21世紀経済産業政策の課題と展望(概要) 平成11年10月21日 通 商 産 業 省 1 目次: • (論点6)マクロ経済成長についての考え方如何 • (論点7)我が国経済全体の将来像をどう描くか • (付属資料)マクロ経済関連の試算概要 • (論点8)我が国の経済社会を、どういった尺度で評価すべきか • (論点9)我が国産業の長期的展望をどう考えるか • (論点10)将来発展する産業群には何があるか 2 (論点6) マクロ経済成長についての考え方如何? 経済成長が必要 経済成長は不要 ○将来世代の負担の軽減 ○人口減少下における一人 当たり経済成長の実現 ●高齢化が一層進展するため、年金、医療等の負担が増大。こうした国民の間での 所得分配問題が急激に深刻化することを避け、再分配を円滑化。 ●公的部門の累積債務、膨大なストックのメンテナンス負担など、今後必要となる次 世代への負担を軽減。 ○国際社会における義務の履行、諸外国からの期待へ の対応 ●世界における発言力の確保、国益の確保のためには、経済的に一定の規模が必 要。 ●国際社会の中で既に大きな地位を占めている我が国にとって、国際的公共財の 提供等の国際社会の中での義務の履行、地球環境問題等における諸外国から の期待への対応のためには一定の経済力が必要。 ○国民の活力の維持・向上 ●我が国は既にある程度の物質的充足が 達成されており、マクロ的な経済成長が なくとも、人口が減少する今後は、一人 当たりGDPは増加し、十分な豊かさを 享受することが可能。 ○環境面での制約の顕在化 ●経済成長の持続は環境制約の深刻化 要因。 一人当たりGDP ●個々人が将来に期待を持ち、多様な価値を実現するためには、「フロンティア」を 常に生み出すことが必要。 ●精神的豊かさは、企業のメセナ活動等に見られるように、強靱な経済基盤があっ て初めて実現可能。 約212万円 一人当たりGDP 約390万円 GDP 約237兆円 世界に占める割合 約8%(1973名目値比較) 1975 1997 (実質値:1990年基準) GDP 約492兆円 世界に占める割合 約15% 3 (論点7) 我が国経済全体の将来像をどう描くか? 20 25 年 改 放 革 ケ 置 ケ ー ス ー ス 98 年 (注) 1) 経済成長率(実質GDP成長率)、勤労者一人当たり手取所得伸び率は、それぞれ2000~2010年度、2010~2025年度の年平均伸び率 2) これらの数字は種々の前提をおいて参考までに行ったものであり、幅を持って捉えるべきものである。 うち一般会 計における 公共事業関 係費 19 約▲121% 約▲67% 25 約▲201% 約▲428% 20 財政赤字ストック (対GDP比) 年 (%) ○現状で推移した場合 ・2025年までには潜在成長率がTFPの低迷、労働力人口の減少等により、平均でマイナスへ転落。 ・一人当たりGDPは、人口の減少のため、かろうじてプラスを維持するものの、高齢者への社会保障移転の増大により勤労者一人当たり手 取所得は減少。 ・国民負担率は6割を超え、財政赤字ストックは対GDP比400%超となり、次世代への過重な負担となる。 ○思い切った経済社会システム変革を伴うが、挑戦の価値のある姿。 ・経済活力の上昇を図りつつ、経済成長率は約2%を維持。 20 政府規模の対GDP比 ・国民負担率は5割を超えず、一人当たり手取所得も増え続け、持続可能な経済を達成。 18.4 18 14.6 放置ケース 改革ケース 16 14 12.5 2010年度 2025年度 2010年度 2025年度 12 経済成長率(注1) 約 0.7% 約▲0.2% 約 2.1% 約 1.8% 10 国民一人当たり経済成 8 長率(注1) 約 0.7% 約 0.3% 約 2.1% 約 2.2% 6 一般会計 勤労者一人当たり手取 (国債費を除 4 く) 2 3.1 3.1 り所得伸び率(注1) 約▲0.3% 約▲3.0% 約 1.6% 約 1.4% 0 1.6 国民負担率 約 44% 約 63% 約 41% 約 49% (本試算で前提とした主な改革) ①経済活力の回復 参画:高齢者・女性の参画拡大(女性労働力のM字カーブの解消(放置ケースに比較して約50万人の増加)が進展。高齢者参画が進展(現在に比較して約五百 万人の増加)。 