CT151973 - H. Tracy Hall Foundation

NISH-M 72-0578
静 水 圧 押 出 し の 押 出 圧 と
潤 滑 状 態 に 及 ぼ す カ ロ 工 速 度 の •
——静水圧押出しの動的拳動I——
株式会社神戸製鋼所中央研究所
)CT151973
西 原 正 夫 • 藤 田 達
山 ロ 喜 弘 • 松 下 富 春
野 ロ 昌 孝
〈塑性と加工 v o l . 1 3
no.134
(1972-3)別刷〉
論
文
静水圧押出しの押出圧と潤滑状態に及ぼす加工速度の影響*
——静水圧押出しの動的挙動I——
西 原 正 夫 * * • 藤 田 達 * *
山 ロ 喜 弘 林 . 松 下 富 春 林
野 ロ 昌 孝 #
Effects 01 Working Speed on the Extrusion Pressure and LuDrication
Dynamic Behaviour and Lubrication in Hydrostatic Extrusion I
by Masao NISHIHARA, Tatsu FUJITA, Yoshihiro YAMAGUCHI,
Tomiharu MATSUSHITA and Masataka NOGUCHI
The effects of various factors such as the pressurization rate, the volume of pressure medium and the
extrusion ratio on stick-slip phenomenon were studied.
Lubricating conditions in hydrostatic extrusion
were also investigated by measuring the contact electrical resistance between die and Dillet when copper
billets were extruded at the fluid pressures up to 15 000 kg/cm 2 .
Affecting factors such as billet speed,
die angle, viscosity of luDricant and flow stress of billet material on continuous hydrodynamic lubrication
in hydrostatic extrusion were theoretically revealed.
BreaK-through pressure decreases with increase of pressurization rate at various extrusion ratio,
but
the break-through pressure is higher than the runout pressure even at higher pressurization rate.
High viscosity pressure mediums are adequate for stabilizing the dynamic behaviour in hydrostatic extrusion.
When castor oil is used as a pressure medium the stick-slip phenomenon disappears at pressuriza-
tion rate over 50 000 kg/cm 2 /min.
Compound angle nosing at billet is effective on reducing the break-
through pressure at lower pressurization rate.
Coating of billet with lubricant such as beeswax is effective
on reducing the break-through pressure over the wide range of pressurization rate.
rluid-iilm lubrication becomes dominant in faster extrusion. This is mainly due to higher fluid pressure than extrusion pressure, which is built up at the entrance of die by wedge action, then developes
the fluid-nlm lubrication.
1 . 緒
静水圧押出しの工業化には安定した性能を有し,維持
曰
が容易な工業用プレスの開発と,静水圧押出し技術の開
压縮応力状態下で金属材料を塑性変形させると,変形
発が必要である.後者において特に押出££を低下させる
能が著しく増大する.この現象は従来の押出しや引抜き
ことと,定常押出しで健全な製品を得ることが重要で,
においてすでに利用されている経験的事実であるが,最
そのために最適なダイス角およびビレツト形状’ ffiカ媒
近塑性加工に高圧の液体を利用し,積極的に圧縮応力状
体ならびに潤滑剤の種類,加工速度の影響を検討しなけ
態を形成するとともに高圧の液体による強制潤滑を行な
ればならない.また静水圧押出しでは大きな圧縮率を有
う方法が試みられている.静水圧押出しはこの分野の1
する液体を介してビレツトを押し出すので,スティック
方法であるが,他の高圧利用の加工法に比較して多数の
基礎実験が行なわれ 1〉 ,工業化の段階に逹している 2) ’ 3) .
*原稿受付昭和46年11月22日
** (株)神戸製鋼所中央研究所,神戸市葺合区脇浜町1-36
178
塑性 4 加工
•スリツプを含む不安定現象を生ずる場合があり,その
安定化は押出材の性質,押出過程の制御,押出装置の耐
久性などの点から非常に重要である.
