河川の広報と社会心理 東京大学 情報学環 特任助手 関谷直也 [email protected] 河川の広報と社会心理 社会心理・災害情報とは 災害情報と心理 災害情報システム 都市水害 ハザードマップ ※ 「システム的視点」と「利用者視点」 社会心理学とは うわさ、流行、パニック、マスコミ効果、広告効 果、人間関係、恋愛関係など、「みんなの心 理」を調査・実験から研究する。 特に「不合理性」を研究する。 法律論 ・「みんな」がどう評価しているか 政治学(権力) ・「みんな」が市場に与える影響を どう評価しているか 経済学(合理的) 社会学(組織論) 文化論 ・「みんな」が政治との関係をどう みているか。 ・世代によって見方は違うか。 「災害情報」とは 災害情報とは、災害被害を軽減するための 災害時の情報システム 緊急地震速報 災害情報予測システム 災害時の人々への情報伝達の方策 災害報道・防災行政無線 災害用伝言ダイヤル・災害用伝言板 災害時の人々の心理 を研究する。 災害情報は人を救えるか 新潟・福島水害 台風23号 (三条・中ノ島・見附) 勧告聴取率 避難率 約2割 約2割 (23.2%) (豊岡市) 約9割 約3割 (32.9%) 災害情報は人を救えるか 情報は避難を促進する。 避難しない要因は情報伝 達以外にある。 人間・心理の問題 家族が揃わない 高齢・子供・要介護 者がいる 危険と分かって いても逃げない 危険が正確に 認知されてない (%) 三条市 中之島町 22.2 35.6 調査数 (N=270) (N=87) 避難率 見附市 18.7 調査数 (N=182) 避難率 三条市 中之島町 避難時刻 豊岡市 32.9 調査数 (N=316) 避難率 見附市 避難時刻 豊岡市 避難時刻 午後6時以前 午後6時台 午前8時~10時 午前8時~10時 午前10時~12時 12時台 午後1時台 午後2時台 午後3時台 午後4時台 午後5時台 午後6時~8時 午後8時以降 午前10時~12時 3.3 15 21.7 10 3.3 15 13.3 10 8.3 3.2 12.9 22.6 35.5 12.9 3.2 3.2 3.2 3.2 12時台 午後1時台 午後2時台 午後3時台 午後4時台 午後5時台 午後6時~8時 午後8時以降 午後7時台 2.9 午後8時台 8.8 午後9時台 26.5 午後10時台 23.5 午後11時台 11.8 5.9 午前0時~翌朝 5.9 5.9 5.9 2.9 無回答 避難者合計 ※ (N=60) (N=31) は決壊時刻を示す。 (N=34) 2.9 13.5 38.5 19.2 4.8 1 7.7 11.5 1 (N=104) 災害情報と心理 「正常化の偏見」 「経験の逆機能」 マスコミによる誤認知 科学的合理的な「危険」を伝えることは難しい。 災害情報の心理(1)正常化の偏見 正常化の偏見 災害が起こっても、自分には被害が及ばないと考 える傾向にあり、逃げ遅れる。 警報、注意報などの「情報」を自分のものとして 受け止めない。 例:揺れても「あっ地震だ」と思って逃げない。 :サイレンが鳴っても「いたずら」「誤報」と思って 逃げない。 災害情報の心理(1)正常化の偏見 水害時の「正常化の偏見」 川が決壊しても自分は大丈夫だと思う 周りの人は「ひどく辛そう」。でも自分はびしょぬ れでも「大したこと」はないと思う。 水害時に車で避難してしまい、危険な状態になり やすい 災害情報の心理(2)経験の逆機能 「この程度の雨」なら大丈夫だと思い込みや すい。 災害情報の心理(3) マスコミ報道のセンセーショナリズム 危険意識とマスコミ報道の関係性 基本的に社会問題の関心度、危険意識は、マス コミ報道と「量」に依存する。 