スライド 1

2006年10月23日(月)知の統合ワークショップ(横幹連合)
数(理科)学研究の推進は
諸科学発展の要となるか
科学技術政策研究所
伊藤裕子
数学推進に至る経緯
 ~2004年
・欧米の科学技術政策において、他分野と数学の連携など数学研究の
推進の動きが活発にみられた
・日本の数学者への聞き取り調査および所内講演会により、日本の数
学に様々な問題があるらしいことが示された
 2005年
・政策研の各種調査(論文分析や海外聞き取り調査等)により、日本の
数学研究に問題があることが示された
・日本数学会と共催で数学ワークショップを開催し、数学研究の意義や
ニーズを産学官で話し合った
・数学以外の分野からの数学ニーズについてのアンケート調査を実施
した
 2006年
・報告書「忘れられた科学-数学」を発表
報告書「忘れられた科学-数学」の概要①
1.日本の数学研究を取り巻く状況
(1)日本の数学研究費に関する状況は米国、フランス、ドイツと
比べて最も厳しい
(2)日本の数学博士号取得者数は米国、フランス、ドイツと比べ
て少ない
(3)米国などでは数学研究者が産業界でも活躍している
2.数学研究の強力な新興の必要性
(1)数学と他分野との融合研究から得られる社会的利益は巨大で
あると推測され、日本でも数学との他分野の融合研究を振興す
べきである。また、基礎となる数学自体の振興も必要である
(2)「モノや構造を支配する原理を見出す」という点で、数学は
イノベーションに寄与する可能性があり、数学と産業、数学と
他分野との共同研究実施に向けた検討や体制整備が必要である
(3)他国による数学研究成果に「タダ乗り」することはできない。
広範な研究開発分野を振興している日本にとって、数学研究は
他分野の発展にも必要である
報告書「忘れられた科学-数学」の概要②
3.日本の数学研究と科学技術振興のためにとるべき喫緊の対策の提案
(1)施策の提案
①基礎的な数学研究を強力に振興するための政府資金を拡充すること
②数学と他分野との分野融合研究を推進するため、「数学と他分野との
融合研究」の推進拠点を構築すること
③数学研究者と産業界との相互理解の促進、共同研究の実施について
具体的な検討を実施すること
(2)数学研究新興策を進める上での留意点
①数学研究者の研究時間の確保と活発な意見交換のための場を確保
すること
②数学研究においては図書や文献の量及び質が重要な意味を持つこと
の認識を持つこと
③基礎的な数学研究から短期間に具体的効果を求める性急さを避ける
こと
数(理科)学研究を推進することは、
諸科学を発展させることにおいて
要(最も大切な点)となりうるか?
「なりうる」というのが、
国際的に共通の認識
米国、ドイツ、フランス、英国、中国・・・・
米国の数学に関する報告書(オドムレポート)から
の抜粋①
『数学研究のコミュニティの多くが大学を基盤としたも
のであるが、社会への数学の影響力は広範にわた
る。
数学は現在の大半の科学技術活動の基礎となって
いる。
数学の新領域のすべてが、実験科学(生物学、化
学、地球物理学、医学)、政府(国防、安全保障)及
び実務(産業、技術、製造業、サービス、金融)の問
題への対応として発展してきた。』
*米国の数理科学の国際評価に関する上級評価委員会報告(1998年3月)(通称、オドムレポート)より
米国の数学に関する報告書(オドムレポート)か
らの抜粋②
『科学技術の様々な領域、特に生物学、通信、コン
ピュータで起きている根本的な変化には、新しい数
学なしには解決できない重要な問題が伴っている。
意思決定を改善し(例えば株式市場やリスクヘッジ
の意思決定を瞬時にする)、非常に複雑な問題を理
解する(例えば人間の活動が環境に及ぼす影響を
モデル化する)という現代の要望から、独創的な数
学技術が必要になってくる。』
*米国の数理科学の国際評価に関する上級評価委員会報告(1999年3月)(通称、オドムレポート)より
数学と諸科学の理想的な関係(オドムレポートより)
地球科学
医学
コミュニケーション
化学
物理学
数理科学
ファイナンス
エンジニアリング
経済学
生物学
製造
材料
理想的な状況では、数学は中心から外側の応用へ、また応用から中心へという流れ
を有する。この流れによって、物理学の数学的概念を経済学に応用したりその逆を
行うことができる。
数学と諸科学が離れた状態(オドムレポートより)
経済学

