Title 床反力からみた中学陸上競技者のシンスプリント発症に 関する前方

Title
床反力からみた中学陸上競技者のシンスプリント発症に
関する前方視的研究( fulltext )
Author(s)
持田,尚; 吉久,武志; 小林,匠; 鈴川,仁人; 有吉,正博; 中嶋,寛
之
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学校教育学研究論集(23): 97-106
2011/3/31
http://hdl.handle.net/2309/108431
東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科
床反力からみた中学陸上競技者のシンスプリント発症に
関する前方視的研究
持田 尚*,吉久 武志**,小林 匠***,
鈴川 仁人****,有吉 正博*****,中嶋 寛之******
1.はじめに
「跳ねたり」
、
「走ったり」するような運動や、それらの
運動要素を含むスポーツを繰り返し行ったとき、下腿に
痛みが生じることがしばしば認められる。身体運動によ
り誘発される下腿内側の痛みは、いわゆるシンスプリン
ト(shin splints)と呼ばれ、邦語では「過労性脛部痛」と
されている(日本臨床スポーツ医学会編,2008)
。シンス
プリントは疲労骨折と異なりレントゲンで変化が起こら
ず、一般的にありふれたスポーツ障害で軽症との認識が
ある(内山,2006)
。そのため対処が不十分となり、慢性
化した強い運動障害となる例があることから、シンスプ
リントを軽んずる認識は問題だと内山(2006)は指摘し
図 1 .MTSSのMRI所見
撮影:横浜市スポーツ医科学センター
ている。また、シンスプリントは再発しやすく(Hubbard
et al, 2009)
、時間的経過により疲労骨折へ進展移行する
という報告(Clement, 1974, Mubarak et al, 1982)があるこ
とを考慮すると、成長期における運動・スポーツ指導で
に炎症や損傷の所見が見られ(図中矢印)
、原因として
はシンスプリント発症には十分注意を払うべきであろう。
ヒラメ筋・長趾屈筋・後脛骨筋など下腿内側筋群の疲労
シンスプリントの発生要因は、MR 画像(図 1 )で観察
による伸張性の低下や足部の過回内によるストレス、足
されるように、脛骨後内側の筋膜と骨膜との境界部付近
部の疲労による衝撃緩衝能の低下などが考えられている
* もちだ たかし 東京学芸大学大学院 連合学校教育学研究科 健康・スポーツ系教育講座,横浜
市スポーツ医科学センター
** よしひさ たけし 横浜市スポーツ医科学センター
*** こばやし たくみ 横浜市スポーツ医科学センター,広島国際大学 医療・福祉科学研究科 医療工
学専攻
**** すずかわ まこと 横浜市スポーツ医科学センター
***** ありよし まさひろ 東京学芸大学教育学部 健康・スポーツ科学講座
****** なかじま ひろゆき 横浜市スポーツ医科学センター
キーワード:シンスプリント/中学生/陸上競技/床反力/前方視的研究
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学校教育学研究論集 第 23 号 (2011 年 3 月)
(Beck et al, 1994)
。しかしながら、疼痛発症部位と脛骨の
が挙げられる。足部に対する床反力の作用が下肢骨およ
筋付着部との解剖学的関係から(図 2 )
、筋の張力が原因
び周辺組織への負荷としても関与する可能性は高いもの
とする考えに否定的な意見もある(萬納寺,1996)
。また、
の、シンスプリント発症との関係について検討した報告
バイオメカニカルな観点からランニングによる足関節運
は見当たらない。
動で脛骨下1/3 後内側部への直接的負荷が高まることが
また、関節の柔軟性や片脚支持機能(身体要因)は、
原因ではないかという意見もある(萬納寺,1996)
。以上
床反力が関節を介して関与する生体組織への負荷に影響
のように、シンスプリントの発生要因については、足部・
をおよぼすと推測される。さらにそれらは、ランニング
下腿筋群の耐疲労性能力、足部過回内動作による後脛骨
フォームにも関わる要素でもある。
筋などへのストレス、解剖学的・動作的特徴による脛骨
そこで、本研究では「シンスプリント発症者のランニ
への力学的ストレスなどが考えられている。近年、シン
ング中の床反力は大きい」という仮説を検証することを
スプリントに対し MRIで、骨膜、骨髄の質的変化を捉え
目的とし、関節の柔軟性や筋力といった身体要因と関連
る試みが行われている。それによるとシンスプリントと