モデル2: 「 関心」 →「 安心・ 不安感情」 モデル 不安 情報接触頻度 1 e1 関心 1 危険 1 e2 災害情報の心理(3) マスコミ報道のセンセーショナリズム (記事数) 500 環境問題 食品 原子力 災害 400 300 200 100 0 1 2 3 4 5 6 2002年 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 2003年 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2004年 [検索用語] 環境問題・・ダイオキシン、温暖化、ゴミ(ごみ)、公害、リサイクル 原子力・・・原子力、放射能、原発、電力不足、放射性 食品問題・・狂牛病、BSE、偽装表示、鳥インフルエンザ、偽装、牛肉 災害・・・・災害、地震、水害、豪雨、台風 図1 2002年から2004年における朝日新聞東京版朝刊の記事数 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% (A)環境汚染や自然破壊など環境問題に関 する情報について 情報 (B)原子力の問題に関する情報について (C)食品の安全にかかわる問題に関する情 報について (D)地震や風水害などの自然災害に関する 情報について まったく目にしない 0.0% 20.0% あまり目にしない やや目にする 40.0% 60.0% かなり目にする 80.0% 100.0% (A)環境汚染や自然破壊など環境問題 について 関心 (B)原子力の問題について (C)食品の安全にかかわる問題について (D)地震や風水害などの自然災害について まったく関心がない 0.0% 20.0% あまり関心がない やや関心がある 40.0% 60.0% かなり関心がある 80.0% 無回答 100.0% C問3 あなたは、一般的に、現在日本は、ダイオ キシン汚染について、どう思いますか。 危険性の認識 B問3 あなたは、一般的に、現在日本の原子力 発電について、どう思いますか。 A問6( 2) 現在、狂牛病の危険性に対する認識 D問1 日本の地震の危険性に対する認識 まったく危険だと思わない 0.0% 20.0% あまり危険だと思わない 40.0% やや危険だと思う かなり危険だと思う 無回答 60.0% 80.0% 100.0% (A)環境汚染や自然破壊など環境問題に ついて 不安 (B)原子力の問題について (C)食品の安全にかかわる問題について (D)地震や風水害などの自然災害について まったく不安でない あまり不安でない やや不安だ かなり不安だ 無回答 災害情報の心理(3) マスコミ報道のセンセーショナリズム 情報を細かくは理解していない。 認知的けち ①エコノミークラス症候群 ②耐震偽装 車と災害-車中避難は問題か? 車と災害~新潟県中越地震での車中避 車での避難 車両渋滞、緊急車両の通行の妨げ 車への避難 何が問題なのか? 「エコノミークラス症候群」報道 調査方法 ―個別面接法(平成17年2月実施) ―小父谷市・川口町・・・仮設住宅内でエリアサンプリング(回収400票・200票) ―十日町・・・・・・・・・・・・二段階無作為抽出(回収313票78%) ※全体の調査結果は廣井ほか(2005)を参照されたい。 1 車と災害~新潟県中越地震での車中避 一日目の車避難 0.0% 20.0% 川口町 仮設住宅 3.6 (N=197) 40.0% 42.1 60.0% 2.5 80.0% 16.2 100.0% 35.0 0.5 小千谷市 仮設住宅 3.3 (N=393) 10.7 53.4 8.4 1.8 参考:川口町 一般サンプル 1.8 (内閣府/N=655) 57.5 21.9 0.5 3.0 35.9 0.6 1.2 参考:小千谷市 一般サンプル (内閣府/N=655) 4.9 68.2 6.3 1.2 参考:十日町 一般サンプル (N=308) 4.9 自宅の家の中 72.1 17.9 1.5 3.6 12.3 5.8 1.0 0.3 車の中 自宅の屋外 (庭・ガレージなど) 市・町内の 親戚・知人の家 市・町外の 親戚・知人の家 市・町指定の 避難場所 その他 1 車 と 災 害 ~ 新 潟 県 中 越 地 震 で の 車 中 避 なぜ車中に避難した人が多かったか ①車の所有率の高さ ②停電と道路の寸断 0.0% 20.0% 