コンテンツセントリックネットワークにおける ユーザ位置を生存時間 - Biblio

社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
TECHNICAL REPORT OF IEICE.
コンテンツセントリックネットワークにおける
ユーザ位置を生存時間に反映したキャッシュ手法の提案
宮崎 貴博†
竹下 秀俊†
岡本 聡†
山中 直明†
† 慶應義塾大学理工学研究科開放環境科学専攻 〒 223–8522 横浜市港北区日吉 3–14–1
E-mail: †[email protected]
あらまし
インターネットにおけるトラフィックの大部分をユーザのコンテンツ要求が占めるという問題に対し,ネッ
トワーク層でコンテンツ探索・配送をサポートする Content Centric Network(CCN) が提唱されている.CCN ではコ
ンテンツ要求をコンテンツ名で行ない,中継ノードにてコンテンツをキャッシュするという特徴をもつ.この際その
CCN の特性上,ユーザの要求が早く中継ノードでキャッシュヒットするかどうかで,コンテンツ探索時間が大きく変
動してしまう.そのためになるべく早くコンテンツ探索するために様々なキャッシュ方式が必要であり,様々な方式
が提案されている.その中で本論文では LRU(Least-Recently-Used)・Prob-Cache(Probablistic In-Network Caching)
を取り上げ,その利点・問題点を紹介した.従来の LRU の問題点である,ユーザの位置によって,キャッシュ配置が
適切になされない,という問題点と Prob-Cache の問題点である,適切なキャッシュ構造を作成するのに時間が必要と
いう 2 点の問題点を解消するために,ユーザの位置を生存時間に反映させたキャッシュ方式を提案した.提案方式は
計算機シミュレーションにおいて従来方式に比べ,コンテンツ取得までのホップ数の短縮・ノードにおけるキャッシュ
ヒット率の向上を示し,提案方式の有効性を確認した.
キーワード
新世代ネットワーク,コンテンツセントリックネットワーク (CCN),キャッシュ手法
A Cash Policy Taking into account User’s Location into cache lifetimes
in Content Centric Network
Takahiro MIYAZAKI† , Hidetoshi TAKESHITA† , Satoru OKAMOTO† , and Naoaki
YAMANAKA†
† School of Science for Open and Environmental Systems, Graduate School of Science and Technology, Keio
University
3-14-1 Hiyoshi, Kohoku, Yokohama, 223-8522 Japan
E-mail: †[email protected]
Abstract Against the problem that contents request occupies the majority of today’s Internet traffic, content
centric network(CCN) is proposed. In CCN, user request contents by content’s name and relay node cache contents.
Because of it’s characteristic, content search time fluctuates greatly on whether the user’s request content are cached
at the relay node as soon as possible. So, cache methods that search the content as soon as possible is needed. In
this paper, we introduced some cache methods and revealed its advantages and problems. Then, we proposed cache
method that reflect the user location into survival time in order to solve the problems of the conventional method.
Compared to the conventional method , simulation shows the proposed method improved cache hit ratio and the
number of hops the content can be acquired.
Key words Future Network, Content-Centric Network, Cache Policy
1. ま え が き
今日,インフォメーションセントリックネットワーク (Infor-
mation Centric Network) の研究が注目されている.インフォ
メーションセントリックネットワークとは今日のネットワークの
使用用途の大部分がコンテンツ取得を占めている問題があるとい
—1—
ることによって,データを要求する.Interest に含まれる主な
情報はコンテンツ ID である.図 1 においては,ユーザは CCN
ルータ A へと Interest を送信する.
Interest パケットを受け取ったノードは,そのノードが要求
されているデータを保持しているか CS(Content Store) を使用
して確認する.CS はその CCN がどのコンテンツを保持して
いるか記載したテーブルである.
図 1 においては CCN ルータ A がユーザから要求されたコ
図 1 CCN でのコンテンツ入手の動作
ンテンツを保持していればユーザに Data パケットを送信する.
Data パケットはコンテンツが付与されたパケットである.
う背景から,コンテンツ配送・転送をネットワーク層のレベルで
ルータ A にユーザが要求したコンテンツがキャッシュされ
サポートするという新しいネットワークアーキテクチャである.