数理科学

数理科学
ファイナンス
数理科学
数理科学
数理科学
数学は諸科学からの考え
方や挑戦により豊かにな
ることがなくなる
諸科学も苦しむことになる
①数(理科)学で発展した巨大な
知識の蓄積を簡単に利用する
ことができなくなる
物理学
数理科学
生物学
数理科学
数理科学
②専門化されすぎた数学言語や
ツールが開発され、学際的な交
流ができなくなる
日本の数学の現状と将来
「NISTEP Report No.96 注目科学技術領域の発展シナリオ調査」より
将来を語るにふさわしい卓越した個人を選出し、
過去・現在の状況分析をもとに日本の将来の発
展シナリオの作成をお願いし、日本がとるべきア
クションを示して頂いた
 シナリオは48テーマ(内、1つが数学関連)
「数学の研究発展と数学教育」
 シナリオ執筆者の選定

学協会等に推薦および投票により、2名の執筆者(広中平
祐氏およびピーター・フランクル氏)を選定
日本の数学の現状分析①
<執筆者1>
 日本の数学者のレベルは非常に向上した。これま
では欧米のレベルに追いつくことが目標であり、そ
れらを学び、さらに向上させることに熱心に取り組ん
で来た。
 今後、科学技術としての数学研究を発展させるため
には、従来の流れを一新し、独自性の高いオリジナ
リティのある研究や業績を積極的に評価していく必
要がある。
 欧米諸国にみられるような「将来性のある技術やテ
クノロジーを見つけて育てる」という視点をもつこと
が極めて重要である。
日本の数学の現状分析②
<執筆者2>
 日本は数学の世界では、産業の発展に比例するだ
けの業績を残していない
 日本の数学界では解析や整数論など古典の数学
研究が一番発展している。世界では新しい分野が
次々と生まれてきているのに、入ってくるまでにかな
り時間がかかる
数学の将来①
<執筆者1>
 数学は今後、世界的に様々な分野において利用さ
れると考えられ、応用数学の流れが一層強くなると
予想される
 企業と大学との産学連携をさらに推進し、学問を実
用的な技術として社会に貢献するためのシステム
作りが今後の大きな課題となる
①企業と大学の連携プロジェクトをさらに推進する
②異なる分野の専門家同士が集まる小規模な拠点を設ける
③企業人と数学者が集まる小規模な拠点を設ける
④人材育成の観点からの産学連携を推進する
数学の将来②
<執筆者2>
 コンピュータと非常に深い関わりをもった離散数学
が今後30年程度の数学の発展の牽引役となる
 確率理論とその周辺は、今後も実生活への応用に
よって発展のピッチが保たれる
 あまり応用がないと思われていた整数論が暗号理
論を通して応用の第一線になったように、数学は純
理論的な分野でも、将来的に実生活に応用されるも
のに発展する可能性が高い
①日本の大学や数学界に対する海外からの外部評価の導入
②異分野の研究者同士の交流の推進
③京大数理解析研究所以外に国立高等数学研究所を設立
④外国人研究者の積極的な招聘と定着 など
執筆者の意見のまとめ
<日本のとるべきアクション>
疑問
日本において、異なる分野や
産業界からの数学へのニー
ズは本当にあるのか?
日本における数学研究ニーズに関する調査
○ 調査対象

科学技術政策研究所 科学技術動向研究センターでは、第一線の研
究開発の現場にいる産学官の研究者に参加を仰ぎ、最新の情報を提
供して頂くシステムである「科学技術専門家ネットワーク」を構築してい
る。ネットワークの構成員は「専門調査員」として、様々な調査等に協
力して頂いている
(現在、専門調査員は2,017名)
○ 調査方法


