LC/MS/MSを用いた環境試料中の農薬分析 サーモクエスト株式会社 ○吉仲 希葉子 兵庫県立公害研究所 山本 匡利、中野 武 はじめに 環境庁の内分泌撹乱物質分析マニュアルに指定された 方法を、実際の水質や底質に適用すると、環境濃度レベル 測定には不十分な検出感度と夾雑物による妨害のため、 モニタリング調査自体の限界性を感じる場合がある。 そこで今回は、河川水質、底質のモニタリングを目的 として、ベノミルの分解物であるカーベンダジム(MBC)に 関して、環境濃度レベルが把握できる検出感度と妨害物質 に影響されない選択性を実現するために、ESI法による LC/MS/MS法を用いたng/Lレベルでの分析法を 検討した ので報告する。 LC/MS、LC/MS/MSの分析条件 HPLC : HP1100 カラム:Develosil C30-UG-5 移動相:A=アセトニトリル B=5mM 酢酸アンモニウム A=40%‐15min‐80%(1min) 流速:0.5mL/min サンプル注入量:20μL MS : LCQ イオン化法:ESI(Positive Mode) 加熱キャピラリー温度:225℃ スプレー電圧:4.5kV Sheath Gas:70arb Aux Gas:10arb MS/MS条件 Precursor Ion:m/z 192 相対コリジョンエネルギー:24% MS/MSの有用性 環境分析における二つの必要条件 感度(感度の向上) ・四重極型- SIM技術 ・イオントラップ型-Full Scan感度の向上 選択性(複雑なマトリックスの除去) ・クロマトグラフィーの分離技術の最適化 ・高分解能質量分析計(磁場型) ・タンデムマススペクトロメトリー(MS/MS)による 化学的バックグランドから分析対象物のシグナルを 確認する能力(S/Nの向上)、確実性の向上(プロダクト イオンによるスペクトル) MS/MS の原理 Single Stage Mass Spectrum Isolation Event MS/MS Mass Spectrum Collisional Activation Event イオントラップによるMS/MS 1. Inject 3. Fragment 2. Isolate 4. Detect Collision Energyの検討 1.2 m/z160 m/z192 0.8 0.6 1.2 Relative Area 0.4 0.2 m/z160 m/z192 0.18ppm 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 20 0.0 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 Relative Collision Energy(%) 20 22 24 26 28 30 32 34 36 38 40 Relative Collision Energy(%) 1.2 0.017ppm 1.0 Relative Area Relative Area 1.0 MBC Standard 2ppm 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 20 22 24 26 28 30 32 34 36 Relative Collision Energy(%) 38 40 m/z160 m/z192 MBC標品(2ppm)の分析結果 [M+H]+ 192.1 100 100 Full Scan Mass Spectra Relative Abundance 70 60 58.8 40 30 20 80 20 0 100 NL:3.71E6 MS/MS m/z 192→160 80 60 193.1 74.1 60 40 40 99.5 10 0 Full Scan m/z 192 60 80 20 100 120 140 160 180 200 0 m/z 0 1 2 160.3 100 O 80 HN HN 70 N 60 50 O 40 O 30 HN HN + 20 N 192.1 10 0 60 80 100 120 140 m/z 160 3 4 5 6 7 Time (min) MS/MS Spectra 90 Relative Abundance Relative Abundance 90 50 NL: 1.96E7 80 180 200 8 9 10 11 12 河川水中における分析例 192.1 100 90 80 Relative Abundance 100 Full Scan m/z192 80 60 60 50 40 30 20 10 20 0 99.5 58.8 60 80 100 193.1 113.8 120 140 160 180 200 m/z 0 100 MS/MS m/z160 80 160.3 100 90 60 Relative Abundance Relative Abundance 40 70 40 20 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 80 70 60 50 40 30 12 20 Time (min) 192.2 10 161.6 0 60 80 100 120 m/z 140 160 180 200 底質中における分析例 74.1 192.1 100 90 80 Relative Abundance 100 Full Scan m/z192 80 60 60 57.9 178.5 50 40 104.6 97.1 30 123.9 20 20 10 0 0 100 60 80 100 120 140 160 180 200 m/z MS/MS m/z160 80 160.3 100 90 60 40 20 0 0 1 2 3 4 5 6 7 Time (min) 8 9 10 11 12 Relative Abundance Relative Abundance 40 138.2 70 80 70 60 50 40 192.2 30 20 10 0 60 80 100 120 m/z 140 160 180 200 検量線 Y = -176525+3.36667e+007*X R^2 = 1.0000 70000000 定量結果 60000000 Area 50000000 サンプル 面積値 濃度(ppm) 40000000 30000000 20000000 10000000 0 0.0 0.5 1.0 1.5 濃度(ppm) 2.0 河川水 18870118 0.566 底質 14324366 0.431 MBCのMS/MSによる開裂パターンの推測 -計算化学へのアプローチー O 160.3 HN 100 HN N 90 Relative Abundance 80 70 60 50 O 40 O 30 HN HN + 20 N 192.1 10 0 60 80 100 120 140 m/z 160 180 200 ベノミル→MBCへの反応経路の推測 まとめ MS/MSの効果 マトリックスの影響を抑えたクロマトグラムによるS/Nの向上、 プロダクトイオンによるスペクトルから正確性の向上を図ることができた。 より確実性が高く、高感度の定性、定量が可能。 さらに複雑なマトリックス(食品中など)のサンプルへの 適用が期待できる。 計算化学への期待 今回、ベノミルからMBCへの反応経路については、すでに報告された 反応経路1)を追跡する形になったが、今後、実際の環境水中での 反応についても何らかの知見が得られることが期待できる。 参考文献 1) T.A.Roberts et al, Metabolic Pathways of Agrochemicals,1113-1137 謝辞 本報告に際し、計算化学の分野については 奈良女子大学 理学部 化学科 竹内 孝江先生に ご教授を頂きました。
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