鉄道廃線跡の土地利用に関する研究 A study on the land use of vacant lots left by disused railway lines 04M43154 髙橋 俊徳 指導教員 Toshinori Takahashi Adviser 中井 検裕 Norihiro Nakai ABSTRACT One important issue about disused railway lines is how efficiently these vacant lots can be used. This paper aims to grasp the circumstances of land use in vacant lots abandoned by railway lines, and examine the ideal use for these lands, concerning the decision processes involved. Most of these lands in disuse either end up becoming roads or are completely abandoned. The problem in the decision making process for the usage of these vacant disused railway lines is that each municipality along the railroad settles their own policies on what to do with the space left by abandoned railways, which is not an efficient method. A good idea would be to summon the local residents for an open discussion about the future of these lands. During the discussion process, with local authorities and residents, the possibility of a combined action of the several involved municipalities, as well as an increased number of options on how to use the newly opened space should be considered. まず鉄道であるが、基本的には自動車の普及、地方の過疎 化によるところが大きい。国鉄と民鉄に分けて述べる。 戦後、廃線が社会的に問題になったのは 1964 年から続いた 国鉄の赤字が大きい。1969 年に第 1 次再建計画が立てられ、 以降、3 次に渡り再建計画が立てられたが提案より大幅に少 ない路線の廃線にとどまった。1980 年に国鉄再建法が成立し、 旅客輸送密度により特定地方交通線が指定され、第 3 セクタ ー・民鉄・バスに転換され、45 路線が廃線になった。 民鉄は馬車鉄道・軽便鉄道などが乗合バスの出現などによ り次々と廃線となった。また、地方都市においても 1960 年前 後から廃線となる路線が出てきた。 1987 年の国鉄民営化を控え、1986 年に日本国有鉄道法と地 方鉄道法が鉄道事業法に一本化された。2000 年には規制緩和 の流れを受け鉄道事業法が改正され、需給調整規制が撤廃さ れ参入・撤退が容易になり、廃止が許可制から事前届出制に 変わった。国鉄民営化以来 1999 年までの 13 年間で、特定地 方交通線の廃止以外の廃止 総延長(km) 路線数 は 17 路線だったが、2000 年 250 2500 を境に増加に転じ、2006 年 202 200 2000 189 10 月までの 6 年間で 35 路線 155 が廃止された(図 1)。 150 1500 路面電車は、1970 年前後 116 100 1000 91 に相次いで廃止された。これ 72 74 は都市部で自動車が普及し、 500 50 39 37 35 都市交通の妨げとなったた 3 5 0 0 めである。