B: 黒体輻射 2006年10月16日 単位名 学部 :天体輻射論I 大学院:恒星物理学特論IV 教官名 中田 好一 授業の最後に出す問題に対し、レポートを提出。 成績は「レポート+出欠」でつけます。 授業の内容は下のHPに掲載されます。 http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html 1 B.1. 黒体輻射の式の導出 温度Tの熱平衡にある、大きさL3=Vの箱を考え、この箱の中の熱平衡輻射の 強度 B(ν、T) を決めたい。νは光子の振動数である。 n(ν, Ω)=周波数ν、進行方向Ωの光子の数密度、つまり、 n(ν, Ω)dνdΩdV=体積dV,周波数dν、方向dΩ(立体角) の範囲にある光子の数とすると、 B(ν,T)=c・hν・n(ν, Ω) である。 光子密度 n は、量子状態の密度Dと各量子状 態にある光子数s(p)の掛け算で決まる。 n(ν、Ω)dνdΩdV ΔP =D(ν、Ω)dνdΩdV・<s(p)>=光子数 ΔX P X 以下では、まず<s(p)>、次にD(p、Ω)を調べる。 フォトンの量子状態はΔp3Δx 3= h3 毎に2(偏光)である。 2 <s(p)> まず、 与えられた量子状態に存在する光子の数<s>を調べよう。 c・p=h・ν : 運動量pの光子一つのエネルギー Es=s・h・ν: 光子s個のエネルギー Ps : その量子状態に光子がs個存在する確率 すると、<s>=∑s・Ps 熱平衡のギブス分布は、Ps∝ exp(-Es/kT)=exp (ーs・h・ν/kT) となるので、ΣPn=1の規格化を課すと、 sh exp kT Ps h 2h 1 exp kT kT h 2h 3h 1 exp 2 exp 3 exp kT kT kT s s Ps h 2h 3h 3 1 exp kT exp kT exp kT この式を計算するため、x=exp(-hν/kT) とおく。 exp(-nhν/kT)=xn なので、 x 2 x 2 3x 3 ... x 1 s s PS 2 1 1 x x ... 1 x x 1 1 h exp 1 kT (計算には下の二式を使った) 1 x x x ... (1 x) x 2 x 2 3 x 3 ... 2 x x 2 x 3 x 4 ... 3 x 2 x 3 x 4 ... x 3 x 4 ... ... x x 2 x 3 ... x( x x 2 x 3 ...) x 2 ( x 2 x 2 3 x 3 ...) ... (1 x x 2 x 3 ...)(x x 2 x 3 ...) x x(1 x x x ...) (1 x) 2 2 3 2 4 こうして、振動数νの光子の量子状態1つに存在する光子数の平均、 <s> = 1/ [ exp (hν/kT)-1] であることが分かった。 D(ν、Ω) 次に、大きさL3=Vの箱の中の光子の量子状態密度 D(p, Ω)を考えよう。 一辺Lの箱の中の定常波と考えると、量子状態はΔ(L/λx)(L/λy)(L/λz)=1 毎に2つ(光子の偏光があるため)存在する。 したがって、箱の中の量子状態の数は、 ΔN=2・Δ{(L/λx)(L/λy)(L/λz)} =(2L3Δ{(1/λx)(1/λy)(1/λz)} =(2V/c3)・Δ{(c/λx)(c/λy)(c/λz)} =(2V/c3) (Δν)3= (2V/c3)ν2dΩdν D(ν、Ω)=ΔN/(V・Δν・ΔΩ)=2ν2/c3 5 B(ν、T) D(ν、Ω)と<s(ν、T)>が求まったので、 B(ν、Ω、T)=c・hν・ n(ν、Ω、T) =c・hν・ D(ν、Ω)・ <s(ν、T)> を計算すると、 B ( , T ) c h D ( , ) s , T 2 2 ch 3 c 1 h exp 1 kT 2 h 3 1 2 c h exp 1 kT 第1課 I(ν、Ω)のところでやったように、黒体輻射強度(Intensity)B(ν、T)は、 温度Tの熱平衡輻射が、単位面積を通って、その法線方向に単位立体角、単 位時間、単位振動数当たりに流れるエネルギー量という言い方もする。 