TFP:R&D,IT投資の活発化による上昇(R&D及びIT投資の毎年約5~7%増加により、2%成長は実現可能な射程内(後掲試算参照)。) ②小さな政府の実現 財政:今後10年程度でプライマリーバランスを回復(公共投資、アウトソーシングの活用等による一般経費の削減により中央政府支出の対GDP比約18(放 置)%→約13(改革)%を達成。) 社会保障:既に予定されている年金改革に加え、医療関連業務における民間サービス業者の一層の活用、薬剤等にかかる費用の節 4 減を実施(国民医療費の約6%程度の削減効果を期待)。 (付属資料) マクロ経済関連の試算概要(詳細は参考資料集参照) [労働人口減少下での潜在成長力] [高齢化需要と公共投資の比較] ①我が国経済の潜在成長力を今後押し下げていく 最も深刻な要因として、少子高齢化による労働 力供給の減少が注視されている。 ①生産波及効果では、医療福祉よりも公共投資の 方が大きいことは事実。 労働力の減少率 年平均 0.6%(1998~2025年、人・時間) ②しかし、研究開発や情報化関連を除いた労働力 の量的投入増加が供給力増大につながる効 果はこれまでも大きくなかった。 弾性値 労働 0.33 資本 0.46 R&D IT 0.12 0.09 (注)1981~96年の製造業データで一次同時を仮定してトランスログ 関数を推定し平均値で評価した付加価値弾性値 ③このため、労働力人口の量的減少が直接に成長 を押し下げる効果は、非常に小さい。その影響 はR&D・ITの増加で十分相殺可能。 予想される労働力減による付加価値減 R&D・ITの各0.9%増による付加価値増 △0.18% +0.19% ④従って、R&D・ITを7%増加させ続ければ、資本 蓄積を1%台半ばの伸びに抑えても、労働力 人口減少下において2%程度の成長は実現可 能な射程に入り得ると計算される。 労働(△0.6%×0.33)+資本(1.6%×0.46)+R&D・IT(7%×(0.12+0.09)) =2% (注)R&D伸び率実績:7%(弾性値推計期間における平均) 土木建築業需要10兆円減→国内生産19兆円減 医療福祉需要10兆円増 → 16兆円増 (注)1995年産業連関表の係数による一次効果の試算 ②しかし、高齢化による医療福祉需要増は莫大。 社会保障給付費( 97年厚生省発表の2%成長ケース) 65兆円→230兆円(2025年) 年伸び率+4.3% ③このため、高齢化による医療福祉需要増大が 産業に与える効果は、公共投資削減の効果 を上回る。 生産 医療福祉産業 土木建築業 従業者 医療福祉産業 土木建築業 50兆円 → 164兆円 53(うち公的資本32) → 67(29) 414万人→ 756万人 424 → 274 (注)1995年産業連関表の係数を用いて2025年までの2%成長持続を前提とした機械的試算。 社会保障費のうち経済全体の成長率を上回る増分について公共事業削減で不足する 額は世代間移転とみなし、残りが需要増になると想定。公的固定資本形成の伸びは、 マクロ展望の改革ケースに相当。両産業の従業者数は、生産額に雇用係数を乗じた 後、総労働人口の減少を加味。 ④従って、公共事業削減による財政構造改革を実 行しても、地域の産業は、高齢化対応へと転 換することによって、内需主導の生産・雇用拡 大を実現可能。 5 (論点8) 我が国の経済社会を、どういった尺度で評価すべきか 21世紀に目指す経済社会の姿を測る尺度としては、GDP以外に以下のような指標に注目すべきではないか? 創造性の拡大 多参画社会の形成 生活における豊かさの向上 ・競争力ある「知的資産」の拡大 ・高齢者の参画しやすさ ・生活空間の充実 我が国の特許件数は先進諸国と比較しても多 いにもかかわらず、技術、ノウハウ貿易(特許等 使用料)の収支は輸入超が続き、「知的資産」の 海外依存が継続。人的資源が我が国唯一の資源 であることを踏まえれば、今後、その創造性の最 大限の発揮により、競争力の確保と国際的な知 的貢献が必要。 高齢者の比率が著しく高まる中、高齢者自身の 自己実現と共に、その知見・経験の社会的活用 が重要。我が国の高齢者は労働を通した社会参 画への意識が高いが、社会奉仕活動なども含め た社会への参画率は現在およそ4割程度である。 