伊豆東部火山群と九重火山の 地元行政・住民の防災意

1)研究目的
伊豆東部火山群ならびに九重火山は活火山で、両方
とも最新の噴火から14~20年が経過。行政ならびに
住民の防災意識の低下が懸念されている。
伊豆東部火山群ならびに九重火山の地元自治体の
防災担当者および地域住民を対象とした防災意識
に関するアンケート調査を実施し、火山噴火に対
する認識の現状を把握するとともに、今後の普及
啓発のあり方について検討することを目的とする。
2)研究方法
伊豆東部火山群ならびに九重火山の地元自治体の防災担当者および地域住民を対象と
した防災意識に関するアンケート調査を実施し、得られたデータをExcelを使ってグ
ラフ化し、分析する。九重火山のアンケートは現在実施中で未回収のため、今回の分
析対象から外す。
回答者属性 ~伊豆東部火山群
調査対象
行政
伊東市役所に勤める男性49名
女性33名
伊東市の地域住民
男性50名、女性34名
2009年10月実施~
年齢
配属年数(行政)
住まい歴(住民)
19歳以下
1%
3%
20-29歳
20%
30-39歳
23%
40-49歳
6%
5年未満
13%
5~10年
11~20年
50-59歳
29%
27%
78%
60-69歳
21年以上
70-79歳
住民
6% 2%
10%
1%
23%
1%
公務員
農林漁業・自営業
4%
4% 8% 6%
14%
20-29歳
40-49歳
18%
無職・フリーアルバイター
観光業
80歳以上
19歳以下
30-39歳
学生・主婦
18%
39%
会社員・団体職員
46%
50-59歳
21%
5~10年
47%
21%
60-69歳
その他サービス業
70-79歳
その他
80歳以上
5年未満
11~20年
21年以上
11%
設問内容
アンケートは行政用と住民用で若干異なる。内容は
火山噴火に対する恐怖度、火山の知識・意識や対策
の有無・内容に関する12〜17問で、大部分は選択式
である。
共通設問
質問1
あなたは火山の噴火をどれぐらい恐いと思うか?
質問2・4 伊東市が伊豆東部火山群の範囲内にあることを知っているか?
質問3・5 伊豆東部火山群が活火山であることを知っているか?
質問4・6 伊豆東部火山群の噴火について、最近家族や知人との話題にのぼったか?
質問5・7 伊豆東部火山群は最近いつ噴火したか?
質問6・9 噴火によって発生する現象のうち、伊豆東部火山群の最近の噴火で実際に
発生した現象について、あなたが知っている項目を選べ。(複数回答可)
質問7・10 伊豆東部火山群のハザードマップが未作成であることを知っているか?
質問12・11 「噴火警戒レベル」という言葉を知っているか?
質問15・12 今後、伊豆東部火山群で次の噴火が起きるとしたら、何年後くらい?
質問16・13 火山が噴火した場合、あなた自身はどのような被害を受けると思うか?
(複数回答可)
行政用
質問8 伊豆東部火山群の最近の噴火当時、所内でのあなた自身の業務は?
質問9 現在の部署に配属される際、過去の噴火時の対応について引き継ぎは?
質問10 伊豆東部火山群の噴火に備えて、噴火対策マニュアル等が準備されている
か?
質問11 噴火対策マニュアル等が準備されている場合、その更新は定期的に行われて
いるか?
質問13 伊豆東部火山群が噴火した場合、現在想定されている火山防災対策で十分だ
と思うか?
質問14 火山噴火に対応する際、現状では不十分と思われる事柄は?
住民用
質問2 火山の噴火に備えて、日頃から準備していることはあるか?
はい→質問2‐1
どのような準備をしているか?
いいえ→質問2‐2 準備の必要性を感じているか?
質問3 火山に関する説明会があった場合、参加したいと思うか?
質問8 あなたは伊豆東部火山群の最近の噴火をどのようにして知ったか?
3)伊豆東部火山群
伊豆東部火山群とは?
伊豆半島にある陸上火山や伊豆半島と伊豆
大島の問の海域に分布する海底火山からな
り、100個以上にのぼる単成火山の群れの
こと。最近の噴火は、1989年7月13日の伊
東市の東方沖での手石海丘の噴火で、その
後も伊東沖の地下ではマグマが時おりうご
めき、群発地震を起こしている。また、噴
火から20年経った今でも、ハザードマップ
は未完成のままである。
↑小山(2001)
手石海丘
←1989年7月13日海底噴火の様子
4)九重火山
九重火山とは?
