Network Economics (10) ユニバーサル・サービス 京都大学 経済学研究科 依田高典 1 USOの神話 • あまねく公平なサービスの理想か、極めて 生臭いイデオロギーか • 第1世代:独占の擁護 • 第2世代:内部相互補助 • 第3世代:1996年通信法 2 第一世代:独占の擁護 • T.N.Veilの社是(1908) 一つの政策、一つのシステム、ユニバーサル・サービス 当時の電気通信普及へ寄与したデュアル・サービスへの AT&Tの対抗概念 相互接続とユニバーサル・サービスの相克 • キングスベリ誓約(1913) 公益事業規制の独占体制 • 第1世代ユニバーサルサービスはAT&Tの独占擁護 スローガンであり、1934年通信法にも特別の既定 なし 戻る 3 第二世代:内部相互補助 • 1930年スミス対イリノイベル社判決を契機に、1943 年から長距離から地域へ費用補填(ステーション・ツ ー・ステーション基準への移行) • 競争時代の幕開け 超890メガサイクル裁定(1959)、カーターホン裁定(1968)、 MCIのマイクロウェーブ・サービス(1969)、エグゼキュネッ ト裁定(1974) AT&Tの長距離通信市場における法的独占の否定 • 内部相互補助体制のゆらぎ ENFIA協定(1978)、アクセスチャージ制度創設(1983)、ユニバ ーサルサービス政策採用(1984) 高費用地域:ユニバーサル・サービス基金、 低所得者:ライフライン、リンクアップアメリカ 戻る4 第三世代:1996年通信法 • NII構想(1993)、NTIA報告書(1994) • 1996年通信法によるユニバーサル・サービスの規定 定義:(1)教育・医療・公共の安全、(2)大多数の加入者、(3)公 衆電気通信網、(4)公共の利益・便宜・必要 原則:(1)公正・妥当・支払可能な料金、良質なサービス、(2) 全ての地域、高度なサービス、(3)過疎・高費用地域のアク セス、(4)事業者の平等・無差別な負担、(5)明確・予測可 能・十分な基金制度、(6)教育・医療へのサービス、(7)競争 中立的な制度 戻る5 USOの定義 • 類似概念 コモンキャリッジ:非差別性 ラスト・リゾート:Availability(地理的利用可能性) ユニバーサル・サービス:前2者+Affordability(経済的利用可 能性) • メタファーの変遷(Sawhney&Jayakar) (1)アプリオリな定義付け困難 (2)定義よりも実際の政策 (3)複合的な諸政策の微調整 6 図 3: メ タファ ーの移転 電報 一般選挙権 一般教育 領域的拡張 ○ ○ ○ 人口的拡張 階層的拡張 ○ ○ ○ (矢印は電話のユニバーサル・ サービスのメ タファ ーが移転し てきたこ と を表す。 ) 戻る USOの政策 • 2つの合理化 (1)所得再分配・社会政策的見地 (2)ネットワーク外部性・メリット財 • US補助の妥当性(Snowberger) (1)低所得者の需要弾力性が高いこと (2)低所得者の社会厚生関数が高いこと • 無視できないアクセス疎外者(Bliznsky&Schement) 貧困・マイノリティ・信条・差し止め • インターネット普及の地域格差 (Downes&Greenstein) 36%の群・8%の人が10以下のISPの選択しか持たない • 根強い反対意見(Kaserman etc.) 政策は低廉な料金・高い普及率に結びついていない 8 USO補助金の在り方 • 3つの補助金の流れ(Weinhaus etc) • 様々な補助金額の推計(平均100億ドルくらい)と キャッシュフローの流れ • 内部相互補助と料金平均化から、 クリームスキミングと料金再バランス化へ • ベンチマーク補助金メソッド (1)価格は競争的か、(2)費用は把握できるか、(3)補助金は正し く支払われるか、(4)誰が負担するのか 9 図 4: ユニバーサル・ サービ ス 補助金の流れ 長距離 サ ・ ビ ス 間 ↓ 大口需要家 消 ↓ 費 者 小口需要家 間 市内 高費用地域 ← 低費用地域 地理間 戻る 表 2: 米国のユニバーサル・ サービス 補助金の諸推計 報告 額(10 億ド ル) TIAP OPASTCO 5.0 1.1 MCI/ Southwestern HATFIELD Bell 3.7 18.1 USTA TIAP Sprint USTA 19.2 3.9 14.0 20.0 (出所: Weinhaus et al. 1999 Fig.8.2) 図 5: 1992 年米国のキ ャ ッ シ ュ フ ロ ー(長距離→市内) 市内電話会社収入 682 億ド ル 市内電話会社 総収入 接続料金 915 億ド ル 194 億ド ル 州間補助金 長距離電話会社収入 39 億ド ル 594 億ド ル 長距離電話 会社純収入 361 億ド ル 戻る p:ベンチマーク価格、c:サービスを提供するための費用、α:高 費用地域でサービスを提供するための付加的費用、β:低所得 者にサービスを提供するための付加的費用、S1:高費用地域へ サービスを提供するための補助金、S2:低所得者へサービスを提 供するための補助金、S1+2:高費用地域・低所得者へサービスを 提供するための補助金と定義する。(図6参照。)ベンチマーク補助 金メソッドとは、次式のような補助金メカニズムである。 S1=(c+α)-p、 S2=(c+β)-p、 S1+2=(c+α+β)-p 特に競争的価格(p=c)の場合、補助金はユニバーサル・サービス のための付加的費用に等しい(S1=α、S2=β、S1+2=α+β)とい う結論が得られる。 戻る 12 USOの料金論 • 費用主義VS価値主義との対立、 競争と価格差別化戦略 • 近年の選択的通話料金制度(OCPS) 数量割引と自己選抜料金の増大(第2級価格差別化) 小口需要家の余剰はゼロに甘んじるという問題点 • U&S (Universal Service & Self Selection) -PD (Ida) 政府は小口需要家にターゲット補助金を与えるが、大口割引型 の価格差別は容認する 図表参照 消費者余剰は、小口・大口ともに改善する パレート優位型・現状公正型の料金体系 • 公共料金の弱者への配慮は重要(井口) 13 図 8: 第 2 級価格差別化と U&S-PD 二部料金 H タ イ プ消費者 の無差別曲線 L タ イ プ消費者 H’ の無差別曲線 L’ H L 補助金 ↓ 数量 戻る むすびに 公益事業規制では効率性のみを追求すれば良いのであって、分配上の 公平性は別の社会政策で対処すればよいという意見も有り得よう。分配 上の公平性を公益事業論の重要なテーマと考えるかどうかは、公益事業 の二要件「必需性」と「規模の経済性」の軽重をどのように評価するかとい う問題である。次の言葉をもって締めくくりとしよう。「新しいユニバーサ ル・サービスを検討することは、我々がかって居た場所や我々がかって何 ものだったかを問うことではなくて、我々がいかなるものになりたいのかを 問うことだ」(Blizinsky and Schement 1999 P.82)。 15
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