スライド 1

授業参観報告 と 授業改善提言
奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科
ファカルティディベロップメント研修会
平成20年4月4日
奈良先端科学技術大学院大学 授業評価担当
情報科学研究科 学外FD委員
谷口 健一
本学における私の役目
情報科学研究科の教員授業評価・授業改善
授業参観は 平成16年度 第III期から
教員授業評価
検討中
ファカルティディベロップメント(FD)
学内FD研修会での講演(報告と提言)など(16年度から)
18年度に主にM2対象に(FDも兼ねて)、論文の書き方、研究
発表の仕方について講演
19年度からは授業(7コマ)で
平成18年度第II学期から、参観授業について、主に助教授の
先生方と面談
19年度は准教授に加え、助教の先生方とも
2
授業参観
参観した授業コマ数
科目数
17年度
85コマ
47科目
18年度
64コマ
45科目
19年度
67コマ*
52科目
* うち3コマのみ同一科目同一教員で重複
3
19年度参観した授業と教員
特論や一般科目、ほか一部科目は省略
赤字は面談(15~30分程度)をさせて頂いた教員
I 学期
アルゴリズム概論
井上 野田 野田
計算機構造概論
原
システムプログラム
概論
門林
情報科学概論I
情報理論I
梶
計算理論I
安本
ハードウェア設計論I
山下
計測情報処理I
千原 井村
人工知能基礎論
乾
情報ネットワーク論I
門林
システム制御 I
西谷 中村
4
II学期
計算理論II
井上
ハードウェア設計論II
藤原
ソフトウェア基礎論I
伊藤P
ソフトウェア基礎論II
安本
音情報処理論I
猿渡 猿渡
人工知能論
浮田
ソフトウェア設計論
飯田 川口
情報通信システム論I
原
システム工学I
杉本
コンピュータグラフィックス 加藤P
ロボティクスI
(松本)
情報生命学I
5
III学期
アルゴリズム概論
中村 橘
計算機構造概論
前田 大平
システムプログラム概論 木谷
情報科学概論I
計算モデル論
関 関
計測情報処理II
眞鍋 池田
知的システム構築論 木戸出
ソフトウェア工学I
松本 大平
データ工学I
伊藤
データ工学II
宮崎
情報ネットワーク論II
垣内
システム制御 II
野田
画像情報処理論
構造ゲノム学
論理生命学
石井
生命機能計測学
湊
情報生命学II
ゼミナール
5コマ
6
IV学期
高機能計算機アーキテクチャ 中島
音情報処理論II
戸田 Campbell
計算言語学
松本 乾
ソフトウェア工学II
門田
システム工学II
平田
ヒューマンインターフェース論
山澤
ロボティクスII
(松本)
計算神経科学
柴田 (神谷)
比較ゲノム学
修論発表
3コマ
I~IV学期で、准教授・助教担当の授業参観38コマ 面談31回
(面談がないのは先生方の外出等で当日時間が取れなかったことによる)
7
授業の様子などの報告は省いて
(先生方はお分かり、昨年も申し上げた)
改善のための提案を中心に
よい「見本」から
私なりに
8
開講前
その授業の全体内容(何々を教えるか どの程度まで)、
毎回の内容、
実施法(宿題演習など)
などについて、十分な計画を
電子シラバスに、予定、教材提供場所など必要事項をアップ
◇講義関連URL :
◇配布資料 :
(参観する私も必要)
9
初回の授業で
・ この授業で、どのような知識、技術を習得できるのか
授業目標を明確に伝える
こういうことができるようになるといった具体例なども
・ 実施の仕方なども
webページでの支援などにも
先生が熱意を持っていると思ってもらえるように
内容も工夫されていると思ってもらえるように
短時間で切り上げるのはよくない
10
毎回の授業
- 前回からの繋ぎ 復習や宿題回答など
- 導入
テーマ
目標 何ができるようになってほしいか
- 本題
本当に必要な内容だけを厳選して
いくつかの部分に分けて、そのつど要点をまとめる
- まとめ
なにを学んだか
できれば、理解度確認の ミニ演習・アンケートとか
11
毎回の授業計画とその事前確認を
・ 前回の出欠票、質問事項などの確認と対応
・ 前回の演習、レポート、宿題などの対応
・ 授業で用いるpptファイル、ビデオなど
・ 配布する印刷資料
・ TAとの打ち合わせ
・ 導入で行うこと
・ まとめで行うこと
・ 課すミニクイズ、演習、宿題など
・ 挿話の内容、それに必要な資料(pptファイルなど)
・ 提示pptのどこで、何をするか(進行メモを)
問いかけ、例などへの言及、別資料・ビデオなどの使用、挿話など
・ 時間配分
12
教授技術について
(1)授業では 先生と受講学生との一体感
が必要
学生さんは大事な「うちの子」という感じで
講義は、学会の解説講演と違う
- 語りかける
- 念を押す
こうでしょ こうなるでしょ
分った?
