日本の新たな塗装文化の創出を目指し 世界屈指の技術で業界を牽引 面処理から下塗り、中塗り、ベース、トップ 度条件にも耐えねばならない。このため、表 国際供給体制を構築している企業は世界で 現在、塗料メーカーとして自動車用塗料の 「総合科学」を最先端で担う リーディングカンパニー 株式会社 代表取締役社長 酒井健二 本 社 大 阪府大阪市北区 大淀北2 1 ― 2 ― 1881年3月 (2012年3月期、連結) (2012年3月、連結) http://www.nipponpaint.co.jp/ 従業員 5762人 創 業 売上高 2223億円 日本ペイント 手で始めたいのです」と語るのは、 代目の えています。この革新のプロセスを、当社の ベーションをもたらすことはできないかと考 変わりはありません。この部分で新たなイノ 131年前と基礎的なところではほとんど 「実は、塗料の製造工程は当社が創業した 至るまで、総合的に研究を進めている。 学、溶液・固体物性予測、情報処理の分野に 投入され、有機化学から高分子化学、無機化 同社ではR&D部門に重点的に経営資源が 1881年に艦船塗具の専用工場として創業以来、 塗料業界のトップメーカーとして事業を拡大してきた日本ペイント株式会社。 2008年のリーマン・ショックにより悪化した業績は見事な回復をみせ、 今後、さらなるグローバル化と国内の販路拡大を目指す同社の戦略に迫る。 同社の前身となる光明社の創業は188 屈指の塗料メーカーだ。 たった0・1㎜の薄さに 技術が凝縮される塗料の世界 1年。明治初期、 非常に高価な輸入品であっ た洋式塗料の国産化に初めて成功した茂木 塗 料の役 目はカラー 設 計だけではない。 物体の表面に色、ツヤ、滑らかさ、模様、立体 重次郎氏が、当時の科学技術の集約の場だっ 以来、130年もの長きにわたり、日本の塗 料技術におけるパイオニアとして業界を牽引 コートと、何層にもわたって緻密に塗り重ね もわずか5社ほど。品質への要求が非常に高 80 た海 軍の専 属工場としてスタートさせた。 感などの美麗な仕上がり効果を与えるだけ でなく、周囲環境から保護し長持ちさせる 効果も求められる。 例えば自動車に使われる塗料の場合、擦 ていくことで、求められる高度な性能を実現 い故に、新規参入や事業継続が難しいのがそ 20 し続けてきた。 させていく。その薄さ、わずか0・1㎜。こ の理由だ。中でも日本ペイントの技術レベル 年ほど前に確立した3ウェット塗装シス リーディングカンパニーとしての自負がある。 の化学工業の変革を黎明期から担ってきた 長。そこには、塗料業界のみならず、わが国 トップを引き継いだ酒井健二代表取締役社 13 り傷や錆びを防ぐだけでなく、酸性雨や排 の薄い塗膜に、最先端の科学技術が凝縮され は間違いなくトップクラス。そのクオリティ 気ガスなどの汚染物質、紫外線による変色、 ているのである。日本ペイント株式会社は、 を支えるのは積極的な研究開発活動である。 では、三層に重ねた塗料が混じり合ってしま 目を浴びた。それまでの自動車の塗装工程 常に画期的な技術として国内外から熱い注 テムは、当時の自動車業界全体にとっても非 10 さらにはマイナス 〜 ℃に及ぶ過酷な温 こういった高品質の塗料を提供できる世界 Corporate Profile close up 取材・文/倉本さおり 写真/人羅秀二 写真提供/日本ペイント株式会社 2012. AUG. MiT 20 「業界のリーディングカンパニーである自覚を持ちな がらも、これまでの実績や事業にこだわらずに持続 的な成長を続けていきたい」と語る酒井健二代表 取締役社長 うのを防ぐため、乾燥工程も三回に分けてい た。そこで同社は、重なった塗料が混ざるこ となく塗膜となる技術を開発。これにより 二回目と三回目の乾燥工程の統合が可能と なり、乾燥工程が二回で済むことから、生産 性が大幅に向上した。さらに使用電力やガ スも抑えられるうえ、CO 2削減にもつなが り、環境にもやさしい。 また、粉体塗料の分野では、世界に先駆け て調色システムの開発に成功。粉体塗料は 溶媒・溶剤を使わないため環境にやさしい ばかりでなく、塗布の過程で余ってしまった 製品も粉の状態のまま回収し、再利用でき るという点が大きな特長だ。ところが、従来 品は見本にそった色調を出すまでに時間が 21 MiT 2012. AUG. 同社前身の光明社時代に、海軍塗工長の中川平吉氏によって塗られた 日本最古の塗り板色見本衝立 まうことが多いのが難点だった。この課題を かかり、色を混ぜる過程でまだらになってし 利益率は4・1%から1・5%にまで落ち セグメントの売上高は1991億円に、営業 化した。前年度に2150億円あった国内 値化し、具体的な目標を掲げることで、 年 見えないコストを徹底的にあぶり出して数 ま現状追認が続いていた。ここにメスを入れ、 込んだ。この危機を打破するため、 年4月 解決したのが同社の調色システムだ。顧客が 希望する色見本をコンピューターで分析・ に就任した酒井社長は、 年度より「サバイバ 度には 億円の販管費削減に成功。営業利 09 により、発注から納品までを大きく短縮す することで希望する色相を即時調色。これ 体質への転換というテーマだった。 略を展開した。そこで要となったのが、利益 ル・チャレンジ」と銘打った大規模な経営戦 率に関しては8・4%と、リーマン・ショッ は 年度比で122・4億円増。営業利益 改革を推し進め、 年度国内連結営業利益 益率は5・1%にまで回復した。その後も ることができる。