我々
は、広範囲の海底から試料を採取する効率化な調査の実現を目的とし、自律型海中ロボット(AUV)を使
用した、海底資源のサンプリング方法を提案します。本研究では、サンプリングの第一段階として、AUV
を用いて海底の熱水鉱床にある熱水チムニーを押し倒す手法を開発することを目標にしました。
◇研究の方法・プロセス
自律型水中ロボットで熱水チムニーを押し倒そうとする場合、ま
ずロボットが熱水チムニーを認識して近づき、熱水チムニーに力を
加え、押し倒します。しかし、すべて押し倒せるとは限りません。
このとき、押し倒せたのか、押し倒せなかったのかをロボットが自
分で判断し、それに対応する必要があります。このため、本研究で
はロボットがチムニーを押す力を計測するセンサを開発しました。
開発したセンサが計測する値は、ロボットがチム二ーに加える力を
計るうえ、計測する力の変化からチムニーを倒すことができたか、
できなかったかを自動的に判断するために使います。
図 1 センサを実装した
ロボット Tuna-Sand
開発したセンサは、ストレインゲージを用いてロボットが押す力
を計測します。ストレインゲージは、物体の歪みを電気的に計測し、フックの法則に基づいて物体に
かかる力を計ることができます。高い精度で力を計れるよう、開発したセンサではてこの原理を利用
し、実験に用いるロボット(AUV)の寸法制限と、発生する最大の推量に合わせてセンサの力点と支点の
レバーの長さを決め、センサに使う材料と断面二次モーメントを計算したうえで、設計・制作しまし
た。錘を使ったキャリブレーション実験をおこない、開発したセンサの性能を確認したうえで、セン
サの値をロボットが認識できるようにプログラミングし、ロボットに取り付けました(図 1 参照)。
ロボットがチムニーを押し倒す実験をおこなうため、熱水チムニーの模型を作りました。模型は高
さ2m、直径 0.3m の塩ビパイプを使い、深さ 8m の水槽の底に沈めました。熱水チムニーが倒れること
を考慮して、模型の底には、蝶番と磁石を用いて、一定の力を超えると模型が倒れる構造にしまし
た。
チムニーを押し倒すロボットの行動パターンは、
「熱水チムニーの模型の前に移動→押す・かかる力を測る→倒し倒したことを認識→動きを止める」
の流れでセンサの値をロボットのフィードバックするアルゴリズムになっています。ここで重要なポ
イントは、ロボット自身が「押し倒したことを認識」という点です。これには、まず水槽でロボットを
遠隔操縦し模型を倒し、そのときにかかった力の変化をベースにチムニーを押し倒せたかを判断する
方法を開発しました。
80
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合 2
東京大学
◇結果と考察
ロボットが全自動でチムニーの模型を押し倒す実験は
合計4回行いました。
1度目の実験では、ロボットは最初から最大の推進
力(150N)でチムニーを押すようにプログラミングしま
した。チムニーを押し倒すことに成功しましたが、ロ
ボットはそれを認識することができず、そのまま推進
しました。この原因として、最初から大きな力で押し
たため、チムニーがすぐに倒れ、センサが短い時間で
図 2 全自動でチムニー模型を押し倒したときの
安定した計測をおこなうことができなかったため、ロ
センサの計測値。40 秒に模型が倒れる際、
ボットがこれを認識できなかったことが原因だと分か
値が下がる現象を判断材料に使っています。
りました。
2度目の実験では、1度目の実験結果を考慮し、最初は弱い力で押し、センサで押す力を計測しな
がらだんだんと押す力を大きくする方法で実験をおこないました。以下に押すパターンを示します。
「20N の推進力でぶつかる→20 秒後に 100N→20 秒後に 150N→20 秒後にまだ倒れなかったらあきらめて
終了」
2度目の実験では、チムニーを押し倒す前に、ロボットは倒したと判断して押すことをやめました。
これは、センサのノイズ・押すときの振動によってセンサの計測値データに20N ぐらいの変化が生じた
ため、押す力が急激に下がった、i.e.チムニーが倒れた、と認識したのが原因だと分かりました。
3度目・4度目の実験では、安定性を向上するため、計測値を一つ一つ見るのではなく、3 秒 1.5
秒前の計測の平均値と、1.5 秒前から現在の平均値の計測値の差が 25N になると倒したと認識するよう、
プログラムを変更しました。この方法を用いて実験をおこない、チムニーを倒し、さらに倒したこと
を認識することに成功しました(図2を参照)。4 度目の実験も同じように成功し、再現性を確認しま
した。
◇今後の展望
水槽の実験でチムニーの模型を押し倒し、それをロボットが認識する手法を開発することに成功し
ました。しかし、開発したアルゴリズムで 100%の確立で成功するかを確認するには、さらに実験を繰
り返して検証をする必要があります。実際に海でチムニーを押し倒すには、今回開発したセンサ、成
功したプログラムをベースに、実験を重ねより確実な方法を開発する必要があると考えます。
◇主要参考文献
Bodenmann, A., Thornton, B., Ura, T., Sangekar, M., Nakatani, T., Sakamaki, T., "Pixel
based mapping using a sheet laser and camera for generation of coloured 3D seafloor
reconstructions", OCEANS 2010, On page(s): 1 - 5, Volume: Issue: , 20-23 Sept. 2010
<講座担当教員のコメント>
本研究は、学校ではまだ習っていない理論や法則、電気配線、ハードウェア・ソフトウェア開発
といった、多くの基礎知識とその応用が要求されるプロジェックトでした。佐藤さんは、積極的
に研究に取り込み、初めて勉強する理論もしっかり理解して応用することができました。また、
プログラミングは指導教員がおこなったが、ロボットをちゃんと動かす行動パターンの裏にある
論理的思考は本人が考えた物であり、物事を合理的に考える、研究者にとってとても重要なスキ
ルを身につけることができたと思います。
81
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合 3
長崎大学
長崎・原爆資料(米国・国立公文書館所蔵・航空写真)の WEB 公開
杉本 隆介(長崎大学附属中学校 2年)
光武 亨(精道三川台中学校 2年)
担当教員:全 炳徳
◇研究の目的・意義
福島の 3.11 原発事故から再び原爆の恐ろしさが浮き彫りになっている昨今、「忘れてはいけな
い、二度と繰り返してはいけない」長崎の原爆資料が米国の国立公文書館にて公開されている。
長崎の原爆関連資料の中でも特に、事実を光で記録して残した「原爆写真」は、32 年間、収集、
検証、整理作業を続けた「長崎平和推進協会写真調査部会(部会長:深堀好敏)」の活動により、
原爆資料として貴重な写真の重要性を明らか戦後の若い世代へと受け継がせるべく「継承・記録・
公開」が求められている。
長崎の、未来科学者養成講座の受講生たちが、長崎平和推進協会写真調査部会を継承する意味
も含めて、長崎原爆(1945 年 8 月 9 日)前後に撮影された航空写真をもとに、インターネットへ
と公開する研究を実施した。
◇研究の方法・プロセス
研究方法は受講生たちが希望に沿って 2 班(WEB 公開班、サーバ構築班)に分けられ、WEB 技術
について、サーバ構築について学びながら、航空写真をインターネットに公開するための技術的
な背景について学ぶ。特に、航空写真の一枚一枚の範囲を示す地図上の位置を表現するために、
WEB 班は Google マップ使用を前提とし、WEB ページのバックグラウンドとして電子地図を敷く、
Google Maps API による実現を目指した。一方、サーバ班はまず、DN の取得、OS(Cent OS)のイン
ストール、Apache や PHP、MySQL によるスクリプト言語が使える環境を用意し、インターネット
上での WEB サービスのためのコンテイナーを作成した。最終的には、原爆前後の航空写真の上に、
現在地の様子がスマートフォン等で入力可能にあるように、実時間でのサービス項目も追加し、
動的なページとして仕上げた。
◇結果と考察
WEB 公開班、サーバ構築班により実施された研究結果は、プロ並みの見栄えと機能性アップま
でには至ってないが、一つの情報(原爆・航空写真)をインターネット上に公開する一連の流れ
と技術を学ぶことができた。特に、長崎の中学生として、戦後世代への長崎・平和づくりの継承・
記録・公開の流れに参加することができた。
82
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合 3
長崎大学
◇今後の展望
今回、公開したウェブページ(http://nagis.edu.nagasaki-u.ac.jp) は改良を続け、長崎原
爆・平和教育の継承事例として発展していくことを期待している。
◇主要参考文献
1.CentOS 徹底入門【第2版】
、SE(Shoeisha)社
2.新 Linux/UNIX 入門、林晴比古著、Softbank Createve 社
3.基礎からの Linux(新改定)、橋本英勝著、Softbank Createve 社
4.基礎と実践 Linux ネットワークプログラミング、あきみち著、Softbank
Createve 社
5.お気に入りの Ubuntu、岡田長治・中村睦共著、CUTT システム社
6.組み込み Linux システム構築、水原文訳、O REILLY 社
7.独学 Linux、小林準著、SE(Shoeisha)社
<講座担当教員のコメント>
今回取り組んだ、中学生たちによる「長崎・原爆資料の WEB 公開」チャレンジは、戦後世代へ
の平和教育継承を実現したことに大きな意義がある。研究内容も中学生から見れば大変高度な技
術のチャレンジであり、指導教員側の細かな作業と多くの助言が必要であったが、受講生の無限
の可能性が垣間見えたもので、未来科学者発掘に役立ったと確信している。
83
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合 4
長崎大学
自律型ロボットを用いたサッカーロボットの製作
黒田 幹大(長崎県立長崎東中学校 1年)
北川 颯人(長崎県立長崎東中学校 1年)
担当教員:藤本 登
◇研究の目的・意義
本研究の目的は,IR センサとタッチセンサを利用したサッカーロボットの製作です。また,オ
ムニホイールを用いて自由度の高い動きができる機構を考案しています。そして,この研究の意
義は,ロボットを作るには,環境に応じて IR センサやプログロムに用いる閾値の設定が必要であ
ること,動作が機敏なロボットにするには,オムニホイールなどの足回りの機構を工夫し,それ
に応じたプログラムを作成することが必要であることが分かりました。
◇研究の方法・プロセス
本研究で使用するロボットは,JapanTobotech 製の RoboDesginer を使用しました。このロボ
ットは,Ticola というフローチャート形式のタイルプログラムでプログラムを組めます。サッカ
ーロボットでは,進行方向やボールの有無を識別するために利用する IR センサは,黒から白の物
体から出てくる赤外線を 0~4.2V の値で,制御ボードに出力します。例えば,サッカーコートは,
白から黒のグレースケールで色が付けてあるため,床面からの赤外線の値を移動方向で比較する
ことで,進行方向を識別できます。また,サッカーボールには赤外線を出す LED が取り付けられ
ているため,ボールの有無を判断できます。
図 1 に,IR センサの出力電圧とプログラムに用いる
閾値の関係を示します。本ロボットは 8bit のマイコン
を搭載しているため,アナログ値は 28=256 のデジタル
値に変換されます。例えば,ロボットが白い紙の上にあ
る時,床面を見ている IR センサの出力が 3~4.2V で,
黒い紙の場合のそれが 0~1.2V の場合,閾値は 1.2~3V
の間となります。平均値としては 2.1V となり,その前
後の値を僕たちは閾値としました。IR センサの出力電
圧と閾値の関係は,以下の式で求めます。
閾値=IR センサの出力電圧(V) × 255 / 5(V)
=IR センサの出力電圧(V) × 51
図 1 IR センサの出力電圧と閾値の関係
一方,壁等の障害物の有無を判断するには,タッチセンサを用います。IR センサはアナログ
ですが,タッチセンサはデジタルで,障害物に触れた時が ON(出力電圧あり)
,触れていない時
が OFF(出力電圧無し)です。僕たちは,障害物回避タイムトライアルでタッチセンサを,ライ
ントレースタイムトライアルで IR センサを学習し,サッカーロボットに挑戦しました。
◇結果と考察
図 2 にジャパンロボカップ九州大会の様子を,図 3 にボールを捜しキープした後で白色ゴール
へボールを運ぶプログラムを示します。なお,敵のロボットや壁などにぶつかった場合は最優先
で回避行動をとる用にした場合です。閾値の値は,環境の光の条件によって大きく変化するため
に,毎回,テスターを使って,測定をして,前述の式から求めました。結果は,同年代の人たち
84
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合 4
長崎大学
とは互角でしたが,高校生には太刀打ちできませんでした。また,オウンゴールが多く,惨敗を
してしまいました。この理由は,プログラムの考え方が間違っていて,常に最初にボールを探す
ようになっていたためと考えています。そこで,プログラムの最初で,自分がどちらに向いてい
るか判断し,ゴールすべき方向に向いてい
てボールがある場合はボールを取りに,無
い場合は探し,ゴールすべき方向に向いて
いていない場合は,自分が守るべきゴール
の前に戻るようなプログラムを修正すれば,
解決できると考えています。また,対戦相
手を見て考えたことは,方位センサやオム
ニホイールの利用を行い,精度の高いロボ
ットに改造したいと思います。
図 2 ジャパンロボカップ九州大会の様子
図 3 ボールを捜しキープした後で,白色ゴールへボールを運ぶプログラム
◇今後の展望
現在,
C 言語によるプログラミングと 4 輪オムニホイール型のロボットに改造を行っています。
オムニホイール型ロボットでは,2 枚の基板を使用していますが,2 枚は同期をさせていません。
その理由は,プログラムの複雑化を防ぐためであり,そのためにボール探索用センサを十字にな
るように 4 つ配置し,2 つのセンサが同時に反応することはなくしました。プログラムの単純化
をすることで,意外とボールを的確に捉えることができると考えています。ところで,ロボット
教室では,今年は行ってきたジュニアコースの人たちに,はんだごての使い方を教えたりしまし
た。教わりっぱなしではなく次の人に教える事ができ,よかったと思います。
<講座担当教員のコメント>
本研究で得られた結果は,ジャパンロボカップのようなサッカーロボット大会の決勝に出場し
ているロボットと同程度の内容を有しており,目新しいものではない。しかし,プログラムの論
理的思考とハードとソフトのマッチングと行った技術的能力,ロボットの軽量化や出力制御に見
られる科学的思考は,中学校1年生の学習領域を超えており,知識の統合化と活用を実践的に行
っている点は高く評価できる。
85
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合 5
東北大学
超臨界流体のふしぎな特徴とその応用技術
藤田 琴実(埼玉県立浦和第一女子高等学校 3年)
進藤 友恵(宮城県宮城第一高等学校 2年)
渡辺 雄太(宮城県仙台向山高等学校 2年)
担当教員:猪股 宏、渡邉 賢(工学研究科)
今回の目的
まずは、超臨界流体はどのような過程を経て変化していくのか・その過程の中で発生する現象の観察、
である。これは実験Ⅰで行う。
次に、超臨界流体は気体・液体両方の性質を持っている。この性質を応用すると、どのような効果があ
るのかを検証する。この部分は実験Ⅱ・Ⅲで行う。
超臨界流体とは?
