静脈注射の実施に関する指針 - 日本看護協会

静脈注射の実施に関する指針
社団法人 日本看護協会
ま え が き
少子高齢化が進むわが国において、将来も国民が安心して暮らせるよう保健医療福祉制
度の見直しが進められています。特に医療制度改革は重要な柱であり、国民中心に質の高
い医療を効率的に提供するための見直しが進められています。また、在宅医療の普及が進
み、住み慣れた地域で療養を続けたいという方々への訪問看護師等の支援がますます期待
されてきています。一方、看護基礎教育、卒後教育の充実が図られていることなどから、
看護職の知識・能力は確実に向上してきています。
このような状況において、看護職の新たな社会への貢献、患者サービスへの貢献が期待
されており、その業務のあり方を見直そうという気運が高まってきました。平成14年5月
下旬、坂口力厚生労働大臣の指示の下、厚生労働省において、「新たな看護のあり方検討
会」が立ち上がりました。この検討会において、社会がこれだけ変化し、看護職の状況も
変わってきている中で、看護業務は従来のままでよいのか、看護師等の能力・判断を国民
のためにもっと活用すべきではないかという議論がされました。
検討会において看護業務の現状・課題を明らかにする過程で、看護職による静脈注射の
実施が議論になり、実践の場において多くの看護師等が静脈注射を行っている実状などが
報告されました。その実状を踏まえ、十分な教育と実施のための施設内基準等の整備が必
要な状況ではあるが、看護師等が行える業務であるとの合意がなされ、「新たな看護のあ
り方に関する検討会中間まとめ」として、平成14年9月6日、厚生労働省医政局長に報告
されました。そして、平成14年9月30日付け厚生労働省医政局長通知で看護師等による静
脈注射の実施に関して、「看護師等による静脈注射は診療補助行為の範疇である」という
厚生労働省の法解釈の変更がなされたのです。
これを受けて、本会は同年10月「静脈注射の実施に関する検討プロジェクト」を設置し、
看護師等が安全に静脈注射を実施するための指針の作成に取り組みました。
看護管理者にとって重要な責務は実践のための組織化です。患者の安全・安楽を重要な
価値として組織全体で共有し、業務分担や体制づくりについて協議できる風通しのよい組
織作りを促進すること、施設内基準や手順の整備、人材育成、安全確保のための環境整備
等に取り組むことが看護管理者に求められます。また、看護師等には、専門職として、自
らの業務を規定する法や倫理に基づき、自らの責任で判断し、実行していくことが求めら
れます。看護教育者には、基礎教育において静脈注射の実施に関する基礎的な知識・技術
をどこまで、どのように教育するかということが重要な課題となります。
本指針が、さまざまな場と役割の中で、静脈注射を安全に実施することをめざして取り
組まれる看護職のために役立つものとなれば幸いです。専門職にとって、新たな業務の拡
大や裁量権の拡大は常に大きな課題です。静脈注射が新たな看護業務として認知されたこ
とをより前向きにとらえて、自らの実践の質をさらに意識し、患者さんのQOLの向上と
看護サービスの質の向上をめざしていただきますように、お願い申し上げます。
2003年4月
社団法人 日本看護協会
会長 南 裕子
目 次
0 前文 ……………………………………………………………………………………………1
0-1 看護業務の法的位置づけ、法的責任 …………………………………………………1
0-2 行政解釈変更の経緯 ……………………………………………………………………2
0-3 変更された行政解釈の意味 ……………………………………………………………2
0-4 行政解釈変更の意義 ……………………………………………………………………2
0-5 日本看護協会の責務と対応 ……………………………………………………………3
1 本指針の基本理念 ……………………………………………………………………………3
1-1 指針作成の目的 …………………………………………………………………………3
1-2 基本理念 …………………………………………………………………………………3
1-2-1 法律の遵守 …………………………………………………………………………3
1-2-2 安全で質の高い看護の提供 ………………………………………………………3
1-2-3 チーム医療による質の高い医療・看護の提供 …………………………………4
2 本指針で使用する用語の定義 ………………………………………………………………4
2-1 静脈注射の分類 …………………………………………………………………………4
2-2 看護師 ……………………………………………………………………………………5
2-3 看護管理者 ………………………………………………………………………………5
2-4 看護教育者 ………………………………………………………………………………5
3 本指針の適用範囲 ……………………………………………………………………………5
3-1 対象 ………………………………………………………………………………………5
3-2 扱う範囲 …………………………………………………………………………………5
3-3 勧告のレベル ……………………………………………………………………………5
4 静脈注射を安全に実施するための判断基準 ………………………………………………5
4-1 看護師による静脈注射の実施範囲に関する基本的考え方 …………………………6
4-2 訪問看護における静脈注射の実施範囲に関する考え方 ……………………………7
5 静脈注射を安全に実施するための看護管理 ………………………………………………8
5-1 看護実践の組織化 ………………………………………………………………………8
5-1-1 共通理念の醸成と共有 ……………………………………………………………8
5-1-2 部門間・職種間の業務分担、連携 ………………………………………………8
5-1-2-1 既に看護師が静脈注射を実施している施設の場合 ………………………8
5-1-2-2 今後看護師が静脈注射を実施する施設の場合 ……………………………9
5-1-2-3 診療所や福祉施設等の場合 …………………………………………………9
5-2 資源確保と管理 …………………………………………………………………………10
5-2-1 人員確保 ……………………………………………………………………………10
5-2-2 安全対策のための資源確保 ………………………………………………………10
5-3 看護実践を行う環境の整備 ……………………………………………………………10
5-3-1 医療事故防止 ………………………………………………………………………10
5-3-2 職業感染防止 ………………………………………………………………………11
5-3-3 細胞毒性のある薬剤の安全管理 …………………………………………………11
5-4 継続教育の保証 …………………………………………………………………………11
5-5 質の保証と向上 …………………………………………………………………………12
6 静脈注射を安全に実施するための教育 …………………………………………………12
6-1 静脈注射を安全に実施するために必要な知識・技術 ………………………………12
6-2 基礎教育(レベル1、レベル2の基礎教育) ………………………………………13
6-3 継続教育の保証(レベル1、レベル2の継続教育) ………………………………14
6-4 専門の看護師の育成(レベル3の教育) ……………………………………………15
7 静脈注射の実施基準 ………………………………………………………………………16
7-1 医師の指示と看護師の自律的判断 ……………………………………………………16
7-1-1 医師の指示 …………………………………………………………………………16
7-1-2 医師の指示に対する看護師の自律的判断 ………………………………………17
7-1-2-1 指示の理論的根拠及び倫理性に関する判断 ……………………………17
7-1-2-2 安全確保のための実施者の能力の判断 …………………………………18
7-2 患者に対する十分な説明と同意の確認 ………………………………………………18
7-2-1 医療法の規定による医療関係者の責務 …………………………………………18
7-2-2 医師による患者への説明と同意の確認 …………………………………………18
7-2-3 看護師による患者への説明と同意の確認 ………………………………………19
7-3 安全に実施するための手順 ……………………………………………………………19
7-3-1 実施にあたっての確認事項 ………………………………………………………19
7-3-2 適切な手順による静脈注射の実施 ………………………………………………19
8 今後の課題 …………………………………………………………………………………23
8-1 基礎教育に関する課題 ………………………………………………………………23
8-2 訪問看護における課題 …………………………………………………………………23
8-3 質の保証のための体制整備 ……………………………………………………………23
●参考資料 ………………………………………………………………………………………25
1.厚生省医務局長通知(昭和26年9月15日付け医収第517号) …………………………26
2.厚生省医務局長通知(昭和26年11月5日付け医収第616号) …………………………27
3.国立鯖江病院における誤薬注射死亡事故の概要とその判決 …………………………28
4.新たな看護のあり方に関する検討会中間まとめ(厚生労働省、平成14年9月6日)…30
5.厚生労働省医政局長通知(平成14年9月30日付け医政発第0930002号)
看護師等による静脈注射の実施について ………………………………………………32
6.看護師の倫理規定 …………………………………………………………………………33
6-1 看護師の倫理規定 日本看護協会 1988年 …………………………………………33
6-2 ICN看護師の倫理綱領 2000年 ……………………………………………………35
7.日本看護協会 看護業務基準 1995年 ……………………………………………………39
8.看護師等による静脈注射の実施に関する病院の見解 …………………………………41
8-1 全国国立大学病院看護部長会議常置委員会の見解 ………………………………41
8-2 北里大学病院看護部の見解 …………………………………………………………42
9.フランス雇用連帯省 看護職実践・職業行為に関する法令(抜粋)2002年 …………43
10.訪問看護における点滴静脈注射管理協定書・医師への報告基準の一例 ……………47
11.針刺し事故防止マニュアル ………………………………………………………………52
12.静脈注射の教育プログラムとガイドライン ……………………………………………53
13.継続教育プログラムの一例 ………………………………………………………………58
14.在宅輸液管理に関する研修プログラム案 ………………………………………………60
15.INS(Infusion Nurses Society)のINFUSION NURSEに関する諸定義 …………61
16.ヘパリンロック・生食ロックの実際 ……………………………………………………63
●参考文献 ………………………………………………………………………………………65
0 前文
0-1 看護業務の法的位置づけ、法的責任
看護業務は保健師助産師看護師法等によって規定される。保健師助産師看護師法第5条に看護
師は「傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者」
と定義されている。また、同法37条において医師の指示があった場合を除き、医療行為は禁止さ
れている。つまり、医療行為は本来医師が行うべきものであって、看護師が医療行為を行う場合
は、医師の指示を要し、その実施の範囲は診療の補助の範疇に入るものである。
保健師助産師看護師法
【看護師の定義】
第5条 この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対す
る療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。
【医療行為の禁止】
第37条 保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、
診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うので
なければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。ただし、臨時応急の手当をし、
又は助産師がへその緒を切り、浣腸を施しその他助産師の業務に当然に附随する行為をする場合は、
この限りでない。
医師法
【非医師の医業禁止】
第17条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
【罰則】
第31条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれ
を併科する。
一 第十七条の規定に違反した者
二 (略)
2 (略)
医師法第17条の「医業」の解釈
医師法第17条に規定する「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってする
のでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思を
もって行うことであると解している。
(厚生労働省看護師等によるALS患者の在宅療養支援に関する分科会、第1回資料「医行為について」より抜粋
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/02/s0203−2g.html)
看護師による静脈注射の実施については、1951年の国立鯖江病院誤薬注射死亡事故後に、保健
師助産師看護師法第37条の解釈について福井県知事から照会があり、これに対する厚生省医務局
長の回答が各都道府県知事宛ての通知(昭和26年9月15日付け医収517号)として出された。こ
の通知以後、今日まで50年以上、看護師の業務の範囲を超えるものであるという行政解釈が示さ
れていた。
また、三重県知事からの照会に対する厚生省医務局長の回答(昭和26年11月5日付け医収第
616号)では、看護師による静脈注射の実施は、医師法17条に抵触するとしている。
1
厚生省医務局長通知(昭和26年9月15日付け医収第517号)
(抜粋)
(参考資料1参照)
○保健婦助産婦看護婦法第37条の解釈についての照会について
静脈注射は、薬剤の血管注入による身体に及ぼす影響の甚大なること及び技術的に困難であること等の理
由により医師又は歯科医師が自ら行うべきもので法第5条に規定する看護婦の業務の範囲を超えるもので
あると解する。従って静脈注射は法第37条の適応の範囲外の事項である。
厚生省医務局長通知(昭和26年11月5日付け医収第616号)
(抜粋)
(参考資料2参照)
○医師法17条等の疑義について
静脈注射は、本来医師又は歯科医師が自ら行うべき業務であって保健婦助産婦看護婦法第5条に規定する
看護婦の業務の範囲外であり、従って看護婦が静脈注射を業として行った場合は、医師法第17条に抵触す
るものと解する。
国立鯖江病院における誤薬注射死亡事故の概要とその判決については、参考資料に示す。(参
考資料3)
0-2 行政解釈変更の経緯
厚生労働省は平成14年5月、少子高齢化の進展、医療技術の進歩、国民の意識の変化、在宅医
療の普及、看護教育水準の向上などに対応した新たな看護のあり方について検討を行うことを目
的として、「新たな看護のあり方に関する検討会」を設置した。検討課題は①医師による包括的
指示と看護の質の向上による在宅医療の推進、②医療技術の進歩に伴う看護業務の見直し、③こ
れらを推進するための方策等についてであり、5回の検討会を経て、9月6日付けで「中間まとめ」
(参考資料4)を公表した。
この「中間まとめ」の趣旨を踏まえ、9月30日付けで厚生労働省医政局長通知(参考資料5)
が各都道府県知事宛てに発出され、看護師による静脈注射の実施は、「業務の範囲を越えるもの」
から「診療の補助行為の範疇として取り扱うもの」と行政解釈が変更された。
0-3 変更された行政解釈の意味
行政解釈の変更によって静脈注射が「診療の補助行為の範疇」とされたことは、「看護師が静
脈注射を行っても違法ではない」という意味であり、「看護師が行わなければならない」という
意味ではない。
看護師が静脈注射を実施するということは、手技的に可能かというような単純な問題にとどま
らない。法的責任の理解と自覚、薬理作用の十分な理解、患者の反応の観察と対応、緊急時の対
応体制、感染対策、安全対策など、患者に対する安全を保証するために、基礎教育、臨床それぞ
れの場における体制整備が必要となる。
静脈注射を実施するか否かは、最終的には専門職としての看護師の判断によるものであり、看
護師が静脈注射を実施する場合は、実施者としての責任が問われることになる。看護師個人と看
護組織には、自らの提供するサービスの内容と質を保証するための取り組みが求められる。
0-4 行政解釈変更の意義
これまで、静脈注射は看護師の業務の範囲外との行政解釈が示されながら、医師が多忙である
こと等の理由によって、看護師が実施している現状があった。看護基礎教育においては静脈注射
は医師が行うものであるとされ、血管穿刺等の技術教育は行われず、教育内容は点滴静脈注射の
管理や患者の観察等限定的であった。また、臨床現場においてはマニュアル等が整備されていな
い等、静脈注射の実施体制には不十分な実態があった。しかし、違法との行政解釈が示されてい
ることから、看護師による静脈注射の実施に関する問題を議論しようとしても、公に議論の俎上
2
に載せることは困難であった。今回の行政解釈の変更によって、これまでの「実施してはいけな
いことを行っている」という消極的な位置づけから、「看護師の業として行う」という積極的な
位置づけとなったことは、公の議論を通して、静脈注射に関する現状の問題点を明らかにし、安
全に実施するための体制整備について検討することが可能となったと言える。
また、今回の行政解釈変更の背景には、静脈注射を安全に実施できる看護師の知識・技術の向
上が認められたことがある。看護師が静脈注射を実施する場合は、医師の指示内容が自分の能
力・責任で実施できる範囲であるかどうかの判断も含めて、高い倫理性と高度な知識、判断、技
術が求められる。つまり、看護師は、医師の指示のもとであっても、安全を確保できるという自
らの実施能力と責任能力に鑑み、できることとできないことを自らが判断し、業務を実施できる
能力があると認められたことになる。看護師が専門職として信頼に応え、責任を果たすためには、
より一層の自律が求められることになる。
0-5 日本看護協会の責務と対応
日本看護協会(以下、「本会」という。)は、看護の専門職能団体であり、自らの提供する看護
実践の質に対する自主規制を行う責務を有する。現在までに、看護師の行動指針を示した「看護
師の倫理規定」(参考資料6)、また、看護実践にかかわるすべての看護師に共通の実践レベルを
記述した「看護業務基準」(参考資料7)及び「領域別看護業務基準」、さらには看護実践をガイ
ドするためのガイドライン類を作成し、その普及啓発に努めてきた。
平成14年9月30日付け厚生労働省医政局長通知(参考資料5)により、「看護師等が行う静脈
注射は診療の補助行為の範疇として取り扱う」という新たな行政解釈が示されたことを受けて、
本会は同年10月に「静脈注射の実施に関する検討プロジェクト」を設置した。プロジェクトの委
員は、看護管理・看護教育・訪問看護・医師・法律の各分野の有識者11名から構成され、平成15
年3月まで5回に亘り、看護師の静脈注射の実施に関する諸課題について検討し、本指針を作成
した。
1 本指針の基本理念
1-1 指針作成の目的
本指針は、看護師が専門職としての社会的責任において、安全に静脈注射を実施する体制を整
備するための基本的な考え方を示すものである。
1)看護師による静脈注射の実施範囲に関する本会の考え方を示す。
2)看護師が静脈注射を実施するにあたり、看護師、看護管理者、看護教育者がそれぞれの立
場で果たすべき責務についての基本的な考え方を示す。
1-2 基本理念
本指針の作成にあたっては、以下のような考え方を基本理念とする。
1-2-1 法律の遵守
看護業務は保健師助産師看護師法をはじめとした法律によって規定される。看護師は、看護業
務についての法的位置づけを十分理解した上で、法律を遵守した実践を行う。
1-2-2 安全で質の高い看護の提供
看護師の第一義的な責任は患者に対して存在する。看護師は、看護倫理に基づく実践を行い、
個人として、また、看護組織として患者の安全を確保しつつ、質の高い看護を提供する。
3
看護業務を統括する看護管理者は、組織の目的に即した看護実践の水準を維持するため、施設
における看護業務の質、内容、量、及び看護師の個々の能力を十分に把握した上で、安全に業務
が遂行できる環境を整備する。
1-2-3 チーム医療による質の高い医療・看護の提供
看護師は、他の医療関係職種と協働し、より安全で質の高い医療・看護を提供する。また、チ
ーム医療を推進するための体制を整備する。
2 本指針で使用する用語の定義
2-1 静脈注射の分類
本指針においては、静脈注射を以下のように分類して用いる。
静脈注射の分類
静脈注射
静脈に注射針を刺入し、注射器を用いて投与
