スライド 1 - 太陽系科学研究系

地上望遠鏡を用いた中間赤外線観測
による金星雲頂温度構造の解析
中村正人研 博士課程3年
三津山和朗
目次
イントロダクション
・金星の雲 ・雲頂模様 ・中間赤外線観測
観測
・観測概要 ・シークエンス ・解析結果(撮像、分光)
放射伝達計算(観測vs.モデル)
・放射計算モデル ・観測との比較 ・考察
まとめ
研究背景:金星の雲
Galileo SSI による可視光画像
© Calvin J. Hamilton
雲粒径ごとの数密度
(Knollenberg and Hunten, 1980)
・惑星全球を覆う雲
・組成は、H2SO4(75%) aq(25%) (Hansen and Hovenier, 1974)
・3層構造、3つの典型的な粒径に分かれている (Knollenberg and Hunten, 1980)
直径 mode 1 ~0.3 mm, mode 2 ~ 2.5 mm, mode 3 ~ 6mm,
研究背景:金星の雲
金星大気中での太陽Fluxの変化
(Tomasko et al., 1980 )
金星大気風速分布(Schubert, 1983)
金星大気の熱収支を決める大きな要因。
雲高度での大気物理を解明することは、
金星気象現象(超回転など)を理解する上で重要
雲頂模様 --紫外線観測-・太陽紫外線の雲による反射光の観測
紫外線吸収物質の分布変動による雲頂
の模様が観測される。
金星紫外線画像(Rossow et al, 1980)
紫外線画像 vs. 鉛直温度構造
☆紫外線観測
太陽直下点(およびその下流)に
対流を示唆するようなセル状の構造
金星紫外線画像
左:Rossow et al, 1980、
右:Markiewicz et al., 2007
☆直接探査
雲頂高度の大気は安定成層をしている。
雲層中層には対流が存在??
金星大気の鉛直温度勾配
(Seiff et al, 1987)
中間赤外線観測
・中間赤外線は金星雲頂から熱放射される
・対流などの大気温度構造の変動が生じると
観測される中間赤外線に反映される
Pioneer Venus/OIRによる
北極中心11.5mm赤外線画像
(Taylor et al., 1980)
11.6mm中間赤外線の
地上観測[分解能~500km]
(Apt, et al., 1979)
金星大気放射の中間赤外線帯
における荷重関数
中間赤外線観測@すばる望遠鏡(2005.12.15-16)
Subaru望遠鏡/COMICS
による8.6mm赤外線画像
左) high-pass画像
右) 空間差分画像
高空間分解能・高S/Nの観測により雲頂付近の熱構造の
空間変動を観測振幅1K(高度にして約300m)
この微細構造の物理機構は不明
長時間観測や分光観測を行い、
時間変動・大気温度勾配を導出する必要がある
中間赤外線分光観測
中間赤外線において波長ごとに荷重関数が異なるため
分光観測&放射モデル計算により大気内部の温度構造を理解できる
Venera-15/FSによる
金星の中間赤外線分光の輝度温度
(Zasova et al., 2007)
リトリーバルにより得られた
経度平均の金星大気温度構造
研究目的
中間赤外線観測による金星雲頂での
メソスケール(~数100km)の大気物理の解明
・長時間撮像観測
雲頂微細構造の時間変動の導出し
雲頂高度における大気運動を理解
・撮像&分光同時観測
撮像画像に見られる雲頂微細構造の内部の
大気構造を同時間帯に取得した分光データを用いて
数値モデル計算により導出する
観測概要
望遠鏡/装置:
すばる望遠鏡/COMICS
IRTF/MIRSI
観測日時
:
2007/10/25-29
4:00- 6:00 HST
2007/ 7/12
16:00-19:45 HST
観測波長
:
撮像: 8.6 mm, 11.2 mm, 12.8 mm, 撮像: 8.6 mm (11.3 mm)
(FWHM: 0.4 mm, 0.6 mm, 0.2 mm),
(FWHM: 0.4 mm, 0.6 mm)
分光: 7.8-13.3 mm (R = 250, 2500)
金星
視直径 :
輝面率 :
回折限界,
空間分解能
@8.6mm, (11,2mm) :
~25”
~37”
(0.13”/pix ~ 62km/pix)
(0.27”/pix ~ 88km/pix)
~50%
~26%
0.27”, (0.35”)
~130 km, (~170 km)
0.72”, (0.93”)
~230 km, (~300 km)
観測シークエンス
すばる望遠鏡/COMICS
IRTF/MIRSI
HST
HST
4:00
17:00
撮像
8.6 mm (200 frame)
11.2 mm (250 frame)
12.8 mm (200 frame)
撮像
8.6 mm (90 frame)
撮像
8.6 mm (90 frame)
71min
5:00
6:00
~90min
18:00
分光
撮像
7.8-13.3 mm
(R = 250 or 2500)
8.6 mm (200 frame)
11.2 mm (250 frame)
12.8 mm (200 frame)
