除斥について(PDF:814.2KB)

自治大阪2008.11月号 08.12.22 13:36 ページ 32
3)
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相談室
除斥について
質 問
他特別の関係を有する議員が、当該事件の審議に加
以下の除斥に関する質問について教えてください。
わることによって、議会がその事件について公平な
①A市議会において、市内の特定の事業者に対す
審議に基づいて議決することが困難となる場合が予
る補助金制度の創設を求める請願が提出されま
想されることから、そのような困難を排除し、議事
した。その補助金制度の対象となるB会社の取
の公平な運営を担保するためです。
締役であるA市議会議員甲は、当該請願の審議
法に基づき除斥されるのは、議会(本会議)の議
事についてですが、委員会についても同様に委員会
において除斥されますか。
②上記請願が採択され、A市議会に、新たな補助
条例で規定されているのが通例です。ここで、除斥
金制度を盛り込んだ来年度当初予算案が上程さ
される「議事」とは、議会の意思決定およびこれに
れました。甲はこの当初予算案の審議において
至る一連の過程を指すものであり、議会の意思決定
除斥されますか。
には、法上、議決という場合をはじめ、同意、許可、
③上記予算案が可決され、補助金が支出されまし
承認、認定、採決等のほか、決定も含まれます。
たが、当該補助金の支出について、A市民であ
ただし、除斥の対象となる議員でも議会の同意が
る乙から住民監査請求がなされました。この住
得られれば、会議に出席し、発言することができま
民監査請求の監査において、議会選出の監査委
す(法第117条但し書き)。このような例外が認めら
員である甲は除斥されますか。
れたのは、一般的には除斥することが適当な場合で
あっても、除斥されるべき議員の出席を認め、本人
でなければできない事情の説明や本人の弁明を求め
回 答
て事案を判断した方が、より公正となる場合がある
からです。
① 除斥されます。
また、監査委員についても除斥の制度があり(法
② 除斥されません。
第199条の2)、法第117条と同様の趣旨により設け
③ 除斥されます。
られたもので、除斥の範囲については、議長及び議
員の除斥の場合と同様と考えられます。監査委員が
解
説
1.除斥制度について
除斥に該当する場合は、他の監査委員がその職務を
行うこととなります。
地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」と
いう。)は、地方公共団体の議会の議長及び議員は、
自己若しくは父母、祖父母、配偶者、子、孫若しく
は兄弟姉妹(以下これらを「自己等」という。
)の一
身上に関する事件又は自己等の従事する業務に直接
の利害関係のある事件については、その議事に参与
することができないと規定しています(法第117条)
。
法に除斥に関する規定が設けられたのは、個々の
具体的な事件の審議について、身分上、職業上その
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2.除斥の事由
除斥の事由に該当するものとして、以下の①・②
が挙げられます(法第117条)。
①自己等の一身上に関する事件
一般的に、一身上に関する事件とは、自己等に
直接的かつ具体的な利害関係を有する事件のこと
を指します。
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②自己等の従事する義務に直接の利害関係のある
事件
ここでいう「従事する業務」とは、報酬を得
れます。
以上のことから、質問①において甲は除斥される
こととなります。
て従事する職務に限られるものでなく、名誉職
であっても、社会生活上の地位に基づいて継続
4.予算審議と除斥
的に行う業務又は事業はこれに含まれます。ま
次に、請願の審議にあたって除斥された甲が、当
た、
「直接の利害関係」については、利害はあっ
該請願の内容を実現する当初予算案の審議にあたっ
ても、それが間接的又は反射的にすぎない場合
て除斥されるか否かについて検討します。
は除斥事由になりません。
予算は一体として不可分のものであり、分割して
したがって、例えば、議員が会社の代表取締
議決されるものではなく、かつ予算の審議は議会本
役、小学校のPTA会長、任意団体である協議
来の権限であり、除斥事由に該当する部分に限り関
会の理事、農業協同組合の役員などの場合は除
係議員を除斥して審議することは事実上不可能とさ
