二字漢語動名詞の 語構成と自他のかかわりについて ―「出Nする」を中心に― 張善実(名古屋大学大学院生) 第一届汉日对比语言学研讨会 2009年8月29・30日 1 はじめに 2 日本語の動詞: 和語動詞 「壊す」「壊れる」「走る」 漢語動詞(漢語動名詞+する) 「練習する」「旅行する」「出席する」 3 漢語動詞: 自動詞用法のもの 「事故が発生する」 「水が蒸発する」 他動詞用法のもの 「通行人を殺害する」 「洪水警報を解除する」 自他両用法のもの 「会議を終了する/会議が終了する」 4 意志性の観点から 自動詞 ① 意志的自動詞 「活動する」 ② 非意志的自動詞 「発生する」 他動詞 ① 意志的他動詞 「殺害する」 ② 非意志的他動詞 「含有する」 5 先行研究 影山(1993) ①直接目的語の関係: 「握手、受賞、洗顔、出題、出荷、投石、訪米」 ②自動詞補語の関係: 「帰宅、帰国、来日、入学、出国、退院、乗車」 ③非対格自動詞の主語 「出火、出水、発熱、発病、発車、停電、落雷」 6 先行研究 漢語動名詞の語構成と項の関わりに関する 研究として、ほかに仁田(1980)、小林(2004) 金(2004)などがある。 しかし、いずれも個別の漢語動名詞に関して 詳しく分析したものでない。 7 本発表の目的 漢語動詞の「VNする」タイプ(動詞的要素「V」 と名詞的要素「N」でできた漢語動詞)のうち、 「出Nする」を取り上げ、その語構成と自他の 関わりについて詳細に分析する。 8 本発表の主張 一般的に、「VNする」タイプの漢語動詞の語彙的意 味は、その漢語動名詞の構成要素間の意味関係か ら読み取ることができる(影山1980;1993)。 例:「入学する」←「学校に入る」 本発表は、「VNする」タイプの漢語動詞の自他性は、 その動名詞の動詞的要素「V」の自他性と密接に関 わると考える。 9 研究方法 まず、「出Nする」を動名詞の構成要素間の意 味解釈によって、5つに分類する。 次に、この5つに分けて自他交替が起こり得 るか否かを、実例をもとに考察する。 10 内部構成要素の意味関係による分類 ① 「Nを出す」: 出資、出荷など ② 「Nから出す」: 出庫、出土など ③ 「Nが出る」: 出火、出血など ④ 「Nを(から)出る」: 出国、出港など ⑤ 「Nに(へ)出る」: 出社、出席など 11 動詞によっては、上記の5分類のうち、1つの タイプに属するものもあれば、2つ以上のタイ プに跨るものもある。 A:出火する・・・火が出る B:出店する・・・店を出す/店が出る 「出Nする」の個々の動名詞がどのような語 構成を持っているのかについてみる必要が ある。 12 語構成と自他の関わり 13 「Nを出す」型 と自他 出頭する、出棺する、出資する、出題する、 出店する、出品する、出荷する、出版する 14 【表1】国語辞典による自他の表記 学研 日本 語 岩波 出頭 自 自 自 出棺 自 自 自 出資 自 自 自 出題 自 自 自 出荷 他 他 他 出版 他 他 他 出店 ― ― 自 出品 自他 他 このグループの動詞は、同じ「N を出す」という意味関係を持って いても、自動詞用法、他動詞用 法および自他両用法を持ってお り、自他性は一様でない。 漢語動詞の自他は個別的な 研究が必要である。 自他 15 「出頭する」と「出棺する」 これらは意志的自動詞の用法のみ持っている。 (1) 小向容疑者は事件後に逃走し、県警が指名手配していた が、神奈川県内の交番に出頭してきたところを今月6日に 逮捕された。 (2) 当日は盧氏の故郷の慶尚南道・金海で出棺し、景福宮前 庭で告別式を開いた後、ソウル市庁前の広場で祭事を開く 予定という。 16 「出資する」と「出題する」 国語辞書では自動詞用法とされているが、実際には、次の ように意志的他動詞用法として使われる。 (3) 新会社の資本金は約250億円の予定で、住友生命が8 割、三井生命が2割を出資する。 (4) 国語を適切に表現し、正確に理解する力や、言葉につい ての基礎的な理解力を問う問題を出題した。 17 これらのヲ格名詞は以下のように直接受身文 の主語としても使われることから、「出資す る」や「出題する」は他動詞用法を持っている と考えられる。 (5) 市からはISSに約3億5千万円が出資されているため、 予算執行の責任を持つ市長として、多額の公金が使途 不明になっていることへの見解も求められる。 (6) (ちば観光文化検定試験では)県内の観光情報、歴史 や自然などを織り交ぜた問題が出題される。 18 「出荷する」と「出版する」 (7) 取れたニンニクの大部分を乾燥室に入れ、 2週間近く乾燥させてから出荷する。 (8) 福岡市の主婦が自宅の庭に咲く花やそこ に集まる虫などを撮影した写真集を出版し た。 19 「Nが出る」型と自他 出火する、出血する、出水する、出芽する このグループは、動名詞の構成要素の意味 関係から見ると、「Nが出る」のほかに「Nを出 す」の二通りの解釈ができる。