H: 化学平衡 2006年11月27日 単位名 学部 :天体輻射論I 大学院:恒星物理学特論IV 教官名 中田 好一 授業の最後に出す問題に対し、レポートを提出。 成績は「レポート+出欠」でつけます。 授業の内容は下のHPに掲載されます。 http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html 休講:12月4日、1月15日、1月29日 H.1.化学平衡 a1A1+a2A2+ a3A3+ ….= ΣajAj=0 例 H2-2H=0 HーH+-e=0 水素の解離 水素の電離 CO-C-O=0 一酸化炭素の形成 最初の例では、a1=1, A1=H2, a2=-2, A2=H である。 nj=n(Aj)=Ajの数密度 を求める問題を考えよう。 孤立系(エネルギーU、体積V、粒子数Nが一定)では、エントロピー極大が平衡に対 応するが、温度T,圧力Pが一定の環境では、ギブスの自由エネルギー G=U-TS+PV =ΣμjNj が 極値をとる。(μjは j-種粒子の化学ポテンシャル) 上の反応では、1回の反応でΔNj=ajの変化が起きるから、dR回では、 dNj=ajdR。そこで、T,P一定下での化学反応(Niが変化)を考えると、 dG=-SdT+VdP+ΣμjdNj= ΣμjdNj= (Σμjaj)dR=0 したがって化学平衡の条件は、 Σajμj=0 j kT ln 一般に、気体の化学ポテンシャルμjは、 nj nQ , j Z in, j nj=Nj/V= Ajの数密度(個/cm3)、 nQ、j=(2πmjkT/h2)3/2=Ajの量子密度(個/cm3)、 Zin,j=Σexp (-Ein,j/kT)=Ajの内部状態分配関数 である。 前節の平衡条件、 a j j 0 に上のμjの式を代入すると、 a ln n a ln n j nj aj nQ j j Z in j a aj j K T j Qj Z in j (質量作用の法則) 粒子の内部自由エネルギー Fin は、内部分配関数 Zin と Fin=-kT ln Zin =-kT ln[Σexp (-Ein/kT)] で結ばれているから、 Πnjaj=Π[nQjνj exp(-aj Finj/kT)] と書く場合もある。 例1: 励起準位 Ai-Aj=0 下図のような、j 準位と i 準位の間の遷移を反応の一つと見なす。 a i =1, Zi=gi exp(-Ei/kT), aj =-1, Zj=gj exp(-Ej/kT) この場合、 Zi ,、 Zj の表式に∑記号がないことに注意。 さらに、 nQ=(2πmkT/h2)3/2=共通なので、質量作用の法則を書き下すと、 Πnjaj= ni1nj-1 Π[nQjaj Zinjaj ]= [nQi1 Zini1 ] [nQj-1 Zinj-1 ] = Zini1 Zinj-1 E exp i ni g i kT g i exp Ei E j nj g j kT Ej g j exp kT 特にj=0(基底状態)の時、 g E ni n0 i exp i kT g0 =励起原子の数密度 統計重み 数密度 gi ni gj nj go n0 Ei Ej 例2: 水素の(第1励起/基底)比 n1 8 10.15eV exp no 2 kT 5040 51156 10.15 4 10 T 4 10 T g1=8 n1 E1=10.15eV n1 51156 log10 0.602 T no n0 g0=2 log(n1/no) 0 T<10000K(A0より晩期型星) では、log(n1/no)<-5で大変 -2 小さいことが分かる。 T=85000Kで n1=no となり、 -4 T∞では n1/no=4 に接近す -6 0 る。 T=10000 A0型 T=42000 T=30000 O5型 B0型 1 2 3 (51156/T) 4 5 例3:ボルツマンの式 (Boltzmann’s formula) ある原子の総数密度を n とし、うち基底状態にno、第1励起状態にn1、第 2励起状態にn2,...あるとする。 n=no+n1 +n2 +...である。 