公共経済学

4.公共財 2
4.1 公共財の限界費用と供給曲線
4.2 公共財の限界便益と需要曲線
4.3 公共財の需要・供給曲線とサミュエルソン条件
4.4 補論 1:公共財の便益と限界便益
4.5 補論 2*:
私的財のみの生産経済における厚生経済学の基本定理
4.1 公共財の限界費用と供給曲線
公共財の(私的財に対する相対)価格を p とする。なお、価格 p は政府が供給者に支払う
(提示する)公共財の価格である。
簡単化のため、生産のために必要な生産要素投入は土地だけであり、土地は「(現物)出資」
の形で提供されているとする。
したがって、生産要素購入費用はゼロであり、利潤  は
  X  p G
である。
(4-1)
私的財 X と公共財 G に関する生産可能性曲線 X  f (G) 上の生産点 (G 0 , X 0 ) における公
0
共財の限界変形率を MRT と表すことにする。
(問題 4-1) X  f (G) 上の生産点 (G 0 , X 0 ) における限界変形率 MRT と価格 p が異なっ
0
ているときは、生産点 (G 0 , X 0 ) のときの利潤よりも大きな利潤を生み出す生産点
が存在することを示しなさい。
【 MRT 0  p のケース】
X
0
X  f (G)
X0
X   0  p G
 0  X 0  p  G0
p
G0
MRT 0
G
問題 4-1 の結果から、価格 p が与えられたもとで、生産点 (G s , X s ) において利潤が最大化
s
されているとすれば、 (G s , X s ) における限界変形率 MRT と価格が一致していなければな
らない。つまり、
(4-2)
MRT s  p
s
s
である。なお、 G は公共財の供給量、 X は私的財の供給量である。
s
(問題 4-2) G X 平面に公共財の供給量 G と私的財の供給量 X を図示し、(4-2)が成立す
ることを確認しなさい。
s
X