我が国ストックの脆弱性が指摘される中、その象徴 である一人あたり室床面積は増加(約20㎡(1973)→ 30㎡(1993))しているものの依然欧米に遠く及ばない。 (生活空間倍増戦略プラン(1999年1月)において、今 後5年間で欧州並みの40㎡弱とすることとされた。) 今後は2025年にかけて、これに注 目し、希望する人全員が何らかの 形で社会参画するおよそ6割程度 を目指すべきではないか。 今後は2025年にかけて、これに注目 し、現在の欧米並み(50 ㎡) を目指す べきではないか。 ・女性の参画しやすさ 環境制約が深刻化する中、我が国の環境対応は省 エネ技術、3R(リデュース、リユース、リサイクル)など 循環型経済システムの構築に向けた取り組みを中心 に進んでいるものの、その象徴的な指標としてのリサ イクル率は、狭小な国土の割に、向上させる余地があ る。 今後は2025年にかけて、「知的資 産」輸出入比に注目し、その世界最 高水準を目指すべきではないか。 主要先進国の「知的資産」輸出入比率 10 10.56 9.79 9.11 5.71 米国 英国 1 1.07 0.2 0.1 1.16 独国 0.42 0.39 0.3 1.33 1975 1.32 0.85 0.67 0.49 0.48 0.27 0.52 0.51 0.31 0.52 0.41 0.77 0.64 0.51 女性の社会参画が求められる中、女性が育児 等のために一時的に職場を離れることにより、労 働力率が30歳前後で急激に減少する「M字カー ブ」は、他の先進諸国に比べて、我が国では非常 に顕著。(M字カーブによる女性労働力の減少割 合 8.7%(1975)→4.4%(1998),米 0%,独0.2%,仏 0.3%(1996)) 日本 0.13 1971 4.27 (「知的資産」輸出額)/(「知的資産」輸入額) 1.02 仏国 0.39 5.31 1980 1985 出所:日銀「国際収支統計」 注) 「特許等使用料」は、特許、ノウハウ等に関する権利、技術指導等に対する 対価であり、技術、ノウハウという知的資産の貿易を示すもの。 1990 出所:日銀「国際収支統計」 注) 「特許等使用料」は、特許、ノウハウ 等に関する権利、技術指導等に対する 対価であり、技術、ノウハウという知的資 産の貿易を示すもの。 1995 今後は2025年にかけて、この欧米 との差に注目し、これの解消を目指 すべきではないか。 ・環境との調和 (紙・ボール紙リサイクル率(1998) 独61% 蘭71% 日55% ガラスリサイクル率(1995) 独75% 蘭80% 日 74%(1998)) 今後は2025年にかけて、世界に先駆 けた環境国家となるべく、これに注目 し世界最高水準の製造業製品のリサ イクル率を目指すべきではないか。 6 (論点9) 我が国産業の長期的展望をどう考えるか。 [基本認識] ●我が国は、拡大する国内市場の存在、低廉・豊富な労働力、高い貯蓄性向、欧米先進技術の積極移入等を通じ、主に製造業の強い競争力 に牽引される形で世界第二位の経済大国に成長。 ●経済のサービス化、情報化、市場の一体化が進展する中でも、我が国経済の発展基盤は、現に有している我が国産業の強みの上に構築す ることが重要。 [我が国産業の強み]高度な国内市場、質の高い労働力(学力、勤労モラル)、商品開発に直結した研究開発、生産・公害防止・省エネ 技術の優位性、高度な素材産業・部品等のサポーティングインダストリー群の存在 等 [我が国産業の弱み]独創性・チャレンジ精神の不足、国際的なコミュニケーション能力の不足、人材の適材適所へのマッチングの弱さ、 人件費・物流・エネルギー等の高コスト構造、ソフトウェア開発力の弱さ、国際標準獲得への戦略性の欠如 等 [展望] ●国内市場の「成熟」、アジア諸国等の世界市場への 競合者としての参入等もあって、我が国製造業の量産 [方向性] ●我が国産業の強みの維持・強化と弱みの補正 ●「コストダウン」中心から「創造的レント」中心へと経済・産業活動の基軸 競争、単純な価格競争は限界。単純品は世界的な供給 をシフトするとともに、「選択と集中」による経営資源の最適配分、 過剰の時代へ(アジア発の供給過剰と価格破壊)。 