加齢に伴う身体能力の変化 20歳代をピークに身体能力は、山を登った後山を下るように 低下してくる。 高齢者の体成分組成 高齢者(65歳以上の年齢)の体成 分構成は図に示したごとく、若年 者と高齢者には差異がある。脂肪 は約2倍に増加し、水分は約8% 低下し、細胞性固形物も水分より やや低下(約7%)する。 この事実は、高齢者が下痢や嘔 吐などの消化器症状、感染症に よる発汗の増加などで容易に脱 水に陥ることを意味している。 体重減少の原因 1.原因不明(24%) 2.経口食事量減少(22%) 3.うつ病(18%) 4.癌(16%) 5.上部消化器系潰瘍(11%) 6.薬剤(9%) 現在日本人60歳以上の栄養状態は、低栄養20%(低栄養予備軍が10%、認 知症5%、寝たきり5%)であり、健常な栄養状態にある人は60%である。残り 20%は過剰栄養か、過剰栄養予備軍となっている。すなわち5人に1人が低 栄養状態である。 加齢に伴う消化機能の変化 臓器 口腔 食道 胃 小腸 大腸 肝臓 胆道 加齢による変化 唾液分泌の低下(口内炎、舌炎、歯槽膿漏) 歯の脱落、咬筋の萎縮による咀嚼能力の障害 味蕾の萎縮による味覚機能の低下・食欲低下 胃内容物の逆流(逆流性食道炎) 食道裂口ヘルニア、食道機能障害、嚥下障害 胃酸分泌の低下(抗菌力の低下) 胃粘膜の萎縮 消化吸収力の低下 腸管蠕動運動低下による便秘、憩室炎 栄養素処理能力の低下、タンパク質合成機能の低下 胆石形成、胆嚢炎 体重減少のアルゴリズム 5%以上の体重減少 適切なカロリー摂取ができているのか? No 食物は適切に手に入るのか? No Yes 社会的援助 デイケア 給食サービス うつ病? 吸収不良 嚥下に問題はないのか? No 食思不振 薬剤性? カウンセリング 薬の見直し 抗うつ薬 アルコール Yes Yes Yes 歯科、耳鼻科的治療 疾病? 病気の治療 栄養サポート 特殊な疾患の治療 代謝・異化の変化 内分泌代謝疾患(甲状腺、糖尿病) がん 感染症 心不全 低酸素性肺疾患 味覚障害? 亜鉛欠乏? 薬剤性? 年齢・生活活動度別エネルギー所要量 性別 身体活動レベ ル 0~5(月) 母 乳栄養児 人工乳栄養児 6~11(月) 1~2(歳) 3~5(歳) 6~7(歳) 8~9(歳) 10~11(歳) 12~14(歳) 15~17(歳) 18~29(歳) 30~49(歳) 50~69(歳) 70以上(歳)1 妊婦 初期 (付加量) 妊婦 中期 (付加量) 妊婦 末期 (付加量) 授乳婦 (付加量) 男性 女性 I II III I II III - 600 - - 550 - 2,350 2,350 2,300 2,250 2,050 1,600 650 700 1,050 1,400 1,650 1,950 2,300 2,650 2,750 2,650 2,650 2,400 1,850 2,200 2,550 2,950 3,150 3,050 3,050 2,750 2,100 2,050 1,900 1,750 1,700 1,650 1,350 600 650 950 1,250 1,450 1,800 2,150 2,300 2,200 2,050 2,000 1,950 1,550 2,000 2,400 2,600 2,550 2,350 2,300 2,200 1,750 +50 +50 +50 +250 +250 +250 +500 +500 +500 +450 +450 +450 脂質とタンパク質の所要量 脂質 年 齢(歳) 0~(月) 6~(月) 1~17 18~69 70以上 妊婦、授乳婦 蛋白質 脂肪エネルギー比率(%) 45 30~40 25~30 20~25 20~25 20~30 脂質所要量は、表に示すように、総エ ネルギー摂取量に対する比率として表 してある。脂肪エネルギー比率の増加 に伴って、動脈硬化性心疾患、乳癌、 大腸癌などの発生が増加することから、 日本人成人にとって望ましい摂取量は 20~25%とされている。 年 齢(歳) 0~(月) 6~(月) 1~2 3~5 6~8 9~11 12~14 15~17 18~29 30~49 50~69 70以上 妊婦 授乳婦 男 女 2.6/kg 2.7/kg 35 45 60 55 75 65 85 70 80 65 70 55 70 55 65 55 65 55 +10g +20g たんぱく質所要量を体重1kg当たりに換算すると、0 歳児が最も高く(2.7g/kg)、年齢を経るにつれて漸 減し成人では1.0g/kgとなる。しかし、高齢者(70歳 以上)では、成人より若干多く1.13g/kgとなる。 高齢者の栄養所要量の考え方 1.70歳以上と一括りになっているが、高齢者では年齢 階級よりも個人差の方が大きいことがあり、大まかな値 が決められているに過ぎない。 2.現段階では、70歳以上の数値を基準に、個人個人に よって適宜判断するしかない。 