ブリヂストンとタイヤ業界に見る

ブリヂストンとタイヤ業界に見る
日本企業の海外生産
名古屋大学経済学部
柳瀬ゼミ
(岩本、佐野、外本、後藤、韓、高田、丹羽)
1章.イントロダクション
・三大メーカーの売上高推移
40,000
35,000
ブリヂストン
30,000
25,000
ミシュラン
20,000
15,000
グッドイヤー
10,000
5,000
0
2009
2010
2011
2012
2013
2012
2004
ブリヂストン, 15.3
ミシュラン, 19.4
東洋ゴム, 1.8
東洋ゴム, 1.5
その他, 22.2
その他, 29.8
ハンコック, 2.1
クムホ, 1.9
クーパー, 2.3
ブリヂストン,
18.2
横浜ゴム,
クーパー,
2.2 3.1
住友ゴム, 3.4
杭州中策, 2.4
ミシュラン, 14
グッドイヤー, 10.1
ピレリ, 4.4
コンチネンタル,
正新, 2.5
6.6横浜ゴム, 3
ハンコック, 3.3
住友ゴム, 4.1
グッドイヤー,
ピレリ, 4.116.5
コンチネンタル, 5.8
タイヤの市場の構造に変化
2章. タイヤ業界の特殊性
(国内市場分析)
タイヤ業界は
①寡占市場
②特徴の異なる2種類のタイヤ
③タイヤと自動車の関係性
といった特殊な性質を持つ
2-1.寡占市場
タイヤ業界日本国内シェア(2013年)
東海ゴム
4.9%
その他
10.3%
東洋ゴム
5.4%
乗用車用タイヤについて(2013年)
売上高ベース
(千本)
国内生産量
横浜ゴム
10.3%
住友ゴム
13.1%
ブリヂストン
56.0%
119,485
輸出量
42,066
輸入量
20,267
出典:日本自動車タイヤ協会、財務省通関実績
出典:業界動向SEARCH(http://gyokai-search.com/3-tire.html)
国内タイヤ市場は寡占市場
2-2.新車用タイヤと補修用タイヤ
新車用タイヤ
補修用タイヤ
•
•
•
•
•
•
•
•
中間財
ほぼ独占供給
販売本数:38,295千(42.4%)
買い手:自動車メーカー
最終消費財
差別化された財
販売本数:52,190千本(57.6%)
買い手:ユーザー
 補修用が新車用を上回るのは日本をはじめとした自動車先進国の特徴
• 1人当たりの自動車の保有台数が多い
• 安全に対する意識が高い
 中国等の自動車新興国では新車用タイヤが占めるウエイトは高くなる
• 相対的に1人当たりの保有台数が少なく、新車の販売台数が大きい
• 安全に対する意識が低い
2-2.新車用タイヤと補修用タイヤ
乗用車用補修用タイヤ販売本数
8,000
7,000
タイヤ本数
=千本
6,000
5,000
2011
4,000
2012
2013
3,000
2,000
1,000
2014
冬用→夏用
タイヤへの交換
夏用→冬用
タイヤへの交換
0
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
出典:日本自動車タイヤ協会
補修用タイヤの販売本数には、周期性がある
2-3.自動車とタイヤの関係性
自動車生産台数とタイヤ生産量の推移
出典:日本自動車タイヤ協会「日本のタイヤ産業2014
2-3.自動車とタイヤの関係性
国内自動車販売台数の推移
出典:日本自動車工業会
日本国内の自動車市場の成熟
– 自動車保有台数が増加
– 補修用タイヤの需要拡大によりタイヤの生産量が上昇
2-3.自動車とタイヤの関係性
タイヤの需要に影響を及ぼす事象
• 天然ゴム価格と為替相場
– 天然ゴム価格の上昇や為替相場の影響により、国内メーカー各社は
2006年、07年、08年、11年のほぼ同時期に国内卸価格を値上げ
• 政府の各政策
– 高速道路休日1000円政策
– 第2回エコカー補助金制度
2-3.自動車とタイヤの関係性
• 高速道路休日1000円政策(2009年3月~11年6月)
