心理鑑定の実践例① 供述心理分析

心理鑑定と供述分析
脇中 洋
1.心理鑑定
心理学のトレーニングを受けた者は、まず取りたい
データをコントロールする。だが、与えられた
制御不能の供述を前にすると、途方に暮れる…
・人格鑑定・認知機能や精神発達年齢の査定
→ 一般的傾向に過ぎない
・会話分析→ 実際の取調べ場面のデータがな
い
・再現実験→ 一般論、確率論に過ぎない
2.供述分析とは(1)
• 与えられた供述を対象に
体験性の有無(無実の徴候)を見出す
「汚染されたデータの洗い直し」(浜田寿美男)
3.供述分析とは(2)
• 刑事裁判:
有罪立証(検察側)←→反証、弾劾(弁護側)
• 供述分析:
2仮説の提示=有罪仮説・無罪仮説
(帰無仮説と対立仮説)
「どちらが供述内容を妥当に説明できるか」
4.供述分析とは(3)
• 変遷を手掛かりとした嘘分析
供述a→供述b
「少なくともいずれかは嘘。
どちらの嘘に“理由”が見出せるか。」
Ex. 有罪仮説:虚偽→真実
無罪仮説: 真実→虚偽
5.供述分析とは(4)
• 無知の暴露供述「真犯人ならばつかない嘘」
• 逆行的構成「結末を知っている人間の
体験性を欠いた想像的供述」
6.供述分析とは(5)
• 自白への
転落過程と展開過程(の間)を見抜く
「無実者は犯人に扮して犯行供述を作話」
←体験者は犯行手続き供述の展開において
理由のない変遷を見せない
(自己の罪を軽くしようとする半落ちとは異なる)
7.具体的な分析手法(1)
• すべての供述を網羅的かつ時系列順に並べる。
• 捜査段階の最初期の供述を重視する。
• 些細な変遷や公判証言との矛盾を
見落とさない。
• 実況見分によって作られた疑似的「体験性」を見
抜く。
• 現実(証拠物)との矛盾を検討する。
↓
主体として内側を生きるその人の体験性
を反映した記憶、供述であるかどうか。
8.具体的な分析手法(2)
• 共犯者や第三者目撃証言がある場合は、時間軸だけでな
く横の拡がりを(誘導可能性)を見る。
• 痴漢や強姦等の性的犯罪は、被害者供述の体験性や背
後にある人間関係を見る。
• 被疑者・被告人供述においても利害関係や
利益誘導を受けた可能性を見る。
• 新たな汚染されていないデータを取って反証する。
訴訟能力「黙秘権の告知理解」「ありえない表現」
~供述が多ければ多いほど、無実の徴候を見出し
やすいが、分析の手間は膨大 →供述の電子化が課題
9.供述分析の特性(まとめ)
「歴史学的」検討
…供述内容の時間経過に伴う変化(生成・変遷)を
時間の関数として見る。
• 状況論的、関係論的検討
…個体能力を見るのではなく、周辺状況や
人間関係の社会調査を試みる。 ×作話癖
• 個別性の心理学
…外から見た一般的傾向でなく、個別対象者、
個別の出来事に焦点化していく。
• 内側を生きる人間
…外側から見た特性ではなく、時間と体験を生きる
その人の行動を、内側から読み込む。
↓
発達臨床心理学的特性 ex.強度行動障害者の見立て
10.問題点と今後の課題
• 無罪方向の証明だけでなく、有罪の立証を担った経験が
ほとんどない(中立性の担保)
• 同じ有罪でも、動機や事実関係の誤りを指摘する仕事(事
件関与型・浜田)はより理解されにくい。
• 司法の場において確立されていない役割
• 裁判員制度や可視化が進んだ際の役割
• 経験則とのすり合わせ
• 既成の方法論にのみ基づく精神鑑定批判の可能性
• 既成の心理学を離れているので後進の育成が困難
• 多大な私的コスト(依頼人、弁護人)
• 定式化した方法の未確立(職人仕事)
~誰にでも依頼・受任できるようで、そうではない。
ありがとうございました。
※写真は、R-GIRO[法と心理学」研究拠点の創生 による
カナダ視察(オンタリオ州立裁判所old City hall
2010年3月15日)