同時に電子の力を応用し、 節電につながる遮熱塗料や、船舶の燃費を 多いメタボ体質では健全で持続的な経営な ん肥大化する傾向にありました。ぜい肉が ていた反面、比例するようにコストもどんど 消」 。危険物のため輸送が難しいうえ、そも ル事業の拡大だ。塗料は基本的に「地産地 さらなるテーマが、成長に向けたグローバ 利益を出せる体質への転換と 成長に向けたグローバル戦略 直しに努めた。とりわけ注力したのは、国内 トを含め、あらゆる経費のゼロベースでの見 構造改革を断行。役員・管理職の給与カッ 酒井社長は不退転の覚悟でコスト圧縮と 社と、世界に幅広く拠点を展開している。 同社は、北米6社、ヨーロッパ3社、アジア リスクとコストの問題が横たわる。このため 地販売しないと採算が合わない。要するに 比の3割強を自動車用塗料が占める同社は、 リーマン・ショックで煽りを受けた国内自動 08 ・7%と、競合他社と比べてかなり高い水 社国内事業の販管費比率は 年度の時点で グループの総売上高は 年度実績で368 そも単価が安く、現地で製造したものは現 改善する船底塗料など、環境の保全・改善 11 ど望むべくもありません」 08 事業の「利益が出せる体質への転換」だ。同 めるに至っている。 環境配慮型塗料への移行も進んでいる。 ク前よりも高いポイントを示している。 業界初の低汚染型粉体塗料、極 めて高い耐 汚 染 性 を 有する外 装 用 剤 などを 開 発してきたR&D 部門では、安全性、環境問題に配 慮した開発が行われている 46 「わが社の場合、 年から売上が伸び続け 測色し、その配合比率にそって各原色を混合 09 均一に色をのせる技術も向上させた。 09 に貢献する塗料は現在、全製品の %を占 01 暗雲が立ち込めたのは 年度。売上構成 97 車産業に引きずられる形で、業績が急激に悪 準にあったが、根本的な改善が図られないま 27 08 39 でのサバイバル・チャレンジの成功にあります。 いのか。その答えは過去3年間の国内事業 ないなか、どうやって事業拡大を目指せばよ ちたい。では、急激な売上の伸びが期待でき 要です。参入企業として一定の存在感も保 がないとはいえ、マーケットとしては依然重 「中国の経済成長は現在、一時ほどの伸び 動向だと酒井社長はいう。 きは、やはり中国を中心としたアジア市場の 抑えることが肝要だという。加えて括目すべ た伸びが見込める北米市場で取りこぼしを まずは、今後も自動車生産台数の安定し にものぼる。 4億円(持分事業売上含む) 11 2012. AUG. MiT 22 ライドし、最終利益を今以上に増やしてい 日本で身につけたダイエット法を中国にもス を推し進めること。自動車用塗料で培った 設計・安価調達・安価製造の「三つの安価」 今年度の中長期計画のポイントは、安価 ような体制づくりに還元していく方針だ。 高い技術力を、より安いコストで生産できる く。これが第一の戦略です」 第二の戦略は、文化的な面に即したものだ といえるだろう。実は、中国市場における同 また、自動車用・工業用塗料の顧客は、 今後間違いなく海外へとシフトすると予想 社の売上の約7割は建築用塗料 (汎用塗料) が占めている。 「中国では欧米のように、家 密に彩られている。 日本ペイントの展望は、何層にもわたって緻 して業界を挙げた新しい技術と文化の創出。 地事情に合わせたグローバル事業の展開、そ 継続的に利益を出せる体質の定着と、現 い」と意気込む。 時に、色彩の価値を訴求できる企業でありた 「日本に豊かな塗装文化を根付かせると同 目指すは色彩産業の担い手。酒井社長は ることも不可能ではありません」 全体でタッグを組めば、新たな市場を創造す し合う集合体としてなら可能なはず。業界 告を打つのは難しいですが、メーカーが協力 協力体制が必要です。自社の名前のみで広 にこだわりを捨て、企業という垣根を越えた け。そのカルチャーを浸透させるには、互い る』ことの楽しさをまだみんなが知らないだ 需要がないわけではなく、 『自分で色をのせ 化が根付いてきませんでした。でも、日本に 基本的には壁紙文化。海外と違って塗装文 「日本の住宅は古来より木造中心のため、 と酒井社長は考えている。 ここでも「建築用塗料」の需要がカギになる される。そのとき国内市場に何が残るか―― されています。これはインドや東南アジアで も同じ。このため、建築用塗料は将来的に も広範な地域で拡大が見込める分野といえ ます。新興国の自動車需要の拡大に合わせ た対応ももちろん重要ですが、建築需要は 人が暮らしている限り絶対になくならない。 今後は原材料費を抑えつつ、いかにこの分野 の売上を確保していくかがカギとなるでしょ う」と酒井社長は説明する。 日本における「塗装文化」の 創出と定着を目指して これまで同社は、その創業より技術オリエ ンテッドとして時代の最新鋭を追求してき た。反面、 「すべての製品においてオーバース ペック気味だったことは否めない」と酒井社 長は省みる。例えば、建築用塗料に自動車 用塗料と同等の素材や性能は必要ない。だ がリーディングカンパニーとしてのプライド が先に立ち、どの製品にも最高級の原料と 最高度のテクノロジーを詰め込んだ結果、価 格面では競合他社に大きく後れを取ってし まったという。 23 MiT 2012. AUG. の内壁を住人自らが塗るカルチャーが形成 自動車用塗料、工業用塗料、橋梁などの汎用塗料、道路用塗料など、 すべてにおいて環境配慮型塗料を目指している同社の製品は、海外での評価も高い
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