宣教における基本的要素

宣教学通論
-時代の動向を知ること-
中央聖書神学校
2008年前期
宣教における基本的要素
1.認識的 (Cognitive)
2.行動的 (Behavioral)
3.感性的 (Affective)
宣教における基本的要素
1.認識的
(Cognitive)

「宣教」の典拠を知ること

「宣教」の対象を知ること

「宣教」の時代を知ること
宣教における基本的要素

認識的(Cognitive)基本要素(3)
 時代を知ること
 流転する時代を読みとる必要
 時代に即した宣教の必要
 主イエスの時代の読み方
変化の時代
我々は変化の時代に住んでいる。その
変化の時代とは、既に満足できないパ
ラダイムと、まだ、大部分無定型ではっ
きりしないパラダイムの間にあるボー
ダーライン上の時代といえる。パラダイ
ムが転換する時代というのは、その性
質上、危機の時代である。
変化の時代のキーワード
1.パラダイム・シフト
2.ポスト・モダン
3.複雑系(Complex System)
パラダイム・シフト

トーマス・クーン(Thomas S. Kuhn、1922-1996)

科学史・科学哲学専門(ハーバード大学)

『科学革命の構造』(1962)

累積的なものではなく、断続的に革命的変化をする科
学の歴史を主張
 用語「パラダイムシフト」の安易な拡大・流行
 科学の合理性と客観性を否定する相対主義者・非
合理主義者と非難される。
 後にパラダイム概念を放棄、「専門図式」を提唱
パラダイム・シフト

パラダイム(Paradigm)

用語の辞書的意味=「理論的枠組み」
 「時代の思考を決める大きな枠組み」
 本来クーンが意図した意味ではない。
 実証主義的科学論に打撃を与えたパラダイム・シ
フト論

パラダイム・シフト論に平行して開発された「複雑系」
 科学優先の「還元主義」への挑戦(カオス理論)
パラダイム・シフト

分析的にではなく包括的な思考

乖離より統合の強調

二元性(知性と肉体・主体と客体)の克服
D.ボッシュ、『宣教のパラダイム転換』
パラダイム・シフト
啓蒙主義を通り越してきた今となって
は、私たちの「信頼性の枠組み」を厳し
い批判にさらさないことは無責任であ
る。・・・今まで当然とされていたものと
は違う真理の捉え方の可能性に対して、
いつまでも真剣に取り組もうとしないこ
とも無責任であろう。
パラダイム・シフト
啓蒙主義の手段的理性は、コミュニケーショ
ン的理性によって補完されなければならな
い。人間存在は、明確に間主観的存在であ
るからだ。このことは、教会をキリストの体と
して、また、キリスト教宣教を運命共同体の
形成として再発見することに関わっている。
D.ボッシュ、『宣教のパラダイム転換』 p.187
ポスト・モダニズムの時代

主知主義・合理主義への挑戦

二元論的枠組みからの脱却

還元主義の回避

客観主義的論理体系への不信

非概念的神学の営みへの関心

包括的・関係論的パラダイム
ポスト・モダニズムの時代


道徳的価値が多様化している時代

多元的倫理観の許容

倫理・道徳への無関心
普遍的(絶対的)道徳規準への懐疑


相対的倫理・状況倫理の乱立
直接的な利益と結びついている功利主義的倫理

急速に衰退するキリスト教倫理の影響力
ポストモダンと神学
ポストモダンであることが我々の神学に
取って重要であるのは、神学が未信者に提
示される点にあるだろう。換言すれば、教義
的或いは構成的な働きの次元よりもむしろ、
伝道的あるいは弁証的な役割にあるという
ことである。
教神学』p.193
エリクソン『キリスト
ポストモダンと福音伝達
書かれた神のみ言葉における権威
の所在は、文章(表現形式)よりも命題
(表現されている真理)であると理解す
る必要がある。そこで、例えば、あるポ
ストモダンの状況では、伝達の方策とし
て物語を使用することが特に助けとな
るだろう。
エリクソン『キリスト教神学』p.194
ポスト・モダン時代の宣教

イメージの重要性
 聖書のイメージを黙想
 イメージを抱かせる例話

コミュニティーの重要性
 小グループ活動(αコース)

物語の重要性
 概念的議論でなく、個人の物語(証詞)の提示
(アリスター・マックグラス:Oxford大学歴史神学教授、5月来日講演)
ポスト・モダニズム
-その功-

啓蒙主義の影響で置き忘れた面の指摘
-人間の情緒・感性
-神秘の世界・超越的な霊的領域

ポスト・モダニズムの強調
-想像性、関係性、全体性
-未完結性、地域性
(pp.11-14)
ポスト・モダニズム
-その功-
「福音主義はポスト・モダニズムと基本的
な合意がある」 S・J・グレンツ(丸山の引用)
-福音主義の近代主義に対するアンチ的性格
-ポスト・モダニズムと同じ視点・共通項の共有
(pp.11-14)
ポスト・モダニズム
-その功-

福音派の復活に貢献
- 合理主義的世界観から「前近代的」・ナンセ
ンスと処理されていた福音派
- 理性中心の単線的一元化を排するポスト・モ
ダニズム
・多様性・輻輳性・脱合理性の主張
- 福音主義の台頭を促進
(pp.11-14)
ポスト・モダニズム
-その功-

