マーケティングコンテスト2008 購買行動における情報共有とメディア接触の関係 1. 研究目的 マーケティングによる消費者行動を分析するための枠 組みとして「AISASの法則」が有名である。AIDMAの法 則に変わり、このモデルが誕生した背景には著しいイ ンターネットの普及やサービスの多様化による消費者 行動の変化が挙げられる。 中でも、情報発信を可能にするコミュニケーション ツール(ブログやSNS) の発展・充実は「口コミマー ケティング」という言葉ができるほどに、消費者行動 に大きな影響を与えるようになった。 本研究では、TVやインターネット、雑誌などの様々な 情報発信媒体が、購買または購買行動における検索に 及ぼす影響を調べ、「行動・共有につながる効率的な 広告を行うためにはどうすればいいか」といったこと について考察していきたい。 2 行動(Action)だけではなく、Share(情報の共有)促すまで考え た広告とは? ⇒ブログに興味のある人の行動を分析 TVや雑誌、インターネットなどの既存のメディア接触に違 いは見られるか。消費者価値観はどうか。 AISAS A=Attention ⇒ I=Interest ⇒ S=Search ⇒ A=Action ⇒ S=Share 注意/認知 興味 検索 行動 共有 3 2. 調査方法 年齢 TV番組 視聴回数 性別 雑誌購読 状況 webサイ ト閲覧回 数 家族構成 消費者 価値観 3000サンプルをいくつかの グループにわけるため、さま ざまな変数を用意した。TV視 聴回数は時間帯やジャンルご とに区別した。WEBサイトも また、各サイトをジャンルご とにまとめ、その閲覧回数の 平均値を出した。 これらをデータベースとし て使用し、以降の分析を行う。 購買意 向/実態 ライフスタイ ル 4 TV視聴回数 ウェブ閲覧回数 休日・平日ごとの時間帯 食品系 (4時間区切り) アルコール飲料水 Ex.平日23時~2時 ノンアルコール飲料水 休日15時~18時 etc… 家電製品サイト 検索サイト ブログ・SNS ジャンル別 ショッピングサイト Ex. 情報発信番組 娯楽番組 音楽番組 etc... 雑誌購読状況 週刊誌 男性ヤング誌 男性ヤングアダルト誌 男性ミドルエイジ誌 女性週刊誌 女性ヤング誌 女性ヤングアダルト誌 女性ミドルエイジ誌 スポーツ誌 ゲームアニメ情報誌 ビジネス・マネー誌 etc… ※ 1) 子供向け番組etc… 5 3.決定木によるグループ分け ブログ閲覧回数 Average 13.6 (3000sample) Amazon閲覧回数 <4.5 >=4.5 ブログ閲覧回数 ブログ閲覧回数 Average 8.3 (2451sample) <28.5 <4.5 Yahoo!閲覧回数 グループA Average 37.7 (549sample) グループB <29.5 >=28.5 Google閲覧回数 >=29.5 ブログ閲覧回数 ブログ閲覧回数 ブログ閲覧回数 ブログ閲覧回数 Average 2.9 (1564sample) Average 17.8 (887sample) Average 25.6 (344sample) Average 58.0 (205sample) Google閲覧回数 >=4.5 グループD ブログ閲覧回数 ブログ閲覧回数 Average 1.1 (1273sample) Average 10.7 (291sample) グループC ブログを利用している人は、ポータル サイトやネットショッピングをよく利 用していることがわかる。 6 4.グループごとのメディア接触の違い 男性 グループA グループB グループC グループD 女性 56% 49% 55% 52% 44% 51% 45% 48% 平均年齢 既婚率 子供有 持家有 PC有 37.4 59% 46% 61% 97% 37.2 61% 51% 59% 97% 38.1 58% 47% 61% 98% 41.6 64% 57% 64% 94% 各グループのメディア接触において、特徴の見られる部分を抜粋した 1)WEB 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 グループDは、ポータル サイトやブログだけでな く、インターネットをほ とんど利用していない グループA グループB グループC グループD ⇒ 7 2)TV 休日のTV番組視聴回数 平日TV番組視聴回数 12 20 10 15 グループA 8 グループB 6 グループC 5 0 グループD 0 7~10時 11~14時 15~18時 7~10時 11~14時 15~18時 3)雑誌 2.5 2 1 グループB 10 グループD 2 1.5 グループA グループC 4 グループDは平日にな ると他のグループに比 べて視聴回数が劣る。 グループA グループB 0.5 グループC 0 グループD 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 グループDは女性向け雑誌 が他のグループに比べ積極 的である。