超臨界流体とは、気体の拡散性・液体の溶解性を持ち合わせた状態の事を示す。物質は気体・液体・固
体の三態だが、圧力・温度を上げていくと、ある圧力・温度に達した時臨界点に到達する。さらに圧力・
温度を上げていくと超臨界流体となる。
今回の対象となる物質は水と二酸化炭素。それぞれ臨界点の温度は異なっている。<表 1>
物質名
圧力(M
)
温度(℃)
水
22.12
374.3
二酸化炭素
7.38
31.1
<表 1>
圧力・温度は<表 1>のようになっており、この条件が揃う時に臨界点に到達する。水の方が高い値を示
していて、二酸化炭素は低い値となっている。故に二酸化炭素のほうが扱い易い。
実験Ⅰ 臨界現象の観察
この実験においては「臨界現象」の観察が目的である。臨界現象は次の2つの現象を事を示す。
超臨界流体のゆらぎ…分子分布の空間的な不均一により発生
臨界タンパク光…超臨界流体のゆらぎの影響で光の屈折率が変化(臨界錯乱)して発生
実験方法は装置に液体の二酸化炭素(CO2)を充填し、比率を決定して仕込み、圧力・温度を上げていく。
実験結果は<グラフ 1><グラフ 2>の通り
〈グラフ1〉
〈グラフ2〉
超臨界流体のゆらぎは確認できたが、臨界タンパク光は確認できなかった。これは仕込む際の比
率のずれ・目標圧力まで圧力が到達しなかった事が原因。そして圧力・温度の2つが揃わない限
り臨界現象は発現しないということが考えられる。
実験Ⅱ 天然物抽出
この実験においては、みかん果皮に含まれる成分を超臨界 CO2を利用して抽出するのが目的である。今
回対象になる物質は次の3つ。
86
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合 5
東北大学
カロテノイド…老化防止・抗がん作用の効果あり
クロロフィル…葉緑素の主成分・酸化物は人体に有害
フラボノイド…ポリフェノールの一種・記憶障害改善作用の効果あり
実験方法はデスクトップ型抽出装置をもちいて行う。溶媒の CO2の他、助溶媒としてエタノールをもち
いる。CO2+エタノール、CO2のみと条件を分け、温度 60℃・圧力 30M ・エタノール濃度 5%と設定。
結果は<表2>の通り
みかん果皮から抽出する成分
カロテノイド
含有量[μg/g みかん果皮]
抽出にかけた時間[分]
フラボノイド
209
300
23
0~30
CO2+エタノールの抽出重量
[μg/g みかん果皮]
30~60
60~90
0~30
30~60
60~90
0~30
30~60
60~90
2.07
0.16
0
1.19
29
289
9%
0.70%
0%
0.57%
9.67%
96.30%
9.85
0.388
0.087
0
0
45
8
4
42.83%
1.69%
0.38%
0%
0%
15%
2.67%
1.33%
収率
CO2 のみの抽出重量
[μg/g みかん果皮]
収率
クロロフィル
0
最も多く抽出できる順から、フラボノイド→カロテノイド→クロロフィル、となった。また、選択率と
収率は相反する。それから、エタノールを助溶媒として加えた時全てを平均的に採取する事が可能。加
えない場合は時間をかけ多く採取可能だが成分に偏りが生じる。
実験Ⅲ 有機化学物質の合成
この実験においては CO2ではなく H2O、つまり水を対象とする。また超臨界ではなく亜臨界の状態
での実験となる。今回対象となる化合物は次の3つ。
グルコース…六単糖・甘味料・バイオエタノール原料
アラビノース…甘味料・化学原料・フルフラール
HMF…糖脱水生成物・化学原料・燃料前駆体
実験方法はマイクロオーブンを用いて行う。比較としてH2SO4(硫酸)を用いる。実験Ⅱのエタノー
ルと役割は同様。バイアル瓶にみかん果皮とH2O・H2SO4をいれ攪拌器で攪拌。マイクロオーブ
ンで180℃・20分加熱、その溶液をろ過。溶液は検出用の機器で識別して結果を出す。
結果は<表3>の通り
みかん果皮から生成する化合物
グルコース
H2O
アラビノース
H2SO4
H2O
HMF
H2SO4
H2O
H2SO4
みかん果皮の重量[g]
0.3069
0.3006
0.3069
0.3006
0.3069
0.3006
生成した物質の重量[mg]
0.021
0.058
0.006
0.023
0.000327
0.00273
収率
6.85%
19.46%
1.81%
7.78%
0.11%
0.91%
最も反応性の高い順から、アラビノース→グルコースー→HMF、となった。
また、実験Ⅱと同様に選択率と収率は相反する。H2SO4を加えればエタノール同様すべてを平均的
に採取することが可能。多く入れてしまうと、糖が分解しすぎてしまうので成分の偏りが生じる。そし
て、H2SO4のほうが脱水反応が起こりやすい。
<講座担当教員のコメント>
今回講座を受講していただいた高校生3名は、科学に極めて高い興味を示し様々な分野を積極的に見 て、そ
して触れたいという想いに溢れていました。全員がこうした科学への取り組みに何度か参加したことがある
とのことで、今回 取り組んだ水と二酸化炭素の高圧条件(超臨界条件含む)に関して も高い関心 を持ち取
り組み、私達から問い掛けることはもちろん、それを踏まえた 質問も 多く飛び出すなど、極めて高い理解
度を示しました。生物や機械などに本来の興味があるようでしたが、今回化学に関する講座にも高いモチベ
ーションで取り組めたことから、今後の研究者に求められ る学際領域を積極的に切り開く能力を既に有して
いるように見受けました。今後が大変楽しみな生徒達でありました。この講座を通して、私達教員も学ぶと
ころが多々あり、生徒諸氏に感謝いたします。
87
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合 6
九州大学
ある退化型二階非線形微分方程式の時間大域解と減衰
原
朱音(筑紫女学園高校
3 年)
担当教員:中尾 愼宏先生
◇研究の目的・意義
ばねにつるされたおもりの運動を表す二階線形微分方程式
x t
kx t
mx t
0, k
0, m
0
の解は具体的に解けて、解のエネルギーは指数的に減衰する。さらに外力の影響も考えた二階弱
線形微分方程式
x t
kx t
mx t
f x, x , t , k
0, m
0
についても、定数変化の公式により大域解の存在と減衰を議論することが出来る。しかし、よ
り一般的な退化型である
r
x (t )
p
x (t ) x (t )
x (t ) x (t )
f ( x, x , t )
については、標準的な方法を当てはめることができない。
そこで、この微分方程式においての時間大域解の存在と解の挙動について調べた。
◇研究の方法・プロセス
中尾先生との議論を通して問題解決に取り組んだ。九州大学のセミナーで習得した、微分方程
式の知識や不等式の扱い方を生かした。
研究は以下の順序で進めた。
①
0
1
~
x
T においてのエネルギー( E(t )
t
②
E(t)
に関する差分不等式を導く。
E(t)
1
p 2
x
p 2
)の有界性を調べる。
E(t)
E(t)
③ すべての t においてのE(t )
④
2
2
E(t)
の有界性を調べる。
の減衰のしかたを調べる。
◇結果と考察
次の定理が得られた。
定理
r
x (t )
p
x (t ) x (t )
x(t ) x (t )
f ( x, x , t )
2
ただし、
このとき
x (0)
x t
3
2
f ( x, y , t ) k x
y
pr p r
3 p 2 r ( p 2)
,2
p 2
x(0) を小さくとると時間大域解が存在し
E t
例: x t
について、次を仮定する。
xt
3
x t
2
C0 1 t
xt
5
p 2
p r pr
についてはE(t )
88
が成立する。
1
x
2
2
1 4
x C0 1 t
4
1
2
ポスター発表 物理・数学・地学・工学・総合 6
九州大学
◇今後の展望
未解決の問題に取り組む中で、いくつかの興味深い論法に出合うことができ、新しい発想を得
た。これからの学習や研究に役立てていきたい。特に、問題解決の全過程で使った、不等式を用
いて式の評価をしていく方法は多くの場面で有効であるように考える。
今回の退化型二階非線形微分方程式を、具体的な現象に当てはめるのは難しいが、数学的に興
味深い問題と思う。イメージしづらい問題だったが、イメージの力を借りずとも、さらに直接解
を求めなくても解の様子を明らかにすることのできる数学の面白さを感じ、これからも数学を続
けたいと思った。今回のように、自然界に現れる数式を一般化して研究することに挑戦してみた
い。
◇主要参考文献
[1] Amerio and G.Prouse,Almost-Periodic Functions and Functional Equations, The University Series, Van Nostrand, Princeton, NJ,1971, p.184.
[2] J.Ball and J.Carr,Decay to zero in critical cases of second order ordinary
differential equations of Duffng type , Arch. Rat. Mech. Anal.14,1976,
47-57.
[3] E.Q.Coddington and N.Levinson,Theory of Ordinary Differential Equations, McGrow-Hill Book Company, Inc., 1955.
[4] J.K.Hale,Ordinary Differential Equations, , 2nd ed. Kreiger,1978.
[5] A.Halany,Differential Equations, Academic Press, 1966.
[6] P.Hartmann,Ordinary Differential Equations, 2nd ed. Birkha"user,
1982.
[7] M.Nakao,Asymptotic stability of the bounded or almost periodic solution
of the wave equation with nonlinear dissipative term, J. Math. Anal.
Appl. 58(1977), 336-343.
[8] , M.Nakao,Decay of solutions of some nonlinear evolution equations, J.
Math. Anal. Appl. 60(1977), 542-549 .
[9] , M.Nakao,Global attractors for nonlinear wave equations with nonlinear
dissipative terms, J. Differential Equations 227 (2006), 204-229.
12
<講座担当教員のコメント>
指導教員の問題意識を踏まえてそれなりの見通しをもって与えた課題であるが、
解決に向けて共に議論する中で新しい工夫が必要となった。得られた結果も新し
いものなので適当な専門誌に発表できる内容である。研究というものがどのよう
に遂行されるか、少し体験できたのではないかと思う。
89
ポスター発表 化学 1 北海道大学
亜臨界水熱処理を用いた廃棄物系バイオマスの資源化
藤原
那奈(北海道札幌西高等学校
担当教員:黄 仁姫
2年)
◆研究背景
20 世紀に入り、石油石炭など化石燃料の枯渇や温暖化が問題となるにつれて、風力・太陽
光など再生可能なエネルギー、中でもバイオマス(石油・石炭以外の生物由来のエネルギー)
に注目が集まった。ここで廃棄物に着目してみると、生ごみ・木材・海藻・家畜糞尿など多く
のバイオマスが含まれていることがわかり、これらの廃棄物系バイオマスを利用して資源を回
収しようとした。本研究では、近年増加してきた一般家庭ごみと北海道の水産廃棄物の約 32%
を占めるホタテ内臓(ホタテの貝柱と貝殻以外の部分)に着目した。
◆研究目的
水は、374℃/22.1M の高温高圧条件になると気体で
も液体でもない状態となる。この点を臨界点といい、こ
の点以下の高温高圧の水を亜臨界水という(図1)。「亜
臨界水熱処理」とは、この水を使って熱分解及び加水分
解する技術である。そして、亜臨界水熱処理の特徴を用
いた資源回収として、1)熱分解をいかした一般家庭ごみ
から石炭のような固形燃料の回収と、2)加水分解をいか
したホタテ内臓から液肥回収の可能性を検討した。
一般家庭ごみから固形燃料の回収では、生成された固
図1 水の状態図
形物の熱量が高く、原料ごみからのエネルギー回収量が多い条件を見つけること、一方、ホタテ
内臓から液肥の回収では、生成された液肥に植物の 3 大栄養素であるリン・カリウム・窒素が
多く含まれ、ホタテ内臓に蓄積されやすい重金属として有害なカドミウムの溶出が少ない条件
を見つけることを目的とした。
◆研究方法
ラボスケールのバッチ式オートク
レープ装置という実験器具を使って亜
臨界水熱処理を行った。この装置は、
反応機内に試料と水を入れ、機内の温
度を上げることで水の温度圧力が大き
くなり、亜臨界水熱処理ができる仕組
図2 ラボスケール実験装置
みとなっている。生成物は反応機内、
ガス冷却・洗浄装置から回収した。(図2)
固形燃料の回収では、模擬ゴミ(紙 65%・ドッグフード 15%・割り箸 11%・プラスチック
9%)55g に水 150ml 入れて 5 分間反応させた。反応条件としては、234℃/3MPa の低温条件と
295℃/8MPa の高温条件の二つにした。その後、回収した固体の回収量と熱量を測定した。一方、
液肥の回収では、ホタテ内臓(ホタテの貝柱・貝殻以外の部分)200g に水 174ml を入れて 20
分間反応させた。こちらでは、210℃/1.75M を低温条件、290℃/7.35 MPa を高温条件とした。
回収した液体中のリン・カリウム・窒素成分を計測し、元の試料と比較した。
90
ポスター発表 化学 1 北海道大学
◆結果と考察
固形燃料の回収では、図 3 に示したように固形物が回収され、これらを固形燃料として評価
を行った。そのため、生成された固形燃料の熱量と回収量を「模擬ごみから回収した熱量(kJ/kg)
=固形燃料の熱量(kJ/kg-固形燃料)× 回収率(kg-固形燃料/kg-模擬ごみ)」の式に代入してみ
た。低温条件では、23,717 kJ/kg の固形燃料を 18.2g 回収し、上記の式を用い計算すると、1kg
の模擬ごみから15,468 kJ の熱量が回収できた。高温条件では、29,833 kJ/kg の固形燃料を 17.2g
回収し、計算すると 1kg の模擬ごみから 14,801 kJ の熱量が回収できた。エネルギー回収量を見
ると低温条件の方が優れ、固体の熱量を見ると高温条件の方が優れている結果となった。
液肥の回収では、図 4 に示したように液体生成物が回収された。ホタテ内臓に含まれてい
た各成分(窒素:92,400mg/kg-乾, リン:7,531mg/kg-乾, カリウム:14,150mg/kg-乾、カドミウ
