スライド 1

これ以上パニックを繰り返さないために
風評被害による自殺者をこれ以上ださないために
農場から食卓までの全ての関係者の努力と協力のために
食の安全性学習資料 その1
食品による健康障害発生の特徴と
安全性施策の基本
HACCPを成り立たせる社会システムの構築
岡本嘉六
鹿児島大学農学部獣医公衆衛生学
Objectives
of application
HACCP
システムを of the
HACCP
system
適用する目的
Prevention
of foodborne illness
食品媒介性疾患の防止
Reduction
of costs
食品検査に要する
of food
analyses
費用の削減
More efficient
より効果的な
quality assurance
品質保証システム
system
Reduction of
製品回収による
losses due to
損失の削減
product recall
Protection
of reputation
評判を守る
WHO 「HACCPシステムの必要性」 教材の1枚
なぜ、今、HACCPを学ぶか
物流の国際化によって食料の6割が輸入されているが、消
費者にとっての安全性とは国産・輸入を問わず全ての食品
に対するものである。ここに、国際的手法としてのHACCPを
日本でも普及することが必要な第一の理由がある。
家畜の疾病予防と健康増進に基づく畜産物の安定供給と、
生産から消費までの全ての段階における安全性確保は獣
医師の社会的責務であるが、食の安全性を巡る社会的混
乱が続く中、責務を十分果たしてきたとは言いがたい。第二
の理由として、安全性に係る社会システム構築に向けて、国
際的手法を学ぶ必要がある。
農水省によって「畜産物生産衛生指導体制整備事業」に
基づく「家畜の衛生管理ガイドライン」 が策定され、管理体
制整備事業により認証体制を構築する必要に迫られている。
これが第三の理由である。
15
鶏肉
11.6
豚肉
8.27
乳
4.29
12.5
生 10
産
伸
び 7.5
率
の
推 5
移
2.5
鶏卵
牛肉
0
1960
1965
1970
1975
3.61
3.33
1980
1985
国内の畜産業の生産性向上の経過
1990
1995
(1960年を基準)
各畜産物の右に表示した数値は、2001年の伸び率
2000
500
(50)
400
一 (40)
人
当
た
り
一
日
消
費
量
g/人/日
国内生産量+輸入量
人口×365
4.5 豚肉 48.7
30.2 鶏肉 408.5
300
(30)
63.8 乳 262.8
200
(20)
4.3 牛肉 28.8
100
(10)
20.4 鶏卵 56.6
0
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000
国民一人当たりの一日消費量の推移
表示:
1960年の値
畜産物
2001年の値
90
85.2
女性
矢印: 各年齢を超えた調査年
80
78.3
70
平
均
寿 60
命
50
80
70
44.3
60
50
40
42.8
30
日本人の平均寿命の推移
男性
70
60
50
割
合
40
(
人
口
千 30
対
) 20
(1950 ⇒2002)
:新生児死亡率 ( 27.4 ⇒ 1.7 )
:乳児死亡率 ( 60.1 ⇒ 3.0 )
:出 生 率
10
0
出生後早期死亡率の推移
( 28.1 ⇒ 9.2 )
鶏卵
100
鶏肉
96、98
65、73
乳
80
自 60
給
率
(
% 40
)
68、75
豚肉
牛肉
20
53、73
39、38
1996年 農産物貿易の原則自由化
(ウルグアイ・ラウンドの合意)
0
1960
1970
1980
1990
2000
畜産物の自給率の推移と努力目標値
各畜産物の右に表示した数値は、2002年の自給率、2010年の努力目標値
農薬
輸入食品
添加物
汚染物質
組換え食品
健康食品
微生物
飼料
プリオン
器具・容器包装
カビ毒・自然毒
ウイルス
放射線照射
新開発食品
動物用医薬品
肥料
異物混入
その他
0
10
20
30
40
50
60
70
食品の安全性の観点からより不安を感じているもの
内閣府食品安全委員会: 平成15年 食品安全モニター・アンケート調査
「食の安全性に関する意識調査」結果
80
%
食中毒による健康被害の発生状況
年度
’69-’78
1,259
事故数
46.3
死者数
33,266
患者数
一事故当り
26.4
患者数
’79-’85 ’86-’95 ’96-’02
1,074
16.6
34,667
773
6.3
33,370
2,130
9.3
37,781
32.3
43.1
17.7
生産過程が見えない
ハイリスク集団の比重が増加