– ETC搭載車のみ休日に高速道路を利用する場合、原則として1000円でどこまでも行くことが
できる政策
– 自動車で遠出する人が増えることによって、補修用タイヤの需要が大きくなるのではないか
2011年と2012年の補修用タイヤ販売本数
7000
タイヤ本数
=千本 6000
高速千円終了
5000
4000
2011
3000
2012
2000
政策期間中の補修用
タイヤの需要増
1000
0
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
出典:日本自動車タイヤ協会
2-3.自動車とタイヤの関係性
• 第2回エコカー補助金制度(2011年12月~2012年9月)
– 一定の環境基準を満たす自動車を購入すれば、補助金を受け取ることができる政策
– 自動車の販売台数の増加に伴って、新車用タイヤの需要も大きくなるのではないか
2011, 12, 13年の新車用タイヤ販売本数
4,500
エコカー
補助金開始
タイヤ本数
4,000
=千本
政策期間中の新車用
タイヤの需要増
3,500
3,000
2,500
エコカー
補助金終了
2,000
2011
2012
2013
1,500
1,000
東日本大震災
500
0
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
出典:日本自動車タイヤ協会
タイヤと自動車の需要に
相当程度の正の相関
3章.海外進出について
「タイヤ業界で3年連続、世界シェアナンバーワンのブリヂストン。生産の8割
を海外で行うなど日本でも有数のグローバル企業だ。だが、新興市場ではその
地位も盤石ではない。新興メーカーの台頭で業界は様変わりし、中国では百数
ものブランドが乱立する中、ブリヂストンは独自戦略を展開しようとしている。
(中略) ブリヂストンの強さの秘密は、80年の歴史の中で、川上から川下まで一
貫した事業をつくり上げ、グローバルに展開してきたことにある。今後は、こ
うした垂直統合モデルを新興市場でも展開し、圧倒的に有利な地位を占めよう
というわけだ。」
――週刊ダイヤモンド2012/07/07 『企業レポート』より
◇ブリヂストンの強みは垂直統合にあると指摘されているが、
その理由とは何か
◇新興国場の構造を分析するとともに、ブリヂストンの海外戦略を
考察する
3-1.垂直統合について
垂直統合の概念
原材料の調達から最終製品となって消費者にわたるまで
には数多くの段階がある
⇒垂直連鎖、垂直的な流れ
開
発
原
料
部
品
組
立
物
流
販
売
この連続する複数の段階を同一企業が行う
垂直統合
消
費
者
3-1.垂直統合について
◇垂直統合のメリット
・取引費用を考慮する必要がなくなる
・市場取引がもたらす非効率性を解消する
3-1.垂直統合について
◇垂直統合のデメリット
・技術的な点
・経営資源や能力的な点
・垂直統合により新たなコストが生じる点
– インセンティブコスト
– モニタリングコスト
– インフルエンスコスト
– エージェンシーコスト
3-1.垂直統合について
◇海外直接投資(海外進出)のその他の利点
資源開発拠点の建設 ・・・ 天然資源の確保
販売拠点の設立 ・・・ 消費者のニーズに応える
関税障壁回避などのメリットも
3-2.タイヤ市場と垂直統合
ⅰ)タイヤという財が持つ性質
– タイヤの原材料はゴムが約5割を占める
– 天然ゴムの生産地が限られている
東南アジアにおけるゴム生産地が鍵となる
しかし、主要産出国には小規模農家が多く、
生産体制も未整備のまま
垂直統合により、
生産工程や物流機能を内部化、効率化を!
3-2.タイヤ市場と垂直統合
ⅱ)タイヤ市場が持つ性質
補修用タイヤの強い販売チャンネルを持つことが必要
– 補修用タイヤが占める割合は半分以上
– 新車用タイヤと比べ他社との競争の側面が強い
物流や販売網を内部化し、効率化を!