- 問いかける
どうなると思う? どっちがよい?
- 質問させる
[ じゃ、こんなことは知りたい / 聞きたいですか?]
- こまめな対応(出席票などに疑問点などへの回答など)
- メール、webページのQandAなど
近くに座らせる(特にL1教室で) すべての授業でその習慣付けを
13
(2)学生の集中力を保つために
- 迫力のある講義
めりはりのある喋り方
- 手振り身振り
- 動く(スクリーンの近くで)
- 学生を見る
- 白板の使用も
- 注意を引くような提示スライド
時々はアニメーションとか
- 穴埋め式のプリントなど
14
- 問いかけ
- 終了時のミニ演習などへの言及
- 身近な具体例を
- 挿話(関連の有名人、研究トピックなど)
- 学生の間を歩き回る(パソコン使用やプリント印刷なしを
防ぐのにも役立つはず)
- 時間を気にするしぐさをしない
教室の時計を見ない 時間が足りないとか言わない
15
(3)説明の工夫
動機付け 問題意識を持たせる
アイデアを トップダウンに、例で直感的に分かるように
アルゴリズムの説明には特に重要
基本的考え(抽象的アルゴリズム)は一つ
実装(実現プログラム)はいろいろ
16
個別の技術の紹介でなく
- 全体のなかでの位置付けを明確に
- 技術の出現・発展の理由や必然性を説明する
- 概念を整理して本質を教える
個々の具体的技術・実装そのものでなく、
本来の機能は何か、その具体的実現として‥‥がある というように
考え方を教える
自身の研究に関係のある内容なら、研究開発を進めてきた経験を通し、
その魅力を
(問題に遭遇したときにどのように解決していくか 疑似体験)
17
問いかけ、考えさせる、アイデアを理解させる の例
アルゴリズム概論での例ですが
私なら、例えば、
18
指定されたノードから各ノードへの最短ルートとその最短距離を
(距離≧0)
求めよ
19
v4
v6
8
17
9
v1
35
11
22
v5
4
v10
10
23
12
v3
19
13
v2
本講演では
無向グラフで
やりますが
15
7
15
v9
v7
14
27
5
8
v11
v8
20
19
まず、具体例で、問題自身のイメージを
19
v4
(16)
17
(33)
v1
9
35
15
v3
19
(7) 22
v5
4
7
12
11
(21)
15
10
(11)
v7
14
(19)
(35)
(32)
v10
(34)
23
27
13
v2
v6
8
v9
5
8
v8
v11
(43)
20
最短経路は任意の一つでよいとする(したがって、木でよい)
20
問いかけ:
そのアルゴリズムはどんなところで使われる(使える)か?
例えば、
インターネットの各ルーターで、いろんな行き先をもつデータを中継す
るときに、つぎの中継先としてどこへ送ればよいかを決めた表(ルー
ティングテーブル)が使われるが、なるべくコストの少ない経路を求め
ておくときにこのアルゴリズムは使われる。
21
場合によっては、
問いかけ:
計算時間を問わなければ、どんな(単純な)方法があるか?
例えば
開始ノードからの辺(枝)数が1 の経路、2 の経路、3 の経路、‥‥、n-1
の経路(n はノード数)を全部列挙する。
各ノードについて、そのノードを終点とするような経路全体の中から、距離
が最短のものを選び出す。
問いかけ:
これの計算時間のオーダーは?
22
ヒントを与えて考えさせる
19
v4
9
v1
11
22
v5
35
15
v6
8
17
v9
4
15
10
v10
7
v3
23
12
19
13
v2
v7
14
27
5
8
v11
v8
20
V3からの最短距離がこれだと保証できるノードは?
23
19
v4
9
v1
11
(7) 22
v5
35
v6
8
17
v9
4
15
10
v10
23
7
15
v3
12
v7
5
14
27
19
8
13
v2
v11
v8
20
v5へはこの7が最短距離であるという理由(保証)は?