都市と農村の乖離
農産物の自由化(1994)
高齢化(絶対数)
少子化(希少価値)
「食農教育」、トレーサビリティー
食品衛生法に健康弱者を規定する
二つの要素を同時並行的に解決していかないと、抜本対策とはならない
件
2,500
2,000
1,500
:細菌
:化学物質(10倍表示)
:自然毒(10倍表示)
:動物性
:植物性
1377
123
1,000
79
500
44
9
0
食中毒事故件数の推移
1997年以降は、1名の場合も計上することになったため、見かけ上多くなっている
細菌
40,000
35,000
細菌
600
30,000
25,000
自然毒
化学物質
自然毒
500
20,000
400
15,000
300
化学物質
200
100
0
食中毒患者数の推移
20
:総数
:細菌
:自然毒
化学物質による死亡者はいない
18
16
14
年 12
間
死 10
亡
数 8
6
4
2
0
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
原因物質別にみた食中毒による死者数の推移
25
20
累
積 15
死
亡
者 10
数
5
0
原因食品別にみた食中毒死亡者数
(1996~2002)
死者数
人口
50歳
15歳
患者数
0
20
40
60
80
100%
食中毒患者数および死者数の年齢別割合
:0~4
:30~39
:5~9
:40~49
:10~14
:50~59
:15~19
:60~69
:20~29
:70~
4
2
0
0~4
累
積
死
亡
者
数
12
10
8
6
4
5~9
10~14
15~19
20~29
50~59
60~69
70~
:動物性自然毒
:植物性自然毒
:大腸菌
:サルモネラ
:ぶどう球菌
:腸炎ビブリオ
2
0
30~39
40~49
年齢・死亡原因物質別にみた死亡者数
(1996~2002)
年齢
年齢
昭 和 25 年(1950)
85~
80~84
75~79
70~74
65~69
60~64
55~59
50~54
45~49
40~44
35~39
30~34
25~29
20~24
15~19
10~14
5~9
0~4
総人口: 84,114,574
:女性
:男性
600
400
200
平 成 12 年(2000)
0
総人口: 126,925,843
0
200
日本における人口構成の変化
400
600
万人
米国の食品規格コード(Food Code )
1-201 用語の定義と適用範囲
(44)高感受性集団(Highly susceptible
population)とは、次の理由で、一般集団の人より食
品媒介性疾患に罹りやすい人をいう。
(i) 免疫低下者、就学前児童、老人
(ii) デイケア施設、腎臓透析センター、病院または
療養所、看護付老人ホームなどの健康管理または
補助生活を受けている人。
日本においても、ハイリスク集団(健康弱者)に
関する法的根拠を設けることが重要である
死者数
衛生教育
人口
50歳
15歳
患者数
0
20
40
60
80
100%
食中毒患者数および死者数の年齢別割合
:0~4
:30~39
:5~9
:40~49
:10~14
:50~59
:15~19
:60~69
:20~29
:70~
40
30
累
積
死 20
亡
者
数 10
0
食事場所別にみた食中毒死亡者数
(1996~2002)
7,000
6,000
5,000
4,000
未
届
け
の
事
故
3,000
2,000
1,000
0
食事場所別にみた食中毒患者数
(2002)
動物性自然毒
植物性自然毒
腸管出血性大腸菌
サルモネラ
ぶどう球菌
腸炎ビブリオ
0
20
40
60
80
100
%
食中毒原因物質別にみた患者数の年齢別割合
:0~4
:30~39
:5~9
:40~49
:10~14
:50~59
:15~19
:60~69
:20~29
:70~
22
3
増
減 2
割
合
21.1
:1996
:1997
:1998
:1999
:2000
:2001
:2002
1
0
細菌性食中毒患者数の増減傾向
大腸菌は1998年、その他は1996年を基準
危害(Hazard)とリスク(Risk)
「危害とは、ヒトに障害を起す可能性のある食品の、生物
学的、化学的、あるいは物理学的因子、もしくは状態をいう。
他方、リスクとは、食品中の危害の結果として起こる、暴
露集団の健康に対する悪影響の発生確率と重篤度の推
定値である。」
「危害を減らすこととリスクを減らすことの関係を理解す
ることは、適切な食品の安全性制御を発展させる上でとく
に重要である。 不幸なことに、食品について『ゼロ・リス
ク』のような事態はありえない(その他の何についても言え
ることだが)。」