ていなかった場合には CCN ルータ A は FIB(Fowarding In-
インフォメーションネットワークを取り組む研究プロジェクト
terest Base) というルーティングテーブルを使用して次にどの
も数多く存在し,CCN(Content-Centric-Network) [1], PUR-
ポートから Interest を送信するか決定する.図 1 においては
SUIT [2],DONA(Data-Oriented-Network Architecture) [3],
CCN ルータ B へと送信する.送信する際に CCN ルータ A
4WARD [4],PSIRP [5] などが挙げられる.
の PIT(Pending Interest Table) に Interest がたどってきた情
ま た ,Energy Efficient and Enhanced-type Data-centric
報を付与する.PIT に Interest の経路を保持しておくことで,
Network (E3 -DCN) [7] においては,DCON と呼ばれるオー
キャッシュがヒットしたところから同じ経路をたどってコンテ
バーレイネットワークにて Information Centric Network と同
ンツがユーザへ返される.
様にコンテンツ指向のネットワークが採用されている.
そして CCN ルータ B へ同様に Interest が到着する.CCN
いずれのアーキテクチャも少しづつ違いがあり,どのように
ルータ A で行った動作をもう一度行う.CCN ルータ B にユー
アーキテクチャを実現するかといった所で様々な研究がなされ
ザに要求されたコンテンツがキャッシュされているか CS で確認
ているが,これらのアーキテクチャに共通することは,ネット
する.キャッシュが存在すれば,CCN ルータ B は CCN ルータ
ワーク内にコンテンツをキャッシュすることによってコンテン
A にデータを送信し,CCN ルータ A は PIT で Interest の経
ツの配送・転送をネットワークレベルでサポートしようという
路を保存しているため,それを使用してユーザまでデータを送
試みが中核にあるというである.つまり,Information Centric
り届ける.キャッシュが無い場合には FIB を確認して Interest
Network においてはどのようにキャッシュの効率を上げるかが
を次のノードに送信する.最終的にどの CCN ルータでもキャッ
一番重要になってくる.そこで本論文では,現在研究されてい
シュしなかった場合はオリジナルサーバまで Interest が送信さ
る様々な Information Centric Network の中でも最も研究され
れ,オリジナルサーバから PIT を使用して要求されたユーザ
ている Content-Centric Network のキャッシュ手法を取り上げ,
へとコンテンツを送り届けることとなる.
それらの問題点を挙げて,キャッシュ効率を上昇させる方式を
検討する.
このように CCN ではユーザがコンテンツを要求する際に,
ホップバイホップで Interest が送信されることによって,中継
本論文の構成を以下に示す.2 章では Content Centric Net-
ノードにキャッシュが存在すれば,より短いホップ数でユーザ
work のアーキテクチャの概要を示す.3 章では現在研究されて
までコンテンツを届け,中継ノードにキャッシュが存在しなけ
いるキャッシュ手法を説明する.4 章では提案するキャッシュ方
ればオリジナルサーバまで Interest を送信するという特徴ある.
法を説明し,5 章で,従来のキャッシュ手法と提案方式のキャッ
この特徴から,CCN での中継ノードは出来るだけ短いホップ
シュ手法のシミュレーションを行なった結果を比較し,提案方
数でユーザの要求したコンテンツが中継ノードに存在すること
式の有用性を述べて,6 章にてむすびを述べる.
が望ましいと言える.
以上の理由から本稿では CCN のキャッシュ方式についての
2. Content Centric Network(CCN)
本章では Content Centric Network におけるコンテンツ取得
方法を説明する.CCN の特徴は 2 つ挙げられる.
•
要求したいコンテンツを指定したコンテンツ ID を送信す
提案をする.次章では CCN において研究されているキャッシュ
方式について紹介し,その問題点等を紹介し,提案方式を紹介
する.
3. CCN におけるキャッシュ手法
ることによって通信するという点.
•
中継するノードがキャッシュ機能を持っているという点.
CCN では,キャッシュを利用することでネットワークの性
CCN 上でユーザがコンテンツを入手する動作を図 1 で示す.
能を向上させることが試みられている.中でも,LRU(Least-
図 1 にてユーザがコンテンツを要求することを想定する.
Recently-Used) 手法が多くの CCN アーキテクチャで採用さ
CCN には Interest と Data の 2 種類のパケットが存在する.
ユーザは Interest を接続しているノードにブロードキャストす
れている.また,LRU を拡張した Prob-Cache(Probablistic
In-Networking Caching) も利用されている.