付けて検討することでシンスプリント予防に資する基礎
はいっても骨髄内に浮腫、出血していることが推測され
的知見を得ようとするものである。
る高信号域(T2 強調、脂肪抑制法)が確認され、疲労
骨折の前駆状態を含むケースがあることが分かってきた
2.方法
(奥脇,2005・土肥,2003)
。よって、シンスプリントは
1 )対象者および前方視的調査の方法
相対的に過剰な力学的負荷が関節・骨に対して繰り返し
加わり、それによって生じる疾患といえる。ランニング
横浜市中学校の陸上競技部へ入部した新 1 年生 77 名
中に作用する最も代表的な外力の一つとして、
「床反力」
(男43 名、女 34 名)を対象とし、入部手続き終了後の 5
月、6 月に調査を開始した。測定に先立ち、シンスプリ
ント発症の有無を確認したところ、既に10 名(男 3 名、
女 7 名)の発症者が確認された。それを除く、シンスプ
リント既往の無い67 名を対象に、身体機能測定および
走行の床反力計測を実施した。その後 8 月までの通常練
習において下腿内側後縁に痛みを訴えた者をMedial tibial
stress syndrome 発症者(以下、MTSS(+)と略す)とし、
痛みが生じなかった者(以下 MTSS(-)と略す)と各種
計測データについて比較した。尚、痛みの程度および発
症部位については、Walsh et al(1990)による疼痛 stage 分
類(表 1 )に基づいてトレーニング現場にて直接確認し
た。
測定に関する同意は、本人およびその保護者から得た。
事前に各学校の部活動担当教員より測定の趣旨を説明し
てもらい、研究内容の要点を分かりやすく記載した説明
書を自宅へ持ち帰ってもらった。そして保護者とともに
熟考してもらい、研究内容および不参加の自由について
確認が得られた上で、対象者の意思において研究参加の
図 2 .脛骨の筋付着部(右)
了承を得たものに対して測定を行った。
→:疼痛発症部位 萬納寺(2006)より許諾を得て転載.
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床反力からみた中学陸上競技者のシンスプリント発症に関する前方視的研究
表 1 .Walshら(1990)による疼痛Stage分類
分類
内容
Stage 1
運動後にのみ疼痛あり
Stage 2
運動中に疼痛あるが,スポーツ活動に支障なし
Stage 3
運動中に疼痛あり,スポーツ活動支障あり
Stage 4
安静時にも慢性的な持続する疼痛あり
2 )対象者の特徴
NDSと略す)③柔軟性(各関節可動域)④股関節外転筋
中学 1 年生の初期段階におけるトレーニングは、個々
力(Hip abductor torque;以下 HATと略す)
。
の種目適性を見極める時期にあり全般的な内容が実施さ
BMIは身長と体重から求める指数であり、次の式(1)
れる。よって対象者は専門化された偏ったトレーニング
により求めた。
は実施しておらず基本的には全員類似したトレーニング
BMI (kg/m2) = 体重 (kg)/ (身長 (m) 2)
を実施していたとみなせる。MTSS(+)は、チームとし
(1)
ての練習が開始されて 3 ヶ月以内に発症した者であり、
初期トレーニングによる発症者と特徴付けられる。尚、
NDSは、足部舟状骨の高さを、非荷重時(椅子に座っ
トレーニングは基本的には学校のグランド(土)で行わ
ている時)と荷重時(両足立位時)で計測し、その差
れていた。よって、本研究対象者においては環境要因、
分(mm)を求めることで評価した(図 3:Shrader et al,
トレーニング要因の差異はほとんどみられないと思われ
2005)
。差分が大きいことは、荷重時における足アーチの
る。
たわみが大きいことを表し、
「柔らかい足」と分類される。
そして荷重時の足関節回内の度合いが大きいとされる。
3 )身体機能検査と走行の床反力計測
一方、差分が少ない場合は、荷重時のたわみが少ないこ
走フォームや足機能に影響をおよぼすと考えられる個
とを意味し、
「硬い足」と分類され、荷重時の足部回内の
体の要因(身体要因)を検討するため、次の身体機能検
程度が少ないとされる。後方視的研究によると、シンス
査を実施した。①体型(Body Mass Index;以下 BMIと略
プリント発症者は荷重時のアーチの低下が大きい傾向で、
す)②足アーチの保持機能(Navicular Drop Score;以下
走行中の足部の回内が大きい傾向にあると報告していて、
図 3 .Navicular Drop Scoreの計測方法
Shraderら(2005)より許諾を得て転載.
