甲南大学 経済学部 講座 日本のエネルギー問題について 2001年10月9日 大阪ガス(株) 企画部 井上 雅之 1 本日の講義 1. エネルギーの分類 2. エネルギー問題とは何か 3. エネルギーと経済 4. エネルギーの安定供給 5. エネルギーと環境問題 6. 長期エネルギー需給見通し 7. エネルギー供給に関する制度改革 2 1 .エネルギーの分類 ◆ 一次エネルギーと二次エネルギー 一次エネルギー(供給) 二次(最終)エネルギー 石油 石炭 精製 LNG ガス化 原子力 水力 など 発電 など 重油 灯油 ガソリン LPG 都市ガス 需要 電力 など 3 1 .エネルギーの分類 ◆ 20世紀の日本の一次エネルギー供給 (Mtoe) 600 500 原子力 400 天然ガス 水力 300 石油 200 石炭 薪炭 100 0 1900 1920 1940 1960 1980 2000 (年度) 4 1 .エネルギーの分類 ◆ 最終エネルギー需要部門 民生部門 家庭用 暖房、冷房、給湯、厨房、照明・動力 業務用 暖房、冷房、給湯、厨房、照明・動力 産業部門 熱、動力(業種別) 運輸部門 旅客、貨物(自動車、鉄道、船舶、航空) 5 1 .エネルギーの分類 ◆日本の部門別最終エネルギー消費の推移 400 消費量 10 13 kcal 350 300 250 運輸部門 民生部門 産業部門 200 150 100 50 0 65 67 69 71 73 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 97 年度 出所 日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧(00 年)」 6 家庭用エネルギー消費機器の普及状況 250 ルームエアコン 温風ヒーター 石油ストーブ 温水器 瞬間湯沸器 電気カーペット 温水洗浄便座 電気冷蔵庫 電気掃除機 電気洗濯機 衣類乾燥機 ふとん乾燥機 電子レンジ カラーテレビ VTR パソコン・ワープロ ファクシミリ (台数普及率、100%) 200 150 100 50 0 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 1998 7 出所:(財) 省エネルギーセンター 「家庭用エネルギーハンドブック」 2.エネルギー問題とは何か (エネルギー問題を考える視点) 3E + E Economic Growth(経済成長) Energy Security(エネルギー需給安定) Environmental Protection(環境保全) エネルギー政策の基本目標は、3Eの同時達成にある + Efficiency(効率) 8 2 .エネルギー問題とは何か (エネルギー問題を考える視点) 現行エネルギー政策の基本的考え方 経済成長 経済成長停滞 エネルギー需給の不安定化 →環境保全投資の低迷 →経済成長阻害 環境保全 エネルギー 需給安定 エネルギー消費の増大 →CO2による地球温暖化 ①② 非エ 化ネ 石ル エギ ネー ル有 ギ効 ー利 供用 給 の 促 進 3Eの調和 経済成長 環境保全 エネルギー 需給安定 公正競争を通じた効率的供給の促進 4つめのE(Efficiency) 9 2 .エネルギー問題とは何か (エネルギー問題を考える視点) 3Eの相互関係 ◇CO2抑制のメカニズム CO2= Economy× 経済成長 Energy Economy × エネルギーのGDP 原単位 CO2 Energy エネルギー構造 =エネルギー効率 10 3 .エネルギーと経済(1st E) エネルギー消費の状況 日本の最終エネルギー消費と経済成長率 20% 対前年度 成長率(%) 15% 10% 5% 0% 66 68 70 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 -5% -10% 年度 実質GDP 最終エネルギー消費 出所 日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧(00年)」 11 3 .エネルギーと経済(1st E) エネルギー消費の状況 最終エネルギー消費の推移 年度 エネルギー消費増減 特徴 79-86 ▲0.4% 石油危機、エネルギー利用効率向上、 産業構造変化 86-90 +4.4% 内需主導型好景気、低エネルギーコスト 90-93 +1.3% 景気調整 93-94 +3.7% 景気の緩やかな回復、輸出急増、 猛暑 94-96 +2.2% 景気の緩やかな回復 96-98 ▲0.2% 景気後退 12 3 .エネルギーと経済(1st E) エネルギー消費の状況 産業部門(非製造業、製造業) ・最終エネルギー消費の46.3%(98年度) ←62.5%(65年度) ・産業構造の変化(素材から加工・組立へ) ・省エネルギー投資 13 3 .