安定した静水圧押出しに必要な諸条件は押出過程を動
Vol.13 no.134 (1972-3)
的にとらえ,ダイスとビレット間の潤滑状態の動的変化
験を行なった.その第1はビレツトの表面状態と潤滑状
を理解することによって明らかになるものである力5,こ
態の関係を調べるために,メーズ部分の仕上状態を同じ
の分野の研究は少なく,断片的な報告4バ"がみられるの
にし,平行部分を各種のあらさに仕上げたビレットを用
みである.静水圧押出しにおける動的挙動を明らかにす
意し,表面あらさと押出圧の関係を求めた.その第2は
る目的で,押出圧に及ぼす昇圧速度の影響ならびに潤滑
ビレットとダイス間に図2に示すような電気回路を構成
状態とその機構について研究した結果を報告する.
して,ダイスとビレット間の接触電気抵抗を測定し,潤
滑状態に及ぼす加工速度の影響を検討した.
2.実験装置および方法
押出し用素材は工業用純銅でビレットは図3に示すよ
図1に実験に用いた装置の大略を示す.本装置は既報6>
のものと同じで内径30 m m , 最 高 E 力 1 5 000 kg/cm 2 で
うに1段メーズのものと2段メーズのものを用意した.
使用したダイスはすべてダイス全角45度の高速度鋼製
のもので,ダイス穴径は7, 3. 5mmの2種類である.
(a>1段ノ一ズ
�b) 2段メーズ
図3
Fig. 3
ノー ズ形状
Nose shape of billet.
圧力媒体としてはひまし油およびひまし油とメチルァ
ルコールの混合液を用い,圧力媒体が押出し挙動に及ぼ
す影響を比較した.また圧力媒体の容積も押出し挙動に
関係する因子であるので,実験では容器内に円筒(図1
参照)を入れて圧力媒体の容積を調節した.さらにビレ
ット表面にビースヮックスを塗布した場合と使用しなん、
Fig.1
図1実験装置の概略
schematic drawing of experimental apparatus.
場合の2通りの実験を行なつて潤滑剤の影響を検討し
た.
3 . 実 験 結 果
ある.実験中の圧力は容器外壁にはりつけた抵抗線ひず
みゲージで,ステムおよび押出材先端の変位はボテンシ
メータで検出し,同時に自動記録させた.容器外壁の
3
ひずみ量と容器内圧,ポテンシヨメータの出力と変位の
3 •1押出し中のビレットの動き
図4および図5は静水圧押出し時の圧力変化,押出材
先端の変位およびステム変位の代表的な記録例で,図4
関係は実験に先だって較正した.押出しは一定のステム
速度で行ない,そのときの圧力変化,ステム変位,押出
材先端の変位を測定し,これを各種のステム速度でくり
返し行ない加工速度の押出し挙動に及ぼす影響を検討し
た.
また押出し時の潤滑状態を知るために次の2通りの実
図2接触電気抵抗の測定
回路
Fig. 2 Bridge for measurement of contact electrical resistance.
塑性加工
図4スティック•スリップをともなう場合の押出
圧および押出材変位の変化
Fig. 4 Pressure variation and displacement of
product in hydrostatic extrusion with stickslip.
ol.13 no.134 (1972-3)
図5安定した押出し時の押出圧および押出材変位
の変化
Fig. 5 Pressure variation and displacement of
product in hydrostatic extrusion without stickslip.
図6押出圧に及ぼす昇圧速度,圧力媒体の種類,
潤滑剤の影響
Fig. 6 Effects of pressurization rate, pressure
medium and lubricant on maximum extrusion
pressure.
はスティック•スリップ現象をともなう場合,図5は定
常的な押出しの場合である.スティック.スリップをと
もなう場合,圧力は周期的に変動し,それに応じて押出
材も間欠的に移動している.一方,定常押出しの場合に
は押出し開始圧*から急激な圧力降下が生じ,それ以後
の圧力はほぼ一定である.押出材には押出し開始時**に
急な移動が認められるが,その後はほぼ一定速度で押出
しが継続する.図4と図5において昇圧速度に若干の差
があるものの大きく異なる点はgの種類であって,ひ
まし油にメチルアルコールを混合して粘度を小に乙たほ
う(図4)が,スティック•スリップ現象が生じやすい
の表面状態,ビレットのノ一ズ形状などが考えられる.