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学校教育学研究論集 第 23 号 (2011 年 3 月)
シンスプリント発症の危険因子(身体要因)の一つとさ
れている(Messier and Holder, 1988・Sommer et al, 1995・
Viitasalo and Kvist, 1983)
。
柔軟性の測定は、足関節、股関節周りの関節可動域を
計測した。足関節背屈の柔軟性は荷重による下腿前傾角
度で示した。地面と下腿のなす角度( 0 ~ 90 度)を計
測することで求め、数値は小さいほど足関節背屈の柔軟
性が高いことになる。股関節周りは、腹臥位・膝関節伸
展位による股関節伸展(Hip ioint extension;以下 HEと略
す)
、背臥位・膝関節屈曲位による股関節屈曲(Hip joint
flexion;以下 HFと略す)角度、背臥位・膝関節伸展位に
よる股関節屈曲、いわゆる下肢伸展位挙上(Straight Leg
Raising(坂上,2000)
;以下SLRと略す)角度、そして腹
臥位・股関節内旋(Hip joint internal rotation;以下 IRと略
す)
・外旋(Hip joint external rotation;以下 ERと略す)角
度を計測した。股関節周りの関節可動域については、数
値が小さいと、それぞれの柔軟性が低いということとな
る。計測は機能解剖学に精通した理学療法士が行った。
尚、計測方法の統一性を保つため全て同一の検者が計測
した。
図 4 .走行の床反力測定風景
HAT がランナーのスポーツ障害に関連しているとの報
告(Fredericson et al, 2000)や着地動作に影響をおよぼ
しているとの報告(Jacobs et al, 2007)があるなど、股関
で走行し、2 枚のフォースプレート上にそれぞれ片足が
節外転筋機能と片脚支持機能との関連性が注目されてい
着地するよう数回繰り返し練習した後、計測を行った。
る。本研究においても走フォームとの関連を検討するた
各試技において、シューズがフォースプレートに接触し
め計測した。
筋力の計測には徒手筋力計測装置(HOGGAN
ている間の床反力を計測した(サンプリング周波数:
Health Industries 製 MicroFET TM)を用いた。被験者は側
1000Hz)
。フォースプレートからの出力は、8 チャンネル
臥位となり股関節解剖学的ゼロポジションでのアイソメ
チャージアンプ(キスラー社製 9865C 型)に入力し、そ
トリックによる最大筋力(股関節外転)を発揮させた。
の出力からAD 変換器(キスラー社製 5606A 型)を介し
測定は 3 回行い最大値をその人の代表値とし、身長(以
てコンピュータに取り込んだ。この際、明らかに不自然
下、Height;Htと 略 す )と 体 重( 以 下、Body Weithg;
な歩幅や速度調節があった試技や、フォースプレート前
BWと略す)で除し標準化した(標準化単位:%BW×
後 2.5m の走速度が既定速度±10%の範囲外であった試
Ht)
(Fredericson et al, 2000)
。
技は無効とした。各被験者につき、成功 3 ~ 5 試技分の
走行の床反力計測は、横浜市スポーツ医科学センター
データを得ることができた。
施設内の常設簡易走路(20m)の中間点に設置された 2
枚のフォースプレート(キスラー社製 9287A 型)を使用
(4)分析
して行った(図 4 )
。走速度を計測するため、フォース
シンスプリント発症者をMTSS(+)
、非発症者をMTSS
プレートの前後 2.5m間隔で 2 対の光電管を設置した。被
(-)とし、2 群間について比較検討した。比較はノンパ
験者は普段練習で使用する各自のランニングシューズで
