残留農薬の一斉分析におけるデータ解析の客観性確保について 生活衛生部門 Operative Management on the Survey of Pesticide Residues in Agricultural products Division of Food and Environmental Hygiene Abstract In the positive list system, gas chromatography/mass spectrometry (GC/MS) and high-performance liquid chromatography/mass spectrometry (LC/MS) are adopted for analysis of pesticide residues. However, the conventional method has the common problem that compounds are not accurately identified when some of the compound peaks overlap. For accurate compound identification and quantification, handwork analysis of chromatograms is necessary. Meanwhile, the GLP(Good Laboratory Practice) Principles require that all processes must be recorded and reproducible. We discussed operative management of objective analysis of chromatograms in according to the GLP Principles. Key Words pesticide residue analysis 残留農薬分析,GC/MS ガスクロマトグラフ質量分析計, LC/MS 液体クロマトグラフ質量分析計,analysis of Chromatograms データ解析, GLP : Good Laboratory Practice 適正試験所規範 1 はじめに ポジティブリスト制度施行時に厚生労働省が示した残 2 方法 ⑴ GC/MS 測定用対象農薬 留農薬の一斉試験法では,ガスクロマトグラフ質量分析 表1 GC/MS 測定用混合標準溶液 計(以下 GC/MS)及び液体クロマトグラフ質量分析計(以 下 LC/MS)が採用された。GC/MS 及び LC/MS 測定は,時系 名称 メーカー名 列に成分を分離すると同時にマススペクトルデータを収 農薬混合溶液 PL2005 農薬 GC/MS MixⅠ 林純薬 農薬混合溶液 PL2005 農薬 GC/MS MixⅡ 林純薬 農薬混合溶液 PL2005 農薬 GC/MS MixⅢ 林純薬 ュータを用いて自動解析処理を行う必要があるが,通常 農薬混合溶液 PL2005 農薬 GC/MS MixⅣ 林純薬 の測定結果は,複雑にピークが重なり合い,自動処理で 農薬混合溶液 PL2005 農薬 GC/MS MixⅤ 林純薬 農薬混合溶液 PL2005 農薬 GC/MS MixⅥ 林純薬 集するため,膨大なデータ量となる。そのため,コンピ は正しい測定結果を得ることが困難である。したがって, 農薬混合溶液 PL2005 農薬 GC/MS MixⅦ 林純薬 解析者は,画面上で解析結果を補正し,正しく判断する PESTICIDE AccuStandard 社製 必要がある。 PL-11-1 一方,食品分野の検査は,GLP に基づく厳密な精度管 理が要求され,データの解析においても客観性の確保が MIXTURE SOLUTION 上記以外に当所調製混合農薬3種(合計約 520 種, 重複を含む。 )を使用した。 求められる。つまり,画面観察を行う解析者の判断にも, 客観的な妥当性のある基準を設定する必要があるといえ ⑵ LC/MS 測定用対象農薬 る。しかし,残留農薬一斉検査のデータ解析は,コンピ 表2 LC/MS 測定用混合標準溶液 ュータの運用管理に関わる制限の中,限られた情報処理 名称 メーカー名 農薬混合標準液 53 関東化学 そこで,当部門の解析作業の現状について分析し,過 農薬混合標準液 54 関東化学 度な作業負担のかからない効率的な管理基準作成のため 農薬混合標準液 58 関東化学 の基礎データとした。 農薬混合標準液 45 関東化学 農薬混合標準液 55 関東化学 装置で膨大な処理をしていかなければならない。 上記以外に当所調製混合農薬を使用した(合計約 230 種)。 なお,LC/MS 測定対象とした一部の成分は,GC/MS り求めた。 ⑺ 測定条件 測定対象分と重複している。 GC/MS の測定条件は,表4に示すとおりである。質 ⑶ 測定装置 GC/MS:ポラリス Q,サーモクエスト㈱,四重極イオ 量分析部の設定はフルスキャンによる測定で,確認試 験を行う場合は MS/MS 測定を併用する。 ントラップ質量分析装置 LC/MS:LCQ-DECA,サーモクエスト㈱,四重極イオン 表4 GC/MS の測定条件例 トラップ質量分析装置 ⑷ 解析ソフト Xcalibur ⑸ 測定試料と前処理 カラム ENV-5MS,0.25mmID×30m×0.25μm:Cicc. カラム温度 50℃,1 分-25℃/分-150℃-10℃/分-300℃,7 分 注入口温度 PTV:50℃,1 分-14.5℃/秒-260℃ 注入量 1μl 青果物については,QuEChERS 法を応用した方法で前 検出器温度 230℃ 処理を行った。