6 B.2.黒体輻射の表示法 周波数表示Bν(ν、T)と波長表示Bλ(λ、T) dB=Bν(ν、T)dν=Bλ(λ、T)dλで、 Bλ(λ、T)を定義する。 Bν(ν、T)・ν(dν/ν)= Bλ(λ、T)・λ(dλ/λ) であるが、ν・λ=cなので、 (dν/ν)= (dλ/λ) Bν(ν、T)・ν= Bλ(λ、T)・λ したがって、 Bλ(λ、T)=Bν(ν、T)・ν/λ=(c/λ2)Bν(ν、T) なので、 c 2h 3 B ( , T ) 2 c2 1 h exp 1 kT c 2h c 3 2 2 3 c 1 hc exp 1 kT 2hc2 5 1 hc exp 1 kT 7 対称表示 Bν(ν、T)・ν= Bλ(λ、T)・λ 対称表示はνとλが対称に扱える。 (BlackbodyB(ν,T)に限らず Intensity 一般に通用するのでIで話す) I(λ)=(c/λ2)Io 例: I(ν)=Io=一定 I(ν) I(λ) Io ν λ I(ν)ν= I(λ)λ 表示では λI(λ) νI(ν) ν λ 8 表示法により、エネルギー分布の見掛けはかなり変わる。下の4つのグラフは 全て同じスペクトルを表している。ただし、logλ-I(λ)の図だけは曲線の下の 面積がエネルギー量に対応していない点に注意。 3 30 I(λ) 2 .5 2 20 I(k) I(λ) I(ν) 25 1 .5 15 1 10 0 .5 5 0 0 2 4 6 8 0 10 10 8 6 λ 4 2 0 k=1/λ 3 4 I(λ) 2.5 3.5 3 I(λ)・λ I(λ) 2 1.5 1 λ・I(λ) 2.5 2 1.5 1 0.5 0.5 0 0 -1 - 0 .5 0 logλ 0 .5 1 -1 - 0 .5 0 logλ 0 .5 1 9 黒体輻射の規格化表示 h 2h 3 1 2k 3 3 kT BT , 2 2 2T h c ch h exp 1 exp 1 kT kT 3 h BT , 2k 3 kT 2 2 3 T ch h exp 1 kT そこで、 3 この時、 1.6 1.4 1.2 1 F c 2 h 2 BT , h F 3 x 3 kT 2k T とおいて、Fとxの関係を図示す ると右のようになる。 F=x^3/[exp(x)-1] 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 1 2 3 4 5 6 7 x 2k 3 3 B , T 2 2 T F ( x) 1.33381019 T 3 F ( x) ( W m-2 Hz-1 K -3 )10 ch 8 log B(T,ν)とlogν の形で書き直すと、 h 3 3 2k kT log BT , log 2 2 3 logT log h c h exp 1 kT log B(T,ν)=3・logT+F(logν-logT) の形をしているので、 Bν(ν、T)のグラフが左 図のようであるとき log Bν logT+Δ logTのBν(ν、T)のグ ラフは右図のように左図の曲 線を平行移動したものである 。 log Bν 3Δ logT Δ logT logν logν このように、log-log 表示では黒体輻射は同じ形になる 11 全輻射強度 B(T)=∫Bν(T,ν)dν= ∫Bλ(T,λ)dλ B (T ) B ( , T )d 2 h 3 2 c 1 d h exp 1 kT 1 kT 2h h h 2 d h c kT exp h 1 kT kT 4 3 σ = 2π5k4/15h3c2 =5.6696 10 ー8 W/m2/K4 = ステファンボルツマン係数 2k 4 4 x 3 dx 2k 4 4 3 2T 3 2T T4 hc exp x 1 h c 15 4 全輻射強度B(T)を黒体表面からの全輻射フラックスF(T)と混同しない ように。 Intensity = (σ/π)T4 Flux = σT4 12 B.3.黒体輻射のその他の性質 黒体輻射のエネルギー密度 U(T) エネルギー密度 u(ν)は、 u ( , T ) h n( , )d 右式では、B.1.