小千谷市 仮設住宅 (N=232) 27.2 9.9 川口町 仮設住宅 (N=108) 26.9 12.0 参考: 十日町 (N=246) 車避難のメリット ③余震に対して安全であった ④プライバシー、騒がしさ、暖房 ⑤情報 ⑥自宅のそばにいたかったから 車に避難して、よかった 「泥棒を警戒して」と答えている人が少ない 「自宅のそばが安心する」という心理的な理由が大きい ⑦消極的な理由 40.0% 54.5 60.0% 80.0% 100.0% 62.9 61.1 4.1 避難所に避難した方がよかった 41.5 どちらともいえない 「災害死」「災害関連死」「疲労死」「車中死」 災害死 (24時間以内) 災害関連死 疲労死など (24時間以降) 圧死・外傷による死など ・・・・17名 平均 49.5歳 ショック死など ・・・・14名 平均 69.0歳 そのほか ・・・12名 平均 60.7歳 車中死 ・・・3名 エコノミークラス症候群 の疑い例による死亡 ・・・1名 最初期の報道では、「疲労死」=「車中避難による疲労」 徐々に「車中避難による疲労」=「エコノミークラス症候群」の報道 最終的には、新潟県中越地震では、「エコノミークラス症候群」で の死亡者が多発したということが事実化し、「車中避難は危険」と いうことになってしまっている。 2004年11月3日 静岡新聞 M6.8のつめ跡 新潟中越地震報告(中) 広がった車中泊避難 どう防ぐ「震災関連死」 四十三歳の主婦が車中泊による肺動脈塞栓症(エコノミーク ラス症候群)で死亡した小千谷市。「私は軽ワゴン車だから、 まだまし。普通車での生活は辛かったでしょう…」。約百八十 台の避難車両がひしめく小千谷小グラウンドで家族と車中泊を 続ける主婦◇◇◇◇◇さん(49)は、同年代の主婦の死に言葉 少なにうつむいた。 車中泊が原因とみられる死亡者は二日現在、この主婦を含め 三人。心労や余震のショックで死に至った例を加えると、いわ ゆる「震災関連死」は十九人を数える。死因は急性心不全や脳 梗塞(こうそく)が多い。犠牲者の半数以上は、地震から一度 は生き延びながら、命を落としてしまった。 新潟県は発災七日目の夜、小千谷市内の避難車両百七十三台 から聞き取り調査し、翌日、初めて災害用ホームページで肺動 脈塞栓症への注意を呼び掛けた。・ ・ ・ ・ ・ 過度な「エコノミークラス症候群」報道 の原因 1 都市部に住む報道関係者・防災関係者の偏見 「車への避難」それ自体が危険なのではない。 「車での避難」それ自体が危険なのではない(都市部) 2 「問題」、被災者の悲惨さを強調しようというセンセーショナリ ズム 3 ワンフレーズ・ジャーナリズム 「エコノミークラス症候群」という象徴的な言葉に「象徴化」 車中避難が問題ではなく、高齢者の「疲労死」、避難所生活 の問題、余震の恐怖の対策などの問題として枠付けるべき。 本来ならば、疲労が蓄積する高齢者の避難生活対策、避難 所のプライバシーなどの問題に焦点を向けるべきであった。 車中泊の日数 35.0% 川口町 小千谷市 参考:十日町 30.0% 25.0% 20.0% 15.0% 10.0% 5.0% 0.0% 1日 2日 3日 4日 5日 6日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 14日 15日 17日 20日 21日 23日 30日 35日 40日 50日 55日 1日 16 川口町 73 小千谷市 参考:十日町 48 2日 15 44 57 3日 4日 5日 6日 27 5 6 4 25 13 10 1 66 27 24 6 7日 8日 9日 10日12日13日14日15日17日20日21日23日30日35日40日50日55日 合計 107 人 1 1 1 4 4 1 1 7 4 10 1 232 人 2 6 2 1 3 1 3 1 7 2 1 20 16 246 人 1 1 3 13 なぜ車中に長期に避難したか 30.0% 20.0% 10.0% 0.0% プライバシー 49.1 52.5 17.6 