—2—
ユーザ A のコンテンツ要求に即したコンテンツ配置となる. し
かし,それに対して CCN ルータ D はユーザ A∼D の要求を全
て受け入れるため,A∼D の要求を LRU でキャッシュすること
になり,CCN ルータ A に比べてキャッシュ更新頻度が膨大に
図 2 LRU の課題点
なるため,CCN ルータ D においては満足なキャッシュヒット
をもたらすことが出来ないという課題があった. ユーザとオリ
ジナルサーバの距離でなるべくオリジナルサーバから遠いルー
タにはキャッシュする確率を高め,逆にオリジナルサーバから
近いルータには低い確率でキャッシュするのが Prob-Cache で
ある.Prob-Cache の動作アルゴリズムを以下に示す.
c:Time Since Inception (TSI) ユーザからオリジナルサー
図 3 Prob キャッシュの動作
バまでのホップ数
x:Time Since Birth (TSB) キャッシュするノードからオリ
3. 1 LRU(Least-Recently-Used)
ジナルサーバまでのホップ数
キャッシュの重み CacheWeight(α) を,
LRU とはキャッシュ手法の一つで,参照されていない時間が
最も長いデータを置換対象にする方式である.単純なアルゴリ
CacheW eight(α) =
ズムであるが,様々な CCN でのアーキテクチャにおいて LRU
が想定されている.
x
c
(1)
と定義する. ただし,ユーザから直近ルータまでのホップ数は
3. 2 LRU の利点及び課題点
0,オリジナルサーバから直近のルータまでのホップ数は 1 と
LRU の利点は,リクエストが多いコンテンツほどキャッシュ
する.
に残りやすくなるために,ユーザから要求される頻度の高い人
図 3 においては,例えばユーザ A がコンテンツ要求した場
気なコンテンツほどキャッシュされる. 人気の高いコンテンツほ
合の CCN ルータ A での CacheWeight(A) は,c=4,x=4 と
どキャッシュされやすいために,人気の高いコンテンツのユー
なるので,CacheWeight(A)=1 となる. それに対し,ユーザ A
ザの要求を短いホップ数で送り届けることが可能である. LRU
がコンテンツ要求したときのルータ D は,c=4,x=1 となるの
の課題点を以下に 2 つ示す.
で,CacheWeight(D)=0.25 となり,オリジナルサーバから遠
•
ければ遠いほど CacheWeight が大きくなる.
•
サーバからから離れたユーザの影響が大きい.
サーバに近いルータに人気の無いコンテンツが集中する
次に,TimesIn(α) を以下のように定義する.
図 2 を用いて、上記課題を説明する
•
Ni・
・
・ノード i のキャッシュ容量
課題点の一点目に挙げた、サーバから離れたユーザの影響が
•
Ttw ・
・
・タイムウインドゥ [8]
大きいというのは、図 2 において、ユーザ赤がコンテンツ要求
した際には CCN ルータ A、B にキャッシュされることになる
が、ユーザ B がコンテンツ要求した場合には CCN ルータ B
にしかキャッシュされない。よってユーザ B は、リクエストを
十分に自分の直近のルータのキャッシュに反映させることが出
来ない。課題点の二点目のサーバに近いルータにあまり人気の
ないコンテンツが集まってしまうというのは、図 2 において、
ユーザ A がコンテンツ要求を行なう際には有名なコンテンツ
リクエストは CCN ルータ A がコンテンツを返信するために、
CCN ルータ B には、他の CCN ルータに無いあまり人気の無
いコンテンツがキャッシュされてしまう。このように、LRU は
トポロジでのルータ・サーバの位置によってキャッシュ機能の
∑c−(x−1)
T imesIn(α) =
∑c−(x−1)
i=1
Ni
Nx
i=1
Ni
Ttw Nx
(2)
ではユーザとオリジナルサーバの距離が長けれ
ば長いほどキャッシュする重みを増やしている.タイムウイン
ドゥ [8] とは文献 [8] から,ある一定確率でキャッシュしたほう
がよいキャッシュヒット率を得られるという見解から設定され
た値である.
そ し て ,そ の ノ ー ド α に て キャッシュさ れ る 確 率 Prob-
Cache(α) は次式で表される.