s
X  f (G)
X   s  p G
 s  X s  p  Gs
Xs
MRT s  p
Gs
G
X  f (G) 上の生産点 (G 0 , X 0 ) における限界変形率 MRT 0 は
MRT 0   f (G 0 )
(4-3)
と求めることができる。
公共財生産の(私的財で測った)費用関数を C  C (G) と表せば「 C (G)  f (0)  f (G) 」
と求められる。したがって、公共財生産の限界費用関数を MC  MC (G) と表せば
MC(G)  C (G)   f (G)
(4-4)
である。
X
X  f (G)
f (0)
C (G 0 )
f (G 0 ) 
X0
G0
G
MRT 0   f (G 0 )
(4-3)
MC(G)  C (G)   f (G)
(4-4)
s
そのとき、(4-2)、(4-3)、(4-4)より、公共財の供給量 G は
p  MC(G s )
(4-5)
を満たすことになる。つまり、 G は限界費用と価格が一致するように決定される。
s
(4-3)
MRT s   f (G s )
(4-4)
MRT s  MC(G s )
p  MC(G s )
MRT s  p
(4-2)
s
以下では G s と X の上付き添え字 s は省略する。したがって、(4-5)より、
p  MC (G)
(4-6)
が公共財の逆供給関数である。
(4-6)を G について解いた関数
G  G s ( p)
(4-7)
が公共財の供給関数である。
X s ( p)  f (G s ( p)) と定義すれば、
X  X s ( p)
(4-8)
が私的財の供給関数である。
(4-6)より、縦軸に価格 p と限界費用 MC を重ねてとり、横軸に G をとった平面において、
供給曲線 p  MC (G ) と限界費用曲線 MC  MC (G) は「一致」することになる。
公共財の価格が p ( p  )のときの公共財の供給量 G ( G  )を図示しよう。
また、公共財の供給曲線を図示しよう。
X
MC(G)   f (G)
X  f (G)
MC  MC(G)
MC 
=
MC   MC (G)
p
MC, p
G
G 
(4-4)
G
p  = MC 
供給曲線
G  G ( p)
s
・
MC   p 
MC   p 
・
G
または MC  MC(G)
または p  MC(G)
限界費用曲線
G 
G
4.2 公共財の限界便益と需要曲線
公共財の価格 p のもとで最大化された利潤を対応させる関数  ( p ) を「利潤関数」と呼ぶこ
とにする。この利潤関数は、(4-1)、(4-7)、(4-8)より、
(4-9)
 ( p)  X s ( p)  p  G s ( p)
と求められる。
  X  p G
(4-1)
G  G s ( p)
(4-7)
X  X s ( p)
(4-8)
そして、個人 i の株式保有(土地出資)割合を wi と置いて( w1  w2  1 )、簡単化のため個
人 i の所得は配当だけであるとする。そのとき、個人 i の所得は wi ( p) と求められる。
「個人 i の租税価格(=個人 i の公共財1単位あたりの租税負担額)」を pi と表すことにす
る( i  1, 2 )。
そのとき、個人 i の予算制約式は
X i  pi G  wi ( p)
(4-10)
と表される。
そして、(4-10)の制約のもとで個人 i の効用を最大化する公共財の消費量(=公共財の需要
量)を Gid 、私的財の需要量を X id 、消費点 (Gid , X id ) における限界代替率を MRSid とおけ
ば、次の関係が成立する。
MRSid  pi
(4-11)
(問題 4-3)G X i 平面に予算制約線 X i  pi G  wi ( p) と最適消費点 (Gid , X id ) を通る無差
別曲線 I id を描くことで、(4-11)が成立することを説明しなさい。
MRSid  pi
(4-11)
(問題 4-3)G X i 平面に予算制約線 X i  pi G  wi ( p) と最適消費点 (Gid , X id ) を通る無差
別曲線 I id を描くことで、(4-11)が成立することを説明しなさい。
Xi
I id
wi ( p)
X id
X i  pi G  wi ( p)
MRSid  pi
Gid
G
個人 i の(私的財の消費量 X i と公共財の消費量 G に効用 u i を対応させる)効用関数を
ui  X i  vi (G)
(4-12)
と仮定する( i  1, 2 )。
そのとき、消費点 (G 0 , X i0 ) における限界代替率 MRSi0 は、
MRSi0  vi (G 0 )
(4-13)
と求めることができる。
(問題 4-4) G X i 平面に消費点 (G 0 , X i0 ) を通る無差別曲線 ui0  X i  vi ( G) を描くととも
に、(4-13)が成立することを示しなさい。
ui  X i  vi (G)
(4-12)
MRSi0  vi (G 0 )
(4-13)
(問題 4-4) G X i 平面に消費点 (G 0 , X i0 ) を通る無差別曲線 ui0  X i  vi ( G) を描くととも
に、(4-13)が成立することを示しなさい。
Xi
X i  vi ( G)  ui0
ui0  X i0  vi (G0 )
X i0
 vi (G 0 )
vi(G 0 )  MRSi0
G0
G
消費点 (G, X i ) における公共財 G から個人 i が得る(私的財で測った)限界便益 MBi は、消
費点 (G, X i ) における限界代替率 MRSi で捉えることができる。
したがって、限界便益関数を MBi  MBi (G) と表すことにすれば、(4-13)より、
MBi (G)  vi (G)
(4-14)
である。
そのとき、 (4-11)、(4-13)、(4-14)よりは個人 i の公共財に対する需要量 Gi は
d
pi  MBi ( Gid )
(4-15)
d
を満たすことになる。つまり、 Gi は限界便益と租税価格が一致するように決定される。
以下では、 Gid の添え字 i と d は省略する。したがって、(4-15)より、個人 i の公共財に対す
る逆需要量関数は
pi  MBi (G)
(4-16)
である。
(4-16)を G について解いた関数
G  Gid ( pi )
(4-17)
が個人 i の公共財に対する需要関数である。
(4-16)より、縦軸に租税価格 pi と限界便益 MBi を重ねてとり、横軸に G をとった平面にお
いて、需要曲線 pi  MBi (G) と限界便益曲線 MBi  MBi (G) は「一致」することになる。
4.3 公共財の需要・供給曲線とサミュエルソン条件
G * =(パレート)効率的な公共財の水準
MRSi* =「 G * に対応する限界代替率」
MRT * =「 G * に対応する限界変形率」
MRS1*  MRS2*  MRT * :サミュエルソン条件 (3-6)
MRSi*  vi(G* )
(4-13)
MBi (G)  vi (G)
(4-14)
(4-13)と(4-14)を用いれば、 MRSi*  vi (G* )  MBi (G* ) であり、
(4-3)と(4-4)より、 MRT   f (G )  MC(G ) である。
*
*
*
MRT*   f (G* ) (4-3)
MC(G)   f (G)
MRS1*  MRS2*  MRT * :サミュエルソン条件
(4-4)
(3-6)
したがって、(4-12)の効用関数が仮定されているとき、サミュエルソン条件(3-6)は
MB1 (G* )  MB2 (G* )  MC(G* )
と書き換えることができる。
(4-18)
個人が n 人いる場合は、サミュエルソン条件(3-7)は、
MB1 (G* )  MB2 (G* )    MBn (G* )  MC(G* )
(4-19)
と書き換えることができる。
サミュエルソン条件は「各個人の限界便益の和が限界費用と一致すること」と言い換えるこ
とができる。
*
サミュエルソン条件(4-18)で求められる G を用いて、
p *  MC(G * ) かつ
pi*  MBi (G* )
(4-20)
と置く。
*
私的財の配分 ( X 1* , X 2* ) が、 G と(4-20)で定められた ( p * , p1* , p2* ) のもとで、個人の予算制
約式(4-10)を満たしているとする。すなわち、
X i  pi G  wi ( p)
X i*  wi ( p* )  pi*G*
(4-10)
(4-21)
資源配分 (G * , X 1* , X 2* ) のもとでは、(4-18)と(4-20)より p1*  p2*  p * が成立するので、財
政収支が均衡することになる。
MB1 (G* )  MB2 (G* )  MC(G* )
(4-18)
資源配分 (G * , X 1* , X 2* ) は
X 1*  X 2*  f (G* )
を満たすので実現可能である。
(4-22)
X 1*  X 2*  f (G* )
(問題 4-5)(4-22)が成立することを示しなさい。