九州の中央部、大分県西部に東西15kmにわたって位置する活火
山。20以上の火山があり、火山の多くは急峻な溶岩円頂丘で,
一部は成層火山。山体の周囲を主に火砕流からなる緩傾斜の裾
野がとりまく。
最近の噴火は、1995~1996年の噴火で、小規模な水蒸気噴火
だったが、東西約400mの割れ目火口を形成し、火山灰は熊本
市まで到達した。
↑九重火山の位置
(気象庁Webより)
硫黄山が噴火した場合の
現象と被災範囲
火山情報の種類と
用語の説明
←九重火山の
ハザードマップ
(須藤・伊藤、2005)
共通設問
5)集計結果(伊豆東部火山群)
質問1 あなたは火山の噴火をどれぐらい恐いと思うか?
4%
1%
13%
強く感じる
17%
やや感じる
35%
34%
9%
13% 行政
どちらとも言えない
住民
あまり感じない
全く感じない
38%
36%
噴火を怖いと思う
人は行政70%,住
民73%とほとんど
の人が怖いと感じ
ている。
質問2・4 伊東市が伊豆東部火山群の範囲内にあることを知っているか?
16%
18%
行政
住民
84%
はい
82%
いいえ
行政・住民ともに
約8割で、同等の認
識をしている。
質問3・5 伊豆東部火山群が活火山であることを知っているか?
24%
28%
行政
72%
住民
76%
はい
いいえ
行政・住民ともに
75%程度で同等の値
である。
質問4・6 伊豆東部火山群の噴火について、最近家族や知人との
話題にのぼったか?
共通設問
はい
30%
いいえ
34%
行政
住民
行政30%・住民34%で
同等の値を示している。
66%
70%
質問5・7 伊豆東部火山群は最近いつ噴火したか?
1989年
1990年
その他
28%
28%
行政
42%
2%
1979年
1987年
1991年
1998年
2005年
etc…
住民
60%
10%
分からない
1978年
1985年
1988年
1995年
2003年
2008年
27%
3%
最近の噴火を1989年と正しく認
識している人は、行政60%
住民42%で行政側が高い。
しかし、1978年や2008年など的
外れな解答も見られた。
質問6・9 噴火によって発生する現象のうち、伊豆東部火山群の最近
共通設問
の噴火で実際に発生した現象について、知っている項目を選べ。
火山活動に伴う地震
5%
水蒸気爆発(水蒸気マグマ爆発)
3% 3%
4% 2% 1%
火砕流
8%
5%
5%
噴石・火山弾
24%
6%
32%
5%
行政
6%
6%
住民
6%
18%
7%
8%
11%
24%
11%
質問7・10 伊豆東部火山群のハザードマッ
プが未作成であることを知っているか?
27%
32%
住民
行政
68%
73%
はい
いいえ
火山ガス
降下火砕物(火山灰)
溶岩ドームの形成
溶岩の流出
噴火に伴う津波
泥流・土石流
火砕サージ(ベースサージ)
知らない
最も認識の高かった現象は、
火山活動に伴う地震が行政32%,住民24%で、
次に多かったのは水蒸気爆発で行政24%,住民
18%である。実際に発生した現象もこの2つ
なので、正しい認識がされている。他の現象
はどれも同じぐらいの認識度である。
行政,住民ともに約3割で
ほぼ同等である。
質問12・11
「噴火警戒レベル」という言葉を知っていますか?
40%
28%
住民
行政
いいえ
60%
72%
はい
共通設問
行政28%,住民40%
でわずかに住民側
が高い。
質問15・12 今後、伊豆東部火山群で次の噴火が起きるとしたら、何年後くらいか?
2% 6%
2% 3%
10年
13%
13%
28% 行政 20%
28%
住民 23%
50年
100年以上
起きない
31%
31%
20年
行政,住民どちら
もほぼ同じ値を
示している。
分からない
質問16・13 火山が噴火した場合、あなた自身はどのような被害を受けると思うか?
9% 1%
4%
生死に関わる
18%
21%
行政
29%
28%
26%
34% 住民
30%
避難生活になる
家屋に被害がでる
一時避難で済む
被害はない
行政,住民ど
ちらもほぼ同
じ値を示して
いる。
質問8 伊豆東部火山群の最近の噴火当時、所内であなた自身の業務は?