人間関係 30.1 13.2 29.2 騒がしさ 25.3 風呂 標準偏回帰係数 42.9 26.4 25.5 25.8 暖房 17.9 マスコミ取材 17.6 2.8 3.3 0.9 22.6 22.9 29.2 7.2 5.5 5.5 建物の中にいるのが恐かったから 0.129 * 自宅のそばにいたかったから 0.330 暖を取りやすかったから 0.032 プライバシーが守られるから 0.188 *** 避難所がいっぱいで入れなかったから 0.113 -0.113 乳幼児や病人がいて避難場所に居づらかったから 0.118 * 泥棒を警戒して 0.021 快適だから 0.109 性(女性=1) 8.5 9.7 1.1 その他 特に不便に感じる ことはなかった 30.5 8.8 14.8 14.3 0.055 情報が得やすかったから 34.1 18.9 14.4 情報入手 63.2 余震が続くから 30.2 21.2 電話 49.2 69.8 24.5 22.0 食事や飲料水 風邪・インフルエンザ 67.9 59.7 19.8 0.0 (β) 59.4 62.3 トイレ 交通 52.5 38.5 13.2 表3 車中泊の避難日数を長引かせた要因 車中泊の避難日数を予測させる重回帰分析 35.6 48.4 寝具 80.0% 34.0 なんとなく 落ち着かなかった 洗濯 70.0% 60.0% 50.0% 40.0% 川口町 仮設住宅(N=106) 小千谷市 仮設住宅(N=236) 参考:十日町(N=99) 図7 避難所で困ったこと -0.124 * 年齢 0.011 相関係数(R) 0.387 自由度調整済決定係数(修正R2) 0.118 *** 人数(N) 340 ※ 小千谷市、川口町のみ では「車避難」はどうすればよいか 長期間の「車中への避難」が危険なのである。車中避難を行った約半数以上の人 は「車中への避難」は3日以内で止めている。その一方で、肺塞栓症や塞栓症が見 つかったのは、車中泊3日以上の人からしか見つかっていない。長期間の車中避難 の危険性を訴える必要がある。 また、長期間、「車中への避難」を行った人は、「プライバシー」の問題 避難所における「プライバシー」確保などの問題点を解決していく必要がある。宿泊 施設への避難を促進するなどの方策も有効であろう(ただし、宿泊施設への避難は 「なんとなく温泉に行く気分になれない」などの心理的理由により拒む人が多いため (表9)、制度的誘導が必要)。 「エコノミークラス症候群」が問題というよりも、高齢者を中心とする災害に関連する 「疲労死」や、車避難へと向かわせる避難所生活の過酷さが問題 第三に、その上で、事例としては多くはないものの、災害時の「エコノミークラス症候 群」への対策を考えるべきもちろん、車避難は必ずしも、良い点ばかりではなく、辛 いであることには変わりがない。災害直後は非常に過度のストレスを抱え、非常に 不安な状況の中で、長時間・数日間、余震の恐怖を抱えながら同じ姿勢を保たね ばならない車避難は、高齢者だけでなくあらゆる人にとって、苦痛を強いるものであ る。 余震が続くなかでの車の避難はやむをえない措置であり、今後も現実的な避難手 段として、地震時において、車中避難は行われるだろう。災害時に、車での避難が 止むをえないときに、水分補給などをどのようにすればよいか、どのような点に気を つければよいかについて、周知活動を行う必要がある。 ②耐震偽装 なぜ、建築の専門家だけが呼ばれ て、災害の専門家が呼ばれないの か。 住宅の耐震化率約75%(平成15 年総務省住宅・土地統計調査より 国土交通省推計) 公的建造物の耐震化率約半数(内 閣府「平成15年地震防災施設の 現状に関する全国調査(最終報 告)」 都市水害 河川情報への注目 1998年8月那須集中豪雨災害 都市水害への注目 1999年6月福岡豪雨水害(御笠川) 1999年8月都市豪雨 2000年東海豪雨水害 地下街の水害、
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