24
v3からv5へのすべて
の経路を考える
19
v4
8
17
9
v1
35
15
22
v5
4
10
v10
7
15
v3
v9
11
v6
23
12
v7
5
14
27
19
8
13
v11
v8
v2
20
<v3,v5>で距離7で行ける
<v3,v1>を通って行ったら35以上
<v3,v2>を通って行ったら19以上
<v3,v7>を通って行ったら12以上
∴ v5への最短距離は7、経路は<v3,v5>
25
もし、例えばv2へは<v3,v2>で19が最短のはずという意見があったら
19
v4
v6
8
17
9
v1
v9
11
22
v5
4
35
15
10
v10
23
7
15
v3
12
v7
5
14
27
19
8
13
v2
(19)
v11
v8
20
どうやって決めたのか、どんなグラフに対しても適用できる
方法のか
26
19
v4
17
9
v1
(7) 22
v5
35
11
v6
8
15
10
v10
4
23
7
15
v3
v9
12
v7
5
14
赤の部分は確定済み
27
19
13
v2
8
v11
v8
20
次に、v3からの最短距離がこれだと保証できるノードは?
(アルゴリズムを考えているので、どれだけの情報を見て決める
のか、その決め方が重要)
27
19
v4
8
17
9
v1
(7) 22
v5
35
v6
4
7
15
v3
12
v9
11
15
10
v10
(11)
v7
23
5
14
27
19
13
v2
8
v11
v8
20
v7へは11で行けるがこれが最短距離であるという理由は?
28
v3からv7へのすべての経路を考える。
その中で最短であること:
19
v4
(16)
11
v6
(29)
(35) 17
v1
9
(7) 22
v5
35
7
15
v3
(19)
v2
8
v9
19
4
10
v10
(11)
23
(12)
v7 14 5
12
27
8 v11
13
v8
20
<v5,v7>を通っていけば距離
11で行ける(<v3,v7>を通っ
て来るよりは距離が短い)、
ただし、11より短い距離では
行けない*
15
v7へのすべての経路で
確定済みのノードのみ
を通ってきて緑の辺で
初めて外へ出たところ
を考える
注(*):v3~v5間は7が
最短距離(これ
は確定済みで、
保証されている)
<v3,v1>を通って行けば35より短い距離では行けない
<v5,v4>を通って行けば16より短い距離では行けない*
など
∴ v7への最短距離は11、その経路はv3~v5間の
最短経路のあと<v5,v7>
29
これまでの最短であることを保証するための議論によって、
次に最短のノードを決定する方法が思い浮かんできたはず
19
v4
17
9
v1
(7) 22
v5
35
4
7
15
v3
19
v6
8
12
v9
11
15
10
v10
(11)
v7
23
5
14
赤の部分は確定済み
27
13
v2
8
v11
v8
20
次に、v3からの最短距離がこれだと保証できるノードは?
(どれだけの情報を見てきめるのか、その決め方が大事)
30
19
(16)
v4
v9
v6(29)11
(21)
(35) 17
9
15
v1
(7) 22
10
v5
v10
4
35
(34)
(11)
7
23
v7
15
5
12
14
v3
27
19
13
8 v11
(19)
(38)
v2
v8
(24)
20
8
確定済みのノードのみ
を通ってきて緑の辺で
初めて外へ出たところ
を考える
確定済みノードから一つの辺で外へ出た先のノードの距離の最小(16)を選ぶ
v4へは最短距離は16、経路は<v3,v5><v5,v4>
正しいという理由は前と同様
31
ここで、一般的な図で、一般的な方法を述べる
(i)
(j)
(k) (l)
(m)
確定済みのノードのみ
を通ってきて緑の辺で
初めて外へ出たところ
を考える
i、j、k、‥は最後に
その緑の辺を通って
来たときの距離の最
小値
ここで、例えば j が最小とすると
(n)
32
確定済みノードが一つ増える
(i)
(j)
(k) (l)
(m)
(n)
33
そのノードから外へ
出る新しいすべての
緑の辺について距離
o、p、‥、qを求める
(o)
(p)
この手間はO(n)
(j)
(q)
(k) (l)
(m)
最小値を探す手間はO(n2)
すなわち、確定ノードを一
つ増やすのにO(n2)時間
よってn個を確定するには
O(n3)時間
(n)
効率化のために、q、k、l、‥、
mのうち、最小のを一つ記憶
するようにする。今までの最
小値とqを比較して更新する。
(一つ確定ノードを増やすため
の手間はO(n2)からO(n)になる)
34
改めて、アルゴリズムの概略の記述を参照して説明