61min
撮像
19:00
撮像
撮像
7:00
11.3 mm (30 frame)
20:00
8.6 mm (60 frame)
11.3 mm (30 frame)
撮像解析(一次処理)
• Calibrations
地球大気の
影響の除去
-
Venus +sky +dark
PIXEL間の
感度補正
=
-
sky +dark
(一様光源)
÷
sky +dark
=
dark
• 微細構造導出
high-passs処理:
2次元Gauss関数(s=120km~)で
金星画像をsmoothingし元画像より減算
上段: 1次処理した画像
下段: High-pass画像
(左列は10/26 8.6mm、右列は10/29 8.6mmの画像)
10/25
10/26
10/27
10/28
10/29
撮像解析(差分解析)
・ Shift & Add
金星のframe内の位置のずれを
+
=
補正し、複数枚加算し平均を取ることで
random noise を低減させる
→ Flat補正が重要となる
・ 差分解析
金星のframe内の位置のずれを
-
=
補正せず、2枚のframeを引き算
同じ受光素子の値の引き算により
pixel-fixed noise をキャンセルさせる
→Flat補正はクリティカルでない
差分解析によるFlatエラーの改善
・ Shift & Add
V5 = (V1+V3)/2
V1 = V
V1 V2
+
V2 = (V+v) *b
= V *(a+b)/2
=
V5 V6
V3 = V
V3 V4
*a
V6 = (V2+V4)/2
= (V+v) *(c+d)/2
*c
V4 = (V+v) *d
V6 – V5 = V *[(c+d)/2 - (a+b)/2]
+ v *(c+d)/2
・ 差分解析
a~dのばらつきは1,2% v/Vも1%程度であり2項が同程度となる
V1 = V
V1
V2
*a
V2 = (V+v ) *b
-
=
V3 = (V+v’) *a
V3
V4
V5 = V1 - V3
V4 = (V+v”) *b
= v’ * a
V5 V6
V6 = V2 - V4
= (v - v”) + b
同じpixelの値での比較により
Flatエラーを改善できる
差分解析(組み合わせⅠ)
時刻1
空間差分
-
ほぼ同時刻の金星Frame内で
=
÷
-
=
-
=
金星位置がずれているものを引き算
÷
=ずれた方向の空間微分(差分)成分
時刻2
-
=
÷
-
=
÷
=
空間差分
・IRTF/MIRSIによる
8.6mmの空間差分画像
9枚の画像はそれぞれ
2つframe間で金星位置が
上下左右斜めの8方向+ずれなし
にずれている画像の差分を取った
(ずれの大きさは3pix~270km)
ずれた方向により
現れる微細構造の様子が異なる
差分解析(組み合わせⅡ)
時刻1
-
=
÷
-
=
-
=
÷
時刻2
-
時間差分
=
÷
-
=
÷
=
異なる時刻の金星Frame内で
金星位置が同じものを引き算
=2つの時刻間の時間変動成分
時間差分
IRTF/MIRSI
すばる望遠鏡/COMICS
すばる望遠鏡/COMICS
8.6mm画像の時間変動成分
8.6mm画像の時間変動成分
12.8mm画像の時間変動成分
上記の他に、10/27の11.2mm、10/28の8.6mm、11.2mmにおいても、異なる
時刻で同じ位置に金星があるペアのframeが存在したが、seeingの影響等
により2枚の間で金星サイズがことなりうまく時間変動成分を取り出せない
空間差分 vs. 時間差分
南北空間勾配
南北空間勾配
時間変動成分
東西空間勾配
IRTF/MIRSIによる8.6mm画像
時間変動成分
東西空間勾配
すばる望遠鏡/COMICSによる10/26 8.6mm画像
時間変動成分の画像は、南北方向および東西方向の
空間温度勾配の画像と比較すると、南北方向のものに近いように見える
空間差分 vs. 時間差分
すばる望遠鏡
10/26, 8.6mm
IRTF
7/13, 8.6mm
空間差分と時間差分の
それぞれの画像を
・観測直下子午面
・赤道面
・60S~60Nを10°おき
でスライスし、中心から±45度の領域
で相関係数を計算した
黒: 時間変動(増分)
青: 温度勾配(極→赤道)
赤: 温度勾配(東→西)
(上段) 子午面, (下段)赤道面
高相関領域
10/26, 8.6mm
10/27, 11.2mm
10/28, 12.8mm
7/13, 8.6mm
空間勾配と時間変動成分の相関の高いところに矢印を表示
(相関値; Blue: >0.85, Red: > 0.80, Yellow: > 0.70)
x
y
Equator
矢印の向きは見かけの速度の方向を示している
x
V=
∂T/∂t
( tempral variation)
∂T/∂x(or y) (spatial gradient)
V > 0 (if positive correlation)
V < 0 (if negative correlation)
典型的な速度の値は
V=
0.1K/130min
0.2K/270km
~18m/s (IRTF),
0.2K/90min
0.2K/120km
