免震構造の設計

免震構造の設計
環境建設技術系 松本 英敏
【応答特性の評価】
建物下部にアイソレータとダンパーを配置した免震層を有する建物では、この2つのみが地震
エネルギーを吸収すると考えれば、エネルギーの釣り合い式は
We (t ) + W p (t ) = E (t ) (1)
We(t)はアイソレータの弾性歪みエネルギー、Wp(t)はダンパーの吸収エネルギー、E(t)は地震
によるエネルギー入力である。 免震層が最大変位となる時刻を tm とすれば、それぞれのエネ
ルギーは次式で与えられる。
2

1
M  2π
2
δ max 
We (t m ) = K f δ max =

2
2  T f

W p (t m )= s Q y ⋅ S δ p = κ ⋅ s Q y ⋅ δ max (2)
E (t m ) =
1
M ⋅ V E2
2
ただし、
T f = 2π M
Kf
:免震周期
s δ p = κ (δ ave − s δ y ) = κ ⋅ δ max if δ ave >> s δ y then δ ave = δ max
2E
:等価速度 第1種:120 第2種:150 第3種:200cm/s
M
V E =
またアイソレータとダンパーのせん断係数は
α f =
f
Qmax
W
=
f
Qmax
M ⋅g
, α s =
s Qy
W
=
s Qy
M ⋅g
(3)
式(2),(3)を式(1)に代入すると
2
M
2
 2π

 δ max  + 8Mgα s δ max = M VE2 ただし、 κ = 8
 Tf

2


2


 + 16 gα s δ max = VE2 (4)
4π
 Tf 


これを α s について解くと
2  δ max
α s =
VE2 − 4π 2 (δ max / T f ) 2
16 gδ max
(5)
免震層のベースシヤ係数 α1 は式(3)の α f =
f
Qmax
M ⋅g
=
K f δ max
2
2
2
4π 2 δ max VE − 4π (δ max / T f )
α 1 = α f + α s =
+
g T f2
16 gδ max
=
2
2
− 4π 2δ max
64π 2δ max
16 gδ maxT f2
+
VE2
16 gδ max
M ⋅g
=
4π 2δ max
g ⋅Tf 2
を用いて
V E2
15π 2 δ max
=
(6)
+
4 g T f2
16 gδ max
Base Shear Coefficient α 1
式(6)を図化したものが図1である。
0.3
0.2
0.1
0
0
10
20
30
40
50
60
Displacement δ max(cm)
図1 ベースシヤ係数と最大変形量の関係
式(6)より、α1 が極小値をとるときの最大変形量及びアイソレータ、ダンパーのせん断係数は、
∂α1
V E2
15π 2 1
=
−
=0
2
∂δ max
4 g T f2 16 gδ max
2
δ max (α 1min )
=
T f2VE2
60π 2
∴ δ max (α1min ) =
α s に δ max を代入すると
VE2
α s (α 1 min ) =
2 15π
≈ 0.00411T f V E