詳細については,別途報告の予定であ MASS 部設定 50~600amu る。 LC/MS の測定条件は,表5に示すとおりである。質 なお,前処理は,下図のような作業手順を定めたチェ ックシートを作成し,検査日ごとに承認者の確認を求 量分析部の設定は,MS/MS 測定を基本とするため,測 定成分ごとに設定した。 めている。 表5 LC/MS の測定条件例 ⑷ 操作 フローチャート(SOP No.4-3-7) ア 試料の準備 カラム Inertsil ODS-3 2.1mmID×150mm 移動相 0.5%酢酸水溶液(A):アセトニトリル(B)のグラジュエント 流速 0.2ml/min 0分 試料の秤量 サロゲートの添加 B=15% - 20 分 B=95% - 30 分 カラム温度 40℃ 注入量 5μl MASS 部設定 Tune Method:ESI-200μl Flow 分析ファイル(MS/MS 又は SIM) 下表にチェックしたサロゲートを・・・ Divert Valve 5 分:To Source,30 分:To Waste ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 月日 担当者 確認者 3 結果と考察 ⑴ 解析作業の実際 試料の秤量 定量メソッドは,グループ別に作成した測定メソッ サロゲートの添加 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ドごとに作成する。GC/MS 測定で標準混液のグループ 数と同じ 11 個,LC/MS 測定で 13 個作成している。解 図1 前処理のフローシート 析対象化合物数は,GC/MS 測定で約 670,LC/MS 測定で 約 230 となり(重複及びサロゲート化合物等を含む。) ⑹ サロゲート化合物の添加と定量値の補正 1 つの試料で約 900 成分の解析を行うことになる。 測定終了後,数人で複数のパソコンを使用して解析 表3 サロゲート化合物一覧 作業を分担する。その手順は以下に示すとおりである。 有機塩素系 α-HCH-d6,pp'-DDD-d4,pp'-DDE-d4 等 有機リン系 MEP-d6,chlopyriphos-d10,EPN-d5 等 ピレスロイド系 esfenvalerate-d7 等 1 定量メソッドの確認(標準データ使用) カーバメート系 thiobencarb-d10 等 2 バッチ処理 3 画面解析による確認(定性) 4 画面解析による確認(定量) 5 レポートの作成 各試料に表3のサロゲート化合物を 0.1μg/g添 加後,前処理を行い試験溶液を調製した。 GC/MS の定量は,サロゲート化合物を用いた内部標 準法により求めた。LC/MS の定量は,外部標準法によ 図2 解析作業のフローシート ア 定量メソッドの確認 定量メソッドは,各標準混液の測定データを用い, リテンションタイム(以下 RT)とマススペクトルの 確認を行う。 波形処理管理表を作成し,その記入作業を解析と並 行して行われている(3)。しかし,この作業は,煩 雑で,解析者の負担が問題となる。 カ 解析結果の報告書 当部門では,オートレポート機能を利用したデー イ 装置のメンテナンス 装置の状態は,使用状況により変化するため,注 入口セプタム,インサート管及びカラムの交換を定 タ解析結果一覧及び検出したピークの解析レポート を作成し(図4参照) ,確認者の承認を得ている。 期的に行う必要がある。これらのメンテナンスは, 検出データのレポートは,未知試料と標準試料の 測定結果にも影響するため,メンテナンス後の定量 クロマトグラム及びマススペクトルを対比して表示 メソッドは,通常より大幅な変更が必要になる。 し,判断結果及び理由を明記したものである。 ウ バッチ処理 確認した定量メソッドを用いて測定データのバッ no06-sw eety 2010/02/13 1:02:26 RT: 9.90 - 11.30 80 標準 70 60 50 40 30 20 9.91 10.01 10.05 10.0 10.5 Time (min) 11.0 NL: 7.64E7 m/z= 199.50-200.50+ 254.50-255.50 F: + c ESI Ful l ms2 [email protected] [ 80.00-307.00] MS no06-sweety 10.57 100 90 Relative Abundance く(図3参照)。この一連の確認作業を 1 回とすると, 228.86 211.03 176.09 100 RT: 9.90 - 11.30 試験溶液 159.13 255.81 274.11 296.80 0 80 試料のマススペクトル及び定量値等の確認をしてい 40 109.12 0 検量線の直線性,検出下限値,試薬ブランク,検出 60 10.74 10.88 11.05 10.17 255.04 80 20 10 解析結果について,画面を見ながら 1 成分ごとに st020 #2180 RT: 10.55 AV: 1 SB: 1 10.31 NL: 6.14E6 F: + c ESI Full ms2 [email protected] [ 80.00-307.00] 200.92 100 70 10.60 10.53 60 50 40 10.04 30 10.08 10.67 10.15 20 10 0 250 300 255.06 100 80 200.93 60 10.5 10.88 11.09 40 176.17 159.24 109.05 210.95 228.94 0 11.0 100 150 Time (mi n) 14 検体の青果物の作業量は,GC/MS 測定で 14000 回 200 m/z 20 10.75 10.24 10.0 150 no06-sweety #2228 RT: 10.57 AV: 1 NL: 7.33E7 F: + c ESI Full ms2 [email protected] [ 80.00-307.00] Relative Abundance エ 画面解析 90 Relative Abundance ッドごとに自動的に結果がまとめられる。 