膵 臓 癌

疾患
消化器
JSLM 2012
膵
臓
癌
膵 臓 癌
[要 旨] 膵癌はきわめて悪性度の高い難治癌であり,年間 2 万人以上の日本人が膵癌で死亡している。膵癌の
治療に関しては,外科的切除が唯一の根治可能な治療法である。したがって,切除可能な早期の膵癌を診断す
る方法の確立が急務である。膵癌に特異的な症状はないが,原因が特定されない腹痛,腰背部痛,黄疸,体重
減少,また膵酵素上昇や急激な糖尿病(糖代謝障害)の発症が見られた場合,膵癌を疑って検査する。さらに
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)も膵癌の発生母地として注目を集めている。各種画像検査にて質的診断が得ら
れない場合には,組織診あるいは細胞診検査が行われる。リスクファクターの拾い上げと画像診断を駆使し,
根治手術が可能な小膵癌をいかに発見するかが今後の課題といえる。
[キーワード] 膵癌,危険因子,診断マーカー
膵癌のリスクファクター(表)
体重減少は膵癌を疑い,検査が行われるべきであるが,
一般に有症状の場合は進行癌が多いとされる。一方で膵
我が国における家族性膵癌の研究報告は少ないが,膵
癌は特異的な症状に乏しく,一部には無症状の症例もあ
癌の家族歴は膵癌の危険因子であるという認識が広まり
る。血中膵酵素上昇は膵癌に特異的ではないが,早期診
つつある。また,Peutz-Jeghers 症候群(ポイツ・ジェー
断の手がかりとなることもある。また,急激な糖尿病(糖
ガース症候群)や遺伝性膵炎など,いくつかの遺伝性疾
代謝障害)の発症や悪化は膵癌合併を疑い,検査を行う。
患において膵癌が高率に発症することが知られており,
特に,糖尿病発症後 3 年は注意を要する。
遺伝性膵癌症候群と呼ばれている。
合併疾患として糖尿病,慢性膵炎,膵管内乳頭粘液性
腫瘍(IPMN)が膵癌のリスクファクターとして知られ
専門医にコンサルテーションするポイント
ている。また,喫煙,大量の飲酒,および肥満(過体重)
健康診断などで高アミラーゼ血症が指摘された場合,
は膵癌発症のリスクを高めるとされる。したがって,こ
スクリーニングの腹部超音波検査で膵管の拡張や嚢胞性
れらの危険因子を複数有する場合には膵癌の高リスク群
病変が発見された場合,また急激な糖尿病の発症や悪化
として検査を行うことが勧められている。米国では家族
が見られた場合には直ちに専門医にコンサルテーション
性膵癌の高リスク集団に超音波内視鏡(EUS)を主体と
し,膵癌の詳細な検査を行うべきである。
したスクリーニング法を確立しており,実際に約 10%
で何らかの腫瘍性病変(浸潤癌を含む)を発見したとし
ている。
膵癌診断のための検査(図)
血中膵酵素,腫瘍マーカー:膵癌では腫瘍による膵管閉
塞に伴い,アミラーゼ,リパーゼ,エラスターゼ 1 など
膵癌を疑うべき臨床症状
膵酵素の上昇が見られることがある。腫瘍マーカーにつ
他に明らかな原因がみられない腹痛,腰背部痛,黄疸,
いては CA19-9,CEA,DUPAN2,Span1 などがあるが,
多くの場合進行癌で高値を示す。したがって,これらの
表 膵癌発症の危険率
家族歴
合併疾患
嗜 好
- 294 -
膵癌
13 倍
遺伝性膵癌症候群
4.46 倍
糖尿病
1.8∼2.1 倍
肥満
BMI30 以上では 1.8 倍
腫瘍マーカーは術後の再発フォローアップや化学療法の
効果判定には有用であるが,早期膵癌の診断には有用性
が低い。
画 像 診 断: 膵 癌 を 疑 っ た 場 合, ま ず US,CT( 造 影
慢性膵炎
4∼8 倍
CT),MRI を行い,必要に応じて MRCP,EUS,ERCP,
遺伝性膵炎
健常人の 53 倍
PET を組み合わせて診断する。
IPMN
0.95∼1.1%/年
喫煙
2∼3 倍
臨床症状,膵酵素 / 腫瘍マーカー / 危険因子,US
目次
巻頭
ERCP
膵管,胆管の直接造影が得られるだけではなく,細胞
診や狭窄病変に対するステント治療も同時に行うことが
CT and/or MRI(MRCP)
検査値
アプローチ
