ミクロ経済学 (12)異なった時点の選択と利子率 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2012年7月2日 消費者余剰 支払ってもよいと考えている金額から実際に支払 った金額を差し引いた値 金額を面積で表す=△ABCの面積 価格 A 価格 P 消費者余剰 B 需要曲線 C 数量 Q 2012/7/2 ミクロ経済学 12 2 生産者余剰 価格 収入から費用を差し引いた金額 生産者余剰を面積で表す=△ABCの面積 供給曲線 生産者余剰 A 価格 P B C 数量 0 2012/7/2 Q ミクロ経済学 12 3 アイスショーの売り手と費用 売り手 2012/7/2 費用(円) 真央 2000 美姫 3000 鈴木明子 5000 高橋大輔 7000 織田信成 10000 ミクロ経済学 12 4 生産者余剰 費用(円) 真央のPS 問い:総生産者余剰を求めよ 美姫のPS 明子のPS 大輔のPS 10000 9000 8000 価格9000円 5000 供給曲線 3000 2000 新しい供給量 枚数 1 2012/7/2 2 3 4 5 ミクロ経済学 12 5 消費者余剰と生産者余剰 価格 供給曲線 消費者余剰 P 生産者余剰 需要曲線 数量 Q 2012/7/2 ミクロ経済学 12 6 経済厚生 経済学では自由な競争は効率をもたらすと考える 価格制限は余剰や不足をもたらした.そのような事 態がないだけでなくある種の優れた点を持つ 経済厚生あるいは総余剰とは取引をしている全ての 主体の望ましさを表す 買い手と売り手がいた 総余剰は消費者余剰と生産者余剰の和 政府がある場合はそれに政府税収をさらに加える 需要曲線と供給曲線の交わる点である完全競 争市場の均衡では総余剰が最大化される 2012/7/2 ミクロ経済学 12 7 総余剰あるいは経済厚生 価格 総余剰 供給曲線 P 需要曲線 数量 Q 2012/7/2 ミクロ経済学 12 8 余剰と経済厚生のまとめ 消費者余剰は取引による消費者の利益 生産者余剰は取引による生産者の利益 消費者余剰は需要曲線と水平な価格線の間 生産者余剰は供給曲線と水平な価格線の間 価格の上昇によって生産者余剰は増える 元から売っている生産者は価格上昇分だけ利益を得 る 新たな売り手は価格上昇分よりも小さい生産者余剰 が発生する 総余剰は消費者余剰と生産者余剰の和 均衡点では総余剰が最大化される 2012/7/2 ミクロ経済学 12 9 異なった時点での選択 お金を借りたり貸したり,DVDレンタル 真央はアルバイトで5,000円を得た 明日は何もしない 明日のために今得た所得の一部を取ってお くだろう 明日4,000円の買い物をする予定ならば今日 の買い物を諦めなければならない 5,000-4,000=1,000 今日使えるのは1,000円だけ 2012/7/2 ミクロ経済学 12 10 貯蓄 今得たお金を将来のために取っておく行為 を貯蓄という 貯蓄をすれば現在の消費は減る しかし,将来の消費は増える つまり,現在の消費と将来の消費はトレー ドオフの関係にある 予算制約線や時間制約線と同様にトレード オフを図解できる ブラックサンダーとうまい棒の選択を参考 2012/7/2 ミクロ経済学 12 11 明日の消費(円) 5000 4000円貯蓄して C 今日1000円消費 -1は今日の1円を増や すには明日の1円を犠牲 にしなければならない B 4000 傾き= 5000-0 0-5000 =-1 A 1000 2012/7/2 所得を今日 すべて使う 今日の消費(円) 5000 ミクロ経済学 12 12 明日の消費(円) 5000 一種のタンス預金 今日と明日の消費 (アリ) C B 貯蓄=4000=5000-1000 4000 今日と明日の所得 (キリギリス) 明日の 消費 A 1000 2012/7/2 今日の消費(円) 5000 ミクロ経済学 12 13 来年の消費(円) 100万円 80万円 真央は今年100万円の所得を得た. しかし,来年は充電期間.