NL: 7.74E6 m/z= 199.50-200.50+ 254.50-255.50 F: + c ESI Full ms2 [email protected] [ 80.00-307.00] MS st020 10.57 100 Relative Abundance チ処理を行う。解析処理されたデータは,定量メソ 200 250 271.94 294.78 300 m/z RT 及びスペクトル一致により検出 及び LC/MS 測定で 6000 回近くになる。 図4 検出ピークのレポート キ 解析作業の経過の記録 波形処理管理表に代わり実行可能なものとして, 定量メソッドの成分ごとの解析条件及び留意点の一 覧表を作成した。そして,一覧表で示した解析条件 で正しく定量出来ないケースに遭遇した時,その内 容を記入することで解析作業経過の記録とすること を考えた。さらに,解析条件の変更を行う原因をパ ターン化出来ないかを考察した。 図3 バッチ処理の解析結果 ⑵ 定量メソッドの変更を考慮する事例 ア 重なりあった標準同士の影響 オ 解析作業の客観性 グループ別に作成した定量メソッドを用いて,他のグ 定量メソッドによるバッチ処理の結果を画面上で ループの標準混液を解析し,特異性及び定量値の正 変更すると Integration Type が自動的に切り替わり, 確性に対する影響を検討した。図5及び6は,RT が データに記録される。Integration Type は3種あり, 一 致 す る metolachor(C15H22ClNO2) と chlorpyrifos Method setting は自動処理,User setting はパラメ (C9H11Cl3NO3PS)のクロマトグラムである。 ータ値の変更,Manual integrate はピークの選択等 metolachor は m/z162,238 を,chlorpyrifos は 197, を手動で行った場合を表す。しかし,自動的に記録さ 286,314 モニターイオンとして選択した。上段及び れるのは,修正の有無と方法のみのため,修正理由 下段のクロマトグラムは,両成分をそれぞれの定量 等は,解析者が記録する必要がある。 メソッドで選択したモニターイオンで観察したもの 徳島県保健環境センターでは,クロマトグラムの である。 c:\docum ents and s ettings \...\pl04 2010/03/29 21:31:42 pl04 # 1104 RT: 14.98 A V: 1 NL: 8.84E5 T: + c Full ms [ 50.00-500.00] 162.2 100 R T: 14.50 - 15.50 NL: 1.34E6 m/z= 161.5-162.5+ 237.5-238.5 F: M S pl04 14.98 100 90 C:\Docum ents and Settings \...\PL01 95 2010/03/29 19:37:56 80 90 RT : 13.98 - 14.61 NL: 6.33E4 14.32 100 85 60 80 80 70 30 65 20 14.64 14.54 0 100 14.72 14.81 15.18 15.06 15.26 15.29 15.38 15.45 NL: 2.12E5 m/z= 196.5-197.5+ 285.5-286.5+ 313.5-314.5 F: M S pl04 14.98 90 80 Relative Abundance 60 14.90 10 238.1 25 40 20 30 15 20 10 10 5 14.8 14.9 15.0 Time (min) 15.1 15.2 15.3 15.4 14.12 14.20 14.39 267.0 50 169.1 30 281.08 354.94 415.01 475.02 NL: 1.45E5 PL01#1028 RT : 14.28 AV: 1 T : + c Ful l m s [ 50.00-500.00] 265.02 90 80 70 60 60 50 40 40 30 20 250.05 20 268.1 10 179.1 91.3 14.07 281.0 100 150 10 241.1 73.2 50 200.08 78.15 0 100 50 30 146.2 246.01 40 109.14 NL: 3.97E5 m/z= 249.50250.50+ 266.50267.50 F: MS PL01 14.30 70 196.1 124.1 0 15.5 60 14.47 80 96.2 15.43 70 10 14.09 0 100 240.1 15.29 80 20 10 90 50 15.17 15.19 30 40 30 15.04 40 20 225.1 45 60 14.91 50 NL: 2.37E4 PL01#1034 RT : 14.33 AV: 1 SB: 1 14.30 T : + c Ful l m s [ 50.00-500.00] 262.97 90 14.57 50 35 14.83 60 55 70 14.70 14.72 14.52 0 14.5 14.6 14.7 70 R elativeAbundance R elativeAbundance 75 40 