5%
4% 8%
災害対策本部で噴火対応にあたった
災害対策本部外で噴火対応にあたった
噴火対応以外の業務に従事していた
15%
まだ入所していなかった
68%
その他
行政
噴火対策に対応に当
あたった人は12%と
わずかで、まだ入所
していないが68%で
大半を占めている。
質問9 現在の部署に配属される際、過去の噴火時の対応について引き継ぎは?
5%
3% 1%
文書(報告書等)による引き継ぎがある
口頭による引き継ぎがある
特に引き継ぎがなかった
91%
その他
特に引き継ぎがな
かったが91%で、ほ
とんど引き継ぎがな
かったに等しいこと
が分かる。
質問10 伊豆東部火山群の噴火に備えて噴火対策マニュアル等が準備されているか?
1%
前回の噴火対応に基づいてマニュアル化
伊東市の地域防災計画に基づいてマニュアル化
23%
56%
1%
19%
上記事項以外に基づいてマニュアル化
特別に準備していない
分からない
噴火対策マニュ
アル等の準備を
認識している行
政担当者は25%
に過ぎない。
質問11 噴火対策マニュアル等が準備されている場合、その更新は
5% 2%
定期的に行われているか?
はい
いいえ
分からない
93%
行政
分からないと答えた人
が93%で非常に多い。
質問13 伊豆東部火山群が噴火した場合、現在想定されている火山防災対策で十分
1%
3%
だと思うか?
不十分
24%
やや不十分
どちらとも言えない
18%
54%
やや十分
十分
不十分・やや不十分が42%で
ある一方で、どちらとも言え
ないと考える人が54%もいる
ことも分かる。
質問14 火山噴火に対応する際、現状では不十分と思われる事柄は?
2%
19%
1%
38%
火山に関する知識
火山噴火時のリアルタイムな情報の取得体制
火山専門家との連絡体制
他部局との連絡体制
13%
27%
特にない
その他
火山に関する
知識が最も不
十分な点で
38%を示す。
情報の取得体
制も27%で同
等の値であ
る。
住民
質問2 火山の噴火に備えて、日頃から準備していることはあるか?
21%
はい
79%
いいえ
日頃から準備
している人は
21%で非常に
低い。
準備をしていな
い人79%のうち
55%のひとが噴
火に備えた準備
の必要性を感じ
ている。
はい⇒質問2‐1
いいえ⇒質問2‐2
どのような準備をしているか?
準備の必要性を感じているか?
3%
4%
10%
火山について学ん
でいる人が36%で最
21%
20%
36%
も多く、次に多いの
21%
は防災グッズの準備
45%
12%
で28%である。
28%
火山についての基礎知識や、伊豆東部火山群の
歴史や特徴について学んでいる
防災グッズをまとめて用意している
日頃から噴火時の避難場所や避難経路を家族や
友人と決めている
飲料水や非常食を備蓄している
その他
強く感じる
やや感じる
どちらとも言えない
あまり感じない
全く感じない
住民
質問3 火山に関する説明会があった場合、参加したいと
思うか?
10%
火山に関する説明会が
あった場合、参加した
いと思っている住民
は90%と非常に高い値
はい
90%
である。
いいえ
質問8
か?
あなたは伊豆東部火山群の最近の噴火をどのようにして知った
4%
11%
11%
実際に目撃した
9%
15%
50%
家族から聞いた
知人・友人から聞いた
マスコミを通じて知った
その他
知らない
噴火をマスコミを
通じて知った人が
50%で半分を占め
ている。他はどれ
もほぼ同じ値を示
している。
6)まとめと今後の課題
伊豆東部火山群に対する火山としての認知度は、行政・住民ともに
同じ程度であることが分かった。しかし、次の噴火は、50~100年以上
先と思っている人がほとんどで、噴火は当分起こらないと考えてお
り、切迫意識はない。
住民の防災に対する意識は高く、防災グッズの用意などの他に、ペ
ットの犬のエサまで準備しているという人もいた。
全体を通してみると、行政・住民ともに防災意識が低下しているが
、比較的に行政よりは住民の方が高いことが分かった。
今後の課題
九重火山のアンケートを集計・分析し、伊豆東部
火山群と結果を比較していく。先行研究である焼
岳や富士山の結果とも比較していく。