前節の例1で示したように gi Ei ni no exp go kT なので E1 E2 E3 Z go g1 exp g2 exp g3 exp ... kT kT kT n no n1 n2 ... n n E E o go g1 exp 1 g2 exp 2 ... o Z go kT kT go したがって、 Ei exp kT ni n gi Z とすると、 g2 E2 g1 E1 go E=0 例4: 水素原子の電離 H++e-H=0 (I=inization energy) 内部エネルギーの相対的な値の決め方には注意がいる。 自由電子と陽子の内部エネルギーをそれぞれ0とする。 すると、中性水素 原子の内部エネルギーは ‐Ⅰ となる(基底状態のみ考えている)。Ⅰは電離 エネルギーで水素では13.6eVである。 電子のスピン上向き、下向きの2状態を考えるので、(原子核の方は無視) 電子とH原子のZinには2が入ってくる。 H E : + + e 0 0 g : 1 2 Zin : 1 2 ー nQ : (2πmHkT/h2)3/2 (2πmekT/h2)3/2 H = 0 -I 2 2 exp(I/kT) (2πmHkT/h2)3/2 nj aj nQ j j Z in j a aj K T (質量作用の法則)を前頁の電離に適用する。 H(中性水素原子)を I 、 H+(水素イオン)を II と表すと、 1・HII+1・Ee-1・HI=0 aII=1, a(e)=1, aI=‐1 だから、質量作用の法則は、 nII ne nQ, II nQ, e Z in, II Z in, e nI nQ, I Z in, I 3 2 mII kT 2 me kT 2 2 h h 2 2 mI kT 2 h 3 2 3 2 2 me kT 2 2 I exp 3 I h kT 2 exp kT nII ne 2 me kT 2 I exp 3 nI h kT 3 3 : サハの電離式 (Saha equation) 例5: 水素分子の解離 2H-H2=0 電離の時とは違って、今度は水素原子の内部エネルギーを0とする。すると、 水素分子基底状態の内部エネルギーは-Dである。Dは解離エネルギー (Disociation Energy)で、水素ではD=4.47eVである。 2H ー H2 = 0 E : 0 -D(-4.476eV) g : 2 4(S=0 ortho,1 para) Zin : 2 4 exp(D/kT) nQ : (2πmHkT/h2)3/2 a(H)=2、 (2π2mHkT/h2)3/2 a(H2)=-1 であるから、質量作用の法則は、 1 2mH kT 2 2mH kT 2 2 nH D exp 3 3 nH 2 h h 4 kT 2 32 2 32 mH kT 3 2 exp h3 D kT H.2.サハの式 (Saha equation) 原子の電離度はサハの式によって決まる。 ni,0= i 回電離イオン基底状態の数密度 ni+1,0= (i+1) 回電離イオン基底状態の数密度 ne= 電子の数密度 Ii,0 = i 回電離イオン基底状態からの電離エネルギー とすると、 ni 1,0ne 22mekT 3 2 gi 1,0 I exp i ,0 ni ,0 gi ,0 kT h3 ni= i 回電離イオンの数密度(基底状態+励起状態) ni+1= (i+1) 回電離イオンの数密度(基底状態+励起状態) に対しては、上式を少し変えた以下の式が成立する。 Ii ,0 ni 1ne 22mekT 3 2 Zi 1 exp 3 ni Zi kT h Zi=Σgi・exp(-E/kT)(=i回電離イオンの分配関数) は前出のZinと同じ 水素原子の電離に関しては、 nH ne nH 32 2me kT exp h3 I kT n(e)が全てHから供給されている必要はない。 実際、低温環境では電子はアルカリ金属(Na,K)の電離が主な 供給源である。 しかし、高温になると水素の電離で作られる電子が圧倒的となる。 すべての電子が水素から供給されている場合、n( H+)=n(e)なので、 ne nH 1 3/ 4 2 m kT e 2 exp h3 / 2 I 2 kT exp(‐I/2kT)の因子がボルツマン型のexp(‐I/kT)と異なることに注意。 例1: 水素のみから成る星の大気 早期型星大気でのガス圧として、 log Pg(erg/cm3)=3.5 と仮定する。 