図6に押出し開始圧に及ぼす昇圧速度,圧力媒体の種
類,潤滑剤の影響を示す.ここで昇圧速度とは押出し開
始直前の単位時間当たりの平均的な圧力上昇割合を示す
もので,つぎのように説明される.圧力と圧媒の体積変
化の関係は実験的に次式で近似できる.
P=P<,{AV/V,y
⑴
ここで,p:圧力,jv:体積変化,V�:大気肝での
の体積,外,r :定数.
ステムの断面積をAs,ステムの速度をひ,製品の断
面積を押し出された製品の長さを2�時間をtで
表示すれば体積変化Jゾは次式で与えられる.
ことを示している.
図4と図5において注意すべき点ft圧力が押出し開始
圧に到達する以前にビレツトは変形しはじめており,移
動速度はビレットの変位曲線のこう配で与えられる.ビ
レットノ 一ズはぁらかじめダイス導入部にほぼ一致する
よう切削してあるので,昇圧過程中でも徐々に押し出さ
れる.このように昇程においてビレツトが移動して
いることは静水圧押出しの押出圧とそれに大きく影響を
AV=AxUt-APz
(2)
式⑴と式⑵から
p=PoVo-r(.AnUt-AEz)T
(3)
押出し開始圧に到達する前にすでに製品が少し押し出さ
れているが,ひiに比べては小さいので式⑶は次
式で近似される.
p=PoVo- T (A R Ut) T
�
式⑷を時間について微分すると定速でステムを押し込む
及ぼす潤滑状態を考える上で重要である.
3 • 2押出し開始圧に影響を及ぼす諸因子
ときの昇圧速度はつぎのように求められる.
^p^-'A^mt'-1
静水庄押出しにおける押出し開始圧の高低ゃスティッ
上式からわかるように昇圧速度はステム速度,ステム断
ク•スリツプを含む動的特性に影響を及ぼす因子として
は,昇Ei度あるいはステム速度,圧力媒体の粘性,圧
縮率および体積,押出比,ダイス角,潤滑剤,ビレット
*,**ビレツトメーズ部が昇E1程において徐々に押し出され
はじめる事実からすれば,押出し開始圧,押出し開始時
の明確な定義は困難であるので,ここでは押出し初期に
みられる最高圧力およびその時点を押出し開始圧ならび
に押出し開始時とした.
180
塑性加工
(s)
面積,圧力媒体の量のすべてに支配される量であって本
報においては動的挙動を把握する一つの尺度として使用
した*林.実験は昇Ei程中のステム速度が一定になる
***速度効果をステム速度のみで論じても特定の条件下では
結果的には大差ないが,圧力媒体の容積’ステムの直径
と圧力容器の内径が異なれば,同一のステム押込量であ
つても容器内圧力は異なるので,ビレットの移動量に差
が生じ,広範囲の特性を把握しにくい.
ol.13 no.134 (1972-3)
ように制御しているので,昇圧速度は一定でない.
図6において押出し開始圧は昇圧速度が大きいほど低
い値になっており,この傾向は圧力媒体の種類,ノ—ズ
形状を変化させた場合でも同様である.圧力媒体の押出
圧に及ぼす影響をみると,いずれの昇圧速度においても
ひまし油を用いた場合のほうが低い圧力になっている.
また圧力媒体にひまし油とメチルアルコ一ルの混合油を
用いた場合,潤滑剤としてビースワックスを用いると,
押出圧は著しく低下し,圧力媒体にひまし油のみを用い
た場合より.低い押出圧になっており,潤滑剤の効果が明
りようにあらわれている.
またひまし油を圧力媒体に用いた場合,昇圧速度が
図8押出圧に及ぼす昇圧速度の影響
Fig. 8 tftect ot pressurization rate on the constant a in the equation p—aHv In R+b.
50 000kg/cm2/min以上になるとスティック.スリ、メプ
現象がみられなくなり安定した押出しが可能になるが,
した値をとり,横軸に昇圧速度をとつて aの値に及ぼす
ひまし油とメチルアルコールの混合油のように粘性が小
昇圧速度の影響を整理した結果である.この図より《の
さL、場合には実験の範囲内で昇圧速度を大にしてもステ
値は昇圧速度に依存し,また押出比6および8の場合と
もに広い昇圧速度範囲にわたつて同一線上にあることが
イツク.スリツプ現象は消滅しなかった.
