塩害 コンクリート工学研究室 岩城 一郎 塩害とは? • 劣化要因:塩化物イオン • 劣化現象:コンクリート中の鋼材の腐食が 塩化物イオンにより促進され,コンクリート のひび割れやはく離,鋼材の断面減少を 引き起こす劣化現象 • 劣化指標:鋼材位置における塩化物イオ ン濃度 塩害劣化のメカニズム 海洋構造物の劣化 融雪剤による道路 構造物の劣化 (上図)酒田河川 国道工事事務所HP (下図)三浦尚, 融雪剤による鉄筋 コンクリート構造物 の劣化,コンクリート 工学,Vol.38,No.6, 2000 部材の性能低下 塩害による劣化 塩害による劣化進行過程 腐食ひび割れの発生 腐食の開始 (鋼材位置における塩化物イオン濃度 ≧鋼材腐食発生限界濃度) 使用期間 (供用年数) 潜伏期 塩化物イオンの拡散 初期含有塩化物イオン濃度 進展期 鋼材の腐食速度 (ひび割れなし) 加速期 劣化期 鋼材の腐食速度 (ひび割れあり) 塩害の影響を受ける構造物 • 海洋構造物 - 海中:塩化物イオンの供給は多い,酸素の供給は十分でない. - 海上大気中:酸素の供給は多い,塩化物イオンの供給は十分でない. - 飛沫帯(Splash Zone):乾湿繰返し作用があり,塩化物イオンおよび 酸素の両者の供給が十分 • 飛来塩分の影響を受ける構造物 コンクリート表面における塩化物イオン濃度は海岸からの距離に依存. 汀線(海と陸が交わる線)から最低1kmまでは考慮する必要あり. • 凍結防止剤(NaCl)の影響を受ける構造物 1991年4月スパイクタイヤの使用禁止による融雪剤散布量の急増→ 海洋構造物より厳しい場合あり.今後,劣化事例が増える恐れあり. • 海砂を用いた構造物 - 山陽新幹線での報道 - 細骨材の塩化物含有量の限度の標準:0.04%(細骨材の絶乾質量に 対する百分率,NaCl換算した値)→この値以下であれば,不動態被膜 を破壊することはないとの実績より. - 瀬戸内海沿岸各県では環境保護の目的で海砂の採取禁止の方向 塩害による劣化の事例 図-2.2.7 健全度 1.0 の状況(ブロック 0102,左:山側面,右は拡大写真) 海洋構造物の損傷事例 海砂の影響を受けた構造物の 損傷事例(Friday, 2006.2.10) 融雪剤の影響を受けた構造物の損傷事例 KEN-Platz HPより 各要因と塩害との関係 • セメントの種類 混和材(特に高炉スラグ微粉末)の使用は,塩化 物イオンの侵入に対して非常に効果がある.フリー デル氏塩の固定化 ※フリーデル氏塩として固定化された塩化物イオ ンは,鉄筋の腐食には関与しない.スラグは塩化 物をフリーデル氏塩として固定化する能力が格段 に高い. • 水セメント比 水セメント比が小さいほど,拡散係数が低減され るため,塩分の侵入に対して効果的である. • ひび割れの存在 ひび割れにより,塩化物イオンの侵入が促進する ことは自明 腐食形態と腐食速度(金沢工業大学宮里教授作成) 欠陥 腐食形態 特長 腐食速度 従来の研究対象 現在の研究対象 なし ミクロセル アノードは全面的 遅い あり マクロセル アノードが局所化 速い Cl- 概念図 Cl- コンクリート コンクリート カ ア カ ア カ ア ミクロセル ミクロセル ミクロセル カ アノード マクロセル カ カ 塩化物イオンの侵入に対する予測 拡散理論を適用(Fickの第2法則) C 2C D 2 t x ここで,C:液相の塩化物イオン濃度,t:時間,x:コンクリート表面からの距離,D:塩化物 イオンの拡散係数 上式を初期条件C(x,0)=0,および境界条件C(0,t)=C0,C0:一定のもとに解くと次式を得る. x C ( x, t ) C0 1 erf ( ) 2 Dt ここで,C(x,t):深さx(cm),時間t(年)における塩化物イオン濃度(kg/m3),C0:表面におけ る塩化物イオン濃度(kg/m3),D:塩化物イオンの見かけの拡散係数(cm2/年),(C(x,t)は, コンクリート中の液相における実際の塩化物イオン濃度のことではなく,コンクリート単位 容積当たりの全塩化物量を指しており,コンクリート中の塩素が塩化物イオンの形態で移 動するメカニズムを正確に表したものではない.) erf:誤差関数 2 z u 2 erf ( z ) e 0 du C0は海岸からの距離によって異なり,Dは水セメント比とセメントの種類による関数で与え られる. 