ラメトリックな手法で中央値を比較して検定するMann-
走行してもらった。被験者が走路を既定速度(3.0m/sec)
Whitney’s U testを用いて統計的に処理した(有意水準 5
- 100 -
床反力からみた中学陸上競技者のシンスプリント発症に関する前方視的研究
%)
。以上の統計処理にはSPSS for Windows 11.0.1 J(SPSS
にしてペタンと座る動作。ちなみにあぐらは股関節外旋
Japan Inc. 製)を用いた。なお、床反力計測データについ
動作である。
)にみられる股関節の運動であり、MTSS(+)
ては、成功試技分の床反力データを体重で除し、標準化
はその可動範囲が大きかったということになる。IR 動作
した。その後、これら成功試技分のデータを積算平均法
制限因子は、坐骨大腿靭帯、関節包後部、ER 筋群である
により平均し、被験者ごとの代表値を得てから、2 群間
(中屋,2000)
。ER 筋群は、梨状筋、内閉鎖筋(上・下双
について比較検討を行った。
子筋を伴う)
、大腿方形筋、外閉鎖筋であり、その他に
強力なER 作用を有する大殿筋、内転筋群、大腿二頭筋
3.結果と考察
が関連する(Castaing et al, 1986)
。つまり、MTSS(+)の
IR 可動域が大きかったということは、拮抗するIR 作用筋
1 )シンスプリント発症状況
群(中殿筋の前方線維束、小臀筋、大腿筋膜張筋)との
調査期間中においてシンスプリントが 5 名(女性)
、疲
相対関係において、MTSS(+)は、MTSS(-)と比べて
労骨折が 1 名(女性)発症した。シンスプリント発症率
ER 筋群が弱化していたのかもしれない。佐藤ら(2008)
は7.5%であった。シンスプリントの発症足は両足が 4 名、
は、新鮮遺体の検討からER 筋群、特に梨状筋、内閉鎖
右のみが 1 名。両足発症者は全て右のほうの痛みが強
筋は HFの制限因子としている。これらの筋を切離すると
かった。よって、本研究では右脚側について検討するこ
HF 角度が顕著に増加した(佐藤ら,2008)ということか
ととした。Walshら(1990)による疼痛ステージで分類す
らも、MTSS(+)の HF 角度が大きかったということは、
ると、ステージ 1(運動後にのみ疼痛あり)は 0 名、ス
これもER 筋群が弱化していたことによるものと推察され
テージ 2(運動中に疼痛あるが、スポーツ活動に支障な
る。また、SLR 角度が大きいということは、制限因子と
し)が 1 名、ステージ 3(運動中に疼痛あり、スポーツ
なるハムストリングス(半膜様筋、半腱様筋、大腿二頭
活動支障あり)が 2 名、そしてステージ 4(安静時にも
筋)に柔軟性があることを意味し、大腿二頭筋を含むこ
慢性的な持続する疼痛あり)が 2 名であった。なお、疲
とから、これもER 筋群の弱化と関連している可能性が考
労骨折者は疼痛が激しく、局所的な痛みを伴い明らかに
えられる。以上、柔軟性の検討から、シンスプリント発
シンスプリント発症者と症状が異なるため、分析対象か
症との関連を考えると、IR 角度とHF 角度および SLR 角
ら除外した。よって、MTSS(+)5 名とMTSS(-)61名
度が大きいという身体的特徴が、下腿への負荷を相対的
について比較検討した。
に高めてしまうような悪いランニングフォームとなって
しまい、直接的に負の影響をおよぼした可能性や、ER筋
2 )MTSS発症者の身体機能について
群やハムストリングスの弱化といった筋機能不全が誘因で
表 2 に身体機能検査に関する 2 群間比較の結果を
下腿への負荷を相対的に高めた可能性などが考えられる。
示す。BMI、NDS、下腿前傾角度、HATについては両
後方視的研究からシンスプリント発症の危険因子
群間で有意な差は認められなかった(n.s)
。いっぽう、
とされているNDSについて検 討したところ、本 研 究
