放送メディアとポピュラー音楽

ワークショップ討論者から
2007.12.9
日本ポピュラー音楽学会
第19回名古屋大会 ワークショップ
「放送メディアとポピュラー音楽」
討論者:加藤晴明@中京大学
[email protected]
討論者の役割
 1.ラジオの音楽番組の歴史について
 2.ラジオの音楽番組の現在・未来
 役割「たたき台となるような視座や事例」
■討論者(加藤晴明@中京大学)の背景:
・コミュニティFM(小規模独立メディア)の研究(2001~)
・番組編成のなかの音楽比重の高さに出会う。
・音楽番組パーソナリティに出会う。
・研究室でミニラジオ局の運営(「アウラ・ステーション」)
ラジオの音楽番組.1
問題提起クリップ1:ラジオと音楽の親和性をどう考えるか?
「音楽がメインコンテンツになる・・・?」
 ”本質的な?”メディア特性のような気がする・・・
 では、いかなる意味でか?
 音声メディアと音楽との結婚が、メディア論的な地平で、
本質的な結びつきを有しているのか?
 その場合、サウンドなのか/言葉なのか/人なのか?
〈音楽番組…音楽だけ番組~音楽中心の番組〉
ラジオの音楽番組・・・2
問題提起クリップ2:逆に、ラジオは言葉の世界?
〈ラジオ=ナラティブ論〉
ラジオの黄金時代(戦前〜戦後)=茶の間の主役
1925(大正14)東京放送局/戦後の民放1950年
→テレビ1953(民放スタート)頃は昼のみ/1960年代に定着
音楽だけが主役ではなかった?
舞台芝居から「ラジオ劇」の誕生
リチャード・ヒューズ
「密室状況における心理ドラマ」→ラジオ独自の世界
「ドラマトゥルギーの中心は言葉である。」→ラジオ芸術
ラジオの音楽番組・・・3
問題提起クリップ3:「音楽番組」の配置図は?
ラジオというメディア空間のなかの音楽番組の位置とは?
テレビの「音楽番組」と異なる特異性がある?
■ラジオの音楽番組ってなんだろう(コンテンツ)?
〈ジャンル系〉・・・ジャンル番組
〈最新系〉・・・ヒットチャート/カウントダウン/最新ヒット/最新
情報
〈人系〉・・・音楽+人トーク番組…音楽(人)中心番組
ラジオメディア・音楽番組・音楽産業
音楽産業
リスナー
コンテンツ
音楽番組の
コンテンツA
音楽番組
社会的背景
リスナー
コンテンツB
A1〜An
ラジオ番組
音楽番組
放送産業
ラジオリスナー
報道・文芸コンテンツ
社会的背景
音楽番組歴史・・・1
■テレビの変遷抜きには語れない?
1960年代:ゴールデンアワーの誕生
鑑賞・見物的コミュニケーション
1970年代:対話的コミュニケーション=対人レベルでのコミ
テレビの環境化・非意識化・個人視聴
→探索型視聴
→情報コモディティ化(多メディア化=放送からネット配信へ)
■「自作自演のメディア」長谷・太田2007
1970年代:生活の臭い
1980年代:ロマンチックイメージ志向/トレンディドラマ
→現在:ロマンチックイメージすらももちえない?
音楽番組の歴史・・・2
問題提起クリップ:音楽番組史の段階区分は?
=
〈メディアの文法の変容の歴史〉
・・・いかなる段階区分か? ラジオ史と連動しているのでは?
▽
(1)音楽番組の誕生(=NHK・AM時代)
=音声を放送するというメディアの誕生
例:有線放送と音楽中継(吉見1995)
例:親子ラジオや有線放送での音楽番組・リクエスト番組
※ラジオ共同聴取施設の隆盛/池永ラジオ協聴会1937〜
例:AMラジオの歌番組の歴史・・・NHK(紅白1946)→民放
※景観としてのレコード・リクエスト・素人のど自慢(マイクの開放)
音楽番組の歴史・・・3
(2)70年代:深夜ラジオとフォーク・ニューミュージックの結婚
(1960年代末〜80年代初頭)
DJと音楽・・・例:糸井五郎・亀淵昭信
泉谷しげる、カルメン、あのねのね
中島みゆき・松山千春・・・
オールナイトニッポン・・・1967〜40年間
(3)第二世代都市FMとJ・ポップ音楽の結婚
(1980年代末〜90年代初頭)・・・洋楽・長時間パーソナリティ
(4)ラジオの危機(2004ショック)…同時に、音楽産業の危機?