この場合も同じ C B 100万-0 傾き= 0-100万 =-1 所得を今年 すべて使う A 20万円 2012/7/2 今年の消費(円) 100万円 ミクロ経済学 12 14 元本と利子 ゆうちょ銀行や普通の銀行の口座 預けたお金は元々のお金,元本という 元本に対して銀行は利子を支払う 最初に預けたお金は保障されるので元本と 利子の合計(元利合計)は増える 1. 100万円預けて利子が100円→1,000,100 2. 100万円預けて利子が2万円→1,020,000 預ける人にとっては利子が多いほどよい 有利さをどう測る? 2012/7/2 ミクロ経済学 12 15 利子率 貯蓄の有利さは利子率(%)で測る 利子 利子率= ×100 元本 1. 100/1,000,000 × 100=0.01 (%) 2. 20,000/1,000,000 × 100=2 (%) 預金者は利子率(金利)が高い方が有利 金利は普通変動する 現在(2011年)は低金利で0.02% 1990年頃は7% 2012/7/2 ミクロ経済学 12 16 複利 複利~前の期の元利合計に利子が付く 例:複利で年利3%で1万円を預けた 1年目:元本 10,000 利子 10,000×0.03=300 元利合計 10,000+300=10,300 2年目:元本 10,000 利子 10,300×0.03=309 元利合計 10,300+309=10,609 複利は利子が利子を生みだすお得な預金法 2012/7/2 ミクロ経済学 12 17 単利 単利~預けた元本に毎期利子が付く 例:単利で年利3%で1万円を預けた 1年目:元本 10,000 利子 10,000×0.03=300 元利合計 10,000+300=10,300 2年目:元本 10,000 利子 10,000×0.03=300 元利合計 10,300+300=10,600 2012/7/2 ミクロ経済学 12 18 複利/2 利子率を英語で interest rate. 利子率をrと略す 元本 10,000 利子 10,000×0.03=300 元利合計 10,000+300=10,300 元利合計を r で表現する 10,300=10,000+300=10,000+10,000×0.03 =10,000 × (1+0.03)= 10,000 × (1+r) 便利な公式 元利合計=元本× (1+r) 2012/7/2 ミクロ経済学 12 19 今年の所得100万円で利子率r 今年の所得100万円,来年の所得0円 利子率 r で貯蓄.r は小数点表示 3%ならば r=0.03. パーセント表示:r × 100 % 今年所得をすべて貯蓄すれば来年は 100×(1+r)万円 の所得を得る 予算線はどう変わるだろうか? 2012/7/2 ミクロ経済学 12 20 来年の消費(万円) 100(1+r) 100 C 今年と来年の所得と貯蓄 今年の所得を すべて貯蓄 B 100(1+r)-0 傾き= 0-100 100(1+r) = -100 =- (1+r) A 今年の消費(万円) 100 2012/7/2 ミクロ経済学 12 21 利子がある場合の異時点間の消費 予算線の傾き: –(1+r) 今年の所得をすべて消費は変わらない(A) 所得すべて貯蓄の時に来年の消費(C)は 100(1+r) 利子率rが上がれば消費可能な領域は増える 今年の消費と来年の消費のトレードオフは 1+r 1円の現在消費を増やすには 1+r 円の来年消費 を減らさなければならない 2012/7/2 ミクロ経済学 12 22 利子がある場合の異時点間の消費 利子率の上昇は今年の消費に比べ来年の消費は 有利になる もっと貯蓄しよう.利子率上昇→貯蓄増加 ここまでの理解では今は低金利なので現在の消 費の方が有利 利子率は現在と将来の消費 のトレードオフを示す 貯蓄(savings)曲線は右上がりになる 価格を利子率 r とする.貯蓄曲線を S とする 2012/7/2 ミクロ経済学 12 23 資本市場の供給 利子率 r S 貯蓄曲線は資金の 供給曲線に等しい r 資金量 S 2012/7/2 貯蓄曲線 S ミクロ経済学 12 24 貯金と借入 貯金をする.将来銀行は真央が貯金を引き 出すときにお金を与える 銀行に金が入り後で出て行く お金を借りる人は今お金が手に入り後で返 済.