この時期に東京 (1968 年)、大阪(1970 年)、 廃線年代 名古屋(1974 年)で路面電 図1 全国の廃線の距離と路線数(1 (2006 年 10 月 1 日現在) 車がほとんど姿を消した。 1-3 研究の方法 本研究では、2 章において廃線跡の現在の土地利用の傾向 を分析し、3 章で土地利用決定の過程について把握し、4 章で 問題点を考察し解決の糸口となる事例を扱い、5 章で廃線跡 1890 1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000 1 はじめに 1-1 研究の背景と目的 近年、LRT など路面電車が見直される一方で、廃線となる 鉄道路線も増えつつある。これはモータリゼーション化の進 展や、地方の過疎化、産業構造の転換など様々な理由により 営業赤字が拡大傾向にある上、老朽化する設備の更新費用や 安全投資に関する費用の負担に耐えられない路線が多いため である。また、2000 年の鉄道事業法の改正により鉄道の廃線 が許可制から事前提出制になった影響が大きいといわれてい る。規制緩和の流れを受け、自由な競争を促進することを目 的に需給調整規制が撤廃された。 鉄道が廃線になれば、代替交通になるため定時制の欠如な ど数多くのデメリットが生じ、反対運動が起こることも少な くない。しかし、廃線後の土地利用に関する住民運動はあま り多くなく、土地利用に言及する枠組みや法律などもない。 鉄道は大量輸送機関という側面を持つため地域中心を結ぶ ことが多く、廃線跡地が地域中心に残されることも少なくな い。まちづくりの観点から放置されるのは望ましくない。廃 線運動などから個々の事例に関して論じたもの1)や、跡地利用 については近代土木遺産保存の観点からその活動について論 じたもの2)があるが、遺産的な性格を持たない路線は数多く あり、廃線跡地の利用について網羅的に述べたものはない。 そこで、鉄道の廃線が増えている現状を考慮した上で、廃 線跡の土地利用について議論する必要があると思われる。廃 線跡地は細く柵状であり、必ずしも道路が平行していないた め接道要件を満たさず建物の建築が不可能な場合が多い。そ のため、利用が困難な場合が多い。本研究では物理的な特性 以外にも跡地利用を阻害する要因がないかを明らかにするた め、過去に廃線になった路線の跡地の土地利用と土地利用決 定に至る過程の実態を明らかにすることを目的とする。 1-2 日本における廃線の歴史 本研究で対象とする路線決定のため、背景となる廃線の歴 史を考慮した。鉄道と路面電車などの軌道では性格が異なる。 ) の土地利用決定のあり方を考察し、まとめとする。 1-4 調査の概要 本研究では明らかにする過程で主に 3 つの調査を行った。 表1 調査の概要 『調査1』 ヒアリング① 『調査2』 文献調査 『調査3』 ヒアリング② 2006年9月~2007年1月 2007年1月~2月 2007年1月~2月 関東で1960年代以降に廃線になった 調査対象 路線のうち、対象の76路線(ただし調 2000年3月1日以降に廃線届が出された路線のうち、対象とした24路線 査過程で対象外となる16路線を除外) 朝日新聞、中日新聞、茨城新聞、岐阜 調査媒体 沿線自治体・鉄道事業者 沿線自治体・鉄道事業者 新聞、北國新聞、北信タイムス 主に当該地域の地方新聞の過去の新 調査方法 主に電話ヒアリング 電話ヒアリング 聞記事から 日時 調査目的 廃線跡地の現状を明らかにする 備考 インターネットを参考に推測した上で 地図・航空写真・文献3)なども用いた。 把握できた時点で調査を打ち切った。 調査が関 2-1、2-2、4-2 連する章 廃線の経緯、廃線跡地利活用の現状を明らかにする 縮刷版のINDEX、横断記事検索など から記事を絞り、直接記事をあたった 新聞記事から時系列で把握し、疑問 (ただし北信タイムスはインターネット 点について調査を行った。 上の過去記事から)。 3-2、4-2 2 廃線跡の土地利用の傾向 2-1 調査対象・調査方法 廃線跡地の土地利用を把握するため、1961 年以降に関東で 廃線になった路線跡地の調査を行う(表 1 の『調査 1』)。 1-2 で前述した廃線の歴史を考慮した上で、廃止路線総延長、 路線数ともに急激に増加した、1960 年代以降に廃線となった 路線について調査を行う(図 1)。