若者人口の減少/コミュニティ放送/ネットラジオ・ポッドキャスト)
補足: 最先端音楽ゲットの場としてのラジオ
〈音楽番組=音楽フロンティア〉の移動
AMの古典的音楽番組
(家族聴取)
試行錯誤
タレント化
初期深夜ラジオ(個室・個人聴取)
パーソナリティ
1967.10~1972.10 最先端音楽
第二世代都市FM
■資料:オールナイトニッポン(Wikipedia)


オールナイトニッポン(All Night Nippon)はニッポン放送をキーステーションに全国で放送されて
いるラジオ番組である。略称は「オールナイト」、「ANN」。1967年10月1日(正式には10月2日未明
)放送開始以来、40年に渡り放送され続けている長寿番組である。全国的な人気と歴史を誇り、若
者をターゲットとした深夜放送の代名詞的存在であり、2007年現在放送中のニッポン放送制作番
組の中で、放送期間は『テレフォン人生相談』に次ぐ第2位である(既に放送を終了した番組を含め
ると、『新日鉄コンサート』・『テレフォン人生相談』に次いで第3位)。数多くの人気パーソナリティが
ここから生まれた。
現在のパーソナリティ▪現在放送されている番組では「ナインティナインのオールナイトニッポン」(木
曜25:00-27:00、パーソナリティはナインティナイン(岡村隆史・矢部浩之))が約13年半放送されて
おり、「オールナイトニッポン」では一番の長寿番組である(それまでの長寿番組は11年9ヶ月の「
笑福亭鶴光のオールナイトニッポン」であった)。▪かつてのように1部・2部とは分割されておらず、
旧1部枠(25:00-27:00)を「オールナイトニッポン」、旧2部枠(27:00-29:00)を「オールナイトニッポ
ンエバーグリーン」もしくは「オールナイトニッポンR」と総称している。
■オールナイトニッポン史
1.番組黎明期・第1次黄金期(1967年~1972年)
2.タレントパーソナリティ/2部制導入・迷走期から第2次黄金期へ(1972年~1985年)
3.安定期間から深夜放送長期低落傾向へ(1986年~1999年)
4.LF+Rの失敗と挫折(1999年~2003年)
■資料:MBSヤングタウン(Wikipedia)
 MBSヤングタウンはMBSが深夜に放送しているラジオ番組。1967年10月2日に『歌
え! MBSヤングタウン』として放送開始。通称"ヤンタン"。ほぼ同時期の『ABCヤング
リクエスト』(ABC)や『アタックヤング』(STV)、そして『オールナイトニッポン』(ニッポン
放送)等と共に深夜番組の黄金期を築き、一時は月曜から日曜まで毎日午後22時か
ら放送し、人気を博していた。特に関西では「静のヤンリク」に対して「動のヤンタン」と
言われており(関西では、この両番組の中間的な位置付けだったのが、OBCの『ブン
ブンリクエスト』である)、ヤンリクが主に、パーソナリティを局アナにしていたのに対し
て、ヤンタンは早くからタレントを起用していた。桂三枝、笑福亭鶴光、谷村新司、明石
家さんま、嘉門達夫 、ダウンタウン、渡辺美里、つんくなど、この番組から輩出した全
国区で活躍しているタレント、アーティストも少なくない。そのため、ヤングタウンは今
でも『MBSの伝説の深夜番組』と見なされている。中でも三枝にとっては「出世作」でも
ある。しかし、1990年代初め頃からFM局(FM大阪、FM802など)の台頭、裏番組の
躍進やスポンサーの撤退などで、次第に勢いが無くなって行き、「ヤンタン」の名前を
残しつつ、番組内容や放送時間帯が変動していたが(特にこの時期からは女性アイド
ル路線に特化するものの失敗)、1999年秋に平日から撤退。晩年は従来の時間帯(
22時台)から撤退し、午後23時からの放送であった。現在は、土曜日と日曜日のみの
放送となっている。それも土曜日パーソナリティであった明石家さんまが、番組名の変
更に難色を示したことからで、局側としては1999年を最後に「MBSヤングタウン」に幕
を閉じるつもりであった。
音楽番組の今・・・1
(1)産業:ラジオの市場縮小〜『情報メディア白書2007』
→若年人口減/ネット配信/洋楽局の苦戦
(2)ラジオコンテンツ:「音楽メディア」から「トーク・メディア
へ」
・AMでの音楽の比重増大・・・CBCの試み
・FMでのトークの比重増大・・・音楽系FM局の苦戦
(3)ラジオリスナーのセグメント化:
・ネトラジ→「アニメ・声優メディアへ」 アキバ系ラジオ・ラジドル
・ラジオ深夜便
(4)BGMとしての音楽
・ながら聴取メディア・・・活字・雑誌/クルマ・家事
音楽番組の今・・・2
問題提起クリップ:音楽とセグメント化はどこへ?