100 m/z= 262.50263.50 F: MS PL01 90 50 200 250 341.0 357.0 385.1 300 350 438.5 400 450 14.18 14.39 0 460.4 476.1 14.0 14.1 14.2 500 14.3 14.45 14.4 14.5 125.11 207.15 14.59 281.11 0 14.6 100 200 300 340.97 401.09 488.97 400 500 m /z T i m e (m i n) m/z 図8 同一グループで RT が重複する農薬 図5 metolachor のクロマトグラムとマススペクトル (上段:parathion_methyl,下段:tolclophos_methyl) C:\Docum ents and Settings \...\PL01 2010/03/29 19:37:56 R T: 14.50 - 15.50 P L01# 1114 RT: 14.99 A V: 1 N L: 1.71E5 T: + c Full ms [ 50.00-500.00] N L: 4.26E5 m/z= 196.5-197.5+ 285.5-286.5+ 313.5-314.5 F: M S P L01 14.99 100 90 80 313.9 100 197.0 95 図8は,同一標準混液にある parathion_methyl 90 Relative Abundance 70 85 60 80 50 と tolclophos_methyl のクロマトグラムとマススペ 75 40 70 257.9 30 65 315.9 20 Relative Abundance 60 10 14.57 0 100 14.72 14.77 14.91 14.80 15.09 15.10 15.17 15.41 15.45 15.23 N L: 7.48E3 m/z= 161.5-162.5+ 237.5-238.5 F: M S P L01 14.99 14.57 90 80 クトルである。両成分で共通するm/z79 及び 125 55 285.9 50 45 210.0 40 を外すことで分離定量している。 97.0 70 35 14.82 60 30 50 25 215.0 14.83 40 他の定量メソッドで検出した成分は,表6に示す 20 14.72 171.1 169.1 15.09 30 15 317.9 15.21 14.92 20 10 15.23 10 15.14 14.60 0 14.5 15.39 5 180.1 134.2 91.2 15.50 246.0 109.1 125.1 65.1 15.30 355.1 221.1 357.1 0 14.6 14.7 14.8 14.9 15.0 Time (min) 15.1 15.2 15.3 15.4 15.5 50 100 150 200 250 300 350 403.1 429.3 441.2 400 475.1 450 500 m/z 32 成分であった。 図6 chlorpyrifos のクロマトグラムとマススペクトル 表6 共通のフラグメントイオンを有する不分離成分 両成分共どちらのモニターイオンでもピークとし 成分名 m/z 成分名 て観察できる。metolachor のモニターイオンを 238 Naled(Dibrom) 127 dicrotophos のみにすると,chlorpyrifos をピークとして検出す salithion(Dioxabenzofos) ることはない(図7)。同様に,chlorpyrifos のモニ 78 promecarb Thiometon (246) HCB(249) Terbufos (231) Terbutylazine(229) ターイオンを 314 のみにすると,影響を小さくする Tolylfluanid_metabolite ことができる。 cyromazin r-BHC metolachor | NL: 1.34E6 14.98 100 m/z= 161.50162.50+ 237.50238.50 F: MS PL04 90 80 70 60 50 40 30 20 0 100 NL: 4.23E3 m/z= 237.50238.50 F: MS PL01 90 80 70 14.83 60 40 30 15.06 15.08 15.18 NL: 8.17E2 14.98 m/z= 313.50314.50 F: MS PL04 80 70 14.98 15.00 15.07 NL: 1.71E5 14.99 m/z= 313.50314.50 F: MS PL01 90 80 fonofos fonofos(109) disulfoton parathion_methyl 197 303 trans_chlordane oxyfluorfen 252 pp_DDE_d4 op’_DDT 15.16 14.87 14.91 0 100 97 79,125 b-BHC(219) fenamiphos Chlorpropylate 15.09 109 metolachor TCMTB 50 10 14.81 90 Edifenphos phosalon chlorpyrifos 252 pp_DDE_d4 75,139 nitrofen 235 pp’_DDD (309) 182 Quinoxyfen(310) triticonazole 70 60 60 14.91 50 50 15.01 40 40 15.06 15.18 30 30 15.09 20 10 RT : 14.79 - 15.19 14.82 100 20 14.90 10 tolclophos_methyl 2010/03/29 19:37:56 RT: 14.79 - 15.19 (214) (111) isazophos chlorpyrifos Relative Abundance C:\Documents and Settings\...