斥の対象となりますが、会社の一般従業員や商
れています。
工会議所の議員である場合には原則として除斥
の対象となりません。
そのため、予算の審議にあたっては、直接の利害
関係を有する部分を含む予算が審議される場合であ
っても、当該利害関係を有する議員は除斥されず
3.請願と除斥
(行実昭31.9.28)
、また、直接利害関係を有する部
請願(法第124条)とは、国又は地方公共団体の機
分のみについての修正案が提出され、審議される場
関に対し、その職務に関する事項について、希望す
合にも、利害関係を有する議員は除斥されない(行
る事項を述べることです。
実昭39.1.7)と解されています。
議会において採択された請願は、措置することが
したがって、請願の審議の際には直接的な利害関
適当と認められるものについては、当該地方公共団
係を有するとして除斥された甲であっても、来年度
体の長等に送付されます(法第125条)。送付を受け
当初予算案を審議する際には除斥されないこととな
た機関は誠意をもってその処理に当たるべきですが、
ります。
必ず請願の内容に沿った措置をしなければならない
というものではありません。
5.監査委員の除斥
本件請願を審議する際に、甲が除斥の対象となる
監査委員は、地方公共団体の長が、議会の同意を
かは、2で述べた自己等の従事する義務に直接の利
得て、人格が高潔で、地方公共団体の財務管理、事
害関係に該当するかどうかを検討する必要がありま
業の経営管理その他行政運営に優れた識見を有する
す。
もの及び議員のうちから選任します(法第196条第1
会社その他の法人の関係者(役員、株主など)で
項)
。監査委員は、都道府県及び人口25万人以上の市
ある議員が除斥に該当するのは、当該会社等に常時
においては4人、その他の市及び町村においては2
支配力を有する地位にある場合に限られます(行実
人おかれていますが、条例において定数を増やすこ
昭25.10.3)
。ここで取締役が会社において常時支配
とができます(法第195条第1項)
。
力を有する地位であるかどうかが問題となりますが、
監査とは、一般に、監督し検査することをいい、
代表権の有無に関わらず取締役は、会社の業務に関
地方公共団体における公正で合理的かつ効率的な行
する意思決定に参加するものとされていることから
政運営を確保するため、監査を担当する機関として、
(会社法(平成17年法律第86号)第362条第1項・第
監査委員が設置されています。監査のこのような目
2項等)
、会社の業務執行について重要な意思決定に
的を達し、さらに監査の公平を期すために、監査の
参与する常時支配力を有する地位にあるものと解さ
除斥制度が設けられています。
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監査委員である議員甲が除斥されるかについてで
すが、上述したように、監査委員が除斥される範囲
は、議長及び議員が除斥される場合と同様です。議
員乙からの住民監査請求(法第242条)は、甲が取締
役となっている会社が対象となる補助金に関するも
のであり、これは、3で検討したのと同様の理由に
より、監査委員である議員甲が従事する業務に直接
の利害関係のある事件に該当するものと考えられま
す。
したがって、請願の審議の場合と同じく監査委員
である議員甲は除斥されることとなります。
住民監査請求に係る監査及び勧告の決定にあたっ
ては監査委員の合議によるものとされていますが
(法第242条第8項)、監査委員の除斥があった場合、
以後の監査は、除斥されなかった監査委員の合議に
よって進められます。監査委員の定数が2名の場合
は、除斥されない監査委員が1人で行うことになり
ます(行実昭48.4.13)。
6.おわりに
今回の質問の場合、A市議会議員甲は、当該補助
金を盛り込んだ当初予算案の審議では除斥されない
ことになります。
これは、監査は、対象となる個々の財務会計上の
行為を検査するものであり、一方、当初予算案は、
上述したように、一体不可分のものであって、その
一部分のみを切り離して個々に審議することができ
ないためです。
では、決算の審査についてはどうでしょうか。監
査委員による決算の審査に際しては、決算が、予算
執行の結果の実績である個々の財務会計上の行為の
一会計年度の集積であることから、監査委員と直接
の利害関係等が認められる部分の審査について、当
該監査委員は除斥されると考えられており、注意が
必要です。
(大阪府総務部市町村課行政グループ)
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