サハの式をガス圧 P=nkT で 表 し て 、 Z II 1 nII ne 2 me kT 2 I exp 3 nI h kT 3 PII Pe kT 2 me kT 2 I exp 3 PI h kT 3 ZI 2 (励起状態を無視) Pe=PII、Pg=PI+PII+Pe を代入すると、 log10(PII2 / PI) = -13.6(5040/T) + 2.5 logT-0.48 2 PII 68544 log10 2.5 log10 T 0.48 Pg 2PII T (kT ) B0 B0 T A0 30500 PI NII/NI G0 K0 9500 7500 6300 5350 177.5 1.17 0.0137 1.07E-4 1600 590 60 6.6 0.58 0.0083 1980 3040 3150 3160 1.9×105 0.30 0.020 0.0021 1.8×10-4 1 0.23 0.02 0.0021 1.8×10-4 PII2 / (Pg – 2×PII) 3.0E8 PII (erg/cm3) F0 NII/(NI+NII) 0 -1 N II log10 N I N II -2 B0 A0 K0 -3 -4 4.5 4.0 log T 3.5 例2 バルマー線 (Balmer lines) 強度と星のスペクトル型 バルマー線は水素原子主量子数 n=2 i (=3, 4, ...)への吸収線である。 n=3 したがって、星のバルマー線強度はn1が大き くなるほど強くなる。混乱しやすい慣用法なの で注意しておくが、n1の1は第1励起状態の1 で、主量子数はn=2である。 H.1.例2の計算から n1/n0 を見てみると、 Hα線 n=2 n=1 下のように温度が高くなると急に大きくなる。 スペクトル型 B0 表面温度(K) 30,500 n 1/ n 0 A0 9,500 F0 G0 K0 7,500 6,300 5,350 0.083 1.64E-5 6.00E-7 3.01E-8 1.09E-9 n1/n0はB0型ではA0型の5000倍になる。 では、バルマー線は高温度星ほど強いであろうか? n3 n2 Hβ線 n1 n0 NH= NI + NII NI1 NII NI 電離平衡 NI0 ボルツマン分布 (励起) 主系列星大気の総ガス圧を、log10Pg(erg/cm3)=3.5 と仮定し、 星の有効温度を log10T(K) =3.5、3.6、...、4.5とする。 この時に、log10(NI1/NI )、 log10(NI/NH)、 log10( NI1/NH) がどう変わるだろうか。 PI=水素原子の分圧、PII=水素イオン(陽子)の分圧とおくと、 Pe=PIIであり、サハの式は以下のようになる。 2 log10 PII 68544 2.5 log10 T 0.48 A Pg 2PII T まず、 Pg=103.5 に対し、 上の式を解いてPIIを求め、 次に、 PI =PII 2・10-A から PI を決める。 次に、 NI1/NI =g1exp(-E1/kT) / [g0+ g1exp(-E1/kT) +…] ≒ 4・exp(-E1/kT) / [1+ 4・exp(-E1/kT)] NI/NH= PI/PH =PI/(Pg- PII ) NI1/NH =( NI1/NI )・( NI/NH ) を計算して次ページの表を得る。 logT 3.5 3.6 3.7 3.8 3.9 4.0 4.1 4.2 4.3 4.4 4.5 A -13.405 -8.697 -4.906 -1.843 +0.640 2.665 4.325 5.695 6.834 7.791 8.602 1581 PII 1.11E-5 2.52E-3 0.198 6.72 113 832 1526 1578 PI 3149 2936 1498 110 5.02 3162 3162 3162 1581 1581 0.366 0.0404 6.25E-3 Log(NI1/NI ) -15.685 –12.380 –9.779 –7.737 -6.133 -4.871 -3.877 -3.092 -2.472 -1.981 -1.592 Log(NI/NH) 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.016 -0.192 -1.172 -2.500 -3.635 -4.592 -5.403 Log(NI1/NH) -15.685 -12.380 -9.779 -7.737 -6.149 -5.063 -5.049 -5.592 -6.107 -6.573 -6.995 水素(原子+イオン)中の第1励起原子の割合 0 Log(NI/NH) Log(NI1/NI ) -5 Log(NI1/NH) -10 スペクトル型 M K G F A B -15 3.5 logT 3.6 3.7 3.8 3.9 4.0 4.1 4.2 4.3 4.4 4.5 Hβ Hβ Hα Hα H.3.