ブリヂストンの例
case1. 日本:ブリヂストンタイヤショップ
ミスタータイヤマン
タイヤ館
COCKPIT
case2. 中国:車之翼(273店舗、2012年時点)
3-2.タイヤ市場と垂直統合
(ⅲ)海外市場の分析
• 新興国は市場の拡大・成長が予想でき、タイ
ヤ業界に限らずとも魅力的な市場
• 先進国から新興国へその主戦場を移す企業
があっても不思議ではない
そこで、新興国の市場が拡大しているときの、
先進国および新興国での企業の生産量に与え
る影響を、経済モデルを用いて分析する
3-2.タイヤ市場と垂直統合
仮定
• 企業は先進国企業1~3の3社しかなく、この3社のみが先進国市
場と新興国市場の両方に供給している
• 先進国市場を I 、新興国市場を N とし、市場 I と市場 N における
生産量の総量をそれぞれ 𝑋𝐼 、𝑋𝑁 とする
𝟑
𝒙𝑰𝒊 = 𝒙𝑰𝟏 + 𝒙𝑰𝟐 + 𝒙𝑰𝟑
𝑿𝑰 =
𝒊=𝟏
𝟑
𝑵
𝑵
𝑵
𝒙𝑵
𝒊 = 𝒙𝟏 + 𝒙𝟐 + 𝒙𝟑
𝑿𝑵 =
𝒊=𝟏
3-2.タイヤ市場と垂直統合
仮定
• 市場 I と市場 N の逆需要関数
𝑃𝐼 = a − 𝑋𝐼
𝑃𝑁 = 𝑎 − 𝑋𝑁 (𝑏 > 1)
• このときの費用を 𝑐𝑖
(𝑥𝑖𝐼 +𝑐𝑥𝑖𝑁 )2
𝑐𝑖 =
+ (𝑐 < 1)
2
これらの仮定にもとづき、新興国市場拡大している中で、先進国と新興国の
生産量に与える影響について分析
3-2.タイヤ市場と垂直統合
• 先進国市場 の生産量 は、
𝑋𝐼
𝐼
𝐼
𝑎 − 𝑥−1
− 𝑐𝑥1𝑁
𝑎 − 𝑥−2
− 𝑐𝑥2𝑁
=
+
3
3
𝐼
𝑎 − 𝑥−3
− 𝑐𝑥3𝑁
+
3
⇒ 𝑋𝐼 =
(3𝑎−𝑐𝑋𝑁 )
5
• 同様に新興国 の生産量は
⇒ 𝑋𝑁 =
(3𝑎−𝑐𝑋𝐼 )
(4𝑏+𝑐 2 )
3-2.タイヤ市場と垂直統合
• 関数𝑋𝑁 、𝑋𝐼 のグラフ
– 関数𝑋𝑁 の傾き(b)が小さくなっている
⇒新興国市場が拡大している
– 関数𝑋𝑁 の傾きが小さくなったことにより、均衡点が移
動
結果
新興国市場での需要が拡大
– 先進国での生産が減少
– 新興国での生産が増加
3-2.タイヤ市場と垂直統合
●ブリヂストンの売上における地位ごとの内訳
●ブリヂストンのアメリカとアジアの工場数の比較
2006 2013
8
14
タイヤ
2009 2010 2011 2012 2013 傾向
多角化製品
26.2 26.4
23
22.923 18.922 減
日本 アメリカ
アメリカ 43.3 42.4
原材料42.1 43.5 3 45.7 5 微増
13.8 13.3
13.8 11.534 11.941 微減
欧州
計
22.112 23.517 増
その他 16.7 17.9
タイヤ 21
アジア
多角化製品
15
20
原材料
計
6
33
7
44
3-3.新興メーカーの台頭
世界の乗用車生産台数 (万台)
6539
6600
6400
6309
6200
6000
5990
5800
5600
2011
2012
2013
3-3.新興メーカーの台頭
各メーカーの戦略
• 新興メーカー
– 中国に大規模な工場を作り、汎用品を多く売るこ
とでシェアを拡大
• 先進国メーカー
– 高付加価値戦略で差別化
– 新興メーカーにシェアを奪われたが、必ずしも
シェア獲得競争をする必要はない
3-4.ブリヂストンと脱シェア戦略
土俵を変えた取り組みを
しなければいけない
ブリヂストン 荒川詔四元会長
「持続可能な企業経営」のモデルの今後は?