反科学万能主義
- 脱近代的合理主義
- 人々の思考を不自由にした科学的思考
- 心の豊かさを奪った科学的思考
- 東洋思想への関心の高揚
(宇田、p.p.98-99)
ポスト・モダニズム
-その罪-

ポスト・モダニズムの危険性
- 明確な定義の不在
- 宣教・伝道方策の出発点としては危険
- 多元主義の主張・感性/神秘の強調による東
洋宗教思想との融合
- 独自性を失った福音提示の危険
「キリスト教の一般文化史への解消」
(R・ローテ)
(pp.11-14)
ポスト・モダニズム
-その罪-

ポスト・モダニズムの危険性
-反ロゴス主義
-大きな計画、世界観、救済史の破棄
-「小さい物語」を強調
-「共生」の必要
-「真理は未完成」と主張 (p.73)
ポスト・モダニズム
-その罪-

ポスト・モダニズムの危険性
- 理性的思考に対する懐疑主義の台頭
- 「主観」の数だけ真理があるとする「知の
アナキズム」
- 感性主義の加速化
(宇田、p.98)
ポスト・モダニズム
-その罪-

ポスト・モダニズムの危険性
- 反システム的心情の主張
- 科学技術管理の呪縛の中で起こりつつ
ある「非人間化現象」からの解放を、「美」・
「エロス」・「ロマン」の世界に求める態度
ー 価値相対主義
(宇田、p.98)
三つの革命の時代
情報革命(
I T革命)
遺伝子革命
ナノ革命(10億分の1-10
-9)
情報革命の落とし子
グローバル化システム
デジタル・ディバイド
(情報格差)
グローバル化システム
サイバー・
スペース
(国境のない電脳空間)
宣教
グローバリゼーション
ボーダレス現象
グローバル化システム
ルリ
のバ
拡イ
大バ
サイバー・
スペース
教
ダ会
レの
スボ
化ー
グローバル化システム
雇用システム
終
身
雇
用
制
年
功
序
列
制
価値システム
伝
業
統
績
利益社会
的
主
価
義
値
観
共同社会
価個
値人
観主
義
的
情報革命
的社
疎会
外・
心
感
理
サイバー・
スペース
デ(
情
デ
ィジ報
バ
イタ格
ドル差
)・
経
済
格
差
デジタル情報
知識ではない
断片的である
前後の脈絡は弱い
遺伝子革命
「生物学は、我々が人間の『尊厳』と思って
いたことが幻想であることを明らかにして
きた。人間を特別に『尊厳』と呼び、他の生
物に比べて上等なものだという考えは、生
物学が明らかにしつつある本質的な知見
とはあわない」、そして、「我々は数ある種
の一つにすぎない」
機械である・機械になる人間
ロドニー・ブルックス(MIT人工知能研究所)
「人間とはそもそも生理的な機械に過
ぎない。魂などというものはない。
人体は、素粒子の物理的性質に従っ
て一定のパターンで相互作用する分
子の集まり以上の何ものでもな
い。」
(Newsweek、2001/01)
遺伝子革命といのちの倫理


神が創造した自然の法則

①人間の生命の誕生 ②人間の生命の終焉

人が土足で踏み込んではならないはずの神聖な領
域・厳粛な事実

人間の決断と判断を許さぬ聖域
自然の法則の書き換えを可能にした科学

「生と死」を左右するための決断と判断を課せられた
あまりにも重い人間の責任
遺伝子革命といのちの倫理
無
病
息
災
不
老
長
寿
人間の本質的願望
生
命
操
作
医
療
施
設
経
営
と
の
癒
着
人
間
性
の
尊
厳
崩
壊
遺伝子操作といのちの倫理
「神が与えて下さったいのちへの操
作を人間が行うことは、正当化され
るのであろうか?」 (神田健次)

教会に問われている21世紀の重要な課題

「生と死」の聖書的理解の推進

生命操作に対する適切な条件の提示
遺伝子操作といのちの倫理
生命への人為的操作で、生命の在り
方を変えようとすること自体が、エデン
における人間の過ちそのものと似てい
るように思えてならない。生命を人為的
に操作することが人体改造的に魅力的
遺伝子操作といのちの倫理
に語られると、今もその後ろに、あのエ
デンのそのでアダムとエバを惑わした
サタンがいるのではないかと疑うことも
大切。(藤本満:プリンストン大学、リー・シルヴァー教授の
“Remaking of Eden”に反論して、『福音主義神学』
Vol.34、2003)
『これからの日本-四つの課題』
編者
国務大臣・中山太郎
国立民族学博物館長
梅棹忠夫
 サイマル出版社
 1981年

宣教における預言者的視点
「私は、見張り所に立ち、とりで
にしかと立って見張り、主が私
に何を語り、私の訴えに何と答
えるかを見よう。」 (ハバクク2:1)
公同的神学
「神学は神のことばである聖書に
よって、厳密に自らを律しつつ、そ
の時代の教会に仕え、世界に向かっ
て発言する、その意味では、神学は
きわめて公同的なものである」
C.F.ヴィスロフ『現代神学小史』いのちのことば社p.13
神学者・宣教者
「祈りと、瞑想と、
試練が神学者(宣教者)
をつくる。」 ルター
C.E.ヴィスロフ、『現代神学小史』
使徒パウロ
私はすべての人に、すべてのものと
なりました。それは、何とかして、幾
人かでも救うためです。 私はすべて
のことを、福音のためにしています。
それは、私も福音の恵みをともに受
ける者となるためなのです。
(1コリ9:22-23)