第2章.証券会社と証券業務 (2)証券業の再編と新規参入 ⑥世界の証券業界の変貌 ○米国における銀行・証券の歴史的展開 – :商業銀行の証券業務(会社証券の引受け・ 販売)の禁止、投資銀行の預金・貸付業務の禁止 – 分離の理由: • 両業務を兼営することに伴う利益相反の発生の防止 • 証券業務のリスクの銀行への波及の防止 – 日本も戦後、米国流の銀証分離の制度を導入 • 1987年以降: – 銀行持株会社の証券子会社の業務規制緩和 • 1999年:グラム・リーチ・ブライリー法 – 銀行・証券分離の最終的撤廃:持株会社を通じて相互に進出可能 1 • 2008年:金融危機の中で投資銀行が経営危機 に直面 – ベアー・スターンズ、メリル・リンチは銀行(JPモルガ ン・チェース、バンク・オブ・アメリカ)に買収される – リーマン・ブラザーズの経営破綻 • FRB(米国の中央銀行)や政府からの支援を受けやすくする ために銀行業へ転換 – 自己資本比率規制等の強化 – レバレッジを効かせたトレーディング業務(これまでの収益の 柱)が困難になる • 投資銀行の将来? • 投資銀行が行ってきた業務の将来? 2 ○ゴールドマン・サックスの収益構造:2004-06 部門 業務 投資銀行部門 収益構成比 部門内の 収入構成比 8% アドバイザリー 49% 株式引受け 23% 債券引受け 28% トレーディング・自己資金投資 部門 73% 株式トレーディング 34% 債券・通貨・商品トレーディング 55% 自己資金投資 11% 資産運用・証券サービス部門 19% 資産運用 65% 証券サービス 35% 3 ○世界の金融制度の歴史的展開 • 19世紀後半~第一次大戦:金本位制の下で自由な金 融制度 – 国際的資本移動の自由、株式市場も発展 • 1930年代の不安定化した経済・金融の状況 • 戦後~70年代:安定化を重視した規制された金融制度 – 金利規制・業務分野規制・国際的資本移動の規制・固定相場 制度 • 1980年代~:金融・証券制度の規制緩和・自由化 – 金利規制の撤廃、銀証分離規制の緩和、国際的資本移動の 自由化、金融のグローバリゼーションの進展 4 ラジャン=ジンガレス『セイビング・キャピタリズム』p.267 5 ○第2章参考文献 • • • • • • • • • • • 福光寛・高橋元『ベーシック証券市場論』第5章 同文館出版 日本証券経済研究所『詳説:現代日本の証券市場08年版』 日本証券経済研究所『図説アメリカの証券市場05年版』 証券経営研究会編『証券ビジネスの再構築』日本証券経済 研所2004 大崎貞和『金融構造改革の誤算』東洋経済新報社2003 北原徹「金融システムの市場化:アメリカと日本」『月刊資本 市場』2007年6月号 加野忠『金融再編』文春新書1998 西村信勝『外資系投資銀行の現場」日経BP社1999 遠藤幸彦『ウォール街のダイナミズム』野村総合研究所1999 資本市場研究会『投資銀行の戦略メカニズム』清文社2001 倉都康行『投資銀行バブルの終焉』日経BP社2008 6 第3章.証券化 (1)証券化とその仕組み • 2つの証券化Securitization – ①資金の調達・運用が、預金・貸出から市場で取引さ れる証券という形に変わること。 – ②金融機関・企業などが保有する金銭債権・不動産な どの資産を、その資産の保有を目的とする特別目的 会社SPC等に譲渡し、その資産を裏付けにしてSPC が投資家向けに証券を発行する。 – 本章では、②の意味の証券化を説明 ・証券化の特徴:従来の証券との違い 7 ○証券化の仕組み アレンジャー 債権譲渡 格付会社 格付 貸( 出原 債債 権権 ) 負 債 資 本 ・ ロ( ー不 ン足 の主 債体 務) 者 オリジ ネーター ( 貸 A 資優 出 B 産先 担劣 債 権 S 保後 証構 券造 ) SPC(特別 目的会社)等 債券発行 投( 余 資剰 家主 体 ) 8 ○証券化の仕組み:構成要素 • ①証券化対象資産の調査・選定・固定化 – 対象債権の貸出条件・パフォーマンス等の調 査・リスク分析、リスク分散、対象の固定化 • ②SPVの設立 – SPVの役割:オリジネーターから切り離された 資産のみによって裏付けられた証券の発行 – SPVの組織形態:SPC、信託、組合 9 • ③債権の回収・管理(サービシング) – サービシング業務は、通常原債権者が担当 – 原債務者と原債権者との関係は従来通り • ④信用補完と商品組み立て(ストラクチャリング) – 証券化商品の元利金支払を確実にするための措置 • キャッシュリザーブ(スプレッド勘定):譲受資産・債権から発 生するキャッシュフローの一部を将来の資金不足に備えて積 み立て • 第三者による信用補完:銀行や損保会社からの保証 10 • ⑤格付けの取得 • 一回性の証券発行、多段階の優先劣後証券の発行 • 高格付取得のため、ストラクチャリングは格付会社と協議 しながら行う • ⑥投資家への販売 – 証券会社は証券化商品のアンダーライティング(引 受けと販売)とマーケットメイク(売値・買値を提示し て顧客に売買機会を提供)を行う • :ストラクチャリングを中心に 証券化の仕組み全体のアレンジ – 証券会社や銀行 11 ○優先劣後構造について • 数値例 – 格付のランク付けを以下のように仮定する • A:1年間のデフォルト確率1%未満 • B:1%~6% • C:6%以上 – ローンaとローンbをプールして証券化する • ローンa、ローンb共に返済期限が1年後で、元利 返済額が共に1000万円 • 共にデフォルト確率5%、両者に相関がない(統計 的に独立)、デフォルトした場合返済額はゼロ • ローンa、b共に格付はB 12 ・ローンa、bをプールした全体の元利返済状況は、以下の 4つのケースとなる。 