できる優れた検査である。時に急性膵炎などの合併症を
伴うため患者にはその必要性とリスクを十分に説明する
症候
一般
必要があるが,膵癌を疑った場合にはできるだけ行うこ
EUS and/or ERCP and/or PET
診断未確定
とが推奨される。膵癌では主膵管の狭窄,途絶および分
症候
枝膵管の不正像(乏分枝像や拡張)などがあげられる。
循環器
また,研究レベルでは膵液中の遺伝子検索(K-ras 変異,
TP53 変異,テロメラーゼ活性,DNA メチル化異常など)
症候
呼吸器
が行われているが,その診断意義については確立されて
細胞診 組織診
(ERP,EUS,US,CT)
いない。
症候
消化器
PET
膵腫瘍の良悪性鑑別に用いられており,その感度は約
診断確定
図 膵癌診断アルゴリズム
症候
血液
80-90%と高い。一方,2 cm 以下の小膵癌に対する診断
能については十分に検討されておらず,定まった評価は
症候
腎臓・尿路
ない。
症候
超音波検査(US)
疼痛
治療後の経過観察
体外 US は簡便で非侵襲な検査であり,スクリーニン
手術後の再発の検索や化学療法による治療効果判定に
グ検査として有用である。直接所見としては低エコーを
は,術前(あるいは治療前)に上昇していた腫瘍マーカー
示す腫瘤であり,間接所見としては膵管の拡張が重要で
の推移が有用である。また,CT を 3 ∼ 6 ヶ月おきに行い,
ある。また,造影剤を用いた US にて膵癌の診断能を向
再発や癌の進行具合を評価する。
疾患
神経
疾患
呼吸器
上させるとの報告もある。
疾患
参考文献
CT
CT は病変の位置,大きさや拡がりを診断する必須の
循環器
1)佐藤典宏,水元一博,田中雅夫.膵臓症候群(第 2 版)
検査である。ただし,単純 CT は膵癌の質的診断には適
−その他の膵臓疾患を含めて−.膵腫瘍 膵癌 家族性膵
さないため,喘息や造影剤アレルギーなどの禁忌症例で
癌.日本臨牀 2011; 別冊:322-6.
ない限りは造影 CT が勧められる。一般的に,膵癌は造
2)日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改定委員会編.科
影の遅延相で造影効果を有する low density mass として
学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン 2009 年版.東
描出される。また,隣接臓器や大血管(門脈や上腸間膜
京 : 金原出版 ; 2009.
動脈など)への浸潤の有無も判定でき,手術適応の判断
に重要な所見が得られる。
疾患
4)山口幸二,高畑俊一,当間宏樹,他.膵癌初期病変
として閉塞性膵炎をいかにしてとらえるか ? 小膵癌
調画像で等信号∼軽度高信号を呈する。MRCP では腫
(pTS1)よりみた膵癌初期病変としての膵管拡張.膵
りも侵襲度が低いという利点がある。
臓 2007; 22: 246.
ターとしての糖尿病.胆と膵 2010; 31: 137-141.
感度および特異度が高く,体外式超音波検査や CT で
描出されないような小さな膵癌も検出可能である。また
EUS-FNA(fine needle aspiration)による細胞診検査で
代謝・栄養
疾患
乳腺・
女性生殖器
疾患
5)家永 淳,佐藤典宏,山元啓文,他.膵癌・胆道癌の前
癌病変,リスクファクターを探る 膵癌のリスクファク
超音波内視鏡(EUS)
内分泌
療 膵癌の早期診断は可能か ? 高危険群から.外科治療
一般的に MRI で膵癌は T1 強調画像で低信号,T2 強
瘍による膵管や胆管狭窄の評価が可能であり,ERCP よ
疾患
腎臓・尿路
疾患
3)山口幸二,当間宏樹,佐藤典宏,他.膵癌の診断と治
2007; 97: 225-31.
MRI/MRCP
疾患
消化器
血液・
造血器
疾患
免疫・
結合織
(佐藤典宏)
付録
確定診断が可能であり,優れた診断能を持つ検査である。
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