の最後で導いた n(ν、Ω、T) = D(ν、Ω)・ <s(ν、T)> を使った。 2 2 h 3 c 8h 3 c3 4 h exp 1 kT 1 h exp 1 kT なお、 u ( , T ) h n( , )d 4 h n( , ) B , T c h n( , ) であったから、 c B , T u ( , T ) 4 である。 13 したがって、黒体輻射の全エネルギー密度U(T)は、 U (T ) u ( , T ) d 4 B , T d c 4 4 T c 4 4 T c a T 4 4 8 5 k 4 16 a 7 . 5659 10 c 15c 3h3 J m-3 K -4 は、輻射密度定数(radiation density constant)と呼ばれる。 14 レーリー・ジーンズ近似 (hν/kT<<1) x h hc 1.4388 1 kT kT mT4 T m , T4 4 1m 10 K つまり、λ(μm)>>15,000/T(K) の時は、 B(T,ν)が下のような形で近似される。 2h3 1 2h3 kT 2 2kT BT , 2 2 2kT 2 2 c exp h 1 c h c kT 2hc2 1 2hc2 kT 2ckT BT , 5 5 4 ch exp ch 1 kT 15 下のグラフは黒体輻射のx3/(exp x-1)をレーリージーンズ近似 x2 と比べたものである。両者の差はx=0.4ではまだ20%あり、x=0.3 で15%以下となる。x=0.3に対応する波長を見ると、 レーリージーンズ近似 x^2 x^3/(exp x -1) x^2 or x^3/(exp x -1) 1 λ(μ)>50,000/T(K) 0 .8 T(K) λ(μm) 0 .6 100 500 0 .4 3,000 20 0 .2 10,000 5 30,000 2 0 0 0 .2 0 .4 0 .6 0 .8 1 x 16 ウイーン近似 (hν/kT>>1) 2h3 h BT , 2 exp kT c BT , 2hc2 ch exp 5 kT 17 18 19 黒体輻射のピーク 黒体輻射のピーク位置は、表現法で変わる。 B(ν)= [B(λ)λ/ν]= [B(λ)λ2/c]なので、 B(ν) B(λ) 図に見えるように、ピーク位置波長 はB(ν)が一番長い。 B(λ)が短く、B(λ)λが中間。 B(λ)λ =[B(ν)ν] logλ B ( , T ) B ( , T ) 2k 4 4 x4 2 3T ch expx 1 ピーク波長を求めるため、輻射強 度を x=hν/kT で表す。 2k 3 3 x3 B( , T ) 2 2 T ch expx 1 2k 5 5 x5 B ( , T ) 4 3 T hc expx 1 20 ピーク波長(振動数)は、 (n=3,4,5) の極大に対応する。 数値的に極値を探した結果は以下のようになる。 dFn(x) nxn1 x n exp(x) dx exp(x) 1 [exp(x) 1]2 x 1 exp( x) nxn1[exp(x) 1] x n exp(x) [exp(x) 1]2 n[exp(x) 1] x exp(x) x n1 0 2 [exp(x) 1] x n 1 exp( x) x T4λμ 3 2 1 の解がピーク位置を与える B(T,λ) Fn(x) 4 x5/[exp(x)-1] 4.965 0.290 νB(T,ν) = B(λ)λ x4/[exp(x)-1] 3.92 0.367 0 0 1 2 3 X 4 5 B(T,ν) x3/[exp(x)-1] 2.82 0.510 21 B.4.