P robCache(α) = T imesIn(α) × CacheW eight(α)(3)
違いが顕著になってしまう。
3. 3 Prob-Cache
(Probablistic In-Networking Caching)
Prob-Cache [6] とは,無駄なキャッシュをなるべく減らすこ
とによってキャッシュヒット率を上昇させようという方式であ
る.図 3 を使って Prob キャッシュ方式の動作を説明する.
この式は,オリジナルサーバから遠ければ遠いほど確率的に
キャッシュされやすくなり,無駄なキャッシュが減ることによっ
てキャッシュヒット率を上昇させていることを意味している.
3. 4 Prob-Cache の利点と課題
Prob-Cache の利点は,ユーザの位置によって確率的に LRU
図 3 において,LRU を実行するとキャッシュの効率問題が発
を実行することによって,LRU の課題であるユーザの位置に
生する. 例えばユーザ A∼D がコンテンツ要求を行うとする. す
よるキャッシュ機能の差を軽減することが出来ることである. さ
ると CCN ルータ A はユーザ A の要求しか通過しないために,
らに,確率的にキャッシュすることによって,十分な時間が経
—3—
図 4 提案方式の動作
図 5 提案方式のコンテンツキャッシュ位置
過することで CCN ルータに理想的なキャッシュ配置が実現さ
れる. 一方課題としては,以下の二点があげられる.
•
キャッシュが埋まるのに時間が必要
•
トポロジが大きくなったときに,サーバから近いルータに
人気の無いコンテンツが集中する
一点目のキャッシュが埋まるのに時間が必要と言うのは,
図6
Prob-Cache は確率的に LRU を行なう・行なわないという動作
提案方式の動作パターン (1)
から,一回のデータ送信における,キャッシュ実行回数が少な
くなるために,その分だけ各キャッシュを無駄にしているとい
寿命が短いという構造である.CCN ルータ A は重みが 100 %な
うことである. 二点目は,Prob-Cache はいくら確率的にキャッ
ので,一番新しい場所に挿入し,一番古いキャッシュコンテン
シュの実行を制限しているとはいえ,トポロジが大きくなると
ツを廃棄する.CCN ルータ C は 75 %の重みなので,
結局 LRU のサーバに近いルータに不人気なリクエストが集中
x (1 − 0.75) = 0.25x
してしまうことが見えてくる問題である.
(4)
となり,0.25x 新しいコンテンツとして挿入する.CCN ルータ
4. ユーザの位置をキャッシュ生存時間に反映さ
せるキャッシュ制御手法の提案
C,CCN ルータ D も同様に処理を行う. この挿入位置は,LRU
における理想状態でのコンテンツがキャッシュされる位置であ
り,提案方式では 1 回のコンテンツ要求で理想の重みに基づい
Prob-Cache の課題点の影響を低減する手法を提案する. 提案
たキャッシュ配置が可能となっていることが特長である.
方式はユーザの位置を生存時間へ反映させたキャッシュ方式で
ある. 具体的に説明すると,ユーザの位置に応じてコンテンツ
次にフェイズ 2 の動作を説明する. CCN ルータに到達した
のキャッシュの新しさを変化させることで,生存時間を調整す
Data メッセージのコンテンツが CCN ルータにキャッシュされ
ている状況というのは 2 パターン存在する.
る. 提案方式におけるコンテンツの新しさの計算は Prob-Cache
で用いた数式 (1) を利用する.
( 1 ) Data メッセージをユーザに返す途中で,別の経路によっ
提案方式の動作は以下に示す二つのフェイズからなる.
て同じデータがそのルータにキャッシュされた場合
・フェイズ 1 CCN ルータに到達した Data メッセージのコ ( 2 ) ユーザの Interest が中継ノードでヒットした場合
ンテンツが CCN ルータにキャッシュされていない場合
(1),(2) どちらに関しても重みを適応したキャッシュ配置を
・フェイズ 2 CCN ルータに到達した Data メッセージのコ
することによって,よりユーザの要求を満足したキャッシュ配
ンテンツが CCN ルータにキャッシュされている場合
置が可能である. まずは 2 パターンのうちの (1) の動作を紹介
フェイズ 1 の動作を説明する.図 4 は,ユーザがコンテンツ
を要求した際に CCN ルータ A,B,C,D いずれにも要求コン
する.
