躍進する企業を訪ねて - 株式会社 日立産機システム

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1vol.
産学連携した電力の「見える化」
で
キャンパスの省エネに挑む
日立産機システムの『H - N E T』
学校法人幾徳学園 神奈川工科大学
〒 243-0292 神奈川県厚木市下荻野 1030
http://www.kait.jp/
地球環境問題や改正省エネ法の
業者であった中部幾次郎氏と、そ
施行、そして東日本大震災に伴う
の後継者である中部謙吉氏は、科
電力のピークカットなどを受け、省
学技術の振興・発展に寄与する人
エネルギーは社会全体の急務とな
材を創出したいとの思いから、かね
っています。また、
風力発電や太陽
てより大学や高校などの教育施設
光発電など再生可能エネルギーの
に諸施設を寄贈するなど、育英事
開発を進め、持続可能な社会をめ
業に取組んでいました。そして、さ
ざしていく上で、限られた電力をい
らなる理想を実現するため、大洋
かに効率よく使用していくかも課
漁業(株)と傍系会社、中部家の出
題となっています。
資により、1 9 6 3 年 4 月に幾徳工業
今回は、電力の「見える化 」によ
高等専門学校(5 年制)を開校。機
るデマンドの抑制と、その情報を活
械工学科、電気工学科、工業化学科
用し省エネの啓発に取組む、学校
が開設されました。
法人幾徳学園 神奈川工科大学
3 学科入学定員 1 3 5 名という小
(K A I T)
を訪ねました。
神奈川工科大学
経営管理本部 管財課 課長
に
し
か
わ
きよし
西川 清
氏
規模ながらも、他に類を見ない幾
徳工業高等専門学校は、創立当初
2 0 1 3 年に創立 5 0 周年を迎えた
4 学部 11 学科を持つ
から高い評価を受け、規模を拡大。
神奈川工科大学では現在、工学部
工科大学
1 9 7 5 年 4 月には幾徳工業大学を開
と情報学部、創造工学部、応用バイ
学し、4 年制大学として新たな歴史
オ科学部の 4 学部・1 1 学科に加え、
神奈川県厚木市にキャンパスを
を歩み始めました。その後、1 9 7 8
大学院博士前期課程 6 専攻、後期課
構える、神奈川工科大学。その歴
年 3 月には幾徳工業高等専門学校
程 5 専攻を設置。総学生数 5 , 0 0 0
史は、1 9 6 3 年にまで遡ります。大
を廃校。さらに 1 9 8 8 年 4 月には現
名を超える学生が在籍する工科大
洋漁業株式会社(現・株式会社マ
在の神奈川工科大学へと大学名を
学として、優れた人材を社会に輩
ルハニチロホールディングス)の創
変更し、
今日に至っています。
出し続けています。
学校法人幾徳学園 神奈川工科大学 PROFILE
創立 5 0 周年を迎えた、
神奈川工科大学の美しいキャンパス。4 万坪の広大な敷地には、
野球場
や全天候型トラックのほか、
3 2 棟(2 0 1 3 年 4 月現在)
の施設が置かれています。3 カ年計画
の再開発事業が完了する 2 0 1 4 年には、
新講義棟や新体育館が竣工する予定です。
08
●学 校 名
●学
長
●設
立
●所 在 地
●学 生 数
●設 置 学 部
:
:
:
:
:
:
神奈川工科大学
小宮一三
1963 年 4 月 1 日
〒 243-0292 神奈川県厚木市下荻野 1030
5,061 名(2013 年 7 月現在)
工学部、情報学部、創造工学部、応用バイオ科学部
消費電力(デマンド )の見える化
使用電力の現況把握のため
は、神奈川工科大学のホームエレク
「見える化」
を推進
トロニクス開発学科教授で副学長
を務める森武昭氏が中心となり、使
電気使用量の多い工科系大学と
用電力の「見える化」
を提言。2 0 1 2
して、地球温暖化防止をはじめと
年 8 月に、学内の使用電力計測のた
する環境問題にどのようにして向
め日立産機システムの配電・ユー
かい合うべきか? 神奈川工科大
ティリティ監視システム『H - N E T』
学ではその取組みの一貫として、
を採用いただきました。
2 0 0 8 年 4 月に「エコマニフェスト
「当学ではキャンパス整備の中で
1 0 箇条 」を掲げるとともに、2 0 0 9
構内配電網も整え準備を進めてい
年 4 月には学部・学科横断型教育
ましたので、日立産機システムの
プログラム「 K A I T S t o p t h e 『 H - N E T 』を導入することにした
C O 2 P r o j e c t 」をスタート。学内
のです」
神奈川工科大学 情報学部 情報工学科 教授
付属国際センター 所長
た
な
か
ひろし
田中 博
氏
の節電をはじめとする省エネ化を
推進するとともに、教育機関とし
教育機関として