①ワンショット
(1回のみの薬液投与)
短時間、持続的に投与して終了、抜去する
②短時間持続注入
末梢静脈
点滴静脈注射
(いわゆる「抜き刺し」
)
長時間あるいは長期間、持続的に投与する
③長時間持続注入
ヘパリンロック等により血管確保し、1日のう
④間歇的注入
中心静脈
する
ち一定時間帯に投与する
中心静脈(栄養) 持続注入
24時間持続的に投与する
法
1日のうち一定時間帯に投与する
間歇的注入
点滴静脈注射による混注の方法
側管注
側注管から注射器を用いて1回で投与する
ピギーバック法
側注管に別の輸液セットを接続して投与する
タンデム法
2種類以上の薬液を並列に接続して投与する
静脈注射は、投与経路により、末梢静脈と中心静脈に分類される。また、投与方法によって、
ワンショット(one shot:1回のみの薬液投与)と点滴静脈注射に分けられる。
点滴静脈注射は、大量の薬液を静脈内に持続的に投与する方法であり、持続注入と間歇的注入
に分類される。持続注入とは、薬剤を持続的に投与する方法であり、短時間持続注入と長時間持
続注入に分けられる。間歇的注入とは、血管内に留置した針(カテーテル)の閉塞をヘパリンロ
ック等によって防ぎ、一日のうちの一定時間帯に投与するなど、断続的に薬液を投与する方法で
ある。
点滴静脈注射による薬液の混注方法には、側管注、ピギーバック(piggyback)法、タンデム
(tandem)法などがある。側管注とは、輸液セットの側注管(ゴム管、Y字管等)から注射器を
用いて薬液を注入する方法である。ピギーバック法とは、輸液セットの側注管に別の輸液セット
を用いて薬液を接続注入する方法である。タンデム法とは、2種類以上の薬液を並列に接続して
投与する方法である。
静脈注射に用いる注射針(カテーテル)は、以下のように分類して用いる。
4
注射針(カテーテル)の分類
注射針(金属針)
一般の静脈注射には20∼23ゲージ、刃面長の短いショートベル(SB)が用いられる。
翼状針
固定のための翼とチューブが付いた金属針。短時間持続注入等に使用する。
静脈留置針
カテーテル
金属製の内針とプラスチック製の外針からなり、血管内に穿刺して血液の逆流を確認
した後、内針を抜去して外針のみ留置する。長時間持続注入等に使用する。
・血管を露出して切開後挿入する静脈用カテーテル、中心静脈用カテーテル。
・本指針においては静脈留置針の外針を指す。
2-2 看護師
本指針において看護師とは、保健師、助産師、看護師、准看護師を総称していう。
2-3 看護管理者
本指針において看護管理者とは、看護実践に精通し、かつ、看護管理に関する知識、技能を持
つ看護師であり、看護を提供するための組織化並びに運営を行う責務を有する。
2-4 看護教育者
本指針において看護教育者とは、看護基礎教育に携わる看護師をいう。
3 本指針の適用範囲
3-1 対象
看護師、看護管理者及び看護教育者を対象とする。
3-2 扱う範囲
看護業務の法的位置づけ、法的責任、看護師による静脈注射の実施に関する行政解釈変更の経
緯、変更された行政解釈の意味と意義、日本看護協会の責務と対応、及び静脈注射を安全に実施
するための判断基準、看護管理、教育、実施基準を記述したものである。
3-3 勧告のレベル
本会の会員及び会員の所属する施設においては、本指針を共通認識として活用し、安全な静脈
注射の実施のための体制整備に、組織的に取り組むことを期待する。
4 静脈注射を安全に実施するための判断基準
静脈注射を看護師が実施するか否かは、個々の看護師の能力等による他、看護組織の理念に基
づく看護実践となるよう、提供する看護サービスについて十分検討した上で判断する必要がある。
看護管理者は、患者の安全を保証した上で静脈注射の実施ができるように、看護実践のための
組織化を行う責務がある。患者の安全が守れない状況下で、安易に引き受けてはならない。看護
管理者の責務として、各施設における看護業務の範囲を決定し、業務範囲に応じた責任の範囲を
明確にすることが求められる。
静脈注射を安全に実施するために、看護師・医師等が実施する範囲や内容、条件等について、
施設内のルールを取り決めておく必要がある。施設内のルールを取り決めるにあたっては、円滑
なチーム医療を推進し、各職種の役割・機能に応じた適切な分担となるよう十分検討する必要が
ある。静脈注射の実施範囲や内容を決定するにあたっては、施設や場の特性、業務量、業務内容、
職員数、職員の能力、患者の状態、薬剤の種類、投与方法等を考慮する。
5
安全性を優先し、医育機関である施設特性を踏まえ、静脈注射は現状通り医師が行うという業
務分担上の判断をした施設もある。
(参考資料8:看護師等による静脈注射の実施に関する病院の見解)
看護師が静脈注射を実施する場合は、施設としての基準や手順を整備する必要がある。
4-1 看護師による静脈注射の実施範囲に関する基本的考え方
本会では、看護師による静脈注射の実施範囲に関する指針を示すにあたり、看護基礎教育の現
状や看護業務の内容・質・量等を踏まえ、現時点において、どのような範囲で実施するのが妥当
であるか、諸外国における看護師の裁量の範囲(参考資料9:フランス雇用連帯省 看護職実践・職業行
為に関する法令)なども参考にしながら検討を行った。その結果、本会は、看護師による静脈注射
の実施範囲についての基本的な考え方を、以下のレベル1からレベル4までの4分類として示す。
この他の細部については、各施設の状況に応じて検討し、より具体的で実際的な施設内の基準
を作成する必要がある。
看護師による静脈注射の実施範囲
レベル1:臨時応急の手当てとして看護師が実施することができる
レベル2:医師の指示に基づき、看護師が実施することができる
レベル3:医師の指示に基づき、一定以上の臨床経験を有し、かつ、専門の教育を受けた看
護師のみが実施することができる
レベル4:看護師は実施しない
各レベルにおける看護師の実施内容やその条件については、以下のように考える。
レベル1:臨時応急の手当てとして看護師が実施することができる
医療行為の実施には保健師助産師看護師法第37条に基づき医師の指示が必要であるが、以下の
行為は、患者のリスクを回避し、安全・安楽を確保するよう、臨時応急の手当として看護師の判
断によって行う。
○緊急時の末梢からの血管確保
○異常時の中止、注射針(末梢静脈)の抜去
レベル2:医師の指示に基づき、看護師が実施することができる
以下の行為は、医師の指示に基づき、看護師が実施することができるものとする。
○水分・電解質製剤の静脈注射、短時間持続注入の点滴静脈注射
○糖質・アミノ酸・脂肪製剤の静脈注射、短時間持続注入の点滴静脈注射
○抗生物質の静脈注射、短時間持続注入の点滴静脈注射(過敏症テストによって安全が確認さ
れた薬剤)
○輸液ボトルの交換・輸液ラインの管理
○上述薬剤投与時のヘパリンロック、生食ロック(生理食塩水の注入)
○中心静脈カテーテル挿入中の患者の輸液バッグ交換、輸液ラインの管理
○中心静脈カテーテルラインからの上述薬剤の混注
6
レベル3:医師の指示に基づき、一定以上の臨床経験を有し、かつ、専門の教育を受けた看護師
のみが実施することができる
以下の行為は、一定以上の臨床経験を有し、かつ、一定の教育を受けた看護師のみが実施でき
るものとする。例えば、認定看護師、専門看護師の他、将来的には輸液療法看護師等の育成が必
要である。
○末梢静脈留置針(カテーテル)の挿入
○抗がん剤等、細胞毒性の強い薬物の静脈注射、点滴静脈注射
○循環動態への影響が大きい薬物の静脈注射、点滴静脈注射
○麻薬の静脈注射、点滴静脈注射
レベル4:看護師は実施しない
看護師は以下の行為を実施しない。
○切開、縫合を伴う血管確保、及びそのカテーテル抜去
○中心静脈カテーテルの挿入、抜去
○薬剤過敏症テスト(皮内反応を含む)
○麻酔薬の投与
4-2 訪問看護における静脈注射の実施範囲に関する考え方
訪問看護における静脈注射の実施範囲については、基本的には前述のレベル1からレベル4の
考え方に準ずる。しかし、医師の臨場がなく、急変時の対応が困難であるため、レベル2の薬剤
であっても、レベル3の知識・技術をもった看護師が行うことが望ましい。さらに、例えば、薬
剤の種類や投与方法によっては、初回投与は医師が実施し、2回目以降に看護師が行うなど、患
者の安全を保証した上での実施が求められる。
施設内基準の作成にあたっては、以下の条件を考慮する。
訪問看護における静脈注射の実施条件
1.医師が診察した上での指示であること
2.十分な器材、衛生材料等が提供されること
3.看護師が責任をもって実施前・中・後の観察を行い、対応できること
医師の指示と看護師の実施範囲を明確にするため、施設内基準に基づき、医師との取り決めの
文書を交わした上で訪問看護師が静脈注射等を行う。(参考資料10:訪問看護における点滴静脈注射管
理協定書・医師への報告基準の一例)
7
5 静脈注射を安全に実施するための看護管理
看護管理者は、質の高い看護を提供するために、以下の責務を有する。(参考資料7:看護業務
基準)
看護管理者の責務
1.看護実践の組織化
2.資源確保と管理
3.看護実践を行う環境の整備
4.継続教育の保証
5.質の保証と向上
5-1 看護実践の組織化
看護実践の組織化とは、看護師が提供する看護実践の質を保証するためのシステムを構築する
ことである。看護管理者は、継続的かつ一貫性のある看護を提供するために、看護実践の組織化
を行う責務がある。看護管理者は、倫理規定や看護業務基準等に基づき、看護組織が理念とする
看護が提供できるように、各施設における看護業務と責任の範囲を明確にし、看護実践に関する
管理体制を整備する必要がある。
看護管理者は、看護業務の量と質を検討し、患者の安全を保証した上で看護師による静脈注射
の実施ができるようにする。
5-1-1 共通理念の醸成と共有
看護組織の理念は、施設の理念との整合性が必要であり、看護部門だけでなく、施設全体とし
て、患者の安全・安楽を第一とする価値を共有し、安全な医療・看護を提供することが求められ
る。
看護管理者は、安全確保のための組織文化の醸成や、看護師の自律的な判断を支援する体制を
整備し、医療チームとしての協働のあり方について、共通の考え方を施設全体で共有できるよう
働きかける。
5-1-2 部門間・職種間の業務分担、連携
静脈注射を誰が行うのかを決定するにあたっては、その施設で行なわれている治療の種類や内
容、職員構成と職員数、業務内容と業務量等に応じて検討し、決定する必要がある。その基本と
なるのは、医療チームとして提供するサービスの質を保証することである。円滑な医療・看護の
提供となるよう、特に医師、薬剤師と十分協議し、各専門職の独自の役割・機能に応じた適切な
業務分担を行い、責任の範囲を明確にする。施設の特徴に応じた業務分担に基づき、各施設の実
施基準や手順を整備し、これを遵守する。
また、職種間の連携を促進し、随時業務分担や連携のあり方について見直し、必要に応じて新
たな業務分担を行う。
5-1-2-1 既に看護師が静脈注射を実施している施設の場合
既に看護師が静脈注射を実施している施設の場合は、現在使用している実施基準や手順を改め
て見直し、看護実践の質の向上と安全な実施のための体制整備を行う。
8
既に看護師が静脈注射を実施している場合の評価項目
1.安全に静脈注射を実施するための基準、手順があるか
2.基準、手順は遵守されているか
3.基準、手順は適切か
4.医師、薬剤師等との業務分担が明確になっているか
5.医師、薬剤師等との連携上の問題はないか
6.静脈注射を安全に実施するために必要な看護師の能力を評価するシステムがあるか
7.教育体制が整備され、十分な教育が行われているか
8.必要な人材が確保されているか
9.業務量は妥当か
10.必要な資源が確保されているか
11.施設全体として医療事故防止対策が行われているか
12.施設全体として感染管理が行われているか
13.施設全体として職業感染防止対策が行われているか
14.看護ケアの質が高く保たれているか
5-1-2-2 今後看護師が静脈注射を実施する施設の場合
今後、新たに業務拡大し、静脈注射を看護師が実施する施設においては、以下の点を確認し、
体制を整備する必要がある。
今後看護師が静脈注射を実施する場合の体制整備
1.新たな業務を行うことによって、看護ケアの質の低下を招くことがないか確認する
2.医師、薬剤師等との業務分担を明確にする
3.静脈注射を安全に実施するために必要な看護師の能力を評価するシステムや教育体制を整備する
4.必要な人材を確保する
5.必要な資源を確保する
6.安全に静脈注射を実施するための適切な基準、手順を作成する
7.基準、手順の遵守を徹底する
8.基準、手順の適切性を見直し、必要に応じて修正する
9.医師、薬剤師等との連携を促進する
10.施設全体として医療事故防止対策を行う
11.施設全体として感染管理を行う
12.施設全体として職業感染防止対策を行う
5-1-2-3 診療所や福祉施設等の場合
看護管理者の位置づけや権限等が明確に規定されていない施設においては、看護実践の質を保
証するため、以下のことを行う。
診療所や福祉施設等で看護師が静脈注射を実施する場合の対応
1.看護師は、医師・薬剤師等と適切な業務分担を行う
1)業務分担について話し合うための場を作るなどの働きかけを行う
2)適切な業務分担となるよう十分協議して調整する
2.看護師は、自らの責任として学習の機会を作り、知識・技術の向上に努める
3.有用な情報を検索し、活用する
4.各種の相談窓口を利用する
9
5-2 資源確保と管理
看護管理者は、看護を提供するための組織が目的を達成するために、必要な人員、物品、経費
等を算定、確保して、それを有効に活用する責任を負う。
安全に静脈注射を実施するためには、業務量に見合った必要十分な人員の配置、安全対策上必
要な物品の確保等が必要である。
5-2-1 人員確保
看護管理者は、個々の看護師の能力を踏まえた適切な業務量を調整し、業務の質・量に見合っ
た看護職の人材を確保する役割がある。
静脈注射が看護師の業務の範疇とされても、それを新たな看護業務として引き受ける場合には、
その業務量に見合う人員の確保が必要である。適切な人員の確保がないままに新たな業務として
引き受けることは、看護の質の低下を招くことになる。したがって、業務を拡大する際は、十分
な人員の看護師が配置され、患者の安全を確保できることが条件となる。
また、看護師が高度化・複雑化した医療に対応し、より質の高い看護を提供するためには、よ
り一層高度で専門的な知識・技術が必要となる。看護管理者には、より高い能力をもった人材の
確保と活用が求められる。静脈注射は、看護師免許を有する者が誰でも実施できるものではない。
静脈注射を看護師の業務とする場合は、施設の状況に応じた人材の確保・育成・活用が必要であ
る。
静脈注射を実施する場合の人材の確保・育成・活用
1.十分な人員を配置し、患者の安全を確保する
2.高度な知識・技術をもった専門の看護師を採用する
・がん化学療法看護認定看護師など
3.施設内で専門の看護師を育成する
4.外部の研修受講を促進する
・技術研修や専門の看護師育成コースなど
5-2-2 安全対策のための資源確保
安全対策は、患者の安全を守るとともに、医療従事者や関連職種の安全を守るものである。看
護管理者は、患者と医療従事者双方の安全確保のために必要な物品、衛生材料等を十分量確保し、
適切に管理する。また、安全対策に有用な新規器材について情報収集し、必要に応じて速やかに
導入する。
5-3 看護実践を行う環境の整備
看護管理者は、看護実践に必要な体制を保持し、看護師が実践を行う環境を整える責務を有す
る。安全な医療・看護を提供するために、医療事故防止対策、職業感染防止対策等を行う。
5-3-1 医療事故防止
看護管理者は、予測される医療事故について、その防止のための対策を講じる。
また、緊急事態の対処に必要な器具、物品を整備し、事故発生時の対応体制を整備しておく。
10
静脈注射・点滴静脈注射により予測される医療事故(インシデントを含む)
・医師の指示、指示受けの誤り
・患者の誤認、取り違え
・誤薬(薬剤の誤り、投与量の誤り)
・投与方法の誤り(速度、時間、回数、投与経路の誤り)
・血管外漏出、血管外注入(疼痛、腫脹、皮膚組織の壊死)
・動脈穿刺、動脈内注入
・神経穿刺、神経麻痺
・禁忌事項の見落とし
・アナフィラキシーショック
・ルートトラブル(事故抜去、血液逆流、出血、閉塞、空気塞栓)
・感染
・針刺し事故
5-3-2 職業感染防止
看護管理者は、針刺し事故防止マニュアル等を整備し、職員の教育を行うなど、職業感染を予
防するための対策を行う。
針刺し事故防止対策(参考資料11:針刺し事故防止マニュアル)
・処置の際にはフィットした手袋を着用する。
・ナースシューズは足を覆う靴タイプのものとする。
(サンダル着用による足への針刺し事故防止)
・血液が付着した針などをリキャップせずに廃棄できる専用容器を設置する。
・安全装置付きの器具を導入する。
5-3-3 細胞毒性のある薬剤の安全管理
看護管理者は、細胞毒性(変異原性、催奇形性、発がん性)のある薬剤の皮膚付着、蒸気吸入、
飛沫による結膜炎などを防止するための取り扱い基準を整備し、職員に周知する。(巻末参考文献
リスト「細胞毒性のある薬剤の安全管理」の項参照)
5-4 継続教育の保証
看護管理者は、看護師の看護実践能力を保持し、各人の成長と職業上の成熟を支援するととも
に、看護実践組織の力を高めるための教育的環境を提供する役割がある。
石本らの調査結果(石本傳江:静脈注射実施における教育プログラムの開発,課題番号H13-特別-029,平成13年
度厚生労働科学特別研究事業報告書,2002.3)によると、看護師・准看護師が静脈注射を実施している施
設の医師及び看護管理者の半数が看護師の能力不足を認め、3分の1はマニュアルもない状況で
医師が指示を行い、看護管理者の業務分担のもとに看護師が静脈注射を行っていた。
看護管理者は、看護師が必要な知識・技術を習得できるよう、教育に関するシステムを整備す
る。看護師は、常に質の高い看護を提供できるよう自らの責任として継続教育に努める。
11
教育システムの整備
1.看護師個々の知識・技術を評価するためのシステムを整備する。
2.新人教育や継続教育のプログラムを整備する。
1)各プログラムの到達目標を明確化する。
2)評価システムを整備する。
3.必要な教育プログラムを実施する。
4.教育の効果を評価する。
5-5 質の保証と向上
看護管理者は、組織の目的に即した看護実践の水準を維持するために、質の保証と向上のため
のプログラムを持つ。
看護師が実施する静脈注射及び点滴静脈注射の内容や範囲について検討し、静脈注射の実施基
準、手順を整備する。作成した基準、手順が現場で遵守されているか、また、基準、手順の適切
性を評価し、必要に応じて適宜改善する。また、看護師のケア提供内容とその結果、患者の満足
度など、看護実践の質を評価するための指標を抽出し、分析する。分析結果に基づき、看護の質
を向上させるための対策を講じる。
質保証のためのプロセス
1.施設内の基準・手順を整備する
2.基準・手順が遵守されているか確認する
3.基準・手順の適切性を評価する
4.必要に応じて基準・手順を改善する
6 静脈注射を安全に実施するための教育
6-1 静脈注射を安全に実施するために必要な知識・技術
静脈注射を実施するにあたっては、以下のような知識・技術が必要である。
静脈注射の実施に必要な知識・技術
1.患者の状態に関するアセスメント
2.治療方針を理解するための知識
3.解剖・生理学
4.薬剤に関する知識
薬剤の作用、副作用、投与方法、標準的使用量、配合禁忌、薬剤管理
5.副作用への対応
6.緊急時の対処方法
7.安楽の確保、最小限の苦痛で実施する技術
8.合併症の予防
9.安全対策、事故防止対策
10.感染対策
11.器具・器材の適切な選択、取り扱い、管理
12.倫理的配慮
13.患者教育
12
6-2 基礎教育(レベル1、レベル2の基礎教育)
必要な知識・技術を習得するために、基礎教育においては、カリキュラム全体を通して、看護
業務の法的根拠、患者の権利、看護師の責務等に関する教育を強化し、また、静脈注射を安全に
実施できるよう、薬理学、静脈注射に関する知識・技術、感染・安全対策などの教育を一層強化
する必要がある。
3年課程あるいは4年課程における看護基礎教育の内容と方法(例)
位置づけ:基礎看護学、看護技術「与薬」
(科目・単元設定は学校により異なりうる)
目的:静脈注射の安全な実施に関する基礎的知識・技術を習得する。
目標:
1.看護師による静脈注射実施の法的解釈の経緯・看護業務における位置づけを確認し、看護師が行う範
囲・状況について理解する。
2.与薬方法としての静脈注射の特性・危険性を理解する。
3.静脈注射の合併症とその予防・対処方法を理解する。
4.医療を受ける患者の権利を認識し、権利擁護のための看護師の役割と責務を自覚する。
5.安全な与薬の責任ある実施に際して、看護師がもつ権利と義務を理解する。
6.静脈注射を安全に実施する。
教育内容:
1.看護業務の法的根拠・患者の権利・看護師の責務等:カリキュラム全体を通して強化する。
2.薬理学
1)薬物動態、薬理作用・副作用、薬剤の取り扱い、薬理薬剤の基本的知識
2)抗生剤、抗がん剤、麻酔剤、麻薬、循環作動薬など代表的な薬剤の知識
3)症例を用いた薬剤の適用方法の理解
3.看護技術
目的:1.安全(誤薬予防)のための与薬の5Rの原則を習得する。
2.静脈注射の合併症とその対策について理解する。
3.静脈注射の準備ができ、モデルを用いて静脈注射を実施する。
教育内容:
1)与薬に関する共通事項
(1)安全(誤薬予防)のための与薬の5Rの原則
①Right drug(正しい薬剤)②Right dose(正しい量)③Right route(正しい方法)
④Right time(正しい時間)⑤Right patient(正しい患者)