MTSS(+)は IR 角度とHF 角度および SLR 角度が大きく
ではシンスプリント発症との関連性は認められなかっ
(p<0.01)
、股関節周りの柔軟性が高いという身体的特徴
た。Plisky et al(2007)のクロスカントリーランナーを
がみられた。IRとは、いわゆる女の子座り(両膝を内側
対象とした前方視的調査でも、シンスプリント発症と
表 2 .身体機能検査の結果(平均値±標準偏差)
BMI
NDS
下腿前傾角度
HE 角度
HF 角度
IR 角度
ER 角度
SLR 角度
HAT
(kg/m2)
(mm)
(度)
(度)
(度)
(度)
(度)
(度)
(%BW×Ht)
MTSS (+) n = 5
17.7±1.3
9.8±4.0
43.3±8.1
14.0±4.2
109.0±6.5
67.0±7.6
34.0±7.4
66.0±6.5
21.4±2.4
MTSS (-) n = 61
18.2±2.6
8.5±3.0
49.9±6.0
14.0±4.0
88.4±10.9
48.9±9.4
42.2±10.0
50.5±8.1
23.7±5.0
n.s
n.s
n.s
n.s
p<0.01
p<0.01
n.s
p<0.01
n.s
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学校教育学研究論集 第 23 号 (2011 年 3 月)
㪉
NDSとの間に関係性は認められていない。本研究にお
㪣㪸㫋㪼㫉㪸㫃
けるシンスプリント発症者の NDSは発症前の状態を表
㪤㪫㪪㪪䋨䋭䋩㩷㫅㪔㪍㪈
㪤㪫㪪㪪䋨䋫䋩㩷㫅㪔㪌
㪈
㪝㫆㫉㪺㪼㪲㪥㪆㫂㪾㪴
していて、発症後のものではない。NDSは足部内側縦
アーチの保持機能の状態を評価しているものであり、
発症前と発症後ではその状態に違いのある可能性が高く、
異なった見解になったと考えられる。 本研究の結果を踏
㪇
㪄㪈
まえ、予防という観点から鑑みると、既往歴の無い者を
㪤㪼㪻㫀㪸㫃
㪄㪉
対象とした場合、NDSは必ずしもシンスプリント発症の
㪍
㪘㫅㫋㪼㫉㫀㫆㫉
㪝㫆㫉㪺㪼㪲㪥㪆㫂㪾㪴
危険性を予測できる因子とは言えないと思われる。
3 )MTSS 発症者のランニング中の床反力パターンにつ
いて
図 5 に床反力 3 成分(側方成分、前後成分、鉛直成分)
㪊
㪇
㪄㪊
の平均波形をMTSS(+)とMTSS(-)に分けて示す。そ
㪧㫆㫊㫋㪼㫉㫀㫆㫉
れぞれの時系列データは、着地を0%、離地を100%とし
㪄㪍
㪊㪇
て標準化した時間 1 %ごとに採取した100 サンプルをそ
㪬㫇㫎㪸㫉㪻
れぞれで加算平均した値とその標準誤差で示し、標準化
㪝㫆㫉㪺㪼㪲㪥
㪥㪆㫂㪾㪴
された時系列ごとに両者間で比較検討した。
本研究では、足部に対する床反力の作用が下肢骨およ
び周辺組織への負荷としても関与する可能性は高いと考
㪉㪇
䂓
㪑㫇㪓㪇㪅㪇㪌
㪈㪇
え、
「シンスプリント発症者のランニング中の床反力は大
きい」という仮説を立て検証した。その結果、床反力3
㪇
成分についてみてみると、MTSS(+)のほうが MTSS(-)
に比べて特に高いということはなかった(図 5 )
。しかし
㪛㫆㫎㫅㫎㪸㫉㪻
㪇
㪉㪌
㪌㪇
㪫㫀㫄㪼㪲㩼㩷㫆㪽㩷㫊㫋㪸㫅㪺㪼㪴
㪎㪌
㪈㪇㪇
図 5 .床反力3成分の平均波形(平均値±標準誤差)
ながら、鉛直成分において着地直後(15 ~ 17%)の波形
パターンに統計的に有意な違いがみられた(p <0.05)
(図
し生体内力の推定などバイオメカニクス的に発症要因を
5 下段)
。これは、MTSS(+)の平均波形で、着地直後の
検討していくことが求められるだろう。
標準誤差が大きいことから分かるように、MTSS(-)に
比べて、着地直後のインパクト出現が全体的に早めで
4.まとめ
あったり、大きさにばらつきがあったことなどが原因で