\PL01 Relative Abundance Relative Abundance 70 14.84 14.86 20 10 0 0 14.8 他の標準グループの定量メソッドにある成分を含 14.93 14.9 15.0 Time (min) 15.1 14.82 14.8 14.87 14.91 14.9 15.08 15.0 15.13 15.17 15.1 Time (min) 図7 モニターイオン 238 と 314 のクロマトグラム 定量用フラグメントイオンが重複していない場合 でも,近辺に同位体パターン又は水素の脱離等による フラグメントイオンが存在する可能性があり注意が 必要である。 有する試験溶液を解析する場合は,留意する必要があ る。 イ 測定成分の RT の変動 観察した。ピーク面積の変動率は,得られたデータ の範囲(最大値-最小値)を平均値で除し%で表示し 450 た。図 11 に変動率の区分と成分数のヒストグラムを 400 示す。GC/MS 測定及び LC/MS 測定ともに変動率は大 350 きく,測定ごとに検量線を引き直す必要があった。 また,変動率の大きい成分は,もともと感度の低 300 250 いものが多く,測定できなかった場合を含んでいる。 200 ⑶ 解析を妨害する要因 150 ア カラムの劣化 100 RT 変動の一因として,カラム,注入口及びインサ 50 ート管の劣化によるピーク形状の非対称化が考えら 0 ~1% ~2% ~3% ~4% ~5% GC/MS ~10% ~50% ~100% 101%~ れる。 LC/MS 図 10 は,上段が 2,6-dichlorobenzamide,下段が 図9 RT の変動率と成分数 phorate のクロマトグラムで,それぞれ左側が劣化 したカラム,右側は新しいカラムのデータである。 平成 21 年 6 月~平成 22 年 4 月に測定した標準混 劣化したカラムでは,2,6-dichlorobenzamide は 液のデータを用い,成分ごとの RT の変動を観察した。 ピーク幅が広がり大きくテーリングしているが, GC/MS は 1ppm,LC/MS は 0.5ppm の標準混液を対象 phorate はカラム劣化の影響は観察されない。 とした。RT の変動率は,得られたデータの範囲(最 また,新しいカラムでは,両成分のピークは分離 大値-最小値)を平均値で除し%で表示した。図9に しているが,劣化したカラムでは,両成分の RT が重 変動率の区分と成分数のヒストグラムを示す。 なっている。両成分は,m/z75 が共通しているため, GC/MS 測定は,年間を通して2%以下の変動率の 劣化したカラムでは phorate の定量用イオンから 75 成分が大半を占めた。LC/MS 測定は,10%~50%の を除くと分離定量することが出来る。 変動率を示すものが多い結果となった。 LC/MS 測定は,MS/MS データを採取する成分が大半 左:劣化したカラム を占めるため,測定時間を区切り(以下セグメント 2,6-dichlorobenzamide, という)1 セグメント内に4~8個の測定条件(以 C:\Docu m ents and Se ttings \...\PL 06 RT : 下イヴェントという)を設定している。そのため, RT : NL : 2 .70 E4 m /z= 1 72 .5 0 1 73 .5 0 + 1 88 .5 0 1 89 .5 0 F: M S PL0 6 95 90 85 1 1.8 7 90 85 75 75 1 1 .8 8 70 1 1.9 0 65 65 1 2 .06 60 55 50 1 1 .92 45 1 1.9 8 60 55 50 45 40 40 35 35 30 30 25 25 20 20 1 2 .1 1 15 11 .8 1 15 1 2 .1 6 10 1 2 .3 4 10 11 .5 8 5 0 1 1 .4 1 1.6 6 5 11 .8 1 2 .0 T i m e (m i n ) 1 2 .2 1 2.4 1 1 .8 1 2 .0 RT : 1 2 .4 1 12 .4 1 2 .59 1 2 .6 2010/03/09 7:31:05 RT : 1 1 .4 0 - 1 2 .40 NL : 1 .39 E5 m /z= 7 4.5 0 7 5.5 0 + 2 12 .5 0 2 13 .5 0 F: M S pl 0 1 1 1.8 7 95 ウ 測定成分のピーク面積の変動 90 85 NL : 1 .1 4 E5 m /z= 7 4 .5 07 5 .5 0+ 2 1 2 .50 2 1 3 .50 F: M S p l 01 1 2 .1 6 95 90 85 80 75 75 70 70 65 R e la tiv e A b u n d a n c e R e la tiv e A b u n d a n c e 1 1.7 0 - 1 2 .7 0 100 80 65 60 55 50 45 40 60 55 50 45 40 1 2.0 2 1 1.7 3 35 35 30 30 25 25 20 20 15 15 10 10 5 350 1 2.2 T i m e (m i n ) phorate c:\docum en ts an d s ettin gs \...\pl01 100 400 12 .1 5 11 .8 7 0 11 .6 なお,カラム交換後は,GC/MS 測定においても変 動率が大きく,RT の確認を行う必要がある。 