(2)各与薬方法による薬物動態の違い
(3)薬剤の取り扱い、保管・管理
※薬剤の添付文書の読み方
(4)与薬における看護
アセスメント(目的、留意点)、実施、評価
(5)感染対策(無菌操作、消毒方法、手袋使用、針刺し事故防止など)
2)静脈注射に関する基礎知識
(1)静脈注射の種類
(2)静脈注射の合併症の予防・対処方法
腫脹・発赤・硬結、組織損傷(薬液漏出、炎症、壊死)
、神経損傷、過敏反応、感染、
空気塞栓、循環・心負荷、電解質異常
(3)機器・器材の取り扱い(注射器、針、輸液セット、シリンジポンプ、輸液ポンプ)
13
3)静脈注射(ワンショット、点滴静脈注射)の実際
(1)準備
医師の指示の確認、医師の指示に関する判断、患者の確認、患者の状態の判断、
患者への説明、手洗い、必要物品の準備、薬液の準備
(2)実施(ディスポーザブル手袋使用)
部位の選定、消毒、針の刺入、固定、滴下・注入速度調節、輸液バッグ交換、側管注、抜針
(3)実施中・後の観察、記録
教育方法:講義と演習
・演習では5Rの原則の実施、手技の正確さを目的とする。
・5Rの原則実施のために、状況設定した事例を活用する。
・ワンショットおよび点滴静脈注射の準備から実施までをモデルを用いて実施する。
・点滴静脈注射は、翼状針と留置針の刺入、固定、滴下調整、側管注を行う。
・臨地実習で受け持ち患者の輸液管理を実施する。
6-3 継続教育の保証 (レベル1、レベル2の継続教育)
看護管理者は、各施設の特徴に応じた教育プログラムを整備し、必要な教育を行う。
基礎教育の内容を踏まえて新卒看護師の教育プログラムを整備する他、看護師の能力に応じて
段階的な教育を行う。あるいは、必要な知識・技術を習得するために適切な外部研修の受講を促
進する。
継続教育の内容(例)
・当該施設でよく使用される薬剤の種類、特徴、投与方法、作用、副作用
・輸液の管理
・麻薬・向精神薬の基礎知識、管理
・器具・器材の使用方法、管理
・ドレッシング剤の種類と選択、スキンケア
・患者・家族教育
・感染管理(職業感染防止)
・安全対策
・チーム医療
・記録、報告
・倫理的な看護実践
・心肺蘇生法
この他、静脈注射の実施に必要な教育プログラム案が提示されている。(参考資料12:静脈注射
の教育プログラムとガイドライン)また、病院における継続教育の一例を参考資料として示す。
(参考
資料13:継続教育プログラムの一例)
本会では、在宅輸液管理に関する研修プログラム案を作成した。(参考資料14:在宅輸液管理に関
する研修プログラム案)今後、研修を開始する予定である。
14
6-4 専門の看護師の育成 (レベル3の教育)
安全に静脈注射を実施するために、より高度で専門的な知識・技術をもつ看護師の育成が必要
である。
米国では、輸液療法全般に関する専門的知識・技術をもったInfusion Nurse(輸液療法看護師)
が直接的なケアを提供する他、看護師の教育やスーパービジョンを行っている。Infusion Nurse
(輸液療法看護師)は、2年以上の臨床経験を有し、輸液療法看護師認定協会(Infusion Nurses
Certification Corporation:INCC)による認定を受けた看護師である。(参考資料15: INS
(Infusion Nurses Society)のINFUSION NURSEに関する諸定義)
本会では、輸液療法に関する専門の看護師は、当該病棟において静脈注射を実施する他、看護
師の教育やモニタリング等、当該病棟における静脈注射の質向上のための活動を行う役割がある
と考える。本会としては、今後、輸液に関する専門の看護師の育成と配置について、検討する予
定である。
専門の看護師の役割
1.質の高い看護を直接提供する。
・合併症を予防し、患者に望ましい結果をもたらす。
・病棟の看護師の役割モデルとなる。
2.病棟の看護師の相談窓口となる。
・病棟の看護師が解決困難な問題について、相談窓口となる。
3.看護師の教育を行う。
・輸液療法に関する看護技術等について教育を行う。
4.モニタリングを行う。
・カテーテル合併症の徴候や薬剤の治療効果、副作用などを詳細に観察し、判断する。
5.研究的活動を行う。
・輸液療法に用いられる器具や看護手順等の情報収集と研究を行う。
6.チーム医療を促進する。
・看護師、医師、薬剤師等とのチーム医療を促進する。
・看護管理者や病院経営者等との連携を促進する。
輸液療法看護師の教育プログラム案
対象:看護師免許を有し、内科あるいは外科の臨床経験2年以上の看護師
教育期間:6週間(理論編3週間+実践編3週間)
教育内容:
Ⅰ.輸液療法に関わる関係法規や基準
1.関係法規(保健師助産師看護師法、医師法、薬事法、民法、刑法等)
2.感染予防に関する基準(CDCガイドライン等)
3.日本看護協会看護業務基準、倫理綱領など
Ⅱ.輸液療法に関連する解剖・生理学
1.輸液に使用される静脈の部位と特徴
2.静脈の形態に影響する要因
Ⅲ.輸液と水・電解質
1.水・電解質バランスの基礎知識
2.輸液療法の原則
15
Ⅳ.薬物療法…抗がん剤、循環作動薬、麻薬などを中心に
1.薬剤の基礎知識
2.薬剤の危険性
3.薬剤の混注に関連する知識
4.薬剤混合の基礎知識
Ⅴ.輸液療法の実際
1.対象へのアプローチ
医師の指示の確認→患者の同意→患者のアセスメント→ケアプラン作成→実施→評価
2.輸液療法に関する感染管理
3.物品の選択方法
針・カテーテル・ドレッシング材などの選択方法と選択に影響する要因
4.静脈穿刺と固定の技術
注射針の種類、選択、穿刺方法、固定方法
5.合併症の機序と予防・対処方法
全身:感染、肺塞栓、空気塞栓、循環器系への負荷等
局所:静脈炎、血管外漏出等
6.実施記録
ⅤⅠ.小児における輸液療法
7 静脈注射の実施基準
7-1 医師の指示と看護師の自律的判断
7-1-1 医師の指示
静脈注射は、医師の診断、治療の一環として行われるものであり、治療に関する責任は医師に
ある。医師が静脈注射を看護師に指示する場合は、指示者としての責任を有する。
看護師は、医師の指示に基づき、診療の補助業務の一部として静脈注射を行う。看護師が静脈
注射を行うにあたっては、医師がその内容と方法を明確に記載した文書を要する。
医師の指示を受理する際の確認事項
1.静脈注射の実施は、明文化された医師の指示を要する。
2.医師の指示は、その内容を確認した上で受理する。
1)指示に患者氏名、薬剤名、単位 (規格)(mlとmg)、使用量・使用回数・投与速度・投与経路などの
投与方法、指示した医師の氏名が明記されていることを確認する。
2)指示の内容が患者の病状、年齢、体重等から妥当なものであるか判断する。
3)倫理的な問題がないか判断する。
3.記載が不明瞭な場合や内容が不明確な場合は、指示を出した医師へ問い合わせる。
4.指示を受理できない場合は、指示を出した医師と協議し、必要に応じて指示の変更を求める。
5.口頭指示は受けないことを原則とする。
6.緊急の場合等で、やむを得ず口頭指示を受ける場合は、復唱して内容を確認する。
7.口頭指示によって実施した看護師は、実施内容を遅滞なく記録する。
8.口頭指示を出した医師は、所定の様式に基づいて指示内容を遅滞なく記録する。
16
9.医師の指示の出し方、看護師の指示の受け方に関する施設内のルールや責任を明確にする。
1)指示書の様式、記載内容、記載方法
2)指示を出す方法、指示を出す時間帯
3)医師の指示を受ける看護師の能力、条件
4)指示が不明瞭・不明確な場合の確認方法
7-1-2 医師の指示に対する看護師の自律的判断
医師の指示に基づいて静脈注射を実施するかどうか、また、実施できるかどうかについては、
施設の方針や取り決めに従い、患者の病態、薬剤の種類・量・副作用、看護師の能力(知識・技
術・経験等)、緊急事態発生時の対応体制等を総合し、看護師が自律的に判断する。また、看護
管理者は、看護師の自律的な判断を支持し、支援する体制づくりを行う必要がある。さらに、看
護師の自律的な判断が尊重されるようなチーム内の関係づくりに努める必要がある。
7-1-2-1 指示の理論的根拠及び倫理性に関する判断
医師の指示に基づく医療行為を行うにあたっては、理論的根拠及び倫理性について看護師とし
て自律した判断を行う必要がある。医師の指示に基づく医療行為の実施に関して、本会の看護業
務基準では以下のように示している。
日本看護協会 看護業務基準(抜粋)(参考資料7参照)
医療行為の実施に際しては、保健師助産師看護師法第37条の定めるところに基づき医師の指示が必要であり、
以下の点について看護独自の判断が必要である。
1)医療行為の理論的根拠と倫理性
2)患者にとっての適切な手順
3)医療行為による患者の反応の観察と対応
医師の指示についての看護師の判断
1.現在の患者の状態から判断して必要か
2.現在の患者の状態から判断して実施可能か
3.患者の安全が確保されるか
4.十分な情報提供が行われ、自己決定の機会が保障されるか
5.最小限の苦痛で実施できるか
理論的根拠及び倫理性に問題があると判断した場合は、その実施に対して疑義を申し立て、実
施しない。
マサチューセッツ州看護協会は、安全に与薬を行うための看護師の権利として、以下のように
示している。
安全な与薬を行うための看護師の6つの権利 マサチューセッツ州看護協会 1.The right to complete and clearly written order
完全で明確に書かれた指示を受ける権利
2.The right to have the correct drug route and dose dispensed
正確な経路で正確な量を投与する権利
3.The right to have access to information
情報にアクセスする権利
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4.The right to have policies on medication administration
薬物治療の管理上の方針を持つ権利
5.The right to administer medications safely and to identify problems in the system
薬物治療を安全に実施し、システム上の問題を識別する権利
6.The right to stop, think, and be vigilant when administering medications
止まり、考え、薬物治療を実施する場合に警戒する権利
Massachusetts nurses association:Nurses’ six rights for safe medication administration
(Potter, PA&Perry, AG:Basic nursing, Sthed. Essentials for Practice Mosby, 2002, pp.295−296)
7-1-2-2 安全確保のための実施者の能力の判断
看護師が医師の指示により薬剤を投与することは、医師の責任において行われるべき治療の一
部について、実施者としての責任をもつことであり、患者の安全性の確保の観点から高度な専門
的判断能力が必要である。看護師が静脈注射を実施するにあたっては、安全確保について十分自
覚し、必要な配慮をするとともに、静脈注射の実施及び実施後の対応に必要な知識・技術に精通
し、習熟していなければならない。
安全確保の観点からの判断とは、単に静脈注射の手技ができるか否かの判断ではなく、患者に
実施してよいかどうかの判断や、実施後の結果を自らの責任として引き受けることができるかど
うか、自己の能力を適切に判断することである。
知識・技術が伴わない場合や、患者の状態に不安がある等、自己の能力を超えると判断した場
合は、十分な能力をもつ他の看護師や医師に申し出る必要がある。これは患者の安全を守り、看
護の質を保つために重要なことであり、看護師としての責任である。
他の看護師に委譲する場合は、相手の能力を正しく判断する。看護師が准看護師に実施を指示
する場合は、指示者としての責任をもつ。
看護管理者は、個々の看護師の能力を踏まえた適切な業務調整を行うとともに、看護師個々の
知識・技術・経験を適正に評価し、必要な教育を行う。また、安全な医療・看護の提供のため、
看護師の自律的な判断を支援する。
7-2 患者に対する十分な説明と同意の確認
7-2-1 医療法の規定による医療関係者の責務
医療法に規定されているように、医療関係者は患者に対する説明責任を有する。
医療法
【医療関係者の責務】
第一条の四 医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、第一条の二に規定する理念に基づ
き、医療を受ける者に対し、良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならない。
2 医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な
説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。
7-2-2 医師による患者への説明と同意の確認
医師は、治療に関する患者への説明責任を有する。特に薬剤の初回投与時や薬剤の種類・量の
変更時は、十分な説明と患者の同意の確認が必要である。
看護師は、患者が医師によって説明された内容を十分理解し、納得しているか確認する。理解
が不十分な場合や納得していない場合は、わかりやすく説明を補い、必要に応じて医師に再度説
明を依頼する。
18
7-2-3 看護師による患者への説明と同意の確認
看護師は、自らの行う看護に関する説明責任を有する。患者が治療、検査、看護を納得して受
けることができるよう、看護師としての説明責任を果たす。患者本人が意思表示できない場合は、
家族等に説明し、同意を得る。
患者への説明と同意の確認
1.患者への説明はわかりやすい言葉を用いて効果的に行う。
2.説明には以下のような内容を含む。
1)注射の目的、期待される効果
2)注射の量、部位、方法、実施時間、所要時間
3)予測される副作用、痛み、対処方法
4)看護師への連絡方法、注射中の注意事項など
3.説明した内容について患者の疑問に答える。
4.看護師が回答できない事項があった場合は、医師に報告し、再度説明を依頼する。
5.患者の同意を確認する。
7-3 安全に実施するための手順
7-3-1 実施にあたっての確認事項
静脈注射および点滴静脈注射を安全に実施するため、以下の事項を確認し、事故などのリスク
を回避する。
静脈注射の実施前の確認事項
1.5Rを確認する。
1)Right drug
正しい薬剤
2)Right dose
正しい量
3)Right route
正しい方法
4)Right time
正しい時間
5)Right patient
正しい患者
2.患者の薬剤アレルギー歴、禁忌について情報を確認する。
3.薬液の安全性を確認する。
1)有効期限、使用期限
2)保管状態(温度、遮光)
3)混濁の有無
4)異物混入の有無等
4.機器、器材の安全性を確認する。
1)滅菌材料の使用期限
2)ディスポーザブル製品の包装の濡れ、破損の有無
3)機器の動作確認、保守点検
7-3-2 適切な手順による静脈注射の実施
静脈注射および点滴静脈注射は、指示に沿った適切な方法を選択し、患者の個別性を考慮し、
正確な技術で安全かつ効果的に実施する。実施にあたっては、患者の苦痛、恐怖、不安の程度を
最小限にする。
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1.患者の状態をアセスメントする。
・薬剤を投与する際は、医師の指示を受けた時点と患者の状態に変化がないか、指示された薬剤を投与し
てよい状態であるか判断する。
2.実施する環境を調整する。
1)感染のリスクを回避するため、清潔な環境で行う。
2)患者のプライバシーが守られるよう配慮する。
3.適切な方法で薬剤を準備する。
1)薬剤は、指示書と照合し、必ず2名以上で確認(ダブルチェック)の上準備する。
2)冷所保存していた薬液は室温に戻す。
3)無菌操作で薬液を準備する。
4)注射器あるいは輸液ライン内の空気を除去する。
4.身体的拘束や侵襲が最小限となるような方法を選択する。
1)投与する薬剤の濃度、投与量、投与期間に応じて適切な注射針(カテーテル)を選択する。
・一般の静脈注射には20∼23ゲージ(SB)を用いる。
・静脈炎のリスクを低減するため、薬剤の濃度や量から使用可能な最小のゲージ(太さ)とインチ(長
さ)を選択する。
・長時間持続注入の場合は留置針を選択し、血管損傷を予防するため、金属針、翼状針は避ける。
2)刺入部位を十分露出し、安楽な体位、姿勢をとる。
3)適切な刺入部位を選択する。
・疾患等の状況に応じて、患側への穿刺は避ける。
・利き手側への穿刺はできる限り避ける。
・できる限り太く、弾力のある血管を選択する。
・針の固定が容易な部位を選択する。
・蛇行している血管や関節付近は避ける。
・静脈炎や血栓症の危険性が高いため、下肢静脈はできる限り避ける。
・神経損傷、動脈損傷の危険性が高い部位は避ける。
・何回か続けて実施する場合は、静脈の末梢側から穿刺するよう部位を選択する。
5.患者の不安や恐怖への対応を十分行う。
・実施に際しては十分な説明を行う。
・患者が意思表示しやすいように働きかける。
・看護師の言動によって患者に不安を与えることがないよう留意する。
6.注射針(カテーテル)は無菌操作によって挿入する。
1)手洗いをし、手袋を着用する。
2)注射部位より中枢側に駆血帯をしめて静脈を怒張させる。
3)刺入部を適切な方法で消毒する。
・刺入部を中心として、周辺に向かって消毒する。
・アルコール綿を使用する場合は、十分にアルコールを含んでいる綿、もしくは単包製品のアルコール
綿を使用することが望ましい。
20
4)注射針(カテーテル)は無菌操作によって挿入する。
・刺入部の皮膚を伸展させ、注射針の刃面を上にして、皮膚に対して15∼20度の角度で静脈内に針を刺
入する。
5)注射針(カテーテル)が確実に静脈内に挿入されたことを確認する。
・血液の逆流を確認して駆血帯を外す。
・神経損傷がないこと(痛み、しびれがないこと)を確認する。
・動脈穿刺でないこと(拍動がないこと)を確認する。
7.注射針(カテーテル)を適切な方法で固定する。
1)注射針(カテーテル)の抜去や漏れを防ぐため、確実に固定する。
2)注射針(カテーテル)刺入部を清潔に保つ。
3)留置する場合は、患者の皮膚の状態に応じたドレッシング材を選択し、刺入部位の観察に適した方法
で固定する。
4)ドレッシング材が汚染した場合や剥がれた場合は、直ちに交換する。
・刺入部の周囲の皮膚を清潔にする。
・刺入部を適切な方法で消毒する。
・抜去を予防するため、輸液ラインはループ状にして固定する。
・皮膚の損傷を予防するため、テープを貼付する位置は毎回変える。
8.適切な方法で薬液を注入する。
1)指示された速度で注入する。
2)持続注入の場合は、投与量、速度が適切か確認し、必要に応じて調整する。
3)輸液ポンプを使用する場合は、設定速度と実際の注入量を確認する。
4)ラインの閉塞や血液逆流による血栓性静脈炎を防止する。
5)側管から注入する場合は、単包製品のアルコール綿を使用するなど適切な方法で側注管を消毒し、無
菌操作によって行う。
9.適切なライン管理を行う。
1)注射針(カテーテル)、輸液ライン類が確実に接続されていることを確認する。
2)輸液ラインの接続部からの汚染を防止する。
・操作は無菌的に行う。
・接続部が増えることによって感染の機会が増えるため、接続部はできる限り最小限とする。ラインは
閉鎖式(一体型)のものが望ましい。
・三方活栓はできる限り使用しない。やむを得ず三方活栓を使用する場合は、取り扱いに十分留意する。
3)輸液ラインは適切な方法で交換する。
・輸液ラインは72時間ごとよりも頻回にならないように交換する。
・血液製剤、脂肪製剤に使用したラインは輸注終了後24時間以内に交換する。
・中心静脈法により血液製剤等に使用したラインは輸注開始後24時間以内に交換する。
・末梢静脈カテーテルは72∼96時間ごとよりも頻回にならないように交換する。(参考文献:矢野邦夫訳:
血管内カテーテル由来感染予防のためのCDCガイドライン,メディカ出版,2003)
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4)ヘパリンロックや生食ロックが必要な場合は、適切な方法で行う。(参考資料16:ヘパリンロック・生食ロ
ックの実際)
・ヘパリン加生理食塩水は、その都度無菌的に混合して用いる。あるいは、1回ごとに使用できる滅菌
製剤を用いる。
・陰圧によりカテーテル内に血液が逆流するのを防ぐため、フラッシュ(注入)の際は陽圧をかけ、注
射器内に薬液を少量残した状態でクランプする。
・フラッシュ後はカテーテル先端への血液逆流を防ぐため、ラインの圧迫等を避ける。
10.注射中、注射後の患者の状態を観察し、異常を早期に発見する。
1)患者の健康状態やリスク因子、投与する薬剤の特徴、投与方法、作用、副作用等から必要な観察事項
を明確にし、継続的に観察する。
2)使用薬剤の治療効果、副作用を観察する。
・発熱、蕁麻疹、嘔気、嘔吐などのアレルギー反応、アナフィラキシーショック、末梢神経麻痺、細菌
感染、血栓性静脈炎、薬液漏出による皮膚壊死
3)カテーテル合併症(静脈炎、もれ、閉塞、感染)の有無を観察する。
・刺入部の状態、周囲の皮膚の状態、全身状態(特に熱型)
、血液検査データ
11.異常を発見した場合は適切に対処する。
1)緊急を要する事態に対しては臨時応急の手当てを行う。
2)物的、人的環境を迅速に整え、患者がより安全・安楽になるよう支援する。
3)副作用等患者にとって有害事象が観察された場合は、医師や他の医療スタッフと情報を共有し、チー
ムとして適切に対応する。