図 6 はユーザがオリジナルサーバまでコンテンツ要求を行い,
テンツがキャッシュされておらず,Interest がオリジナルサー
その返却時に CCN ルータ C にて別の経路にて CCN ルータ C
バまでホップバイホップで転送されることを表している. オリジ
に同じコンテンツがキャッシュされていた状況である. このと
ナルサーバからユーザへコンテンツを送信するときに Interest
きに,LRU や Prob-Cache ではそのコンテンツを一番新しい
がたどってきた経路をホップバイホップで転送する. その際に,
ものとしていたが,提案方式では,求められる重み×α (CCN
各 CCN ルータはそのコンテンツをキャッシュするかどうか判断
ルータのキャッシュ容量) 分だけキャッシュの新しさを繰り上げ
する. その重みを CacheWeight() で計算する. 計算した結果の
る. また,(2) の場合は,図 7 に示すように,ヒットしたノード
例が図中の各 CCN ルータの上に表示されているパーセンテー
の直近にオリジナルサーバがいるものとして重みを設定し,上
ジである. この重みにしたがって,従来の LRU,ProbCache は
記と同じようにキャッシュの繰上げを行なう.
一番新しいコンテンツとして各 CCN ルータにキャッシュして
4. 1 提案方式の利点
いた. 一方,提案方式では重みに準じた新しさのキャッシュとし
提案方式の利点を 2 つ紹介する
て保存する.
図 5 は,各 CCN のキャッシュ構造を示したものである. x
チャンク分の容量があるキャッシュで,一番上ほど新しいコン
テンツで寿命が長く,一番下にあるほど一番古いキャッシュで,
1.CCN ルータに直接接続されるユーザ専用のキャッシュ領域
を作成
2. 生存時間を考慮して 100 %キャッシュする事により、ProbCache より短い時間でキャッシュ構造を作成可能
一点目の CCN ルータに直接接続されるユーザ専用のキャッ
—4—
図7
提案方式の動作パターン (2)
図 10
キャッシュの入れ替わり時間
提案方式の評価を行なった.特性評価は 4 × 4 のグリッドネッ
トワークトポロジを使用し,グリッドの交点に CCN ルータを
図 8 CCN ルータに直接接続されるユーザ専用のキャッシュ領域確保
配備した.ユーザは,各 CCN ルータに一人接続され,オリジ
ナルサーバー一台が,ランダムに選択された CCN ルータに接
続されるとし,10 回の試行の平均値として以下の特性を評価
した.
1. キャッシュの入れ替わり時間
2. キャッシュヒット率
3. コンテンツヒットまでのホップ数
その他のシミュレーションで用いたパラメータを表 1 に示す.
表1
シミュレーションパラメータ
使用シミュレータ
Omnet++
トポロジ
4 × 4 グリッドネットワーク
ユーザ数
16
シュ領域について図 8 を用いて説明する。提案方式において、
フォワーディング方式
ブロードキャスト
ユーザの位置に応じてコンテンツのキャッシュの新しさを変化
オリジナルサーバ数
1
コンテンツ数
10,000
チャンク数
10 チャンク/1 コンテンツ
コンテンツ要求
Zipf の法則 (α=1)
図 9 提案方式と Prob-Cache のキャッシュ構造生成比較
させた結果、ユーザ A の要求したコンテンツは CCN ルータ A
においては一番新しいコンテンツとしてキャッシュされ、CCN
ルータ B においてはキャッシュ容量の 50 %目に新しいコンテ
ンツとキャッシュされる。これによって CCN ルータ B の新し
い 50 %の容量は CCN ルータ B に直接接続されているユーザ
5. 1 キャッシュの入れ替わり時間
B のみが使用することが可能となり、ユーザ B は自分の要求を
初期状態として,ダミーコンテンツをキャッシュさせておき,
CCN ルータ B に反映させることが可能となる
2 点目の生存時間を考慮して 100 %キャッシュする事により、
全てのダミーキャッシュが消去されるまでの時間を測定した.
Prob-Cache は,その特性上確率的にキャッシュするかしないか
Prob-Cache より短い時間でキャッシュ構造を作成可能という
を決定する方式であったために,ユーザ要求を満たしてキャッ
点を図 9 を用いて説明する。Prob-Cache では 100 % LRU 実
シュ構造が確立するために時間を要する事が想定される.一方,
行・33 % LRU 実行を行なうといった場合で、33 % LRU が一
提案方式では,常に最良の重みに従ったキャッシュを実行でき
回目に LRU を行い、2、3 回目に LRU を行なわない、と仮定
るためにユーザの要求を満たしたキャッシュ構造を作成するま
する。この際に、1 回目の試行では 100 % LRU・33 % LRU
での時間を大幅に短縮することが期待できる.