図 7 は押出し開始圧に及ぼすビレットノー ズ形状の影
わかる.
響を示したものである.ビレットのノ一ズ角をダイス角
引抜きや押出しにおV、て加工速度を速くすれば,潤滑
よりも小さくしたほうが,押出圧が低くなることはすで
状態が良好になるとL、われているが,静水圧押出しにお
いても前述のような押出圧の昇圧速度依存性がある.こ
の事実は潤滑状態の良否を考慮せずして論ずることはでき ない.
図7押出圧に及ぼすノ—ズ形状の影響
Fig. 7 Effect of nosing on relationshio between
maximum extrusion pressure and pressurization
rate.
に報告したの.またビレツトメ—ズ形状を図3に示した
ように2段メーズにすると,押出圧は低下することが報
告されている 75 が,図7からその効果は昇庄速度によつ
図9押出圧に及ぼす表面あらさの影響
Fig. 9 Eftect of surface roughness on steady
extrusion pressure.
て異なることがわかる.すなわち昇圧速度が小さい領域
図9はビレツトの表面あらさを種々変えて押し出した
においては2段ノー ズをつけることの効果が大きくあら
場合の定常押出圧を示す.押出圧は表面あらさが大きい
われるが,大きい昇圧速度領域では通常の1段メーズの
ほうが低くなり,図9の銅で押出比2の場合には
場合と大差がない.
60“のときが最も低い押出圧になっている.製品の表面
押出圧タはビレットのかたさをHハ押出比をi?とす
ればタで示されることは周知であるがこ
こでa,
6はダイス角や潤滑状態に依存するものであつ
て実験的に定められる.押出比がある程度大きい場合に
あらさをビレット表面性状と対応させて図10に示す.製
品はビレットの山の部分が平たん化されておりビレツト
の谷の部分は残存している.またビレツトの表面あらさ
が大きいほうが製品の表面あらさも大きい.
はbはHylni?に比べて十分小さV、ので無視しうるこ
3-3押出し時の潤滑状態
とが多い.図8は縦軸に押出し開始圧を(•?んIn/?)で除
押出し中の潤滑状態を定性的に把握するために,図2
塑性加工
ol.13 no.134 (1972-3)
力変化に対応させて図11,
図12に示す.圧力が押出し
開始ffi近くになると接触電
気抵抗は少しずつ増し,圧
力が押出し開始圧から急激
に下がる途中において最大
の値を示す.その後スティ
ック•スリッブ現象をとも
なう押出しの場合にはスリ
ッブのたびに接触電気抵抗
が増大し,定常押出しの場
合にはほぼ一定の接触電気
抵抗を示しており,ビレツ
図10ビレット表面あらさの比較(押出比2)
Fig.10 Surface profiles along axial direction of billet and product (Extrusion ratio i?=2).
トの移動速度が大きくなれ
ば厚い潤滑膜が形成されて
いることがわかる.これら
の図において押出し開始圧に達する以前にビレットとダ
ィスの接触電気抵抗が増加する事実はノ —ズ部分が圧力
の上昇とともに徐々に押し出され,ダイスとビレット間
に潤滑剤(圧力媒体)が介在する部分の割合が增してい
ることを示している.このことは静水圧押出しにおける
潤滑を論ずる上で重要な知見である.
図13に押し出した材料の先端部および中間部の表面状
態とその部分の直径を示す.写真に認められるように先
端部は比較的なめらかであるのに対し,中間部では切削
加工のマークが明りように残っている.また直径も先端
図11スティック•スリップをともなう場合の押出
圧と接触電気抵抗の変化
Fig.11 Variations of pressure and contact electrical resistance between die and billet during
hydrostatic extrusion with stick-slip.
が3.499mmでダイス径�3.500mm)にほぼ等しいのに
対し中間部では3.488mmになっており,約10ミクロン
細く流体潤滑膜の存在を示している.