※抗がん剤の血管外漏出時の対処については、巻末の参考文献リスト「抗がん剤の血管外漏出時の対処」
の項参照
12.適切な方法で注射針(カテーテル)を抜去する。
1)薬液付着による皮膚障害を防ぐため、必要に応じて生理食塩水でフラッシュした後、抜去する。
・特に抗がん剤の投与後は薬液暴露に注意する。
2)止血し、止血したことを確認する。
・抜去後の止血は滅菌ガーゼの使用が望ましい。
13.医療廃棄物を適正に処理する。
医療廃棄物の処理方法に関する基準を遵守する。
14.記録
1)静脈注射・点滴静脈注射を実施した看護師は、その過程を記録し署名する。
2)記録には以下の内容を含む。
・実施内容、方法、部位、時間
・患者の反応、症状などの観察事項
・看護師の判断、対応
22
8 今後の課題 8-1 基礎教育に関する課題
厚生労働省「新たな看護のあり方に関する検討会中間まとめ」(参考資料4)では、「看護知識
の増大、看護技術の発達、看護教育の高度化等により看護師等の知識・技能は大きく向上してき
ている」とし、「看護教育水準の向上」を理由の一つとして静脈注射に関する行政解釈の変更が
必要であるとしている。しかしながら、現在の基礎教育における技術教育は、日常生活援助技術
の習得に重きがおかれ、診療の補助に関する技術習得のレベルは、かつての教育水準に比較して
低下していると言わざるを得ない。この背景として、看護学生が無資格者であり、臨地実習が困
難であること等が指摘されている。
行政解釈によって静脈注射が看護師の業務の範疇とされたことを受けて、今後は、基礎教育に
おいて静脈注射の安全な実施に関する基礎的知識・技術を十分習得できるようにすることが不可
欠となる。
看護教育者は、学生が卒業時までに習得すべき技術の内容と到達のレベルを明確に示し、看護
教育者の責任において安全性を確保しつつ、学内演習や臨地実習による技術教育を行うことが求
められる。新卒者の看護実践能力の向上のため、看護教育者は、自らの看護実践能力の向上に努
め、かつ、実習施設との指導体制の整備、強化を図る必要がある。
文部科学省看護教育の在り方に関する検討会報告書には、看護実践能力を支える学習項目と卒
業時に要求される能力がすでに明示されている。(看護学教育の在り方に関する検討会報告:大学における
看護実践能力の育成の充実に向けて,平成14年3月26日)
8-2 訪問看護における課題
訪問看護によって静脈注射を実施しても、現在の診療報酬体系では訪問看護師の手技料や管理
料が評価されない。特に、点滴静脈注射の場合は長時間の観察を要するため、訪問看護の時間に
ついても見直し、看護師の手技や管理に関する正当な評価が求められる。
この他、薬剤の管理体制(薬剤の保管・管理・無菌調剤等)の整備、薬剤や医療材料の供給シ
ステム(患者宅への配送システム等)の整備、緊急時の対応体制、地域の病院と連携した技術教
育の体制整備等が必要である。
8-3 質の保証のための体制整備
医療の高度化・国民のニーズの多様化に対応できる看護専門職の育成のために、看護教育の大
学化・大学院化が進み、さらに認定看護師・専門看護師等の高度な知識・技術を備えたスペシャ
リストの育成が進められている。国民が求める医療サービスを提供するため、その一翼を担う看
護師が専門職として、その能力に見合った裁量権、機能を拡大していくことは重要な課題である。
ただし、機能を拡大するにあたっては、専門職として提供するサービスの質を保証することが必
要であり、そのための体制整備が前提である。
本指針は、現時点における看護師の静脈注射に関する実施範囲を示したものである。今後、看
護師の専門教育による能力の向上と、看護実践環境の整備状況に応じて、看護師の実施範囲の見
直しが必要となる。
本会は、多様な場で働く看護師が専門職として自らの責務を果たし、看護の質を保証するため
に、都道府県看護協会と連携して会員の支援を行う責務がある。本会は、医療事故に対しては平
成13年に医療・看護安全対策室を設置し、都道府県看護協会と連携しながら会員支援を行ってい
る。新たな業務の拡大や裁量権の拡大によって生じるであろうさまざまな問題に対する相談体制
と支援体制の検討が今後の課題である。
また、静脈注射の実施に関しては、引き続き会員に対して看護実践に関する情報提供を行うと
ともに、看護実践環境に関する条件整備を推進する。さらに、静脈注射の実施に関する専門の看
23
護師を育成することが急務であり、本会が専門の看護師の育成プログラムを開発し、実施する方
向で検討する予定である。
24
●参考資料
1.厚生省医務局長通知(昭和26年9月15日付け医収第517号)
2.厚生省医務局長通知(昭和26年11月5日付け医収第616号)
3.国立鯖江病院における誤薬注射死亡事故の概要とその判決
4.新たな看護のあり方に関する検討会中間まとめ(厚生労働省、平成14年9月6日)
5.厚生労働省医政局長通知(平成14年9月30日付け医政発第0930002号)
看護師等による静脈注射の実施について
6.看護師の倫理規定
6−1 看護師の倫理規定 日本看護協会 1988年
6−2 ICN看護師の倫理綱領 2000年
7.日本看護協会 看護業務基準 1995年
8.看護師等による静脈注射の実施に関する病院の見解
8−1 全国国立大学病院看護部長会議常置委員会の見解
8−2 北里大学病院看護部の見解
9.フランス雇用連帯省 看護職実践・職業行為に関する法令(抜粋)2002年
10.訪問看護における点滴静脈注射管理協定書・医師への報告基準の一例
11.針刺し事故防止マニュアル
12.静脈注射の教育プログラムとガイドライン
13.継続教育プログラムの一例
14.在宅輸液管理に関する研修プログラム案
15.INS(Infusion Nurses Society)のINFUSION NURSEに関する諸定義
16.ヘパリンロック・生食ロックの実際
25
参考資料1 厚生省医務局長通知(昭和26年9月15日付け医収第517号)
○保健婦助産婦看護婦法第三十七条の解釈についての照会について
(昭和二六年九月一五日)
(医収第五一七号)
(各都道府県知事あて厚生省医務局長回答)
標記について福井県知事よりの照会(別紙甲号)に対し別紙乙号の通り回答したから今後は関係団体とも
協力の上回答の趣旨の徹底に努め、これが励行せられるよう御指導願いたい。
[別紙甲号]
保健婦助産婦看護婦法第三十七条の解釈についての照会
標記について今般福井地方検察庁から照会がありましたので、之が解釈の正確を期するため貴省の御意見
伺い度御繁忙中恐れ入りますが左記事項速急御回示願いたく御照会します。
記
一 保健婦助産婦看護婦法第三十七条に於いては、「保健婦、助産婦、看護婦または准看護婦は主治の医師
または歯科医師の指示があった場合の外診療機械を使用し、医薬品を授与しまたは医薬品について指示をな
し、その他医師若しくは歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずる虞のある行為をしてはならない。」
と規定してあるが、右の行為は医師の指示による診療機械の使用と謂い得るか。
一 看護婦が医師の処方箋に基いて患者にブドウ糖の静脈注射をなすこと(医師は現場に居合わさず。)
[別紙乙号]
保健婦助産婦看護婦法第三十七条の解釈についての照会について
八月二十九日医第一四八一号をもって照会のあった標記の件については別紙写の福井地方検察庁検事宛回
答により御諒承の上今後関係団体とも協力し回答の趣旨の周知徹底に努めこれが励行せられるよう御指導願
いたい。
(別紙写)
保健婦助産婦看護婦法第三十七条の解釈についての照会について
(昭和二六年九月一五日 医収第五一七号)
(福井地方検察庁検事あて厚生省医務局長回答)
八月二十八日日記第一〇二一号をもって照会のあった標記について左記の通り回答する。
記
看護婦の業務内容は保健婦助産婦看護婦法(昭和二十三年七月三十日法律第二百三号。改正昭和二十六年
四月十四日法律第百四十七号。以下法と略称する。)第五条に規定する通り傷病者若しくはじょく婦に対す
る療養上の世話と医師又は歯科医師の行う診療の補助とである。
法第三十七条の規定は、法第五条の規定する看護婦の権能の範囲内においても、特定の業務については、
医師又は歯科医師の指示がなければこれを行うことが出来ないものであることを規定しているものである。
照会のあった静脈注射は、薬剤の血管注入による身体に及ぼす影響の甚大なること及び技術的に困難であ
ること等の理由により医師又は歯科医師が自ら行うべきもので法第五条に規定する看護婦の業務の範囲を超
えるものであると解する。従って静脈注射は法第三十七条の適用の範囲外の事項である。
しかし従来斯かる法の解釈が一般に徹底せず又医師数の不足等の理由により、大部分の病院等においては
医師又は歯科医師の指示により看護婦が静脈注射を行っていたのが実情であり、今直ちに全般的に法の解釈
通りの実行を期待することは困難な事情もあるので、当局としては今後漸次改善するよう指導する方針であ
るから、貴庁においても事案の処理にあたっては十分これらの事情を斟酌願いたい。
26
参考資料2 厚生省医務局長通知(昭和26年11月5日付け医収第616号)
○医師法第十七条等の疑義について
(昭和二六年一一月五日)
(医収第六一六号)
照会 (三重県知事あて厚生省医務局長回答)
最近国立鯖江病院での注射禍事件が八月二十六日の毎日新聞および医薬通信第二六六号、その他関係刊
行物等で論議され、特に看護婦は静脈注射を禁止されているかのように論ぜられているが、もし静脈注射
が看護婦に禁止されている行為であるとすれば、これを行った場合は当然医師法第十七条に抵触すること
となり、保健婦助産婦看護婦法第三十七条との関係が曖昧となると思われ指導上聊か疑義があるので何分
の御指示を煩わしたい。
なお前記保、助、看法第三十七条にいう医師の指示の範囲は文書であると口答であると問わず医師が看
護婦に対して意思表示をすればよく、また指示した事項が実行される間現場で推移を目撃している必要は
ないものと考えるが、この解釈も併せて御指示を御願いする。
回答
去る九月十二日衛医第三、一二五号をもって貴県衛生部長から照会のあった右のことについては、左記
の通り回答する。
記
1 静脈注射は、本来医師又は歯科医師が自ら行うべき業務であって保健婦助産婦看護婦法第五条に規定す
る看護婦の業務の範囲外であり、従って、看護婦が静脈注射を業として行った場合は、医師法第十七条に
抵触するものと解する。但し、実際の指導取締に当たっては、本年九月一五日医収第五一七号通牒末項の
趣旨によられたい。
なお、保健婦助産婦看護婦法第三十七条の規定は、同法第五条の規定する看護婦の権能の範囲内におい
ても特定の業務については、医師又は歯科医師の指示がなければこれを行うことが出来ないものであるこ
とを規定しているものである。
2 保健婦助産婦看護婦法第三十七条に規定する指示とは、必ずしも文書によることを要しないが、如何な
る程度の指示を同条による指示と解すべきかは、具体的な場合について個々に判断する外はない。
3 なお本件については、本年九月十五日医収第五一七号(保健婦助産婦看護婦法第三十七条の解釈につい
ての照会について)通牒を参照されたい。
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参考資料3 国立鯖江病院における誤薬注射死亡事故の概要とその判決
国立鯖江病院における誤薬注射死亡事故の概要
国立鯖江病院薬剤科の薬剤師Aは、昭和26年8月1日、製剤室で、ブドウ糖650cc、耳鼻科で使う3%ヌ
ペルカイン溶液100ccなどを調剤した。このヌペルカインは薬事法上劇薬とされ、容器に赤枠赤字で品名と
劇の字を記載した標示紙を貼付しておかなければならないが、ブドウ糖注射液と同じように100cc入りのコ
ルベン容器に入れ、ブドウ糖注射液と同色同型の標示紙に青インクで「3%ヌペルカイン」と記載しただけ
であった。これをブドウ糖注射液在中のコルベン容器数本とともに、同じ滅菌器に入れて翌日まで放置した。
翌日午前9時30分頃、同薬剤科に勤務する事務員Bが滅菌器から前記コルベンを取り出して、薬剤室格納
棚に整理していたが、これをみても、Aは前日ヌペルカイン在中のコルベンとブドウ糖注射液在中のコルベ
ンを同一滅菌器に入れたことを忘れていたため、Bになんら注意も与えなかった。B事務員は、同日ヌペル
カイン在中のコルベンをブドウ糖注射液在中のコルベンと信じ、ブドウ糖注射液のコルベンとともに薬剤科
事務室に運び、ブドウ糖注射液の交付を求めてきた看護師Cにブドウ糖注射液として交付した。看護師Cは
それを同病院内科処置室の処置台へ運んだのち、そのコルベン在中のものがブドウ糖注射液ではなく3%ヌ
ペルカインであることを確認したため、これを区別して処置台の隅においた。
その日の午後、同病院の当時の乙種看護婦Dは、医師の処方箋などの指示に従って、入院患者3名にブド
ウ糖の注射をしようとしたが、同処置台にあった3%ヌペルカイン100ccコルベンに何の注意も払わないで、
これをブドウ糖注射液と速断し20cc注射器3本に詰め、事情を知らない他の看護師とともに患者2名に注射
してヌペルカイン中毒によって死亡させるに至った。
A薬剤師、B事務員、乙種看護師Dが業務上過失致死罪(刑法211条)により起訴され、福井地方裁判所
武生支部は、昭和26年12月12日、A、Bについては無罪、Dのみ禁錮10月(執行猶予2年)の有罪判決を言
渡した。そこで検事およびDから控訴され、名古屋高等裁判所金沢支部は、昭和27年6月13日、薬剤師Aに
ついては薬事法違反、業務上過失致死罪により懲役10月(執行猶予2年)、薬剤事務員Bについては業務上過
失致死罪により罰金3000円、乙種看護婦Dについては業務上過失致死罪により禁錮10ヶ月(執行猶予2年)
の言渡しをした。被告人全員が上告したが棄却となり確定した。
(注)昭和26年4月14日、保健婦助産婦看護婦法の一部が改正され(法律第百四十七号)、
「甲種看護婦」は「看護婦」に、
「乙種看護婦」は「准看護婦」となった。
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名古屋高等裁判所金沢支部判決(昭和27年6月13日)
「所謂証人の供述並に厚生省医務局長作成の調査報告書及びその付属看護婦実習教本抜粋によれば、看護
学校における教程には静脈注射は医師が自ら行うべきもので、看護婦はこれを補助するに止まるべきものと
の考えの下にその技術上の実習指導を行っていないことが認められるから、右教育の方針に静脈注射をもっ
て医師の具える医学知識と技術によるものでなければ、患者の身体に危害を及ぼす虞れのある行為と認める
観念に立脚していることが明らかである。
しかし、看護婦は保健婦助産婦看護婦法5条、6条、37条の各規定に徴すれば主治の医師の指示する範囲
においてその診療の補助者として、傷病者に対し診療機器を使用し医薬品を投与し、又は医薬品について指
示し及びその他医師の行なうことの出来る行為をすることが許されているものと解すべきであるから、看護
婦の医師の指示により静脈注射を為すことは当然の業務上の行為であるといわなければならない」
最高裁判決(昭和28年12月22日)
「看護婦が医師の指示に従って静脈注射をするに際し過失によって人を死傷に致した場合には刑法211条の
責を負わなければならない」
刑法
【業務上過失致死傷等】
第211条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円
以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
刑法211条の業務とは、人がその社会生活上の地位に基づいて反復継続して行う行為で、他人の生命、身体に
危害を加えるおそれのあるものをいい、違法のものも含む。したがって、これらの判決は、静脈注射が保健師
助産師看護師法上の業務の範囲内であるか否かについて示したものではない。
(参考文献)
・高田利廣:「看護師等による静脈注射の実施について」(厚生労働省通知)を読んで,看護教育,43(12),1050-1055,
2002.
・平林勝政,小西知世,宮崎歌代子:看護婦の静脈注射をめぐる問題−国立鯖江病院事件を手がかりに,看護管理,11
(6),468-473,2001.
・前田雅英:刑法各論講義,東京大学出版会,1989,p.68.
29
参考資料4 新たな看護のあり方に関する検討会中間まとめ(厚生労働省、平成14年9月6日)
新たな看護のあり方に関する検討会は、平成14年5月31日から、少子高齢化の進展、医療技術の進歩、国
民の意識の変化、在宅医療の普及、看護教育水準の向上などに対応した新たな看護のあり方について検討を
行うことを目的とし、①医師による包括的指示と看護の質の向上による在宅医療の推進 ②医療技術の進歩
に伴う看護業務の見直し ③これらを推進するための方策等についてを検討課題として、これまで5回にわ
たり精力的に審議を行ってきたところである。
今回の中間まとめは、これまでの議論を踏まえ、論点の整理を行うとともに、看護師等による静脈注射の
実施について意見をまとめたものである。
今後、残された論点について議論を深め、平成14年度中には最終報告書をとりまとめる予定としている。
1 これまでの議論を踏まえた論点の整理
(1)時代の変化と新たな看護の役割
○看護知識の増大、看護技術の発達、看護教育の高度化等により看護師等の知識・技能は大きく向上し
てきている。
一方、医療に対する国民のニーズは拡大・多様化し、看護師等に期待される役割は拡大しつつある。
○平成13年度厚生労働科学研究「諸外国における看護師の新たな業務と役割」によれば、諸外国におい
ても看護師の役割・業務は拡大してきている。
フランスでは看護師独自の判断で行う活動、医師の指示で看護師単独で実施する活動、医師のそばで
実施する活動とに分けられ、自由開業看護師が数多く活動している。アメリカでは専門看護師(CN
S)やナースプラクティショナーが一定の薬剤の処方を含めてその判断で行える業務が規定されてい
る。
○一方、看護の独自の役割についても、多くの看護理論が現れてきており、アメリカの看護診断分類も
我が国に紹介され活用されつつある。
○我が国においても、看護師等の能力を可能な限り活用することにより、患者の視点に立った医療の提
供を推進することは重要な課題である。特に、今後ますますニーズが拡大する在宅医療において、身
体状況の変化などに対応し、患者が適切な看護ケアを迅速に受けられるようにするため、看護師等が
行うことができる業務や関連諸制度などの見直しを行うことが必要である。
(2)看護師等の専門性を活用した在宅医療の推進
○住み慣れた地域の中で療養生活を送りたいという患者のニーズに対応するためには、医療依存度の高
い在宅療養者に対する看護ケアや増加するがん末期患者に対する在宅での疼痛緩和ケア等に対応でき
る訪問看護ステーションが少ない現状にある。
○また、訪問看護の開始や継続は、医師の訪問看護指示書に基づいて行われるが、指示の内容や範囲が
必ずしも明確でない場合があり、患者の病態等の変動があった場合、新たに個別具体的な指示を必要
とすることが多い。このため、多くの在宅療養者の主治医と連携して活動している訪問看護ステーシ
ョンでは、必要なケアの提供までに時間を要している。
○医師の指示は、医師と看護師等との連携の下、患者の病態の変化を予測した事前の「包括的指示」に
より、看護師等が柔軟に対応できるようなものであることが望ましい。看護師等は患者の状態を観察
し判断して、その事前の「包括的指示」の範囲内で最も適切な看護が行えるようにする必要がある。
※本検討会で用いている「包括的指示」とは、
例えば在宅酸素療法を受けている患者の場合
安静時鼻カニューレ2 l/分
活動時(排便・散歩など)鼻カニューレ2 l/分∼5 l/分まで状況に合わせて調節可
といった内容を指すものである。
○また、在宅医療を取り巻く関連諸制度の再検討の課題として、例えば、在宅における注射の取り扱い
の見直し、在宅がん末期患者の疼痛を緩和するための麻薬製剤の適切な使用の促進、必要な衛生材料
の供給体制、さらには、在宅患者の死亡時における看護師等の関わり方などの検討が必要との意見も
あった。
○今後、高齢化の進展や在院日数の短縮等を考えると、さらに在宅医療を推進していく必要がある。そ
のため看護師等は、医師、薬剤師等その他の職種と緊密な連携を図り、その専門性を発揮していくこ
とが重要である。
30
2 看護師等による静脈注射の実施について
○看護師等による静脈注射の実施については、厚生省医務局長通知(昭和26.9.15 医収517)におい
て、①薬剤の血管注入により、身体に及ぼす影響が甚大であること ②技術的に困難であるとの理由
により、看護師等の業務範囲を超えているとの行政解釈が示されてきた。
○一方、平成13年度に実施された看護師等による静脈注射の実態についての厚生労働科学研究の結果で
は、①94%の病院の医師が看護師等に静脈注射を指示している、②90%の病院の看護師等が日常業務
として静脈注射を実施している、③60%の訪問看護ステーションで静脈注射を実施しているというこ
とが明らかになった。
○この行政解釈が示されて以来50年以上が経過し、その間の看護教育水準の向上や、医療用器材の進歩、
医療現場における実態との乖離等の状況も踏まえれば、医師の指示に基づく看護師等による静脈注射
の実施は、診療の補助行為の範疇として取り扱われるべきであると考えられる。
○ただし、薬剤の血管注入による身体への影響が大きいことには変わりがなく、医療安全の確保は何よ
りも優先されるべきものであり、解釈変更で患者の安全性が損なわれることのないようにすべきこと
は言うまでもない。本検討会においても、医療機関によっては、人員配置を手厚くすべきではないか、
静脈注射を実施できる看護師等の条件を定める必要があるのではないか、ガイドライン等が必要では
ないかなど、様々な意見が出されたところである。