電子の供給源 恒星大気の温度が高い時には、大量に存在する水素の電離が自由電子の供給 源となる。しかし、低温になると水素の電離度が下がり、電子を供給できなくなる。 そうすると、存在比は水素より小さいが電離エネルギーが小さくて電離しやすい アルカリ金属が電子供給の役割を担うようになる。 種族IIの星のように低金属量の星では低温でも依然として水素の役割が大きい。 高温大気 低温大気 水素イオン 水素原子 水素 電子 アルカリ 金属 アルカリ金属イオン アルカリ金属、Li, Na, K, Sc,..、電離エネルギーが低い。 存在比は小さいが、電離しやすいので、Te < 5000 K (K型より晩期 ) では KとNa が電子の主な供給源である。 電離エネルギー 30 He 電離エネルギー 25 Ne 20 Ar 15 H 10 B 5 Li Na Al K 0 0 5 10 15 原子番号 20 25 30 そこで、簡単なモデルで大気中の電子がどのくらい存在するかを調べてみよう。下 図の実線は主系列星大気の典型的な(τ≒0.6)ガス圧である。 電子供給源として、水素HとナトリウムNaのみを考え、それぞれが独立に電子を出 した時どこで役割が入れ替わるかを計算してみる。元素組成は、NH:NHe:NNa= 1:0.1:2×10-6 とする。 5 主系列星大気のガス圧 Pg の 表面温度 Te による変化 log10Pg (erg/cm3) 4 3 3.6 3.8 4.0 4.2 log10Te(K) 4.4 水素が電子供給源の場合 PH=PHII+PHI とおくと、 PHe=0.1PH Pe=PHII Pg=Pe+1.1PH なので、 したがって、 PHI=PH-Pe=(Pg-Pe)/1.1-Pe=(Pg-2.1Pe)/1.1 圧力で書いたサハの式は、Pg=Pe+PHII+PHI+PHe を用いると、 PePHII 1.1 Pe2 68534 log10 log10 2.5 log10 T 0.48 A PHI Pg 2.1Pe T 前ページのグラフとPg=Pe+PHII+PHI+PHe から上の式を解くと、 温度 Pg(erg/cm3) A Pe (erg/cm3) 4000 100000 2.450×10-9 0.015 5000 85000 1.144×10-5 0.94 6000 62000 3.478×10-3 14.0 7500 17000 1.170 134.4 10000 1300 462.4 419.6 25000 1900 5.929×107 904.7 NHI 電子がNaから供給されるとき Naの電離エネルギーは5.14 eV と低い。Na存在比が低いので、PgへのPeの 影響は考えなくてよい。したがって、PNa=PNaI+PNaIIとし、 PNa=Pg×2×10-6/1.1 PNaII=Pe PNaI=PNa-Pe に注意して、サハの電離平衡の式をNaに対して書くと、 PePNaII Pe2 25905 log10 log10 2.5 log10 T 0.48 B 6 PNaI 1.8210 Pg Pe T Pg(erg/cm3) B 4000 100000 111.9 0.182 0.182 5000 85000 3858 0.155 0.155 6000 62000 44450 0.113 0.113 7500 17000 567100 0.031 0.031 10000 1300 8.501×106 0.0023 0.0023 25000 1900 3.011×109 0.0034 T PNa (erg/cm3) 0.0034 Pe (erg/cm3) どの場合もNaが完全電離としての解、Pe=PNa=Pg×2×10-6/1.1 結局、T<4500KではNa T>4500KではH が電子の供給源となっていることが分かった。 2 1 log10Pe (erg/cm3) 0 -1 -2 H起源の 電子圧 -3 3.6 3.8 Na起源の電子圧 4.0 4.2 log10Te(K) 4.4 H.4.