ローンa 債務履行 ローンb デフォルト 債務履行 ケース① 返済額:2000万円確 率=0.95×0.95 =0.9025 ケース② 1000万円 0.05×0.95 =0.0475 デフォルト ケース③ 1000万円 0.95×0.05 =0.0475 ケース④ 0円 0.05×0.05 =0.0025 13 • ローンa、bをプールして、それを裏付け担 保とする証券化を考える。 – 証券化により優先債と劣後債の2種類の債券 を発行する – 優先債:担保資産からのキャッシュフローを優 先的に1000万円を受取ることのできる権利 – 劣後債:優先債への支払いが行われた後、 1000万円を受取ることのできる権利 – 優先債のデフォルトはケース④のみ、デフォル ト確率:0.25% ⇒ 格付:A(高格付の債券) – 劣後債のデフォルトはケース②、③、④で発生、 デフォルト確率9.75% ⇒ 格付:C 14 ・証券化の優先劣後とリスク量 ・ ・Senior Tranche:優先部分、 Mezzanine Tranche:中間部分 Equity Tranche:劣後部分・出資部分 IMF. Global Financial Stability Report April 2006 p.64 15 『ベーシック証券市場論:改訂版』p.40 16 ○証券化商品の分類 (広義の) ABS (狭義の) ABS リース、自動車 ローン、CDO (狭義の)MBS or RMBS (広義の) MBS 住宅ローン CMBS 商業不動産、 商業不動産 担保ローン 17 ○証券化用語 証券化商品:証券化によって作り出された投資家向けの証券 Special Purpose Company:特別目的会社 Special Purpose Vehicle Asset Backed Security:資産担保証券 Asset Backed Commercial Paper:資産担保コマーシャル・ペーパー (狭義の)Mortgage Backed Security:住宅ローン担保証券 Residential Mortgage Backed Security:住宅ローン担保証券 Commercial Mortgage Backed Security:商業不動産ローン担保証券 Collateralized Loan Obligation:企業向一般貸出債権担保証券 Collateralized Bond Obligation:社債担保証券 Collateralized Debt Obligation:債務担保証券(CLO、CBO、証券化商品 を担保として再証券化したもの(ABSCDO)、の全体) 18 (2)証券化の発展 ・米国の証券化比率の推移:証券化された貸出残高/金融機関貸出残高 ローンの証券化比率 45% 40% 35% 30% 25% 20% 15% 10% 5% 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1970 1972 1974 1976 1978 0% 19 19 90 19 91 19 92 19 93 19 94 19 95 19 96 19 97 19 98 19 99 20 00 20 01 20 02 20 03 20 04 20 05 20 06 20 07 日本:ローンの証券化比率推移 3.5% 3.0% 2.5% 2.0% 1.5% 1.0% 0.5% 0.0% 20 ・各種資産の証券化:米国 各種ローンの証券化比率推移 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 個人住宅ローン 消費者信用 2006 2004 2002 2000 1998 1996 1994 1992 1990 1988 1986 1984 1982 1980 1978 1975 0% 商業不動産ローン 企業向貸出 証券化比率=証券化された資産/資産総額 21 米国:証券化の担保資産(2007年) 消費者信用 9% 商業不動産ローン 11% 企業間信用 1% 企業向貸出 1% ・公的証券化:53% 個人住宅ローン 78% ・民間証券化:25% ・サブプライム 証券化:約10% ・総額:8.2兆ドル 22 ・ヨーロッパと米国の証券化商品発行額の推移 IMF. Global Financial Stability Report April 2008 p.56 23 24
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