あったと考えられる。また、統計的に有意な差は認めら
本研究では、シンスプリントは相対的に過剰な力学的
れなかったものの、側方成分、前後成分の波形について
負荷が関節・骨に対して繰り返し加わり生じる疾患と捉
みても同様に着地直後の波形パターンに違いがみられた
え、
「シンスプリント発症者のランニング中の床反力は大
(図 5 上・中段)
。このように着地直後において、着地衝
きい」という仮説を立て検証し、関節の柔軟性や筋力と
撃力の大きさではなく、床反力波形パターンが異なって
いった身体要因と関連付けて成長期陸上競技者における
いたという現象は、シンスプリント発症には、着地時の
シンスプリント発症の要因について前方視的に検討した。
荷重の受け方といった着地のスキルが影響していた可能
その結果、次の知見が得られた。
性を示唆するものである。
① 本研究におけるシンスプリント発症率は7.5%で
今後は、身体要因と関連付けながら、着地衝撃の受け
あった。仮入部中の運動により測定前に既に発症
方など、ランニングフォームについて運動力学的に解析
した者10 名を加えると、19.5%の発症率であった。
- 102 -
床反力からみた中学陸上競技者のシンスプリント発症に関する前方視的研究
② シンスプリント発症者はIR、HF、SLR での柔軟性
496.
7 ) Jacobs, C.A., Uhl, T.L. , Mattacola, C.G. , Shapiro, R.
が高く、IR、HF 動作制限因子であるER 筋群と、
ハムストリングスが弱化していた可能性が示唆さ
, Rayens, W.S. (2007) Hip abductor function and lower
れた。
extremity landing kinematics: sex differences. J Athl
③ 既往歴の無い者を対象としたとき、NDSは必ずし
Train;42, 76-83.
8 ) 萬納寺毅智(1996)過労性脛部痛(シンスプリント)
,
もシンスプリント発症の危険性を予測できる因子
整形外科 痛みへのアプローチ 下腿と足の痛み(寺
とは言えなかった。
山和雄,片岡 治 監修)
,南江堂,東京,220-222.
④ シンスプリント発症者のランニング中の床反力は
9 ) Mubarak, S. J., Gould, R. N., Lee, Y. F., Schmidt, D. A.,
大きいとは言えず、仮説は立証されなかった。
⑤ 鉛直成分において着地直後における波形パター
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ンに違いがみられた。また、統計的には有意でな
かったが、側方成分、前後成分についても同様に
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10) Messier, S. P., Pittala, K. A. (1988) Etiologic factors
着地直後における波形パターンが異なっていた。
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シンスプリント発症には、着地時の荷重の受け方
Exerc; 20, 501-505.
といった着地のスキルが影響していた可能性が示
11) 中屋久長(2000)関節と機能,理学療法ハンドブッ
ク[改訂版第 3 版]第 1 巻 理学療法の基 礎と評
唆された。
価(細田多穂,柳澤健・編集)
,協同医書出版,東京.
⑥ 今後は、着地衝撃の受け方など、ランニングフォー
141-163.
ムを運動力学的に解析し生体内力の推定などバイ
オメカニクス的に発症要因を検討していくことが
12) 日本臨床スポーツ医学会編(2008)臨床スポーツ医
求められるだろう。
学用語集,全日本病院出版会:東京,349.