MC G s ( p* )  p*
←(4-6) & (4-7)
 MC(G* )
←(4-20)
 G s ( p* )  G*
(*)

 
X 1*  X 2*  w1 ( p* )  p1*G*  w2 ( p* )  p2*G*

←(4-21)
 (w1  w2 ) ( p* )  ( p1*  p2* )G*
  ( p* )  p*G*
  ( p* )  p*G s ( p* )
 X s ( p* )

 f G s ( p* )
 f (G* )
 (*)
←(4-9)

 (*)
(4-22)
*
効率的な公共財の生産量 G を集計需要曲線と供給曲線の交点より求める方法について検討
する。まず、公共財の集計限界便益関数を MB  MB(G) と置き、
MB(G)  MB1 (G)  MB2 (G)
(4-23)
と定義する。
さらに、
p  MB(G)
(4-24)
を公共財の逆集計需要関数と呼び、それを G について解いた関数
G  G d ( p)
を公共財の集計需要関数と呼ぶことにする。
(4-25)
(問題 4-6)横軸に G 、縦軸に p 、 p1 、 p 2 をとった平面に個人1と個人2の
公共財に対する需要曲線を描くとともに、公共財に対する集計需要
曲線を描きなさい。
p , p1 , p 2
p  MB1 (G)  MB2 (G) または p  MB(G)
p1  MB1 (G)
G
p2  MB2 (G)
サミュエルソン条件(4-18)は(4-23)を用いれば、
MB(G* )  MC(G* )
と表すこともできる。
効率的な公共財の生産量 G * は、
「集計的限界便益と限界費用が等しいという条件」
すなわち
「集計需要曲線 p  MB(G) と供給曲線 p  MC (G ) の交点」
より求めることができる。
(4-26)
(問題 4-7)問題 4-8 の図に供給曲線を描き加えることで、
*
効率的な公共財の水準 G を図示しなさい。
p , p1 , p 2
p  MB1 (G)  MB2 (G) または p  MB(G)
:集計需要曲線
p  MC(G) :供給曲線
p1  MB1 (G)
G
G*
MB(G* )  MC(G* )
p2  MB2 (G)
(問題 4-8)生産可能性曲線が X    G 2   であるとする(   0,   0 )
。
このとき、逆供給関数 p  p (G) と供給関数 G  G ( p) を求めな
s
s
さい。
dX
 2  G
dG
MRT  2  G
p  2  G  MC(G)
G
p
 G s ( p)
2
(問題 4-9)個人 i の効用関数が ui  X i  i  G    であるとき
(  i  0,   G , i  1, 2 )、
個人 i の限界便益関数 MBi  MBi (G) 、集計限界便益関数 MB  MB(G) 、集計需
2
要関数 G  G ( p) を求めなさい。
d
X i  i  G     ui
2
dX i
 2 i  G   
dG
MRSi  2i  G   
MBi  2i  G     MBi (G)
MB  2(1   2 )  G     MB(G)
G
p
   G d ( p)
2(1   2 )
( 問 題 4-10 ) 個 人 i の 効 用 関 数 が ui  X i  i  G    で あ り 、 生 産 可 能 性 曲 線 が
2
X    G 2   であるとする。このとき、サミュエルソン条件(4-26)を用いて効
*
率的な公共財の水準 G を求めなさい。