~22m/s (すばる)
撮像解析まとめ
・中間赤外線による雲頂熱構造の時間変動の観測
時間変動成分は各時間での南北方向
の温度勾配の構造と相関がある。
時間変動成分と空間勾配との比較から
雲頂の温度構造が、速度約40m/sで
・朝方境界で極方向
・真夜中に近い夕方で赤道方向
に、波or風で伝播している可能性がある
観測(分光)
10/25-28
中分散分光観測 波長域 7.8-13.3mm(R = 2500)
スリット位置: 南北、赤道、[中緯度(30°)]
slit
slit
低分散分光観測 波長域 7.8-13.3mm(R = 250)
スリット位置: 南北
スリット幅~150kmで金星上を~300kmごとに移動
10/29
slit
観測(分光)
一次処理
・地球大気放射の除去
・Pixel感度補正
・波長/空間ゆがみ較正
・物理量(Flux)変換
観測 vs. Venera-15
Obs.
Equator
大気モデル計算
放射伝達方程式を
平行平面大気モデルで計算
計算手法
: Adding-doubling法
雲吸収・散乱 : Mie散乱
(屈折率はPalmer and Williams, 1975; Biermann and Peter, 2000)
大気吸収
: Line-by-Line法
(吸収線はHitran 2000[Rothman et al.,2003])
大気パラメータ :
VIRA(Venus International Reference Atmosphere)
・温度/圧力構造(Seiff et al. 1985)
・大気組成(Zahn and Mozov 1985)
・雲分布(Ragent et al., 1985;
Knollenberg and Hunten 1980 )
高度50-90km(Dz = 1km)
波長7-14mm(Dl = 0.01mm)
出射天頂角30分割 で計算
観測 vs. モデル
Obs.
Model
Equator
パラメータ変化
Obs.
Model
Equator
モデルの依存パラメータ
t(z)
・・粒径分布、密度分布 等々
T(z)
・・大気温度構造
大気温度構造の違いによるスペクトル変化
Mode 1
-10%
Mode 2,2d
Mode 3
Mie散乱による消散断面積の波長/粒径依存
-5%
雲密度分布の違いによるスペクトル変化
観測 vs. モデル
Obs.
Model
Equator
観測値の空間変動
まとめ
 撮像観測:空間差分&時間差分の比較により大気変動を導出
・
 分光観測&放射伝達計算による金星大気内部構造導出
・観測 vs. モデル vs. Venera-15
大枠としては3者は近い値となった
小~中スケールの構造が合っていない
・原因は、
○観測値の較正不足?
○モデル計算での大気モデルが異なる?
○数値計算の誤差?
 今後の課題
・地球大気によるモデル計算を行い、金星観測データの再較正
・誤差評価
Radiative Transfer Equation
~Adding-doubling method~
Appendix
放射伝達方程式
・基本方程式
dIv( p, s)  - kv[ Iv( p, s)  J( p, s) ]ds
dIv( p, s )
dt
 Iv( p, s) – Jv( p, s)
* Jv( p, s)  a  P ( p; s, s' ) Iv( p, s' ) dw'  (1  a) B(T ( p ))
W
4
p: 位置, s: 進行方向, v: 波長, :密度,
I: 放射輝度, J: 放射源関数, k: 単位質量当りの消散係数
t: 光学的厚み( dt ≡ - kds )
a: 単散乱アルベド, P: 位相関数
w: 立体角, W: 全立体角, B(T): Planck関数
Appendix
放射伝達方程式
・平行平面大気(鉛直1次元)モデル
dIv( p, s )
-kvds
 Iv( p, s) – Jv( p, s)
p → t, s → x, f ( x ≡ cosq)
-kvds = kv(-dz)/cosq → dt/x
dIv(t ,x ,f )
x
dt
 Iv(t , x ,f ) – Jv(t , x , f )
m ≡ | x | として
ある層 上端での上向き(x = m > 0)放射は
Iv(t 1, m , f )  Iv(t 2, m , f )e
(t 2 t 1) / m
t2
  Jv(t ' , m , f )e (t' t 1) / m dt ' / m
t1
下端での下向き(x = -m < 0)放射は
Iv(t 2,m , f )  Iv(t 1,m , f )e
(t 2 t 1) / m
t2
  Jv(t ' ,m , f )e (t 2t ') / m dt ' / m
t1
Appendix
放射伝達方程式
・放射源関数(no.1)
Jv( p, s)  a  P ( p; s, s' ) Iv( p, s' ) dw'  (1  a ) B(T ( p ))
W
4
平行平面大気(鉛直1次元)モデルでは
Jv (t , m , f )  a
4
 a
4
2 1
*  dw 
W
2 
2
0 0
0