○このため、まず、厚生労働省においては、医師の指示に基づく看護師等による静脈注射の実施につい
て、行政解釈を改めることが必要である。また、看護基礎教育における教育内容や卒後の医療機関等
における研修内容についても、その骨子を示し、教育現場や医療機関における取組みを促進すること
が必要である。
併せて、医療機関においては、本年10月から病院等に医療安全管理体制の確立を図ることが義務づ
けられること等も踏まえて、医師の指示に基づいて看護師等による静脈注射が安全に実施できるよう、
静脈注射の実施や注射薬の取扱いに関して、施設内基準や看護手順の作成、見直しを行い、また、
個々の看護師等の能力を踏まえた適切な業務の分担を行うことが求められる。
「新たな看護のあり方に関する検討会」メンバー (50音順)
氏 名
い べ
所属機関・役職
としこ
井部 俊子
うえの
けいこ
上野
桂子
うちぬの
あつこ
内布
敦子
かわごえ
こう
川越
厚
かわむら
さ わ こ
座長 川村 佐和子
くにい
はるこ
國井
治子
にしざわ
ひろとし
西澤
寛俊
ひらばやし
かつまさ
平林
勝政
ふじがみ
まさこ
藤上
雅子
みやたけ
聖路加国際病院副院長・看護部長
聖隷福祉事業団在宅サービス部長
兵庫県立看護大学助教授
ホームケアクリニック川越院長
東京都立保健科学大学教授
(社)日本看護協会常任理事
(社)全日本病院協会副会長
國學院大学学長特別補佐・教授
(社)日本薬剤師会常務理事
たけし
宮武
剛
やなぎだ
き み こ
柳田
喜美子
埼玉県立大学教授
(社)日本医師会常任理事
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参考資料5 厚生労働省医政局長通知(平成14年9月30日付け医政発第0930002号)
○看護師等による静脈注射の実施について
(平成14年9月30日)
(医政発第0930002号)
(各都道府県知事あて厚生労働省医政局長通知)
標記については、これまで、厚生省医務局長通知(昭和26年9月15日付け医収第517号)により、静脈注
射は、医師又は歯科医師が自ら行うべき業務であって、保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第5
条に規定する看護師の業務の範囲を超えるものであるとしてきたところであるが、今般、平成14年9月6日に
取りまとめられた「新たな看護のあり方に関する検討会」中間まとめの趣旨を踏まえ、下記のとおり取り扱
うこととしたので、貴職におかれては、貴管下保健所設置市、特別区、医療機関、関係団体等に対して周知
方お願いいたしたい。
なお、これに伴い、厚生省医務局長通知(昭和26年9月15日付け医収第517号)及び同通知(昭和26年11
月5日付け医収616号)は、廃止する。
記
1 医師又は歯科医師の指示の下に保健師、助産師、看護師及び准看護師(以下「看護師等」という。)が
行う静脈注射は、保健師助産師看護師法第5条に規定する診療の補助行為の範疇として取り扱うものと
する。
2 ただし、薬剤の血管注入による身体への影響が大きいことに変わりはないため、医師又は歯科医師の指
示に基づいて、看護師等が静脈注射を安全に実施できるよう、医療機関及び看護師等学校養成所に対し
て、次のような対応について周知方お願いいたしたい。
(1)医療機関においては、看護師等を対象にした研修を実施するとともに、静脈注射の実施等に関して、
施設内基準や看護手順の作成・見直しを行い、また個々の看護師等の能力を踏まえた適切な業務分
担を行うこと。
(2)看護師等学校養成所においては、薬理作用、静脈注射に関する知識・技術、感染・安全対策などの
教育を見直し、必要に応じて強化すること。
32
参考資料6 看護師の倫理規定
参考資料6−1 看護師の倫理規定 日本看護協会 1988年
人々の看護ニーズは共通で、その基本は不変である。看護師の基本的責任は、人々の健康を増進し、疾病
を予防し、健康を回復し、苦痛を軽減することである。この責任を遂行するに当っての看護師の行動の指針
を日本看護協会は以下のように提示する。
1.看護師は、人間の生命を尊重し、また人間としての尊厳および権利を尊重する。
2.看護師は、対象の国籍、人種、信条、年齢、性別、社会的身分、経済的状態にこだわることなく対応す
る。
3.看護師は、対象のプライバシーの権利を保護するために、個人に関する情報の秘密を守り、これを他者
と共有する場合については、適切な判断のもとに対応する。
4.看護師は、現実の状況下において個人としてあるいは他者と協働して、常に可能な限り高度な看護を提
供する。また自己の実施した看護については個人としての責任を持つ。
5.看護師は、対象のケアが他者によって阻害されているときは、対象を保護するよう適切に行動する。
6.看護師は、地域における健康問題の解決のために住民と協力すると共に、行政当局の政策決定に積極的
に参画する。
7.看護師は、常に質の高い看護を提供できるよう個人の責任において継続的学習に努める。
8.看護師は、看護実践の水準を高め、よりよい看護ケアのために研究に努める。
9.看護師は、人々に常に質の高い看護を提供できるよう看護教育の水準を設定し、実施する。
10.看護師は、常に看護水準を高めるような制度の確立に参画し、また、看護専門職のレベルの向上のため
に組織的な活動を行う。
解説
すべての人々は、人間としての尊厳を維持し、幸福であることを願っている。
このような人々の願いに対して、看護は、人々の健康面のニーズに応えるものである。
看護に対する人々の要求と、それを満たす看護師の行為は、どのような時代にあっても基本的には変わる
ものではない。
看護の目的は、健康増進、疾病予防、健康回復、苦痛の軽減(安らかな死への援助)であり、その目的を
果たすために看護師は、対象の看護上のニーズを把握し、どの個人に対しても人間として尊重し、差別する
ことなく、適切に看護を提供しなければならない。
このために、看護の職業人としての行動の指針を倫理規定としてここに示した。
行動の指針1∼5は、看護師が対象に対し看護を実践するときの規律を示したものであり、また6∼10は、
よい看護を実現するための体制づくり、教育および研究の必要性を規律として示したものである。
1.看護師がその行動の基本としている人間の生命を尊重し、人間としての尊厳と権利を尊重することは看
護師特有のことではなく、むしろ人間としての基本的倫理である。
しかしながら、看護師が、看護の対象である人間に接する場では、人の生と死という生命の根元にかか
わる問題に直面することが多い。また、その活動の多くが身体的、精神的ならびに社会的な健康障害を有
する人々への援助であるという職業としての、特殊性がある。したがって看護師には前述の人間としての
基本的倫理を重んずる行動が、なお一層必要となる。
さらに、今日、科学技術の進歩によって、臓器移植、脳死の判定、延命、体外受精などが行われるよう
になり、生命に関する倫理上の問題が大きく提起されてきている。
このような状況下にあって、看護師は、つねに対象の生命、人格、人権を尊重することを判断、行動の
基本とする。
2.看護師は、対象の国籍、人種、信条、年齢、性別、社会的地位、経済的状態によって、差別することな
く接し、個人の習慣、態度、文化的背景、思想についても受けとめる姿勢をもって対応し、対象の看護上
のニーズに応じて看護を行う。
3.看護師は、個別性のある適切な看護を実施するために、対象の個別的な、身体面、精神面、社会面にわ
たる情報を得る機会が多い。
このような、職業上知り得た情報の取り扱いには細心の注意を払い漏れるのを防がなければならない。
また、これらの情報が、対象にかかわる保健医療関係者、家族などで活用される場合は、その提供する情
報の内容、程度、範囲の判断を的確にし、かつ最小限にとどめることが必要である。
33
4.看護師は、常によい看護を提供できるよう看護に必要な条件を整える。しかし、現実には、さまざまな
制約のある条件下で看護を実施しなければならない場合があるが、いかなる状況下においても個人として、
あるいは協働者とともに、創意、工夫、努力によって可能な限りよい看護を提供するように努める。また、
看護師は、自己の看護についての判断およびその実施した行為に関して責任をもつ。
5.看護師は、対象が適切なケアを受けられるよう配慮することはもちろんである。しかし、保健医療関係
者や家族などの他者によって対象の健康生活が危険にさらされたり、治療、ケアが阻害されている場合に
は、対象の健康を守るために、他者に働きかけたり、あるいは、他の適切な手段によってその問題を取り
除き、対象を保護するよう行動する。
6.看護師は、地域社会の健康問題を住民とともに検討し、その問題解決に努める。また、これらを地方自
治体や国の健康生活に関する予算、施設、人員の充足等行政上の施策にも反映させるため、関係機関に働
きかけたり、あるいは代表を送るなどして積極的に政策決定に参画する。
7.看護師には、医学・医療の進歩や時代とともに、変化する人々の健康上のニーズが多様化するなかで、
高い教養ならびに高度な専門的能力が要求される。このような要求に応えるために看護師は、あらゆる機
会をとらえて、自ら計画的に、たゆみなく研鑚に励み、専門職業人としての義務と責任を果たすようにす
る。
8.看護師は、看護に関する知識の蓄積、技術の向上のために研究を実施し、あるいは研究に協力し、人々
に提供する看護サービスの水準を高めるとともに、個々の看護行為の質の向上を図る。看護の研究の実施
にあたっては、対象となる人の看護を阻害することにならないようにし、また、対象となる人の人権を尊
重し、同意を得て実施する。
9.看護師は、時代の進歩に遅れることなく専門職業としての看護水準を高め、人々に質の高い看護を提供
するために、看護の基礎教育、卒後教育、現任教育などあらゆるレベルの課程において質の高い教育が行
われるよう各々の教育基準などを検討し、それを実施するよう努める。
10.看護師は、いつの時代にあっても質の高い看護を維持し発展させていくために、それらを支える基盤と
して、保健医療および看護にかかわる制度について関心をもち、望ましい制度の確立に積極的に取り組む。
また、看護師自身の勤務条件の整備や、看護専門職全体のレベルを向上させるために、専門職能団体など
の組織をとおして行動する。
34
参考資料6−2 ICN看護師の倫理綱領 2000年(日本看護協会訳)
看護師の倫理に関する国際的な綱領が初めて採択されたのは、1953年の国際看護師協会(ICN)4年毎大
会においてのことであった。その後、この綱領は何回かの改訂を経て、今回、2000年の見直しと改訂に到っ
た。「ICN看護師の倫理綱領」は、フランス語、スペイン語、ドイツ語でも発行されている。
前文
看護師には4つの基本的責任がある。すなわち、健康を増進し、疾病を予防し、健康を回復し、苦痛を緩
和することである。看護のニーズはあらゆる人々に普遍的である。
看護には、生きる権利、尊厳を保つ権利、そして敬意のこもった対応を受ける権利などの人権を尊重する
ことが、その本質として備わっている。看護ケアは、年齢、皮膚の色、信条、文化、障害や疾病、ジェンダ
ー、国籍、政治、人種、社会的地位を理由に制約されるものではない。
看護師は、個人、家族、地域社会にヘルスサービスを提供し、自己が提供するサービスと関連グループが
提供するサービスの調整をはかる。
倫理綱領
「ICN 看護師の倫理綱領」には、4つの基本領域が設けられており、それぞれにおいて倫理的行為の基準
が示されている。
倫理綱領の基本領域
1.看護師と人々
・看護師の専門職としての第一義的な責任は、看護を必要とする人々に対して存在する。
・看護師は、看護を提供するに際し、各個人および家族、地域社会の人権や価値観、習慣、精神的信念が尊
重されるような環境の実現を促す。
・看護師は、個人がケアや治療に同意する上で、十分な情報を確実に得られるようにする。
・看護師は、他人の個人情報を守秘し、これを共有する場合には適切な判断に基づいて行う。
・看護師は、一般社会の人々(とくに弱い立場にある人々)の健康上のニーズおよび社会的ニーズを満たす
ための行動を開始・支援する責任を、社会と分かち合う。
・看護師はさらに、自然環境を枯渇や汚染、劣化、破壊から保護し維持する責任を、社会と分かち合う。
2.看護師と実践
・看護師は、看護業務および、継続的学習による能力の維持に関して、個人として責任と責務を有する。
・看護師は、自己の健康を維持し、ケアを提供する能力が損なわれないようにする。
・看護師は、責任を引き受け、または他へ委譲する場合、自己および相手の能力を正しく判断する。
・看護師はいかなるときも、看護職の信望を高めて社会の信頼を得るように、個人としての品行を常に高く
維持する。
・看護師は、ケアを提供する際に、テクノロジーと科学の進歩が人々の安全および尊厳、権利を脅かすこと
なく、これらと共存することを保証する。
3.看護師と看護専門職
・看護師は、看護実践および看護管理、看護研究、看護教育の望ましい基準を設定し実施することに主要な
役割を果たす。
・看護師は、研究に基づき、看護の中核となる専門的知識の開発に積極的に取り組む。
・看護師は、その専門職組織を通じて活動することにより、看護における正当な社会的経済的労働条件の確
立と維持に参画する。
4.看護師と共働者
・看護師は、看護および他分野の共働者と協力的関係を維持する。
・看護師は、個人に対するケアが共働者あるいは他の者によって危険にさらされているときは、その人を安
全に保護するために適切な処置をとる。
35
「ICN看護師の倫理綱領」の活用方法
「ICN看護師の倫理綱領」は、社会の価値観とニーズに基づいた行動指針である。変わりゆく社会にあって、
この綱領は、現実の看護および保健医療に適用されてはじめて、生きた文書として意味をもつ。
この綱領の目的を果たすためには、看護師がこれを十分に理解し、身に付け、自己の職務のあらゆる場面
で活用する必要がある。看護学生や看護師が、学生生活や職業生活を通じて、いつでもこの綱領を手にとっ
て活用できることが願われる。
「ICN看護師の倫理綱領」:基本領域別の活用方法
「ICN看護師の倫理綱領」の4基本領域である「看護師と人々」「看護師と実践」「看護師と看護専門職」
「看護師と共働者」は、行動基準を定める際の枠組みとなるものである。次に示す表は、これらの基準に基
づいて実際の行動を展開する際の指針となるであろう。看護師および看護学生が実施すべき事項として、以
下のようなものが挙げられる:
・綱領の各基本領域に含まれる基準について学ぶ。
・それぞれの基準が、自己にとってどういう意味を持つかを考え、各自の活動領域(実践、教育、研究、管
理)においてどのように倫理を適用できるか検討する。
・共働者やその他の人々と、この綱領について話し合う。
・自己の経験に基づき倫理的ジレンマの例を挙げ、この綱領に示されている行動基準に照らして検討する。
・グループワークを通じて倫理的意思決定とは何かを明確にして、倫理的行動の基準に関して合意を図る。
・各国看護師協会や共働者、その他の人々と協力しながら、看護の実践、教育、管理、研究において常に倫
理基準を活用する。
36
倫理綱領の基本領域 1.看護師と人々
実践家および管理者
教育者および研究者
各国看護師協会
人権を尊重し人々の価値観や習慣、 ケアへのアクセスの根底である人権
信念に十分配慮したケアを提供す および公平、公正、連帯という考え
る。
方を、教育カリキュラムに含める。
人権および倫理基準を擁護するため
の所信声明ならびに指針を開発す
る。
倫理的課題に関して継続教育を行
う。
倫理的課題および意思決定に関し
て、教育/学習の機会を提供する。
看護師が倫理委員会に加えられるよ
う、陳情活動を行う。
十分な情報を提供し、インフォーム
ド・コンセントの促進と、治療の選
択/拒否権の実現を図る。
インフォームド・コンセントに関す
る教育/学習の機会を提供する。
インフォームド・コンセントに関す
る指針および所信声明を発表し、継
続教育を行う。
確実に秘密保持が図れる記録/情報
管理システムを活用する。
プライバシーと秘密保持に関する考 自国の看護師倫理綱領の中に、プラ
え方を、教育カリキュラムに含める。 イバシーと秘密保持に関する項目を
盛り込む。
職場の安全環境を整備し、
監視する。 学生が、社会的行動を通じた問題解
決の重要性を十分に理解できるよ
う、働きかける。
安全で健康な環境の重要性を提唱す
る。
倫理綱領の基本領域 2.看護師と実践
実践家および管理者
教育者および研究者
各国看護師協会
質の高いケアを促進するための、ケ
ア基準と職場条件を整備する。
生涯学習の促進と、実践能力の向上
を図るために、教育/学習機会を提
供する。
定期刊行物や学会、遠隔教育プログ
ラムなどを通じて、継続教育へのア
クセスを高める。
専門職評価や継続教育、免許の定期
的更新などのシステムを確立する。
継続学習と実践能力維持の関連を実
証するための研究を実施し、その結
果を広く普及させる。
継続教育の機会獲得および質の高い
ケア提供のための基準の確立をめざ
して、陳情活動を行う。
実践能力維持の見地から、個々の看
護師の健康状態をモニターし、その
向上を図る。
個々の看護師の健康が重要であるこ
とを強調し、健康とその他の価値の
関連性を実証する。
看護専門職が健康なライフスタイル
を維持するよう働きかける。看護師
が健全な職場で健全に働けるよう、
陳情活動を行う。
倫理綱領の基本領域 3.看護師と看護専門職
実践家および管理者
教育者および研究者
各国看護師協会
看護実践および看護研究、
看護教育、 看護実践および看護研究、
看護教育、 他の人々と協力して、看護実践およ
看護管理の基準を定める。
看護管理の基準を定めるために、教 び看護研究、看護教育、看護管理の
育/学習の機会を提供する。
基準を定める。
看護と保健に関する研究の実施およ
び、結果の普及と活用に対して、職
場の支援体制を育む。
研究の実施および結果の普及と活用
により、看護の専門性を高める。
看護研究に関する所信声明および指
針、基準を開発する。
看護師にとって望ましい社会経済状
態を実現するために、各国看護師協
会への入会を促進する。
学習者が、看護専門職によって構成
される協会の重要性を十分に理解で
きるように、働きかける。
看護領域で公正な社会経済的労働条
件が実現するよう、陳情活動を行う。
職場の問題に関して、所信声明と指
針を開発する。
37
倫理綱領の基本領域 4.
看護師と共働者
実践家および管理者
教育者および研究者
各国看護師協会
職種に固有の機能と職種間で重複す
る機能を理解し、そのことから生じ
得る職種間の緊張関係を十分に認識
する。
他の医療保健従事者の役割に関する
理解を高める。
他の関連職種との協力を推進する。
専門職としての倫理観と倫理的行動
を、職場内で共有するためのシステ
ムを創設する。
他の専門職に、看護倫理を知らせる。 他の専門職が抱えている倫理的課題
を十分に認識する。
個人あるいは家族、地域社会に対す
るケアが医療保健従事者によって危
険にさらされている場合、それらの
人々や地域社会を安全に保護するた
めの仕組みを開発する。
個人あるいは家族、地域社会に対す
るケアが医療保健従事者によって危
険にさらされている場合、それらの
人々や地域社会を安全に保護する必
要があることを、学習者に教授する。
人々のケアが医療保健従事者によっ
て危険にさらされている場合にそれ
らの人々を安全に保護することに関
して、
指針および所信声明を提供し、
議論を深める。
「ICN看護師の倫理綱領」の普及
「ICN看護師の倫理綱領」を効果的に活用するためには、看護師がこの綱領を十分に理解する必要がある。
ICNは、この綱領が広く、看護教育機関および実践に従事する看護師、看護関係出版社や一般のマスコミに普
及することを願っている。さらに、看護職以外の医療保健関係専門職や一般社会、消費者団体、政策策定グル
ープ、人権擁護組織、看護師の雇用者などにも、この綱領が普及すれば幸いである。
用語集
協力関係
専門職に従事する者が、一定の目標達成を目指した共同的で互恵的な行為や行動の上
に築く関係
共働者
自分以外の看護師、看護師以外の医療保健従事者や専門職または、医療保健領域以外
の就業者・専門職
看護師は社会と
看護師は、医療保健専門職および一人の市民として、公共の保健ニーズと社会的ニー
分かち合う
ズを満たすために必要な行動を開始・支援する
個人の健康
看護師の精神的、身体的、社会的、霊的安寧
個人の情報
専門職として接する過程で得られた情報のうち、個人や家族のプライバシーに関わる
もので、公開されるとプライバシー権の侵害になるもの、または、その個人や家族に
不都合や迷惑、損害をもたらすもの
関連するグループ
個人または家族、地域社会にサービスを提供し、所期の目標達成を目指して働く、自
分以外の看護師や医療保健従事者・専門職の集団
訳注)この文書中の「看護師」とは、原文では nurses であり、訳文では表記の煩雑さを避けるために「看護師」という
訳語を当てるが、免許を有する看護職すべてを指す。
All rights, including translation into other languages, reserved. No part of this publication may be reproduced in
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without the express written permission of the International Council of Nurses. Short excerpts (under 300 words) may
be reproduced without authorisation, on condition that the source is indicated.
