筋肉内注射における注射針刺入深度に関する研究 - 岩手県立大学

筋肉内注射における 注 射針刺入深度に関す る 研究
―BMI から注射部位の 皮下組織厚をアセス メ ントする方法 の検討 ―
高橋 有 里
1) , 菊 池和 子 1) ,三 浦 奈都 子 1) ,石 田 陽子 2) , 似鳥
1)岩手 県立 大 学看 護 学 部
徹 1)
2)山形 大 学医 学 部 看護 学 科
【 目 的 】 皮 膚か ら 皮 下組 織 層を 越え て 注射 針を 刺 入さ せる 筋 肉内 注射 (以 下, 筋注 )に おけ る 針
の到 達 部位 は, 目 視に より 確 認す るこ と が で きな い .し たが っ て, 針の 刺 入深 度を 判 断す るた め の
皮下 組 織厚 のア セ スメ ント が 重要 とな る .し かし ,現 在 ,針 の刺 入 深 度は 具 体的 に示 さ れて おら ず ,
経験 的 に実 施さ れ てい る. そ こで ,本 研 究で は, 筋 注部 位の 皮 下組 織厚 を 明ら かに し ,筋 注時 の 注
射針 刺 入深 度を 判 断す るた め に, 筋注 部 位の 皮下 組 織厚 を BMI か らア セ スメ ント す る方 法を 検 討
する こ とを 目的 と する .
なお , 本研 究に お ける 皮下 組 織厚 とは 皮 膚表 面か ら 垂直 に筋 膜 に至 るま で の直 線距 離 ,針 の刺 入
深度 と は皮 膚に 針 を垂 直に 刺 す 際 の深 さ とす る.
【 方 法 】 1.調査 対 象 者: 参 加同 意書 が 得ら れた 大 学生 ,会 社 員, 外来 ・ 入院 患者 , 看護 職者 .
2.調査 方 法: 基 本 情 報 と し て , 性 , 年 齢 を 聴 取 し , 身 長 , 体 重 , BMI を 測 定 し た . 皮 下 組 織 厚 は ,
汎用 超 音波 画像 診 断装 置( FF ソ ニッ ク UF-4100A, フク ダ 電子 ) を 用い , 表在 用 の 7.5MHz リ ニ
アプ ロ ーブ によ り Bモ ード で ,上 腕三 角 筋部 の肩 峰 より 5cm 下 部と 殿部 中 殿筋 部の ホ ッホ シュ テ ッ
ター の 部位 を測 定 した .ま た ,肩 峰よ り 5cm 下部 に おい て上 腕 骨が 撮影 で きた 場合 に は三 角筋 の 厚
みを 測 定し た. 3.分 析 方法 : 性別 で分 類 した 後, 記 述統 計量 を 算出 し平 均 値の 差を 求 めた .ま た ,
BMI と 筋注 部位 の 皮下 組織 厚 の 相 関係 数 ,BMI を 独立 変 数, 皮 下組 織厚 を 従属 変数 と した 回帰 式
を算 出 した .
【 倫 理 的 配 慮 】 対象 者は ,研究 の 趣旨 ,方 法を 説 明し 許可 が 得ら れた 施 設に おい て 文書 と口 頭 で
の説 明 の後 ,研 究 協力 につ い て 同 意書 を 提出 した 者 とし た. 調 査は プラ イ バシ ーの 保 てる 場所 に て
不必 要 な露 出を 避 け 行 った .な お,本 研究 は岩 手県 立 大学 研究 倫 理審 査 を 受 け承 認を 得 て行 なっ た .
【 結 果 】 対象 者は 男 性 259 名 , 女性 294 名 の計 553 名 であ った . 平均 年 齢は ,男 性 41.2±17.6
歳,女性 33.8±22.1 歳 であ っ た.筋 注 部位 の 皮 下組 織 厚は,肩 峰よ り 5cm 下部 で は男 性 0.6±0.2cm,
女性 0.7±0.2 cm であ った . ホッ ホシ ュ テッ ター の 部位 では 男 性 0.7±0.3cm, 女性 1.0±0.4cm で
あっ た .三 角 筋の 厚 み は ,男 性( n=218 名 )1.8±0.5cm,女性(n=192 名 )1.5±0.4cm であ った .
BMI は,男 性 23.4±3.4,女 性 21.9±3.4 であ っ た.すべ て性 別 にお い て 有意 な 差が あっ た(p<.001).
BMI と 筋注 部位 の 皮下 組織 厚 の関 連は , 肩峰 より 5cm 下 部で は 男性 r =0.667(p<.01), 女 性 r
=0.633(p<.01), ホッ ホシ ュ テッ タ ーの 部 位 で は 男 性 r =0.530(p<.01),女 性 r =0.422(p<.01)
と有 意 な相 関が あ り,BMI(X)と筋 注 部位 の 皮下 組 織厚(Y)は,以 下の 回 帰式 で表 す こと がで き
た.
1)肩峰 よ り 5cm 下 部 の 皮下 組 織厚 ( Y 1 )
男 性 : Y 1 (cm) =0.04X-0.25
女 性 : Y 1 (cm) =0.04X-0.17
2)ホッ ホシ ュ テッ タ ー の部 位 の皮 下組 織 厚( Y 2 )
男性 : Y 2 (cm) =0.05X-0.38
女 性 : Y 2 (cm) =0.05X-0.03
【 考 察 】 肩峰 より 5cm 下部 , ホッ ホ シュ テ ッタ ー の部 位 の 皮 下組 織厚 は BMI と 有 意な 相 関を 認
め,BMI か ら先 の 計算 式に よ り求 める こ とが 可能 で あ る こと が 分か った .これ によ り 求め た皮 下 組
織厚 に 0.5~1cm 加え た長 さ 分針 を垂 直 に刺 入す れ ば確 実に 筋 注で きる と 考え る .た だし ,BMI18.5
未満 の 対象 者は ,皮下 組織 厚 が最 小 0.2cm か ら平 均 で 0.6cm,三 角 筋厚 は 同じ く 0.7cm か ら 1.3cm
であ り ,皮 膚 表面 から 上腕 骨 まで の直 線 距離 が最 小 で 0.9cm,平 均 では 1.9cm で あ った .針を 深 く
刺し 過 ぎる こと に よる 骨膜 の 損傷 を避 け るた めに も,BMI18.5 未満 のや せ の場 合 は 三 角筋 部へ の 筋
注は 避 けた ほう が 良い と考 え る.