  2 sin qdqdf 
1

0
 2dmdf 
2
0
   2d (m )df
1
0
  P (t , m , f , m ' , f ' ) I (t , m ' , f ' )2 dm ' df '
v
0 0
2 1
  P (t , m , f , m ' , f ' ) I (t , m ' , f ' )2 d ( m ' ) df '
v
0 0
 (1  a ) B (T ( p ))
t2 – t1 = dt が非常に小さいとき、散乱は単散乱と仮定すると、
微小層の上端での上向きの放射源関数による放射は
t2
t
Jv (t ' , m , f )e (t' t 1) / m dt ' / m
1
 a
4
 a
4
2 1
t2
  [ t
Psingle (t ' , m , f , m ' , f ' ) Iv(t 2, m ' , f ' )e (t 2 t ') / m 'e  (t' t 1) / m dt ' / m
1
] 2 dm ' df '
0 0
2 1
t2
  [ t
 Psingle (t ' , m , f , m ' , f ' ) Iv(t 1, m ' , f ' )e (t ' t 1) / m 'e (t' t 1) / m dt ' / m
1
0 0
t2
 (1  a ) 
t1
B (T (t ))e (t' t 1) / m dt ' / m
] 2 dm ' df '
Appendix
放射伝達方程式
・放射源関数(no.2)
前頁の式で、微小層内では位相関数Psingle、Planck関数B(T)は場所によらないとすると、
tの積分が実行でき
微小層 上端での上向き放射は
Iv(t 1, m , f )  Iv(t 2, m , f )e  (t 2 t 1) / m
 1

 1

2 1

Tr (dt , m , f , m ' , f ' )Iv(t 2, m ' , f )dm ' df '
0 0
2 1

Rf (dt , m , f , m ' , f ' )Iv(t 1, m ' , f )dm ' df '
0 0
 (1  a ) B (T (t ))(1  e dt / m )
ここで、
a
1
1
Psingle ( m , f , m ' , f ' ) [1  exp((  )dt )]
4( m  m ' )
m m'
a
1
1
Tr 
Psingle ( m , f , m ' , f ' ) [exp( )dt  exp( )dt ]
4( m  m ' )
m
m'
a
1

Psingle ( m , f , m , f ' ) exp( )dt ( m '  m )
2
4m
m
Rf 
(m '  m )
Appendix
放射伝達方程式
・積分→和分
前頁の式で、Iv, Rf, Tr をそれぞれFについてFourier級数展開し、Fの積分を消し
mについては、Gaussian-Legendre n-point quardratureという手法で、近似する。
最終的に
I m (t 1, mi )   (Rf m ( mi , mj )  I m (t 1, mj )  Tr m ( mi , mj )  I m (t 2, mj ))   mj
(ベクトル・行列表示)
m
I1m  Rf m  I1m  Trm  I m


2
1
m:Fourier級数の次数 : Planck関数による項
という形に展開できる(Trは直達光も含む)。
物理的イメージは図のよう。
微小層下端での下向き放射も
同様の方法で和分化できる
Appendix
Adding-Doubling Method
・Adding
現実の分厚い大気に適用するには、層を重ねる必要がある
a層
I1↓
I1  Rf a  I1  Tra  I 2   a
Rf↑a

dta
I 2  Rf a  I 2  Tra  I1   a
b層
Tr↑a
Tr↓a
I2↓
I 2  Rf b  I 2  Trb  I3   b
I2↑
Rf↑b
Rf↓a
Tr↑b

dtb
I3  Rf b  I3  Trb  I 2   b
Tr↓b
I3↑
Rf↓b
4式からI2の項を消去し、新しいRfa+b, Tra+b, a+b を計算
a+b層
I1  Rf a  b  I1  Tra  b  I 3   a  b
I1↓
Rf↑a+b
Tr↑a+b
a+b
dta+dtb
I 3  Rf a  b  I 3  Tra  b  I1   a  b
Tr↓a+b
I3↑
Rf↓a+b
Appendix
Adding-Doubling Method
・Doubling
均質な層では、上端下端でRf, Tr,  は同じであるので
2層かさねた層も、また上端下端でRf, Tr, S は同じ。
これにより均質層中のaddingは、計算回数の2の冪乗で厚くすることができる
Appendix
Adding-Doubling Method
・interaction principle
AddingとDoublingにより現実の大気の厚さに適用できる。
適当な境界条件により大気上端から放射される放射Fluxを計算できる
I1top↓
Rf↑atm
Tr↑atm

ts
Tr↓atm
I2↑
Rf↓atm
I  top 
Rf atm  I  top  Tratm  I bot   atm