ただし、工場など事業主が 所有しその敷地内に占める割合の高い専用線は公共性が低く 転用が困難であることから、全線に渡り併用軌道である路線 はもともと道路に敷設された鉄道であり廃止後道路になるの が自明であるので、それぞれ対象から除いた。 都市部・郊外部・山間部をバランスよく含む関東地方の路 線 60 を調査対象とし、調査を行った。 2-2 関東における廃線跡の土地利用の傾向 現在の土地利用のうち、 0 10 20 30 40 50 60 連続してなされている利 25 道路 15 遊歩道 用を集計した(図 2)。そ 2 自転車道路 38 道路類 のため、1 路線でも 2 つ 5 公園 以上利用がある場合があ 5 鉄道 5 住宅 る。ただし、放置・空地 2 工場 になっている場合は連続 3 駐車場 2 駐輪場 の定義が困難なため、 4 区画整理 1 農地 500m 以上続いている場 7 その他 合、路線の大半を占める 2 計画中 15 放置・空地 場合のみを集計した。 (n=60) 2 不明 道路類(2)が 63%、空 図 2 1961 年以降関東での 地・放置が 25%であり 、 廃線の跡地の土地利用 これら 2 つどちらかを含 む路線は 82%に上った。これら以外はそれぞれ 2%~8%しか ない。以上から大半の路線の廃線跡を国・自治体が管理して いる実態が推測される。これら 2 つを中心に分析を試みた。 (1)道路類 道路としての利用が最も多かったが、路線があった都県別 に見てもそれぞれ 47%~100%が道路類の整備を行っている。 廃線跡の道路類の整備は都市部・郊外部・山間部など地域に よることなく見られるが、遊歩道として整備される事例は都 市部・郊外部に多く見られることが特徴として挙げられる(表 2)。また、公共資本と民間資本の路線による違いはほぼ見ら れず、鉄道種類別・廃線距離別に比べても特徴はあまりなか った(表 3、4、5)。関係なく道路として整備されている。 年度別に見ると、60・70 年代は 70%以上に達しているが、 最近になるにつれて道路としての整備は減っている(表 6)。 これは近年の廃線はまだ跡地利用が計画中であることによる。 2001 年以降廃線になった 5 路線のうち 2 路線が計画中であり、 それぞれ生活道路や遊歩道の整備が検討・決定されている。 (2)空地・放置 道路類に次いで、多かったのが空地・放置である。都県別 にみると表 2 のとおりだが、山間部の路線がほとんどで、他 は臨海部の貨物線などである。山間部や臨海部では他への転 表 2 廃線都県別に見る廃線跡の土地利用 用が困難なためだ 路類 空地・ と推測される。ま 路線位置 道 不明 計 自転車 放置 道路 遊歩道 道路 1 2 0 3 4 0 0 5 た、鉄道事業者別 群馬県 栃木県 4 1 0 4 3 0 0 6 6 0 1 7 0 1 0 8 に比べると公共資 茨城県 埼玉県 3 3 0 4 1 0 0 4 東京都 6 3 0 9 4 2 1 16 本と民間資本の路 神奈川県 2 6 0 8 3 5 1 17 千葉県 3 0 1 3 0 1 0 4 25 15 2 38 15 9 2 60 線による違いはほ 計 (3) 表 3 鉄道事業者別に見る廃線跡の土地利用 ぼ見られなかった 鉄道事業 道路類 空地・ 不明 計 自転車 (表 3)。 者 放置 道路 遊歩道 道路 5 7 0 12 6 3 0 20 鉄道種類別に比 国鉄 JR 0 0 0 0 1 0 0 1 0 2 0 2 0 0 0 2 べると山間部に多 公営 大手民鉄 10 2 0 11 4 3 0 17 中小民鉄 10 4 2 13 4 3 2 20 25 15 2 38 15 9 2 60 いケーブルは特に 計 表 4 鉄道種類別に見る廃線跡の土地利用 放置・空地が多か 路類 空地・ った(表 4)。また、 種類 道 不明 計 自転車 放置 道路 遊歩道 道路 12 4 2 14 6 6 0 24 廃線距離が短いほ 旅客鉄道 貨物鉄道 8 8 0 16 6 3 0 24 4 2 0 6 0 0 0 6 ど放置・空地が多 軌道 ケーブル 0 1 0 1 3 0 0 3 1 0 0 1 0 0 2 3 モノレール く(表 5)、年代別 計 25 15 2 38 15 9 2 60 表 5 廃線距離別に見る廃線跡の土地利用 の特徴は特に見ら 道路類 空地・ 不明 計 れなかった(表 6)。 