他の言語への翻訳権も含めて、この出版物は著作権を有しています。国際看護師協会(ICN)から文書による許諾を得
ることなく、本書の一部または全部を何からの方法で複写することや検索システムに登録することなど、一切の伝播を
禁じます。ただし、短い引用(300語未満)に関しては許可は不要ですが、その場合は出典を明記してください。
C 2000 by ICN - International Council of Nurses, 3, place Jean-Marteau, CH-1201 Geneva (Switzerland) ISBN: 92-95005-16-3.2
Copyright ○
38
参考資料7 日本看護協会 看護業務基準 1995年
看護実践の基準
看護実践の内容
1 看護を必要とする人に身体的、精神的、社会的側面からの手助けを行う。
看護を必要とする個人、家族、集団を身体的、精神的、社会的側面から捉え、 健康な日常生活を送っ
ていくうえで、身体的、精神的、社会的に自分のことが自分で行えない状態にある人に、その人なりの
日常生活が自分でできるよう援助を行う。
2 看護を必要とする人が変化によりよく適応できるように支援する。
現在行われている治療や検査、訓練などについて本人が安心して、さらに積極的に参加できるように
援助し、さらに、健康レベルの変化に応じたライフスタイルを創造するために調整し、情緒的、情報提
供的支援を行う。
3 看護を必要とする人を継続的に観察、判断して問題を予知し、対処する。
看護を必要とする個人・家族・集団を継続的に観察し、健康状態や生活状況を判断することによって、
重大な徴候を識別し、適切な対策を講じる。
4 緊急事態に対する効果的な対応を行う。
緊急事態とは、極度に生命が危機にさらされている状態で、予測・不測の両方の事態が含まれる。
効果的な対応とは、直面している状況をすばやく把握し、必要な人的・物的資源を整え、的確な救命
救急活動を行い、危機状況を管理し、安定化をはかることである。
5 医師の指示に基づき、医療行為を行い、その反応を観察する。
医療行為の実施に際しては、保健師助産師看護師法第37条の定めるところに基づき医師の指示が必要
であり、以下の点について看護独自の判断が必要である。
1)医療行為の理論的根拠と倫理性
2)患者にとっての適切な手順
3)医療行為による患者の反応の観察と対応
看護実践の方法
6 専門的知識に基づく判断を行う。
専門的知識とは、看護の領域に限らず、関連分野の学際的な知識をさし、広くその時代に受け入れら
れている最新のものを意味する。
専門的知識に基づく判断とは、看護を必要とする人々の状態を識別し、問題解決に関する意思決定を
行うことである。
7 系統的アプローチを通して個別的な実践を行う。
看護を必要とする人に個別的な看護を提供するためには、健康状態や生活環境を査定し、援助を必要
とする内容を明らかにし、計画立案、実行、評価という一連の過程が必要である。この過程は、健康状
態や生活環境の変化に敏速かつ柔軟に対応するものであり、よりよい状態への援助のために適宜見直し
が行われなければならない。
8 看護実践の一連の過程は記録される。
看護実践の一連の過程の記録は、看護職者の思考と行為を示すものである。吟味された記録は、他の
ケア提供者との情報の共有や、ケアの連続性、一貫性に寄与するだけでなく、ケアの評価やケアの向上
開発の貴重な資料となる。 必要な看護情報をいかに効率よく、利用しやすい形で記録するかが重要であ
る。
9 全ての看護実践は看護職者の倫理規定に基づく。
全ての看護実践は、看護職者の倫理規定を行動指針として展開される。倫理規定は時代の変化ととも
に改訂されなければならない。
39
看護実践の組織化の基準
1 継続的かつ一貫性のある看護を提供するためには組織化が必要であり、組織は理念を持たなければなら
ない。
看護を提供するためには組織化が必要であり、かつ、組織は適切で効果的かつ経済的に運営されなけ
ればならない。また、その組織を運営するための基本的考え方、価値観、社会的有用性などを理念とし
て明示する必要がある。理念の決定にあたっては、国際看護師協会が示している「看護の定義」「看護
師の定義」「 看護師の倫理綱領」、日本看護協会が示している「看護師の倫理規定」などのほか、所属機
関もしくは施設などの理念と矛盾してはならない。
2 看護実践の組織化並びに運営は看護職管理者によって行われる。
看護を提供するための組織化並びに運営は、看護実践に精通した看護職者で、かつ、看護管理に関す
る知識、技能を持つ看護職管理者によって行われるものである。
3 看護職管理者は看護実践に必要な資源管理を行う。
看護を提供するための組織が目的を達成するために、看護職管理者は、必要な質量の人員、物品、経
費等を算定、確保して、それを有効に活用する責任を負うものである。さらに、資源管理には、情報管
理が重要な要素となる。
4 看護職管理者は、看護スタッフの実践環境を整える。
看護職管理者は、看護の提供を受ける人びとに必要な看護体制を保持し、看護職者および看護補助者
がその職責にふさわしい処遇を得て看護実践を行う環境を整えなければならない。
5 看護職管理者は、看護実践の質を保証すると共に、看護実践を発展させていくための機構を持つ。
看護職管理者は、組織の目的に即した看護実践の水準を維持するために、質の保証と向上のためのプ
ログラムを持ち、常に研究的視点に立った活動を行う。
6 看護職管理者は、看護実践及び看護実践組織の発展のために継続教育を保証する。
看護職管理者は、看護職者の看護実践能力を保持し、各人の成長と職業上の成熟を支援するとともに、
看護実践組織の力を高めるための教育的環境を提供する。
40
参考資料8 看護師等による静脈注射の実施に関する病院の見解
8−1 全国国立大学病院看護部長会議常置委員会の見解
平成14年12月5日
全国国立大学病院看護部長会議常置委員会
「看護師等による静脈注射の実施について」に対する見解
1)静脈注射の実態について
現在、国立大学病院は医育機関である事の特性から、一部例外を除きワンショット静脈注射や血管刺入
は医師が行なっている。しかし、末梢ラインのヘパリンロックや持続および間欠的な静脈への薬剤注入は
その殆どを看護師が行なっており広義の静脈注射は実施している現状にある。
2)基本的な考え方
静脈注射については今回の通知を受けて拙速に変更は行なわない事とし、現状どおりとする。
3)基本的な考え方の背景
① 特定機能病院にも関わらず42大学病院全看護単位の43%が患者20名に看護師1名という極めて貧弱な
夜間看護体制であり、現状での業務拡大はリスクが大きい。
② 注射等薬剤に関するインシデントがレポート全体の4割を占めており、複雑な輸液管理が更に増加傾
向にある。
③ 重症難度の患者が多く薬剤に対する反応が一律ではない。
④ 薬剤の品目数が多く看護師の薬剤に関する知識が不足している。
⑤ 研修医の指示に間違いがある等安全確認ができにくい。
⑥ 看護基礎教育では技術教育が重視されておらず新卒者が臨床現場で働くには半年相当の教育期間を要
している。
4)実施する場合の条件
厚生労働省の通知には個々の看護師の能力を踏まえた適切な業務分担を行なうことが明示されているこ
とから、施設内の看護師が一律に実施するものではなく、
患者の安全確保を最優先させる事が重要である。
血管刺入などの静脈注射は通常業務の合間に実施するのではなく、一定のトレーニング・教育を受けた
看護師が限られた場所で行なうことを基本としたい。なお、抗がん剤及び循環動態に影響を及ぼす薬剤、
麻薬、造影剤等については実施の対象外とする。また、看護師の卒前卒後教育の充実が前提となる。
5)今後の方向性
今後看護職の業務拡大は進む方向にあり、患者の感染管理や栄養サポート等に関わる所謂IVナースの役
割が大学病院に求められてくるものと考えている。単に静脈注射を技術レベルの範囲で捉えるのではなく、
社会に対し看護職の関与が医療の質を上げていくとする考え方が必要であり、日本看護協会の認定看護師
を想定している。
41
8−2 北里大学病院看護部の見解
2002年10月
北里大学病院看護部
北里大学病院における看護師による「静脈注射の実施」に関して(抜粋)
Ⅰ.北里大学病院における「静脈注射の実施」の現状について(2002年8月実態調査)
1.静脈注射、点滴静脈注射は医師が行っている。
2.一部、緊急時の血管確保や抜去された際に、末梢点滴注射を看護師が行う場合がある。
3.一部、点滴ルートの側管よりIVを実施している。
Ⅱ.北里大学病院における看護師の静脈注射実施についての考え
基本的には看護師の「臨床看護実践能力」に応じて実施するものとし、業務拡大に伴う人員確保なども
検討しながら、当面は現状維持(医師が行う)とする。
<理由>
1.急性期特定機能病院として患者の重症度が高い。
2.教育病院として研修医の静脈注射技術訓練が必要である。
3.現段階では静脈注射に関連する看護基礎教育が不十分である上、毎年約100名の新人看護師の教育
(臨床看護実践能力育成)に多くの労力を必要としている。
4.注射業務(医師の指示受け、準備、点滴管理など)に係わるインシデント・アクシデントが多く、今
以上に業務範囲を拡大するのは危険性が高い。
Ⅲ.今後「看護師が静脈注射を実施」する要件および体制整備について
1.静脈注射対応実践能力レベルについて(実施資格要件)
専門・認定ナースおよびプリセプターナース、臨床看護実践能力レベルⅢ以上など
2.「静脈注射」に関連した教育の実施、強化(基礎教育と卒後教育の連携)
1)薬剤知識の強化(臨床薬理、各薬剤の適用、用法、副作用など)
2)静脈注射の技術訓練
3.院内マニュアルの整備(医師、看護師、薬剤師、臨床工学技士等と共有)医師、薬剤師と共同作成
1)医師、看護師、薬剤師、臨床工学技士の業務分担、責任範囲の明確化(初回注射は医師が行うなど)
2)薬剤の限定(輸血、抗がん剤、麻酔剤、麻薬、毒薬、循環器系薬剤などは除外)
3)特定領域(小児、ICU、救急など)における実施範囲など
42
参考資料9 フランス雇用連帯省 看護職実践・職業行為に関する法令(抜粋)2002年
(厚生労働省第2回新たな看護のあり方に関する検討会資料「諸外国における看護師の新
たな業務と役割について」より許可を得て抜粋)
第1条:看護実践には、分析、計画、実行、評価、臨床データ収集への貢献、疫学と予防活動への参加、検
査、保健衛生教育が含まれる。これら全般の活動を実践するにあたり、看護者は職業上の規則、こと守秘義
務を遵守する。看護者は、他の医療職業者、社会福祉職業者、教育者と共にこれらの活動を実践する。
第2条:予防・治療・末期緩和医療・看護行為は、技術のクオリティと、患者との人間関係の質をあわせ持
つものである。科学の進歩にあわせて適正な看護行為を行う。
第3条:非自立者の介護を行う際の、看護職独自の役割として、その処置に必要と思われる行為を率先的に
判断、実行することができる。患者にとって必要な措置、看護診断、ケアの目的を確立する。他の介護者と
チームを組み、看護プロトコールの作成・実践、看護日誌記述をおこなう。
第4条:社会福祉施設、医療施設、公衆衛生施設内で、看護職独自の役割を実践する看護者は、協力する看
護助士・介護者・ヘルパーを、その資格権限内で、責任下に管理することができる。
第5条:看護職独自の役割として、患者とその周囲の者へのリスクの回避と安全・快適を保証しつつ以下の
ケアを行う。
患者とその環境の衛生に関するケア
衛生監視、食品栄養均衡管理
虐待リスク検査と評価
投薬;服薬の確認、作用・副作用の管理とこれに関する教育
経管人工栄養の注入・交換
人工栄養患者(経鼻、胃瘻、中心静脈栄養)のケアと監視
腸・尿排泄の監視と排泄用チューブの交換
人工透析、腹膜透析のケアと観察
無菌室内患者のケアと観察
患者の疾病および身体障害にあわせた体位(座位、立位など)設定
安静・睡眠の準備と観察
患者を起こす、立たせる、歩行させる
気管支切開・挿管の有無に関わらず、たん・分泌物の除去
呼吸器マスク設置
半自動除細動器使用と監視
医薬品外エアゾールの吸入
患者の健康状態に関わる全ての情報の観察と収集:血圧・体温・脈・呼吸リズム・尿量・体重・瞳孔反
射・上皮反応・意識・疼痛評価
ガーゼ・医薬品外創布・包帯の設置と交換
褥創の予防とケア
医薬品使用外静脈瘤予防
上皮潰瘍ケアと観察
陰部の衛生
手術前患者の準備特に皮膚の衛生
可動範囲制限患者の監視と合併症兆候の監視
43
医薬品使用外での口内衛生
点眼
発汗・涙分泌テストの観察
生検後の患者の観察
注射・点滴観察
ツベルクリン反応テスト・パッチの付着と判読
バイタル機能の観察
カテーテル・ゾンデ・ドレナージの観察
再使用医療器具の消毒殺菌
以下の判読・判断技術による患者の身体データ観察
●
尿:糖、アセトン、蛋白、潜血、PH
●
血液:糖・アセトン
心理的ケア
挙動不審、態度異変の観察
精神衛生のため、看護者は以下の行為を行う。
●
患者とその周囲の者受け入れ、迎え入れ
●
個人・グループでの社会セラピー活動
●
隔離室患者の監視
医師、患者、看護者の三者共同による治療効果の評価と観察
第6条:救急の場合を除き、以下の看護行為を行うには、内容、量、日付、署名を明記した医師の処方、ま
たは医師により明文化されたプロトコールを要する。
注射、点滴、吸入
ワクチン接種
カテーテルの設置、除去、経血管刺針
中心カテーテルの観察と、医師による刺針後の血管確保
中心カテーテル設置を除く、および全身・部分麻酔効果を除く注射と点滴
上記の注射・点滴を行う場合は、実施の日付、署名の看護記録を要する。
投薬、薬品注入
横上皮処置
医薬品創布・特定なガーゼ、タンポン、ドレナージュの交換、除去
上皮処置除去(ホッチキス、縫合糸など)
可動制限器具・装置除去
吸引、栄養補給、洗浄目的のガストリック・チューブの挿入
子宮内・膣洗浄
肛門ゾンデ設置、洗浄、浣腸、摘便
人工血管、ストーマ、創傷のケア
切開口、ストーマ拡大・拡張術への介助参加
医薬品エアゾールの吸入
初回のカニューレ交換を医師により行われた後の、気管切開、挿管患者におけるケアと観察
高温・低温処置への介助参加
医薬品使用での口腔内衛生
44
医師により設置された経鼻カテーテルの副鼻腔洗浄
医薬品使用での耳洗浄
心電図、脳波記録
中心動脈血圧
人工呼吸器・循環装置、モニタリングの機能確認、周辺機器コントロール
酸素装置の設置
人工透析機器、腹膜透析器の始動・終了、回路の観察
採血:血管・頭皮・刺針、経カテーテル、血中酸素濃度
非血液採集行為:粘膜など、ダイレクト・アクセス可能な箇所
採尿
バイオロジカル医療検査分析目的採集物に関する指示の伝達
医療機関間での搬送中における患者のケアと観察
サイコテラピー目的における個別指導、複数の他の医療従事者とのチーム形成
医師、看護者、患者三者間での治療および隔離プロトコール作成
第7条:看護者は、医師により日付、署名の明記されたプロトコールに則り、鎮痛治療を自主的に使用する
ことができる。本プロトコールは、看護日誌に添付される。
第8条:以下の看護行為を行う際には、内容・量・日付・署名を明記した医師の処方にもとづき、至近距離
に医師の物理的臨場が可能であることを条件とする。
適合性確認を要するヒト・オリジン製品(輸血など)の注射・点滴
医師により設置され、初回の薬剤投入がなされた後のセントラル・カテーテルへの鎮痛剤注入
身体外装置機器の準備・使用・観察
中心カテーテルの除去
手術用駆血帯使用
可動制限器具の設置
手動除細動器の使用
手術後患者の経過観察とケア(但し、手術直後より覚醒までは麻酔専門看護者)
精神神科を含む体温調整術
脱アルコール治療、睡眠治療
第9条:看護者は、以下の行為を医師が行う際に、介助参加することができる。
アレルゲンの注射シリーズ初回
浮腫・貯留のある患者における貯留物除去ゾンデ初回
負荷または薬剤使用での心電図・脳波の記録
侵入性行為、危険を伴う技術を使用しながらの血行動態データ観察
生命に関わる危険と緊急性がある場合の介助行為
薬剤効果、負荷、スティミュレーション、誘発・刺激に対する反応機能テスト
リハビリ後の可動制限器具の装置
臓器・組織移植に関わるチーム医療
医療移送
移動蘇生チームとして救急車により医療機関間を移動
45
移動蘇生チームとして救急車により患者発生現場より、医療機関まで移動
精神科における電気ショック、振動治療、インシュリン使用体温調整
第10条:麻酔専門国家免許看護者は、麻酔専門医師が至近距離に臨場し、なおかつ、麻酔医が診察を行い、
プロトコールを作成、指示した後に、患者に以下の行為ができる。
全身麻酔
部分麻酔、および麻酔医により装置設置(硬膜外カテーテルなど)された後の、麻酔薬剤の再注入
手術直後蘇生覚醒
麻酔医の主導により、プロトコール実践ができる。
手術直後、覚醒室での経過観察
麻酔専門看護学生は、麻酔専門国家免許看護者同伴の下、これらの行為に参加できる。
第11条:小児に関する看護行為は、出生期から思春期まで、新生児専門看護者および、新生児専門看護学生
を優先的に配置しこれを行う。
小児の発育と成長観察
新生児の栄養
障害の予防と早期発見目的検診
蘇生室における新生児のケア
光療法および保育器内新生児の入退室、観察
第12条:以下の行為は、手術室専門国家免許看護者を優先的に配置しこれを行う。
手術室内管理、リスク・コントロール
各部署とのオーガナイズ、コーディネーション
各手術活動の透明化
再使用医療器具の消毒殺菌および手術室―各病棟間の院内感染予防活動
術中、手術室内の廻動
第13条:医師不在の場合、看護者は、緊急の状況であると認めた際に、責任者である医師により日付・署名
付きで明文化されたプロトコールに則り、必要なケアを行うことができる。この場合、看護者は、医師が来
る迄、必要な保存治療行為に徹する。この場合の行為は全て、看護者により署名・日付をつけた報告書を記
録し、医師に提出、患者のカルテに添付する。上述の緊急のシチュエーション下において、医師が現れる迄
の間にプロトコール外の行為を行う場合は、患者の身体状況に最も適したケアの構築を可能とする行為を決
定する。
46
参考資料10
訪問看護における点滴静脈注射管理協定書・医師への報告基準の一例
(厚生労働省第3回新たな看護のあり方に関する検討会資料「聖隷福祉事業団の運営する
訪問看護ステーションの取り組み」より許可を得て抜粋)
平成 年 月 日
在宅末梢点滴注射法管理協定書
訪問看護ステーション○○(甲)は、医師(乙)の包括的指示に基づき、在宅末梢点滴注射法
管理看護プロトコールに従って療養者の在宅末梢点滴注射法の管理を行います。
1.療養者氏名 2.在宅療養指導管理料請求機関
医療機関名 3.開始理由 4.開始日 年 月 日 5.感染症の既往 1)あり(
)
2)なし
6.経口摂取 1)可 2)否
7.訪問開始時の自己管理能力(該当するものに○)
1)指導及び実施の一部補充 2)全面的補充(代行)
8.使用薬剤・投与量(提供機関: )
(
ヘパリンロック時(
)
)
9.使用器具・交換頻度・提供数(提供機関: )
輸液回路(
セット)
注射器・注射針(
セット)
そ の 他(
)
10.消毒薬・衛生材料(提供機関: )
絆 創 膏(
個)
消毒液(
)
そ の 他:
11.投与方法 注入速度(
ml/時間)
12.事前協議事項
1)基礎疾患増悪の場合の対応方法
2)その他
13.期限 次回変更日まで
甲 訪問ステーション○○ 管理者氏名 印 乙 医師(所属及び氏名)
本協定書は、2部作成し、甲乙それぞれが1通ずつ保管する。
47
印 在宅末梢点滴注射法に関する異常・トラブルと医師への報告基準
在宅末梢点滴注射法に関する異常・トラブルと医師への報告基準
領 域
医師への報告基準(下線部分)
1)カテーテル挿入に関する異常・トラブル
滴下状態
時間どおりに指示量が注入されている
うまく落ちず、指示量が注入できない
皮下に注入されている
カテーテル
確保されている
固定状況
固定用絆創膏がはがれかかっている
カテーテル固定がはずれている
抜去してしまった
2)感染徴候
刺入部・周囲の状
皮膚の発赤・腫脹・熱感・疼痛なし
態
皮膚の発赤・腫脹・熱感・疼痛あり
3)水分・電解質・糖の代謝異常
脱水徴候
(高浸透圧利尿)
口渇なし、皮膚乾燥なし
バイタルサイン異常なし
倦怠感・嘔気あり
口渇あり、皮膚の乾燥・弾力性低下あり
栄養輸液注入量とほぼ同量の尿排出
血圧低下
不整脈
体液量過剰徴候
浮腫なし、息切れなし
浮腫・息切れ
不整脈
4)末梢点滴注射法に対する療養者・家族の受け入れ・認識の逸脱
心理・情緒的反応
平常どおり
いらだち・不穏
5)末梢点滴注射法を要する基礎疾患の増悪
消化管の通過障害
嘔気・嘔吐なし
嘔気・嘔吐出現
嘔気・嘔吐増強
基礎疾患の悪化
48
殿の場合
平成 年 月 日
在宅中心静脈栄養法管理協定書
訪問看護ステーション○○(甲)は、医師(乙)の包括的指示に基づき、在宅中心静脈栄養法
管理看護プロトコールに従って療養者の在宅中心静脈栄養法の管理を行います。
2.在宅療養指導管理料請求機関
医療機関名 1.療養者氏名 3.開始理由 4.開始日 年 月 日 5.カテーテル感染の既往 1)あり 2)なし
6.経口摂取 1)可 2)否
7.訪問開始時の自己管理能力(該当するものに○)
1)自己管理可 2)指導のみ 3)指導及び実施の一部補完 4)全面的補完(代行)
