SURF trial記念 市民公開講座 SURF trial について ~試験の概要と意義~ 東京大学肝胆膵外科 長谷川潔、國土典宏 2009/11/14 秋葉原コンベンションホール 目 的 初発肝細胞癌を対象とし、 肝切除とラジオ波焼灼療法(RFA)の 有効性を客観的に評価する Surgery vs. RFA → SURF trial 本日のお話 1. なぜ無作為化比較試験なのか? 2. なぜSURF trialが必要なのか? 3. SURF trialの概要と現状 そもそも医療行為は・・・ *何らかの“痛み”を伴う。 *明らかに患者にとって利益をもたらす ものでなければ、許容されない。 *ある治療法が有効かどうかは実際に やってみないとわからない面がある。 効かない薬は“毒”と同じ 効かない手術は“傷害行為”と同じ 医学の発展と実験 1796年、ジェンナーの種痘 1804年、華岡青洲の全身麻酔手術 1892年、ベッテンコッファーの自飲実験 ある医療行為が有効かどうかを 見極めるには・・・ 何もしない場合と比較する 何らかの治療法と比較する ある医療行為が有効かどうかを 見極めるには・・・ 何もしない場合と比較する 何らかの治療法と比較する 比較する相手をどう選ぶかが重要 たとえば胃癌の患者に・・・ 手術できそうだから、 手術した患者 手術できそうにないから、 化学療法を行った患者 治療後の成績を比べ、手術したほうがよかった よって、手術は有効? たとえば胃癌の患者に・・・ 手術できそうだから、 手術した患者 手術できそうにないから、 化学療法を行った患者 治療後の成績を比べ、手術したほうがよかった よって、手術は有効? 手術できるほうが早期なので、 成績が良いのは当たり前かもしれない 圧倒的な差でない限り、 有効かどうかを客観的に確認するべき *無効な治療を繰り返す危険 *逆に有害な治療を繰り返す危険 *医療費の無駄使い 客観的に評価する方法が 無作為化比較試験 世界初の無作為化比較試験 肺結核に対するストレプトマイシンの 有効性を証明した (1948) British Medical Research Council 安静療法 vs. ストレプトマイシン療法 常識や思い込みが覆された例 *心筋梗塞後の予防的抗不整脈薬の投与: 心室性不整脈の抑制が期待されたが、・・・ →突然死が増加し、むしろ有害 *脳血管障害に対する頚動脈バイパス術: 発作の頻度の減少が期待されたが、・・・ →発作の頻度は同じ、合併症が生じたのみ 有効性が示された 抗癌剤を用いた 再発抑制 再発はほぼ同じ 抗癌剤 抗癌剤 抗癌剤 生存に開き 抗癌剤 再発予防という点では、 期待に反して、生存を 悪化させる可能性がある 本日のお話 1. なぜ無作為化比較試験なのか? 2. なぜSURF trialが必要なのか? 3. SURF trialの概要と現状 主要ながんの年齢調整死亡率の推移 肝がん 日本人の原発性肝がんの内訳 混合型(0.68%) 胆管嚢胞腺癌(0.12%) 肝芽腫(0.07%) 肉腫(0.1%) その他(0.71%) 肝内胆管がん (4.1%) 肝細胞がん (94.2%) 第17回全国原発性肝癌追跡調査報告より (日本肝癌研究会) 世界における年齢調整肝がん発生率 人口10万人対 肝細胞癌に対し、どの治療法を 選択するべきか? 1 肝切除 (肝移植) 2 内科的局所療法 3 肝動脈塞栓療法 肝癌治療アルゴリズム 肝細胞癌* 肝障害度 数 径 治 療 A, B 単発 C 4個以上 2, 3個 4個以上 3cm以内‡ 3cm以内 3cm超 切除 切除 切除 局所療法† 局所療法 TAE 1~3個 TAE 動注 移植 緩和 * 脈管侵襲、肝外転移がある場合には別途記載 † 肝障害度B、腫瘍径2cm以内では選択 ‡ 腫瘍が単発では腫瘍径5cm以内 肝切除術 肝臓がんを開腹手術により取り除く治療法 長所:腫瘍を直接みながら確実に切除できる 短所:傷が大きく、回復に時間がかかる ラジオ波焼灼療法(RFA) エコーの画像を頼りに体外から肝臓へ針を刺し、 熱によってがんを破壊する治療法 長所:傷が小さく、回復が早い 短所:直接病変をみることはできずエコーの 画像を頼りに治療が行われる。 