共に違いが出ない。33 % LRU が妥当な生存時間のキャッシュ
シミュレーションで測定した結果を図 10 に示す.
になるには 3 回の試行を行う必要がある。それに対し、提案
図の横軸は CCN ルータで共通の値を持たせている.縦軸は
方式では一回の試行でどちらの場合も妥当な生存時間のキャッ
10 回の試行の平均時間をプロットした.キャッシュの入れ替わ
シュ配置が可能となる。
り時間は各 CCN ノードのキャッシュ容量に比例するのは当然
だが,提案方式は Prob-Cache と比較してキャッシュ構造の理
5. 提案方式の特性評価
想化に要する時間を訳 30 %に低減可能と言える.
コンピュータシミュレーションにより,LRU,Prob-Cache,
—5—
図 12
図 11
6. む す び
5. 2 キャッシュヒット率評価
キャッシュヒット率とはユーザが Interest を送信した場合に,
ホップした CCN ルータにて要求したコンテンツがキャッシュに
存在すればキャッシュヒットとし,要求したコンテンツがキャッ
シュに存在しなければキャッシュヒットしていない,と定義す
るし,キャッシュヒット率を以下の式で定義した.
キャッシュヒット率=
コンテンツ取得までのホップ数
キャッシュヒット率
キャッシュヒットした回数
キャッシュヒットした回数+キャッシュヒットしなかった回数
本稿では CCN におけるキャッシュ手法に着目した.従来の
キャッシュ手法である LRU,Prob-Cache の利点・問題点を明ら
かにし,ユーザの位置をキャッシュの生存時間に反映したキャッ
シュ手法を提案した.提案方式は計算機シミュレーションにお
いて従来方式に比べ,コンテンツ取得までのホップ数の短縮・
(5)
ノードにおけるキャッシュヒット率の向上を示し,提案方式の
有効性を確認した.
シミュレーションはすべての CCN ルータのノードのキャッシュ
が満杯になった状況から開始している.キャッシュヒット率を
測定した結果を図 11 に示す.
横軸は各 CCN ルータのキャッシュ容量,縦軸にキャッシュ
ヒット率 (%) である.各 CCN ノードのキャッシュ容量を増大
させるとキャッシュヒット率が大きくなるのは当然だが,提案
方式は Prob-Cache,LRU に比べて,全ての状況でキャッシュ
ヒット率が上昇している.これは同一容量のキャッシュを効率
的に利用できていることを示している.
また,例えばキャッシュヒット率 15 %を実現するような CCN
を作成したいときには,従来方式の Prob-Cache では 6,000 チャ
ンクのキャッシュ容量が必要だが,提案方式では 3000 チャンク
の容量を実現可能であることを示している.そのため,提案方
式は,ある条件化では約半分のキャッシュ容量で同等のキャッ
シュヒット率が達成できると言える.
5. 3 コンテンツ取得までのホップ数評価
コンテンツ取得までのホップ数とは,ユーザが Interest を送
信した際に,要求したコンテンツをキャッシュとして保持して
いる CCN ルータ又は,オリジナルサーバまでのホップ数と定
義する.
評価結果を図 11 に示す.横軸は,各 CCN ルータのキャッ
シュ容量,縦軸はホップ数である.図 11 より,各 CCN ルータ
のキャッシュ容量が大きくなれば,それに伴ってキャッシュヒッ
ト率も上昇するために全ての方式においてホップ数が減少する
が,提案方式では LRU,Prob-Cache 方式に比べて,全ての状
態で低いホップ数でコンテンツを取得することが可能となると
いう結果が得られた.
謝
辞
本研究の一部は,NICT 委託研究「新世代ネットワークを支
えるネットワーク仮想化基盤技術の研究開発」のサポートを受
けて行なわれた.
文
献
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N.H.Briggs, and R.L.Braynard,“ Networking Named Content ” in Proceeding of ACM CoNEXT 2009, pp.1-12,Dec
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—6—