材』として扱うことを前提に、ご相
て環境分野の知識を身につけたエ
「H - N E T」を選択
談させていただきました。日立産
機システムの『 H - N E T 』を採用す
ンジニアを育成し社会へと送り出
すため、4 年間一貫の教育プログラ
電気工学や情報工学の教育機関
るにあたっては、計測データを他
ムを設けています。
でもある神奈川工科大学が、日立
のパソコンへ出力できることに加
こうした取組みを全学で進めて
産機システムの『 H - N E T 』を選択
え、教育機関として導入する当学
いく上で、大きな課題となったの
した理由。それは高い信頼性と、
の意向をご理解下さり、データ解
が「消費電力(デマンド )の見える
収集したデータの扱いやすさにあ
析のシステム設計をすべて当学に
化 」でした。学内施設を統括し管
ったといいます。再び、西川清氏
一任していただけたので、とても
理・運営している、経営管理本部
のお話です。
有意義な結果になりました」
「当学では、学内の電気施設もすべ
学内 7 系統から『 H - N E T 』が 1 0
て『学生のフィールド 』として捉
分間隔で収集する電力データを
「当学では従来よりさまざまな省
え、安全に配慮した上で学内の変
「見える化 」し、活用していくため
エネ活動を進めてきましたが、東
電設備に導入した日立産機システ
に、神奈川工科大学では情報工学
日本大震災に伴う節電・ピークカ
ムの変圧器(S u p e r トップランナ
のエキスパートである情報学部
ットの要請を受け、更なる節電計
ー )を含む変電施設の見学会を行
情報工学科 教授 田中博氏に「見
画や使用電力の削減を検討するこ
うなど、教育に活用しています。
え る 化 シ ス テ ム 」の 開 発 を 依 頼。
とになりました。そこで建物毎の
配電監視システムを導入するにあ
管財課と研究室が一体となり、ク
電力使用状況の把握から進めまし
たっては『デマンド監視』という目
ラウドサービスを利用した「見え
た。」
的に加え、取り出した情報を『教
る化システム 」の開発に着手する
管財課 課長 西川清氏にお話を伺
いました。
学生のものづくりに対する夢や希望をかなえる場所、気軽にものづくりの楽しさを体験できる場所として 2 0 0 8 年
に開設された「K A I T 工房」
。約 2 , 0 0 0 ㎡の広い空間に、森をイメージした柱がランダムに並べられた独創的なデザ
インは、2 0 0 9 年日本建築学会賞・作品部門を受賞しました。工房内には各種工作機械が設置され、技術支援スタッ
フが常駐。日用品の修理や趣味の作品制作などで自由に利用できます。また、学生のものづくりにかける情熱をア
シスト(活動経費支援)
する神奈川工科大学独自の制度「夢の実現プロジェクト」
の活動拠点にもなっています。
2 0 0 6 年に竣工し、キャンパス周辺エリアの
ランドマークとなっている情報学部棟。超高
速・大容量ネットワークを完備し、情報に関
するさまざまな実験・研究施設を有する、省
エネルギー対応の研究・教育棟です。
09
②
①
③
④
① 神奈川工科大学がインターネットを通じて公開している「学内電力見える
化システム」の情報画面。
『H - N E T』が 10分ごとに収集したデータをグラ
フ化しています(http://i.power-monitor.kanagawa-it.ac.jp/)
。
② EPS室に設置された、クラウド送信用のPC。
『H-NET』
が収集したデータ
を受信し、
クラウドへと送信します。
③ ホールに設置された大型モニタにも、学内の電力使用状況が表示されます。
④ 学内に置かれたタブレット型端末にも電力使用状況が表示され、省エネへ
の啓蒙に取組んでいます。
の構築は学生にとって最高の『教
ウドへ格納。データの取り出し機
材』となりました。とはいえ、ソフ
能を持たせるとともに、インター
学生が開発した
トウェアの開発は片手間にできる
ネット経由で誰もが学内の電力使
「見える化システム」と連携
ものではありません。本気になっ
用状況をリアルタイムで閲覧でき
て朝から晩まで取組んで、ようや
るシステムに仕上げられました。
「見える化システム 」の開発を受
く形になるものですので、担当し
現在、神奈川工科大学ではロビー
託した田中博氏の研究室では、学
た学生は大変だったと思います。
に設置した掲示板(大型モニタ )や
生が研究材料としてシステムの構
しかしその開発過程で、日立産機
タブレット型端末に学内電力使用
築を担当。(株)関東日立と日立産
システムのエンジニアの方と一対
状況を表示するほか、ウェブサイ
機システムが、技術面のサポート
一で情報交換し、プロジェクトを
ト(h t t p : / / i . p o w e r - m o n i t o r .
