「サイテクこらむ(2010/11/17掲載):脳を形成する遺伝子機構 - 埼玉大学

と
の
知 技 発信
サイ・テク
こらむ
埼玉大学・理工学研究の現場
私たちの脳が正常に働くた 生じるシグナル分泌センター
めには、脳の構造と神経ネッ が重要な役割を果たすことが
私の研究室で注目する中脳と
トワークが整然と形成される 近年明らかとなりつつある。
必要がある。
ヒトから魚まで、脊椎︵せ 後脳の境界領域︵ MHB
︶の場
きつい︶動物の種を問わず、 合、周辺神経管で中脳と小脳の
脳の発生過程は同じであり、 形成を誘導する。一般に、脳形
発生初期に表層背側領域から 成には、細胞核内にある数万か
管状の予定神経領域︵神経管︶らなる多数の遺伝子が、特定の
として生ずる。神経管はさら 発生段階、胚領域で働く︵発
に、前後に沿って前脳、中脳、現する︶必要があり、遺伝子
そして後脳という構造︵脳胞︶発現を制御する核内タンパク
に部域化し、各脳胞からは大 質︵転写調節因子︶、分泌性タ
これら調節分子間の相互調節
脳・間脳、中脳、そして小脳・ンパク質︵成長因子︶、そして
延髄が発生する。
ネットワークが重要となる。
と、 Gbx2
は MHB
の後期発生
に必要であり、これに先立つ
な脊椎動物︵哺乳類、鳥、両
生類、各種魚類︶の Fgf8
遺伝
子周辺でも見られるが、これ
現在、 MHB
発生における他
の転写調節因子、そして繊維
ていることを示した。
と、 Gbx2
タンパク質が機能と
異なる複数領域から構成され
クを垣間見ることができた。
以上の研究で、脊椎動物で共
■脳・神経疾患の病因
機構であるといえる。
ており、脊椎動物共通の分子
の位置決定には類似転写
MHB
因子である Gbx1
が関わるこ
芽細胞成長因子︵ FGF
︶等の
成長因子の役割についても明
現在、大脳と間脳を誘導す
らの DNA
領域も MHB
で遺伝
子を発現させることを確認し
らかにしつつある。
る別のシグナル分泌センター
が中脳や小脳を誘導す ︵前方神経境界︶についても、
MHB
通する脳形成遺伝子ネットワー
■脊椎動物共通
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■シグナル分泌センター
る際の分泌性シグナルは FGF 発生を支配する遺伝子ネット
の一種、 Fgf8
であり、 Fgf8
が ワークに取り組んでおり、将
■
形成
MBH
で適切な発生時期に発現 来的に、脊椎動物の脳を作り
MHB
すでに、マウス等では、
出す機構を明らかにすること
と
という2つの転 することが重要である。
Otx2
Gbx2
上の で、ヒト脳の働き、そして脳・
写調節因子が各々神経板の前 私たちは、染色体 DNA
遺伝子周辺に、この遺伝 神経疾患の病因等の理解に貢
Fgf8
方、後方で発現し、その発現
子を MHB
で活性化する DNA 献したいと考えている。
境界に
が生じること、
MHB
エンハンサー︶を ◇ ◇ ◇
この位置で新たな遺伝子ネッ 領域︵ MHB
見出した。この DNA
領域に、
)
トワークが活性化され、
MHB
等︶
の後期発生を制御することが 別の転写調節因子︵ Pax2
が結合することで Fgf8
遺伝子
わかっている。
私たちは、ゼブラフィッシュ が活性化されることも明らか
弥益 恭氏 や( ます・きょう
年生まれ。 年東京大学大
学院修了。理学博士。新技術
開発事業団︵現科学技術振興
事業団︶研究員、埼玉大学理
学部助手などを経て 年4月
より現職。専門は小型魚類を
用いた分子発生生物学、発生
遺伝学。特に脳形成の制御機
構の研究。
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を作り出す
脳の部域化には、神経管内に 私たちは、 MHB
遺伝子ネットワークの解明を
目指しており、脊椎動物脳形
成のモデルとして世界的に広
埼玉大学大学院
理工学研究科教授
より
遺伝子を同定し、 にした。
Gbx2
おもしろいことに、この
構造を決定すると共に、
Gbx2
領域とよく似た構造︵塩
DNA
が前方の脳形成を抑制するこ
基配列︶を持つ領域は、様々
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く用いられる小型熱帯魚ゼブ
ラフィッシュを材料とし、分
子生物学、発生遺伝学研究を
進めてきた。
脳を形成する遺伝子機構
弥益 恭
【4】