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行動分析学実習:その(9)
特別支援教育と行動分析
080810 日本行動分析学会第26回大会(横浜国立大学)
特別講演から
ブログ:「対人援助学のすすめ:日々是新鮮」
内容
Ⅰ.特別「支援」と行動分析学の親和性
Ⅱ.個別の教育支援計画(IEP)
・現状の問題
・言語行動としてのIEP作成行動の機能化
Ⅲ.IEPの「聞き手」の明確化
当事者のサポーターだが学校内部者ではないセク
ターの設定:学生ジョブコーチ(RSJC)
Ⅳ.企業との連携を通じてのIEPの機能化
Ⅰ.親和性
従来の考え方
●障害別(インペアメント)中心のグルーピングと
対処
●個人的単独能力(アビリティ)をボトムアップし て、障
害の克服をはかる(障害のない状態に近づけ る)
1.親和性
●地域社会の中で他ならぬ一人として存在する個人へ
●学校・地域などを含めた環境設定との関係や、その環
境変更を伴う「行動」(できる:山本)を対象とする
1.親和性
「支援」の機能とは?
「援助つき行動成立」の実現
治療・教授
個人の行動(反応)形成
援助
行動成立のための
新たな環境設定
援護
援助設定の定着のため
の要請(言語行動)
Ⅰ.親和性
行動分析学との親和性
• ほかならぬ一人の当事者と環境との関係の上に行動が
成立する(援助・援護が不可欠)
• 「援護」:それは当事者の「できる」の条件を含んだ支援者
の言語行動(mand)である。
「行動の増減自体は価値的な意味を持たない・・・・
関係者の行動の増減に関する言語行動の中に意味(つま
り成功や失敗)が存在するのである」
(出口光,1987.『行動修正のコンテクスト』)
言語行動としての当事者の行動の表現や評価が問題
Ⅱ.個別の教育支援計画(IEP)
• 京都では「個別の包括支援プラン」
発行:京都市総合養護学校
2005.2.22
京都市の教育計画(平成18年度)朝野、西総合支援学校
京
都
市
特
別
支
援
学
校
「
個
別
の
包
括
支
援
プ
ラ
ン
」
流
れ
図
山中2008
評価の整理と
情報の保存
「現在の姿」
情報把握
現在の姿 記入
授業・支援の
評価妥当性判断
「短期目標と指導
場面」設定・記入
授業・支援の実施状況
及び効果の評価
「現在の姿」
短期目標と指導場面
妥当性判断
「三者の願い」
内容把握
三者の願い 記入
「長期目標」
設定・記入
長期目標
妥当性判断
授業・指導の実施(データ収
集・グラフ作成を含む)
「長期目標と短期目標の関連」確認・記入
実行プログラム
妥当性判断
実行プログラム作成
「年間指導計画(指導期間
設定)」作成・記入
「長期目標と短期目標の関連」
妥当性判断
指導方法選定とユニット編成
「指導方法選定とユニット編成」の妥当
性判断
問題点
• 研修から(個別学校研修・教職大学院GP)
①「能力」のボトムアップではなくなったが、
「長期-短期-実行プラン」が、適応的(パッシ
ブ)でトップダウンかつ「管理的」(??)
②環境設定こみの「できる」の条件ではなく、
生徒個人の「能力」が記され、
長期計画-現状能力=課題 になりがち
③ 行動分析学的表現(ABC)
『くどいもんですね』(受講者感想)
Ⅲ.IEPの「聞き手」の明確化
• IEPという「言語行動」の機能化をはかる
• 「できない」ではなく、「できる」という言語行動(個別
の生徒の援助設定・教授方法の提案:mandであり
「援護」行動でもある)
を、どのように強化したらいいのか?