一般の原子の電離 A++e-A=0 (I=inization energy) 質量作用の法則まで戻ると、 a1=1 a2=1 a3=-1 n(A+)n(e)/n(A)=[nQ(A+)nQ(e)/nQ(A)][Z(A+)Z(e)/Z(A)] イオンと原子の質量はほぼ等しいので、nQ(A+)=nQ(A) 電子のスピン上向き、下向きの2状態を考えるので、Z(e)=2。 自由電子とイオンの内部エネルギーをそれぞれ0とする。 すると、中性原子 の内部エネルギーは ‐Ⅰ となる(基底状態のみ考えている)。Ⅰは電離 エネルギー。 Z(A+)=u(A+)、Z(A)=u(A)exp(I/kT) u(A+)=g0+g1 exp(-E1/kT)+g2 exp(-E2/kT)+…. 結局、 n( A+)n(e)/n(A) =[u(A+)2/u(A)](2πmekT/h2)3/2 exp(‐I/kT) 天文ではPe(電子圧)を与えて計算する例が多い。 Pe=n(e)kTを使い、数値を入れて log[n( A+)/n(A) ] =log[ u(A+)/u(A) ]+log 2 +(5/2) log T -log Pe-Ⅰ(eV)(5040/T)-0.48 (Peの単位は erg/cm3) Negative Hydrogen H‐(水素負イオン) H+e - H-=0 Wildt 1939. ApJ, 89, 295.”Electron affinity in Astrophysics” 水素負イオンはⅠ=0.754eVという非常に浅い準位を持つ。したがって、 高温の星の大気には存在しない。G型より晩期の星では非常に重要な 光の吸収源である。 水素負イオンの束縛状態は、二つの電子がスピン上向き、下向きの両方を 占めるので、総スピン=0であり、統計重みg=1である。 自由電子と中性水素の内部エネルギーをそれぞれ0とする。 すると、Negative Hydrogen H- (陰性水素とは言わない)イオンの内部エネルギーは ‐Ⅰ となる (基底状態のみ考えている)。 H.5.解離平衡 分子雲や晩期型星大気では分子の形成を考慮する必要がある。 A + B ⇔ C という分子形成を考えよう。 注意すべきは、この反応式は実際 には起きていなくても構わないことである。 水素分子形成を例にとると、H+H=H2 という反応は直接には起こらず、水素分 子は実際には星間ダストの上で形成されると考えられている。それでも、平衡を 考える際には A, B, C の持つエネルギーの高さだけが問題となる。 化学平衡での A, B, C の数密度 nA, nB, nC は質量作用の法則で決まる。 nA nB nQ, A nQ, B Z in, A Z in, B nC nQ, C Z in, C 2 mA kT h3 3 2 2 mB kT 2 3 2 mC kT 2 h3 3 数密度 n から圧力 P =nkTの表示に変えると、 Z in, A Z in, B Z in, C h3 2 mA mB kT 3 2 Z in, A Z in, B PA PB nA kT nB kT kT 2 PC nC kT h mC Z in, C 3 Z in, A Z in, B 5 2 M 2 2 2 kT K P (T ) Z in, C h 宇宙標準組成比では原子数の比は、H:C:O=1:0.36 ×10-3 :0.85×10-3 したがって通常のM型星の大気中には、OがCの約2倍存在する。M型星大気の 温度は4000K以下であり、このように低い温度ではCOが安定な分子種である。 COの乖離エネルギーはDCO=11.1eVと大きいことが原因である。 このため、CはCOとして消費されつくす。後に残るOがOHやH2OのOが入った分 子を作る。 炭素星ではC:O比が逆転している。炭素星ではCOとして消費されつくすのはOで 残ったCがC2やCHを作る。 このように、M型星とC型星では大気中に形成される分子の種類が異なり、それは スペクトルの形に大きく影響している。 例:G-K-M型星の大気組成 H,C,Oが全て原子であったと仮定した時の仮想圧力をPHO、PCO、POO、 とする。PCO、POO << PHOである。 与えられた、PHO、PCO、POO と T に対し、 PH、PC、PO、PH2、……PH2O を 決める問題を考えてみよう。 