ム:2.1mg/kg-乾)を 100%とすると、低温条件では、窒素:63%、リン:42%、カリウム:100%
カドミウム:0%を回収し、高温条件では、窒素:40%、リン:0%、カリウム:0.07%、カド
ミウム Cd:0%を回収できた。これより、どの成分を比較しても低温条件の方がすぐれている
結果となった。問題となったカドミウムは、どの条件でも検出さらなかった。
図3
回収された固形燃料
図4
回収された液肥
◆今後の展望
固形燃料の回収では、どちらの条件でも、石油の熱量の約 7 割以下となっているため、実際
に利用する際は、単独で利用することより、石炭などと混合して使用することが望ましい。生
成するのに使うエネルギー量に対して、どれだけのエネルギーが回収できているのかまで評価
出来れば、より正確なエネルギー回収率が得られると判断される。なお、生成された固体をさ
らに圧縮することで燃焼時間を延ばすことができるかもしれないので、今後機会があったらや
ってみたいと思う。
液肥の回収では、低温条件で生成された液肥に足りないリンとカリウムを少し足せば、液肥
として十分使うことができると言える。ただ、実際に使って植物を育てたことがないので、機
会があったら実行し、その効力を確かめてみたい。
<講座担当教員のコメント>
1 年間、亜臨界水熱処理を適用した二つの研究を行いましたが、頑張って研究を進めた結果、
当初の計画とおり、無事に目標を達成しました。今回の研究で、同じ処理でも原料と処理条件
により異なる生成物が得られること、様々な技術を用い、ごみから多様な形態の資源やエネル
ギー回収が出来ることを理解するきっかけになってほしいです。
91
ポスター発表 化学 2 東京大学
シリコン単結晶の表面再構成
大坂 宙矩(東京都立日比谷高等学校 2年)
担当教員:岡野 達雄
◇研究の目的・意義
私がこの研究を始めたのは、研究室で低速電子線回折(LEED)を用
いてシリコンの回折像を観察した際に、その複雑な構造に非常に興味
を持ったからである(図 1)。表面再構成は一般に、表面の不安定な電子
状態を安定化するために起こるとされている。この研究の目的は、そ
のときのエネルギーの変化を定量的に確かめることである。
また、表面物理の研究は半導体工学やナノテクノロジーなどの先端
技術の根幹を成している。そのため、表面物理は基礎から応用まで幅
図1
Si(111)7×7 構造の
LEED 図形
広い内容を含んでおり、とても重要な分野だといえる。
◇研究の方法・プロセス
1. Si(111)理想表面・再構成表面の原子模型作製
Si(111)再構成表面(7×7 構造)と再構成の無い理想表面(1×1 周期)の原子模型を作製して比較した。
図 2 の Dimer・Adatom・Stacking Fault(DAS)模型と呼ばれる構造にしたがって、Si(111)7×7 模型
を作った。Si の結晶は共有結合性の結晶であり、一つの原子を中心に三つの原子が結合して正四
面体の形を作るダイヤモンド構造を持つ。一方で、その結晶表面では結合できない手(ダングリ
ングボンド)が余ってしまうために不安定である。
これを安定化するため、表面では再構成が行われ、
結晶内部とは違った構造が現れる。Si(111)面では、
7×7 周期の再構成が起こる。Si(111)7×7 構造の主な
特徴は、
Dimer
(二量体)、Adatom
(吸着原子)、Stacking
fault(積層欠陥)の形成によってダングリングボン
ドが減少する点である。作製した模型では、これら
の特徴が完全に再現されている(図 3、図 4)。
図 3 Si(111)1×1 理想表面の模型
図 2 Si(111)7×7 構造 DAS 模型([1]より)
図4
92
Si(111)7×7 再構成表面の模型
ポスター発表 化学 2 東京大学
2. ダングリングボンド本数の評価
作製した理想表面の模型(図 3)と Si(111)7×7 構造の模型(図 4)の 7×7 単位胞あたりのダング
リングボンド(図 3 青い板)の数を数えた。
結果と考察
・結果
・解析
ダングリングボンド数(7×7 単位胞あたり)
理想表面
49 本
Si(111)7×7 構造
19 本
ダングリングボンドのエネルギー(ED)を,Si 原子間の結合エネルギー(EB)の半分
として見積もった。このとき、簡単のため Si 原子間にクーロン相互作用を仮定した。
クーロンの法則より、V(r)=-ke2/r、ただし、r、k、e はそれぞれ Si 原子間距離、比例定
数、電荷素量である。このとき、
ED=EB/2=(V(∞)-V(rSi-Si))/2、
ただし、rSi-Si は固体中の Si 原子間距離である。上式に、定数 k、rSi-Si(0.384×10-9m)、
e(1.6×10-19C)を代入すると ED=1.87eV を得た。結果より 30 本のダングリングボンドが
減ったので、7×7 単位胞あたり 56.2 eV、つまり 1×1 あたり 1.15 eV のエネルギーが減
った。
文献[2]によると 0.40 eV のエネルギーが減るとされているのでやや高くなった。
・考察
計算結果の値が文献よりも大きくなったのは、積層欠陥などの計算をしなかったた
めであると考えられる。表面再構成ではダングリングボンドの数が減り、表面の状態
が安定になることがわかった。
◇今後の展望
数学や物理の知識を高めてダングリングボンドだけではなく、積層欠陥などの他の様々な要
素も計算できるようにする。また、Si 原子間相互作用の正しい表現である電子の交換相互作用
に基づく計算を行い、ED を求めたい。
◇主要参考文献
[1] 表面物理学, 村田好正, 朝倉書店.[2] G. X. Qianet al., Phys. Rev. B 35, 1288 (1987).
<講座担当教員のコメント>
大坂君が今回、取り組んだシリコン単結晶の表面構造は、この構造を初めて明らかにした高柳
邦夫教授(東工大)の名前を冠して Takayanagi Model と呼ばれることもあり、表面科学の分野で
は著名な表面構造です.大坂君は、低速電子線回折や走査トンネル顕微鏡観察を通じて、シリコ
ン表面にこのような大きな周期構造が生まれることに、大いに興味を抱き、
「何故、このような構
造ができるのか?」を、結晶模型を使って研究しました.最終的な構造は、既に、知られている
とはいえ、具体的な結晶模型を用いて、途中の経由を示したことは、固体表面に固有な構造の形
成過程を理解する上で、大変に役立つ成果であったと高く評価しております.
93
ポスター発表 化学 3 静岡大学理学部
X線で見る酸化物超伝導体
榛葉 有希(聖光学院高等学校 3年)
担当教員:嶋田 大介
◇研究の目的・意義
20年以上前に高い超伝導転移温度を持つ酸化物超伝導体が発見された。この研究の目的は、この酸
化物超伝導体を自分たちの手で合成して、作った超伝導体をX線回折測定、電気抵抗の温度依存性な
ど、基本的な物性測定を行い、物性実験の基礎を学ぶことである。
◇研究の方法・プロセス
1. 試料の合成
まずイットリウム系の超伝導体であるYBa2Cu3O7の合成を行う。原料としてY2O3、BaCO3、CuO
を用いる。焼成後の試料と比較するために、これらの原料の粉末X線回折測定を行う。Y : Ba : Cu = 1
: 2 : 3 の比率で全体が2グラムになるように秤量し、メノウ乳鉢を使って30分以上混合する。
混合した原料をアルミナボートに入れて電気炉で12時間1153 Kで焼成する。
再びメノウ乳鉢で30分以上混合した後、プレス器と金型を用いて円盤状に加圧成型する。
成型した試料を2つのアルミナボートに置き、一方は空気中で、もう一方はヘリウム中で14時間
1203 Kで焼成して超伝導体を合成する。
2. 物性測定
合成した試料の粉末X線回折測定を行う。
試料に4本の導線を銀ペイントでつける。外側の2組の導線に電流を流し、内側の2組の導線で電
圧を測定することによって電気抵抗を得る。試料は液体窒素(沸点77 K)を使って冷却し、一晩かけ
てゆっくり温度を上げながら電気抵抗の温度依存性を測定する。
最後に液体窒素で冷やした試料を磁石の上に乗せ、マイスナー効果が起こるかを観察する。
◇結果と考察
図 1 に合成した超伝導体の粉末X線回折測定結果を示す。図の中の赤線は YBa2Cu3O7 の結晶構造
からシミュレーションした粉末X線回折の結果である。空気中で焼成した試料の結果である図 1(a)で
は、明確なピークが現れシミュレーション結果ともよく一致している。この結果から計算した格子定
数は Sample #1、#2 で(a, b, c) = (0.384, 0.388, 1.142)、(0.383, 0.389, 1.170) [nm] であった。それに対し
(b) ヘリウム中
Intencity (arb. unit)
Intencity (arb. unit)
(a) 空気中
Sample #2
Sample #1
Simulation
20
Sample #2'
Sample #1'
Simulation
2
40
60
20
図 1 粉末X線回折測定結果
94
2
40
60
ポスター発表 化学 3 静岡大学理学部
0.014
0.012
抵抗(Ω)
0.010
0.008
0.006
0.004
0.002
0.000
0
50
100
150
温度(K)
200
250
300
図 2 電気抵抗の温度依存性
てヘリウム中で焼成した試料の結果である図 1(b)では、ピークが弱くシミュレーション結果とも一致
しない。これは焼成のときに酸素が離れ、きれいな結晶が形成できなかったものと思われる。
図2に空気中で焼成した試料の電気抵抗の温度依存性を示す。低温で電気抵抗が急激に減少してい
る。100 K付近で抵抗が落ち始め91 Kで抵抗が半分になり88 Kで抵抗が0になったことが確認された。
これは超伝導転移と思われる。それに対してヘリウム中で焼成した試料は、室温でテスターを使って
電気抵抗を測定したところ、測定が出来ないほど大きな電気抵抗(数十MΩ)を示した。この結果か
ら、この試料は絶縁体だと思われるので、電気抵抗の温度依存性は測定しないことにした。
つぎに、空気中で焼成した試料を直接液体窒素で冷却して磁石の上に乗せてみたところ、試料は磁
石の上に浮いた。これは超伝導状態で起こるマイスナー効果と呼ばれる現象である。
空気中とヘリウム中で焼成した試料を比較したところ、空気中で焼成した試料が超伝導体になった。
この結果から、この酸化物超伝導体の合成には酸素が重要であることがわかった。
◇今後の展望
物質の合成と物性測定の基礎を学んだ。今後、大学に進学したり企業に就職したりして、この知識
をいかして新物質の合成の研究をしたいと思うようになった。
◇主要参考文献
静岡大学理学部物理学科物理学実験Ⅲ・Ⅳテキスト「物性2」
<講座担当教員のコメント>
物理学は積み重ねの学問である。物理学の研究を行うには、ある程度の知識が必要になる。この研
究では電気抵抗やX線回折など高校の物理でも理解できる範囲で行われた。今後、さらに知識を高め
て、より高度な物理の研究を行っていってもらいたいと思う。
95
ポスター発表 化学 4 埼玉大学
コバルト錯体とバナジウム錯体の溶液および固体中の色分析
新谷 俊貴(越谷市立栄進中学校 2年)
永澤 明(埼玉大学大学院理工学研究科)
◇研究の目的・意義
金属錯体に興味を持ったきっかけは、僕の大好きな新幹線の車体の塗料に使われていると知っ
たからです。その銅フタロシアニン錯体は、水に溶けず、紫外線に強いため、色の劣化が少ない
特徴があります。そこで、錯体の色についてもっとくわしく調べてみたいと思い、コバルト錯体
で配位子を替えたときの色の違い、合成するときの温度を変えることによる色の違いと、バナジ
ウム錯体で見る方向を変えたときの色の変化について実験しました。
◇研究の方法・プロセス
原料となる金属イオンの化合物(コバルトやバナジウム)に配位子を加えて錯体を 5 種類合成
し、色の違いを観察しました。錯体の固体が反射する光の色を調べるため、写真を撮りパソコン
に読み込んで、アドビイラストレーターで色を抽出して,RGB カラーモデル 0(透過)-250(吸収)
で錯体がどの色を持つかを表現しました。また、錯体を水に溶かして、紫外可視分光光度計で溶
液が吸収する光の波長を調べました。棒グラフは固体から反射した光、線グラフは水溶液にした
ときに吸収した光です。
◇結果と考察
①配位子による色の違い
(実験)コバルト錯体の配位子が、アンモニア(NH3)、エチレンジアミン四酢酸イオン(edta4-)、
シュウ酸イオン(ox2-)のものを合成して、色の違いを観察しました。
図 1 NH3 のコバルト錯体
図 2 edta4-のコバルト錯体
図 3 ox2-のコバルト錯体
(結果)NH3 錯体はオレンジ色で、青色の反射がとても小さく、480 nm の青色に吸収のピークが
ありました。edta4-錯体は紫色で、緑色の反射がとても小さく、530 nm の緑色付近を吸収してい
ます。ox2-錯体は緑色で、赤色の反射が小さく、430 nm の紫色と 600 nm の橙色を吸収します。
(考察)錯体の配位子を替えることによって、色が変わることが分かりました。また、窒素原子
が結合した錯体は、酸素原子が結合した錯体よりも高いエネルギーの光を吸収しました。
②合成するときの温度による色の変化
(実験)イミノニ酢酸イオン(ida2-)のコバルト錯体を合成しました。塩化コバルトと ida2-と水
酸化カリウムと過酸化水素水を混合した溶液を、氷で 0℃に冷やした場合と、80℃の場合とを比
較しました。
96
ポスター発表 化学 4 埼玉大学
(結果)2 種類の錯体ができました。
図 4 合成したコバルト錯体
図 5 構造が違う場合の光の吸収の違い
(考察)図 4、図 5 のように、錯体をつくるときの温度によって、色の違う錯体ができることが
わかりました。「シス体」は赤紫色で 560 nm の光を吸収、「トランス体」は黄褐色で 490 nm の光
を吸収していました。金属も配位子も同じでも分子の構造が違うと色が違うことがわかりました。
③光の方向を変えたときの色の変化
(実験)マロン酸イオン(C3H2O42-)のバナジウム錯体を合成しました。偏光板を使って角度を調
整して、色の変化を見ました。
(実験結果)見る方向や光の振動の方向によって色が変わることがわかりました。
光
光
図 6 バナジウム錯体(NH4)2[V(O)(H2O)(C3H2O4)2]の固体に偏光を当てたときの色
(考察)固体の結晶に光を当てた場合、球に近いコバルト錯体はどの方向から見ても同じ色でし
たが、直方体型の分子のバナジウム錯体では、どんな振動方向の光がどの方向に通るかで、色が
違いました。水溶液では、吸収する光の色には方向による違いはありません。
◇今後の展望
配位子,構造,光の向きにより色が変わることがわかりました.この研究で、いろいろな錯体
を合成しました。難しくて、失敗してしまったこともありましたが、原因を考えながら、毎回と
ても楽しく実験をしました。今後は、銅や鉄などの錯体についても調べてみたいと思いました。
◇主要参考文献 “合成・解析化学実験Ⅰ指針”,埼玉大学理学部基礎化学科編,さいたま(2009).
