難燃化技術の今後の研究の方向 - Page ON

難 燃 材 料 研 究 会 トピックスレポート 2005.12
難燃化技術の今後の研究の方向
難燃材料研究会会長
西沢
仁
現在の難燃化技術は高い壁にぶつかっており,やや停滞している感がある。これを
ブレークスルーする必要を強く感じているが,そう簡単ではない。原点に返り研究の
方向を考えることも大切である。
最近の難燃化技術に要求される特性は次のような項目が挙げられる。
(1)難燃効率の高い難燃系の開発
(2)環境安全性,リサイクル性に優れた難燃系の開発
(3)機能性,耐熱性,耐久性,成形加工性に優れた難燃系の開発
現在推進されている難燃化技術の研究は表−1に示すような気相,固相における難
燃化機構を適用し,表−2に示すような難燃剤との複合化による研究が行われてきて
いる。しかしながら,現在最も難燃効率が高いのは,臭素系難燃剤と三酸化アンチモ
ン の 相 乗 効 果 系 と Intumescent 難 燃 系 で は な い だ ろ う か 。
現在,環境対応型難燃系として使用されている水和金属化合物,一般のリン化合物
を中心とした系は残念ながら難燃効率が低い。これからの研究は,この難燃効率がよ
り高い難燃系の開発が強く望まれる。それは燃焼の開始(立ち上がり)時に効果の高
い難燃系の開発である。火災は立ち上がりを抑制することが最も効果が高いことは誰
でも理解できることである。世界の殆どの難燃性規格は燃焼の立ち上がりに難燃効果
が高いことを要求している。表―1 に示す気相での難燃機構がこれに相当し,
350∼ 400℃ で の 燃 焼 立 ち 上 が り の 気 相 で の 難 燃 効 率 を 上 げ る と 共 に , 固 相 で の 燃 焼 バ
リヤー効果を早期に示す系の開発が好ましい。
そのためには難燃化機構の基本的な研究がさらに重要になる。従来の難燃化技術の
研究を考えると基本的に難燃化機構に関する研究が不足していることを痛感する。気
がつくだけでも表−3に示すような項目を挙げることができる。
また,評価技術の進歩も必要である。複雑な燃焼現象を制御する過程を更に細かく
観察し,燃焼抑制の方向を探り出せるような評価技術が必要になるだろう。現在使用
されているコーンカロリメータは,発熱量,燃焼残渣量,各種ガス発生量の評価が可
能であり,現状では最も優れた評価方法であるが,燃焼過程を実際に観察しながら微
妙な燃焼抑制効果を見落とさない技術が有効である。
これから早急に実用化が迫られている課題として次のようなテーマがあるが,この
研究会が少しでもこうした課題に貢献できる活動ができるよう努力したい。
(1)環境対応型高難燃性ポリオレフィン材料の開発
( 2 ) 電 気 電 子 機 器 , OA 機 器 用 耐 熱 性 樹 脂 ( PA, PET 等 ) 用 難 燃 系 の 開 発
( 3 ) 汎 用 エ ン プ ラ ( PS, ABS 等 ) 高 難 燃 性 環 境 対 応 型 材 料 の 開 発
(4)生分解性高難燃材料の開発
表−1
難燃化機構
(1)気相
現用難燃系の難燃化機構
代
表
例
1)ハロゲン化合物,リン化合物によるラジカルトラップ効果
2 )ハ ロ ゲ ン 化 合 物 + 三 酸 化 ア ン チ モ ン( 硼 酸 亜 鉛 ,ZnS 等 )に よ る 相 乗 効 果
3)水和金属化合物による脱水吸熱反応
4)窒素化合物による不活性ガスの発生と酸素希釈,遮断効果
(2)固相
1)リン化合物によるチャー生成
カ ー ボ ン チ ャ ー , − P− O− C− 結 合 生 成 物
2)水和金属化合物+シリコーン化合物による無機断熱層の生成
3)水和金属化合物+硼酸亜鉛による無機断熱層の生成
4 ) Intumescent 系 ( APP+窒 素 化 合 物 ) に よ る 発 泡 チ ャ ー の 生 成
5 ) ナ ノ コ ン ピ ジ ッ ト+ 従 来 難 燃系 に よ る 酸化 ケ イ 素 +チ ャ ー の 生成
表−2
種 類
難燃剤の最新動向と製造メーカー,需要量(t)
技術動向
製造メーカー
需 要 量 (2004)
ハ ロ ゲ
WEEE, RoHS の 可 決 に よ る PBB,PBDE
GLC, DSBC,
TBBA
ン系
( penta,octa) の 使 用 禁 止 , そ の 他 使 用 可 .