図12安定した押出し時の押出圧と接触電気抵抗の
変化
Fig.12 variations 01 pressure and contact electrical resistance between die and billet during
hydrostatic extrusion without stick-slip.
に示した電気回路をダイスとビレット間に構成して,押
出し時の接触電気抵抗の変化を測定した.その結果を圧
182
塑性加工
囡13押出村の表面状態および直径
Fig.13 Surface and diameter of product extruded with boundary lubrication and hydrodynamic lubrication.
ol.13 no.134 (1972-3)
ただし,
4 • 考 察
一般に引抜きや押出しにおいて潤滑剤を使用したとき
には加工速度を速くしたほうが,引抜力あるいは押出圧
圧力容器内においてはみ=、であるから,圧力媒体の
粘性係数が一定であると仮定すると次式がえられる.
产
が低下する.このおもな原因は潤滑状態の速度依存性に
起因するといわれているが,静水圧押出しにおいても図
6に示したように押出し開始圧は著しい速度依存性をも
x=X
⑶
pニであるから定数cが決定されて
:
一 q
ち,また押出し時の潤滑状態は接触電気抵抗の測定結果
か.ら推定すれば,ビレットの移動速度が大であればある
ほど良好である.静水圧押出しではビレツトの周囲に高
㈣
一め
つぎにダイスアブロ —チにおける圧力上昇は式⑶にh
=x tanaを代入すれば求められる.
圧で,粘度の大きい圧力媒体が存在するのでビレツトの
移動にともなって流体力学的に高圧が発生しやすい条件
>
-
を
激
子
-
与
)
⑶
下にあり,以下このような場合の潤滑状態について考察
する.
式(11),㈣においてェ=ェ1:/>=内,x=xt:p=p 2 を代入
し,さらにェ=ェ 2 において办/办=0を仮定すれば
ここで,内は式㈣ょり求められそれを式(13)に代入すると
外ニ外+!^饭飞+雨十レ-^?-)
(X-xi)
tanaj
M
ダイス入口の面圧o t は初等解析に従って近似的に表
わすと
図14流体潤滑状態の静水圧押出し
Fig.14 Hydrodynamic lubrication in hydrostatic
extrusion.
at=<ro+fie
fl5)
ここで,(70は材料の変形抵抗を示す.
ダイス入口において流体潤滑膜が形成されるための必
圧力容器のダイス,ビレツトの位置関係が図14に示す
状態であるとすれば,ビレットと容器壁の間にある圧力
要条件は户2》のニ办+外であるから,式(14㈣より流体
潤滑に必要な限界のビレット速度U c が求められる.
媒体にはビレットの移動速度に応じた速度分布*が生じ,
ダイス入口においてはビレツト後端の圧力よりも高
ひ な m r i + w
い圧力になる.この場合圧力媒体の流れが二次元の層流
+
で横断面上の圧力は一定であり,さらに圧力媒体と容器
(る-合)は-ぷ咖r
1 M
壁およびダイス壁間にすべりが生じないものと仮定すれ
式(16)はIyengarら8>が求めた式と同種のものであって,
ば,つぎのように計算できる.まずすきまがk である 2
上式にfej = oo, A 2 = ( n / r 2 ) A , =
平面間で相対速度がひである場合,y方向の速度uは次
出比を,んはダイス出口の潤滑膜の厚さを示す)を代入
式で求められる.
すると,Iyengarらの式に一致する.式帕には圧力容器
の円筒部分とビレツト間に発生する圧力の項が含まれて
«=+(去)(ゲ-秘べ+ー1)ひ⑷
ここで,P
おり,筆者らのもとで開発した長尺ビレツト用の装置3,
E力媒体の粘性係数,p :圧力
ではこの効果もあらわれて安定した押出しが行なわれて
横断面内の圧力媒体の流量Qは
Q =
-/Rh,(ただし,及は押
いる.
f K 泌
⑵
であって,式(7)を計算し整理すると
式46)から明らかなように流体潤滑を実現するためのビ
レット速度はダイス角ゃ材料の変形抵抗が小さいほど,
また圧力媒体の粘度が大きいほど低速でよい.ビレツト
速度が大であるときには接触電気抵抗で確認されたよう
に流体潤滑が実現されるが,式Mを満足しない場合には
*図示してあるのは_分布の一例にすぎない.