PH0=1000,PC0=0.5, PO0=1 erg/cm3 PH2=PH2/KH2 POH=PH +2PH2 +POH+PCH+ 2PH2O PO2=PO2/KO2 POC=PC+2PC2 +PCH+PCO PC2=PC2/KC2 POO=PO+2PO2 +POH+PCO+PH2O POH=POPH/KOH PCH=PCPH/KCH PCO=PCPO/KCO PH2O=POHPH/KH2O 求める未知数はPH、PO、PC、PH2 、PO2 、PC2 、POH、PCO、PCH、PH2Oの10個 である。高温では原子優勢、低温ではH2とCO、H2Oが大量にできる。 log10Kp(T) を下の表に示す。Kp(T)の単位はdyn/cm2である。 COに対するKp(T)が小さいことに注意せよ。 T 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 4,000 5,000 6,000 H2 -11.09 -3.56 0.42 2.82 4.40 6.36 7.70 8.48 O2 -13.32 -4.79 -0.13 2.35 4.11 6.27 7.71 8.59 C2 -18.54 -8.48 -2.87 -0.04 2.04 4.61 6.31 7.29 OH -11.05 -3.65 0.21 2.61 3.95 5.94 6.44 8.16 CH -6.53 -0.67 2.26 4.31 5.55 7.06 8.14 8.76 CO -42.98 -24.74 -14.33 -9.43 -5.67 -0.89 2.12 3.92 H2O -13.61 -5.05 -0.53 2.17 3.95 6.13 7.62 8.46 C F1=PH2ーPH2/KH2、F2=PO2ーPO2/KO2、…、 F10=POOー(PO+2PO2 +POH+PCO+PH2O)とするとき、 ある温度Tで与えられたKH2、KO2、…、POOに対して、 F1=0, F2=0, … F9=0, F10=0となるPH、PO、PC、...PCH、PCO、PH2O を求める問題である。 10変数の連立式なので、一般には、 (1)適当な初期値からスタートして、 (2)ヤコビ行列の逆行列を作り、 (3)F1=0, F2=0, … F9=0, F10=0が満たされるまで、PH、PO、...PH2Oを 変えていくのだが、逆行列がうまく求まらない場合があるので注意が必要。 例えば、PH、PO、PC のみを独立変数と考え、残りの分圧は平衡式から厳密 に求め、F8=0, F9=0, F10=0 を満たすPH、PO、PC を探す方法などもある。 解離平衡 Po(H)=1000、Po(O)=1, Po(C)=0.5 (dyn/cm2) 4 2 H2 O2 C2 OH CH CO H2O H O C log P(dyn/cm2) 0 -2 -4 -6 -8 -10 -12 1000 2000 3000 4000 温度(K) 5000 6000 H.6.散光星雲の輻射過程 1 電離水素 hν>hνO=13.6eVの フォトンを電離フォトンと呼ぶ。 hν 基底状態の水素 電離フォトンの放出数 P(個/秒) 50 49 log P 高温度星 48 47 46 O5 O6 O7 O8 O9 O9.5 スペクトル型 B0 B0.5 散光星雲の輻射過程 2 光電離 hν e H p 再結合 hν 散光星雲の輻射過程 3 光電離 特にσ1(n=1から自由状態への光吸収)が重要。 NH : n=1状態のH数密度 Iν(r)=IνS(r)+IνD(r) Ne : 電子数密度 IνS(r):星からの輻射 Np : プロトン数密度 IνD(r):星雲内の発光輻射 Jν(r)=JνS(r)+JνD(r) JνS(r):星からの平均輻射強度 JνD(r):星雲内の発光平均輻射強度 A : 光電離レート(回/cm3/sec) Photoionization A=NH∫νO∞ (4πJν/hν) σ1νdν σ1ν =6×10-18(νo / ν)3 cm2 再結合 R : 再結合レート(回/cm3/sec) R=NpNeα(T) Recombination α=再結合係数(recombination coefficient) 散光星雲の輻射過程 4 再結合 α= α1 αB + free free n= 3 2 Hν<hνo hν>hνo=13.6eV 1 T(K) α(cm3sec-1) α1 αB 5,000 6.82 ×10-13 2.28 ×10-13 4.54 ×10-13 10,000 4.18 ×10-13 1.58 ×10-13 2.60 ×10-13 20,000 2.51 ×10-13 1.08 ×10-13 1.43 ×10-13 散光星雲の輻射過程 5 hν=13.6eVのフォトンが星間雲中をどのくらい動けるか考えよう。 