会計学基礎 6月1日 設備投資と研究開発 アウトライン 固定資産とは 固定資産の範囲と区分 有形固定資産の取得原価 有形固定資産の原価配分 減価償却費の計算 固定資産の減損 研究開発費の会計 企業におけるキャッシュ(カネ)の流れ 土地・建物・工場 原材料 証券投資 仕掛品 現金 完成品 銀行借入 株主 売上債権 営業活動 投資活動(資金投下) 財務活動(資本調達) 固定資産とは 企業が営業活動を行うために、長期(通常、1年 を超える期間をさす)にわたって使用する資産が ある 製造業における工場や機械 小売業における店舗や備品 これらは、すでに学んだ棚卸資産と異なりすぐに 消費されるものではない しかし、長期にわたって使用を続けるうちに次第 に「使いつぶされる」ものである 固定資産とは このような資産を固定資産と総称し、以下の2種 類のいずれかの性質を持つ 企業が経済活動を遂行するために1年を超える長期 にわたって利用する費用性資産 費用性資産:企業活動でいずれ使われる(費用になる)資 産 現金化されるまでの期間が決算日から1年を超える 貨幣性資産 貨幣性資産:現金や、それに近い性質の資産(有価証券 など) 固定資産とは 貸借対照表上、固定資産は以下の3種類に区分 して表示される 有形固定資産 無形固定資産 投資その他の資産 固定資産の範囲と区分 有形固定資産 企業が1年を超えて利用するために保有している資 産で、物理的な形態を持った(=触れることができる) もの 償却資産:使用や時の経過により価値が減少するもの 減耗性資産:採取により数量的に減少するもの 例:山林・鉱山 非償却資産:通常は価値の減少が生じないもの 例:建物・機械・備品 例:土地・美術品 建設仮勘定:建設中の固定資産 固定資産の範囲と区分 無形固定資産 物理的形態を持たない(=触れることができない)が 1年を超える長期にわたって利用される資産 法律上の権利:各種の法律に基づく権利 例:借地権・特許権・商標権 のれん(営業権):他企業の買収・合併などに際し、受け入 れた純資産を超える対価を支払った場合の超過額 「企業集団の会計」で改めて取り扱う 固定資産の範囲と区分 投資その他の資産 投資 他企業との関係(支配、提携、取引関係)の維持や、余資 の運用のために企業が保有する資産 例:株式や、1年以内に満期が来ない債券・預金など その他の資産 長期前払費用が該当する 代金を前払いし、1年を超えて取り崩される(=サービス等の提 供を受ける)場合の前払代金 有形固定資産の取得原価 購入の場合(棚卸資産の場合と同様) 購入した棚卸資産の取得原価は、購入代価に副費 (付随費用)を加算する 副費:運賃、手数料、据付費、試運転費など 値引(品質不良などによる単価の切り下げ分)や割戻 (多額の購入をしたことによる代金の減額分)は購入 代価から差し引く 現金割引(代金の早期支払による支払免除額)は営 業外収益とする 金利の性質を持っているため 有形固定資産の取得原価 自家建設(例:建設業の会社が自分で自分のた めに建物を建てる)の場合 実際の製造原価による(市場価格ではない) 建設工事期間の借入金利息については取得原価へ の算入が例外的に認められる 有形固定資産の取得原価 現物出資の場合 交換の場合 出資者へ交付された株式の発行価額による 実質的に、受け入れた資産の評価額(~時価)による ことになる 譲渡資産(相手に譲渡した資産)の簿価による 贈与の場合 贈与を受けた時点での公正な評価額(~時価)による 有形固定資産の取得原価 有形固定資産の使用開始後に行われた支出の 取り扱い 資本的支出は資産に計上する 耐用年数を延長させる効果を持つ支出 資産価値を増加させる支出 収益的支出は支出された期間の費用とする 定期的な補修・修理・部品交換などの支出 有形固定資産の原価配分 有形固定資産の取得原価をその資産が利用さ れて売上収益が得られた期間にわたって費用と して配分する必要がある(期間的対応) 有形固定資産の価値は長期間にわたって徐々に低 下していく しかし、個別の売上に対応してどれだけ固定資産の 価値が低下したかは測定できない そのため、なんらかの「みなし」が必要になる=>減 価償却 有形固定資産の原価配分 減価償却を行う際の問題点 (1)資産を何年間にわたって利用できるか?(耐用年 数) (2)資産を利用し終わった時点で、資産に何らかの 価値が残っているか?(残存価額) これらについて、資産を取得した時点で確実なことは わからない 何らかの見積もりが必要になる 有形固定資産の原価配分 減価償却を行う際の問題点(続き) 税法で、資産の種類ごとに耐用年数を定めている 税法上、平成19年度以降に使用開始した資産の残 存価額はゼロ(事務上の理由で1円:備忘価額)と なった 実務上の煩わしさを避けるため、税法と同じ耐用年数を用 いる企業が圧倒的に多い これに影響されて、会計実務でも今後残存価額はゼロを 採用する企業が圧倒的に増加する(見込み) 上記が財務会計に与える影響を考えてみると…? 