平成18年度 3年生冬学期木曜 SIM応用プロジェクト(後半) 奥田グループ イントロダクション: 狭義の計算力学からソフトコンピュー ティング、マルチエージェントシミュレー ションへ 科学と技術のための3つの方法 実験 理論 計算 実験と理論 ガリレオ 実験や観測を駆使して多くのことを発見 それ以来、研究者たちが望遠鏡、顕微鏡、加速器などを 使って自然を観察し、さまざまな法則を発見してきた ニュートン 理論的な方法により多くの業績 理論研究の目的は、自然界において発見された法則性・ 規則性から、物理変数間の関係を方程式で表現すること 逆に、理論が提案され、後になって実験的手法によりそ れが実証されることもある 力学現象は微分方程式で表現される このようにして力学現象を表現するための微 分方程式が世に現れた。 例えば 物体の運動 ニュートン方程式 電磁波 マックスウエル方程式 水の流れ ナビア・スト-クス方程式 実験と理論というアプローチの限界 実験が困難となる局面 原子力開発や細菌を使う実験 →危険をともなう 地域や宇宙を対象とするような極めて大規模な実験や逆 にナノテクなど極微な世界の実験 →膨大なコスト 理論では解ける問題が限られる 紙と鉛筆 →単純な方程式しか解けない 方程式を単純化すると、実際の現象とはかけ離れて実用 性に欠ける。 「計算」の登場 20世紀後半、「計算」科学技術という第3の方 法がコンピュータの発達によって誕生 実験、理論では扱えなかった複雑な問題でも 計算機実験(コンピュータシミュレーション)で 解が得られるようになった 具体的には、微分方程式をコンピュータで解 きやすい形に変換した後、それを解く ・偏微分方程式の並列計算 研究と応用 ・スーパーコンピュータ利用技術 ・基盤産業分野,地球環境への適用 連続体の力学 運動の記述 質点系→剛体系→連続体 f x 保存則 大きさをもつが変形しない 変形しながら運動 質量保存 運動量保存 エネルギー保存 これらを考慮して、気体/液体/固体の様々な 物理現象の微分方程式が導出される 例)流体の動きを記述する微分方程式 質量保存 運動量保存 u1 u2 u3 0 x1 x2 x3 u1 u1 u1 u1 1 p 2u1 2u1 2u1 u1 u2 u3 ( 2 2 2 ) f1 t x1 x2 x3 x1 x 1 x 2 x 3 u2 u2 u2 u2 1 p 2u 2 2u 2 2u 2 u1 u2 u3 ( 2 2 2 ) f 2 t x1 x2 x3 x2 x 1 x 2 x 3 u3 u3 u3 u3 2 u 3 2 u3 2 u3 1 p u1 u2 u3 ( 2 2 2 ) f 3 t x1 x2 x3 x3 x 1 x 2 x 3 エネルギー保存 2 2 2 T T T T T T C (T u1 u2 u3 ) ( 2 2 2 ) q x1 x2 x3 x1 x2 x3 これらの式から u1 , u2 , u3 , p , T (速度3成分、圧力、温度)を求める コンピュータで連立1次方程式を高 速に解く 人間の手計算ではせいぜい数元の連立1次 方程式しか解くことができないが、コンピュー タを使うと何百万元、何千万元といった大規 模な連立1次方程式でも比較的容易にかつ 高速に解くことができる。 計算力学が応用される分野 構造、流体、熱、電磁場、音響場など 機械・構造物・自動車・航空宇宙・船舶・半導 体・材料などの工業製品の設計・製造 地震、津波、気象、公害など自然環境評価 バイオ・医療分野 ナノ物質解析 ソフトコンピューティング 計算力学と知識工学との融合 ソフトコンピューティング (知識工学的手法) ファジィ Fuzzy 思考過程(あいまいさ) ニューラルネットワーク Neural Network 脳細胞 遺伝的アルゴリズム Genetic Algorithm 生物の進化過程、創発 計算力学との融合 計算力学(狭義) 基本方程式を境界条件と初期条件のもとに解く 可能性のさらなる追求 「製品の性能評価」から「設計の最適化」へ 計算力学+ソフトコンピューティング 最適化や逆問題を効率的に処理できる →やわらかい計算力学 最適化 目的関数を制約条件のもとで最小(または最 大)にする 例)等周問題 (答)円 長さ一定(制約条件)のひも 囲む面積(目的関数)が 最大となる形は? 最適設計 自動車のフレーム構造設計 十分な強度 衝突時には,フレームを変形させて乗員のダメー ジが少なくなるようにエネルギーを吸収 複数の要求を総合的に満足する設計変数 (形状,寸法など)を最適化によって決定する 数理的手法 →線形計画法など,何度も設計 変数を変更して再計算する必要 目的関数 xk-1 xk 設計変数 目的関数を最小化する方向に x を修正する 目的関数 局所的極小 大域的極小 設計変数 逆問題 震源情報の同定 各地に置かれた地震計の波形データから,震源 データ(位置や規模)を求める トンネル壁面のはく離 ハンマーの打診音から,はく離位置を推定 すいかの味 たたいたときの音から,甘みやおいしさを推定 順問題 基本方程式, 境界条件 解 逆問題 基本方程式, 解 境界条件 補助情報 数理的手法 →未知パラメータ(境界条件)に ついて初期値から出発し,反復的に修正する 最適化と逆問題 逆問題では,推定解と真の解(あるいは観測 値)との誤差を反復的に最小にする →逆問題は最適化の一種 “複雑”な系 鳥や蟻の群行動、社会経済、人体 複雑系の特徴 自律分散制御である 各要素間の局所的な相互作用の仕方は極めて単純 創発性を持ち、その結果、システムとして大きな付加価値を得ている 創発の概念 Ueda lab. RACE, UT 要素還元的ではないアプローチの必要性:“部分の総和≠全体” 「部分から成り立つはずの全体を理解しないと部分が理解できない という循環に向かい合う」 (金子、池上、“複雑系の進化的シナリオ”、朝倉書店、1998) マルチエージェント・シミュレーション 多数の自立した主体からボトムアップにシステムを 構成する手法 システムを構成する個々の要因をエージェントとし、 エージェントを自立的に行動させ、システムの挙動を シミュレートする エージェント: 「環境の状態を知覚して、考え判断し、行動を行うことによって、 環境に対して影響を与えることの出来る自立的主体」 (堀宗朗、2005) エージェントに対してルールを与える 例1)鳥の群れシミュレーション (C.E. Reynolds, 1987) Boids(Bird-oids:鳥ロボット)の群れ 個々の鳥に対して動作を指令するような統治者はいない 単純な3つのルール 近すぎる仲間と離れ、衝突を回避 周りと速度を合わせる 群れの中心へ向かおうとする 例2)分居シミュレーション (T.C. Schelling, 1969) 地域社会の中で2種類の人間集団が分居する現象 ルール 個々の居住者(〇および※)は他の人種に対する許容値を持つ 同類が自分の周囲に許容値より多く住んでいれば“満足” そうでなければ不満により引っ越す
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