路線距離 自転車 (km) 放置 道路 遊歩道 道路 2 2 0 4 3 3 0 9 1980 年代にわずか 0~1 1~5 12 8 0 20 11 5 1 35 5 3 1 7 1 0 1 8 に増加したが、廃 5~10 10~20 6 2 0 6 0 1 0 7 20~ 0 0 1 1 0 0 0 1 25 15 2 38 15 9 2 60 線路線に偏りがあ 計 表 6 廃線年度別に見る廃線跡の土地利用 ったためである。 道路類 空地・ 不明 計 以上から、跡地 廃線年代 道路 遊歩道 自転車 放置 道路 1960 14 3 1 16 4 0 0 19 利用に鉄道事業者 1970 4 7 0 11 2 3 0 15 1980 6 5 1 10 7 3 0 18 の公私、廃線年代 1990 0 0 0 0 1 1 1 3 2000 1 0 0 1 1 2 1 5 25 15 2 38 15 9 2 60 はそれほど影響し 計 ていないものの、廃線距離が短いほど放置されたり空地にな ったりしてしまうこと、山間部と都市部・郊外部では跡地利 用の傾向に違いがあることが明らかになった。 道路、空 地・放置を 全く含まず 道路、空 地・放置を 全く含まず 道路、空 地・放置を 全く含まず 道路、空 地・放置を 全く含まず 道路、空 地・放置を 全く含まず 3 廃線跡の土地利用の決定過程 2 章では廃線跡の土地の大半が道路・空地として利用され ている実態が明らかになった。道路としての利活用は跡地の 形状からも容易であるが、なぜ道路に決定したのか。他の利 活用は考えられなかったのか。また、空地・放置になってい る場合は利活用の方法がなかったのか。これらの観点から廃 線跡地の利活用の経緯について調査を行った。 3-1 廃線の過程の概要 2000 年に鉄道事業法が改正され、許可制から事前届出制と なりその手続きも大きく変化した。鉄道事業者が沿線の自治 体に対して廃線の検討を表明すると、沿線自治体で法定・任 国土交通省 鉄道事業者 沿線自治体 沿線住民 利用者減少、設備更新が必要など (運輸収入減少) ↓ (更新費用捻出が困難) 廃線の検討 廃線の検討を意思表示 個 別 よ 事 る 情 に 協議会開催の要望 協議会召集 協議会参加 オブザーバー参加 反対運動 反対運動 廃止阻止の運動 廃止阻止の運動 (試験増便など) 廃止の届出 [鉄道事業法二十八条の二第一項] 意見聴取 [鉄道事業法二十八条の二の第二 項] 廃止時期繰上是非を通知 [鉄道事業法二十八条の二の第三 1年以上 項] 個 に 別 よ 事 る 情 廃止容認 短縮 個 に 別 廃止日繰上の届出 よ 事 [鉄道事業法二十八条の二 る 情 第五項] 代替交通検討 跡地利用検討 廃線 復活運動など 跡地利用要望 跡地売却・譲渡など 図3 廃線までの流れ 意いずれかによる対策協議会が設置され、鉄道事業者との協 議を経て廃線に至る場合が多い。また、平行して代替交通に ついても協議が行われる。 3-2 廃線過程の実例 表7 鉄道事業法改正以降に廃線届が出された対象路線 2000 鉄軌道 区間 路線 距離 廃止年月日 年 3 月 1 都道府県 鉄道事業者 種類 黒崎駅前~折尾 北九州線 5.0 軌道 2000/11/26 福岡県 西日本鉄道 下北~大畑 大畑線 18.0 第1種 2001/4/1 日の鉄道 青森県 下北交通 穴水~輪島 七尾線 石川県 のと鉄道 20.4 第2種 2001/4/1 黒野~本揖斐 揖斐線 5.6 第1種 2001/10/1 岐阜県 名古屋鉄道 事業法改 岐阜県 黒野~谷汲 谷汲線 名古屋鉄道 11.2 第1種 2001/10/1 明智~八百津 八百津線 岐阜県 名古屋鉄道 7.3 第1種 2001/10/1 正以降に 岐阜県 江吉良~大須 竹鼻線 6.7 第1種 2001/10/1 名古屋鉄道 信州中野~木島 河東線 12.9 第1種 2002/4/1 長野電鉄 廃止の届 長野県 和歌山港~水軒 和歌山港線 和歌山県 南海電気鉄道 2.6 第2種 2002/5/26 野辺地~七戸 20.9 第1種 2002/8/1 青森県 南部縦貫鉄道 出が提出 福井県 京福電気鉄道 東黒市~永平寺 永平寺線 6.2 第1種 2002/10/21 可部~三段峡 可部線 46.2 第1種 2003/12/1 広島県 西日本旅客鉄道 横浜~桜木町 東横線 2.0 第1種 2004/1/31 されたの 神奈川県 東京急行電鉄 碧南~吉良吉田 三河線 愛知県 名古屋鉄道 16.4 第1種 2004/4/1 猿投~西中金 三河線 愛知県 名古屋鉄道 8.6 第1種 2004/4/1 は 65 路 常北太田~鮎川 日立電鉄線 18.1 第1種 2005/4/1 茨城県 日立電鉄 忠節~黒野 揖斐線 12.7 第1種 2005/4/1 名古屋鉄道 線。