・日本のラジオの特性:総合編成=ジャンル別音楽専門局の不在
(現象1)声優・サブカル系番組・・・声優とアニソン
(現象2)コミュニティFMと音楽の結婚
背景:コンテンツテフリーのディレンマ
音楽マニアとアーティストと地場音楽産業のアリーナ
例:高齢者向け専門局/音楽に強い局(FM葉山・三角山放送局)
まとめ:ラジオと音と音楽
■ラジオ・・・沈黙の許されないメディア→メディア空間を音声で埋める
そこから発生する、ラジオと音楽と音楽番組の特異な関係性
(1)BGMとしての音楽
(2)語りの”間”としての音楽
(3)番組セグメント(=テーマ)としての音楽
・ラジオ論・音声メディア論としてのメディア論なのか?
・音楽番組のコンテンツにしぼったメディア論なのか?
・ことば・コミュニケーション(自己論・行為論)としてのメディアの社会学?
■資料:深夜放送:
オールナイトニッポン
■亀淵昭信(2006)『35年目のリクエスト』から
・深夜放送のターゲットを10代の学生中心に変えて誕生した「オールナイト
ニッポン」(1967.10.1)
・関東ローカル→首都圏以外のネットへ
〈人気の要因〉
①土井まさるアナの登場→しゃべりのスタイルの変容
②受験戦争→深夜勉強する若者の増大
③フォークソング・ロックの爆発的流行
■資料:DJとパーソナリティ
ラジオでお喋りする人のことを、アナウンサーとかパーソナリティとか
ディスク・ジョッキーとかいろいろな呼び方があるが、放送業界でアナウン
サーというとニュースや天気予報などの公共情報を誰にでもわかるきち
んとした言葉で伝えられる人。そしてラジオの娯楽番組で音楽中心に進
行する人をディスク・ジョッキーと呼び、お喋りの中心の人をパーソナリ
ティと呼んでいる。・・・このレコードはディスクと呼ばれた。ラジオの音楽
番組で、競馬のジョッキーが巧みに馬を操るようにレコードを紹介するの
で、ディスクジョッキーという名がつけられた。
亀淵昭信(2006)『35年目のリクエスト』
132〜133頁
■資料:初期ラジオ
〜声メディアの誕生〜
電話による劇場・演奏・オペラ中継
・1880年代:テアトロフォン〜フランス・アメリカ
・1893〜20年間:テレフォンヒルモンド(ブダペスト)
以上のように、1880年代から90年代にかけ、電話はしばしば、音楽や演
劇、協会の説教や選挙演説、選挙の結果や様々なニュースを多数の聴
衆に伝えるメディアとして受容されていた。・・・
やがてその多くが、ラジオからテレビにいたる二〇世紀の諸メディアに
よってショー化されていったことは、あらためて指摘するまでもない。十九
世紀の電話サービスは、二〇世紀に一般化するメディア・イベントを、もっ
とも原型的なかたちで演出したのである。
吉見俊哉(1995)『声の資本主義』112〜113頁
■資料:初期ラジオ〜ラヂオ気分〜
●日本の田舎でのある出来事・・・から
戦前の親子ラジオの事例(新潟県牧村)では、はがきに
よるリクエスト番組をやっていた。ラジオが都市にしか普及し
ていない時期。
NHKのラジオ音楽番組の模倣(?)が行われていた。
ラヂオ気分、ラヂオスタイル
■資料:初期ラジオ〜聴取する欲望〜
■声を複製する文化
これらのメディアは電話やラジオとも結びつき、聴取する欲
望の主体をより広範かつ同時的に生産していくようになる。
90頁
より大きな時代の流れから見るならば、こうした変化は大
正期を通じて起きたわが国の都市文化の構造的な変容の一
部でもあった。大正文化は、思想や芸術を教養として身につ
け、趣味を楽しむ新しい中産階級の家庭と、そうした家庭の
趣味や娯楽を基盤とする文化産業を成立させた。99頁
吉見俊哉(1995)『声の資本主義』
■資料:ラジオ全盛期の放送論
近藤春雄『放送文化』-ラジオとマス・コミュニケーション新評論社 昭和30年
●放送種目と番組編成
1.報道放送・・・ニュース
2.社会放送・・・キャンペイン・プログラム