 4 ⋅ 15π 2T f2 

 = 7π V E ≈ 0.00145 V E (7)
Tf
 T f VE 
4 15 g T f

16 g 

 2 15π 
− 4π

T f VE
2
T f2VE2
また α f に δ max を代入すると
α f (α 1max ) =
V
4π VE
8π VE
=
≈ 0.00165 E
g T f 2 15 4 15 g T f
Tf
よって α 1min = α f (α 1min ) + α s (α 1 min ) =
V
15π VE
≈ 0.0031 E (8)
Tf
4 15 g T f
図2は、式(7)の δ max (α 1min ) と式(8)の関係を図化したものである。
両者の関係は、 T f が一定の場合
α 1min =
15π 2
δ max
2 gT f2
直線であり、 V E が一定の場合
α 1min =
VE2 1
8 g δ max
となり、双曲線になる。
Base Shear Coefficient α 1min
0.3
0.2
0.1
0
0
10
20
30
40
50
60
Displacement δ max( α 1 min) (cm)
図2 ベースシヤ係数の極小値と変形量の関係
【転倒限界の評価】
上部構造を高さ H、幅 B の剛体と仮定したときの建物の転倒について検討する。積層ゴムが
幅 B 内に均等に m 列配置されているとした場合、転倒モーメントの作用により最外縁の積層ゴ
ムの圧縮応力度が 0 となるときのせん断係数α0 は次式になる。
α 0 =
2  (m − 2)(m − 3)  B
但し、m≧2 (9)
1+
m 
6(m − 1)  H
式(9)で m=∞とすれば
α 0 =
B
3H
m=3∼20 の範囲では、式(9)に代入すると
α 0 = (0.67 ∼ 0.38)
B
であり、平均的に α 0 = B
2H
H
とすることができる。
以上より、H/B の限界は α 0 = a ⋅ α1 、 a = 1.5 として
4g T f
B
3 15π VE
H 4 15 g T f
→ (10)
=
=
=
B 3 ⋅ 15π VE 3 15π VE
2 H 2 4 15 g T f
H/B の限界は T f に比例して大きくなる。T f は積層ゴムの面圧に大きく依存(後述)しており、
これを適切に設定することにより超高層建物への免震構造の適用も耐震的に十分可能である。
【積層ゴムの性能評価】
積層ゴムの水平剛性 K f は次式で算出できる。
Q = K f ⋅ δ , γ =
K f
K f ⋅δ
δ τ
Q
= =
=
h G G⋅A G⋅A
G⋅A
G⋅A
γ =
(11)
=
δ
h
A
Q
h
ダンパーを無視したときの免震建物の周期 T f は
T f = 2π M / K f (12)
W M ⋅g
面圧の平均値を σ =
とすれば T f は
=
A
A
D
δ
T f = 2π
Aσ / g
1 h
σ (13)
= 2π
GA / h
gG
となる。式(13)より、免震構造の性能向上をはかるためには、全ゴム厚 h を厚くするか、
面圧を高くするか、柔らかいゴム材料を使用することが有効である。
最後に、積層ゴムの形状を決定するパラメータとして直径 D、ゴムの1層厚、及びゴム層数で
ある。これらは1次形状係数 S1 と2次形状係数 S2 としてまとめられる。
1次形状係数 S1 は主に鉛直・曲げ剛性に関係しており
S1 =
D
ゴムの拘束面積(受圧面積)
(14)
=
4 ⋅ t R ゴム1層の自由表面積(側面積)
S1 が大きいほど変形拘束効果をもたらす。2次形状係数 S2 は主に座屈荷重や水平剛性に関係
しており
S 2 =
D ゴムの直径
=
(15)
h 全ゴム層厚
S2 は安定性に関するパラメータであり、ゴムの厚みを増せば S2 は小さくなり、鉛直荷重支持
能力の喪失と鉛直沈み込み量が増大する。S2 は5程度以上を目標にする。
【設計例】
(1)建物概要
用途:電算センター
規模:地上8階(31.4m) 建築面積 1,188m2
延べ面積 9,828m2
(2)免震部材の計算
①建物与条件
地震時建物総重量 WE=9,800t
建物高さ H =31.4m
上部構造固有周期 TB=(0.02+0.01α)H=(0.02+0.01*0.5)31.4=0.79sec
地盤種別 第2種(VE=150cm/s)
単位面積当たりの重量 WL=1.05t/m2
設計クリアランス cδa=40cm
③設計目標値の仮定
図3より次の目標値を仮定する。
免震最大変位 dδmax=27
ベースシア係数 dα1=0.13
免震建物の周期 dTf=3.8
ダンパーの降伏せん断力 dαs=0.050
0.3
Base Shear Coefficient α 1
②設計方針・目的
設計用速度エネルギー換算値 VE=150cm/s
設計ベースシヤ係数 αa=0.15
設計変位 δa=30cm
免震建物周期 Tf=3.8sec
ダンパーの降伏せん断力 αs=0.050
鉛直方向固有振動数 fV=15Hz
0.2
0.1
0
10
20
30
40
50
60
Displacement δ max(cm)
図3 第2種地盤におけるベースシヤ
係数と免震層変位の関係
また、図3の変わりに計算すると
70
(1) 免震建物の周期 T f =3.8、ダンパーのせん断力 α s =0.05、 V E =150 を与える。