随伴性(聞き手)の配置:
「できる」言語行動としての報告を分化強化
するセクターとの連携作業
学生ジョブコーチシステム(SJC)
学生ジョブコーチ
総合支援学校(養護学校)の生徒の就労実習、
卒業生、地域に住む障害のある成人を対象に、「行動
分析学」の基礎知識と技術を持った学生が対象者と
共に事業所(企業)に入り、求められる
作業をより容易にするための支援を行う。
仕事内容
1.事前の業務・課題分析
2. 「ジョブコーチ」(直接支援)
3.課題分析・機能分析
4. 対応(直接支援)
5.企業・学校への提案
当初の目的
1) 行動分析系あるいは対人援助系の学生に
対する教育的方法として:
「援助・援護・教授」の全ての機能が求められ
る。説得力のあるデータ呈示(表現)が必要と
され、その修得のための場
2) 総合支援学校(養護学校)の就労実習の際
の人手不足に「助っ人」
●大学(学生)固有の社会的貢献
養護学校
実習先企業の
指定と作業要請
を受ける
大
学
実習先職場
SJCの人選:
インストラクタと補
助(VTR・記録)
SJCによる先乗り
調査
作業体験、作業範
囲検討、作業内容
VTR撮影
資料作成:業務分析表(「課題分析」原案)、作業内容のDVD化
プレゼンテーション:
当該職場での業務分析
JCミーティング
JCメンバーの情報共有・
システム改善の意見交換
SJCと養護学校教員に
よる実習生徒に関する
情報を職場へ提供
個別の生徒に対する課
題分析の精錬
現場支援行動記録・教授
実習生徒と職場のマッチン
グ、保護者との意見交換
援助設定同定
現場支援の記録、報告に
ついて討論
現場での援助設定の
提言 援護
学校と生徒自身から
の ア ン ケ ー ト
養護学校への報告プ
レゼン:学校内での当
該生徒の「教授内容」
に対する提言など
実習終了後
生徒の実習に関する
総括作業:レポート作成
職場からの生徒とSJC
に対する評価
RSJCの作業流れ図(望月,2007)
第一号 学生ジョブコーチ(立命館生協)
R大学生協(書籍部バックヤード)における2004年
度SJCの様子:太田ら(2005)
秒
ベースライン期
フォローアップ期
介入期
6.0
1200
枚
分類
食器洗い
1000
5.0
食器直し
各項目の平均
800
総皿数
4.0
600
担当者の
各項目平均
3.0
400
2.0
200
1.0
0
16
17
18
19
20
23
24
25
26
27
30
31
1
2
3
6
7
8
9
10
日付
これでも「援護」可能
獲得過程の記録例:表記(作業効率)
高津ら(2006) 学生ジョブコーチシステムという試み(2) ―養護学校生徒の飲食店
実習援助における学生ジョブコーチの役割.日本行動分析 学会発表論文集,24,50.
RSJC事例:機能分析の例
• 太田隆士ら(2006)
学生ジョブコーチシステムという試み(3):仕事遂行メタス
キルの獲得.日本行動分析学会年発表論文集, 25,51.
ユースホステルの清掃作業において、
●頻繁に教員・職員に仕事の確認をする
●仕上げがいまいち
機能は?
援助設定としてのチェック表
表1
作業 チェック表
名前 月 日
けしょう
すい
月 日
月 日
月 日
月 日
月 日
月 日
いどう
化粧水などを移動する
おわった
おわった
かくにん
かくにん
JC のかくにん
カガミをふく
JC のかくにん
おわった
おわった
かくにん
かくにん
JC のかくにん
JC のかくにん
せんめんだい
洗面台をふく
おわった
おわった
かくにん
かくにん
JC のかくにん
けしょう
すい
JC のかくにん
なら
化粧水などを並べる
おわった
おわった
かくにん
かくにん
JC のかくにん
JC のかくにん
報告回数
A条件(作業チェック表無し)
20
報
告
回 15
数
B条件(作業チェック表あり)
(
2
時 10
間
当
た 5
り
)
0
9日目
10日目
11日目
12日目
13日目
14日目
図1 B 君からJCへの報告・ 確認行動の推移
15日目
作業日数
• B君の報告・確認行動は、図1のチェックリストが無いと
きは平均18回であったが、B条件でチェックリストに自分
で記入するようになったら平均4回に減少した。
課題達成率
100%
90%
80%
70%
60%
B条件「チェック表有」
50%
40%
30%
A条件
20%
10%
4日
目
5日
目
6日
目
7日
目
8日
目
9日
目
10
日
目
11
日
目
12
日
目
13
日
目
14
日
目
15
日
目
目
3日
目
2日
1日
目
0%
図3 B君の課題達成率
○ B条件ではA条件と比較してB君の課題達成率が上昇した。これはB君