4-1.国内市場の今後について
• 日本の国内タイヤ市場
– 上位5社+ミシュラン、グッドイヤーがほとんどを供給
• 海外市場
– BIG3と呼ばれるブリヂストン、ミシュラン、グッドイヤー
がシェアを落とし、代わって特に新興国地域において
新興メーカーが台頭
日本のタイヤ市場では今後…
• 現在のような状態が続くのか?
• 海外の新興メーカーが進出してくるのか?
4-1.国内市場の今後について
新興メーカーの進出の際の問題は日本への参入障壁
• 参入方法
– 直接投資をし工場を建設
– 貿易で製品を輸入販売
費用面を考えれば、恐らく貿易
• 新興国メーカーの多くは、
– 中国に巨大な工場を持っており、輸送もそれほど難しくは
ない
– しかし、日本での新興国メーカーの販売網の確立は容易
ではない
4-1.国内市場の今後について
• 新車用タイヤ
– タイヤメーカーと自動車メーカーの関係は密接
⇒新車用タイヤを新興メーカーに受注することは考えづらい
• 補修用タイヤ
– 販売場所はタイヤショップ・ディーラー・カー用品店・ガソリンスタンド
タイヤショップ
ディーラー
ガソリンスタンド
カー用品店
:
:
:
:
タイヤメーカーが運営
自動車メーカーが運営
タイヤメーカーと提携している店が多い
プライベートブランドとして低価格タイヤを生産・販
売する店もある
新興国メーカーの日本での市場確保は容易ではない
4-1.国内市場の今後について
• 新興国で手を緩めてまで日本に進出してくることはないのではな
いか
– 新興国市場は現在需要の拡大が著しい
– 現在、新興メーカーは新興国でのシェアを高めている最中
– かつてのブリヂストン
• 北米への進出を目指したブリヂストンはアメリカのファイアストンを買収し、そ
の販売網と生産拠点を手に入れた
巨大な新興メーカーが日本の中規模メーカーを
買収する可能性
新興メーカーが新興国である程度成長し、手詰まりに
新たな進出先として日本を選択
4-2. ブリヂストンの地域戦略
アメリカのファイアストンを買収、世界最大タイヤメーカーに成長
成長の歴史からみると、海外へ進出することは重要な一環
アジア⇒生産能力を倍増
欧州⇒組織再編
米州⇒多角化事業
このほかブリジストンは原材料価格上昇リスクを吸収するために
垂直統合の強化と新事業開発(リトレッドタイヤ)を積極的に行っている
4-3. 今後の戦略について
新興メーカーがさらに力を伸ばした際、
ブリヂストンはどのようにして利益を獲得するか
ⅰ)さらなる脱シェア戦略
ⅱ)新たに市場開拓
4-3. 今後の戦略について
ⅰ)さらなる脱シェア戦略
利益率の低い汎用品の割合を現在より下げ、高付加
価値製品をさらに売り込む
例) 低燃費タイヤ・リトレッドタイヤ
新興国市場でも売れる高付加価値商品
を進めるという、さらなる脱シェア戦略
4-3. 今後の戦略について
ⅱ)市場開拓
自動車社会が未発達の地域で、需要開拓を行う
• 新興メーカーとの差別化
• 市場への影響力
例)ロシア
中央・北アフリカ地域への進出可能性
ご静聴ありがとうございました
名古屋大学 柳瀬ゼミ