しかし、実際は、 以下のように非意志的自動詞の用法のみで 他動詞用法を持たない。 20 「Nが出る」型と自他 (9) 神奈川署が30日に現場検証した結果、2 件とも屋外の火の気のない場所から出火 したとみられることがわかった。 (10) ヒジキは3月から5月の干潮時、岩場に付 着した仮根を残して刈り取る。残された仮 は、やがて出芽し、数カ月かけて成長する。 21 「Nを(から)出る」型と自他 出国する、出港する、出獄する、出家する、出 庫する、出土する このグループの漢語動詞は自動詞用法のみ で、他動詞用法を持たない。以下のようにヲ 格名詞をとるが、この場合のヲ格名詞は「出 資する」「出荷する」と違って、対象ではなく離 脱を表す。 22 「Nを(から)出る」型と自他 (11) 在外被爆者は、1974年に旧厚生省が出 した通達で、日本を出国すると健康管理手 当の支給が打ち切られていた。 (12) 積み込んだ船は先月29日に横浜港を出 港しており、今月下旬にはNGOを通じて 現地の学校に届けられる。 23 「Nに(へ)出る」型と自他 a.出社する、出席する、出場する、出廷する b.出勤する、出講する、出漁する、出猟する aグループのNは場所を表し、bグループのN は事を表す。 このグループは以下の例のようにいずれも 意志的自動詞用法のみである。 24 「Nに(へ)出る」型と自他 (13) 平沼氏は8日午前は岡山、午後は津山で 選挙対策会議に出席した。 (14) 函館漁港には2日早朝、松前沖に出漁し ていた漁船が次々と戻ってきた。 25 自他両用法を持つもの 26 1) 「出店する」 自動詞用法: (15) 民族音楽の演奏やファッションショーが あり、各地のカレー店が出店する。 他動詞用法: (16) 県漁連グループの「えひめぎょれん販 売」は、さいさいきて屋に鮮魚店を出店 している。 27 2) 「出品する」 自動詞用法 (17) 世界三十カ国から千百七点が出品したが 国産ワインで受賞したのは同商品だけと いう。 他動詞用法 (18) 今度のショーでは、日本メーカーも新し いタイプの小型車や電気ミニカーを出品 している。 28 3) 「出庫する」 自動詞用法 (19) プリペイドカードは車内販売用で、バス が出庫する直前に営業所の職員が車 内に置いたものだった。 他動詞用法 (20) 消防によると、社員が車を出庫しようと したところ焦げ臭いにおいがしたという。 29 4) 「出土する」 国語辞書で自動詞用法とされているが、実際は次のように 自動詞用法だけではなく、他動詞用法として使われる例も多 い。 自動詞用法: (21) ほかの遺跡からも、約1万年前の縄文時代から弥生、平 安などの各時代の住居や土器などが出土している。 他動詞用法: (22) 77年から85年にかけて発掘調査をし、たくさんの食器 類、鍋、釜、つぼ、瓶などを出土した。 30 本発表のまとめ 本発表では、「出Nする」を取り上げ、漢語動名詞の 語構成と自他の関わりについて考察した。 その結果、「出Nする」の自他交替は動名詞の語構 成と密接な関わりを持つことが確認された。 「出資する」「出店する」「出土する」などは辞書には 自動詞とされているが、それとは異なる特徴を有し ていることが明らかになった。 31 【表1】「VNする」の語構成と自他の関わり 自他 他動詞 (意志的) 語構成 Nを出す 出頭、出棺、 出資、出題、出荷、 出版、出店、出品 Nから~を出す 出庫、出土 Nが出る 出血、出火、出水、出芽 出店、出品 ~が出る 出庫、出土 Nを(から)出る 出国、出所、出獄、出家、 出庫、出土 Nに(へ)出る 出社、出席、出場、出廷 非意志的 自 動 詞 意志的 漢語動詞 出勤、出講、出漁、出猟 32 今後の課題 語構成と自他の関わりの要因についてさらに 分析を進める。 ほかの「VNする」タイプの漢語動詞について、 その語構成と自他の関わりについて考察す る。 33 〈参考文献〉 影山太郎(1980)『日英比較 語彙の構造』 影山太郎(1993)『文法と語形成』 ひつじ書房 影山太郎(1996)『動詞意味論 -言語と認知の接点』 くろしお出版 金 英淑(2004)「「VNする」の自他交替と再帰性」『日本語文法』4券2号 小林英樹(2004)『現代日本語の漢語動名詞の研究』ひつじ書房 仁田(1980)『語彙論的統語論』明治書院 梅棹忠夫・金田一春彦・阪倉篤義・日野原重明 監修(1989)『日本語大 辞典』講談社 金田一春彦・池田弥三郎(1988)『学研国語大辞典(第二版)』学習研究社 西尾実・岩淵悦太郎・水谷静夫 編(2000)『岩波国語辞典(第六版)』 岩 波書店 〈用例の出典〉 『聞蔵Ⅱビジュアル』朝日新聞 1985年~2009年6月30日 http://database.asahi.com/library2/main 34 ご清聴ありがとうございました。 35
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