海岸からの距離と構造物表面の 塩化物イオン濃度との関係(示方書〔施工編〕) 14 飛沫帯 C 0(kg/m3) 12 10 8 6 4 2 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 海岸からの距離(km ) ・ さらに構造物の高さ方向の影響を考慮 1 水セメント比と塩化物イオン拡散係数の関係 W /C 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 塩化物イオン拡散係数 D (cm 2/year) 1.E+02 1.E+01 1.E+00 1.E-01 1.E-02 ● 普通ポルトランドセメントコンクリート ▲ 早強ポルトランドセメントコンクリート ■ 混和材料(BS, SF)を用いたコンクリート 1.E-03 普通ポルトランドセメントの場合: log D = - 3.9(W/C)2 + 7.2(W/C) - 2.5 混和材料(BS,SF)の場合: log D = - 3.0(W/C)2 + 5.4(W/C) - 2.2 2002年版コンクリート標準示方書改定資料 注)一桁程度軽くばらつく!! 腐食性環境による影響(OPC,W/C=0.5) 飛沫帯,OPC,W/C=0.5 14 12 塩分濃度(kg/m3) 10 8 供用年数 0.1 1 3 5 10 50 100 6 4 2 0 1.6 1.4 1.2 1 塩分濃度(kg/m3) 16 0.8 海岸より1km,OPC,W/C=0.5 供用年数 0.1 1 3 5 10 50 100 0.6 0.4 0.2 0 0 10 20 30 40 50 60 70 コンクリート表面からの距離(mm) 0 10 20 30 40 50 60 70 コンクリート表面からの距離(mm) 水セメント比による影響(飛沫帯,OPC) 飛沫帯,OPC,W/C=0.5 14 12 塩分濃度(kg/m3) 10 8 供用年数 0.1 1 3 5 10 50 100 6 4 2 0 16 14 12 10 塩分濃度(kg/m3) 16 8 飛沫帯,OPC,W/C=0.3 供用年数 0.1 1 3 5 10 50 100 6 4 2 0 0 10 20 30 40 50 60 70 コンクリート表面からの距離(mm) 0 10 20 30 40 50 60 70 コンクリート表面からの距離(mm) セメントの種類による影響(飛沫帯,W/C=0.5) 飛沫帯,OPC,W/C=0.5 14 12 塩分濃度(kg/m3) 10 8 供用年数 0.1 1 3 5 10 50 100 6 4 2 0 16 14 12 10 塩分濃度(kg/m3) 16 8 飛沫帯,BS,W/C=0.5 供用年数 0.1 1 3 5 10 50 100 6 4 2 0 0 10 20 30 40 50 60 70 コンクリート表面からの距離(mm) 0 10 20 30 40 50 60 70 コンクリート表面からの距離(mm) セメントの種類による影響(飛沫帯,W/C=0.3) 14 12 塩分濃度(kg/m3) 10 8 飛沫帯,OPC,W/C=0.3 供用年数 0.1 1 3 5 10 50 100 6 4 2 16 14 12 10 塩分濃度(kg/m3) 16 8 飛沫帯,BS,W/C=0.3 供用年数 0.1 1 3 5 10 50 100 6 4 2 0 0 0 10 20 30 40 50 60 70 コンクリート表面からの距離(mm) 0 10 20 30 40 50 60 70 コンクリート表面からの距離(mm) 塩害に対する対策 • コンクリートに含まれる塩化物イオンの量 をできるだけ少なくする. • 水セメント比の低いコンクリートを用いる. • 混合セメントを使用する. • かぶりを十分にとる. • ひび割れ幅を制御する(小さくする). →それでもだめなとき(飛沫帯等),樹脂塗 装鉄筋の使用,電気化学的防食工法の採 用(補修・補強で講義)
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