ア ル ベ マ ー ル 日
DBDPO
2,000
現用難燃剤
本,東ソー,マナ
HBCD
2,600
1 ) 脂 肪 族 臭 素 系 − HBCD,TBBA,TBBS 等
ック,日宝化学,
TBP
4,150
2 ) 芳 香 族 種 粗 景 − TBBA-エ ポ , HBB,TBP
三 井 化 学 フ ァ イ
EBTBPI
ン,ジャパンエポ
TBBA-PC 3,000
キシ,三菱ガス化
Br-PS
学 -G L C , 第 一 エ
TBBA-エホ 12,000
ンド酸
フアール,帝人化
HBB
現用難燃系(相乗効果)
成,大日本インキ
臭 素 系 合 73,500
TBP,
3)塩素系
Br-PS 等
−塩パラ,デクロラン
クロレンド酸,無水クロレ
35,000
1,500
5,100
350
三酸化Sb+臭素系,塩素系難燃剤
化学,坂本薬品,
硼 酸 亜 鉛 , 硫 化 亜 鉛 , 錫 酸 亜 鉛 , 酸 化 Mo
東都化成,日立化
塩パラ
成,日本化薬,旭
デ ク ロ ラ ン 500
化成エポキシ,オ
塩 素 系 合 4,900
+臭素系,塩素系難燃剤
4,300
キ シ デ ン タ ル ケ
ミ,味の素ファイ
ンテクノ
リン系
現用難燃剤
大 八 化 学 ,旭 電 化 , リ ン 酸 エ ス テ ル
1 ) モ ノ マ ー 型 リ ン 酸 エ ス テ ル − TPP, TCP
第一エフアール,
等
2 ) 縮 合 型 , 反 応 型 リ ン 酸 エ ス テ ル − BDP,
24,000
GLC,アルベマ
ノンハロリン酸
ール日本,三井化
エ ス テ ル 4,000
RDP,
BPA-DP, BPA-DC, 反 応 HCA,
BDP, ホ ス フ ァ ゼ ン
3 ) Intumescent 系 − FP-2100,APP+ 窒 素 化
合物
学ファイン,味の
APP
1,000
素ファイン,日本
赤リン
500
化 学 工 業 ,燐 化 学 , フ ォ ス フ ァ フ ェ
クラリアント,三
4)赤リン,赤リン+膨張性黒鉛
ナントレン系
1,000
光,四国化成
リ ン 系 合 30,500
5)リン酸エステルアミド等
現用難燃系
リン系+難燃助剤(有機金属化合物,ナノフ
ィラー,窒素化合物,シリコーン化合物等)
無機系
その他
水酸化Al
現用難燃剤
日本精鉱,山中産
水 酸 化 Al,水 酸 化 Mg,,ア ン チ モ ン 化 合 物 ,硼
業,東湖産業,鈴
酸 塩 ,錫 酸 亜 鉛 ,Mo 化 合 物 ,ナ ノ フ ィ ラ ー( M
裕化学,三井化学
M T ,ナ ノ 水 和 金 属 化 合 物 ,シ リ カ ),Zr 化 合
ファイン,味の素
物
フ ァ イ ン , GLC ,
現用難現燃系
第一エフアール,
水和金属化合物+難燃助剤
昭和電工,住友化
窒素化グアニジ
ナノフィラー+従来難燃剤
学,日軽金,神島
ン
低有害性ガス,低発煙性ガス化用
化学,三和ケミカ
五 酸 化 Sb
微 粒 子 炭 酸 Ca, 炭 酸 金 属 塩 , 水 和 金 属 化 合 物
ル,日産化学,協
銅酸化物,酸化鉄,フェロセン,有機金属化
和化学,堺化学,
合物
アルベマール
1)シリコーン化合物
東レダウ,信越化
2)ヒンダートアミン化合物
学,東芝GEシリ
3)窒素化合物
コーン,チバスペ
メラミンシアニュレート,トリアジン化
シャリティケミカ
合物
ル,
4)有機金属化合物
42,000
三 酸 化 Sb
17,000
水 酸 化 Mg
14,000
1,000
無 機 系 合 79,000
三和ケミカル
エチレンジアミン4酢酸銅,パーフルオ
DSMジャパン
ロブタンスルフォン酸カルシウム等
表―3
種
今後研究したい難燃化機構
類
気相における難燃化機構
例
臭素化合物+金属酸化物系の難燃効果の温度特性
臭素系化合物+新規相乗効果剤
リン化合物単独
リン化合物+新規難燃助剤(有機金属化合物)
水和金属化合物+リン化合物,窒素化合物その他助剤
窒素化合物+リン化合物+助剤
5,000
固相における難燃化機構
リン化合物の構造とチャー生成効果
リン化合物+新規難燃助剤
水和金属化合物+新規難燃助剤
Intumescent 系 ( 新 規 複 合 系 )
Intumescent 系 + 新 規 助 剤 (各 種 金 属 化 合 物 等 )
低発煙化機構
ポリマー構造と発煙性,発生ガスの関係
低有害性ガス化
金属化合物の低発煙効果,低有害性ガス化効果
ナノコンポジット難燃系
ナノフィラーの種類,量,分散性,挿入有機化合物
従来難燃系との併用系
新規相乗効果
遷 移 金 属 化 合 物 ,無 機 硫 黄 化 合 物 ,ア ル カ リ 金 属 化 合 物 ,
難燃触媒,難燃助剤
アルカリ土類金属化合物,各種有機勤続化合物
芳香族系エンプラ