(2) α 0 = 2πV E /(T f ⋅ g ) =0.253
(3) a = 8α s / α 0 =1.581
(4) α f = α 0 ( −a +
a 2 + 1) =0.0733
(5) δ max = T f ⋅ α f ⋅ g / 4π =26.27
2
2
(6) α1 = α f + α s =0.123
ほぼ、設計目標値の仮定通りとなる。
④免震層の特性値の設定
積層ゴムの水平剛性 K f =
積層ゴムの鉛直剛性 K V =
4π 2WE
g
⋅ T f2
=
4π 2 ⋅ WL
4π ⋅ 9800
= 27.3
980 ⋅ 3.8 2
=
4π 2 ⋅ WL ⋅ f V2 4π 2 ⋅ 9800 ⋅ 15 2
=
= 88,826
g
980
g ⋅ TV2
ダンパーの降伏せん断力 Q y = d α s ⋅ W E = 0.05 ⋅ W E = 490
⑤免震部材の計算
天然ゴム系積層ゴムアイソレータと鋼棒ダンパーの組み合わせとする。
イ)積層ゴムアイソレータ
・面圧 100kg/cm2
・直径 700φ
・2次形状係数 4∼5
・柱 28 本
・積層ゴム1個 336t
・面圧の平均 336/(π・D2/4)=87kg/cm2
・ゴムのせん断弾性係数 G=4.0kg/cm2
ゴムの層厚は式(11)より h =
G ⋅ A 4.0 ⋅ 35 2 ⋅ π ⋅ 28
=
= 15.8
27.3 ⋅ 1000
Kf
・ゴムの厚さ 5mm
15.8
= 31.6 = 32 , h = 0.5 * 32 = 16.0
0.5
G ⋅ A 4.0 ⋅ 35 2 ⋅ π ⋅ 28
よって水平剛性は K f =
=
= 26.9
h
16 ⋅ 1000
式(15)の S2 は S 2 = D / h = 70 / 16 = 4.375
ゴムの枚数は n =
で目標値の範囲内である。
また S1 は S1 =
D
70
=
= 35
4 ⋅ t R 4 ⋅ 0.5
鉛直剛性は式(11)の鉛直版として下記の式となり
3G (1 + 2κ ⋅ S12 ) Eb π ⋅ D 2
3 ⋅ 4 ⋅ (1 + 2 ⋅ 0.85 ⋅ 35 2 )20000 3.14 ⋅ 70 2
=
= 2671
3G (1 + 2κ ⋅ S12 ) + Eb 4 ⋅ h
3 ⋅ 4 ⋅ (1 + 2 ⋅ 0.85 ⋅ 35 2 ) + 20000 4 ⋅ 16.0 ⋅ 1000
K V = 2671 ⋅ 28 = 7478
K Vi =
・変形能力 fδa は、700φの半分の 35cm とする。 fδa≧δa ok
・線形限界変位はゴム層厚の 250%とすると 16・2.5=40cm≧ fδa ok
ロ)ダンパー
・降伏せん断力・変位 降伏せん断力:21tf 変位:3cm
・個数 490.0/21=23.3 → 24 個
・変形能力 fδa=40cm≧ δa ok
⑥特性値の確認
ok
・ 0.9Kf≦Σkfi≦1.1Kf 0.9・27.3=24.6≦26.9≦1.1・27.3=30.0
・ 0.8KV≦ΣkVi≦1.2KV 0.8・88826=71061≦7478≦1.1・88826=106591 ok
・ 0.9Qy≦Σqyi≦1.1Qy 0.9・490=441≦504.0≦1.1・490=539.0 ok
⑦応答予測
図3を作る要領で
WE
9800
= 2π
= 3.83
g⋅Kf
980 ⋅ 26.9
・ T f = 2π
・ α s = 504.0 / 9800 = 0.051
・ α 0 = 2πV E /(T f ⋅ g ) = 0.251
・ a = 8α s / α 0 = 8 ⋅ 0.051 / 0.251 = 1.625
・ α f = (−a +
a 2 + 1)α 0 = (−1.625 + (−1.625) 2 + 1)0.251 = 0.071
・ α 1 = α f + α s = 0.071 + 0.051 = 0.122
・ δ max = T f ⋅ α f ⋅ g / 4π
2
2
= 3.832 ⋅ 0.071 ⋅ 980 / 4π 2 = 25.9
下表は上記の積層ゴムの剛性 K f = 26.9
− 10%,0%,20% に変化させ、
ダンパーの降伏せん断係数 α s = 0.051 − 10%,0%,10% に変化させた組み合わせである。
表1 応答予測結果
積層ゴム -10%
積層ゴム
0%
0.116
0.115
ダンパー -10% α1
28.3
25.9
δmax
0.123
0.122
ダンパー 0% α1
28.1
25.9
δmax
0.137
0.135
ダンパー 10% α1
27.6
25.3
δmax
積層ゴム 20%
0.115
23.8
0.122
23.7
0.134
23.4
⑧設計クライテリアの確認
免震層の最大変位は、表1より δ max = 28.3 ≤ δ a = 30 であり満足する。
せん断力係数は 表1より α 1 = 0.137 ≤ α a = 0.15 であり満足する。
【参考文献】
・基礎絶縁型免震構造の可能性について 高山、北村、多田 日本建築学会大会学術講演会
概要集 1993.9
・免震構造の現状と今後 高山峯夫 日本建築学会大会 PD 資料 2000.9
・やさしい免震構造の設計(案) 日本免震構造協会 技術委員会 1994.8