自身 が確認することを促す作業チェック表を用いることで、作業の完成度
が高くなった ためであると考えられる。
事例:スケジュール表とマニュアル導入による
自律的作業遂行の獲得(行動分析学会2008、p.35
目的
業務内容や順序が毎日異なる職場で、不要な報告・確認行
動が多く見られる生徒に対して、作業手順や作業の自己評価
を可能にするスケジュール表とマニュアルを導入し、その効果
を検討することを目的とした。
方法
実習期間 200X年10月24日から11月9日
対象生徒 N総合支援学校1年生S君
実習場所 R大学書籍部バックヤード
実験デザイン
ABAデザインであった。
従属変数
■作業の正反応率、報告・確認言語行動、積極的行動
(自発的な作業準備と環境整備行動)
独立変数
■ スケジュール表(11月1日~8日)、
■S君専用マニュアル(10月31日~11月9日)
スケジュール表
●
加算き(店員さんとレシートを
作る)
2
検収入力(伝票番号をパソコ
ンに入力する)
3
返品作業(書籍)
5
返品作業(文庫)
8
返品作業(雑誌)
11
POS外入力
15
本棚のせいり
16
昼休み
帰宅
マニュアル
マニュアルとスケジュール表の効果
・作業終了の判断と次の作業への移行を職員からの指示に
よって行っていたものが、マニュアルとスケジュール表の導入
により自律的に行動し、報告・確認行動が減少したと考えら
れる。
・上記の結果から、今回の「援助設定」により、自ら作業を進
行することが可能になったことが示唆された。
両実験を通じて、
①学校教育における生徒の「指示依存」を強化する教授から、就
労場面での「自律」に向けての転換のプロセスが不明瞭
②「身につける」教育方針が、自律に向けての援助ツールの使用
や教授要求行動の獲得を阻害している?
SJCから学校への情報移行
• 繰り返しのあるJC支援から、当該生徒の
(・・があれば)「できる」情報の蓄積可能
• SJCと学校で生徒の「評価」の食い違い
情報移行(あるいは共有)の必要性
そういえば「個別の包括支援プラン」がある!
京
都
市
特
別
支
援
学
校
「
個
別
の
包
括
支
援
プ
ラ
ン
」
流
れ
図
山中2008
評価の整理と
情報の保存
「現在の姿」
情報把握
現在の姿 記入
授業・支援の
評価妥当性判断
「短期目標と指導
場面」設定・記入
授業・支援の実施状況
及び効果の評価
「現在の姿」
短期目標と指導場面
妥当性判断
「三者の願い」
内容把握
三者の願い 記入
「長期目標」
設定・記入
長期目標
妥当性判断
授業・指導の実施(データ収
集・グラフ作成を含む)
「長期目標と短期目標の関連」確認・記入
実行プログラム
妥当性判断
実行プログラム作成
「年間指導計画(指導期間
設定)」作成・記入
「長期目標と短期目標の関連」
妥当性判断
指導方法選定とユニット編成
「指導方法選定とユニット編成」の妥当
性判断
PDCAの CA が手薄
アセスメント
長期プラン
評価 C
(プランの)
実行プラン
実践遂行 D
短期プラン P
Ⅳ.企業との連携を通じてのIEPの機能化
●中小企業家同友会のSJCへのコメント:
「おたくらは、生徒の全員就労を目指しているの
か? それともQOLの拡大を目指しているの?」
(就職させればそれでいいの?)
●某市内大企業の人事担当
「完成した人間を期待しているわけではない。当
事者への『教え方』のノウハウを教えてほしい。
なるほど!
FA宣言とキャリア・アップ
• 総合支援校の生徒は、FA宣言をした野球選手の
ようなものである。
• 総合支援とは、選手のキャリアアップをはかる作業
である
• 個別の包括支援プランとは、「選手」を高く売り込
むための、そして異動後のキャリア・アップを促進
する「売り込み書類」である
キャリアアップ
• 本来、就労的な概念であるが、行動的にとらえ
なおして、
キャリアアップとは;
=行動的QOLの拡大
=「発達」
=正の強化で維持される行動の選択肢の拡大
「できる」の継続的プロセス
(最重度の障害があってもキャリアアップ)
就学期
キ
ャ
リ
ア
ア
ッ
プ
の
変
遷
今
実践
移行支援
上方修正(キャリアアップ)
実践からの確認
時間(年月)
就労
ふりかえると?
• 目標(ノルマ)があり、それに不足した部分を
「課題」として残す: ×から○
• 「何ができるか」は記録しても、どうやったら
(何があれば)それができるようになったか、
という継続的で実証的記録に乏しい
• 「できやすくする」ように、自分で環境を変える
スキルを学校内で組織的にはあまり教えない
• 「生徒を伸ばして」世間に送ることが使命?