エネルギーと経済(1st E) エネルギー消費の状況 民生部門(家庭、業務) ・最終エネルギー消費の26.4%(98年度) ←17.2%(65年度) ・増加傾向 ・住環境の改善(生活水準の向上) ・実質所得の向上 ・都心部を中心としたビル建設増加 14 3 .エネルギーと経済(1st E) エネルギー消費状況 運輸部門(旅客輸送、貨物輸送) ・最終エネルギー消費の25.2%(98年度) ←17.6%(65年度) ・増加傾向 ・自家用自動車の普及 ・営業用トラックの増加と配送の多頻度化 15 3 .エネルギーと経済(1st E) 経済成長とエネルギー消費量の関係 GDP原単位 経済とエネルギー需要との関係を見るマクロ的な指標 (エネルギー消費量/GDP にて計算) 世界のGDP当たり一次エネルギー消費(97年) 日本 アメリカ ドイツ 中国 96 278 139 1,067 石油換算トン/95年価格百万米ドル 世界の一人当たり一次エネルギー消費(97年) 日本 4.1 アメリカ 8.1 ドイツ 4.2 中国 0.7 石油換算トン/人 16 国内 GDPと一次エネルギー供給量 1013kcal/兆円 600 18 16 500 400 14 12 ← 一次エネルギー供給 (1013kcal) 300 10 GDP 原単位(kcal/円)→ 8 200 6 4 100 ←実質GDP(兆円) 0 2 0 65 67 69 71 73 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 97 年度 出所 日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧(00年)」 17 3 .エネルギーと経済(1st E) エネルギー消費と人口 本格的な高齢化少子化社会の幕開け ・高齢化(98年に65才以上人口が2,000万人を突破) ・出生率の低下 ・日本人口のピークアウト(07年 1.28億人) ・世帯数の増加 近畿の状況 ・人口のピークアウトは 04~05年の見込み 18 3 .エネルギーと経済(1st E) エネルギー消費とライフスタイル エネルギー需要の増加につながる変化 ・世帯数の増加 ・高齢化と高齢化対応住宅の普及 ・高度情報化 ・個室化の進展 ・余暇時間の増大 ・利便性の追求 19 3 .エネルギーと経済(1st E) エネルギー消費とライフスタイル エネルギー需要の減少につながる変化 ・環境重視志向による生活行動変化 ・省エネ機器の普及 ・住宅断熱化の進展 ・労働時間の減少 ・サマータイムの導入 20 エネルギー消費とライフスタイル ステージ5 ステージ4 「高額投資」 投資回収には長期の時間を要するが、 機器の買い替え時においては考慮すべき項目 「わずかな投資」 ステージ3 投資回収期間が1年以内の 小額投資 ステージ2 「意識した努力」 「少し我慢」を強いる省エネルギー手段 ステージ1 「こまめな気配り」 省エネルギーに対する継続的な気配り 「ちょっとした工夫」 一過性の工夫、 機器の設定時などにおける工夫 21 出所:日本エネルギー経済研究所 「エネルギー経済」1998年11月 エネルギー消費とライフスタイル 生活行為 風呂に入る 暖をとる ちょっとした 工夫 こまめな気配り 意識した努力 わずかな投資 高額投資 涼をとる エアコン室外機の 適正設置(17) 食べる 貯蔵する その他 洗浄便座の適正な 温度設定(18) 外光の採り入れ (17) 不使用時に家電製 品の主電源を切る (93) こまめに消灯(22) 家 族 の 連 続 入 浴 暖房機器のフィル 扇風機を併用(34) 電子レンジでの下 (512) ター掃除(127) 室内機の送風の適 ごしらえ(11) 入浴前の湯入れ 正化(34) (171) 湯を出しすぎない (126) シャワーをこまめ に止める(54) 湯温を下げる(95) 設定温度を下げる フィルターの掃除 魔法瓶の利用(75) 開 閉 回 数 の 減 少 テレビのながら見 (2℃)(315) (17) 電子レンジの待機 (42) をやめる(141) 電源をカット(36) 照明機器カバーを 取り外す(99) 浴槽にふたをする 暖房時には厚手の 「すだれ」などの 扉のパッキングの 電球型蛍光灯への (337) カーテン(303) 活用(17) 交換(84) 取り換え(439) 定量止水バルブの 取り付け(180) 太陽熱温水器の利 断 熱 材 の 施 工 高効率エアコンへ 真空保温調理器の 省エネ型への買い 白熱灯の蛍光灯へ 用(2505) (1158) の取り替え(100) 利用(51) 換え(378) の取り替え(371) (注) ( )内は省エネルギー量(103kcal/年) 