NL : 3 .7 7 E5 m /z= 1 7 2 .50 1 7 3 .50 + 1 8 8 .50 1 8 9 .50 F: M S p l 06 1 2.0 3 95 80 70 確認し,セグメントの調整を行っている。 1 1.7 0 - 1 2 .7 0 100 80 R e la tiv e A b u n d a n c e ないと測定できない。実際,測定ごとに RT の変動を 2010/03/09 10:40 :5 4 1 1 .4 0 - 1 2 .40 11 .5 3 100 R e la tiv e A b u n d a n c e RT の変動に合わせてセグメントの区切りも変更し 右:新しいカラム 1 1 .55 0 1 1 .4 5 1 2.0 5 1 1 .6 3 1 2.1 0 12 .2 8 1 1.8 4 1 1.9 4 1 2 .2 2 1 2.3 4 12 .5 4 1 2.3 7 1 2 .57 0 11 .6 11 .8 1 2 .0 T i m e (m i n ) 1 2 .2 1 2.4 1 1 .8 1 2 .0 1 2.2 T i m e (m i n ) 12 .4 1 2 .6 図 10 カラムの劣化により生じた不分離ピーク 300 250 200 しかし,カラム劣化の影響を受けピーク形状が崩 150 れた場合は,カラム交換をして再測定することが基 100 本である。 50 0 10 100 1000 GC/MS 10000 次の級 LC/MS 岡村嘉之4)らの報告によると,トリアゾール系農 薬等は,装置の汚染に強く影響を受けにくいが,有 機リン系農薬,カーバメート系農薬,イプロジオン及 図 11 測定成分のピーク面積変動率 びイミダゾール等は汚染の影響を受け易い農薬とし ている。 平成 21 年 6 月~平成 22 年 4 月に測定した標準混 液のデータを用い,成分ごとのピーク面積の変動を イ バイアルのセプタム(GC/MS 測定) 図 12 のクロマトグラムは,同一のバイアルビンに 溶媒を入れ,繰り返し GC/MS で測定をしたものでる。 のは比較的容易である。よく観察されるイオンは,73, 左側がアセトニトリル,右側がアセトン:n-ヘキサ 191,207,208,209,281m/z等である。 ン(1:1)混液で,上段が 1 回目,中段が 3 回目, 下段が 5 回目の測定結果である。 C:\Documents and Settings\...\septum-A-H 2010/03/08 23:17:07 2010/03/08 22:39:07 11.66 22.15 23.66 25.26 40 7.34 20 10.77 18.03 11.97 0 80 60 40 7.34 22.28 23.76 25.19 8.86 20 10.46 11.67 15 20 25 10 15 Relative Abundance 80 60 22.75 25.35 27.87 11.67 7.34 8.86 19.93 11.98 18.03 0 NL: 2.00E6 TIC F: M S aceto nhexane03 80 60 40 20 20.79 8.86 10.46 11.98 16.99 19.01 15 20 25 10 15 Time (min) Relative Abundance 60 20 7.34 22.57 24.93 26.58 8.86 20.78 11.66 11.97 19.01 0 100 Relative Abundance NL: 2.00E6 TIC F: M S acenito 01-05 80 80 73.09 74.55 NL: 2.00E6 TIC F: M S aceto nhexane01-05 60 20.78 21.63 22.61 11.98 40 13.38 15 20 Time (min) 10 147.28 191.16 100 NL: 1.03E6 septum-A-H#1379-1453 RT: 16.81-17.40 AV: 75 T: + c Full ms [ 50.00-500.00] 401.09 461.02 NL: 1.18E6 septum-A-H#2195-2270 RT: 23.26-23.86 AV: 76 T: + c Full ms [ 50.00-500.00] 428.96 295.11 267.14 200 369.00 300 461.04 400 500 m/z 25.21 18.03 15 474.89 221.26 74.25 0 428.91 NL: 1.67E4 septum-A-H#321-384 RT: 8.32-8.83 AV: 64 T: + c Full ms [ 50.00-500.00] NL: 2.30E4 septum-A-H#722-764 RT: 11.54-11.88 AV: 43 T: + c Full ms [ 50.00-500.00] 428.98 355.07 281.20 図 13 セプタム由来成分のマススペクトル 20 25 355.11 341.18 221.25 147.31 191.10 50 10.46 400.99 281.22 73.47 0 10 147.13 83.12 340.98 267.04 73.22 7.34 8.86 488.85 281.05 50 25 414.92 207.08 0 100 Time (min) 100 85.12 22.62 24.81 27.73 20 401.01 428.93 488.96 207.08 177.09 251.05 0 100 0 100 281.06 267.03 281.06 327.02 50 7.34 0 10 40 25 100 Relative Abundance NL: 2.00E6 TIC F: M S acenito 01-03 100 20 20 Time (min) Time (min) 40 19.93 18.04 354.95 207.07 73.08 50 0 10 0 100 73.10 105.15 135.15 20 25 Time (min) C:\Documents and Settings\...