3.教養放送・・・婦人・農村
4.娯楽放送・・・(一)音楽放送の種目 (二)娯楽としてのクイズ
番組
※当時は、放送文芸=ラジオ・ドラマの比重が高い
■資料:『放送文化』
■音楽放送の種目(NHKの場合)
A洋楽
(1)管弦楽(2)室内楽(3)軽音楽
(4)器楽(5)声楽
(6)歌謡曲・・・希望の星座・今週の明星
(7)レコードによる鑑賞
B邦楽
(1)長唄・常磐津・清元・新内・義太夫
(2)謡曲・狂言(3)小唄・端うた・俗曲(4)民謡・
俚謡
■資料:『放送文化』
以上は、極おおまかな分類であって、実演放送とレコード
放送、その他重複する部分も多いし、この他の番組として、
音楽ヴァラエティやミュージカル・ショーのようなものまで、入
れれば、じつに厖大な量と多彩な種目にわたっているのだ
が、これほどまでに豊富な音楽プログラムをもつ国は、世界
でもまれであることだけは確かな事実である。
従って、よしや嗜好率の順位の上からは、大衆娯楽であ
る歌謡曲やジャズには及ばないとしても、各番組の通じて放
送される古典音楽の量と質においては、他諸外国に比して
決して優るとも劣らない活況を呈していると見てさしつかえな
いであろう。
NHKは、もとりわけて純音楽の発展に力をいれ・・・
144頁
■資料:民放ラジオ第1声
日本初のラジオ放送開始当日のプログラム1951年9月1日の中部日本放送ラジオ番組は、以
下のような内容で行われていた。▪6:30 放送開始アナウンス「こちらは名古屋・中部日本放
送であります。我が国初の民間放送・中部日本放送はただいまから放送開始いたします」と
いう宇井昇アナウンサーの挨拶により放送開始。引き続いてフィラー番組『朝の調べ』という
音楽の番組が行われた。▪6:55 服飾講座 - CBCの正式な放送番組第1号。提供:五金洋品
店。(但し提供のみであり、コマーシャルは流さず。この「五金洋品店」は現存しない。)▪7:00
精工舎提供の時報(日本のラジオ局初のコマーシャル時報)に引き続き、ニュースが放送さ
れる。▪7:15 リズムアワー(音楽番組) ここで日本のラジオ局初のコマーシャルが流れる。
▪7:30 劇団CBCのコメディー「忘れ物」▪8:00 ニュース▪8:05 町から・村から▪8:15 木琴の
演奏▪8:20 講和通信▪9:00 ニュース▪9:05 社会時評(ニュース解説)▪9:15 長唄・鶴亀
▪9:30 あなたの相談室▪10:00 ニュース▪10:05 ラジオドクター▪10:20 子供音楽▪10:30 放
送休止(機器調整 当時は全日放送ではなく、一部の日中の時間帯でもメンテナンスタイム
が行われた)▪11:05 第1スタジオで行われた開局記念式を実況中継。▪11:30 CBC見学記
(局舎紹介)▪12:00 ニュース▪12:15 ストップ・ザ・ミュージック(音楽クイズ)▪12:45 落語
▪12:55 新国劇「鈍牛」を御園座から中継▪14:30 劇団CBCのラジオドラマ「愛の贈り物」
▪14:45 社歌「東海の虹」の演奏・合唱(開局記念式からの録音)▪15:05 コンクール入選者
発表▪15:30 ご長老座談会▪16:00 ニュース▪16:15 放送休止▪17:00 ニュース▪17:05 東
海名妓歌合戦▪17:45 子供のための「鞍馬天狗」(ラジオドラマ)▪18:00 ニュース▪18:15 尾
張漫才▪18:30 開局記念公開放送番組「浜松風」を名宝劇場から中継▪19:00 ニュース
▪19:15 開局記念公開放送番組「謳うCBC」を名宝劇場から中継▪21:30 お知らせ▪22:00
ニュース▪22:15 音楽番組「夢へのいざない」(~22:30、この番組の放送を以てその日の放
送は終了)
■資料:コミュニティFMと音楽
〈音楽のメモリアル・アリーナ〉
音楽が強いといわれるコミュニティFM・三角山放送局(札幌・琴似)
左:鈴木一平(『水鏡』)さん /右:元歌手の方「時計台・・・」の歌