8.使用薬剤・投与量(提供機関: )
輸 液 基 剤(
)抗 凝 固 剤(
)
ビタミン剤(
)生理食塩水(
)
脂 肪 乳 剤(
)そ の 他(
)
9.使用器具・交換頻度・提供数(提供機関: )
輸液回路(
セット)
インジェクションプラグ(
個)
フィルター(
個)
ヒューバー針(
本)
注射器・注射針(
セット)
その他:
10.消毒薬・衛生材料(提供機関: )
滅菌綿棒(
本) 絆創膏(
個) 滅菌ガーゼ(
枚× パック)
消 毒 液(
ml) その他:
11.投与方法(該当するものに○)
1)持続 2)間歇(
時間/1日 他 ) 3)注入速度(
ml/時間)
12.事前協議事項
1)滴下不良時の対応方法 (
2)その他
)
13.期限 次回変更日まで
甲 訪問ステーション○○ 管理者氏名 印 乙 医師(所属及び氏名)
本協定書は、2部作成し、甲乙それぞれが1通ずつ保管する。
49
印 在宅中心静脈栄養法に関する異常・トラブルと医師への報告基準
在宅中心静脈栄養法に関する異常・トラブルと医師への報告基準
領 域
医師への報告基準(下線部分)
1)カテーテル挿入に関する異常・トラブル
塞栓症
呼吸正常
呼吸困難
上大静脈症候群
頭部浮腫なし
頭部・顔面・カテーテル挿入側上肢の浮腫あり
滴下状態
時間どおりに指示量が注入されている
輸液ポンプの作動不良
うまく落ちず、指示量が注入できない
ヒューバ針の刺入が浅く、皮下に注入
カテーテル
確保されている
固定状況
固定用絆創膏がはがれかかっている
(体外式の場合)
カテーテル固定の縫合糸がはずれている
抜去してしまった
2)感染徴候
刺入部・周囲の状
皮膚の発赤・腫脹・熱感・疼痛なし
態
皮膚の発赤・腫脹・熱感・疼痛あり
カテーテル挿入皮下トンネルに一致した発赤
口腔内の状態
口腔粘膜湿潤、唾液分泌良、口臭なし
口腔粘膜乾燥、口臭あり
舌苔形成
アフタ形成
頸部リンパ節の腫脹
耳下腺部の腫脹・熱感・疼痛あり
全身状態
バイタルサイン異常なし
発熱軽度、脈拍数・呼吸数増加
発熱中等度、脈拍数・呼吸数増加
発熱高度(40℃前後)
、脈拍数・呼吸増加
視力
視力低下の訴えなし
視力低下の訴えあり
3)水分・電解質・糖の代謝異常
脱水徴候
(高浸透圧利尿)
口渇なし、皮膚乾燥なし
バイタルサイン異常なし
倦怠感・嘔気あり
口渇あり、皮膚の乾燥・弾力性低下あり
栄養輸液注入量とほぼ同量の尿排出
非発熱時の尿量が栄養輸液注入量以下
尿糖
血圧低下
不整脈
49
50
殿の場合
領 域
医師への報告基準(下線部分)
3)水分・電解質・糖の代謝異常
体液量過剰徴候
浮腫なし、息切れなし
浮腫・息切れあり
不整脈
4)栄養状態(3大栄養素・ビタミン・無機質・微量元素の充足状況)
体重
変化なし
1月に10%以上の減少・増加あり
皮下脂肪
上腕三頭筋部皮下脂肪厚がつまめるほどある
しわの増加
皮下脂肪の枯渇(ほとんど皮膚のみ)
皮膚
乾燥・発疹・落屑・掻痒感なし
全身の掻痒感あり
乾燥の増加
落屑の増加
発疹あり(粘膜皮膚移行部)
毛髪
脱毛なし、つやあり
つやなし
脱毛あり
筋肉
筋肉痛なし
筋肉痛あり
狭心痛あり
5)中心静脈栄養法に対する療養者・家族の受け入れ・認識の逸脱
身体活動範囲
必要な身体の動きはできている
必要以上に身体活動が低下している
心理・情緒的反応
平常どおり
家族の介護負担
いらだち・不穏
疲労はない
疲労はあるが、休養・睡眠によって回復する
疲労が強く、休養・睡眠によっても回復しない
6)中心静脈栄養法を要する基礎疾患の増悪
消化管の通過障害
嘔気・嘔吐なし
嘔気・嘔吐出現
嘔気・嘔吐増強
悪性腫瘍の進展
癌末期疼痛管理看護プロトコールを参照
51
殿の場合
参考資料11
針刺し事故防止マニュアル
(国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター,2002より許可を得て掲載,一部改変)
参照URL: http://www.acc.go.jp/clinic/bougyo/hari.htm
Ⅰ.針刺し事故対策の心構え
1.針を使用する処置は、焦らずゆったりとした気持ちで臨む。
2.針を使用している時は、その処置に集中する。
3.処置に慣れていても、手順を省略せず、常に基本に戻ることを心がける。
4.スタッフ間で定期的にシミュレーションを行い、手順の統一を図る。
5.針刺し事故を防止するためにも、健康管理をしっかり行う。
Ⅱ.環境整備
1.作業に適した明るさを確保する。
2.安全な手技で行えるよう作業スペースを確保する。
3.作業しやすいようにベッドの高さを調節する。
1)必要物品・ディスポーザブル製品を活用する。
(手袋・針捨て容器)
2)手袋はしっかりとフィットするものを選ぶ。
・血液に接触した時に手にある小さな傷からの浸入を防ぐ。
・万一針刺し事故がおきたときに体内に浸入する血液・体液量を減少させる。
4.すぐに捨てられるように、処置前に廃棄容器を準備する。
5.ナースシューズはサンダルではなく、足を覆うシューズ型のものを選択する。
・針を扱う処置や検査をしている医師・看護師には近づかない。近づく時には、必ず声をかける。
Ⅲ.患者への説明
1.採血・注射の際は、処置が終了したことを告げるまで動かないよう、前もって説明し、協力を得る。
2.痛みがあった場合は動かず、口頭で伝えるよう説明する。
3.協力を得られない患者の場合は、共同作業者の応援を求める。
4.応援が求められない場合は、抑制が必要となる場合もある。
Ⅳ.処置時のポイント
1.針を持ったままの状態で他の動作を行わない。
2.使用後の注射器は放置せず、使用者(術者)がすぐに廃棄する。
3.処置が終了するまでは、集中して行う。
4.介助者は、術者から一定の距離を置き、安全に処置が行われるよう配慮する。
(処置を行っている人の側には近寄らない。
)
5.穿刺時、針先の延長線上に自分の手がないようにする。
Ⅴ.持続点滴留置時のポイント
1.基本的に、末梢の血管確保は術者一人で行う。
2.固定用の絆創膏は、術者の手の届くところに、すぐに貼れる状態に準備する。
3.翼状針を留置する場合は、術者が責任を持って抜針まで行う。
(一回の点滴でも留置針の使用が望ましい。
)
Ⅵ.廃棄時のポイント
1.注射針にリキャップしない。
2.使用後の注射器は放置せず、使用者がすぐに捨てる。
3.針捨て専用容器を足元に準備し、使用後は針を持ちかえたりせずその場ですぐに廃棄する。
*やむを得ず一時的に膿盆などにおいた場合は、鑷子などを用いて針捨て容器に廃棄する。
*針などの鋭利なものと他のゴミを一時的であっても膿盆などにまとめておいてはいけない。
4.針捨て容器は満杯になる前(7分目位)に交換する。
・いっぱいになると針先が容器から飛び出し危険。
・手で押し込むことによる針刺し事故を防ぐ。
5.針捨て専用容器に廃棄するべきもの
例:かみそり、ディスポメス、ルンバール針、マノメーター、トロッカーカテーテルの穿刺針、ガイドワイヤー、
点滴ルート、綿棒、血糖測定用穿刺針
*針捨て専用容器がない場合は、ネジ式の蓋付の缶、蓋付の固いプラスチックの容器、口が広く、硬い素材で容
器ごと捨てられるものを選ぶ。
52
参考資料12
静脈注射の教育プログラムとガイドライン
石本傳江:静脈注射実施における教育プログラムの開発,課題番号H13-特別-029,
平成13年度厚生労働科学特別研究事業報告書,131-138,2002.3より許可を得て掲載
1.看護職による静脈注射教育プログラムの検討
1)看護基礎教育における教育プログラムの検討
我が国の看護基礎教育では静脈注射は注射法の一種類として基礎看護技術科目に項目的には取り上げら
れているが、具体的展開や演習項目とはされていないところが多い。従って教科書でも医師の介助方法や
輸液の管理方法を中心に書かれているものが多く、看護職の実施については明確な表現が避けられてい
る。このことはアンケート調査で指摘があったように、薬剤の知識や法的責任、患者の状況判断能力が不
足とされる事態を招いているのではないか。すなわち、静脈注射への意識は「医師の指示を確実にこなす
こと」に集約され、看護職が主体的に知識を活用したり、患者の状況を判断することの必要性をあいまい
にし、準備や刺入技術のみの下請け的業務とされているのではないかと考えられる。
看護職のほとんどが静脈注射を実施している現状が明確になったことから、看護基礎教育においても現
実をふまえて、薬剤知識の強化や法的関係の教授、さらに海外文献に見られるように「静脈注射療法を受
ける患者の看護」として体系的な教育内容の検討が望まれる。
本研究では、看護基礎教育プログラムの内容を1.静脈注射に関する基礎知識と2.静脈注射を受ける患者
の看護に大別した。基礎知識では、静脈注射に必要な薬剤知識と解剖生理・病態生理を中心とし、静脈注
射の危険性や合併症に対応できるための内容を教授する。また、患者の看護では、まず看護と静脈注射の
位置づけや責任を法と倫理の両面から明確にし、看護ケアプランにおいては、情報収集から評価に至る看
護過程の必要性を認識する教育を行う。静脈注射の実際については、具体的な一連の手順を準備∼後始末
まで演習し、体験的な理解を促すように計画した。さらに安全対策、救急時の対応を強化するように配慮
した。
(表1)
2)卒後教育プログラムの検討
(1)新卒者の静脈注射教育プログラム(表2)
これは看護基礎教育を終了して臨床の医療現場に採用された看護職、又は看護職を離職後相当の年数
を経て再就職した看護職に必要とされる基本的教育プログラムである。現状においても医療施設の過半
数は静脈注射の院内教育が実施されていたが、全ての新卒者に実施されることが必要と考える。現状の
調査からは、就職後早期に新卒者の静脈注射の実施が期待される施設が多いため、3ヶ月以内に基本的
教育プログラムを終了し、教育責任者から実施可能の査定を受けて静脈注射の実施を開始することが望
ましいと考えられる。
しかし、小規模医療施設や新卒採用人員の少ない医療施設では、教育担当者がいないことや時間・設
備が無いために教育の困難性が訴えられており、専門職団体などの企画・実施や、教育用教材としての
ビデオテープやマニュアル書の開発による自己学習制度が期待される。
さらに静脈注射の実施を体験しながら、少なくとも半年にわたってのフォローアップが必要であり、
プリセプターシップ制度の活用により、病棟の特殊性を踏まえた個別教育を行い、目標達成を確認する
ことを期待する。プログラムの具体案は資料に示すとおりである。集合教育では看護基礎教育で学習して
いる知識・技術を振り返りながら、実際的な静脈注射システム及びリスクマネジメントにおける感染・安
全対策を学ぶ。同時に最低限必要な緊急時の対応を演習しておくことが望ましいと考える。また、静脈
注射を受ける患者の看護過程の必要性と展開の方法についてポイントを押さえて学ぶことが重要であ
る。
その後は配属された病棟において、病棟の特殊性を生かした個別教育に移行する。実際の担当患者の
事例を通して、患者ケアプランの展開、実施、記録などの一連の体験を指導のもとに行い、レポートと
してのまとめと自己評価を行う。その間に特殊な薬剤と管理法、その病棟において留意する必要のある
合併症や事故については指導看護師からオリエンテーションを受ける必要がある。このプログラムは目
標である基本的実践能力が達成できた時点で終了する。また、この時点では、新任看護師に個別な評価
表を設け、静脈注射実施の開始時期やその後の成長過程を見守る必要があると考える。臨床における新
任看護師は基礎教育背景の違いや、配属後の体験の差によって一律な実践能力を求めるわけには行かず、
個別的配慮がぜひとも必要であろう。
53
(2)中間教育プログラム(表2)
科学技術及び医療の発展が著しい現代において、静脈注射療法の教育は常に現任看護職に追加のプロ
グラムを用意する必要がある。また、これまで体系的な教育プログラムを持たなかった我が国では、早
急に現任者の再教育が必要と考えられる。現状では日本看護協会が実施する[薬剤知識]の2日間研修
があるのみである。看護職が静脈注射を実施している責任を認識し、特に静脈注射に関する患者のケア
プランの質的向上、薬剤管理知識、安全対策や法的責任について教育の強化が重要と考える。
研修の対象者は看護経験3年以上の中堅看護師とし、研修実施者はその施設看護管理者を基本とし、
公的・専門職団体による研修も考えられる。教育プログラムは中堅看護師自身の静脈注射実践能力を高
めることと、後輩の指導ができる能力育成を目標においた。看護師の実践能力を高める内容では、患者
ケアの中でも複雑なアセスメントや、インフォームド・コンセントの方法、患者教育方法にポイントを
置いて、ケアの質的向上や維持がはかれるリーダーシップを期待する。
また、薬剤管理の知識を学び、リスクマネジメントなどにおける管理の補佐ができる能力を育成する
機会とする。
後輩の指導ができる能力については、病棟の特殊性を踏まえた看護事例の検討を通して、新卒者の事
例レポートの点検評価ができる力を養うと共に、新卒教育の病棟での指導計画立案を行い、実施と評価
をOJTとして実践する。
(3)看護管理者教育(表3)
静脈注射は他の業務よりも問題の多い業務であり、リスクマネジメントや組織の調整を要求される。
従って現任教育の中に看護管理者教育プログラムが必要と考える。看護管理者は静脈注射教育プログラ
ムの実施や実践する看護師の能力評価、組織的安全対策及び情報や経済的課題に対応するための知識・
技術を必要とする。さらには、この教育プログラムを活用することにより、単に受身的な知識や情報の
享受に留まらず、臨床の教育・実践のガイドラインやマニュアルの開発への取り組みを期待したい。
研修実施者は行政または設置主体及び専門職団体とし、対象者は施設看護管理者及び病棟看護管理者
とする。教育目標は「静脈注射の教育体制並びにシステム構築の為の管理能力を養う」とした。プログ
ラム内容は、1.静脈注射管理に関する基本事項の理解、2.静脈注射教育プログラムの策定、3.静脈注
射システムの質的評価と改善の3つを柱とした。実施に当たっては病床規模や設置主体別の研修企画が
考えられる。
各施設の組織や状況にあわせた教育プログラムの立案、評価並びにマニュアルの基準(ガイドライン)
の検討がなされることにより、一定のレベルの卒後教育を受けて静脈注射を実施する看護師の質を保証
できる。また、静脈注射システムの質についても、現状を把握し、改善へと向かう不断の検討の場が必
要であり、看護管理者の研修を通して、現実的な改善の提言や種々のガイドライン作成への参加が期待
される。
(4)静脈注射専門看護師又は認定看護師の検討
卒後教育方法の一環として現在日本看護協会が実施している専門看護師または認定看護師制度は、臨
床体験を評価したうえで、高度な知識技術を要求される分野において実施され、一定の効果をあげてい
る。静脈注射療法についても、専門的見地からの研究的取り組みや、困難な課題に対応する専門的看護
師の育成がアンケート調査からも望まれていた。一般看護師が日常的に実施する静脈注射の教育プログ
ラムとは別に、静脈注射教育や管理を担当するための教育プログラムの検討がのぞまれる。教育内容に
ついては、日本看護協会の専門又は認定看護師制度の一分野として検討される問題と考える。
54
4)静脈注射教育評価プログラム
以上の静脈注射教育プログラムについては、各々の評価システムが機能する必要がある。欧米では教育
プログラム又はガイドラインについて、根拠の明確さや方法について評価し、使用できるものかどうかを
3ないし5段階評価するシステムがある。施設内評価の実施においての一例としては、「まとめ」図1に
示した静脈注射の現状要因を活用し、各々の実践目標値を設定した上で評価する事が望ましいと考えられ
る。
また、看護師個人の評価についてもチェックリストの作成により、静脈注射療法の熟練度やケアの提供
体験、資格の取得(教育受講など)を記入するものが提案されており、個別的なキャリア形成と能力評価
に役立つものと思われる。
2.看護師による静脈注射マニュアル作成の基準(ガイドライン)案
看護基礎教育及び卒後教育で活用される看護師による静脈注射の方向性や実践方法は、体系的に一定の
基準に沿ってマニュアルとして示されることが望ましい。海外の文献検討と我が国の現状調査から看護師
に期待される静脈注射マニュアル作成のガイドライン案を検討した。検討に当たって留意したことは次の
3点である。
①静脈注射に関する理念から実践・評価までを網羅した体系的なものであること。
②我が国の教育・実践の現況を踏まえ、薬剤知識、患者の看護過程(状況判断とケアプラン)、法的責任に
ついての認識、安全対策に重点をおいた。
③各段階の教育プログラムに適応できるように実践的・現実的であることに配慮した。
静脈注射マニュアル作成の基準(ガイドライン)案を表4に示す。
表1.静脈注射教育プログラム(案)
看護基礎教育
実 施 者
看護教育者
対 象
看護学生
教育時間
15時間
実施方法
講義、演習
1.静脈注射に関する知識
5)静脈注射の実際
1)静脈注射に必要な解剖・生理
a.静脈注射の準備
2)静脈注射に関する薬剤知識
①指示書の確認
①薬剤が人体に及ぼす影響
②患者の状態観察
・薬の吸収・代謝、作用機序
③患者への説明
・薬理作用の影響要因
④必要物品:種類・選択、シリンジポンプ、
②薬剤の適用
輸液ポンプの点検、操作方法
・用法、禁忌、副作用、適用上の注意、
⑤薬液の準備(アンプル、バイアル、混
混合可否、常用量、致死量、効果的投
注等)
与法等
⑥刺入部位の選定:必要物品の準備、適
③薬剤の種類
切な静脈の選択
・輸液、アンプル、バイアル
b.静脈注射の実施
④薬物の保管・管理
⑦刺入方法:角度、針の持ち方
3)静脈注射の合併症とその対策
⑧固定方法:刺入部位、注射針とチュー
プログラム
・腫脹、発赤、硬結、静脈炎、神経損傷、
ブ
内容
局所壊死、感染、過敏反応、空気塞栓
⑨混注、側管注、輸液交換
等
⑩ロック方法
4)静脈注射のエラーとその対策
⑪抜針
・患者、薬剤、投与量、投与時間の誤り、
⑫施行中、後の観察:刺入部位、薬効、
不適切な注入速度等
副作用、滴下速度
2.静脈注射を受ける患者の看護
⑬記録
1)静脈注射治療と看護
c.静脈注射の後片付け
2)静脈注射の実践範囲と法
d.感染管理・安全対策
3)倫理的配慮
①針刺し事故
4)静脈注射のアセスメント、プラン、評価
②医療廃棄物の取扱い
①ワンショット
6)救急時の対応
②大量輸液
③中心静脈栄養
④輸血
教育評価
教育評価:チェックリストを活用し教員が評価する
55
表2.静脈注射教育プログラム(案)
新卒教育プログラム
中間教育プログラム
実 施 者
施設の看護管理者
施設の看護管理者
対 象
新卒者(新採用者)
看護経験3年以上の看護師
教育時間
6∼12時間
6∼12時間
実施方法
講義、演習
講義、演習
プログラム内容
目標:静脈注射に必要な知識を備え、基本
的実践能力を身につける
1.集合教育
1)静脈注射の実施システム
2)リスクマネジメント
①感染管理
②安全対策
③救急時の対応
3)ケアプランと評価
4)法的責任
2.病棟の特殊性に応じた教育
1)患者ケアの実際
2)静脈注射の器材と準備
3)注射部位の選択と実施
4)静脈注射の合併症と予防
5)特殊な薬剤と管理
6)静脈注射に関する記録
7)事例レポートと評価
3.評価
目標:静脈注射の実践能力を高め、安全な
静脈注射実施の指導ができる
1.集合教育
1)患者ケア(アセスメント、インフ
ォームド・コンセント、患者教育、
評価)
2)薬剤管理
3)リスクマネジメント
4)法的責任
2.病棟の特殊性に応じた教育
1)事例検討
2)指導計画(新卒者)の立案、実施、
評価
3.教育プログラム評価
教育評価
1.教育プログラム評価システム 2.静脈注射技術基準(チェックリスト)
表3.静脈注射教育プログラム(案)
看護管理者プログラム
実 施 者
行政・専門職団体・設置主体
対 象
看護管理者
教育時間
6∼12時間
実施方法
講義、演習
プログラム内容
教育評価
目標:静脈注射の教育体制並びにシステム構築に必要な管理能力を養う
1.看護師による静脈注射の基本的事項の理解
1)静脈注射の歴史的経緯と専門職責任
2)与薬システムと看護管理
3)リスクマネジメント
2.卒後教育プログラムの策定
1)院内教育プログラムの立案(新卒者・中堅研修)
2)静脈注射マニュアルの検討
3)教育プログラムの評価方法
3.静脈注射システムにおける質の評価と改善
1)看護師による静脈注射の実態と課題の検討
2)静脈注射の器材導入・改善システムの検討
3)静脈注射の教育実態の把握と強化方法の検討
4)静脈注射に関する組織体制・連携体制の検討
5)行政・専門職団体への提言や基準作成への参加
1.静脈注射システムの評価 2.教育プログラムの評価
56
表4.看護職による静脈注射マニュアル作成のガイドライン(案)
1.看護と静脈注射(静脈注射の理念と方針)
2.静脈注射の歴史
3.看護師による静脈注射についての法的関係
1)我が国における法的経緯・司法解釈・行政解釈
2)静脈注射療法における看護師の役割
4.静脈注射に用いる薬剤の基礎知識と管理
1)薬剤の適用
用法・禁忌・副作用・適用上の注意・混合可否
2)薬剤の危険性:薬剤の相乗効果、血管への影響