黒体輻射の数値表現 h=6.626×10-34 Js, x k=1.381×10-23 J/K, h hc 1.4388 kT kT mT4 B ( , T ) 2h c2 3 T m , T4 4 1m 10 K B ( , T ) 1 h exp 1 kT x3 1.33510 T exp x 1 19 3 1.33510 7 T 3 c=2.998×108 m/s 7 3.97310 m 2hc2 5 W/m2 /Hz 3 x exp x 1 1 Jy W/m2 /Hz 1.4388 1 exp mT4 3.9731019 1 Jy 3 m 1.4388 exp 1 T m 4 3 1 ch 1 kT exp 8 1.191 10 5 m 1 1.4388 1 exp T m 4 W/m 2 /m 22 黒体輻射 25 レーリージーンズ領域 傾き一定、 log B(ν、T) [Jy] 20 T=30000 T=10000 T=3000 T=1000 T=300 T=100 T=30 T=10 T=3 T=1 強さはTに比例 15 10 ウィーン領域 傾きと強さが 5 大きく変化する 0 -2 -1 0 1 log λ(μ) 2 3 4 23 B(T,ν)ν= B(T,λ)λ もよく使われる。 B ( , T ) B ( , T ) 2 h 4 2 c 1 2hc2 1 4 h hc exp exp 1 1 kT kT 1 kT 2h h 2 h c kT exp h 1 kT 2k 4 4 x4 2 3T c h exp x 1 4 4 4 9 2.782 10 T K x 4 exp x 1 8 1.191 10 1 4 1.4388 m 1 exp mT4 W/m W/m 2 2 24 B.5.熱輻射 壁の輻射吸収率A、反射率 R と放射率 K 左図で、輻射が壁と熱平衡と なった場合を考える。RとKに は変化がない。 K・B(λ,T)=放射光 温度T 熱平衡なので、壁の表面で、 入射光=反射光+放射光 I(λ)=B(λ,T) R・I(λ)=反射光 である。したがって、 B(λ)=R・B(λ)+K・B(λ) A・I(λ) I(λ)=入射光 =吸収光 つまり、 R+K=1 である。 A・I(λ)+R・I(λ)=I(λ) A+R=1 したがって、A=K=(1-R) 25 (a) 黒体 R=0 の表面はA=1であり、入射光を完全に吸収する。K=1な ので表面からはB(λ、T)の輻射が放射される。 K>1の表面は存在しない。すなわち、熱的な放射としては物 体の表面から黒体輻射以上の放射は起こらない。 (b) 鏡面 R=1 の表面はK=0となるので、表面からの放射=0 である。 (c) 色の付いた物体 常温で赤い物体は0.6μmより長い波長で反射率R(赤)が高く、 それより短い、 典型的には青い、波長で反射率R(青)が低い。 したがって、赤い物体は放射率K(赤)は低く、K(青)が高い。つまり 赤い物体自身が出す放射光は青いのである。 26 問題2 出題 平成18年10月16日 提出 平成18年10月23日 A. 地球から見る太陽は直径θ=32′のほぼ一様に輝く円盤に見える。スペ クトルの観測から、その表面輻射は温度T=5800度の等方的な黒体輻射 に近いと考えられる。地球が受ける太陽のフラックス(太陽定数)を観測す ると F=1.395 kW/m2 である。 以上の数値を用いて太陽から地球までの距離を求めよ。 B. 反射率=R(λ)、 放射率=E(λ)の、青い壁の部屋を考える。 前章で説 明したようにR(青)=大、E(赤)=大である。 この部屋の中を青い光、 I(青)=強、I(赤)=弱、で満たしておく。その状態で部屋を閉め切る。 壁の温度Tはどこも一定として、部屋の中の輻射はどうなるだろうか。 簡単のため、図で右向きと左向きの光のみを考える。 1) 左向きのIo(λ)の光が壁に当ると、 反射光=R(λ)・Io(λ)、 I 壁の熱放射=E(λ)・B(λ,T) R・I E(λ)+R(λ)=1 E・B 右向きの光I1=R・Io+E・B 27 2) この光が又壁にぶつかると、 反射光=R・(R・Io+E・B)、 熱放射=E・B 結局、第二回目の左向き光 I2(λ)=R(λ)・(R(λ)・Io(λ)+E(λ)・B(λ))+E(λ)・B(λ) 閉じた部屋の中は、上のプロセスを無限に繰り返したときのI∞(λ)で 満たされるであろう。 I∞(λ)は最初に部屋の中に入れた輻射I0(λ)、壁の色にどう影響されるか? 28
© Copyright 2025 ExpyDoc