少年コミックは 極端に低い。 グループA グループB グループC グループD 8 5. グループの解釈 高 ブ ロ グ ・ SNS 利 用 頻 度 この結果から分類した4グループの詳細は以下のようになっている。 グループA(549sample) 各ポータルサイトをよく利用するが、他のグループに比べとりわけA m a z o n を よく利用する。また、このグループの約40%がPCの用途にブログ作成を選択している。 グループB (887sample) Y a h o o !をよく利用する。また、このグループの約40%がPCの用途にSNSを選択して いる。 グループC (291sample) ポータルサイトの利用にあまり積極的ではないが、比較的G o o g l e をよく利用す る。また、このグループのおよそ半分がPCの用途にSNSを選択している。 低 グループD (1273sample) B l o g を含め、インターネットの利用に非積極的であるが、雑誌の購読に対して は積極的である。 9 6. アソシエーション分析 ここでは、各グループごとにトランザクション データを作成した。 ブログを利用する人とそうでない人の間に購買行 動の違いは見られるかを調べるために、Single Item にブログを設定し、ブログを閲覧する人が同時に とる行動や、どういう消費者価値観を持っている のかを分析した。 尚、ここでは別途消費価値観に関する変数(33変 数)から次の3つの因子を抽出し、各グループご とに比較している。 10 消費価値観で使用した3つの因子 次ページ以降の表の右端の数値は、これらの因子得点である。 第1因子 「商品の品質・安全性」因子 第2因子 「商品ステイタス(ブランド・デザイン・高価)」因子 第3因子 「評判・経済性」因子 11 6-1.アソシエーション分析による同時購買行動比較 閲覧サイト 利用メディア(TV) 利用メディア(雑誌) 利用メディア(新 聞) 行動 キャンペーン 消費者価値観 第一因子 第二因子 第三因子 グループA グループB 家電ウェブサイト 銀行・証券・保険ウェブサイ ト Youtube&ニコ動 Amazon 価格比較サイト コンビニウェブサイト 百貨店ウェブサイト 飲食店ウェブサイト スーパーウェブサイト 雑貨ウェブサイト アルコールウェブサイト ノンアルコールウェブサイト 飲食店ウェブサイト コンビニウェブサイト スーパーウェブサイト Youtube&ニコ動 Amazon 百貨店ウェブサイト 雑貨ウェブサイト 価格比較サイト 食品ウェブサイト 家電ウェブサイト 銀行・証券・保険ウェブサイ ト 平日15-18時 休日3-6時 休日11-14時 料理番組 ドラマ 子供向け番組 情報発信番組 スポーツ番組 平日7-22時 休日3-6時 休日11-14 娯楽番組 ドラマ 音楽番組 料理番組 エリア情報誌 女性ヤングアダルト 女性ヤング 女性ミドルエイジ 女性週刊誌 パソコン・コンピュータ誌 生活実用情報誌 男性ヤングアダルト 女性ヤングアダルト 女性ヤング 男性ミドルエイジ モノトレンド エリア情報誌 男性向けコミック 週刊誌 男性ヤングアダルト パソコン・コンピュータ誌 少年向けコミック 夕刊紙 スポーツ紙 GMS テーマパーク 百貨店 飲食店 ネットショッピ ング 本屋 ドラッグストア コンビニ ショッピングセ ンター 百貨店 ネットショッピ ング 通販 本屋 テーマパーク 飲食店 GMS 大型家電店 0.070327 -0.00812 0.080192 0.026988 0.026895 0.068884 ブログを積極的に利用しているこの2つのグループは、他のメディア 媒体に対しても幅広く接していることがわかる。購買行動においても同 じことがいえる。 12 閲覧サイト 利用メディア(TV) 利用メディア(雑誌) 利用メディア(新 聞) 行動 消費者価値観 キャンペーン 第一因子 グループC グループD 百貨店ウェブサイト 食品ウェブサイト アルコールウェブサイト 銀行・証券・保険ウェブサイト ノンアルコールウェブサイト 家電ウェブサイト 平日7-22時 休日3-18 休日23-2 ドラマ 料理番組 音楽番組 子供向け番組 娯楽番組 情報発信番組 平日3-18時 子供向け番組 食品ウェブサイト 音楽番組 家電ウェブサイト銀行・証券・ ドラマ 保険ウェブサイト 料理番組 少年向けコミック エリア情報誌 パソコン・コンピュータ誌 フリーマガジン 男性向けコミック 第二因子 第三因子 百貨店 ドラッグストア GMS コンビニ SM ショッピングセン ター 大型家電店 0.050488 -0.01144 0.079247 キャンペーン応 ネットショッピン 募回数多 グ キャンペーン興 大型家電量販店 味回数多 -0.06068 -0.01262 -0.1007 グループCも、雑誌の面ではAとBに劣るものの、メディア接触に対しては積極的であ る。