をさせていただくことになりまし
進められたことは、学生にとって
k a n a g a w a - i t . a c . j p / )で広く情
た。その経緯について、田中博氏
貴重な経験になったはずです」
報を公開し、省エネ意識の啓蒙に
に伺いました。
およそ半年の開発期間を経て完
努めています。
ことになったのです。
「私の研究室では『卒論(卒業研究)
成した神奈川工科大学の「学内電
「今回の『見える化』により、昼夜の
のための卒論は“しない、させな
力見える化システム」は、
『H-NET』
電力使用量の隔たりが想像以上に
い、許さない』をスローガンにして
が収集した電力データを、気温や
大きいことなど、私自身も初めて
いますので、
『見える化システム 』
風速等の気象データとともにクラ
気づくことが数多くありました。
①
②
④
③
① 情報学部 情報工学科 田中博研究室では、
「学内電力見える化システム」の情
報解析を進め、
省エネを実現するための手法を研究テーマにしています。
②『H-NET』
で収集したデータは、クラウド(Google Apps Engine )
に格納
され、
データ取得アプリケーションにより取り出されます。
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③ 管財課と学生が打ち合わせを重ね、
「学内電力見える化システム」
は開発され
ました。
④ 研究室の学生が卒業研究を兼ね開発した「学内電力見える化システム」
。そ
の情報解析は研究室のテーマとして、
後輩へ引き継がれています。
①
②
① 神奈川工科大学の受配電施設に設
置された、日立産機システムの配
電・ユーティリティ監視システム
『H - N E T』
。学内 7 系統の電力使用
状況を常時センシングし、取得した
データを 1 0 分ごとに専用の P C へ
と送信します。
② 配電盤の交流電流計に設置された、
『H - N E T』
のセンサ(クランプ)
。こ
の セ ン サ で 得 ら れ た 情 報 が、
『H - N E T』
を通じてクラウドへ送信
され、
「学内電力見える化システム」
に反映されます。
③ 日立産機システムでは、
『H-NET』
専用のデータ収集ソフトウェアに
加え、ネットワークモニタソフトウ
ェアや W e b モニタソフトウェアを
ご用意。一般の企業や工場のお客
さまにも、W e b 上で集計データを
手軽にモニタリングしていただく
ことができます。
④ 学内の変電設備には、日立産機シス
テムの S u p e rトップランナー変圧
器が多数採用されています。省エ
ネ機器の一例として、学生を対象と
した見学会も実施されています。
③
④
ます。
今後はこのデータを解析し、どの
を徹底しています。今後も田中博
ような形で省エネを進めていくか
氏の研究室と連携し、
「学内電力見
を検討するのが、私たちの研究テ
える化システム 」によって収集し
◆
ーマになります。例えば、校内に
た気温や日照などのきめ細かなデ
カスタマイズした専用のソフト
設置されている太陽光発電や風力
ータの解析を行い、更なる省エネ
ウェアをあえて使用せず、汎用性
発電といった学内創生電力の『見
を進めていく計画です。
を高さを生かすことで大学教育と
える化』や、夜間電力の蓄電などの
また、創立 5 0 周年を迎えた神奈
連携することのできた『H - N E T』。
検討を進めていきたいと考えてい
川工科大学では、記念事業として
(株)関東日立と日立産機システム
ます。また、建物内の給水や冷却
キャンパス再開発計画が進めら
では、お客さまのさまざまなニー
水系統の未利用水力エネルギーを
れ、新講義棟(2 0 1 4 年 2 月完成予
ズに合わせたソリューションの提
利用して発電する、日立産機シス
定)や 新 体 育 館(2 0 1 4 年 3 月 完 成
案活動を通じて、省エネ社会の実
テムさんの『エネルギー回収シス
予 定)が 現 在 建 設 さ れ て い ま す。
現にこれからも貢献して参りま
テム』など、先進的な省エネソリュ
この新校舎の設計にあたり、管財
す。
ーションについては、教育機関と
課では『 H - N E T 』で収集した既存
して積極的に採り入れていきたい
校舎の電力データをベンチマーク
ですね」
として活用。新校舎の効率的な運
営をめざし、準備が進められてい
空調機器の効率的な運転で
大幅な省エネを実現
『 H - N E T 』が収集したデータを
解析し、次世代の省エネを研究す
る段階へと進み始めた、神奈川工
科大学の「学内電力見える化シス
テム」。その導入効果は、早くも実
を結んでいます。
神奈川工科大学の管財課では、
『 H - N E T 』からのデマンド警報出
力接点を用い、空調機器のデマン
ド制御として活用、既に実施。電
気使用量の約 5 0%を空調、1 6 % を
照明が占めることから、空調機器
を効率的に運転することで、節電
日立産機システム 製品関係者から一言
(株)関東日立 東京支社
産業システム部 第一グループ 課長代理
お か べ
ひであき
岡部 英明
節電への取り組みで学内電力見える化に、H-NET をご採用頂き誠
にありがとうございます。H-NET をご活用いただき、クラウドを
利用した見える化や空調のデマンド制御をしての ECO 活動に寄
与できて嬉しく思います。今後の神奈川工科大学様のために、更
なる省エネのご提案でお役立ちができれば幸いに存じます。
(株)日立産機システム 営業統括本部 ソリューション営業統括部 環境・省エネソリューションセンタ 兼 産業システム営業部 部長代理
よしざき
あ き お
吉崎 昭男
神奈川工科大学様の H-NET の活用方法は、
「学生によるシステム
の開発」
、
「クラウドの利用」
、
「電力データのベンチマーク化」等々、
従来には無い切り口でした。今後も関東日立と連携をとり、省エ
ネPDCAサイクルの継続的、かつスパイラル状の推進的な運用
の一助となるようお手伝いしたいと思います。
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