お金が出ていく 貯蓄を受け入れる側はお金を借りている. 将来の返済義務が生じている 2012/7/2 ミクロ経済学 12 25 借入 レンタルDVDを借りると最初にレンタル料金 を支払う.見終わったら返却. レンタル料金が借金の利子(利息) 来年所得を得るが今年は無一文.しかし,利 息5万円でお金が借りられる.今年100万円借 りたら返済額は? 105万円 100 + 5=105 (万円) 返済額=借入金+利子(利息) 今年100万円使うには来年105万円支払う必要 2012/7/2 ミクロ経済学 12 26 今年の所得0で来年100万円の所得 借入の有利さをどう測る? 利子 借入利子率= × 100 借入金額 借入金額100万円で利息5万円の借入利子率は 5/100 × 100 = 5 (%) 利息=借入金額×借入利子率(小数点表示) 100万円を利子率15%で借り入れたときの利 息はいくら? 100×0.15=15 (万円) 2012/7/2 ミクロ経済学 12 27 今年の所得0で来年100万円の所得/2 利率 rで100万円借りたときの返済額 返済額=借入金+利子(利息) =100+100×r=100(1+r) 今年全く無所得で来年100万円の所得を得る. 借り入れ利子率は預け入れ利子率と同じrとする 今年消費をするには借り入れをして,借入金額 と利息合計を来年支払う必要 来年全く消費しなければ今年いくら借りられる 来年の所得を全て借金の返済に充てる 2012/7/2 ミクロ経済学 12 28 今年の所得0で来年100万円の所得/2 100 万円 1+r 今年は 100/(1+r) 万円借り入れた 来年の返済額は 100 ×(1+r) =100 万円 1+r となり来年の所得に等しい 借金によって予算制約線はどう変わるか? 2012/7/2 ミクロ経済学 12 29 来年の消費(万円) Dの消費を した時の借 金返済額 100 今年の負債と来年の所得 真央の所得 パターン B点:来年の所得をすべて消費 E点:最大限の今年の消費 B 借入の予 算制約線 D 100-0 傾き= 0-100/(1+r) 100(1+r) = -100 =- (1+r) 今年の消費(万円) E 100 1+r 2012/7/2 ミクロ経済学 12 100 30 借金をした場合のトレードオフ 借金をした場合の予算制約線の傾きは –(1+r) 借金をして今年1円消費を増加させるには借金 を返すために来年の消費を 1+r 円減らす必要 借り入れ利子率が高くなるほど借金は不利 貯金も借金も利子率が重要 預け入れと借り入れ利子率は通常異なる 貯蓄・借金で異時点間消費で利子率は大切 借入をする投資は利子率が上昇すると減る 2012/7/2 ミクロ経済学 12 31 資本市場 利子率 r r I 資金量 I 2012/7/2 投資曲線 I =需要 ミクロ経済学 12 32 他の事情は一定の場合の分析 資本市場の均衡 利子率 r I 貯蓄曲線 S と投資曲線 I の交点で利子率決定 S 貯蓄曲線 S =資金供給曲線 均衡利子率は市場で決まる r* 投資曲線 I =資金需要曲線 I*=S* 2012/7/2 ミクロ経済学 12 資金量 33 利子率はお金のレンタル価格 1プラス利子率は資金のレンタル価格 貯蓄者は今年の1円を増やすには貯蓄によっ て生まれる来年の1+r円を諦める 借入者は今年の1円を増やすには借金と利息 の合計1+r円を将来支払う必要 2012/7/2 ミクロ経済学 12 34 今期の所得よりも支出したかったら 現在の貯蓄残高から引き出す 2. 新たに借金をする 貯蓄と貯蓄残高(資産)←豚の貯金箱 借入と負債 ストックとフロー 1. 一定期間内の変化や起こったものの大きさ をフロー 一時点に存在するものの大きさをストック 2012/7/2 ミクロ経済学 12 35 ストックとフロー • お風呂に水を入れる,栓を抜いて排出 • 現在の浴槽のお湯の量がストック • 流入と流出がフロー フロー ストック 水 フロー 2012/7/2 ミクロ経済学 12 36 ストックとフロー 今年の生産や所得 = フロー 貯蓄残高=ストック 貯蓄,引き出し=フロー 負債残高=ストック 新たな借金や返済=フロー 生産,消費,投資=フロー 2012/7/2 ミクロ経済学 12 37 ストック 昨年末貯金残高が100万円あった 今年は10万円新たに貯金した 今年の末には貯金残高はいくら? 