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- 103 -
学校教育学研究論集 第 23 号 (2011 年 3 月)
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- 104 -
床反力からみた中学陸上競技者のシンスプリント発症に関する前方視的研究
Factors Contributing to the Development of Medial Tibial Stress Syndrome
in Junior High School Track and Field Athletes: A prospective Investigation
Takashi MOCHIDA*, Takeshi YOSHIHISA**, Takumi KOBAYASHI***,
Makoto SUZUKAWA****, Masahiro ARIYOSHI*****, Hiroyuki NAKAJIMA******
The purpose of this study was to investigate the risk factors
MTSS-. Running skills may be related to the difference of GRF
for medial tibial stress syndrome (MTSS) prospectively and
and further biomechanical investigations are required.
to explore how to prevent MTSS. A total of 67 healthy junior
high school track-and-field athletes (40 male and 27 female)
underwent a physical examination to assess their Body Mass
Index (BMI), hip abductor strength, Navicular Drop Score
Key words
(NDS) and flexibility of hip joint (flexion:HF, extension:HE,
Medial tibial stress syndrome, Junior High School, Track
straight leg raising:SLR, internal/external rotation:IR/ER)
and Field, Ground reaction force, Prospective study
before the start of the athletic season. Ground reaction force
(GRF) was also measured during running at 3.0m/s.
*The United Graduate School of Education Tokyo
This study was conducted from May to August. The results
Gakugei University Division of Health and Sport
of this study indicate 5 subjects (7.5%) were affected by MTSS
Education, Yokohama Sports Medical Center
(MTSS+ group) during this study, and 61 were healthy (MTSS-
**Yokohama Sports Medical Center
group). While there was no statistical difference between
***Yokohama Sports Medical Center, Graduate
MTSS+ and MTSS- group in BMI, hip abductor strength and
Course of Medical and Welfare Science Hiroshima
NDS, angles of HF, SLR and IR were significantly greater
International University
in MTSS+ (P<0.05) group. The result suggests that hip joint
laxity could be a negative factor in developing MTSS. During
running, waveform of GRF during initial part of stance phase
(15-17% of stance time) in MTSS+ group was different form
- 105 -
****Yokohama Sports Medical Center
*****Department of Health and Sports Science, Tokyo
Gakugei University
******Yokohama Sports Medical Center
学校教育学研究論集 第 23 号 (2011 年 3 月)
床反力からみた中学陸上競技者のシンスプリント発症に
関する前方視的研究
持田 尚*,吉久 武志**,小林 匠***,
鈴川 仁人****,有吉 正博*****,中嶋 寛之******
【目的】本研究ではシンスプリント発症の身体要因と動
作要因について前方視的に検討し、予防策のための基礎
響していることを示唆するものである。今後、生体力学
的に検討していくことが必要だと考えられた。
資料を得ること目的とした。
【方法】中学陸上競技部新
1 年生(男女 67 名)を対象とし、予め形態、股関節外転
筋力、Navicular Drop Score(以下 NDS と略す)
、関節可
Key words
動域、そして走行時(3.0m/s)の床反力測定を実施した。
シンスプリント,中学生,陸上競技,床反力,前方視
測定後、トレーニング中に下腿内側に痛みを訴えた者を
的研究
Medial Tibial Stress Syndrome 発症者(以下 MTSS(+)と
略す)とし、各種計測データについて非 MTSS 群(以下、
* 東京学芸大学大学院
MTSS(-)とする)と比較した。
【結果と考察】MTSS
健康・スポーツ系教育講座
(+)は、5 名(発症率 7.5%)に認められた。形態、股関
** 横浜市スポーツ医科学センター
節外転筋力、NDS には両者間で有意差は認められなかっ
*** 横浜市スポーツ医科学センター,広島国際大
たが、MTSS(+)の股関節屈曲角度、Straight Leg Raising
学 医療・福祉科学研究科 医療工学専攻
(以下 SLR と略す)
、股関節内旋角度は有意に大きかっ
た(P < 0.05)
。また、MTSS 群の走行時床反力は、着地
**** 横浜市スポーツ医科学センター
***** 東京学芸大学教育学部
直後(15 ~ 17%付近)の波形が MTSS(-)と異なって
いた。これは、シンスプリント発症に着地のスキルが影
連合学校教育学研究科
健康・スポーツ科学講
座
****** 横浜市スポーツ医科学センター
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