支援プランの書き換え作業
• 支援プランの書き換え:
○学校でどれほど生徒の「できる」を丁寧に辿って
きたかの証明である。
○支援者自身、保護者、そして移行先の関係者が、
当該生徒に対して、
さらなるキャリア・アップのための行動を
勇気づけるもの(出口,1987)でなくては
ならない。
増殖加速キャリアアップ
• 「個別の包括支援プラン」の書
き換え
(上方修正:キャリアアップ)
往復作業頻度拡大を
はかるには?
• 実践遂行と、新たな
「できる」のコンテンツ集積
授業・実習実践・保護者情報など
あらゆる活動
プラン更新数
更新項目の内訳
「現在の姿」/「短期目標」
数量的データ数 実証的データ数
報告1
0
―
0
0
ケースA 報告2
0
―
0
0
報告3
11
8/3
0
0
ケースB 報告1
0
―
5
3
報告1
0
―
3
1
ケースC 報告2
0
―
0
0
報告3
0
―
0
0
山中(2008)から
DCAのプロセスを無理やり
ファシリテートしようとした
が・・・・
A-0版でのプラン「書き換え」作業
「聞き手」からたどるIEP言語行動
• 「個別の教育支援計画」(IEP)は言語行動で
ある。
• 空間的な地域社会との連携ではなく、生徒の
「キャリア・アップ」(トップダウンではない)とい
う時系列的なプロセスにかかわる機能的存
在として地域セクターの成員をとらえる。
• IEPという言語行動を機能化するために必要
な「外部者」との連携が必要
京都における障害者雇用のための援助等関係機関
京都府社会福祉協議会
京都市
きょうとNPOセンター
ハローワーク
求職
障
害
者
SJC
総合支援学校(養護学校)
求人
障害者就業・生活
支援センター
トレー
ニング
企
業
?
?
ジョブ
コーチ
助成金
京都
障害者職業センター
京都府高齢・障害者
雇用支援協会
坂東敏和(2008):デュアルシステム・パネルディスカッション資料
『障害者就業・生活支援センターの役割』から、望月が追記・改変
特別支援教育と行動分析学
特別支援教育とは、障害の軽重や種別にかかわらず、個別の
生徒の「できる」(山本淳一、参照)を、環境刺激(=支援:援助・
教授)との関係として表現し、その表現されたものが、聞き手(読
み手:これはその支援者自身であることもある)における、さらな
る支援を勇気づけ、次の「できる」を実現できるようにするための
システムである。
行動分析(学)とは、そのような「できる」表現を追求し、それが
当該個人の継続的な「できる」支援につながり、正の強化を受け
る行動の選択肢が拡大(=キャリア・アップ)するように、支援者
の行動や環境をマネジメントする具体的手続きを、生徒を支援
する対人援助者が、実証的に探求する行動(方法)である。
立命館大学学生ジョブコーチ(RSJC)
●太田和宏・陸敬曄・望月昭.(2005).大学、養護学校、大学生協が連携した「学生
ジョブコーチシステム」の試行.日本行動分析学会発表論文集,23.93.
●望月 昭・太田和宏・陸敬曄.(2006).学生ジョブ・コーチシステムという試み
(1)学生がジョブコーチを行う意味.日本行動分析学会発表論文集, 24,49.
●高津周平・望月昭.(2006).学生ジョブコーチシステムという試み(2)
―養護学校生徒の飲食店実習援助における学生ジョブコーチの役割.日本行動分析
学会発表論文集,24,50.
●太田隆士・稲生ゆみ子・松田光一郎・望月昭.(2006).学生ジョブコーチシステム
という試み(3) 仕事遂行メタスキルの獲得.日本行動分析学会年発表論文集, 25,
51.
●飯田智子・橋本俊之・稲尾ゆみ子・望月 昭.(2006).学生ジョブコーチシステム
という試み(4)-実習ノートの書式による記述内容の変化-.日本行動分析学会
発表論文集,24,52.
●松田光一郎・望月昭.(2007).養護学校生徒における接客スキルの形成―メモリー
ノートを用いた支援の試み―.日本行動分析学会発表論文集,25,47.
●丹生卓也・崔希柄・望月昭.(2007).養護学校生徒の就労実習場面における
金銭管理.日本行動分析学会発表論文集,25,86.
□望月昭.(2007).学生ジョブコーチという試み―学生による障害者(生徒)の
就労実習支援システム.立命館文学,599,134‐140.