「食品の品質と安全性システム」
FAO: Food Quality and Safety Systems - A Training Manual on Food Hygiene
and the Hazard Analysis and Critical Control Point (HACCP) System. 1998
閾値がない
化学物質
栄養素
▲
閾値がある
化学物質
▲
健
康
へ
の
悪
影
響
▲
●
●
●
NOAEL
●
無有害作用
濃度
●
●
●
●
●
●
●
化学物質の用量・反応関係
LOAEL
最小有害作用
濃度
用量(摂取量)
WHO: Hazardous chemicals in human and environmental health - A resource
book for school, college and university students. 2000
一日摂取許容量(ADI )=
無有害作用濃度
100
食品中の残留許容濃度
生
体
反
応
の
強
度
閾
値
致死量
無
有
害
作
用
濃
度
中毒量
閾値がある
化学物質
薬効
用量
一日摂取許容量と残留許容濃度(一般毒性)
(μg/ Kg/ day)
1
カビ毒
AFB1
アフラトキシン
ニトロソアミン
癌 1O
原
性
の
強 1O 2
さ
(
動
物 1O 3
に
癌
を
4
作 1O
る
用
量 1O 5
)
STRC
(魚の二級アミン + 野菜の硝酸塩)
4NQO
BP
BNU
DMBA
MNU
DBNA
3MCA
魚の焼け焦げ
Trp-P2
TOX
DBA
Trp-P1
AF2
DAN
1O 6~
TCE
~
~
~
-3
10
-2
-1
2
3
4
5
10
10
1
10
10
10
10
10
Ames法による突然変異原性の強さ(変異コロニー数/μg)
生活環境中物質の発癌性と突然変異原性
10
6
日常的に暴露されているリスク、避けることのできないリスクより
十分に低いことをもって安全とする。
一生の間に100万人に1人以下でしか起きない確率
発
癌
率
閾値がない
化学物質
10-6
低濃度直線性
実質的安全量
用量
DNA 障害性物質の安全性基準
1.0
最
少
発
症
菌
数
0.8
発 0.6
症
率 0.4
汚
染
限
度
0.2
一般健康成人
● おおよそ100万個の菌を摂取
しないと発症しない
● 最少発症菌数以下で発症し
ても軽度の症状で収まる
0
10-0
発
症
率
(
対
数
)
ハイリスク集団
(健康弱者)
10-1
10-2
● 摂取菌数が減ると発症率が低くなるだ
けで、最少発症菌数は設定できない
● 健康状態によって重篤度は左右され、
抵抗力が低下した状態では致命的になる
10-3
10-4
10-5
100
101
102
104
105
106 107 108
109 1010 1011
摂取菌数
食中毒菌摂取菌数と発症確率に関する近年の知見
ビブリオ・バルニフィカス感染症
肝硬変などの肝臓疾患のある人が生の魚介類を食べる
ことで発病し、健康人は同じ刺身を食べても罹らない。
致死率は 50~70%
患者の皮膚病変
国立感染症研究所HPより
数時間から1日の潜伏期の後、峰巣
炎等の皮膚病変の拡大や、発熱、悪
寒、血圧の低下などの敗血症様症状
を起こし、死亡することもある。
国際食品微生物規格委員会(ICMSF)による
食品の微生物学的危害因子
危害因子
危害特性
食品例
A
乳幼児、高齢者、虚弱者または免疫力
の低下したヒトのために作られた製品
B
微生物の増殖を支持する成分を含む
生の魚介類や食肉
C
製造過程に管理された殺菌工程がない
調理パン、ケーキ、
惣菜
D
加工後包装までに再汚染される可能性
がある
弁当、カットハム、
カット野菜
E
輸送や消費者の誤った取り扱いで増殖 生の魚介類、食肉、
する可能性がある
卵。調理パン、惣菜
F
包装以降、最終消費の際に加熱工程が
生の魚介類や食肉
ない
国際食品微生物規格委員会(ICMSF)による
食品の微生物学的危険度分類
カテゴリー 食品の性状と危害特性
食品例
Ⅵ
危害因子 A
乳児食、老人食、特定の病人食
Ⅴ
B~Fの危害因子を 5個
刺身、幕の内弁当、洋菓子、
生野菜サラダ
Ⅳ
B~Fの危害因子を 4個
握り飯、ポテトサラダ、惣菜
Ⅲ
B~Fの危害因子を 3個
ハム、ソーセージ、無包装蒲鉾
Ⅱ
B~Fの危害因子を 2個
スライスハム、調理パン、
Ⅰ
B~Fの危害因子を 1個
食パン、包装蒲鉾、乾燥麺
日本においても、ハイリスク集団(健康弱者)に関する
インスタントコーヒー、煎餅、
危害発生の恐れがない
0
法的根拠を設けることが重要である
乾し海苔、調味料
1930年代の世界不況
自国の産業保護
関税引き上げ
貿易数量制限
為替制限
1944年 ブレトン・ウッズ会議(米国)