加齢に伴う栄養素への影響 栄養素 老化に伴う変化 原因 炭水化物 吸収能力低下 小腸過細菌増殖、消化不 良 タンパク 大量タンパク負荷吸収機能低下の可能性 原因不明 脂肪 大量脂肪吸収機能の低下 小腸過細菌増殖 ビタミンA 新しいビタミンAの肝臓uptakeの減少,吸収の減少 幹細胞ApoBII受容体の減 少 ビタミンD 経口摂取と合成の減少 日光照射減少,皮膚,腎 合成の減少 葉酸 吸収低下 萎縮性胃炎のため細菌 合成によって代償 ビタミンB6 低下はホモシステインレベルを増加させる可能性 原因不明 ビタミンB12 タンパク結合レベルの減少 低レベルはホモシステインの増加の可能性 胃酸低下,小腸細菌過 増殖 カルシウム 摂取と吸収の減少 ビタミンD低レベルと低活 性レベル,萎縮性胃炎 亜鉛 接種の減少 吸収減少の可能性 高齢者の栄養における問題点 1.消化液の減少は油脂類の消化に負担となり、咀嚼能の低下によって柔らか い食品を好むようになるが、柔らかい食品には糖質を主体としたものが多く、 蛋白やカルシウム不足となりやすい。 2.味覚の閾値が高くなり、甘いものや塩辛いものを好むようになる。砂糖などの 単純糖の摂取は中性脂肪を増加させ、塩分の増加は高血圧の増悪を招くの で、周囲の注意が必要である。 3.ビタミンやミネラルは、生命を維持するには不可欠であり、高齢になっても十 分量を接種する必要がある。多くのビタミンの摂取が減少している。特にビ タミンC、ビタミンB1、ビタミンB2の低下が問題となる。野菜や果実、胚芽米や ビタミン強化米を摂るようにする。また高齢者ではカルシウムの体内利用率が 低く、一般人以上に接種する必要がある。 高齢者のタンパク・エネルギー栄養不足のプロセス タンパク・エネルギー・栄養不良のマラスムス症候群は、慢性でゆっくりと進行し、数カ月~数年以 上におよぶことが普通である。一方タンパク質栄養不良すなわちクワシオルコル症候群は、代謝 亢進ストレス状態による急性ならびに亜急性の栄養不足である。代謝ストレス亢進状態により、タ ンパクのカタボリズム異化状態である。迅速な(24時間~34時間以内)エネルギー・タンパク摂取 を開始する必要がある。クワシオルコルはアフリカの飢餓状態の子供が典型。 栄養療法と適応基準 1.経口栄養法 2.経腸栄養法 3.経静脈栄養法 1)末梢静脈 2)中心静脈 適応基準 1.窒素バランスが負の値で1週間以上継続 2.%標準体重においては80%以下 3.アルブミン値が3.0g/dl以下 4.トランスフェリン180mg/dl以下 5.総リンパ球数1,200~1,000/μl以下 高齢者における日常生活活動能の評価 ADL (Basic activity of daily living):以下の障害 1)衣服の脱着 2)摂食 3)排泄 4)清潔(洗面、手洗い、歯磨き、髪の手入れ、化粧、陰部の清潔など) 5)入浴(洗髪や背中を洗う行為は除く) 6)床上での体位変換 7)室内歩行 IADL (Instrumental activities of daily living ) :より高度の生活上の機能 以下の行動の障害:料理、火事(掃除、洗濯、かたづけなど)、電話、買い 物、服薬管理、金銭の扱い(家計簿、銀行、郵便局) 高齢者では認知機能に障害があるとか、併存する疾病のためにセルフケアが種々の程 度に不可能となる。この状態を評価する基準が、ADLである。これによって個々の状態に 応じたサポートのプランを立てて実践することを可能にする。 認知機能の障害度分類 まず昏睡状態かどうかで分けて、昏睡 状態にあれば第6区分と評価する。次 に評価するのが、日常生活における行 動の決定能力(衣服の選択、食事時間 などを自立して行えるかどうか)で0−3 までの4段階に分ける。3と判断される と第5区分と評価する。0−2は次のス テップで、自己表現能力や他人を理解 する能力と短期記憶の2項目で何も問 題なければ第0区分、1項目の異常で 第1区分、2項目異常であれば障害あ りと評価され、次に決定能力や理解能 力の程度によって第2、第3区分、第4 第0−1区分ではほぼ自立した生活が可能であるが、第 2区分以上の場合には障害の程度に応じてサポートが 必要となる。 区分に分けられる。 加齢と薬物代謝 1.初回循環時代謝(薬物が小腸から吸収されて肝臓を通過する際に酵素で不活 化される現象)が、簡潔流量の低下などのために低下する。経口剤の効果は強ま る可能性もあるし、肝で活性化される薬剤の場合などは活性が低下する。 2.加齢によって水分量の減少と脂肪量の増大があり、水溶性薬剤の血中濃度は 高くなる傾向にあり、逆に脂溶性薬剤は血中濃度が低くなり、半減期が長くなる。 3.血中タンパク質と結合する薬剤の場合、アルブミンやa1-酸性蛋白と結合する が、両蛋白は高齢化によってはほとんど変化しないが、脆弱高齢者ではアルブミ ンが低下し、急性疾患ではa1-酸性蛋白が増加するので、このような状況変化は 考慮する必要がある。 4.薬物クリアランス 1)腎:高齢者では糸球体濾過率の低下があると、水溶性抗生物質、利尿薬、 ジゴキシン、水溶性b遮断薬、NSIADsなどの薬物が影響を受ける。 2)肝:肝によるクリアランスは、個々の薬剤ごとの除去率によって変わる。 高除去率(ニトログリセリン、リドカインなど) 中除去率(アスピリン、コデイン、モルフィンなど) 低除去率(ジアゼパム、テオフィリン、ワーファリンなど)
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