交替性計算の 潜在的能力 豊橋技術科学大学 知識情報工学系 相田 慎 科学研究費補助金 若手研究(B) 21700012 「交替性計算の潜在的能力」 いろいろ(この発表だけ、浮いてない?) 新しい結果の話は特にない(残念)。 具体的なゲームの話もあまりしない。 「交替性計算」は、その能力が発揮されていな いと感じている(これが一番言いたいこと)。 今考えていることをお話して、賢明な皆様の お智慧をお借りしたい。 発表するのは初めてですが、この研究集会は 今回含めて4回参加(地味) 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 2 発表の流れ 「交替性計算」とは何哉? 「決定性計算」と「交替性計算」 1. 2. 決定計算量の特徴付け定理[Chandra-KozenStockmeyer]と神託分離定理[Orponen]など 「非決定性計算」と「交替性計算」 交替性計算における「唯一性」とは? 3. 4. 5. 2010/3/1 昔考えたことの紹介 「交替性計算」に「潜在的能力」はあるのか? 交替性計算の潜在的能力 3 交替性計算とは何哉 「交替性計算」とは何哉(1/2) 「非決定性計算」の自然な拡張 計算木の接点に and/or (∀/∃)が「交互に」 ラベル付けされている ∨ ∃ ∀ ∨ ∧ ∀ ∨ ∧ ∨ ∃ ∀ ∨ ∧ 2010/3/1 ∨ ∃ ∀ ∨ ∧ ∀ ∨ ∧ ∨ ∃ ∨ ∃ ∀ ∨ ∧ ∀ ∨ ∧ 交替性計算の潜在的能力 ∀ ∨ ∧ ∀ ∨ ∧ ∀ ∨ ∧ 5 「交替性計算」とは何哉(2/2) 二人ゲームの必勝性判定問題と捉えても良い ∨ ∃ ∀ ∨ ∧ ∃ 2010/3/1 ∨ ∃ ∀ ∨ ∧ ∃ ∀ ∀ ∨ ∧ ∃ ∃ : 先手 ∀ : 後手 ∀ ∨ ∧ ∨ ∃ ∀ ∨ ∧ ∃ ∀ ∨ ∧ ∃ ∃ ∨ ∃ ∨ ∃ ∀ ∨ ∧ ∀ ∃ ∀ ∨ ∧ ∃ ∀ 交替性計算の潜在的能力 ∀ ∨ ∧ ∃ ∃ ∀ ∨ ∧ ∃ ∃ ∀ 6 「決定性計算」と 「交替性計算」 「決定性計算」と「交替性計算」 次の結果が有名: [Chandra-Stockmeyer 1976] a) [Chandra-Kozen-Stockmeyer 1981] b) 「Savitch の定理」の交替性計算版(?) 決定性計算に交替性計算の上下界を与える 具体的内容は次ページ a. Alternation. Proc. 17th 1EEE Symp. on FOCS, pp.98-108, 1976. b. Alternation, Journal of the ACM, Volume 28, Issue 1, pp. 114-133, 1981. 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 8 Chandra-Kozen-Stockmeyer(1981) 「決定性計算」の「交替性計算」による特徴付け 系 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 9 Chandra-Kozen-Stockmeyer(直観) 長い決定性計算線を交替性計算木へ対数圧縮 (時空間の変換) 時間を圧縮 並列計算を時間に伸長 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 10 「交替性計算」の側面 三つの側面 1. 実用的な並列計算(ハードウェア実装可能性) 2. 計算困難性の証明道具 3. 還元ガジェット用 理論的だが非実用的(3QBF-SAT など) 回路の動的生成機 2010/3/1 NC ~ NL ~ P完全「未満」問題向け 「計算木」はトップダウン生成された回路と見做せる 回路計算量との関係性 交替性計算の潜在的能力 11 「非決定性計算」と 「交替性計算」 指数時間仮説と交替性 仮説: 3SAT は決定性 3SATの非決定性計算木 -時間で解けない 3QFB-SATの交替性計算木 深さ 幅 幅 疎(スカスカ) 問題が違うのに、どちらも決定性 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 密(ミッチリ) -時間で計算可能 13 「非決定性計算」と「交替性計算」 自明な包含関係しかわかっていない: や のようなクラスとの関係も未知 相対世界上でなら包含関係がわかるのでは? ⇒ [Orponen 1983] の奇妙な結果(次ページ) Complexity Classes of Alternating Machines with Oracles. ICALP 1983 : 573-584 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 14 Orponen (1983) 次を満たす帰納的神託 を構成できる: ← こちらを概説します 注意: 2010/3/1 以下は成り立つ(再掲) 交替性計算の潜在的能力 15 Orponen(1983)のアイデア 1. 次のような集合を定義する: 2. の証明のように、神託 を 短い語から積み重ねて構成する。 は神託に問い合せる だけなので自明。 を対角線論法で示す。 □ 3. 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 16 Orponen(1983)の示唆 指数時間で問い合わせ可能でも、「多項式」 という限られた領域では問い合わせできない ような神託を構成しただけか? No (おそらく): 交替性計算では、 決定性時間・領域を 対数的に圧縮する。 その代わりに、並列計算の幅が広がる。 「交替性計算木を評価することが計算の本質」で あるような問題があるのではないか? 