「小児急性中耳炎診療指針」 利用上の注意点 つちだ小児科 土田晋也 今回発表の主旨 •日本の臨床医のための 「小児急性中耳炎診療指針」2つを紹介 •ガイドライン利用上の注意点を自験例を もとに考察する 日本の臨床医のための 小児急性中耳炎診療指針 「小児急性中耳炎 診療ガイドライン」 「抗菌薬適正使用 ワ-キンググル-プ」 (日本小児耳鼻咽喉科学 会誌 27:71-107、2006) (外来小児科 8:57-84、 2005) 対象者 小児耳 学会 正確な鼓膜所見 の評価、鼓膜切 開を含む耳処置 を施行できる耳 鼻咽喉科医 (マクロビューを使用してい る臨床医も含む) ワーキング グループ 小児急性中耳炎 を診療する臨床医 ならだれでも 急性中耳炎の定義 小児耳 学会 ワーキング グループ 急性に発症した中 耳の感染症 中耳貯留液+ 急性発症の症状や 所見が1つ以上 症状: 耳痛、発熱、耳 漏を伴うことがある 鼓膜所見: 膨隆を重視 症状: 耳痛、耳漏 (発熱は症状に含まず) 鼓膜所見: 著明な発赤・ 膨隆、水泡形成 重症度判定 小児耳 学会 鼓膜所見と症状で判定 年令→3才未満3点 耳痛→0, 1, 2点 発熱→0, 1, 2点 啼泣・不機嫌→0, 1点 鼓膜所見: 発赤→0, 2, 4点 膨隆→0, 4, 8点 耳漏→0, 4, 8点 ワーキング グループ 発熱と年令で判定 (菌血症を含む中耳炎以外の細菌 感染症を見逃さない) High Risk群→採血 WBC15,000(Neut≧10,000) →「フォーカス不明の発熱」GLへ Low Risk群→経過観察 鼓膜所見: 軽視しているわけではないが急 性中耳炎、滲出性中耳炎の判別 は現実的には難しい 治療方針 小児耳 学会 ワーキング グループ 耐性菌を念頭にお 耐性菌をふやさな いた治療選択が必要 いための抗菌薬使用制 限が必要 第一選択薬:ペニシリン 投与期間:5日間 (原則)重症例を早い段 階で見分け、切開排膿 →抗菌薬 第一選択薬:ペニシリン 投与期間:5日間 (原則)2、3日は対症療 法のみによる経過観察 ガイドライン利用上の注意点 ー自験例をもとに考察するー (Case1) 1才0ヶ月、男児、未入園 感冒症状あり、耳痛・熱なし 小児耳 学会 R 8月8日 ワーキング グループ 体温37.2℃ 鼓膜発赤(+) 鼓膜膨隆(++) 体温37.2℃ 1点 鼓膜発赤 2点 鼓膜膨隆 8点 年令加算 3点 急性中耳炎 Low Risk群 計14点=重症 9月4日 AMPC高用量 +鼓膜切開 L 経過観察のみ 利用上の注意点① 小児耳 学会 3才未満の急性中耳炎 はほぼすべて 重症=抗菌薬+鼓膜切 開になってしまう ワーキング グループ 高熱でなければ鼓膜 所見にかかわらず経 過観察 症状の改善があれば 追加治療は不要 (Case2) 1才5ヶ月、女児、園児 感冒症状あり、耳痛・熱なし 小児耳 学会 体温36.8℃ 0点 鼓膜発赤 2点 鼓膜膨隆 4点 年令加算 3点 計9点=中等症 AMPC5日間投与 R 1月31日 L ワーキング グループ 体温36.8℃ 鼓膜発赤(+) 鼓膜膨隆(+) 滲出性中耳炎 経過観察のみ 利用上の注意点② 小児耳 学会 3才未満は3点加算が あるため、滲出性中耳 炎であっても、中等症 以上=抗菌薬の対象 になってしまう 5日後に改善なければ 追加治療も必要 ワーキング グループ 高熱でなければ鼓膜 所見にかかわらず経 過観察 症状の改善があれば 追加治療は不要 (Case3) 1才6ヶ月、女児、未入園 高熱2日目40.7℃、咳、鼻水あり、不機嫌なし 小児耳 学会 R 4月9日(月) L ワーキング グループ 体温40.7℃ 鼓膜発赤(+) 鼓膜膨隆(++) 体温40.7℃ 2点 