塑性加工
境界潤滑と流体潤滑が混在した混合潤滑状態であるので
ol.13 no.134 (1972-3)
183
静水圧押出しの潤滑機構はビレツト速度がひcより大き
い場合と小さい場合について論じなければならない.
合の潤滑機構についてのベる.塑性加工一般にいえるこ
とは素材表面の凹凸にたくわえられた潤滑剤は加工の進
静水圧押出しにおいて押出し開始圧は定常押出圧より
行とともに工具と材料間に捕捉されて静水圧を生じ,ェ
高くなるが,ノ一ズ角をダイス角よりも小さくすると,
具と材料の直接接触部分を少なくする働きをする 9 こ
押出し開始圧は低くなる.これはつぎのように説明でき
のことは図10に示した結果にも明白にあらわれている.
る.すなわちダイスとビレットの間にくさび状の潤滑剤
また同一の深さの輪状みぞとねじ状みぞをもったビレツ
(圧力媒体)が介在し,さらに昇圧過程において図4,
トの定常押出圧を比較すると前者のほうが低いことを経
5に示したようにビレツトが移動しており,その速度に
験しており,表面状態のちがいによって潤滑剤(圧力媒
応じて流体力学的な圧力が発生して(式M参照),潤滑状
体)の捕捉のされ方に相違があることが推定される.
態を良好にする.またノ一ズ形状を2段ノ一ズにすると
ビレツトは1段ノ一ズの場合よりも同一圧力において長
い距離を移動しているはずであって,式のひが大きく
なりより高い圧力が発生して潤滑が助長されるので押出
乙開始圧は低くなる.一方定常押出し時に一定速度でビ
レツトが動いている場合,その速度はノ—ズ部が徐々に
動いているときの速度よりも大であって,潤滑状態は後
者のほうが良好であると推定される.したがって定常押
出圧よりも高い押出し開始圧が存在することになる.も
ちろんビレツトに潤滑剤を塗布すると摩擦が小さくなる
ので押出圧は全般に低くなるが,その昇圧速度依存性に
ついては上述の場合と同じように説明できるつ ぎにノ ~ズ形状が同一であつても昇圧速度が大であ
れば押出し開始圧は低下する.この場合も同一圧力における ビレット ノ ーズ部の移動量が等しいと仮定すれば,
図16加工による表面状態の変化
Fig. lb Assumed deiormation pattern of billet
surface.
ビレツト表面の凹凸のモデルとして図16に示すような
三角形の山を考える.材料と工具が接した直後において
(a)のように材料と工具の間には押出圧にほぼ等しい圧力
わをもった潤滑剤(圧力媒体)が存在する.つぎに加工
の進行とともに(b)のように山が押しつぶされて平たんに
なり,潤滑剤の占める体積は小さくなるので圧力は外+
Jpに高められる./>e+办の値は変形が進むにつれて大
図15昇圧過程中のビレット速度と昇圧速度の関係
Fig.15 Dependence of billet SDeed on pressurization rate in hydrostatic extrusion.
きくなるので,潤滑剤が存在する部分の材料は工具と直
接接触しなくなつて,工具と材料間の摩擦係数は小さく
図15を用いてつぎのように説明できる.圧力が上昇する
なる.しかしビレットの谷の部分が製品に残存すること
過程においてビレツト変位量がある値のときのビレツト
はさけられない.高圧を用いない通常の引抜きや押出し
速度は図15に示してある曲線のこう配で示されるので,
におレ、ては工具と材料の空間にある潤滑剤の加工前の圧
昇圧速度が大きいほうがビレサ トのもつ速度が大きくな
力は大気圧で,変形によって如'高められて面圧の一部
つて(卢>ダ),ダイス入口における流体力学的な圧力発
をうけもつが,高圧利用の加工前にすでに高い圧力の潤
生による潤滑効果があらわれやすく,その結果押出し開
滑剤が封じこまれるので,当然後者のほうが潤滑状態は
始圧は低下するものと考えられる.