<講座担当教員のコメント>
井戸洋平理学修士と山本幸奈理学士が指導補助に尽力した。
錯体の合成法は既知であるが、条件を工夫して観察しやすい結晶を調製することに成功した。
写真とパソコンソフトを利用して色の違いを簡便に可視化して、よくまとめ考察している。
97
ポスター発表 化学 5 岡山大学
電子レンジを用いた高温超伝導体合成の試み
岡田 瑞穂(岡山県立玉野高等学校
谷 望未(岡山県立玉野高等学校
2年)
2年)
担当教員:原田 勲,味野 道信,藤田 学
1 研究の目的
私たちがこの研究を始めたきっかけは,科学先取り岡山コースで,転移温度約 90K の Y123 系酸
化物超伝導体の合成についての講義と実験指導を受けたことによる。最初は,計量・混合した原
料を電気炉で加熱し,Y123 系酸化物超伝導体を合成した。しかし,電気炉を用いず,身の回りに
あるものを熱源に用いて,酸化物超伝導体の合成がもっと手軽にできれば,私たちが高校を会場
に地域に向けて開催している実験講座においても超伝導体の合成を行い,さらにその物性の測定
をするなど研究の幅が広がると考えた。文献を探したところ,出力 200W の電子レンジで 25 分間
加熱することにより,電気抵抗の温度変化などから Y123 系酸化物超伝導体の合成に成功したとあ
り,一方で,電子レンジの特性やるつぼへの試料の充填の仕方に,大きく結果が依存していると
も書かれていた[1,2]。そこで,私たちは,電子レンジの特性や試料の充填の仕方に依存しない,
より幅広い方法の確立を目的として,電子レンジを熱源として利用した Y123 系酸化物超伝導体の
合成方法について研究することにした。
2 研究の方法
前述の加藤ら論文と同じ方法を用いて Y123 系酸化物超伝導体の合成に挑戦した。30mL アルミナ
製るつぼの内側にグラスウールを詰め,その中央に酸化イットリウム,過酸化バリウム,酸化銅
をそのモル比が 0.5:2:3 になるように混合した 1g のペレット状試料と,ペレットの周りに同じ配
合の 14g の粉末試料を充填する。そして上からもグラスウールを被せ,アルミナでふたをし,こ
れを電子レンジの回転台の中心に置き,加熱を行う。その後,電子レンジの庫内で自然に室温ま
で冷却するという方法である。超伝導体になっているかの確認は,液体窒素温度に冷却した試料
に磁石を近づけ,マイスナー効果が確認できるかどうかによって行うことにした。
3 結果と考察
加藤らの論文に書かれているように出力 200W で 25 分間の加熱を行ったところ,加熱開始後 18
分を過ぎた頃より,るつぼ内の発光が確認され,25 分間加熱した試料は,全体が融解後凝固した
ような状態であった。取り出したペレット状の試料については,液体窒素による冷却後,磁石を
近づけてもマイスナー効果は確認できなかった。
論文には発光のことは書かれておらず,ここで,私たちは発光の原因と,それが及ぼす影響を
探るため,まず酸化イットリウム,過酸化バリウム,酸化銅を別々に出力 200W の電子レンジで 25
分加熱してみた。論文では温度上昇の原因は酸化銅がマイクロ波を吸収し発熱することによると
あったが,加熱後の酸化イットリウムの温度はデジタル温度計で測定したところ約 100℃,過酸化
バリウムの温度は約 120℃,酸化銅は約 200℃であり,いずれも発光は確認できなかった。また,
過酸化バリウムの代わりに,電気炉で焼結するときに一般的に用いられている,酸化イットリウ
ム,酸化銅に炭酸バリウムを混合した試料を電子レンジで加熱したところ,変化は起こらなかっ
た。これらのことから,発光は,マイクロ波によって過酸化バリウムが酸化銅や酸化イットリウ
ムと反応することに起因していると考え,さらに,発光した状態の試料の表面温度をデジタル温
度計で測定してみたところ約 760℃であり,さらにそれを3分間加熱すると約 790℃まで温度は上
昇していた。そこで,私たちは,加熱時間が長すぎたことによって,試料が高温となり融解して
しまったと考えた。そして,論文の中に,超伝導体になったものは試料の表面が黒くなっており,
それよりも加熱時間が1分短ければ,試料の色は元のグレーのままであったとあることから,加
熱時間を短くしていき,発光現象が起こる前後で試料の表面が黒くなるような加熱時間が最適な
98
ポスター発表 化学 5 岡山大学
加熱時間であると考え,その時間を探すことにした。実際に,発光の起こった時間から1分刻み
に加熱時間を短縮し,試料の色の変化を確認した結果,加熱時間 15 分でわずかに発光が見られた
一方,加熱時間 14 分では試料の色に大きな変化が確認できなかったため,15 分を最適な加熱時間
とした。さらに,私たちの使用する電子レンジには,120W 相当の出力まで,その出力を連続的に
切り替えられるため,200W15 分の加熱に相当すると考えられる 120W25 分の加熱を別の試料に行っ
てみた。しかし,200W で 15 分間加熱した試料も,120W で 25 分間した試料も,加熱前の試料に比
べて色が黒色に変化しているものの,液体窒素温度によるマイスナー効果は確認できなかった。
さらに,これらの試料について岡山大学の装置を用いて交流帯磁率の温度変化を測定したところ,
従来通りの焼結法によって合成し,マイスナー効果を示す試料のような変化を確認できず,部分
的にも超伝導体になっていないことが分かった。その後も,120W による加熱時間を変化させたり,
一度電子レンジで加熱した試料を再度粉砕し,ペレット状に固めたものを,再度電子レンジで加
熱してみたりもしたが,いずれの試料もマイスナー効果や交流帯磁率の変化を観測することはで
きなかった。
成功しなかった理由を考えるため,
さらに文献を調べたところ,熱電対に
より試料の温度を測定しながら電子
レンジによる加熱を行った結果,800
℃10 分間の加熱により Y123 系酸化物
超伝導体の合成に成功したという文
献を見つけた[3]。発光現象が起こっ
たときの試料の温度が約 760℃であっ
たことから,200W15 分の加熱では加熱
時間の不足であった可能性も考えら
れるため,次に,200W で加熱し発光現
図1
1次コイルに5V85Hzの交流電圧を加
えたときに誘導される2次コイルの電圧
象が起こった後の試料を,その発光が
わずかに続くように,電子レンジの出力を手動で切り替えながら,10 分間の加熱を行ってみた。
できあがった試料はこれまでと同様に黒く変色しており,マイスナー効果の確認はできなかった
ものの,交流帯磁率の測定では,Y123 系酸化物超伝導体の転移温度である 90K 付近で,わずかな
変化が見られ(図1),私たちの実験では初めて,部分的にでも超伝導体が合成できている可能
性が得られた。
4 今後の展望について
現在,私たちは電子レンジ内の試料の温度が直接観測できるように,電子レンジを加工してお
り,電子レンジ内の試料の温度測定が可能になれば,詳細な加熱条件の決定と,電子レンジの特
性や試料の充填方法に対する依存性が明らかになると考えている。そしてその結果をもとにすれ
ば,本研究の目的である,電子レンジを熱源に用いたより幅広い合成方法の確立が可能であると
考えている。
【参考文献】
[1]加藤雅恒,榊原健二,小池洋二:固体物理 33(1998)p.923
[2]加藤雅恒,榊原健二,小池洋二:表面科学 20 (1999) p.737
[3]滝沢辰洋,貫井啓介,松瀬丈浩,内藤勝之:第 3 回マイクロ波効果・応用シンポジウム
(2003)p.138
<講座担当教員のコメント>
身近なものを用いて,最先端の科学へアプローチを行っている点は評価できる。現段階では他
の研究者の追試であるが,さらに研究を重ね,オリジナリティーのある発見ができることを期待
している。
99
ポスター発表 動物系 1 愛媛大学
河川性魚類の種多様性
道内 真輝(愛媛大学附属高等学校 3年)
担当教員:井上 幹生(愛媛大学理学部)
◇研究の背景
地球には、私たちヒトを含めて、ゾウ、メダカ、カブトムシ、大腸菌など多くの生物が生きて
いる。地球上に最初の生命が誕生した40億年前から現在まで、様々に進化をし、お互いに直接的
もしくは間接的に関わりをもって今日に至っている。近年「生物多様性」という言葉がよく用い
られるようになった。生物多様性とは、単に生物の種類が多いというだけを意味してはおらず、
この長い歴史と、生き物の相互のつながりも示す言葉である。この生物多様性には、様々な生物
の相互作用によって構成される、様々な生態系が存在しているという「生態系の多様性」、様々
な生物の種類が存在するという「種の多様性」、種は同じでもその個体がもっている遺伝子が異
なるという「遺伝的多様性」という3つの階層がある。その中で私は、頻繁に採集を行っている
河川性魚類の種多様性について調べることにした。
河川性魚類について種多様性を研究しようとするとき、幾つもの河川に何度も出向き、上流か
ら下流まで多くの調査地で一定時間、魚を採集するところから始まる。しかし、そのようなこと
をしていては、データを集めるだけで多くを割かなければならなくなる。そこで、今回は国土交
通省の河川環境データベース(http://www3.river.go.jp/)に公開されている、河川とそこに生
息する魚種のデータを利用して研究をすることにした。
◇研究の目的
四国8河川の淡水魚の種多様性を把握すると共に、多様性の維持機構について考察する。
◇研究の方法
研究対象は四国の一級河川、吉野川、渡川(四万十川)、仁淀川、肱川、那賀川、物部川、重
信川、土器川の8河川とした。これらの河川の、河川環境データベースのデータから、流域の全
魚種数の他、調査地点ごとに淡水魚か汽水魚か、回遊するかしないか、流水中に生息するか止水
域に生息するか、在来種か移入種かに分けた。さらに河川の流域面積、調査地点の河口からの距
離との関係を求めてグラフし、パターンを抽出した。最後に、そのパターンが生じるメカニズム
を既存の文献から理解し、研究対象とした四国地方の河川の魚類についての種多様性について考
察した。
なお種多様性には階層性というものがあり、3種類の多様度指数があるが、その中のγ多様性
(異なった生息地を含む1河川の全生息地に見られた全種数)とα多様性(1つの河川における
1つの生息地内の種数)を求めた。
◇結果
γ多様性は、流域面積が広くなればなるほど高
くなる傾向が見られた(図1)。在来魚種数、移
入魚種数、非回遊魚種数、止水生息魚種数につい
ても同様に、流域面積の増加にともなって増加す
る傾向が見られた。回遊魚種数を除く全てにおい
て、流域面積(2270km2)が2番目に広い渡川の
み、種数が小さい値を示し、直線的な関係から離
れていた。回遊魚種数については、他に比べて流
域面積との強い正の相関が見られなかった(図
2)。
100
図1 流域面積とγ多様性の関係。
ポスター発表 動物系 1 愛媛大学
図3 重信川の河口からの距離とα多様
性の関係。
図2 流域面積と回遊魚種数の関係。
学校の近くを流れる重信川においては、河口からの距離が大きくなるほど、α多様性、在来魚
種数、移入魚種数、流水生息魚種数、止水生息魚種数、回遊魚種数、非回遊魚種数は小さくなる
傾向が見られた(例:α多様性 図3)。しかし、吉野川では距離と共に種数が増加するなど、
河川によって異なる傾向が見られるものもあった。
◇考察
島に生息する生物種数の決定過程を説明したMacArthurとWilson(1967)の島の生物地理学理論
によると、面積が大きい島ほど絶滅率(単位時間あたりの絶滅種数)が低くなるため、生息種数
は多くなるとされている。また同時に、大陸から近い島ほど、大陸からの移住率(単位時間あた
りの移住種数)が高くなるため、種数は多くなるとされている。淡水魚にとっては、河川は分水
嶺によって囲まれた島とみなすことができる。今回、概して、流域面積が大きな河川ほど種数が
多くなる傾向が見られたことは、島の生物学理論が河川性魚類についても当てはまることを示し
ている。流域面積と回遊魚種数にのみ、強い相関が見られなかったことは、回遊魚が海を介して
他流域に容易に移住することができることと関係しているのかもしれない。渡川で、流域面積の
大きさに比べて種数が低かったのは、渡川での調査地点の偏りによるものではないかと思われる。
重信川をはじめとする多くの河川では、河口からの距離が大きいほど、α多様性が小さくなっ
た。これは、河川では上流から下流に向かって流量が増し、流路幅や水深が大きくなり、生息場
所が多様になること、回遊魚種数が河口ほど多いことが影響していると考えられる。しかし、中
には重信川とは異なるパターンの河川も存在した。その理由については、まだ解析の途中で明確
な結論に達していない。これからも解析を続け、河川性魚類の多様性維持機構について明らかに
していきたい。
◇主要参考文献
MacArthur,R.H. & Wilson,E.O. 1967. The theory of island biogeography. 203p.Princeton
University Press, New Jersey.
宮下直・野田隆史.群集生態学.187p. 東京大学出版会
水野信彦、御勢久右衛門著.河川の生態学.247p. 築地書館
<講座担当教員のコメント>
膨大で、書式もそれほど整っていないデータベースから粘り強く、丁寧に情報を整理している
様子に驚かされた。手本とする先行研究がない中、集計方法を自ら考え、試行錯誤しながら、よ
くまとめている。これからが解析の本番である。集計結果と、彼が取り組む姿勢から、今後に期
待が持てる。
101
ポスター発表 動物系 2
静岡大学理学部
古代生物を診てみよう
~現生オウムガイ類が持つ古生物の秘密~
金指
木戸
莉乃(静岡県立富岳館高等学校
美怜(静岡県立富岳館高等学校
担当教員:鈴木雄太郎
3 年)
3 年)
◇研究の目的・意義
古代の海で大繁栄した外殻性頭足類のアンモナイトやオウム
ガイ類。大繁栄の理由を探るには彼らの振る舞いをより深く理
解する必要があります。その鍵は、化石に保存される殻“形”
に隠されています。しかし、化石の殻の形には、生物の振る舞
いと密接に関係する神経や筋肉などの情報が保存されることが
ないため、化石生物の振る舞いに関する先行研究は限られてい
ます。そこで、私たちは、外殻性頭足類の「生きている化石」
である現生オウムガイを題材に、バイオメカニクスの観点から
殻の形に秘められた“動き”を理解することに挑戦しました。
◇研究の方法・プロセス
現生オウムガイが化石外殻性頭足類のモデル生物として適しているかを検証するために、
(1)化石アンモナイトと現生オウムガイの殻形態について殻の正中断面の詳細な比較観察を
行いました(写真1)。次に、現生オウムガイの水中での生息姿勢や遊泳様式は、体の重心-
浮心間の距離や 2 点の作用によって決定されるため、(2)現生オウムガイの殻を用いた重心と
浮心の実測特定を行いました。さらに、世界で唯一現生オウムガイの飼育・繁殖に成功してい
る鳥羽水族館の飼育個体などを用いて、(3)現生オウムガイの遊泳様式の動作解析を行うこと
で明らかにしました。最後に、(1)、(2)、(3)の結果に基づき、現生オウムガイの殻形態
-動きの関係性を解明しました。
◇結果と考察
(1) 現生オウムガイと化石外殻性頭足類の比較
現生オウムガイと化石アンモナイトの殻の正中断面を
観察したところ、両者とも巻いた殻の中に共通の構造を
持つことが確認できました(初期室:複数枚の隔壁:軟
体部の入る住房など;写真
2)。このことから、現生オ
ウムガイは化石外殻性頭足
類のモデル生物として適し
ていると言えます。また、
その一方で、化石外殻性頭
足類の殻は、巻の強さや装飾が様々であることから、化石外殻性
頭足類の振る舞いにはバラエティがあったと推測できます。
102
ポスター発表 動物系 2
静岡大学理学部
(2) 重心と浮心の実測
三次元的な形態をもつ生物は体内の密
度が異なるため、重心の特定は困難です。
そのため、過去の実測研究は 1 例のみで
す。そこで、私たちは、簡便かつ正確性
の高い新たな実測法に則り、3 個体の重
心と浮心を特定しました(写真 3)。その
結果、現生オウムガイの生息姿勢を復元
することができました(図1)。加えて、遊泳様式を決定する 2 点間の距離が平均4mm であるこ
とを明らかにしました。
(3) 遊泳様式の動作解析
遊泳の様子を撮影した動画
を観察した結果、現生オウムガイの遊泳は回転(ピ
ッチ)運動と前後左右への移動からなっていること
が分かりました(写真 4)。また、動画をスナップシ
ョットに変換して動作解析を行ったところ、回転運
動は 1.14 回/秒、移動距離は 1.68cm/秒、回転角
度は 0~6°であることが明らかになりました。この
結果は、重心と浮心が平均4㎜離れた現生オウムガ
イの殻形態は、姿勢が安定し、ゆっくりとした遊泳
様式をとることを意味しま
す。そこで、今回の研究で
導き出された殻形態-振る
舞いの関係性に基づき、化
石アンモナイトの4種類の
形態の生息姿勢と姿勢の安
定性を考察しました(図2)。
◇今後の展望
アンモナイト化石の形態
について、今回開発した実
測法を用いることでより正確な重心と浮心の位置を明らかにすることが今後の課題です。
◇主要参考文献
1) 東 明, 1980, 生物の泳法 バクテリアから人の泳ぎまで,講談社.