出所:日本エネルギー経済研究所 「エネルギー経済」1998年11月 22 ◆ 省エネ意識と省エネ行動 省エネ行動(高) 省エネライフグループ 優等生グループ 全体 の 25% エネ意識 (低) 全体 の 35% 男:女=37%:63% 男:女=50.6%:49.4% 平均年齢=43.4歳 平均年齢=47.4歳 学歴(大学卒)=24.0% 無関心グループ 全体 の 23% 学歴(大学卒)=35.7% 頭でっかちグループ 男:女=51%:49% 男:女=63.6%:36.4% 平均年齢=39.6歳 平均年齢=42.2歳 学歴(大学卒)=36.4% 学歴(大学卒)=48.0% 省エネ行動(低) エネ意識 (高) 全体 の 17% 出所:大阪ガス エネルギー・文化研究所調査1997年 23 4.エネルギーの安定供給(2nd E) ◆ 日本の一次エネルギーの海外依存度(98年 度) 一次供給量シェ 海外依存度 アー 石油 53% 99.8% 石炭 16% 97.6% 天然ガス 12% 96.6% ・原子力を「準国産エネルギー」とすると、トータルの 海外依存度は80% ・原子力を「海外依存エネルギー」とすると、トータル の海外依存度は95% 出所 日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧(00年)」 24 nd .エネルギーの安定供給(2 4 E) ◆ 各国の一次エネルギーの海外依存度 (原子力を「海外依存エネルギー」とする) 日本 95% アメリカ イギリス ドイツ 21% -16% 59% フランス イタリア 48% 82% (日本 98年度、その他 96 年) 出所 日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧(00年)」 25 nd .エネルギーの安定供給(2 4 E) ◆ エネルギー資源確認可採年数 38年 219年 63年 出所 日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧(00年)」 98年末埋蔵確認量/98年採掘量 にて算出 26 5.エネルギーと環境問題(3rd E) ◆ エネルギーに関連する地球環境の破壊 温暖化(CO2の増加) 酸性雨(硫黄分) 海洋汚染(石油タンカー) 熱帯林の減少(樹木の薪、墨利用) 生物種の絶滅(熱帯林の減少) 途上国の公害 ↓ 特にCO2排出抑制が大きな課題 27 世界のCO2排出量のシナリオ 排出量(炭素換算 億トン) 250 200 150 100 50 0 90 00 10 20 出所 環境庁 「環境白書(98年)」 30 40 50 60 70 80 90 年 00 ケース3 早期から強い対策 ケース2 対策を徐々に強化 ケース1 対策が進まず推移 28 rd .エネルギーと環境問題(3 5 E) ◆ 化石燃料のCO2発生量比較 100 石炭 80 石油 57 天然ガス 出所 国際エネルギー機関「Natural Gas Prospects to 2010(86 29 年)」 rd .エネルギーと環境問題(3 5 E) ◆ 地球環境問題への取組み 京都議定書 ・先進締約国で6種類の温室効果ガスの削減 ・08~12までに90年比5%以上削減(日本 6%、アメリカ 7%、EU 8%) 環境会計 ・企業が環境対策にかけた投資・費用、それに伴う効果を金 額で表わした会計 ・大阪ガス 投資8進億円、費用45.2億円、効果9.9億円(99年度) 新エネルギー ・再生エネルギー ・リサイクル型エネルギー ・従来エネルギーの新形態利用 30 6 .長期エネルギー需給見通し ◆ 基準ケースと対策ケース 原油換算百万kl 炭素換算百万t 425 402(99年度) 基準ケース 409 400 425 400 目標ケース 400 375 375 349(90年度) 350 350 313(99年度) 325 基準ケース 最終エネルギー消費 (右目盛→) 300 307 300 目標ケース 275 325 287(90年度) 287 CO 2 排出量 (←左目盛) 250 275 250 225 225 75 80 85 90 年度 95 00 05 10 目標ケース:「環境保全や効率化の要請に対応しつつ、 エネルギーの安定供給を 実現する」ケース 基準ケース:現在の政策枠組みを 維持した場合 31 6 .長期エネルギー需給見通し ◆ 一次エネルギー供給の見通し 5.93億kL 6.02億kL 水力・新エネ 等 原子力 天然ガス 石炭 非化石 エネルギー 化石 エネルギー 石油・LP G 1999年度 2010年度 長期エネルギー需給見通し (単位:原油換算kL) 32 6 .