一方でグループDはブログを利用している人でさえもやはりインターネットに対し て消極的。ただし、キャンペーンのあるサイトには興味があるようだ。また、10ページ ではグループDの人は雑誌に対して積極的であることがわかっているが、それにも関わ らず雑誌とブログの同時購買は見られない。 13 6-2. 消費者価値観の観点から グループA 商品に対する消費者の声を重要視している。非常に小さな因子得点ではあるが、商品の ブランドやデザインよりも、経済的で長くつかえるものを重視する傾向があるようだ。 グループB こちらも因子得点は小さいが、商品に対して一定のこだわりを持っていることがわか る。 ブログを利用する人の中は、自分のライフスタイルにこだわって選ぶ人や、価格が品質 に見合っているかどうかを検討してから購入にいたるという人が多かった。 グループC 自分の購入した商品に対する周囲の評価を気にする人が多い。そうした評価をブログや 掲示板を利用して確かめている人もいそうである。 グループD 商品に対してのこだわりがあまりない。商品の詳細な情報を知る機会が少ない、または 知ることに積極的でない。 14 6-3. 購買意欲/行動の観点から グループA 大型店舗によく足を運んでいる。値段よりも質を気にする。 商品に対する意欲・実態はアソシエーション分析からはわからなかったものの、閲覧サ イトを見ると商品の情報をよく調べていることがわかる。 グループB 購買行動が強い。 通販サイトやオークションに興味があり、また行動力も高い。 趣味は映画・演劇・美術鑑賞・ビデオ・DVD鑑賞・読書・パソコンと幅広い。 購買意向には清涼飲料水・アルコール飲料水・お茶・健康食品・製薬品、実態には清涼 飲料水・アルコール飲料水・お茶・家電製品と、幅広い商品に見受けられる。購買意欲 から行動に移りやすいグループといえる。また、商品を買う際にこだわりがある。 グループC インターネットはエンターテイメント情報よりも、商品購買のために利用しているよう な傾向がある。購買意欲・実態はともに弱い数値だった。 グループD PC用途として、ネットバンキングや商品サービスの発注・代金の支払いを選んでいる 人が多い。PCは購買の利便性向上のために利用している人が多い。 15 7. 考察 ブログに対して積極的な人は他のメディア接触に対しても積 極的であり、欲しいと思った商品に対しては検索を行い、商 品を調べ、気に入れば購入し、ブログを書くというAISASに 沿った行動パターンをとっている。 一方で、ブログに対して消極的な人は、インターネットを商 品の購入や代金の支払い、ネットバンクなど、生活に必要な 場合のみに使うことが多い。欲しいと思った商品はあまり検 索して調べたり、消費者の情報を参考にするといった行動は 定着していないと考えられる。 ブログをする人、しない人は何が違うのか 16 グループA~Dにおいて性別や既婚率の違いはあまりない。 グループDはやや平均年齢が高く、子供がいる人がやや多 い。 グループDに注目した場合、雑誌は他のグループに劣らず積 極的に購読しているにも関わらず、アソシエーション分析に よるとブログと雑誌購読の同時行動はほとんど見られなかっ た。ここからは、雑誌から消費者同士の情報共有を促すよう な広告を出していないことがわかる。(購読者の情報源を雑 誌からインターネットへ移行させないため?) 17 インターネット以外のメディア接触だけでは、どうしても 入ってくる情報量が少なくなってしまい、グループDの人は 他のグループの人に比べ、購買意欲・行動が弱い。商品の多 様化・複雑化は、TVや雑誌の広告だけでは表現しきれないと いうことの表れと言えるのではないか。こうした購買行動が 弱い人達に対して積極的に商品をアピールするためには、ブ ログとの同時行動が見られる平日3~18時の時間帯のTVCMを 利用したり、ブログに載せたくなるような話題性のあるキャ ンペーンサイトの制作が有効である。 18 8. 今後の課題 検索行動の使い分けがどのようにして異なってくるのか、根 本的な部分を調査してみたい。また、今回はブログに絞って 同時購買行動を比較したが、他のメディア接触においても同 様の分析を行い、広い角度から情報共有を促す広告を提案し たい。 19 参考文献・URL 1)原因をさぐる統計学 豊田秀樹・前田忠彦・柳井晴夫 講談社 2)あの商品は、なぜ売れたのか 杉村貴代 ソーテック社 3)放送法 URL http://www.houko.com/00/01/S25/132.HTM 4)新「雑誌ジャンル・カテゴリー区分」最新表〈08. 02更新版〉 URL http://zakko.or.jp/jpn/subwin/genre.html 5)SPSSとAmosによる心理・調査データ解析 小塩 真司 東京図書 6)ユーザーのための心理データの多変量解析法 山際勇一郎 田中 敏 教育出版 20
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