鼓膜発赤 2点 鼓膜膨隆 8点 年令加算 3点 急性中耳炎 High Risk群 計15点=重症 AMPC高用量 +鼓膜切開 4月10日(火) 血培、穿刺液ともに PSSP(+)、莢膜血清型 4型 採血 WBC19,200 CRP21.7mg/dl 血培、鼓膜穿刺して CTRX点滴静注 利用上の注意点③ 小児耳 学会 急性中耳炎以外の疾 患は除外されているこ とが前提 2次病院 医師のための ガイドライン ワーキング グループ 急性中耳炎以外の疾 患も含むことが前提 High Risk群は「フォー カス不明の発熱(Dr. 西村)」のガイドライン に従う プライマリ医師のための ガイドライン (Case4) 5ヶ月、男児、未入園 昨夜から熱38.4℃ 咳・鼻水なし 活気なし 小児耳 学会 R 11月6日 L ワーキング グループ 発熱38.4℃ 鼓膜発赤(+) 鼓膜膨隆(+) 発熱38.4℃ 2点 不機嫌 1点 鼓膜発赤 2点 鼓膜膨隆 4点 年令加算 3点 滲出性中耳炎 計12点=重症 経過観察 AMPC高用量 +鼓膜切開 検尿 採血 WBC13,700 CRP0.7mg/dl 膿尿、桿菌1×106/ml以上 尿培養 E.coli 1×106/ml以上 検尿 利用上の注意点④ 小児耳 学会 急性中耳炎以外の疾 患は除外されているこ とが前提 ワーキング グループ 急性中耳炎以外の疾 患も含むことが前提 Low Risk群であって も除外しなければなら ない疾患はある、、、 (Case5) 8ヶ月、女児、未入園 昨夜熱38.3℃ 鼻水 昨夜夜泣きした 小児耳 学会 発熱38.3℃ 2点 (受診時37.8℃) 不機嫌 1点 鼓膜発赤 4点 鼓膜膨隆 8点 年令加算 3点 R 11月1日 11月2日 解熱、夜泣きなし WBC13,600 CRP1.5mg/dl 計16点=重症 AMPC高用量 +鼓膜切開 L 11月7日 ワーキング グループ 発熱38.3℃ (受診時37.8℃) 鼓膜発赤(++) 鼓膜膨隆(++) 急性中耳炎 Low Risk群 経過観察 採血 WBC17,400 CRP1.0mg/dl AMPC60mg/kg 利用上の注意点⑤ 小児耳 学会 「鼓膜切開」しなくても いいのでは? ワーキング グループ Low Risk群/急性中 耳炎であっても、鼓 膜所見が悪ければ、 即日抗菌薬でいいの では? (Case6) 3才5ヶ月、男児、園児 昨日から耳痛、発熱 鼻水あり 小児耳 学会 R 8月8日 AMPC高用量 +鼓膜切開 ワーキング グループ 発熱38.1℃ 鼓膜発赤(+) 鼓膜膨隆(++) 膿胞あり 発熱38.1℃ 2点 耳痛 1点 鼓膜発赤 4点 鼓膜膨隆 8点 計15点=重症 L 8月11日 急性中耳炎 Low Risk群 8月9日 解熱、耳痛なし 経過観察 8月11日 WBC3,600 CRP1.6mg/dl 採血 WBC11,900 CRP12.9mg/dl CTRX点滴静注 利用上の注意点⑥ 小児耳 学会 ガイドラインどおり、鼓 膜切開(→培養提出) も必要だったか? ワーキング グループ Low Risk群/急性中 耳炎であっても、鼓 膜所見が悪ければ、 即日抗菌薬でいいの では? 判断に迷ったら、 採血(WBC、CRP) まとめ 耐性菌をキーワードにした、日本の臨床医のた めの「急性中耳炎診療指針」2つを紹介した 小児耳学会GLは「急性中耳炎以外の疾患は除 外されている」ことが前提 ワーキンググループGLは「急性中耳炎以外の 疾患も含む」ことが前提 小児急性中耳炎の診療にあたる臨床医は、各 GLの特徴を理解した上で利用するべきである
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