良好になる.
ノ一 ズ部分が徐々に変形する過程やビレット平行部の
押出しでは変形が進むにつれて表面積が増加するの
押出し時でも式㈣で示される流体潤滑に必要な速度U c
で,変形域に潤滑膜を存在させるためにはそれ相応の潤
よりも小さい速度においては混合潤滑であって,その場
滑剤量が必要である.図16に示した三角形の凹部の高圧
184
塑性加工
ol.13 no.134 (1972-3)
の潤滑剤が(C)に示したようにダイス出口で製品の表面に
したように,昇圧速度が大であれば押出し開始圧が低下
htの厚さで均一に付着しているものと仮定してktを求
し,圧力差は小さくなるので押出し開始時の圧力の落ち
めると次式になる.
込み量が少なく,ステム速度がその落ち込み量に追随て-
い
^
!
^
M
ここで’ n :ビレツト半径,厂2 :製品半径,R :押出
きれば定常押出 しができる.このことは図6に示したよ
うにひまし油を用いた場合50 OOOkg/cmVmin以上の昇
圧速度で定常押出しが観察された事実と合致する.
比,丑:凹部の深さ
この式から推定できることは適当な厚さで良好な潤滑
を保っためには,押出比i?とともに表面あらさも大にし
なければならない.春日ら 9) の深絞りを利用した塑性加
ェにおける潤滑状態の一連の研究において,工具と材料
間の空間の容積が小さいほうが潤滑剤が捕捉されやすい
と報告されているが,これは従来の潤滑方法の場合にあ
てはまることであって,静水圧押出しのような高圧利用
の加工法では加工前にすでに高圧の潤滑剤が凹部に存在
するためにある程度表面あらさを大にしたほうが潤滑が
良好になると推定され,このことに起因して図9に示し
たような押出圧と表面あらさの関係が得られたものと考
えられる.式(17)を変形すると
となって,潤滑状態は表面あらさとビレット半径の比//
/r,によっても変化することが推定される.すなわち同
図17流体潤滑に必要なビレット移動速度
Fig.17 Critical velocity of billet for hydrodynamic lubrication (�� Experimental,
:
Calculated).
じ表面あらさのビレットを同一押出比で,同一表面あら
また潤滑状態は押出し開始後の安定な押出しに関係す
さの工具を用いて押し出す場合,ビレット半径nが大
る重要な因子の一つである.ビレツトの移動速度が大に
きいほうがんの値は大きくなつて潤滑が良好になるので
なれば流体潤滑になることは図11,12から明白であって
押出圧が低くなり,いわゆる寸法効果111>を潤滑の面から
その速度は式(16)から計算できる.図17は式(16)を用いダイ
説明することができる.一方加工速度を大にして流体潤
スァプロ一チ部のみの圧力上昇を考えて計算した流体潤
滑が達成される状態で押し出せば,寸法効果はほとんど
滑に必要なビレット移動速度と実験的に定常押出しで流
認められないへ
体潤滑を実現できたときのビレツト移動速度を示したも
ビレツトの移動速度が式(16)で与えられるひcよりも大
ので,実測値は計算で求めた領域内にあることがわか
きくなると流体潤滑が実現される.この状態と押出しの
る.また図17より安定した押出しに必要なビレツトの移
安定化に大きな障害となっているスティック•スリップ
動速度はダイス角力て大きいほど高速になる力、これはェ
現象と関係づけて以下に記す.ズティック.スリップ現
業用大型装置を用いた実験で確認した….
象に影響を及ぼす因子には多くあって,その影響度合も
スティック•スリップ現象は上述のように主として潤
明白でないが,一般的にはその発端が押出し開始時にあ
滑の良否に起因するものであるが,このことのみですベ
ることは明らかである.押出し開始圧が定常押出圧より
ての説明がつくものではない.総合的な解釈をするため
もあまり大きすぎると,ビレツトが押し出されたとき急、
には潤滑状態のほかに加工速度,ビレットの質量,圧力
激に飛び出し,式⑶に示したの値が大きくなり液
媒体の容積,圧力媒体の圧縮率などを考慮に入れる必要
体圧は定常押出圧よりも低くなるので,押出しは一時的
があり,それらに関しては次報にゆずりたい.