計算時間のオーダーは O(n3)
かも
隣接ノードへの確定ノードからのすべての行き方を列挙するなら
計算時間をO(n2) にするには
隣接ノードへは最小の一つだけ記憶するように
抽象アルゴリズム( O(n2) 時間の)
正しさ(と計算時間)の証明
(記述しておく。内容的には今までの例での考えと同じ。帰納法の例。
説明は場合によって省く)
具体アルゴリズム(実装)
最短距離が確定しているノードとその値、隣接ノードおよびそこへ
の仮の最短距離(途中確定ノードのみ通って行く場合の最小距
離)、未訪問ノードなどをどのように表すかを始めに説明して
解読して意味が分かるというよりは、構成するという立場で説明する
35
以上のは、Dijkstra(ダイクストラ)のアルゴリズム
類似の問題とか拡張、参考資料などに触れる。
- 2ノード間のみの最短経路
目的ノードまでの距離を意識して
A*探索アルゴリズム
参照
- すべてのノード間の最短経路
計算結果を再利用
Warshall-Floyd法
参照
36
挿話として、例えば
エドガー・ダイクストラ(Edsger Wybe Dijkstra)
(1930年5月11日 - 2002年8月6日)
オランダ人情報工学者
1972年、プログラミング言語の基礎研究に対してチューリング賞を受賞(7人目)。
構造化プログラミングの提唱者。
Communications of the ACM に “Go To Statement Considered Harmful”
という論文を発表(1968)。
E. W. Dijkstra Archive :a collection of over 1300 written works, famously
known as EWDs
(http://www.cs.utexas.edu/users/EWD/)
37
(4)pptスライド
テキストと兼ねる場合は、主張点、論旨の流れも記述する
予習・復習で使えるように
学生はほとんどメモを取らない
注意を引くように
説明に沿って
取れば聞けない
例えば
アニメーションで順次表示する
詳細部は挿入する形で
記述内容の論理的・構造的な表示の工夫を 表題との整合性も
ページ番号は付けておく(参照時に必要)
38
これはまずいぞ
えーっと? どうだったかな
あ、アニメーションになってたんや
あ、つぎにあったんか
(時計を見て)どこまでやれるかな
研究発表の仕方や提示pptスライドの悪い見本 みたい
39
1コマ90分18万円
「先生。私たち学生は、先生のこの講義で、1コマにつき18万円
払っているのです。よく考えられた魅力的な授業をお願いします」
年間授業料535,800円×約130人×2学年÷約50科目 = 約280万円/科目
約280万÷15コマ=約18万円/コマ
40
(5)自己診断による改善
・ 理解度のチェック
何回かは(できれば毎回)理解度チェックをする
出席票を兼ねて ミニクイズとかで
なるべくその時間で理解させるように
演習 宿題
学生の理解不足をあとまで引きずらせない
41
・ 学期途中のアンケート
具体的に尋ねる項目は自分の授業スタイルに合わせて
(講義内容、教授技術・熱意、教材、運用に分けて)
聞く手段もいろいろありうる
複数人で担当する場合とかは実情にあわせて
学生へのフィードバックは怠らないこと
(どんな意見があって、それにどう対応するかを伝える)
・ 変更しない/できないこと(理由も。方針とか、時間的余裕がないとか)
・ 直していること
42
(6)ティーチングアシスタント(TA)の活用
授業中、現状で多いのは
・ 説明させる(演習やプログラム課題・システム紹介などの)
教育訓練のためによい
・ 資料類の配布と収集
講義をしっかり聞いて、授業改善案をつくって担当教員に示させる
(ここが分かりにくかった、ここはもっと簡単でもよいのでは、こんなスライドに
した方がよいと思う、など)
これも訓練になる
(昨年のFD研修会でも学生が提案)
43
ゼミナールや修士論文発表会について
発表の仕方、論文の書き方 まずいのも・・・
- 研究室で、発表の仕方や論文の書き方について十分指導をすること。
学生にとって、将来も大事な技術である。具体例で訓練をさせる。
研究室でやるべき教育の義務
- 司会教員は、発表および質疑の教育の場であるということを肝に銘じ、
理解を助ける質問をすること
出席学生からの質問が出やすいようにする / 場合によっては当てる
発表の悪いところを指摘し、改善方向を教授すること
発表学生に「ありがとうございました」と礼など言わない
緊張感も必要
44
おわりに:
よい教育・研究を行って、卒業生に、将来、
「奈良先で受けた教育のおかげです」
「奈良先で受けた研究指導のおかげです」
と言ってもらえるようになって頂きたい。
私がお役に立てればと思っています。
45