この 岐阜県 岐阜駅前~忠節 岐阜市内線 岐阜県 名古屋鉄道 3.7 軌道 2005/4/1 徹明町~関 美濃町線 18.8 軌道 2005/4/1 名古屋鉄道 中には貨 岐阜県 田神~競輪場前 田神線 岐阜県 名古屋鉄道 1.4 軌道 2005/4/1 穴水~蛸島 能登線 石川県 のと鉄道 61.0 第1種 2005/4/1 物線や貨 北海道 北海道ちほく高原鉄道 池田~北見 ふるさと銀河線 140.0 第1種 2006/4/21 小牧~桃花台東 桃花台線 7.4 軌道 2006/10/1 愛知県 桃花台新交通 猪谷~奥飛騨温泉口 神岡線 19.9 第1種 2006/12/1 物線を旅 岐阜県 神岡鉄道 客化した路線など多種多様な路線が含まれている。直接廃線 が生じない路線(第 2 種鉄道事業のみの廃止・貨物線の旅客 化)と、引き込み先の工場主などが所有する場合が多く跡地 利用の可能性が低い貨物線、沿線に住民のいない観光路線は 対象から除いた。24 路線を対象とする(表 7)。(表 1 の『調 査 2』 、『調査 3』、研究1)などから)。 3-2-1 廃線要因 大半の路線が赤字経営の行き詰まりによる廃止である。特 に、特定地方交通線に指定された後、第 3 セクター・民鉄に 転換された 4 路線は、転換後毎年赤字を計上し続けていた。 基金の枯渇による廃止が多い。また、大手民鉄においても少 子化やバブル崩壊により黒字が縮小され、不採算路線からの 撤退を余儀なくされている。 しかし、運行本数が少なかったものの踏切幅が狭くボトル ネックになっていた踏切があったため、地元の陳情を受けて の廃線や、元々の路線に平行して新規開業する別事業者の路 線への乗り入れのための廃線など、赤字経営以外での理由に よる廃線路線もいくつかあった。 3-2-2 廃線になるまでの過程 第 3 セクターの路線と民鉄ではその過程には違いがある。 民鉄の場合は経営上の理由などから廃止の意向を持つ事業者 側と、公共交通確保の観点などから廃止反対の立場をとるこ とが多い沿線自治体側とに意見の不一致が見られる。両者が 協議をした上で廃止になるが、沿線自治体が廃止を容認しな くても鉄道事業者が廃止届を出せば 1 年後には廃止されてし まう。しかしながら、名鉄三河線や京福永平寺線などのよう に沿線自治体が赤字補填をすることで廃線時期を延期できた ものや、JR可部線のように廃線までに試験増便をするなど 乗客増の試みが見られた路線もあった。 一方で第 3 セクターや公営の路線は経営主体に自治体が参 加しているため、廃止の意思表示を行ったり、あえて沿線自 治体と協議する場を設けたりする必要がないが、廃止に関し て賛成・反対の立場がはっきりしないことが多い。 また、いずれの場合でも多かれ少なかれ沿線自治体間に廃 線に対して温度差がある。特に、行政区域内から完全に鉄道 がなくなってしまう自治体と、行政区域内に別の路線が運行 している自治体とではその差が顕著に見られた。首長が議会 や記者会見などで廃線を容認する発言をする時期や、廃線対 策の協議会における発言内容にずれが生じていた。 3-2-3 廃線跡地の土地利用決定に至るまでの過程 路線の大半が廃止から間もないため、跡地の利用が決まっ ていない路線が多い。特に、線路部分に関しては利用が困難 であるため、決まっていない路線が多い。一方で、駅舎部分 に関してはまとまった土地が確保できることから、跡地が既 に整備されている路線がある。廃線前に線路だった部分につ いて、土地利用が決定しているかどうか調査を行った(表 1 の『調査 2』、『調査 3』)。 