 2(1   2 )  G*    2  G*
(1   2 )  (1   2   )G*
(1   2 ) 
G 
1   2  
*
4.4 補論 1:公共財の便益と限界便益
公共財の限界便益の定義式(4-17)を公共財の便益を定義することで導いてみよう。
公共財 G から個人 i が得る(私的財で測った)便益は、公共財と私的財の消費点 (G, X i ) に
着目して、次のように捉えることができる。
1
1
① 消費点 (G , X i ) が与えられているとする。
1
1
0
② 消費点 (G , X i ) を通る無差別曲線の上に消費点 (0, X i ) があるとする。
公共財 G から個人 i が得る(私的財で測った)便益は X i  X i で捉えることができる。
1
0
1
効用関数(4-12)のもとでは、②より X i0  vi (0)  X i1  vi ( G1 ) が成り立つので、公共財 G 1 か
ら個人 i が得る便益は
X i0  X i1  vi (G1 )  vi (0)
(4-27)
と求められる。
公共財 G から個人 i が得る便益関数を Bi  Bi (G) と表すことにすれば、(4-27)より
Bi (G)  vi (G)  vi (0)
(4-28)
が成立することになる。
公共財 G から個人 i が得る限界便益関数 MBi  MBi (G) は、
MBi (G)  Bi(G)  vi (G)
となり、(4-14)の関係が成立することになる。
(4-29)
4.5 補論 2*:私的財のみの生産経済における厚生経済学の基本定理
3.4 の補論においては私的財のみの生産経済における効率的資源配分の条件を求めた。
この補論では、その生産経済における厚生経済学の基本定理、すなわち市場経済均衡で効
率的資源配分が実現できるという結果が成立することを説明する。
私的財 x と y に関する生産可能性曲線 y  f (x) が与えられているとする。そのときは、(4-2)
と同様に、財 x の価格 p が与えられたもとでの供給量は
p   f ( x) [ MRT ( x)]
(4-30)
の関係を満たすことになる。
(4-30)を x について解くことにより求められる供給関数を x  x ( p) と表し、財 y の供給関
s
数を y  y ( p) と置けば、 y ( p)  f ( x ( p)) の関係が成立する。
s
s
s
利潤関数は(4-12)と同様にして、
 ( p)  pxs ( p)  y s ( p)
(4-31)
であり、個人の予算制約式は、(4-10)と同様に
pxi  yi  wi ( p)
(4-32)
と表される( i  A, B )。ここに、 wi は個人 i の株式保有割合である。
第 2 章の議論より、市場均衡においては財 x の価格 p が与えられたもとでの個人 i の最適な
消費点 ci  ( xi , yi ) においては限界代替率と価格 p が一致する( i  A, B )
。すなわち、
p  MRSi (ci )
(4-33)
である( i  1, 2 、(2-29)を参照)。
d
(4-30)と(4-33)から求められる個人 i の財 x の需要関数を xi  xi ( p) 、財 y の需要関数と
yi  yid ( p) とおく。
市場均衡においては、需要と供給が一致するので、
x Ad ( p)  xBd ( p)  x s ( p)
y Ad ( p)  y Bd ( p)  y s ( p)
(4-34)
(4-35)
であるが、ワルラス法則より(4-32)と(4-33)は独立ではない(2.2 節参照)
。
(4-34)(または(4-35))から求められる均衡価格を p と表すことにし、均衡における生産点
*
を ( x , y ) 、消費点を ci*  ( xi* , yi* ) と表すことにする。
*
*
そのとき、(4-30)と(4-33)より、市場均衡における限界代替率と限界変形率は均衡価格を媒
介として一致することになる。すなわち、
MRSA*  p *  MRSB*
=
(4-36)
MRT *
が成立する。ここに、 MRSi*  MRSi (ci* ) かつ MRT  MRT( x ) である。
*
*
p  MRT(x)
(4-30)
p  MRSi (ci )
(4-33)
MRSA*  p *  MRSB*
=
(4-36)
MRT *
MRSA*  MRSB*  MRT*
(3-9)
(4-36)より、3.4 の補論で導出した効率的な資源配分の条件(3-9)が成立することになる。
生産を考慮した経済においても厚生経済学の基本定理が成立する(すなわち、市場均衡で
達成される資源配分はパレート効率的である)
。
4.1 公共財の限界費用と供給曲線
4.2 公共財の限界便益と需要曲線
4.3 公共財の需要・供給曲線とサミュエルソン条件
4.4 補論 1:公共財の便益と限界便益
4.5 補論 2*:
私的財のみの生産経済における厚生経済学の基本定理