上記、専門調査員に対して調査依頼をメールで発送し、本センターの
専用のWebアンケート回答用ページに記入を求めた
調査期間は2005年10月5日~05年10月26日までの22日間
○ 回答者

アンケート回答を依頼した専門調査員2,017名に対して、402名から回
答(回答率約20%)
回答者の属性分布
○ アンケート回答者の属性分布
100%
100%
90%
90%
80%
80%
70%
大学, 58%
大学, 60%
ライフサイエンス,
27%
70%
情報通信, 16%
60%
60%
ライフサイエンス,
29%
情報通信, 21%
環境, 9%
50%
50%
40%
40%
ナノテク・材料, 14%
30%
エネルギー, 8%
エネルギー, 6%
20%
製造技術, 9%
製造技術, 7%
30%
民間企業, 21%
20%
10%
0%
民間企業, 17%
公的研究機関, 15%
公的研究機関, 14%
その他, 6%
その他, 9%
回答者
調査対象者
10%
0%
環境, 7%
ナノテク・材料, 12%
社会基盤, 8%
社会基盤, 10%
フロンティア, 8%
その他, 0%
回答者
フロンティア, 6%
その他, 1%
調査対象者
専門家ネットワークの構成員(専門調査員)
・ 回答者の所属機関別分布や専門分野別(8分野)分布は、
特定分野や特定機関に集中することはなかった
日本における数学研究ニーズに関する調査
結果①
<研究課題と数学との関連>
Q あなたの研究と数学との関わりの程度は?
(回答)「非常にある」、「ある」又は「ややある」を合計すると77%
<「数学をバックグランドに持つ者」の充足感>
Q あなたの研究チームに数学をバックグランドに持つ人は
含まれていますか?
(回答)「はい」26%、「いいえ」74%
日本における数学研究ニーズに関する調査
結果②
<欧米における「数学をバックグランドに持つ者」について>
Q あなたのライバルとなる欧米の研究チームに数学をバックグランドに持
つ人は含まれていますか?
(回答)「はい」62%、「いいえ」38%
<「数学をバックグランドに持つ者」の将来的な必要性>
Q 将来的にあなたの研究チームに数学をバックグランドに持つ人は必要
ですか?
(回答)「はい」65%、「いいえ」35%
<研究課題や専門分野への数学の貢献に対する期待度>
Q あなたの研究において数学の貢献を期待したい課題がありますか?
(回答)「はい」63%、「いいえ」37%
日本における数学研究ニーズに関する調査
結果③
Q 自由記述

基礎科学としての数学の重要性を認識することが必要である
・ 短絡的に数学の有用性や経済性のみを考えないで数学を推進すべき
・ 応用数学の基盤として純粋数学も必要

数学者が応用分野や実学に興味をもって欲しい
・ 数学者自身が(も)現実的な問題(応用研究)に積極的に取り組んで欲しい
・ 応用数学の分野で活躍する数学者が欧米と比較して少ない

応用分野や実学に取り組む数学者の育成(教育)が必要である
・ 数学だけでなく他分野もわかる研究者の育成のための教育システムが必要

数学者と他分野研究者が交流する「場」が必要である
日本においても数学に対するニーズは高い
日本の諸科学の研究者は、数学や数学者に大きな期待を抱いている
数学を基盤とした分野融合の精神的な土壌は出来ている
まとめ
・横断的アプローチにおける数学の役割
・横幹科学技術が求める数学者像
・新しい学問領域創出のために行うべきこと
横断的アプローチにおける数学の役割

数学は、諸科学同士をくっつける“糊”、また
は、諸科学に知識を伝達し循環させる“管”
としての役割をもつ
<数学はある分野での発展を標準化して、他の分
野に応用できるように助ける>
横幹科学技術が求める数学者像

数学以外の諸科学における問題に、広く関心
をもつ数学者
さらに、

数学に広く関心をもつ、または心理的に抵抗
がない諸科学の研究者
新しい学問領域創出のために行うべきこと

一方通行ではなく両方向で、あらゆる段階
におけるコミュニケーションの機会を増やす
数学者⇔数学以外の諸科学の研究者
大学等の数学者⇔産業界の数理科学者
様々な分野の産学官で