110万円 昨年末ローン残高が50万円あった 今年新たに10万円銀行から借りた 今年末の借入残高はいくら? 60万円 貯蓄した=貯蓄残高が増える 借入する=借入残高が増える 純資産=資産(貯蓄残高)ー負債(借入残高) 2012/7/2 ミクロ経済学 12 38 貯蓄 今期の所得のうち消費しなかった残りの金額 を貯蓄という 前期の貯蓄残高(資産)は今期の貯蓄分だけ増え て今期の貯蓄残高になる 100+10=110 前期の資産+今期の貯蓄=今期の資産 今期の貯蓄=今期の資産-前期の資産 資産が増えれば貯蓄したことになる 2012/7/2 ミクロ経済学 12 39 借入 貯蓄を取り崩すことなしに今期の所得以上に 支出する時は誰かから借入をする 前期の借入残高(負債)は今期の借入分だけ増え て今期の借入残高になる 50+10=60 前期の負債+今期の借入=今期の負債 今期の借入=今期の負債-前期の負債 負債が増えれば借入したことになる 人々は実際貯蓄と借入を同時にしている 2012/7/2 ミクロ経済学 12 40 貯蓄と資産 今期の貯蓄をS.前期の資産を A0 今期の資産を A 貯蓄を加えると今期の資産 A0 +S =A 資産の増加が貯蓄 S =A -A0 Sがマイナスは貯蓄残高の取り崩し 2012/7/2 ミクロ経済学 12 41 借入と負債 今期の借入(投資)をI.前期の負債を L0 今期の負債を L 借入を加えると今期の負債 L0 +I =L Lがマイナスは借金の返済 I =L - L0 貯蓄でも借入でもストックの変化がフローの 変化になる 2012/7/2 ミクロ経済学 12 42 億円 2010年12月末 金融資産・負債残高表 (家計) 16,000,000 14,876,826 14,000,000 12,000,000 日本の家計の金融資産・負債は 資産は1487兆円 負債は360兆円 純資産は1127兆円 10,000,000 8,000,000 6,000,000 3,606,246 4,000,000 2,000,000 0 資産(A) 負債(L) 出所:資金循環統計 2012/7/2 ミクロ経済学 12 43 億円 金融資産・負債残高表企業 (2010年末) 14,000,000 12,000,000 10,000,000 8,000,000 日本の企業の金融資産・負債は 資産は814兆円 11,718,380 負債は1171兆円 純負債は357兆円 8,143,890 6,000,000 4,000,000 2,000,000 0 資産(A) 負債(L) 出所:資金循環統計 2012/7/2 ミクロ経済学 12 44 家計は貯蓄主体 住宅ローンや自動車ローンがあるが預貯金 を中心に貯蓄が積み上がり資産が負債を上 回っている 1127兆円の金融純資産を持つ 誰かの貯蓄は誰かの借金 企業は借金主体である.357兆円の金融純負 債を有す 家計の純資産ー企業の純負債= 1127-357=700 (兆円) この差額はどこへ? 2012/7/2 ミクロ経済学 12 45 借金で苦しむ人とデブ 借金で苦しんでいる人と肥満な人共通点 どちらも現在たくさん消費している 借金苦は現在の所得以上に消費 肥満人は体型維持の消費カロリー以上に食物 を摂取している どちらも我慢強さに問題 低所得者層ほど肥満率が高い 高所得者層ほど自分の健康に留意している デブほど借金に苦しむらしいがどうすべきか―池田新介 プレジデント 2009年1.12号 米国の肥満率悪化 貧困層急増が影響か NPO調査 デブの帝国 2012/7/2 ミクロ経済学 12 46 復習1 今得たお金を将来のために取っておく 行為を貯蓄という 複利は前の期の元利合計に利子が付く 利子率の上昇は来年の消費は今年の消 費に比べ有利になる 利子率が上昇すると借り入れによる消 費は難しくなる. 2012/7/2 ミクロ経済学 12 47
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