2) Barskov, I S. et al., 2008, Paleontological Journal, 42 (11), 1167-1286.
3) 岡本 隆,2006,アンモナイトの理論形態学,遺伝,60 (4),27-31.
4) 重田 康成,2001,アンモナイト学,東海大学出版会.
5) Trueman, A. E., 1941, Quarterly journal of the Geological Society of London, 96, 249-256.
<講座担当教員のコメント>
絶滅生物の行動の理解には、多面的な検討結果を矛盾なく統合する水平的思考が求められま
す。このように慣れていない研究の組み立てに果敢に取り組み、異なる切り口からの結果をう
まくまとめてくれました。
103
ポスター発表 動物系 3
筑波大学
森林性ジャコウアゲハの幼虫における体色変化
~森林性個体でも体色変化を起こせるのか?~
宇佐美 賢祐(聖光学院高等学校 1 年)
担当教員:町田 龍一郎 教授・福井 眞生子 研究員
■背
景
ジャコウアゲハ Byasa alcinous はアゲハ
チョウ科に属し,食草はウマノスズクサ科の
ウマノスズクサ属 Aristolochia とオオバウマ
ノスズクサ属 Isotrema である.
ウマノスズクサ属は明るい草原に多いた
め,ウマノスズクサ属を利用する個体群は明
るい草原に生息する.(以降,草原性個体群
と呼称する)
一方,オオバウマノスズクサ属は暗い森林
に多いため,オオバウマノスズクサ属を利用
する個体群は暗い森林に生息する.(以降,
森林性個体群と呼称する)
■目 的
ジャコウアゲハの幼虫の体色は基本的に黒色であるが,これまでの研究から,草原性個体群
(埼玉県新座市産)の幼虫は高温下において体色が赤褐色となる事が明らかとなった.これは,
熱輻射による過度な体温上昇を避けるためと理解することができる.
一方,野外における観察により、森林性個体群の幼虫の体色は全齢を通じ黒いままであり,
草原性で見られるような体色変化は起こらない.すなわち,体色を変化させる能力は,高温と
なる草原環境への適応の結果である可能性があると考えた.このことを検証するため,本実験
では,涼しい環境に生息する森林性個体群においても同様の体色変化が見られるのかを実験に
より確かめた.
104
ポスター発表 動物系 3
■方
筑波大学
法
静岡県御殿場市,兵庫県六甲山,沖縄県石垣島の 3 箇所から森林性の 2 齢幼虫を採集,下記の
2 種類の温度条件で飼育した.また,埼玉県新座市,東京都調布市から草原性の 2 齢幼虫を採
集,同様の条件で飼育し,体色変化を再検証した.餌は,ウマノスズクサを与えた.
実 験 1:1 日のうち 13 時間を約 36℃,残り 11 時間を約 25℃で飼育
実 験 2:対照実験として約 25℃恒温で飼育(六甲産を除く)
実験で用いた個体数
実験1
実験2
■結
草 原 性
新座
調布
40 頭 29 頭
5頭
16 頭
森 林 性
御殿場 六甲
石垣
25 頭 12 頭 25 頭
5頭
0頭
14 頭
果
実験 1
草原性の新座産・調布産には顕著な体色変化が見られたものの,森林性の御殿場産・六甲産
は体色の変化は少なかった.また,石垣産では 2 令から亜終令まで体色変化はほとんど見られ
なかった.
実験 2
森林性,草原性を問わず体色には変化は見られず,生育期間を通して体色は黒色のままであ
った.
■考
察
草原性・森林性個体群の間で,成虫の形態にはほとんど差が見られないものの,幼虫の体色
変化には程度に差があり,また,その他の生態(休眠率,卵サイズ,終齢時の齢数など)にも
様々な違いが見られる.これらのことから,草原性・森林性の間には,遺伝的な差異がある可
能性が示唆される.ジャコウアゲハは飛翔力が弱く,草原性個体と森林性個体が交雑する機会
が少ない.このことは,遺伝的差異を広げる要因となると考えられる.
食草のウマノスズクサ類は祖先的には森林性であるとの指摘がある.もしそうなら,ウマノ
スズクサの草原への進出に伴い,本来森林に生息していたジャコウアゲハにも草原に移り住む
ものがあらわれ(草原性個体群),草原の環境に適応すべく顕著な体色変化による体温のコント
ロールを発達させたという仮説も成り立つ.以上のことは共進化の観点から非常に興味深く,
今後の研究でさらに追究していきたい.
■ 今後の展望
草原性と森林性個体群の遺伝的な差異の存在を明らかにするために両個体群の交配実験を行
おうと考えている.
宇佐美くんは、自然観察からの「?」を大事にし、鋭敏な感性に
より問題点を探り、作業仮説を立て、それを忍耐強く実行することができています。高校生で
ありながら研究者としての重要な資質を既に培っており、将来が非常に嘱望されます。
<講座担当教員のコメント>
105
ポスター発表 動物系 4
筑波大学
モジホコリの変形体が生きていく戦略とは
吉橋 佑馬(神戸市立東落合中学校 3年)
担当教員:出川 洋介
◇これまでの研究の概要
モジホコリの変形体に様々な食品を与えると、ある種の食品には近づくことができず阻止円を作る。
この現象に興味をもち、2005 年から阻止円形成要因を研究し、塩分等いくつかの要因があることを
明らかにしてきた。その過程でふしぎだったのは、塩分の含まれていない納豆に対して阻止円を形
成することだった。そこで一昨年、納豆の阻止円形成要因を調べた結果、変形体は納豆特有のにお
い(揮発性物質)に反応していることがわかった。このにおい成分のうちイソ酪酸とジピコリン酸
といった酸性物質が特に阻止円形成に関与することがわかった。
(図1 納豆・味噌・梅干に対する阻止円) (図2 イソ酪酸・ジピコリン酸の阻止円)
阻止円
(納 豆)
(味 噌)
(0.3%イソ酪酸)
(梅 干)
(0.3%ジピコリン酸)
◇研究の目的
これまでの研究を発展させ、阻止円形成に関与する酸性の条件と、変形体と微生物との関係を明ら
かにし、変形菌が自然界で生きていく戦略を探る。
<検証1:変形体に影響を与える酸性の条件>
◇仮説
①酸の濃度が関与している。
②濃度以外の要因が関与している。
[仮説①の検証]
◇実験方法と結果
1)
「酸の濃度勾配と阻止円形成の関係」
<実験方法>
<結果>
培地上に 10%穀物酢、
0.3%酢酸 10%
穀物酢、0.3%酢酸の濃度勾配を作り
メチルオレンジ入り寒天培地と比較
し、阻止円形成部位の pH を推定
阻止円は pH3~4 の酸性で形成され
るが、薄い酸には反応しない。
→ 一定濃度の酸が関係
2)
「酸性雨(自然での酸性環境)は変形体に影響するか」
酸性雨に含まれる硫酸と硝酸(酸性
酸性雨の濃度では顕著な変化なし。
雨濃度、その 10 倍、100 倍、500 倍、
その 5000 倍の酸の濃度で反応。
1000 倍、5000 倍の濃度)に対する変
→酸性雨には耐性がありそう。だが、
形体の反応を観察
反応には一定濃度の酸が関係。
[仮説②の検証]
3)
「なぜ、同濃度のイソ酪酸とイソ吉草酸に対する反応が違うのか」
◇目的 同濃度のイソ酪酸とイソ吉草酸(いずれも低級分岐脂肪酸)に対する反応の違いを、
分子量の違いに着目して究明。
106
ポスター発表 動物系 4
筑波大学
◇方法 構造が似ていて分子量の異なる 2 種の酸(酪酸、プロピオン酸)に対する反応を観察。
◇結果 どちらにも反応。→分子量より酸の濃度が関係。酸に共通する要因(腐食性)が重要。
(表1 イソ酪酸・イソ吉草酸の酸度、分子量、分子式)
酸度(pKa) 分子量
分子式
4.8
88.11
CH3(CH3)CH-COOH
イソ酪酸
4.8
102.05
CH3(CH3)CH-CH2—COOH
イソ吉草酸
(表2 酪酸・プロピオン酸の分子量、構造式)
酪酸 CH3(CH2)2 COOH
プロピオン酸 CH3CH2C(=O)OH
分子量 88.11
分子量74.08
Pka4.8
Pka4.8
OH
OH
<検証2:微生物との関係について>
◇検証した微生物:カビ(ヒゲカビ、クサレケカビ、キコウジカビ、アオカビ)、細菌(枯草菌)
1)
「5 種の微生物と変形体との関係(培地の違いによる反応の検証)」
◇方法 ポテトデキストロース培地、コーンミール寒天培地、麦芽エクストラクト培地で
5 種の微生物を 2 日間培養した後、変形体を投入。対峙培養し観察。
◇結果 いずれの培地でも移植後 2 日の時間差では、変形体の方がカビや細菌よりも強い。
2)
「微生物の酸性環境に対する反応」
①変形体が反応しない酸性雨の酸濃度
→どの微生物も反応せず、ほとんど影響なく生育
②変形体が反応する酸性雨より強い酸濃度→どの微生物も反応せず、ほとんど影響なく生育
◇考察
阻止円の形成には一定濃度の酸(pH3~4)が関わることがわかった。では、同濃度のイソ酪酸と
イソ吉草酸への反応はなぜ違うのか。イソ酪酸の「腐食性」が関係している可能性がある。細胞壁
のない変形体には、腐食性は危険要因だ。同じ理由で酪酸やプロピオン酸にも阻止円を形成したと
考えられる。また、今回の条件下では変形菌が他の微生物より強かったが、細胞壁を持つ微生物は
変形菌よりも酸濃度に耐性があった。温度、湿度、土壌の性質など様々な環境要因についても比較
が必要だが、変形体は「動く」という特質を活かし、他の微生物が勢力を増す前に、素早く動いて
攻撃するのだろう。細胞壁で身を守るのではなく、
「動く」ことで危険から逃げ、より良い環境に
移動し成長することを変形菌は戦略として選んだと言える。
◇今後の展望
他の微生物との比較は研究を始めたばかりなので、今後、様々な条件の検証が不可欠である。シャ
ーレ内という特殊な環境でなく、より自然に近い状態での比較観察が必要と考える。
◇参照ホームページ
○富山県立大学川上研究室「酸性雨の分析と評価」http://www.pu-toyama.ac.jp/ES/kawalab/ac_anal.htm
○ミツカン HP「金のつぶ」http://www.mizkan.cojp/customer/qa/cid_deatil_000059.html
<講座担当教員のコメント>
変形体の摂食行動の観察から、阻止円形成の要因に注目し、塩分とそれ以外の要因について
ねばり強く追求をして新知見を得ることができました。酸性雨の影響や、他の微生物との関わりに
ついては、もう少し実験条件を工夫して、更に研究を深めてくれることを期待しています。
107
ポスター発表 動物系 5
埼玉大学
ウニの割球解離・接着実験
後藤 優佳(雙葉中学校 1年)
担当教員:日比野 拓(埼玉大学教育学部)
◇研究の目的・意義
ウニを受精させた後、2細胞期・4細胞期時に細胞(割球)を解離すると、それぞれの割球は
独立して発生し、サイズは小さいが正常なプルテウス幼生になることが知られている(1, 2)。では、
一度解離したウニの割球を他の個体の割球とくっつけ、元通りにすることができるのだろうか?