平均自由行程=L、水素原子密度=Nとすると、Lyman連続吸収端で σ=6×10-18cm2だから、τ=NσL=1より、 L=1/Nσ=1.6×1019cm-2 /N=5.4×10-3(103cm-3/N)pc 高温天体(O型星や惑星状星雲)の周りの星雲(半径R)の密度が高いと、 L<<Rとなる。このような星雲での電離、再結合を考える。 平均輻射強度 Jν =(Fν /4π)+Sν Fν /4π=中心星からの電離フォトン Sν = 星雲内再結合で生み出された電離フォトン (1) 光電離率=再結合率 (A=R) NH∫νO∞ (4πJν/hν) σ1νdν=NpNeα(T) (2) 星の電離フォトンの吸収率=再結合線の脱出率 散光星雲の輻射過程 6 (2)続き 光電離 自由電子 星の電離フォトン α= α1 + αB n=1 αB 再結合 非電離フォトン α1 星雲から脱出 電離フォトン その場で吸収 ガス密度の高い星雲では、電離フォトンのL<<Rであり、α1(自由電子→n=1への 再結合)で放出された電離フォトンは直ちに吸収されて光電離を起こす。 αB(自由電子→n=2,3, ..への再結合)で放出された非電離フォトンは吸収されず 星雲から逃げ出す。 上の図から判るように、星からの電離フォトンの吸収=αB再結合の必要がある。 散光星雲の輻射過程 7 (2)続き(星の光) 中心星からのフラックス=Lν、電離フォトンフラックス= P(個/sec)とする。 τν (R) =τo(ν/νo)-3 =中心からの光学深さ τo(R)=∫0RNH(r) σ0dr Fν(R)=Lνe-τν /(4πR2) 前ページの、 星からの電離フォトンの吸収=αB再結合、 を式にすると、 NH∫σν(Lν /hν)e-τν /(4πR2)dν=NpNeαB 例:O型星周囲の電離 O型星(電離フォトン放出率 P=1049/sec)の周囲H密度N=Np+NH =104/cm3、ガ ス温度 T =10,000Kをとる。 NH=ξN, Np=Ne=(1-ξ)Nとする。 星からR=1pc( 3.08×1016cm)離れた点での電離フォトンの個数フラックスは、 ∫νO∞ (4πJν/hν)dν=1049 /sec/4π(3.08×1018cm)2=8.4 ×1010/cm2 /sec 光電離レート A=104ξ 8.4 ×10106×10-18 =5 ×10-3ξ (回/cm3/sec) 再結合レート R=NpNeα= (1-ξ) 2 108 4.18 ×10-13 (回/cm3/sec) A=Rから、 ξ= 8×10-3<<1 その時、hν=13.6eVのフォトンの平均自由行程Lは、 τ=NH σ1νL=1より、L=1/( 104×6×10-18 )= 1.6×1013cm<<R レポート問題H 出題11月27日 提出12月11日 レポートには、問題番号、学生証番号、学科、学年、氏名を書くこと。 H.1. 宇宙の物質を水素のみと仮定する。 水素原子の数密度=NI NH= NI + NII 水素イオン数密度=NII= Ne=電子の数密度 電離度=X= NII / NH 熱平衡を仮定し、サハの式を用いて 縦軸: 0 < log T(K) < 8 横軸: -10 < log NH (cm-3)< 30 の面内に、X=0.9999, 0.5, 0.0001 のラインを引け。 H.2. 現在の宇宙輻射の温度To=2.7K、水素原子数密度 No=5×10-7cm-3 とする。ビッグバン宇宙の進化経路は、スケールパラメター=a として、 T=To/a、 NH = No /a3 で表される。 H.1のグラフ上に進化経路を引き、 X=0.5 となるときの温度T1をグラフから求めよ。 H.3. X<0.5の中性原子領域では電子による光散乱が効かなくなり、ガスは輻 射と切り離される(decoupling)。この領域ではガス温度TgはTg∝a-2で変 化する。H.1の図にdecoupling後のガス温度の変化を書き込め。
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