雇用、意志決定等における「開放・分散」型マネジメントシステムの構築。 ●経済社会のあらゆる側面に情報技術が更に浸透し、情 報技術と「もの」との統合が進展。財・サービスの標準 化・モジュール化によってこれまでの企業行動、産業組 織等も根底から変革される可能性あり。 ●国民の多様な価値の実現欲求の高まりを背景に、市場 のより高い評価は、生活の物的充足型のものから創造 性、時代環境を重視した自己実現型のものに移行。 ●製品の成熟度等を踏まえた、適地生産・現地雇用創出による国際分業 の徹底。アジア諸国等との相互補完的経済関係の深化。 ⇒既に持っている「もの作り基盤」の強みの上に、サービス化、情報 化に対応する新たな価値を付加し、競争力を確保。 ⇒時代の流れ(高齢化、環境制約の先鋭化、多様な価値実現欲求 の高まり)に沿って高まる社会のニーズへの積極的対応。 7 (論点10) 将来発展する産業群には何があるか。 サードウェア産業 ●情報技術の革新と世界的な供給過剰が進展する中、「ハード」と「ソフト」が市場で分断され、レントがもっぱら「ソフト」にシフトする恐れあり。 ●情報家電の市場規模 5兆円程度(現状)→28兆円程度(2025 年) ●特に、今後高まると予想される市場ニーズへの的確な対応は、高いソフトの設計技術力を前提とした絶えざるハードの革新、単体製品及びそれに附随するサービスを複合させたシステムの このような中、我が国産業が 比較優位を保つ一つの方向性は、ハードとソフトを統合した第3の商品群(サードウェア)の創出。 全体設計という視点が重要化。 ●こうした形態での財・サービスの提供は、物作りを通じた製造技術の熟知、ユーザーニーズにきめ細かく応えた商品作りをするという我が国製造業の強みの発揮が期待できる分野。 ●具体的な産業の姿 ・ネットワーク化・デジタル化に対応した情報家電 ・システム全体と一体的に設計されたロボット ●市場規模 高齢社会産業 15兆円程度(現状)→60兆円程度(2025年) ●一般に、加齢に伴い個人の嗜好、健康状態、経済状態 等に広がりが増すことから、高齢社会は多様性が高い 社会となる見込み。 ●高齢者の比率が格段に高まる中、高齢者の社会参画 意欲が著しく高い我が国の社会環境のもとでは、高齢 者の生活全般を支える産業が育つ土壌あり。医療福祉、 介護に限らず、高齢者の所得・社会参画をターゲットに した市場が 拡大する見込み。 ●中長期的により深刻化する環境制約をブレークスルーす る財・サービスは、環境産業のフロンティアを大きく広げ る可能性大。 ●また、石油危機後の省資源・省エネ対応が1980年代の 我が国製造業の競争力の源泉となったように、環境問題 への対応は、長期的な産業競争力強化につながりうる。 ●具体的な産業の姿 ●具体的な産業の姿 ・公害防止/環境保全(大気・水質汚染防止装置等) ・医療(老人医療、リハビリ等) ・廃棄物処理/リサイクル(廃棄物処理、リサイクル等) ・福祉/介護(介護施設、在宅介護ビジネス等) ・環境修復/環境創造(都市緑化、環境監査 等) ・健康(疾病予防、健康づくり等) ・高齢者のニーズにあった製品・サービスを提供する 産業 環境産業 感性産業 ●規格化された物の充足感、女性の就労率の向上、可 処分所得・時間の拡大等によって、国民の消費が多 様化された財やサービスに移ってきており、 様々なタ イプのサービス産業が拡大し、我が国経済全体の牽 引車となる見込み。 ●また、情報技術の革新が、コンテンツ等の財・サービ スの生産・流通・消費に多様な変革をもたらしつつあ り、インフラの整備とともに新たな産業フロンティアを 切り拓くことが期待される。 ●具体的な産業の姿 ・コンテンツ系(ゲーム、アニメ、映画、音楽等) ・ファッション系(デザイン、インテリア等) ・レジャー系(スポーツ、観光等) ●市場規模 ●市場規模 39兆円程度(現状)→112~155兆円程度(2025 年) 31兆円程度(現状)→49~73兆円程度(2025年) ●製品の差別化、内需型産業により「棲み分け」を行う形で、我が国とアジア諸国等との国際分業の新たな展開の可能性 ●変化する時代環境への対応と世界市場での「新たなレント」獲得の可能性 8
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