大量に割球をくっつけた場合はどのように成長するのか?そもそも一度解離した割球は異なる個
体と接着して生きていられるのだろうか?これを知るためにバフンウニを用いて研究を行った。
◇研究の方法・プロセス
実験は以下の 5 段階を行った。
①バフンウニから卵と精子を取り出し、受精させた。
②ATA 海水に受精卵を入れ、フィルターにとおし受精膜を取り除いた。
③4 細胞期、16 細胞期、64 細胞期、桑実胚期、胞胚期に胚を Ca2+Free 海水で2回洗浄後、上澄み
を捨て Ca2+Mg2+Free 海水を入れ、卵膜を除去した。
④胚を軽く振り、割球を解離した。ばらばらになっていることを実体顕微鏡で確認した。
⑤割球を飼育用海水に移した後、手回し遠心機で割球同士をくっつけ、放置(30~40 分間)した。
その後寒天シャーレに胚を移し、割球を接着させた。
◇結果と考察
割球解離・接着を行った発生段階別
①4 細胞期の結果(図1を参照)
a 接着した後も発生が進んだ。
b 完全に球(最初の状態)の形には接着せず、互いに部分的に接着した状態で成長した。
c 骨の形が異常だった。
d 色素細胞が正常胚に比べると多かった。
4 細胞期の考察
・a,b より、4細胞期の時点では他の個体の細胞と接着しても成長し続けられると考えられる。
・c,d より、細胞同士の大量・複雑な形の接着のため小割球側からの誘導が正常に行われなか
ったと考えられる。
②16 細胞期と 64 細胞期の結果
e16 細胞期:永久胞胚、不完全なプルテウス幼生
f64 細胞期:永久胞胚
16 細胞期と 64 細胞期の考察
大割球+中割球で接着したと考えられる。なお、小割球が接着しなかったのは割球の重さが足り
ず遠心で沈まなかったためと考えられる。
③桑実胚期、胞胚期の結果
g 桑実胚期:接着していなかった。
h 胞胚期:接着したが、発生は進まなかった。
108
ポスター発表 動物系 5
埼玉大学
桑実胚期、胞胚期の考察
・g は一つ一つの細胞の重さが足りず遠心で沈まなかったためと考えられる。
・h より、胞胚期は、Ⅰ細胞一つ一つが、分離すると死んでしまう時期。
Ⅱ違う個体の細胞と接着すると死んでしまう時期。
Ⅲ接着するときに必要な細胞が足りないまま接着し、死んでしまったと考えられる。
◇今後の展望
・割球自身の重さを利用した今回の接着方法だと、対象となる割球が小さく軽くなった場合に
接着できなくなるため、割球が軽くなっても接着させられる新たな実験方法の確立が必要である。
・部分的にではなく、完全に他の個体の割球と接着することがあるのか
・割球解離・接着したウニのさらなる成長の様子
・他のウニ(バフンウニ以外)との比較
についても今後調べてみたいと思う。
◇主要参考文献
(1)東京書籍 生物学 p76~85
p99~101
(2)東京書籍 ダイナミックワイド図説生物 p46~49
図 1(左)4 細胞期時に割球解離・接着を行ったウニ胚 受精後 1 日目
(右)4 細胞期時に割球解離・接着を行ったウニ胚 受精後 3 日目
<講座担当教員のコメント>
実験の前に結果の予想を立てていたこと、予想と異なる結果が出た後、なぜそのような結果
がでたのか、自分で考えてアイデアを出したことは高く評価できる。専門的にみてしっかりとし
た考察ができている。
109
ポスター発表 植物系 1
~組織培養法によるイチョウ(Ginkgo biloba L.)精子誘導の研究
福井大学
Ⅱ~
発表者:丸山 真未(2 年)1・大宮 早織(2 年)2
高木 里菜(3 年)1・竹原 朋子(3年)1・朱 劼琪(2 年)1・福島 詩帆(2 年)1
野上 優水(2 年)1・竹田 空善(2 年)2・高島 万莉子(3 年)3・長谷川 文香(3 年)3福井県立藤島
高等学校1 福井県立高志高等学校2 私立北陸高等学校3
担当教員:前田 桝夫(福井大学教育地域科学部教授・生命科学複合研究教育センター副センター長)
◇ 研究の背景(きっかけ)
植物学上の大発見と言われる『イチョウが精子で受精する』ことを発見した平瀬作五郎は福
井市出身で福井県立藤島高等学校の大先輩である。藤島高校では「先輩の業績に学ぶ」と言う
ことがきっかけで、福井大学の研究室にて担当教員の指導を仰ぎ、本研究に取り組んだ。そし
てその結果、イチョウの研究にて日本学生科学賞を受賞した。高校生物においてシダ植物は胞
子からの配偶体による精子で受精し、裸子植物は花粉で受粉・受精すると習う。しかし『裸子
植物であるイチョウがなぜシダ植物と同じように精子により受精をするのか?』という矛盾が
生じた。本研究ではこのような植物の生殖進化まで視点を広げて研究を進めた。そして未来の
科学者養成講座のラボ1インテンシブコースの研究課題として藤島高校生以外の高校生とと
もに取り組まれた。
◇ 研究の目的
精母細胞から分裂、成熟精子への精子形成過程の時間が極めて短いため成熟精子の観察は大
変困難である。よって本研究では次の 3 つの目的を設定し研究を行う。
1.
成熟精子を多数観察する方法の確立と成熟精子の単離法の確立
2.
低温処理による精母細胞の分裂延伸処理
3.
花粉からの直接的な精子の誘導
◇ 研究の方法
1.
成熟精子を多数観察する方法の確立 2. 低温処理による精母細胞の分裂延伸処理
自然界でのイチョウの精子は同一固体雌株では一斉に成熟し、極めて短時間しか存在しない。
そのため①基準樹の設定。②分裂前の精母細胞や未熟精子を取り出して培養。③多数観察でき
る方法の工夫。④酵素処理により精子母細胞や精子を単離する。という 4 つの研究を行う。
3.
花粉からの直接的な精子の誘導
A) 福井大学構内のイチョウ(雄株)から花粉を採取し、4℃にて保存(4 月)
B) 雌株珠心内の花粉の成熟度合いを定期的に観察(4 月~8 月)
C) ショ糖液(0~0.3 M)を含む培地にて採取花粉を無菌培養(9 月~12 月)
1
110
ポスター発表 植物系 1
福井大学
◇研究の結果
1.
成熟精子を多数観察する方法の確立
この方法により未発達な花粉を継続して培養・発生分化し、成熟精子への観察が可能となる。
2.
低温処理による精母細胞の分裂延伸処理
花粉管から自然に遊離した精子を観察することができた。さらに成熟した花粉管の酵素処理
により精母細胞、成熟精子をマイクロピペットにより顕微鏡下で単離した。また、種子を 25℃
~15℃保存することにより、1~2 週間精子形成を遅らせることができた。
図 1 花粉管中の 2 個の精子
3.
図 2 単離花粉管
図 3 酵素処理による単離精子
保存花粉からの直接的な精子の誘導
歳暮細胞を持つ成熟花粉管への発生分化を誘導することにはいまだ至っていない。
◇考察
今回の結果から、単離精子をもちいて細胞・生理学的研究、微細な構造についてシダ植
物の精子と比較形態学的な研究の展開が可能となった。
精子誘導にいたらなかった原因は、無菌培養による花粉発芽と成長分化が珠孔内での花
粉分化形態と異なるためだと考えられる。今後さらなる培養条件の検討が必要である。
◇主要参考文献
平瀬作五郎 いてふノ精虫ニ就テ 植物學雑誌 10,325-328(1896)、西川誠著 『たねの生い立ち』
岩波科学の本 (1972)、堀 輝三 イチョウの精子-その観察法- 遺伝 50,21-26(1996)、堀 輝
三 平瀬作五郎のイチョウ精子発見から百年 ミクロスコピア 13、4-10(1996)
<講座担当教員のコメント>
本研究は今日の最先端の生命科学の手段や機器を使用した研究ではない。しかしその成果は
植物学の新しい知見に十分貢献ができる内容を秘めているものである。
2
111
ポスター発表 植物系 2
東北大学
ダーウィンが見た「動く植物」の仕組みを探ろう
加藤 巽(東北学院高等学校 3年)
門間 貴大(宮城県仙台第二高等学校 2年)
担当教員:宮沢 豊助教(高橋秀幸教授)
◇研究の目的・意義
植物は外界からの様々な刺激を受け取り、それに反応する。その反応の中に重力応答がある。
重力応答とは、重力を感知して、植物にとってより有利なように成長しようとする性質である。
また、回旋転頭運動は植物が成長する際に茎頂で見られる円運動のことである。今回はこの 2 つ
の性質に着目し、つるを巻く普通のアサガオ(Violet)と、シダレアサガオ(weeping)と呼ばれるつ
るを巻かない突然変異体を用いて植物の回旋転頭運動における重力感知の重要さを研究した。
◇研究の方法・プロセス
① 重力屈性の観察
2 系統のアサガオの芽生えを暗箱の中で横に倒し、時間ごとに屈曲角度を観察した。
② 回旋転頭運動の観察
2系統のアサガオの運動を約 16 時間撮影し、その画像を任意の座標にプロットした。
③ 内皮細胞の観察
マイクロスライサーを用いて、切片を作成し、染色して顕微鏡で観察した。
④ PCR による観察
2系統のアサガオの DNA を PCR にかけ、電気泳動と制限酵素処理を行い、遺伝子の違
いを観察した。
◇結果と考察
①Violet は重力屈性が見られたが、weeping では見られなかった。
図 1 時間経過による胚軸の角度変化
②Violet は回旋転頭運動が見られ、weeping では見られなかった。
図2
2 種類のアサガオの運動の様子(任意の座標にプロット)
112
ポスター発表 植物系 2
東北大学
③Violet には重力応答に必要な内皮細胞が見られたが、weeping には見られなかった。
図 3 Violet の切片
図 4 weeping の切片
黒い粒子が見られ
る細胞が内皮細胞
である。
④ 遺伝子に違いが見られた。
図 5 電気泳動の結果
バンドが 1 本のものは Violet 型 PnSCR 遺伝子、
バンドが複数本になっているものが weeping 型 PnSCR
遺伝子である。中央は DNA マーカー。
実験①、③より、weeping は重力応答に必要な内皮細胞が存在しないために、重力応答ができな
いと分かる。また実験②では、重力応答のある Violet は回旋転頭運動が見られたが、重力応答の
ない weeping では見られなかった。以上より回旋転頭運動には重力応答が必要と考えられる。さ
らに実験④から、これらの違いは特定の遺伝子の違いによって生じていると考えられる。
◇今後の展望
今回の実験では、主に重力応答と回旋転頭運動を重力下で観察したが、宇宙のような微小重力
下での実験についてはまだ詳しいことが分かっていない。植物を種の状態から宇宙で育てる実験
を行えば、正常に回旋転頭運動を伴う成長することが可能なのかということも将来的に研究すべ
き課題と考えられる。また、実験で用いた weeping は人の手によって育てられるが、野生の状況
下におかれた場合生存できるかどうかは不明である。おそらく、葉が高い所に到達できないため
に光合成の効率が下がり、自然界での生存は困難であると考えられる。今後は回旋転頭運動のメ
カニズム、生物学的意義を更に研究していく必要があると考えられる。
◇主要参考文献
『植物の運動力』(チャールズ・ダーウィン原著 渡辺仁訳)
Hatakeda et al. (2003) Gravitropic response plays an important role in the nutational
movements of the shoots of Pharbitis nil and Arabidopsis thaliana. Physiol. Plant 118:
464-473
Kitazawa et al. (2005) Shoot circumnutation and winding movements require gravisensing
cells. PNAS 102: 18742-18747
<講座担当教員のコメント>
高校生諸君には、100 年以上前から未だに結論の出ていない「植物の回旋転頭運動と重力応答
の関係の解明」という課題に取り組んでもらった。本課題は実験の目新しさよりも、現象を観察
し、それを科学的に記述し、得られた結果からいかに論理的な結論を導くかという視点を重視し
た課題である。生徒たちは積極的に実験し、論理的に考察して結論を導き出した。時に私たちを
ハッとさせる本質的な質問をするなど、科学者の卵として十分な資質を有することは確かであり、
その将来に大きな期待ができる。
113
ポスター発表 植物系 3
千葉大学
セイタカアワダチソウのアレロパシー作用
櫛田 和花奈(渋谷教育学園幕張高等学校 1年)
担当教員:篠原 温(千葉大学園芸学研究科)、野村
純(教育学部)
◇研究の目的・意義
空き地に生えているセイタカアワダチソウを見てその増加の速さに驚き、その付近で他の植物が減
少していたことから、これにはセイタカアワダチソウのアレロパシー作用が関わっているのではない
かと考えて興味を持った。
また、自然に生えていて身近にあるため、化学物質を使わない除草剤として利用することができな
いかとも思い、セイタカアワダチソウのアレロパシー作用について調べることにした。
◇研究の方法・プロセス
1、サンドイッチ法
セイタカアワダチソウの根と葉を粉末にして使用。シャーレ(内径
8.5cm)に 0.5%寒天培地を作り、その際に根や葉の粉末を寒天の間にサ
ンドイッチ状に挟んだ。この寒天培地の上で種子(50 粒・レタス)を発芽
させ、発芽率と幼軸・幼根の長さを測定することでアレロパシー物質に
写真 1.サンドイッチ法
よる影響を調べた(写真 1)。今回はそれぞれのシャーレで粉末の含有率
を変え、葉と根それぞれで二回ずつ実験を行った。
2、プラントボックス法
透明のアクリル製容器を作製し、セロファンで仕切って寒天を作
り、片方にセイタカアワダチソウの根や葉の粉末を混ぜた。もう片
写真 2.プラントボックス
セロファンの仕切り
方でレタス種子 20 粒を発芽させ、発芽率と幼根・胚軸の長さを測