\septum 図 12 セプタム由来成分(左:AcCN,右:Acetone:hexane=1:1) 2010/03/25 17:26:19 RT: 0.00 - 26.77 25.51 NL: 6.06E7 100 特にアセトン:n-ヘキサン(1:1)混液でセプタ ムからの溶出成分が測定回数を増すごとに増加して いくことが確認できる。 図 13 にセプタム由来成分のマススペクトルを示 す。下段ほど RT が遅いデータである。74uごとにフ ラグメントイオンが出現し,[O―Si(CH3)2]の特徴 Relative Abundance 80 70 60 17.12 2.33 50 40 7.45 10.09 3.39 80 23.32 12.24 19.49 30 septum#1229-1270 RT : 25.02-25.83 AV: 21 F: - c ESI Ful l ms [ 85.00-500.00] 90 20.75 10.78 70 60 50 117.13 40 30 20 20 10 10 0 100 0 100 223.21 195.07 NL: 4.16E8 2.31 T IC F: + c ESI Ful l ms [ 85.00500.00] MS septum 90 80 3.37 70 4.02 60 8.12 50 8.65 473.31 468.22 NL: 9.39E6 septum#1160-1188 RT : 23.62-24.15 AV: 14 T : + c ESI Ful l ms [ 85.00-500.00] 424.20 70 60 50 380.15 363.12 23.95 40 283.16 13.31 15.55 405.36 80 11.16 12.22 30 429.29 294.92 90 25.49 9.26 4.95 40 NL: 4.06E6 238.99 100 T IC F: - c ESI Ful l ms [ 85.00500.00] MS septum 90 Relative Abundance 60 NL: 2.00E6 TIC F: M S aceto nhexane01 100 Relative Abundance Relative Abundance 80 Relative Abundance NL: 2.00E6 TIC F: M S acenito 01-2 100 50 NL: 3.22E4 septum-A-H#1-25 RT: 5.75-5.94 AV: 25 T: + c Full ms [ 50.00-500.00] 267.03 100 aceton-hexane01-05 30 19.67 88.06 20 327.16 195.06 20 10 10 0 0 0 5 10 を示した。 15 20 25 100 200 300 400 500 m/z Ti me (mi n) 図 14 LC/MS 測定時のセプタム由来成分 表7にセプタム由来のピークの影響が見られた GC/MS 測定対象農薬(119 成分)の一覧を示す。 から検出するという結果を招き,manual integrate で逐一スペクトルを確認していく必要がある。 バイアルビンに保存している試験溶液を再測定す ると,セプタム由来成分の妨害が増大する。再測定 をする場合に備え,試験溶液は,少量ずつ小分けし aceton-hexane01 2010/03/08 17:35:39 aceton-hexane01 #2168 RT: 23.96 T: + c Full ms [ 50.00-500.00] AV: 1 NL: 1.27E5 207.06 100 90 80 70 R elativeA bundance セプタム由来の影響は,解析結果であらゆる試料 60 50 40 281.03 30 20 191.11 73.08 10 133.09 91.11 267.01 340.97 224.94 177.13 295.03 387.03 415.07 0 50 100 150 200 250 300 350 400 463.24 450 489.01 500 m/z てバイアルビンに移すことが望ましい。 ウ バイアルのセプタム(LC/MS 測定) 図 15 ポリイミド由来のマススペクトル 図 14 のクロマトグラムは,アセトニトリルにバイ アルセプタムの小片を入れた溶出液を LC/MS で測定 をしたものである。 右側の上段がポジティブモード,下段がネガティ ブモードのクロ マト グラムで 左側 はそれぞれの RT23~25 近辺のピークのスペクトルである。LC/MS は,セプタム由来の溶出成分の妨害が少ない結果と なった。 エ キャピラリーカラムからのポリイミドの溶出 GC/MS のキャピラリーカラムからは,ポリイミドの溶出 が観察される。しかし,溶出量は,カラム槽温度に依存 しており,モニターイオンの選択でその影響を除去する ⑷ まとめ 解析作業の客観性確保のために,従来の検出データ レポートに加え,測定成分すべての解析経過記録の作 成を目指した。しかし,作業量は膨大で,実行可能な 内容にする必要がある。 