世界戦争の回避策
1947年 第1回関税交渉妥結 → ガット採択
第二次世界大戦
国際復興開発銀行( IBRD ;1945)
国際通貨基金( IMF ;1947)
ガット体制(GATT; 1948 )
「関税及び貿易に関する一般協定」
経済紛争の元となる貿易障壁をなくし、自由貿易を確保する基本原則
(i)貿易制限措置の削減
(ii)貿易の無差別待遇(最恵国待遇、内国民待遇)
GATT 第20条 一般的例外: 動植物防疫に係る検疫等の措置
「衛生植物検疫措置の適用に関する(SPS)協定」
ケネディ・ラウンド(1967) 、東京ラウンド(1979 )妥結
ウルグアイ・ラウンド(1986 ~1994)妥結: 農産物貿易の原則自由化
1995年 世界貿易機関( WTO ) ← ガット体制
「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(通称:WTO設立協定)」
「農業に関する協定」
食料の輸出入における安全性確保と関わる国際的枠組み
危
害
因
子
に
つ
い
て
の
国
の
衛
生
基
準
B国
A国
非関税障壁
(WTO訴訟)
E国
C国
国
際
基
準
D国
自由貿易の枠組み(WTO)と衛生基準の関係概念図
衛生および食物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)
貿易の技術的障壁に関する協定(TBT協定)
コーデックス委員会
( FAO/WHO 合同食品規格委員会)
( ):部会数、 〔 〕:休会中
事務局
執行委員会
一般問題部会(9)
個別食品部会(11)
一般原則
食品衛生
食品表示
分析・サンプリング
食品輸出入検査証明制度
食品添加物・汚染物質
栄養・特殊用途食品
残留農薬部会
残留動物用医薬品
専門家会議
食品添加物(JECFA)
残留農薬(JMPR)
乳及び乳製品
食肉・食鳥肉衛生
魚類・水産製品
生鮮果実・野菜
加工果実・野菜
油脂
〔ココア製品・チョコレート〕
〔糖類〕
〔穀物・豆類〕
〔植物タンパク質〕
〔ナチュラル・ミネラル・ウォーター〕
特別部会(2)
果実・野菜ジュース
動物用飼料
地域調整部会(6)
アジア
アフリカ
ヨーロッパ
ラテンアメリカ・カリブ海
近東
北アメリカ・南西太平洋
コーデックス委員会の組織図
リスク・アセスメント
リスク管理
Risk Assessment
Risk Management
危害の特定
危険性の評価
Hazard Identification
Risk Evaluation
危害の特性解明
管理措置の査定
Hazard Characteristics
Management Option Assessment
暴露査定
管理措置の実行
Exposure Assessment
Option Implementation
危険性の特性解明
監視と再吟味
Risk Characterization
Monitoring and Review
リスクの情報交換
Risk Communication
リスク・アナリシスの構図
Structure of Risk Analysis.
Risk Management and Food Safety. FAO, Rome, 1997
● 生物学的・化学的実験データ: 性状、純度、
規格、分解性、代謝、薬理作用、変異原性など
毒性評価
(毒性の把握と
認識)
安全性の
科学的評価
● 動物実験データ: 一般毒性、特殊毒性
● 臨床データ: 有効性、副作用など
● ヒト・他の生物の接触経験: 食品成分、
環境物質、代謝物質
● 疫学調査データ: 外国および国内での
使用経験
● 類推される間接科学知見: 化学構造からの類推
意思決定の科学
(行政基準値等)
● 暴露レベル: 生産量、流通、用途、使用法、
一般人との接触度
● 規制の評価: 規制が可能か、規制の効果があるか
● 有用性・有益性
再評価
● その他: 分析技術、感度
化学物質の安全性評価チャート
澤村ほか: 「食品衛生学」、南江堂を基に改変
演
繹
的
資
料
帰
納
法
的
資
料
ヒ
ト
と
の
関
係
食生活における不安をなくし、安全性につ
いての自信を取り戻すためには、農場から食
卓までの関係者すべての努力が必要とされ
ています。
自分を安全圏において他人を批判すること
を繰り返しても何の成果も得られないことは、
この間のパニックで経験してきたことです。
安全性についての正しい知識と理解を広げ
ることが、何よりも大切です。
<その他の視聴覚資料>
1.「農場から食卓までの安全性向上」 HACCP手法研修用教材(日本獣医師会 )
2. 「危害の紹介: 調理、摂食、ならびに汚染拡大の要因」 Robert博士(米国
CDC、病原体低減に関する科学的意見交換会、2002 )