定した。アレロパシー物質が徐々に滲出することで濃度勾配が作ら
れるため、根や葉の粉末から距離が近いほど受ける影響が大きくな
る。また、この方法は透明の容器を利用しているので、発芽後の幼
根をそのままの状態で横から観察することも可能である(写真 2)。
◇結果
レタスを
播いた場所
1、サンドイッチ法
セイタカアワダチソウの根の含有率が 0%,0.5%,1%の場合レタスの
発芽率はそれぞれ 96%・92%・98%
であった。また、0%,1.5%,2%,4%
セイタカ
アワダチソウ
粉末を含む寒天
図 2.葉の粉末によるレタス胚軸・根の伸長抑
としたところ 96%・94%・88%・76%
であった。一方、葉を使用した実験で
は含有率が 0,0.5,1%のとき発芽率
は 98%・96%・98%・88%であり、
0%,1.5%,2%,4%での発芽率はそ
れぞれ 96%・66%・6%であった。発
横軸は寒天に対する粉末の濃度、青いグラフはレタスの胚軸、
赤いグラフはレタスの幼根の長さ(mm)
芽率については、低い濃度では顕著な
114
ポスター発表 植物系 3
千葉大学
差が認められなかったが、高い濃度では阻害されることが示された。
また、レタス幼軸および幼根の伸長に与える影響を調べたところ、セイタカアワダチソウの根、葉と
もに培地に加えなかった場合に比べ濃度が高くなるほどレタス胚軸および幼根の伸長を抑制している
ことがわかった(図 1、2)。
2、プラントボックス法
葉の粉末ではレタスの胚軸および幼根の成長抑制がはっきりと観察できたが、根の粉末では葉の粉末
ほど顕著な抑制作用は示されなかった。一方、プラントボックス法では発芽率については、試料からの
距離による差は認められず、葉、根ともに発芽阻害は検出されなかった。
図 3.プラントボックス法によるアレロパシー作用の検出
コントロール群(発芽率は 80%)
根の粉末添加(発芽率は 70%)
葉の粉末添加(発芽率は 95%)
根または葉含有寒天からの距離を順に左から並べたものである(赤はレタスの胚軸、青はレタスの幼根の長さ/mm)
◇考察
セイタカアワダチソウのアレロパシー物質は土に滲出するため、アレロパシー物質を出しているのは根
の部分と予想したが、実験の結果は葉にもアレロパシー物質が含まれていることを示した。また、発芽
抑制には成長抑制に比べ高濃度のアレロパシー物質が必要であることが示された。さらに葉には根より
強い発芽抑制作用があると考えられた。
◇今後の展望
今回の問題点として、プラントボックス法では寒天の透明度が予想より低かったためボックス側面か
らレタスの幼根の成長を観察するのが困難だったことがある。また、同法で根の粉末の実験において差
がサンドイッチ法の結果からの予測より小さい理由としてアレロパシー物質がセロファンから滲出し
難かったことが原因と考えられる。今後、装置に改良を加え再度実験を行ってみたい。また、サンドイ
ッチ法でもシャーレの数を増やして一度に様々な濃度で実験を行って比較してみたい。さらに、アレロ
パシー物質の抽出精製を試み、その作用の詳細な解析を検討したい。
私はアレロパシー物質の除草剤としての利用をめざしている。今回の結果より、比較的採取が容易で
発芽抑制作用も強い葉の部分を利用することで効率的活用ができると考えている。
◇主要参考文献
・自然と科学技術シリーズ、アレロパシー、他感物質の作用と利用、藤井義春、農文協
・アスパラガス連作障害におけるアレロパシー回避のための活性炭の利用、元木悟、西原英治、北澤裕
明、平館俊太郎、藤井義春、篠原温、園芸研、5:p437-442,2006
<講座担当教員のコメント>
中学 3 年生当時、学校の理科室の一角を借りて一人で実施したものである。アレロパシー物質を生物農
薬として有効利用するという観点でとらえた点が新しい。また、セイタカアワダチソウの葉の持つ強い
発芽抑制作用を地道な努力の中から自力で見出したことは自身の夢に近づく大きな一歩であった。
115
ポスター発表 植物系 4
愛媛大学
培養マスト細胞を用いたスギ花粉によるヒスタミン遊離
今川瑞季(済美高等学校 3 年)
羽藤真鈴(愛媛県立松山西中等教育学校 6 年)
担当教員:前山一隆(愛媛大学医学部) TA:小池宏紀(愛媛大学医学部)
◇研究の背景・目的
近年、花粉症が問題になっており多くの人がそのアレルギー症状に苦しんでいる。花粉症など
のアレルギーの原因として抗原によりマスト細胞から遊離したヒスタミンという物質が、くし
ゃみや鼻水を引き起こすことがよく知られている。従来、花粉症患者の好塩基球細胞を用いた
ヒスタミン遊離の報告はされているが、培養系マスト細胞を用いたヒスタミン遊離実験は見当
たらない。私たちはこれまで培養系マスト細胞であるラット好塩基球性白血病細胞(RBL-2H3)
を用いてジニトロフェニル化牛血清アルブミン(DNP-BSA)抗原刺激によるヒスタミン遊離実験
を行ってきた。今回新たな試みとして、RBL-2H3 細胞を用い、スギ花粉抗原の刺激によりヒス
タミン遊離が起こるかを調べ花粉症が発症する仕組みを詳細に検討したいと考えた。本実験を
行う上で、ラットをスギ花粉で感作してラット IgE 抗体作成を試みた。
図 1:RBL-2H3細胞
図 2:スギ花粉
◇研究の方法
①細胞培養
培養した 2H3 細胞に IgE 抗体を加え、一晩 37℃、CO インキュベーター内で培養し
IgE 抗体で感作した細胞を得た。
②DNP-BSA 抗原によるヒスタミン遊離
(1)
①の方法で 2H3 細胞を抗 DNP-BSA モノクローナル IgE 抗体で感作した。
(2)
2H3 細胞を PIPES 緩衝液で洗浄後、抗原として DNP-BSA を添加し37℃、30分間反応
させた。
(3)
遊離したヒスタミンをポストカラム誘導体化法を用いた HPLC-蛍光法により測定した。
③スギ花粉抗原の部分精製
(1)スギ花粉をエーテルで脂肪を除去し、重炭酸アンモニウム溶液中にて抗原タンパク質を抽
出した。
(2)抽出液から硫酸アンモニウム沈殿法を用いスギ花粉抗原(cryj1、2)を部分精製した。
(3)透析で不要な硫酸アンモニウムを取り除き 1.64 mg/ml タンパク質標品を得た。
④ラットの抗原感作
(1)
スギ花粉抗原抽出液(1ml)と水酸化アルミニウム 100 mg を混合しラットの頸部に皮下注
射した。IgE 抗体作成のため百日咳毒素を腹腔内に投与した。2 週間間隔で抗原感作を繰り
返した。
(2)
ラット尾静脈から採血し、抗体を含む血清を得た。
116
ポスター発表 植物系 4
愛媛大学
⑤スギ花粉によるヒスタミン遊離
(1)
ラット血清で 2H3 細胞を感作し①の方法で培養した。
(2)
抗原としてスギ花粉抽出標品(Cryj1, Cryj2 含有)を添加した。
(3)
②の(2)、(3)と同じ操作をし、スギ花粉によるヒスタミン遊離を測定した。
(4)
スギ花粉分画中の抗原タンパク質をポリアクリルアミドゲル電気泳動にて検出した。
◇研究の結果・考察
DNP-BSA を用いた実験では、抗原の用量を増加させることによりヒスタミン遊離反応が増加す
ることが分かった(図3)
。しかし、一定の濃度を過ぎると反応の変化は見られなくなり、反応
には限界があることも分かった。
今回の目的であるスギ花粉を用いた実験では、花粉抗原をポリアクリルアミドゲル電気泳動法
により検出することができた。 スギ花粉(x0.1)添加によりヒスタミン遊離が認められたが、
血清非存在下でも同等の遊離が認められたことから、IgE を介する反応を得ることはできなか
った。花粉が粘膜付着後に抗原タンパク質を溶出することから、IgE を介さない反応も考慮す
る必要がある。
図 3:DNP-BSA による遊離反応
図 4;スギ花粉による遊離反応
◇今後の展望
今回、新たな試みとしてラットにスギ花粉で感作したが、スギ花粉に対する力価の高い IgE 抗
体を得るまでには至らなかった。花粉飛散期の定時、空気中に飛散する花粉採集を行い保存し
ており、今後これを使い、大気中のスギ花粉飛散情報とマスト細胞からのヒスタミン遊離とを
比較し、花粉量と実際に花粉症の原因となるヒスタミンの遊離率についても実験を継続し考え
ていきたい。この仕組みを知ることにより、花粉症患者などの負担軽減のもつながり、医療現
場などにも大いに役立つと思う。
◇主要参考文献
・前山一隆
非興奮性細胞における Ca 流入機構:ラット好塩基性白血病細胞
(RBL-2H3)を用いて 愛媛医学 13:199-205(1994)
<講担当教員のコメント>
学生両名は昨年から培養マスト細胞を用いたヒスタミン遊離実験を行い、培養技術やアレルギー
の発症メカニズムを学んできた。花粉症という発展テーマに取り組み、ラット IgE 抗血清作成を
自ら試み、2-3 月に飛散スギ花粉を電気掃除機にマスクをかぶせて集めるなど、工夫を重ねてき
た。飛散スギ花粉による実験に関し今後の展開に期待している。
117
ポスター発表 生命系 1
東北大学
細胞間コミュニケーションを評価する
佐藤 耕平(秋田県立秋田南高等学校 2年)
守屋 千尋(仙台白百合学園高等学校 2年)
担当教員:珠玖 仁
【研究目的・意義】
今日では、細胞をバイオセンサーや再生医療など様々な分野で工学的に応用するために、細胞内
や細胞間で起きている現象を調査することが必要とされている。この研究のために球状の組織体ス
フェロイドを用いた三次元培養法が生体内に近い細胞機能を再現可能であるとして広く利用されて
いる一方でスフェロイドは細胞が凝集しているため、細胞機能を評価するのがむずかしいとされ、
その方法が限られている。
私たちは、このスフェロイドを形成する細胞内や細胞間でどのような現象が起きているのか調査
するため、実際にスフェロイドを作製し、細胞数や発現遺伝子について調査を行った。
【研究方法・プロセス】
① ハンギングドロップ法によるスフェロイドの作製
ヒト乳がん細胞(MCF-gt)を用いて、濃度を変えた 3 種類の細胞懸濁液(500/5000/25000
cells/ml)を作製し、これを 20μlずつディッシュのフタに滴下してドロップを作製した。
また、すばやくディッシュのフタをひっくり返し、1 週間培養を行った。
図 1 ハンギングドロップ法の図説
図 2 ドロップ内でのスフェロイド形成の様子
② スフェロイドの回収と mRNA 解析
作製されたスフェロイドを写真撮影し、そこからスフェロイドを形成する細胞数を求めた。
また、ドロップをピペットマンにより回収し、スフェロイドごと細胞溶解液に排出、破砕し
た。
この溶解液から、RNeasy キットを用いて RNA を抽出・精製した。精製した RNA から逆転写
反応を行い、mRNA から cDNA を合成した。
合成した cDNA を real-time PCR で遺伝子定量し、適切なプライマーにより、様々な生理
現象の発現に関与する PI3K(Phosphoinositide3-kinase)と、いつどの細胞においても発現量
の変わらない GAPDH(glyceraldehydes 3 phosphate dehydrogenase)の発現量を調査した。
【結果・考察】
① 細胞懸濁液の濃度とスフェロイドを形成する細胞数の関係
<結果>
細胞懸濁液の濃度が高ければ高いほど、スフェロイドを形成する細胞数は増えた。
118
ポスター発表 生命系 1
東北大学
図 3 作製されたスフェロイドの画像
② スフェロイドを形成する細胞数と遺伝子発現量の関係
<結果>
PI3K・GAPDH ともに、細胞数と遺伝子発現量の間に相関を得ることができなかった。また、
すべてのサンプルに対して、PI3K と GAPDH の遺伝子発現量の比はほぼ一定であり、GAPDH の
発現量が PI3K に対して多かった。
<考察>
このような結果になった可能性が 3 つ考えられる。
1. スフェロイドの回収に失敗した
2. 操作中に RNA サンプルが分解した
3. そもそも、スフェロイドを形成する細胞数と遺伝子発現量との間に相関はない
1 と 2 については、PI3K と GAPDH の発現量の比がほぼ一定であることから、これらが原因
である可能性が高いと考えられる。3 については、同様の手順で数回実験を繰り返し、類似し
たデータを得られるかどうか検証する必要があると考える。
【今後の展望】
今回、三次元培養したスフェロイドを用いて実験を行ったが、二次元培養をした細胞を用いた実験を同
様の手順で行う必要があると考える。また、同様の実験を数回繰り返し、実験データをより得る必要があ
る。
この他にも、別の遺伝子についての調査や、細胞内や細胞間で起きていることをより反映する遺伝子の
探求を行い、今回用いた遺伝子と比較したいと考える。
【参考文献】
(1) H. Liu, D. C. Radisky, F. Wang, and M. J. Bissell, Polarity and proliferation are controlled
by distinct signaling pathways downstream of PI3-kinase in breast epithelial tumor cells. J. Cell
Biol., 164, 603-612 (20004). (2) Y. Torisawa, A. Takagi, H. Shiku, T. Yasukawa, T. Matsue, A
multicellular spheroid-based drug sensitivity test by scanning electrochemical microscopy (SECM).
Oncology Reports, 13(6), 1107-1112, (2005).