に中断されてしまう.これは静水圧押出しではJESS率の
o.
大きい液体を圧力媒体に使用することに起因するもので
あって,ばね系の問題と乙て解析することも試みられて
いる1"-1".
$ロ
a
銅を用いた静水圧押出し実験によって,押出し開始圧
に及ぼす昇圧速度,圧力媒体の種類,潤滑剤およびノー
スティック•スリツプ現象を防止する方法の一つは,
ズ形状の影響を実験的に検討し,また接触電気抵抗の測
押出し開始圧と定常押出圧の差を少なくし,そのあとの
定により静水圧押出し中の潤滑状態を明らかにしてつぎ
押出しに流体潤滑状態を保持することである.図6に示
の結果をえた.
塑性加工
ol.13 no.134 (1972-3)
1)昇圧速度を大にすると押出し開始圧は低下する.
しかしいずれの昇圧速度においても押出し開始圧は定常
押出圧より高い.これは昇_上のビレット移動速度と
ダイスアプローチ部におけるくさび効果を関係づけるこ
とによって説明できた.
2)粘度の大きい圧力媒体は静水庄押出しの安定化に
有効であり,大きい昇圧速度ではスティ.タク.スリップ
現象が消滅する.
8)
参 考 文 献
1)たとえば Pugh, H.L1.D. � Bulleid Memorial Lectures, Recent Developments in Cold Forming, Vol.
ffl B (1965), Nottingham Univ.
2 ) Anon � The Engineer, (Jan., 1966), 59.
3 ) 西 原 . 藤 田 . 山 ロ •松下.野ロ:材料’ 20-215(1971),
918.
4 ) Low, A.H., Donaldson, C.J. & Wilkinson, P. f.
�High Pressure Engng. Conference, I. M. E.,
ノ一ズ形状は1段ノ一ズよりも2段/一ズにした
(1967), 171.
ほうが押出し開始圧の低減に有効であるが,昇圧速度が
5 ) Low, A. H. � NEL Report No. 306, (1967).
大きい場合には1段ノーズの場合と2段ノーズの場合の
6 )西原.山ロ •松下.河本:塑性と加工,10-98 (1967),
149.
差は小さくなる.
4)潤滑剤を用いると広範囲の昇圧速度にわたって,
潤滑剤を使用しない場合の押出し開始圧よりも低い圧力
7 ) Fiorentmo, R. J., Richardson, B. D., Sabroff, A.
M. & Boulger, F. W. � Proc. CIRP Inter. Conference
Manufacturing Tech., (1967), 941.
で押出しができる.
5)昇•上においてビレツトノ—ズ部が徐々に押し
出されていることを確認し,それと押出し初期の潤滑状
態の関連性を明らかにした.
6)昇圧速度を大にして押し出すと流体潤滑状態の押
出しを定常的に実現できることを確認した.また流体潤
滑に必要なビレット移動速度はダイス角,圧力媒体の粘
8 ) Iyengar, H. S. R. & Rice, W. B. � Annals CIRP,17
(1969), 117.
9)春日•山ロ.加藤:日本機械学会論文集,33-252
(1967), 1309.
10)西原•松下:第13回材料研究連合会講演会前刷,(1969)
75.
度,押出比,ビレットの変形抵抗に影響をうけることを
U)西原•藤田.山ロ •野ロ •松下:21回塑加連講論,
(1970), 239,
解析的に明らかにした.
12)久保:材料,20-215 (1971), 945.
7)ビレットの移動速度が流体潤滑に必要な限界速度
U c よりも小さい場合には押出しは混合潤滑状態でなさ
れ,押出圧はビレット表面あらさの影響をうける.
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塑性加工
13) Crawley, ]., Pennell, J. A. & Saundes, A. � High
Pressure Engng. Conference, I. M. E.,(1967), 180.
14)西原•藤田•山ロ •松下•野ロ:昭46春塑加講論,
(1971), 207.
ol.13 no.134 (1972-3)