長期エネルギー需給見通し ◆ 原子力発電 4,186億kWh 発電 電力量 設備 容量 3,165億kWh 4,492万kW 5,755~ 6185万kW 2010年度 99年度 51基 +10~12基 61~63基 33 6 .長期エネルギー需給見通し ◆ 新エネルギー見通し 1910万kL 太陽 風力 693万kL 廃棄物 ハ ゙イ オ マ ス 未利用 黒液・ 廃材 全一次 1999年度 エネルギー に占める割合 1.1% 2010年度 ( 長期エネルギー需給見通し) 3%程度 34 7.エネルギー供給に関する制度改革 (規制緩和)4th E(Efficiency) ◆電力・ガス分野での構造改革を求める潮流 ○ 96年12月「経済構造の変革と創造のためのプ ログラム(経済構造改革プログラム)」 ・新規産業の創出や高コスト構造の是正といった諸 課題の解決が目的。 ○ 97年12月「行政改革委員会最終報告」 ・市場原理が働くような経済・社会システム ○ 99年3月「規制緩和推進3ヵ年計画」 ・自己責任原則と市場原理 35 7.エネルギー供給に関する制度改革 (規制緩和)4th E(Efficiency) ◆ ガス事業と電気事業の比較 電力 都市ガス 事業者数 10社 238社 売上げ高 14.5兆円 2.0兆円 需要家数 7,774万戸 2,546万戸 供給面積/全国土 100% 5% 最終消費エネルギシェア 19% 6% その他 地域独占 料金規制 供給義務 保安規制 地域独占 料金規制 供給義務 保安規制 出所 日本ガス協会「ガス事業便覧(99年)」、電事連「電気事業便覧(99年)」 出所 日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧(00年)」 36 7.エネルギー供給に関する制度改革 (規制緩和)4th E(Efficiency) ◆ ガス事業の概要 都市ガス 事業者数 簡易ガス LPガス 241社 1778社 約3.1万社 販売量 214億m3 4.8 億m3 737万t 需要家数 2,546万戸 190万戸 2,640万戸 その他 地域独占 料金規制 供給義務 保安規制 地点供給 料金規制 供給義務 保安規制 保安規制 出所 日本ガス協会「ガス事業便覧」、通産省「石油資料(99年)」など 37 7.エネルギー供給に関する制度改革 (規制緩和)4th E(Efficiency) ◆ アメリカ電気事業の自由化動向 NY 165% 2001 WA 63% Percentages relate state electricity rates to national average; date inside state outline is for full retail access OR 70% 2001 NV 87% 2001 CA 130% 1998 Restructuring legislation enacted Legislation/ Order pending Restructuring under consideration No activityAlaska and Hawaii excludes ID 65% UT 76% AZ 111% 2000 MT 85% 2000 WY 79% CO 91% NM 104% 2002 ND 80% NH 171% 1998 ME 161% 2000 MN 91% WI 90% SD 91% NE 80% IA 100% KS 93% MO 87% 2000 OK 81% 2002 TX 93% 2002 VT 150% MI 107% 2002 PA 109% 2000 OH IL IN 106% 85% 107% 2001 WV 2002 77% KY 68% 2005 TN 77% AR 2002 91% MS AL 86% 80% LA 87% VA 91% 2004 2001 GA 91% NC 98% SC 92% 2002 FL 95% NJ 140% 1999 MA 124% 1998 RI 125% 1998 CT 141% 2000 DE 111% 20/00 DC 98% 2001 MD 103% 2002 38 7.エネルギー供給に関する制度改革 (規制緩和)4th E(Efficiency) ◆ アメリカ ガス事業の自由化動向 39 7.エネルギー供給に関する制度改革 (規制緩和)4th E(Efficiency) ◆ EU諸国におけるガス自由化の状況 2000年 2008年 部分自由化 完全自由化 40 7.エネルギー供給に関する制度改革 (規制緩和)4th E(Efficiency) ◆ EU諸国における電力自由化の状況 1999年 2010年 部分自由化 完全自由化 41
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