日本の肝癌治療の現状 肝切除とラジオ波焼灼療法はともに有効である。 わが国のどちらの治療も世界のトップレベルにある。 しかし、・・・ 肝切除とRFAの有効性を比較した 明確なデータはない どちらがより有効かについてはわかっていない 日本の肝癌治療の現状 現場では・・・ 患者さんは紹介する医師あるいは 紹介された医師の印象や経験で治療方針を 決められている 実は、 医師の印象=担当医の思い込み 医師の経験=得意・不得意 によって、方針が決められている?? SURF trialの目的 初発肝細胞癌を対象とし、 肝切除とラジオ波焼灼療法(RFA)の 有効性を客観的に評価する Surgery vs. RFA → SURF trial SURF-trialの対象 適格条件:20歳以上80歳未満 比較的良好な肝機能 3個以下3cm以下 肝切除とRFAがともに可能 除外基準:肝臓の外への転移 血管への伸びだし *肝炎ウィルス感染の有無や種類は問わず SURF trialの方法 20歳以上80歳未満の初発肝細胞癌患者 (3個以下,3 cm以下,および比較的肝機能良好) 登録 ランダム割付 肝切除(SUR)群 300名 ラジオ波焼灼療法(RFA)群 300名 試験実施期間終了(最終の患者登録から5年)まで経過観察 2つの治療後の成績を比較する ランダム割り付けとは 2つの治療法の効果を厳密に比較するため 確立された科学的手法 (Fisher RA, 1923) 薬の治験では標準的な方法 ただし、患者・医師は治療法を選択できない 本試験の参加は任意で、途中脱退はいつでも可能 ランダムに割り付けないと・・・ 大きな腫瘍が多い 肝機能は良い 腫瘍は小さめ 肝機能不良例が多い 肝切除 RFA 内容の大きく異なる集団を比較しても、 厳密な結論は得られない。 両群のばらつきを均等にする必要がある。 もっとも重要なのは、 登録基準の肝細胞癌に対する 肝切除とRFAの優劣は明確ではない、 という点である 本日のお話 1. なぜ無作為化比較試験なのか? 2. なぜSURF trialが必要なのか? 3. SURF trialの概要と現状 2006(H18)年11月より、準備開始 東京大学にて原案作成 全国の専門家による検討会を3回施行 アンケート調査結果をもとに改訂 2008(H20)年12月9日、プロトコル確定 2009(H21)年1月26日、東京大学倫理委員会承認 2009(H21)年3月、厚労省科研費に採択 2009(H21)年4月1日、試験登録開始 2009(H21)年6月5日、キックオフミーティング開催 2009(H21)年6月9日、東京大学にて記者会見 2009(H21)年11月14日、SURF trial記念市民公開講座 SURF-trialプロトコール作成委員会(所属は作成当時のもの,順不同,敬称略) 幕内 小俣 國土 赤羽 大橋 工藤 土師 大崎 山中 奥新 斎藤 猪飼 大村 有本 玉井 内山 山田 小菅 河田 久保 有井 前原 高山 田中 永野 野浪 金子 礒田 中尾 須山 森安 雅敏(日本赤十字社医療センター) 政男,椎名 秀一朗,金井 文彦,建石 良介(東京大学消化器内科), 典宏,長谷川 潔,石沢 武彰,進藤 潤一(東京大学肝胆膵外科) 正章(東京大学放射線科) 靖雄,松山 裕(東京大学生物統計学) 正俊(近畿大学消化器内科) 誠二(近畿大学消化器外科) 征夫(大阪赤十字病院消化器内科) 若樹(明和病院外科) 浩晃(姫路赤十字病院内科) 明子(東京女子医科大学消化器センター) 伊和夫(京都大学肝胆膵外科) 卓味(札幌厚生病院消化器内科) 明(札幌厚生病院消化器外科) 英幸(和歌山医科大学消化器内科) 和久(和歌山医科大学消化器外科) 晃正,玉井 知英,今中 和穂(大阪府立成人病センター) 智男(国立がんセンター中央病院) 則史,坂口 浩樹(大阪市立大学消化器内科) 正二,竹村 茂一(大阪市立大学肝胆膵外科) 滋樹(東京医科歯科大学肝胆膵外科) 喜彦,武冨 紹信(九州大学消化器外科) 忠利(日本大学消化器外科) 正俊(久留米医療センター) 浩昭(大阪大学消化器外科) 敏明(愛知医科大学消化器外科) 周一(金沢大学肝臓病センター) 憲夫(自治医科大学消化器内科) 昭公(名古屋大学消化器外科) 正文(順天堂大学消化器内科) 