土地利用が全線 表 8 所有者別に見る跡地利用決定状況(4) 跡地利用 に渡り既に決定し 廃線後 計 の所有 所有者 全て 一部 未定 者移転 決定 決定 ているのは 2 路線 なし 0 1 6 7 鉄道事 (うち沿線自治体が事業者) 0 1 0 1 しかないが、一部 業者 (うち沿線自治体と協議なし) 0 0 6 6 鉄道事 1 3 2 6 でも決定している 協議中 業者 (うち沿線自治体と協議中) あり 1 8 2 11 全線沿線自治体 0 2 1 3 ものと合わせると 一部沿線自治体、一部鉄道事業者 1 5 0 6 一部民間、一部鉄道事業者 0 0 1 1 全体の半数近くに 全線民間企業 0 1 0 1 2 12 10 24 上る(表 8)。この 計 中には、決定しているものの鉄道事業 表 9 所有自治体別に見る 跡地利用決定状況 者との譲渡協議中の路線もあった。 自治体 跡地利用決定状況 計 の所有 全て 一部 既に所有者が鉄道事業者から移り、 部分 決定 決定 未定 全線 2 4 2 8 利活用が開始または利活用の方針が決 一部 2 0 0 2 計 4 4 2 10 定しているのは 9 路線。 表 10 沿線自治体数別に 一方、所有者が鉄道事業者から移っ 見る鉄道事業者との ていても、全線に渡って利活用が開始 跡地協議状況(7) 複数 沿線自治体数 1 または利活用の方針が決定していな 2 4 5 7 計 個別協議 4 3 0 0 7 い路線はなかった。ただし、1 つの路 一括協議 3 0 1 1 1 3 協議未実施 6 4 1 0 0 5 線全体で見ればそうだが、自治体ごと 計 9 8 5 1 1 15 に見ると 1 つの行政区域内で全く方針が決まっていない区域 が 2 つあった(表 9)。 また、鉄道事業者との協議の過程で、沿線自治体と協調し て協議を行った自治体は 1 路線しかなく、基本的には個別に 協議を行っている実態も明らかになった(表 10)。ただし、 現在協議が進行している路線では、2 路線が沿線自治体と協 調して協議を行っているが、やはり 4 路線は個別に協議を行 っている。整備内容に関しての協議が事前に行われていると ころも特になかった。また、協調して跡地を購入しない、と いうことを決めているものも 4 路線あった。 以上から、(1)現在半数ほどの路線の跡地が利活用、または 利活用の方針が出ており、そのほとんどが沿線自治体による ものであること、(2)所有していても跡地利用の方針すら決ま らない自治体があること、(3)取得協議に関して沿線自治体が 個別に行っていること、の 3 点が明らかになった。 3-2-4 廃線跡地の土地利用の用途別考察 『調査 1』で廃線跡地の多くが道路や空地・放置であった。 空地・放置のような未利用の路線は鉄道事業者が所有して いる路線に多く(表 8)、跡地の利活用が困難なために持て余 している状況がうかがえる。鉄道事業者が所有している場合 は利活用がなされていない傾向がある上、鉄軌道用地は隣接 地の 3 分の 1 の固定資産税を払えばよい(6)が、鉄道事業をや めてしまえばその特例はなくなってしまう(表 8)。鉄道事業 をやめれば、運輸収入がなくなるだけでなく、事業を行って いた時と比較して土地にかかる税金の額が増額してしまう。 そのため、利活用方針が明確でない場合、鉄道事業者にとっ ても早期の譲渡が望ましい。 一方、道路になっている路線・道路化の方針がある路線は いくつかあったが、その理由は様々だった。もともとあった 道路に対する改良が最も行われやすい。安全性確保のために 鉄道と敷地を接して平行していた道路の拡張や、一部区間の 線形改良など、必要に差し迫った理由ではない整備が行われ る場合が多かった。また、新規に整備する道路に関しても、 鉄道廃線による利便性低下を食い止めるための整備もあった。 集落内道路が狭かったため救急車両が入れないという明確な 問題点を解決するための整備もある。 以上から、曖昧な理由だけでなく、明確で即時的効果の高 い理由による道路整備もある点が明らかになった。 3-3 廃線過程において注目すべき点 3 章の廃線過程の調査により以下の特徴が明らかになった。 (1) 対象路線の跡地の半数が利活用されているか、利活用の 方針が出されており、多くが沿線自治体によること (2) 鉄道事業者にとって、廃線跡地は利活用が決定しにくく 持て余してしまう上、税金が多額にかかってしまう実態 (3) 廃線跡地の利活用について沿線自治体による一体的な組 織がなく、個別に策定し鉄道事業者と交渉していること (4) 道路整備の理由は明確な問題点を解決し、即時地域貢献 に結びつく事例もあること 4 廃線跡地の自治体間を超えた一体的利用 跡地利活用に関し、多くは持て余してしまいがちであるが、 沿線自治体が個別に方針を構想している点から考察を行った。 4-1 廃線跡地の土地利用決定時の沿線自治体協調の必要性 廃線になった路線ではその半数以上が複数の自治体に跨っ ている。廃線跡地は利活用が困難な形状の土地であるが、長 く続く土地を一括して利活用を検討した場合に生じる利用法 もある。道路として整備する場合、1 つの自治体内で完結す る道路の必要性がない場合でも、2 つ以上にまたがって道路 を整備することで整備の効果が生まれる場合もある。 だが、第 3 セクターの場合、沿線自治体が 1 つの場合を除 き、基本的には沿線自治体が個別に鉄道事業者と交渉を行っ ていた。廃線に際し、鉄道事業者から廃止の意思表示を受け た後、ほぼ全路線の沿線で対策協議会、代替交通協議会が設 置されていた。だが、廃線後の跡地の購入をめぐる交渉の枠 組みが決まっている路線はあまりない。また、跡地の利活用 に関しても全体として協議をしながら進めている路線はない。 以上から、廃線後も沿線自治体で連携して行う協議につい て実例を参考にする。 4-2 廃線跡地の複数の自治体による一体的利用の効果 沿線自治体が協調して整備を行うことで効果が上がった事 例などについて触れる。 4-2-1 つくばりんりんロード 筑波鉄道(茨城県)は、跡地の全線が自転車・歩行者道「つ くばりんりんロード」として整備されている。沿線自治体に よる存続対策協議会が地域振興などを条件に廃線に同意し、 廃線後に廃止問題協議会に組織替えをした。沿線自治体や住 民が跡地活用を望み廃止問題協議会が県に陳情し、県が国の 表 11 つくばりんりんロード整備の経緯 補助を受け整備した。 出来事 4-2-2 名鉄三河線・碧南~ 年1984 月11 筑波鉄道が経営難を理由に廃止の方針を打ち 出す 吉良吉田 沿線6市町村が廃止反対の立場から「筑波鉄道 存続対策協議会」を設置、鉄道利用促進運動な 名鉄三河線・碧南~吉良 どを展開。 1987 1 存続対策協議会が、代替バス輸送のための道 路網整備や地域振興について、県の協力を条件 吉田(愛知県)では、廃線 に廃止に同意。 3 筑波鉄道が廃止される。 直前から廃線跡地の一体的 5 沿線6市町村が「筑波鉄道廃止問題協議会」を設 立。県に大規模自転車道整備を陳情を始める。 利活用の検討のため、沿線 1989 県が廃止後の状況や将来を勘案し、跡地の利用 は自転車道で整備することが適切であると判 自治体(2 市 2 町)の企画 断。建設省との協議の結果、大規模自転車道と して整備する方向で一致し、県は調査に着手す 課長・担当者による勉強会 1990 10 沿線6市町村が「筑波大規模自転車道建設促進 期成同盟会」を設立 が開催されていた。その中 1991 4 国補大規模自転車道整備事業に新規採択 1992 4 県道認定告示(一般県道岩瀬土浦自転車道線) で、緑道かサイクリングロ 1993 4 公募の結果、愛称名「つくばりんりんロード」に決 2001 全線整備完了 2002 4 供用開始 ードの整備が検討されたも 表 12 名鉄三河線(碧南~吉良吉田)の のの、県の補助を得られず 経緯 年 月 出来事 断念せざるを得なかった。 1998 11 名鉄が廃止の方針を打ち出す 2000 8 沿線市町が赤字補填決定 現在では個々の自治体で鉄 2001 2 「名鉄三河線問題連絡協議会」設置 2004 2 「名鉄三河線廃線敷広域利用勉強会」設置 道事業者と協議を行ってい 4 名鉄三河線廃止 8 廃線跡整備のため県に財政支援要請 るが、事務レベルで連絡を 10 県から財政支援困難という回答 2005 2 「名鉄三河線廃線敷広域利用勉強会」解散 取っている。 表 13 名鉄八百津線の経緯 年 月 出来事 4-2-3 名鉄八百津線 1998 11 名鉄が廃止の方針を打ち出す 2001 10 名鉄八百津線廃止 名鉄八百津線(岐阜県) 2002 9 兼山町が跡地購入 12 八百津町が跡地購入 では、沿線 1 市 3 町(廃線 2003 3 御嵩町が跡地購入 当時)のうち 3 町が既に跡地を購入しているが、整備方針が 固まっているのは八百津町のみである。