速度の危険性、薬剤の汚染
3)輸液と電解質療法の理論
4)薬剤管理:薬剤混合の安定性と適合性・保管管理
5.静脈注射を提供するための解剖生理
1)末梢血管の名称と部位の評価
2)動脈と静脈の違い・不注意による動脈穿刺に関する認識
3)静脈に影響を与える要因の理解
4)静脈注射に適切な静脈の選択
6.必要物品(静脈注射の必要物品・静脈持続注射の装置)
1)種類と選択 2)無菌的取り扱い 3)点検・固定・使用方法
7.静脈注射を受ける患者の看護
1)医師の指示の確認
2)患者・家族への説明と同意・目的及び方法と薬剤について説明
3)アセスメントとケアプラン
4)静脈注射の実施
①準備:手洗い・必要物品の準備 注射処方箋の確認
薬剤の準備・輸液セットの接続・薬液の充填 混注方法等
②刺入部位の選択と刺入:注射部位の選択方法・固定の工夫
③観察:患者の状態・速度調整・輸液ボトルの交換等
④中止又はロック
⑤記録
5)患者教育
6)評価
8.静脈注射に伴う危険と合併症:予防とケア
1)感染 2)肺塞栓 3)空気塞栓 4)循環の過負荷
5)静脈注射の注入速度による障害 6)薬剤エラー 7)静脈炎 8)出血・神経損傷 9)その他
9.安全対策と事故防止
1)安全システムの構築
①組織的対策について:安全対策委員会
②個人的対策:誤薬・患者誤認(患者・薬剤の種類と量・投与方法等の確認の徹底)
注入速度・ルート管理(輸液セットの接続不備、閉塞)
抜針(故意及び自然)
針刺し事故(看護職)
2)事故発生時の対応
患者処置、患者・家族への対応、報告・手続き、記録(事故報告等)
10.評価
57
参考資料13
継続教育プログラムの一例
―北里大学病院:新人ナースを対象とした技術教育プログラム―
継続教育プログラムにおける「新人ナースを対象とした技術教育」の位置付け
臨床看護実践能力の習熟段階をレベルⅠ∼Ⅳとして示し、臨床実践能力の育成を土台に、個々
の看護師が将来目標の設定ができる教育計画を作成している。その中で「新人フォローアップ研
修」は、継続教育プログラム全体において、レベルⅠの研修に位置付けられている。レベルⅠは、
チームメンバーの役割と責任を果たすことができる、日常生活の為の基本的技術・態度を身につ
けベッドサイドケアが安全確実に実践できる、受持ち患者のケアを通して看護の知識・技術を深
められる、などをその到達目標として設定している。
新人ナースへの基本的な看護知識・技術の教育は、医療事故を未然に防ぐため臨床実務に直結
した内容で、入職後1ヶ月目、3ヶ月目、6ヶ月目の3回実施する。日々の技術教育はOJTとして
プリセプター制で展開されている。
以下に、新人ナースの継続教育プログラムの一例を示す。
『新人ナース』1ヵ月フォローアップ研修
1.目 的 基本的な看護知識・技術・態度を習得し、臨床看護実践能力の向上を図る。
2.ねらい
1)看護実践において報告・連絡・相談の必要性、大切さを理解し行動できる。
2)①「輸液管理」の基本を習得し、トラブル時に対処できる。
②与薬準備の三点確認が分かる。
3)
「麻薬・向精神薬」に関する基礎的な臨床知識を習得し、管理の重要性がわかる。
4)
「感染看護」の基礎知識を習得し、確実な手洗いと針刺し事故防止ができる。
5)
「心肺脳蘇生法」のABCを習得できる。
3.対象者 新卒及び新採用者 約100名
*人数が多い場合は2グループに分けて開催し、参加者が演習や手技確認を確実に行えるように設定す
る。
4.日時・会場
8:30∼17:00までの1日間
看護実習設備のある場所での集合研修
ユニフォーム着用とする。
58
5.研修プログラム
時 間
項 目
内 容
08:30∼08:40
オリエンテーション
○研修の目的等の説明
08:40∼10:10
2ヶ月目の課題整理
臨床実務を通じて感じていること
○グループ討議
10:10∼10:20
休憩
10:20∼10:50 「麻薬・向精神薬」
10:50∼11:10 臨床での麻薬管理
○麻薬に関する基礎知識
11:10∼13:50 「輸液管理」
(休憩時間
点滴管理の実際
1時間含む)
点滴管理の実際(80分)
○与薬時の安全管理
<点滴管理のトラブルと対処方法>
<原則の重要性>
点滴の目的を確認する
点滴のルートはCVか末梢か把握する
点滴確認はボトルから刺入部まで行う
異常時は患者の状態を確認しリーダーへ報告する
<具体的トラブル内容と対処方法一覧>
○安全な与薬のための具体的行動
与薬準備時の3点確認(声だし)
薬剤を取り出すとき
注射器につめるとき
患者に投与するとき <輸液ルート全体図に確認ポイントを図示>
*「ボトルから刺入部まで」もれなく確認すること
を強調
*小児や老人は痛みや腫脹を訴えないことがしばし
ばあるので看護師の「眼」と「気配り」が大切
○手技ごとの注意点
CV包交時,インジェクションプラグ使用時,輸血時
の確認事項と患者状態の観察・記録の実施手順
○輸液関係ME機器の安全使用と取り扱い(20分)
輸液関係ME機器
13:50∼14:40 「感染看護」
14:40∼14:50
休憩
14:50∼16:30 「救急看護」
16:30∼17:00
『院内感染と看護』
(50分)
○スタンダードプリコーションについて
○針刺し事故防止
一日のまとめ
『心肺脳蘇生法』講義と演習(40分)
(DCの使用法も含む)
○先輩から一言
○ふりかえり用紙記入
59
参考資料14
在宅輸液管理に関する研修プログラム案
(日本看護協会訪問看護研修STEP2「在宅輸液管理」研修プログラム案)
対象:訪問看護の経験を有し、該当領域の経験症例が5例以上ある者
時間数:60時間
目的:在宅輸液管理が安全・安楽に実施できるための知識・技術を身につけ、自立して支援できる。
目標:1.看護職における在宅輸液管理の実施に関する歴史的な経緯と法制度を理解できる。
2.訪問看護ステーションにおいての在宅輸液管理を実施するために必要な条件整備を理解し、体制
を整えることができる。
3.在宅輸液管理(静脈注射、中心静脈栄養法)を安全に実施できる。
1)適応・目的・種類・方法・施行時の注意事項を理解できる。
2)静脈注射および中心静脈栄養法の実施プロセスを理解し、実践できる。
3)静脈注射および中心静脈栄養法に関する必要な知識を療養者や家族に説明できる。
4.静脈注射施行および中心静脈栄養法において、予測されるトラブルや緊急時の対応を理解し、適
切な対処ができる。
5.主治医、調剤薬局等と連携をとり、薬剤等の必要物品の供給及び医療廃棄物のシステムが確立で
きる。
研修内容:
1.在宅輸液管理実施に関する経緯・法的背景および保険制度
1)看護職の静脈注射実施に関する歴史的背景および法的背景
2)診療報酬システム
2.在宅輸液管理をすすめるための条件整備
1)訪問看護ステーション内での24時間ケア提供体制
2)プロトコールに基づいた個々の在宅輸液管理のすすめ方
3)看護師が実施可能な静脈注射と実施しない静脈注射
4)医師の指示の受け方と医師の指示に対する看護師の自律的判断
5)医師、訪問看護師、療養者、家族、福祉職等との連携体制
6)緊急時・症状変化に伴う医療提供体制(入院等)の準備
7)訪問看護ステーション内での輸液管理チームの体制整備
8)その他
3.在宅における静脈注射の実施
1)静脈注射の目的・種類・実施方法・施行時の注意事項
2)在宅で使用される薬剤の特徴
3)静脈内注射施行に伴って起こりやすいトラブル
4)療養者・介護者・家族への教育・支援
4.在宅における中心静脈栄養法(HPN:Home Parenteral Nutrition)の実施
1)HPNの目的・適応・種類・実施方法・施行時の注意事項
2)合併症
3)HPN施行に伴って起こりやすいトラブル
4)療養者・介護者・家族への教育・支援
5.他部門との連携及び医療器材・薬剤の供給・廃棄システムの確立
1)主治医との連携
2)調剤薬局との連携
3)他部門との協働
4)在宅輸液管理に関する必要物品の供給システムの確立
5)医療廃棄物の廃棄システムの確立
6)社会資源の活用
6.訪問看護実習
1)静脈注射の実践
2)中心静脈栄養法の実践
60
参考資料15 INS(Infusion Nurses Society)のINFUSION NURSEに関する諸定義
米国マサチューセッツ州ノーウッドに本部のあるINS(Infusion Nurses Society)は、1973年
設立され、2003年現在全米に52の支部を有する非営利組織である。関連団体であるInfusion
Nurses Certification Corporation(INCC)によってINFUSION NURSEの認定を行うと共に、輸
液療法に関する看護スタンダードの整備、輸液看護の認定看護師(Certified Registered Nurse
Infusion:CRNI)の有用性の広報、輸液看護に関する教育機会の提供、関連書籍の出版等を精
力的に行っている。
INFUSION NURSEに関する諸定義
CLINICAL COMPETENCIES 臨床的能力
INFUSION NURSEは、臨床的側面において熟練し、臨床判断と実践において有効な能力を持つ。そして、
各州のNurse Practice Act(看護実践に関する法令)に準じた実践を提供できる。INFUSION NURSEの基
本能力は実践と教育的必要条件によってその妥当性が判断され、専門的輸液看護における実践能力は、知識、
スキル、実施能力(技量)から構成される。
以下の基礎的能力は輸液療法の実施の際に期待される必要な能力である。
基礎的能力
・コミュニケーション
・患者教育
・テクノロジー
・継続教育
・法的側面
・質保証とパフォーマンス・インプルーブメント(質向上のための継続的改善)
・研究
・コンサルテーション
・臨床マネージメント ・予算管理
輸液看護のコアカリキュラムは以下の9領域から構成される(実践基準を含む)
。
1.技術と臨床的応用
2.水分・電解質バランス
3.薬理学
4.感染管理
5.小児科学
6.輸血療法
7.抗腫瘍療法
8.静脈栄養法
9.質の保証/パフォーマンス・インプルーブメント(質向上のための継続的改善)リスクマネジメント
61
輸液療法における看護師に必要な要件
輸液療法において専門性を発揮する看護師は、輸液療法を実践するジェネラリストと輸液看護の専門家で
あるスペシャリストに分けられる。それぞれの看護師に必要とされる要件は以下のように定められている。
INFUSION NURSE は、輸液療法における専門的看護実践の提供が可能であり、輸液療法における患者ケア
のあらゆる側面と専門的看護実践のスーパービジョンに対して責任を負う。
輸液療法における一般的看護実践
(ジェネラリスト)
輸液療法における専門的看護実践
(スペシャリスト)
州の看護師免許
RN(正看護師)
RN(正看護師)
学 歴
看護学士が望ましい
看護学士が望ましい
看護の臨床経験
内科あるいは外科での2年間の臨
床経験
1年間の輸液療法経験
・過去2年間に患者に対する輸液療法の実
践が1600時間あること
必要なし
CRNI*を取得していることが極めて望ましい
全国的な認定
*CRNI:Certified Registerd Nurse Intravenous
輸液療法に必要な臨床的能力
1.医師あるいは処方権限者による指示の妥当性の確認
2.確立された無菌操作と感染管理の維持
3.緊急の有無にかかわらず、アセスメント、実施、モニタリング、中止、治療の記録
4.心理社会的な問題、副作用や合併症、適切な介入に関係する観察とアセスメント
5.学際的なケアに対するコーディネーションとコミュニケーション
6.パフォーマンス・インプルーブメント(質向上のための継続的改善)とリスクマネジメントのデータ
とアウトカムの収集、モニタリング、評価と応用
7.患者、同僚、ケア提供者の教育
8.追加投与の準備
9.配合禁忌と不安定要因の明確化
10.感染、静脈炎、閉塞、周囲組織への薬液 出・漏出を予防する技術
11.抗がん剤、治験薬、非経口栄養、輸血と輸血キット、ペインマネジメント治療を含むすべての薬理学
的作用を理解した上での準備、管理、モニタリング
12.動静脈の穿刺、静脈切開術、局所の無菌的ケア、デバイスの留置と関連物品の準備と廃棄
INFUSION NURSEには以下の条件が付加される
・最低2年間、内科あるいは外科の臨床現場で直接的患者ケアに携わっている。
・最低1年間、患者への輸液療法の実践経験を有する。
・輸液療法の体系化されたプログラムをよい成績で修了している。
・INCC(輸液療法看護師認定協会)による輸液看護の認定看護師(CRNI)として認定されている。
・輸液療法を提供するために必要な技術的スキルの能力を証明する文書がある。
・輸液療法に関して、パフォーマンス・インプルーブメント(質向上のための継続的改善)に参加してい
る。
・輸液療法に関連する方針や手順の開発に参加している。
・臨床的専門技術を維持しており、認定にふさわしい能力がある。
・患者や同僚、助手や健康ケアチームの他のメンバーと、効果的にコミュニケーションできる能力がある。
・Infusion Nursing Standards of Practice の知識と理解がある。
Infusion Nursing STANDARDS OF PRACTICE ,Journal of Intravenous Nursing,Vol.23,No.6s,11/12,2000より作成
62
参考資料16
ヘパリンロック・生食ロックの実際
(輸液ラインと管理と感染対策、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社発行資料、2001より許可を得て掲載、
一部改変)
1.間欠的輸液療法におけるヘパリンロック(生食ロック)の有用性
・末梢静脈に抗生物質などを間欠的に輸液する場合、毎回翼状針や点滴セットの針を用いて穿刺する方法
(抜き刺し)は、穿刺のたびに患者に苦痛を与える上、金属針の使用による皮下組織への静注液浸潤の危
険性があり、重篤な合併症を起こす危険性があります。
・また、医療従事者の労力ばかりでなく針刺し事故による血中ウイルス感染の危険性も増大し、近年大きな
社会問題となっています。
CDC血管内留置カテーテル関連感染予防のための勧告1)
末梢静脈カテーテルⅠ.カテーテルの選択
A.血管外に漏れたときには組織壊死を引き起こすかもしれない液や薬剤の投与には、金属針の使
用を避けること。 カテゴリーⅠA
・ヘパリンロックによって間欠的に輸液することで、輸液量や輸液時間を減らすことができ、結果的に静脈
炎の発生率が減少するため、ヘパリンロックしているカテーテルでは96時間まで留置が延長されている。
CDC血管内留置カテーテル関連感染予防のための勧告1)
静脈カテーテルⅢ.カテーテルの交換
C.成人では、静脈炎のリスクを減らすために、48∼72時間毎に短い末梢静脈カテーテルを入れ替
え、挿入部位をローテートしなさい。無菌テクニックの破綻が起こりやすい緊急状況下で挿入
したカテーテルは抜去し、新しいカテーテルを異なった部位に24時間以内に挿入すること。
カテゴリーⅠB
D.成人では、ヘパリンロックしているカテーテルは96時間毎に入れ替えること。カテゴリーⅠA
(注)カテゴリーⅠA.よく計画された実験や疫学的研究に支えられており、すべての病院に強く勧告するもの
カテゴリーⅠB.たとえ決定的な科学的調査がなされていなくても、強い根拠と示唆すべき証拠に基づいて、その領域の専
門家に有効であるとみなされ、病院感染制御対策諮問委員会(HICPAC)の合意を得ており、全ての病院に強く勧告する
もの。
⇒なぜ日本ではヘパリンロックすると感染が増えるといわれるのか?
・2000年6月の大阪の病院でのセラチア菌敗血症死亡3例の報告では、感染経路としては静脈留置針・三方
活栓・ヘパリンロック・輸液ボトルが考えられ、そして共通する医療行為としては50%イソプロピルアル
コールでの消毒があげられています。
・正しい輸液管理を安全な器材を用いて実施しない場合、ヘパリンロックすることによるカテーテルの細菌
定着やヘパリン使用による合併症などのリスクはあります。
・しかし、前述のCDCガイドラインにもあるように、本来は静脈炎の発生リスクを減少させ、より安全な輸
液管理ならびに患者QOL向上につながる輸液療法とされており、正しい管理方法での実施が求められてい
ます。
2.末梢静脈カテーテル留置における生食ロックの有用性
・最近の幾つかの研究で生理食塩水は末梢静脈カテーテルを開存させ、静脈炎を減少させるのにヘパリンと
同様の効果があるとしている。1)
・またカテーテルを開存させるためのヘパリンの常用は、1日あたり250∼500単位の低用量でも血小板減少
症や血栓症や出血の合併症を引き起こす。1)
63
血管内留置カテーテル関連感染予防のための勧告1)
末梢静脈カテーテルⅣ.カテーテルおよびカテーテル挿入部位のケア
A.①末梢静脈のヘパリンロックは、生理食塩水でルーチンにフラッシュすること。
血液サンプリングの採取目的で使用されている場合のみ、希釈ヘパリン(10unit/ml)を用
いるべきである。
3.フラッシュの原則(陽圧フラッシュ・ヘパリン濃度・フラッシュ量・フラッシュ頻度)
⇒陽圧フラッシュとは?
・陽圧(POSITIVE PRESSURE)フラッシュは、ヘパリンロック(または生食ロック)を実施する際に、
カテーテル内への血液の逆流を防止する上で重要なテクニックです。
・カテーテル内への血液の逆流を防止するために、フラッシュ溶液の注入中および注入終了時にカテーテル
内に陽圧をかける必要がある2)とされています。
⇒陽圧フラッシュの実施方法
1.注入口を消毒する。
2.注入口からフラッシュ溶液(ヘパリン加生食または生食)を注入する。
3.フラッシュ溶液が残り0.5∼1ml程度になったら、注入しながら(陽圧をかけながら)針を抜く。
⇒フラッシュに用いるヘパリン加生食の濃度
フラッシュに用いるヘパリン加生食の濃度は施設によって異なるが一般的には、末梢静脈ラインの場合は
生理食塩水(もしくは濃度が10単位/mlまでのヘパリン加生食)、中心静脈ラインの場合は100単位/mlま
でのヘパリン加生食が使用されています。
ヘパリン加生食の濃度
1000単位/mlのヘパリンナ
トリウムを使用した場合※
末梢静脈ライン
中心静脈ライン
生理食塩水または
10単位/mlまで
100単位/mlまで
生食100単位/ml+
ヘパリン1ml(1000単位)
生食100単位/ml+
ヘパリン10ml(10000単位)
※通常用いられているヘパリンナトリウムは5000単位/5mlであるため、1mlは1000単位
⇒カテーテル開存に必要なフラッシュ溶液の量
・カテーテル開存に必要なフラッシュ溶液の量は、カテーテルの容量に附属パーツ(延長チューブ、三方活
栓など)の容量を加えた量の倍量以上とされています。
必要なフラッシュ溶液の量
=(附属パーツの容量+カテーテルの容量)×2
⇒フラッシュの頻度
・フラッシュの頻度については、明記された間隔は特になく、各施設の取り決めに従うとされている。
・実践例として、米国の輸液専門看護師は施設内では通常8時間毎にフラッシュを実施しているが、朝・夕の
間欠的輸液療法施行時は、それぞれの輸液終了後、すなわち12時間毎としている。また、在宅領域などで
は24時間に1回のフラッシュとしているところもある。
・末梢静脈カテーテルの生食ロックにおいても24時間に1回のフラッシュでカテーテル閉塞率が増大するこ
とはないという報告もされている。
1)血管内留置カテーテル関連感染予防のためのCDCガイドライン
2)米国輸液看護師協会輸液看護基準マニュアル2000年改訂版
64
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・厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/
68
http://www.ins1.org/index.htm
http://www.cina.ca/
平成14年度静脈注射の実施に関する検討プロジェクト(50音順、敬称略)
委員名 所 属
委 員 長: 高田 早苗
神戸市看護大学
委 員: 石垣 和子
千葉大学看護学部
入村 瑠美子
東京大学医学部附属病院
大久保 憲
NTT西日本東海病院外科
大島 敏子
国家公務員共済組合連合会総合病院横須賀北部共済病院
香春 知永
聖路加看護大学
小島 恭子
北里大学病院
駒野 英子
新東京病院
佐藤 美智子
NTT東日本関東病院付属高等看護学院
平林 勝政
國學院大學法学部
門間 やす子
太白訪問看護ステーション
担 当 理 事: 國井 治子
担当事務局: 久保田 加代子
後藤 裕子
北浦 暁子
齋藤 訓子
常任理事
専門職業務部
専門職業務部
専門職業務部
政策企画室
静脈注射の実施に関する指針
2003年5月7日印刷
発 行 者 社団法人日本看護協会
〒150−0001 東京都渋谷区神宮前5−8−2
URL http://www.nurse.or.jp
お問い合わせ先 専門職業務部
〒101−0003 東京都千代田区一ツ橋2−4−3
光文恒産ビル(仮事務所2002∼2003年)
TEL 03−5275−7380 FAX 03−5275−5919
印 刷
株式会社 研恒社
転載の場合はご連絡ください。
69
2003.5.
55,000