2012年度冬学期「刑事訴訟法」11-2 公訴の提起(2) 検察審査会制度 (a) 概要 ○1948年7月法制定・施行 「公訴権の行使に民意を反映させてその適正を図る」 ○各地方裁判所・主要な支部の所在地に1~6設置 ⇒全国で165(2010年10月現在) ・事務は裁判所が担当 ○管轄区域内の衆議院議員の選挙権を有する者の中からくじ で選定した11名の審査員により構成 ・3ヵ月ごとに半数ずつ選定,任期は6ヵ月 ○検察官の不起訴処分に対し,告訴人・告発人・請求人又は被 害者等の申立を受け,あるいは職権で,その当否を審査 ・検察事務の改善に関する建議・勧告をする権限も 2 ○審査 ・審査員の互選による審査会長の主宰 ・事務局が用意した事件概要と検察官から提出された資料に基づく ・審査会の要求があるときは,検察官は資料の提出,出席・意見の開陳 の義務。 ・証人の呼出し・尋問も可能 ○議決 ・「不起訴相当」,「不起訴不当」は過半数 ・「起訴相当」は8名以上の賛成必要 ○「起訴相当」,「不起訴不当」議決後の措置 ・議決書の謄本を,原不起訴処分をした検察官を指揮監督する地方検察庁 検事正に通知⇒原処分をした検察官より上席の検察官に事件を割り当 て,再捜査・再処分 (改革前:検察審査会の議決に拘束力なし) 3 (b) 改革 ○司法制度改革審議会提言(2001.7) ○2つの視点 ○司法への国民参加の意義の強化=民意をより反映 ○刑事司法の改善 ・犯罪被害者の権利擁護 ・国民の関心の強い事件の公開の法廷での事実解明・処理 ○他方で,安易な訴追の防止・公平な訴追の確保の要請 4 ○改革の要点 ◇起訴相当議決への法的拘束力の付与(2段階方式) ①検察審査会が起訴相当の議決をした後,検察官が再考しても不起訴 処分を維持したとき,あるいは原則として3ヵ月以内に処分をしなかっ たときは,検察審査会は再審査を行う(申立人に不服がないときを除く)。 ②検察審査会が再審査の結果,起訴すべき旨の議決をしたときは,公訴 が提起される。 ◇審査の充実 ・弁護士の審査補助員による補助・助言(法令の説明,法律面・事実面での 論点・証拠の整理,法的助言)を可能に ⇒②の起訴議決のためには必須 ・②の起訴議決をする前に,検察官の意見を聴くことを必須とする。 ◇拘束力ある議決後の指定弁護士による公訴提起・維持 ・裁判所が弁護士の中から,公訴の提起・維持に当たる弁護士を指定。 公訴権濫用論 ○「公訴権濫用」論の3類型 1) 嫌疑なき起訴 2) 違法捜査に基づく起訴 3) 狭義の公訴権濫用による起訴 ・悪意による起訴 ・差別的起訴 ・起訴裁量権の逸脱・濫用による起訴 嫌疑は公訴提起の要件か? 有効性,妥当性? ・理論的正当性,妥当性? チッソ川本事件最高裁決定(百選41事件) ○公訴提起が検察官の裁量権の逸脱によるものであったからといって 直ちに無効とはならない。 ○検察官の裁量権の逸脱が公訴提起を無効ならしめる場合があり得ること は否定できないが, それは,例えば「公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な 場合」に限られる。 ○起訴・不起訴の当不当は,犯罪事実の外面だけによって判断することは できないから,他の事件との対比を理由として公訴提起を不当とした原 判決の判断は直ちに首肯することができない。 ⇒まして,極限的な場合に当たるとは,とうてい考えられない。 科刑上一罪と公訴時効(1) ○個別説・・・学説の多数説 科刑上一罪=本来別々の罪,科刑の上で一つの刑罰で処置すること にしているに過ぎない ⇒科刑上一罪を構成する各罪について個別に考える ・公訴時効期間・・・それぞれの罪の法定刑を基準とする ・起算点・進行も,それぞれの罪について別個に 科刑上一罪と公訴時効(2) ○一体説・・・判例 科刑上一罪=一個の刑罰権の対象,一体として処理すること必要 ⇒全体を一体として扱う ・公訴時効期間は,科刑上一罪を構成する罪のうち最も重い罪の法 定刑を基準とする ・起算点は,それらの罪のうち最終のものの結果発生時 ⇒その時点から全体について公訴時効が進行 例外:牽連犯の場合・・・ひっかかり論 手 目 起 段 的 訴 手 目 起 段 的 訴 〔両方の罪について 公訴時効未完成〕 〔手段である罪について は公訴時効完成,目的 である罪についてのみ 公訴は有効〕 チッソ水俣病刑事事件:争点 争 点 検察側 弁護側 第1審 控訴審 最高裁 業務上過失 被害者死亡 傷害発生 致死事件に 時 (被害者誕 生)時 おける公訴 時効の起算 点 業過傷と業 (F関係を除 過死それぞ き)被害者 れの成立時 死亡時 から 観念的競合 一体的 を構成する 各罪につい ての公訴時 効の進行: 個別的か一 体的か 個別的 業過傷と業 過死それぞ れの成立時 から算定し, 引っかかる 範囲で一体 的に (F関係を除 一体的 き)業過死 の成立時か ら算定し, 引っかかる 範囲で一体 的に すべての被 害者との関 係で公訴時 効完成 D,Gとの関 係に限って 公訴時効未 完成 D,Gとの関 係に限って 公訴時効未 完成 結 論 すべての被 害者との関 係で公訴時 効未完成 被害者死亡 時 すべての被 害者との関 係で公訴時 効未完成 検察側・弁護側の主張と各審級裁判所の判定 F E D C A 34 ・ 4 ・ 6 第1審 控訴審 検・最高裁 起 B G 34 ・ 9 ・ 12 34 ・ 12 ・ 5 弁 35 ・ 8 ・ 28 訴 46 ・ 12 ・ 16 48 ・ 6 ・ 10 51 ・ 5 ・ 4
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