廃線後すぐは散策道 路にする話もあったが、実現には至らなかった。御嵩町、旧 兼山町地区では地形上道路にすることは難しく、具体的な整 備方針はない。また、可児市で跡地の購入方針はない。 「つくばりんりんロード」は 1 つの自治体だけでは実現不 可能なものである。沿線自治体の廃止問題協議会が廃線後も 継続して意見を集約し、完成に至った。名鉄三河線は勉強会 が設置されたものの実現には至らなかったが、現在でも連絡 を取り合うなど今後につながるきっかけになった。また、名 鉄八百津線は自治体ごとに足並みが揃わず、買収したにもか かわらず利活用できない自治体もある。 複数の自治体が連携し意思疎通することで、自治体間のす れ違いを防止し、自治体単体では不可能な利活用につながる。 5 おわりに 5-1 結論と考察 廃線跡地は全体的に道路・空地のままである場合が多い。 これは利活用が困難であるためで、特に鉄道事業者が管理し ている場合は空地のままである傾向がある。近年では沿線自 治体が管理している場合に利活用されることが多い。管理が 移る過程で廃線の沿線自治体全体で交渉するより、個別で交 渉をする場合が多い。また、沿線自治体に有償・無償で譲渡 または使用貸借される場合があるが、全線に渡って自治体の 管理下にある廃線跡地の中には、未利用の土地が大半を占め る場合がある。 また、沿線自治体が個別に協議を行う点に着目し、沿線自 治体全体が足並みをそろえて廃線跡地利用を検討することが 跡地利用の選択肢を広げる可能性について取り上げた。 これらの結果から、跡地利用に関して沿線自治体が連携し て協議をすることで、利活用が困難な廃線跡地の可能性を広 げると言える。 跡地利用に関する協議は、存続や復活を模索している段階 で行うことは難しい。駅舎の跡地が整備された事例には、廃 線がほぼ確実になった、廃線 1 年前には既に検討がなされた 場合がある。廃止が確実になった後、代替交通の検討と平行 して協議を行えば検討期間を長く確保でき、利活用の幅が広 がると考えられる。また、各自治体が要望を取りまとめる期 間が必要であるが、廃線決定直後は住民感情を考慮する必要 があるため、一定期間以上は継続して協議を行うべきである。 5-2 今後の課題 本研究では跡地利用決定過程について捉えたが、廃線前の 各路線の実情や各自治体の実情、経済的事情までは捉えきれ ていない。自治体の財政、自治体間の他の分野における連携、 沿線住民の生活圏、自治体が廃線跡地を買収する場合の買収 金額など、跡地利用決定に作用すると思われる様々な要素を 考慮することで、より実情に即した研究となりうる。 【補注】 (1)1995 年 10 月 1 日までは 3)を、それ以降は 4)、5)を参考に集計した。別事業者が引き継 いだ路線については集計をしていない。 (2)道路類とは、本研究では一般道路・遊歩道・自転車道路のいずれかを含む路線をいう。 (3)公営には東京都、川崎市が該当。大手民鉄は大手 16 社。関東の東武鉄道、西武鉄道、 京成電鉄、京王帝都電鉄、小田急電鉄、東京急行電鉄、京浜急行電鉄、東京地下鉄、相 模鉄道の 9 社が該当。これら以外の民鉄を中小民鉄に分類した。 (4)既に計画がある上で譲渡協議を行っている場合、跡地利用決定に分類した。 (5)和歌山県(第 3 種でもともと鉄道事業者)も含む。 (6)固定資産評価基準第 1 章第 10 節三による。 (7)協議済・協議中の自治体を、個別協議・一括協議に分類した。 【参考文献】 1)佐伯裕徳(2006)「地方鉄道廃止の政策過程-ふるさと銀河線を事例にして-」北海道大学 卒業論文 2)今尚之ほか(1999)「旧国鉄士幌線の鉄道土木遺産とその保存活動について」土木史研究 No.19,pp.345-352 3)宮脇俊三(1995)「鉄道廃線跡を歩く」JTB キャンブックス 4)運輸省鉄道局(1995~2000) 「鉄道要覧 平成 7 年度~平成 12 年度」電気車研究会・鉄道 図書刊行会 5)国土交通省鉄道局(2001~2006) 「鉄道要覧 平成 13 年度~平成 18 年度」電気車研究会・ 鉄道図書刊行会
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