<講座担当教員のコメント>
スフェロイドは数千個の細胞により構成されるため、遺伝子発現が細胞個々の場所・環境により影響を受
けることが予想された。スフェロイドのサイズを変化させることにより、スフェロイドを構成する細胞
数・内部の酸素濃度および栄養供給状態に違いが表れるよう実験を設計した。ハンギングドロップ法・顕
微鏡観察下のスフェロイド回収・逆転写反応・PCR など、比較的煩雑な実験手技であるが、皆が力を合わ
せて根気よく実習に取り組むことができた。
119
ポスター発表 生命系 2
九州大学
記憶と学習の関係、神経伝達の仕組み
小田原 冬季(博多高等学校特別進学科 2年)
担当教員:杉山 博之先生
1.研究の背景
私は今まで、記憶や学習は一般的な意味では分かっていたが、神経伝達については名前すら聞い
たことがなく、神経伝達と記憶の関係も考えたこともなかった。しかし、今回エクセレント・ス
チューデント・イン・サイエンス・プロジェクトに参加し、受けた授業の中で、脳神経系に関す
る実験を行い、一番興味を感じたため、その内容にでてきた記憶、学習、神経伝達の関係につい
て深く調べた。
2.研究の目的
杉山先生の授業で、記憶や神経伝達についての説明があった。より詳しくこの課題について調べ
ると、脳の活動は神経伝達の状態を反映しているらしいことが分かった。そこで、薬剤を使って
神経伝達の状態を変化させた時は記憶にどのような影響が出るか、実験を行って調べることにし
た。
3.研究の方法
・条件付けと記憶の測定
記憶の程度を測定するため、マウスを使って電気による恐怖条件付けと、フリージングの観察を
行った。条件付けとは学習、つまり学ばせるの意味で、今回の実験では恐怖条件付けを行い恐怖
を記憶させた。またフリージングにより学習内容の記憶の程度を測った。フリージングとは「固
まる」の意味で、マウスは恐怖を感じると普通身動きしなくなる。つまり時間がたってフリージ
ングを起こすということにより恐怖を「記憶」していることが測定できる。
・神経伝達の状態変化を起こす薬剤
神経伝達の状態変化を起こす薬剤として、カイニン酸を使用した。カイニン酸は神経伝達の際に
活躍するグルタミン酸受容体という構造に働きかける物質で、神経を過剰に興奮させる効果があ
ることが期待できる。今回の実験ではマウスに 0.5 mg/ml のカイニン酸を体重(kg)あたり 10 ml
を腹腔内投与した。
・実験
マウスは15匹使い、5匹ずつ3グループに分けた。
グループ 1 には対照実験として条件付けの30分前に水を投与した。
グループ2には条件付けの30分前にカイニン酸を投与した。
グループ3には条件付けの直後にカイニン酸を投与した。
実験箱内で各グループのすべてのマウスに恐怖条件付けとして、0.2Aの電気刺激を2秒間、1分
間の間隔で計3回与えた。
・観察
(1)短期記憶…条件付けの2時間後に実験箱にマウスを入れ、フリージングをどれくらい起こ
すかどうか観察した。
(2)長期記憶…条件付けの2週間後に同じ実験箱にマウスを入れ、フリージングをどれくらい
120
ポスター発表 生命系 2
九州大学
起こすかどうか観察した。これらにより学習内容の記憶の程度を測った。
※短期記憶と長期記憶2つを見る理由は、短期で記憶の形成された時の程度と、長期記憶として
形成された記憶が十分に刷り込まれて長時間記憶している程度に違いがある可能性が考えられた
ためである。
4.研究の結果・考察
図 1 実験結果
条件付け 序盤
条件付け 終盤
短期記憶
長期記憶
グループ1
×
○
○
△
グループ2
×
○
○
○
グループ3
×
○
○
○
×…フリージングが見られなかった ○…フリージングが見られた
△…フリージングの割合が減っていた
短期記憶について差がない(全てのグループが記憶している)のは普通に考えて予想がつく(条
件付けを行って時間があまりたっていないから)が、長期記憶には差が出ており注目すべきであ
る。投与した時間の差はあるがカイニン酸を投与したマウスは水を投与しただけの
マウスと比べ長期記憶における記憶の程度は高かった。
したがってカイニン酸を投与した状態、つまり神経が過剰に興奮している状態で学習を行うと、
記憶しやすくなるということを示していると思われる。
今回の実験結果ではカイニン酸を投与した2つのグループで長期記憶に差は見られなかったこと
から、学習前であれ学習後であれ、神経伝達が上昇している場合であれば、長期記憶が上昇する
と思われる。このことから、長期記憶は学習そのものの後に一定の時間をかけて作られるように
思われる。したがって、学習して1日後など、ある程度時間がたったあとでカイニン酸を投与す
る実験を行うと、どのくらいの時間で長期記憶が作られていくかというようなことも分かるかも
しれない。
5.今後の展望
カイニン酸は神経を過剰に興奮させる薬品で、他にも似た働きをする薬品として NMDA、AMPA など
がある。もしこれらを与えても記憶が促進されることが確認できれば、一般的に神経伝達の上昇
は、記憶を促進するということがわかるだろう。
6.主要参考文献
http://kaiwa-kouza.com/category/h10.html
http://gaya.jp/research/hippocampus.htm#8-1
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4%E5%85%B8%E7%9A%84%E6%9D%A1%E4%BB%B6%E3%81%A5%E3
%81%91
<講座担当教員のコメント>
非常に積極的、意欲的に授業・実験に参加した。研究実験は、時間的な制約もありごく予備的な
段階までしか行えていないが、内容的にはこれまでに報告されていない新知見を見い出しており、
この結果がより詳細な検討により確認されるなら、オリジナルの本格的研究に発展する可能性を
もつものである。
121
ポスター発表 生命系 3
慶應義塾大学
人工酵素によるメタロチオネイン遺伝子の破壊
伊藤 千慧子(日本大学豊山高等学校 2 年)
担当教員:谷口 善仁先生(慶應義塾大学医学部衛生学・公衆衛生学教室 専任講師)
【研究の背景と目的】
Cd2+などの重金属イオンは、生体に有害である。メタロチオネインは生体が重金属イオンに暴露
されると速やかに誘導され、重金属をキレートすることにより解毒作用を発揮する。メタロチオ
ネインを欠損した個体は重金属に対して高感受性になるために、生体影響を観察しやすいと考え
られる。一般に、魚類の遺
伝子破壊は困難と考えられ
DNA 切断モジュール
て いたが、 近年人工 酵素
zinc finger ヌクレアーゼ
(以下 ZFN)法が新しく開
発され、遺伝子改変魚作製
への道が開かれた。本研究
では、水生動物でのメタロ
チオネインの機能を解析し、
水環境評価へ応用するため
に、人工酵素 ZFN による
メダカのメタロチオネイン
遺伝子破壊を試みた。右上
図 が 、 人 工 酵 素 ZFN が
DNA と結合した図である。人工酵素 ZFN は、左側(青)と右側(赤)の二量体からなる。また、
DNA 結合モジュールと DNA 切断モジュール(黄)がある。
【実験方法】
メダカにメタロチオネイン遺伝子は1つしか存在せず、3つのエキソンから構成されている。第
2エキソン以下が欠損するように、ZFN を設計した(図)。mRNA を合成し、メダカの1細胞期
の受精卵に顕微注入した。インジェクション後の胚を7日間培養した後、DNA を回収してメタロ
チオネイン遺伝子に変異が起きているかどうかをシーケンスにより確認した。コントロールとし
て GFP 蛍光タンパクに対する ZFN を使用した。
122
ポスター発表 生命系 3
慶應義塾大学
【結果・考察】
メタロチオネインに対する ZFN mRNA を顕微注入したところ、用量依存性に胚発生異常を認め
た。生殖系列に変異が導入された個体を選別するために、亜致死量を注入した個体を生育させ、
各ペアから次世代の受精卵を採取し、ゲノム DNA を抽出した。同様に、GFP トランスジェニッ
クメダカに GFP に対する ZFN mRNA を顕微注入したところ、
6個体中2個体で蛍光が消失した。
蛍光が消失した個体の GFP 遺伝子には、さまざまな変異が確認できた。このことは、メダカで
ZFN 法による遺伝子破壊が有効であることを示している。
一方で、今回の研究はチャレンジングで、最終的にメタロチオネイン遺伝子を破壊することがで
きなかった。今後、新たに ZFN を設計し直す必要があり、それに注力していきたい。
第1エキソン
アミノ末端
ATGGACCCCTGCGACTGCTCCAAAAgtaagtgatatcttaatgcg
βドメイン
Ctctgaggtttagggtatgtttttatgttattgttggctctttaa
MT2L
MT2R
attatttattattcttctgctcagCTGGAAAATGCAACTGCGGCG
GCTCTTGCACCTGCACAAACTGCTCCTGCACCAGCTGCAAGAAAA
第2エキソン
(左) メタロチオネインタンパクの結晶構造
球体はキレートされた重金属イオンを表す。
αドメイン
カルボキシ末端
(上) メダカメタロチオネイン遺伝子の第1、2エキソン
楕円:人工酵素結合部位
三角:遺伝子切断部位
かぎ括弧:重金属の結合に関与している部位
<講座担当教員のコメント>
非常にチャレンジングな研究に粘り強く取り組んでくれました。成功確度が小さい研究でしたが、
チャレンジングの方向が間違っていなかったことを伊藤さんは示してくれました。再度、挑戦し
て、世界的な発表につなげたいと思っています。伊藤さんは、高校生とは思えない手技も身に着
けてくれて、今後が楽しみです。
123
ポスター発表 生命系 4
千葉大学
アロエ抽出物の創傷治癒に及ぼす影響の解析
山下 莉奈(東邦大学付属東邦高等学校 1年)
担当教員:野村 純(千葉大学教育学部)
1
研究の目的・意義
今回の研究のきっかけは、私が転んでひざをすりむいた時に、傷の治療方法として湿潤療法と
いう方法が現在主流になってきていることを知ったことです。そして傷がどのように治るかに興
味を持ったためです。創傷治癒とは、皮膚などの組織が損傷した場合に起こる一連の修復反応の
ことです。炎症反応期、増殖期、安定期に分かれており、いろいろな細胞や物質がかかわって傷
口がふさがり、皮膚の組織が修復されます。新しい治療方法として普及し始めている湿潤療法で
は、傷口を覆い、湿った状態にすることで乾燥に弱い傷の修復細胞を保護するとともに、傷口か
ら分泌される様々な修復因子や養分を保持することで傷の治りを促進していることが分かりまし
た。
一方、傷の治療方法を調べる中で民間療法の一つとしてアロエを使用する方法があることを知
りました。アロエはアロエ科アロエ属に属する多肉植物の総称で、アフリカ原産とされています。
アロエは医者いらずといわれ民間治療薬として使用され
ており、傷の手当としては特にやけどの時に効くとされ、
アロエの葉の部分を傷口に張りつけるという方法が一般
的に行われています。また、最近の研究でアロエに含ま
れる成分には抗炎症作用や抗がん作用などの様々な機能
があることが分かってきました。
したがって今回の研究の目的は、アロエの抽出物が皮
膚培養細胞の増殖とスクラッチリペアに与える影響につ
いて検討することです。また、将来的には傷をきれいに
治す方法を見つけ、新しい治療法を開発することです。
2
研究方法・プロセス
1)今回の実験ではアロエは、日本で一般的に栽培され
ている園芸種のキダチアロエとアロエベラを使用しまし
た。アロエの葉を採取し、皮と半透明の葉肉の部分に分
け、乳鉢ですりつぶしました(写真 1、2)。液を集め
20,000G、10 分間遠心分離し、上清を濾過滅菌後、アロ
エ抽出液として使用しました(写真 3、4)。アロエ抽出
液は粘調なため濾過滅菌では、さまざまな種類のフィル
ターを試し、最終的に最適なフィルターとして 0.45μm
を使用しました。
2)線維芽細胞の培養:皮膚線維芽細胞は、ダルベッコ培地(10%牛胎児血清、抗生物質含有)
を用い、37℃、5%CO2 存在下で培養しました(写真 5、6)。
3)線維芽細胞の増殖測定実験
実験の目的:アロエ抽出物が線維芽細胞の増殖に及ぼす影響を測定しました。96 穴培養プレート
上に線維芽細胞を播種し、そこに段階的に希釈したアロエ抽出液を加えました(写真 7)
。2 日間
培養後 Cell counting kit-8(同仁化学)を使用して、生細胞が産生するホルマザン量は吸光光度
計を用いて測定しました。
4)スクラッチリペア実験
124
ポスター発表 生命系 4
千葉大学
この実験の目的:線維芽細胞の細胞シートに引っかき傷(スクラッチ)をつけ、その傷が埋まっ
ていく過程を観察しました(写真 8)。そのとき同時にアロエ抽出物を加え、その過程がどのよ
うに変化するか観察しました。
5)観察方法と実験の手順
細胞はまずそのまま顕微鏡で観察し、そのあとホルマリン含有
PBS で 20 分間固定し、0.1%クリスタルバイオレット染色液で染
めました。これをデジタルカメラで撮影しました。
3
実験結果
1)アロエ抽出物存在下での線維芽細胞の増殖の変化
図 1 キダチアロエ:線維芽細胞にキダチアロエの抽出液を加えた
ところ、皮、中身の抽出液ともに細胞の増殖を抑制することが分か
りました。中身の増殖抑制効果は興味深いことに高濃度の場合より
も中程度の方が顕著でした。
図 2 アロエベラ:一方、アロエベラの場合は、皮、中身の抽出液
ともに濃度依存的に細胞の増殖が抑制されることがわかりました。
2)線維芽細胞シートのスクラッチリペアにおけるアロエ抽出物の
作用
写真9はアロエ抽出液を加えていないものです。スクラッチを加えた傷が24時間後も残って
いることが示されました。一方、キダチアロエ抽出液を加えたものでは一部スクラッチ痕が薄く
なっていることが示されました(写真 10)。また、アロエベラの抽出液を加えたものでは全体的
にスクラッチ痕が薄くなっていることが観察されました(写真 11)。
4
考察と結論
今回、アロエ抽出物の皮膚線維芽細胞の増
殖およびスクラッチリペアに及ぼす作用に
ついて研究しました。この結果、アロエ抽出
物は線維芽細胞の増殖を抑えると共に、スク
ラッチをふさぐように移動することが分か
りました。このことよりアロエは皮膚線維芽細胞に作用し、傷の修復に促進的に働くことが考え
られました。特に、増殖に対しては抑制的に働くことは瘢痕形成を抑制し、きれいに傷を治す上
で重要であることが考えられました。さらに、キダチアロエでは濃度によって増殖抑制効果がU
字型に変化したことから抑制成分と促進成分の両方を含む可能性が考えられました。
5
今後の展望
アロエ抽出物の成分をさらに分析し創傷治癒に対して有効な成分を見出すとともに、傷を早く
かつ綺麗に治す方法の開発につなげたいと考えています。
6
主要参考文献:創傷治癒センターホームページ、http://www.woundhealing-center.jp/、バイ
オ実験イラストレーテッド⑥すくすく育て 細胞培養、渡邊利雄、秀潤社、Emodin upregulates
urokinase plasminogen activator, plasminogen activator inhibitor-1 and promotes wound
healing in human fibroblasts Radha K.S. et. Al. Vascular pharmacology 48 (2008) pp184-190
<講座担当教員のコメント>
実際に実験をしたのは中学 3 年生の時で、全く細胞培養の経験のない状態から、細胞数をコント
ロールし、安定した結果が出せるようになるまでの学習の速さ、操作の正確さは特筆すべきもの
がある。また、彼女が作成した実験ノートはコピーして学部生の手本にできるほどの素晴らしい
ものである。
125
ポスター発表 生命系 5
慶應義塾大学
Rat 肝臓由来 XanthineOxidase の抽出・精製
久永 めぐみ(横浜雙葉高等学校 1年)
担当教員:井上 浩義先生(慶應義塾大学医学部化学教室 教授)
1.目的
生体内で、プリン体より尿酸を作り出し、それが体内に蓄積することにより痛風などを引き起こ
すxanthine oxidase は、その酵素作用過程で活性酸素の産生を行うこと、並びに、疫学的調査
により、腎疾患への進展が
危惧されることから、近年、
注目を集めている。本研究
では、xanthine oxidase を、
rat 肝臓から抽出し、その
酵素の反応様式を調べるこ
とを目的とした。
反応様式は基質濃度と反応
生成物濃度の関係から
Lineweaver-Burk の逆数
プロットを作成し、当該プ
ロットのy切片およびx切
片を用いて、Vmax(最大速
度)と Km(Michaelis 定数)を求めることで、酵素反応の特徴を表した。
2.実験方法
ラットを軽麻酔下で開腹し、肝臓を
取り出した。肝臓は氷冷下でホモジ
ナイズ(均質化)し、遠心分離機を
用いて、2000gで 10 分間遠心し、
上清を取出し更に 5000gで 20 分間
遠心分離した。この後、低分子量の
夾雑物を除くために、緩衝液に対し
て透析をした。
抽出、精製した肝臓抽出物に
hypoxanthine、
(allopurinol)
、
TrisHCl を加えて、37℃で、インキ
ュベーションすることにより尿酸を生成させた。反応は試験管を冷水に浸漬することにより終了
させた。生成した尿酸は吸光光度計(299nm)で測定した。また、常にポジティブコントロール
として痛風治療薬である allopurinol を使用した。前頁下のグラフは、反応時間 20 分の時の
allopurinol による尿酸産生抑制の結果である。
126
ポスター発表 生命系 5
慶應義塾大学
3.結果
今回、Rat 肝臓由来 xanthine oxidase
を抽出し、粗精製することができた。
粗精製 xanthine oxidase は、xanthine
から uric acid への反応を促進するこ
とが明らかになり、その反応はよくし
られた allopurinol によって阻害され
た。また、基質濃度を変えて反応生成
物を測定して、Lineweaver-Burk のプ
ロ ッ ト を 行 う と Km=7.26 × 10-6 、
Vmax=2.5×10-7 となった。今回、粗精
製物であったが、xanthine oxidase は
特異的な酵素反応様式を示し、xanthine oxidase の純度が高いことが分かった。
4.今後の展望
今後は、我々が天然物から熱水あるいはエタノールで抽出した成分を用いて、xanthine oxidase
の阻害成分の発見に努めたい。そして、既に、確立している oxonate 処理ラット(痛風モデルラ
ット)を用いて、実際に、その成分が口から摂取して効果を有することを確認したい。更に将来
的には、xanthine oxidase が関与する生体内の活性酸素の量も測定してみたい。
<講座担当教員コメント>
コメント:本研究を開始したころは、久永さんは中学 3 年生で、ひとつひとつの実験や理論が本
当に難しかったのではないかと思う。しかし、粘り強く研究を重ね、分からないことは分かるま
で尋ねたり、調べたりする研究態度は、非常に貴重に思われた。このままの研究態度を忘れずに、
成長して頂くと立派な研究者になることが期待できる。
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理数学習支援部 才能育成担当
TEL 03-5214-7053
未来の科学者養成講座 http://rikai.jst.go.jp/miraisci/