史典(東京医科大学消化器内科) SURF trial 2009/11/14現在、 内科+外科:85施設が参加 肝切除、RFAともに年間20例以上 参加85施設一覧(2009/11/14現在) 東京大学医学部附属病院 日本赤十字社医療センター 日本大学医学部附属板橋病院 (医)明和病院 岩手医科大学 大分大学 大阪市立大学医学部附属病院 鹿児島大学 北里大学病院 九州大学 久留米大学医療センター 高知大学医学部附属病院 徳島大学 兵庫医科大学 山口大学 和歌山県立医科大学 岐阜大学医学部附属病院 近畿大学医学部 附属病院 札幌医科大学附属病院 札幌厚生病院 自治医科大学附属病院 聖マリアンナ医科大学 大阪府立成人病センター 帝京大学医学部附属病院 東京医科大学病院 山梨大学医学部附属病院 国立病院機構千葉医療センター 産業医科大学 岐阜市民病院 名古屋大学医学部付属病院 東京医科歯科大学医学部附属病院 武蔵野赤十字病院 愛媛大学 筑波大学附属病院 金沢大学 東海大学医学部付属病院 東海大医学部附属八王子病院 岡山大学病院 NTT東日本関東病院 済生会 新潟第二病院 埼玉県立がんセンター 順天堂大学医学部附属順天堂医院 北九州市立医療センター 大分医療センター 三重大学医学部附属病院 昭和大学藤が丘病院 富山大学附属病院 大阪赤十字病院 東京女子医科大学 福岡大学病院 愛知医科大学 横須賀共済病院 京都大学 国立国際医療センター戸山病院 国立病院機構大阪医療センター 名古屋市立大学病院 大阪市立十三市民病院 久留米大学病院 長崎大学 慶應義塾大学 防衛医科大学校病院 千曲中央病院 信州大学附属病院 神奈川県立がんセンター 大阪けいさつ病院 旭中央病院 広島大学大学院医歯薬学総合研究科 大阪大学医学部附属病院 茨城県立中央病院 昭和大学病院 宮崎大学医学部 聖路加国際病院 新潟県立新発田病院 関西医科大学附属滝井病院 日本医科大学附属病院 春日部市立病院 福岡市民病院 松阪市民病院 熊本大学 東邦大学医療センター大森病院 東北大学 癌研究会附属有明病院 関西労災病院 姫路赤十字病院 九州がんセンター 参加施設について 内部基準をクリアした施設のみ参加している 肝切除とRFAともに高レベルの治療を行っている プロトコルで規定された綿密なフォローアップを行う SURF trialの特徴 *SURF trialは学会から正式に 承認されています。 日本外科学会 日本肝臓学会 「日本肝臓学会認定臨床研究」 日本肝癌研究会 *厚労省科研費を得ています。 一種のNational study http://www.surftrial.jp/ キックオフミーティング(2009/6/4:神戸) 記者発表(2009/6/9:東京大学) 読 売 新 聞 夕 刊 肝切除、ラジオ波ともに優秀な治療であること は間違いなく、どちらになったからといって明 らかな不利はありません。 より優秀な治療はどれかを見定める研究です。 二つの治療の長所・短所の説明を聞いていただ いて、どちらにするか迷う場合は、ぜひ本研究 にご参加ください。 治療費補助などの経済的なメリットは全くありま せん。通常の保険診療です。 SURF trialの参加施設基準を満たす肝癌専門 病院で、より厳密なフォローアップを受けること ができます。 再発した場合の治療体制も完備しています。 登録の内訳(2009/11/24現在) 東京大学医学部附属病院 大阪市立大学医学部附属病院 筑波大学附属病院 熊本大学医学部附属病院 産業医科大学病院 東邦大学医療センター大森病院 日本赤十字社医療センター 九州大学病院 信州大学医学部附属病院 徳島大学病院 4例 1例 1例 1例 1例 1例 1例 1例 1例 1例 合計: 13例 ま と め SURF trialは肝癌診療上の最重要問題の解決を 目指しています。 ランダム割り付けには一部抵抗感があると思われ ますが、客観的な結論を得るには必須の手法です。 SURF trialは今後の肝癌診療を大きく変える 可能性があります。 SURF trialに対するご理解とご協力のほど よろしくお願い申し上げます
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