そこで,波形処理に影響を及ぼす妨害要因を明らか にすることで出来るだけ定量メソッドの変更を少な くし,記入内容の定型化を試みた。 しかし,GLP に基づく業務管理は,ゴールのない膨 大な作業の繰り返しであり,効率化という名目の抜け 道は存在しないといえる。単調な作業の中に新たな発 見を求める持続力が求められる。 4 参考文献 ⑴ 京都市衛生公害研究所年報,74,121-127(2008) ⑵ 残留農薬検査における業務管理について:徳保環セ年 報 No.18 9-17,2000 ⑶ 残留農薬検査における業務管理について(その3) : 徳保環セ年報 No.25 7-9,2007 ⑷ ポジティブリスト制度残留農薬一斉分析における農薬の 挙動評価:岡村嘉之他 島津評論 Vol.65 No1-2,2008 表7 セプタム由来イオンに共通の定量イオンを持つ成分一覧 Compound Name Compound Name セプタム由来 Compound Name セプタム由来 セプタム由来 2_(1_naphthyl)acetamide 141 diafenthiuron-urea 254 monocrotophos 192 acephate 136 dichlocymet_1 221 monocrotophos 164 acrinathrin 289 dichlorvos 145 monolinuron 61 aldicarb-sulfone 143 diclobutrazol 270 myclobutanil 150 171 allidochlor 56 dicofol 251 naproanilide aramite 191 dieldrin 263 oxabetrinil azaconazole 217 diethofencarb 267 oxadixyl 73 163 azamethiphos 215 difenoconazole_1 265 pendimethalin 281 azinphos_methyl 132 difenzoquat_methyl_sulfate 234 pentoxazone 285 azinphosethyl 160 dimepiperate 145 perthane 223 bromacil 207 dimethylvinphosZ 295 phorate Bromoconazole_2 295 dinoseb 166 phosphamidon 264 bromophos_ethyl 359 dinoterb 177 piriminobac-methylE 302 bromopropylate 341 diofenolan_1 300 propachlor 211 captan 149 diphenamid 239 propamocarb 188 carbophenothion 342 dithiopyr 286 propetamphos 194 carboxine 225 DP 154 propham 179 carfentrazone_ethyl 312 endosulfan-a 241 propham 179 chlomethoxynil 266 endosulfan-b 237 propiconazol_1 259 chlorbufam 223 fenpropathrin 265 prothiofos 267 chloretoxyphos 263 fluazifop_butyl 282 pyraflufen_ethyl 349 chlorfenvinphos(a) 267 fluridon 328 pyridaphenthion 340 chlorfenvinphos(b) 267 flutoranil 281 pyrimidifen 184 chlorpyrifos 286 flutriafol 164 pyriproxyfen 136 cinidon_ethyl 358 fluvalinate_1 252 quintozene 237 cis_nonachlor 409 furametpyr_metabolite 296 spirodiclofen 312 cloroneb 191 HCB 284 Swep 187 CNP 287 heptachlor_epoxide_A 353 tecnazen 203 Cyanofenphos 303 Imazalil 173 tefluthrin 177 cyflufenamid 312 indoxacarb_mp 150 tepraloxydim_DMP 213 175 75 cyfluthrin_1 163 iprobenphos 204 tepraloxydim_OH_DMP cyhalofop_butyl 357 iprodion 314 terbacil 117 cyhalothrin_2 197 isoxathion_oxon 297 tetradifon 356 cypermethrin_1 163 linuron thiometon 125 d-BHC 219 methamidophos tolclophos_methyl 267 dcip 77 deltamethrin di_allate_2 253 86 methoprene metominostrobin_Z 61 141 73 191 triallate 268 tricyclazole 189 metominostrobin_e 238 triflumizole 73 diafenthiuron 279 mevinphos 192 triticonazole 299 diafenthiuron-methnimidamide 251 molinate 55
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