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 17 交替性計算における 「唯一性」とは 唯一性: 非決定性計算の概念の拡張 唯一性(無曖昧性) 2010/3/1 NP (UP)計算では AP計算では 証拠は一つ 先手が唯一の必勝手を選択すれば 後手がどんな手を選択しても 先手が唯一の必勝手を選択すれば 後手がどんな手を選択しても(以下略) 交替性計算の潜在的能力 19 「強唯一性」と「全唯一性」 ([Aida-Crasmaru-Regan-Watanabe 2002]の話題について) 二種類の「唯一性」を定義 強唯一性(Strong Uniqueness Property) 定義(概要): 必勝法を持つ側は、各局面において唯一の必勝手 を指さなければ勝てない 全唯一性(Global Uniqueness Property) 定義(概要): 強唯一性必勝法を持つ側が、必勝手を打ち続けな ければ、相手が強唯一性必勝法を持つ 動機: 一般化詰将棋問題を余詰無しにできないか? ⇒ 「強唯一性」を持つゲームを詰将棋ガジェットとして 埋め込めれば十分 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 20 「強唯一性」をどう実現するか? ゲームのルールに「相手と立場が変われる」選択肢 があると嬉しい。 ただし、制限が無いと無限ループに陥る(当然)。 羽生名人も子供の頃、優勢盤面をひっくり返して、 わざと劣勢にして遊んだらしい(Wikipedia より)。 既存のゲームに「先手後手交換」の挑戦権(次ペー ジ)を加えたゲームを構成してみよう。 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 21 挑戦法(Challenging)のラフなアイデア 相手が打った必勝手以外に良い手があったら、 「待った」と言って盤面を引っくり返し、自分が 「その(別の)必勝手」を打つ。 ←こうなる感じ?(実世界) ←これが © トムス・エンタテインメント 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 22 閑話休題。 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 23 挑戦法に基づいて二人ゲームを用いた 強唯一性ゲームの構成法 1. 2. 相手が指した必勝手以外の良い手があったら、 「待った」と言って先手・後手の立場を入れ替え、自分 が「より左の手」を指す(左の手がない場合は負けと 定義する)。 必勝手を持つ側が勝つためには: 3. どの盤面でも相手に「切り札」を使われないように、(唯一 の)最左必勝手を指せば良い。 最左手以外の手を指した場合、優位性が逆転する(この証 明に「交替性」を用いる)。 挑戦法ルールを追加すれば、任意のゲームを強唯一 性ゲームにできる。 □ 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 24 全唯一性(1/2) (再掲)強唯一性必勝法を持つ側が、必勝手を打ち 続けなければ、相手が強唯一性必勝法を持つ ∨ ∃ ∀ ∨ ∧ ∀ ∨ ∧ ∨ ∃ ∀ ∨ ∧ ∃ 2010/3/1 ∨ ∃ ∀ ∨ ∧ ∃ ∀ ∀ ∨ ∧ ∃ ∃ ∀ ∨ ∧ ∃ ∃ ∨ ∃ ∨ ∃ ∀ ∨ ∧ ∀ ∃ ∀ ∨ ∧ ∀ ∀ 交替性計算の潜在的能力 ∀ ∨ ∧ ∃ ∃ ∀ ∨ ∧ ∃ ∃ ∀ 25 全唯一性(2/2) 完全二分木で木の深さがわかっていれば限定すれ ば、(実は)受理状態数と拒否状態数の数が一意に 求まる。 同じ深さの完全二分木において、 受理木になる場合の受理状態数 拒否木になる場合の受理状態数 の差は必ず 2 になる。 (i.e. 計数計算クラス SPP に入る) 深さ同一の全唯一性計算木ならば、葉の状態ラベ ルによらず同型(∵ 木の深さに関する帰納法)。 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 26 「交替性計算」に 「潜在的能力」は あるのか? 「交替性計算」をどう応用する? NP/co-NP完全問題を特徴付ける(のは多分 難しい……) NP∩co-NP に属す問題ではどうか?(双対性) 「問題を解くこと」を「二人ゲームの必勝性を 解くこと」に置き換える 「二人ゲームの妥当なルール」策定が肝心 盤面サイズ: 交替性計算の領域 最大手数: 交替性計算の時間 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 28 NP問題への応用(1/2) 二人のプレイヤの能力は無制限 共用する盤面の情報を交互に書き換える ^∃^ ^∀^ : 盤面の書き換え情報 盤面 2010/3/1 ε(盤面サイズはあまり大きすぎないよ うに構成する) 交替性計算の潜在的能力 29 NP問題への応用(2/2) サイズ n の問題を二人ゲームに置き換え評価する ならば 決定性時間で 計算可能([Chandra-Kozen-Stockmeyer] より) ならば 決定性時間で 計算可能(同上) 多項式より真に小さい関数領域で盤面を抑えられれ ば、特徴づけ定理より、 擬多項式時間や準指数時間で計算できる。 計算時間を少し犠牲にして厳密アプローチで問題を解く。 ルール(プロトコル)策定の枠組みがわかれば…… 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 30 まとめ 交替性計算は決定性計算を(ある意味)圧縮 神託分離定理が計算圧縮性を示唆 「唯一性」を交替性計算に適用する 強唯一性: 「余詰無し詰将棋」などに有用 全唯一性: 「唯一性」の意味によって、 交替性問題を計数問題へ変換する 交替性計算に(未知の)潜在的能力があるか? など非決定性計算との関係が未知 二人ゲームの効率的プロトコルを作れれば…… NP 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 31 余談 「交替性計算」なんて古いんじゃない? 乱択や量子などを使わない古典計算モデル で事実上最も強力な計算モデル 計算木の各節点が加法やガロア体などにしても、 交替性計算に還元可能 NP との関係性など、実は残っている問題が 多そう(「落穂拾い的」なものであっても、研究 する意義はある) 「温故知新」 2010/3/1 交替性計算の潜在的能力 33
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