有形固定資産の原価配分 正規の減価償却 固定資産の取得価額と残存価額の差額を耐用年数 にわたって費用として配分する たとえば 耐用年数 5年 取得価額 900万円 残存価額 0円とすれば、 900万円を5年間にわたって費用として認識する たとえば、毎年180万円(=900/5)ずつ(後述) 減価償却費の計算 原価配分基準 資産の取得原価と残存価額の差をどのようにして各期 に割り振るかの基準 通常は、資産を利用する事ができる期間の長さ(耐用 年数)をもちいる 資産の利用度(資産を使用した度合い)を用いることも ある この場合、全体でどのくらい資産を利用するのかを資産購 入時に見積もることが必要になる 減価償却費の計算 原価配分基準・取得原価・残存価額をもとに減 価償却費を計算する 個々の固定資産について、毎期の減価償却費 の合計は取得原価(と残存価額の差)に等しい。 たとえば耐用年数が5年であるとすると、 減価償却費1+減価償却費2+…+減価償却 費5=取得原価(-残存価額) 残る問題は、減価償却費1から減価償却費5ま でをどのように割り振るか 減価償却費の計算 減価償却費の主な計算方法として、次の方法が 用いられる 定額法 定率法 生産高比例法 級数法 いずれの方法を用いるかによって、毎年の減価 償却費が異なる(したがって、毎年の利益額も異 なる) 減価償却費の計算 定額法(直線法) 毎期一定の金額ずつの減価償却を行う方式 毎期の減価償却費={取得原価(-残存価額)}/耐 用年数 減価償却費の計算 定率法 前期末の未償却残高に毎期一定の償却率をかけて 減価償却費を計算する 新・旧償却率の算出法は桜井須田p121を参 照 現行の償却率:200%定率法による 減価償却費の計算 定率法 未償却残高:取得原価から減価償却累計額を差し引 いた額(B/S上の資産の簿価) 減価償却累計額:(当該資産について)過去に計上さ れた減価償却費の合計 毎期の減価償却費=前期末の未償却残高*償却率、 またはその期から定額法を採用した場合の減価償却 費、のいずれか大きい方を用いる 減価償却費の計算 級数法 耐用年数の数値の和(1+2+3+…+耐用年数)を 分母とし、耐用年数までの残りの年数を分子とした級 数を取得原価にかけて減価償却費を計算する 耐用年数5年の場合、分母は1+2+…+5=15 1年目:{取得原価( -残存価額)}*(5/15) 2年目:{取得原価( -残存価額)}*(4/15)… 5年目:{取得原価( -残存価額)}*(1/15) 減価償却費の計算 生産高比例法 資産の取得時に将来の利用可能総量を推定し、それ に対する実際使用量の比率にしたがって減価償却費 を計算する 減価償却費 = (取得原価-残存価額)*(実際利 用量/利用可能総量) 利用可能総量の推定が難しい場合が多く、適用の範 囲は狭い たとえば、自動車の総走行キロ数を見積もれる場合に使 用できそう 有形固定資産の原価配分 固定資産を処分した場合の会計処理 除却の場合:未償却残高を損失として認識する 除却:資産を捨ててしまうこと ゼロ円(1円)まで減価償却が終わっていれば(すなわち、 耐用年数経過後であれば)、除却損は発生しない 売却の場合:未償却残高と売価の差額を売却損また は売却益として認識する 減価償却費の計算 教科書の例(pp118~123) 取得原価 100万円 残存価額 0円(備忘価格として1円) 耐用年数 5年 定額法・定率法・級数法による毎年の減価償却 費を計算する 減価償却費の計算 定額法と定率法の比較 固定資産の取得直後の減価償却費 固定資産の取得直後の未償却残高(資産の簿 価) 定率法>定額法 定額法>定率法 耐用年数の終了間際の減価償却費 定額法>定率法 減価償却費に関する変更 以上で見てきたとおり、減価償却費の計算法の 違いは毎期の利益額に影響をおよぼす 特に、多くの固定資産を用いる業種にとって影響が 大きい 減価償却に関する見積もりや計算法が変更され た場合、その理由について検討することが必要 減価償却費の計算法に何を用いたか、また変更 があった場合の理由と影響額は財務諸表の注 記に開示される 固定資産の減損 減損とは、現在の収益見通しに基づいて、意味 のなくなった過去の(過剰)投資額を切り捨てる (=損失を認識する)こと 時価と簿価の単純な大小比較ではない! 我が国では2005年度から完全実施 いわゆる「時価会計」ではない 2003年本決算から早期選択適用が可能であった 企業にとって、かなりインパクトが大きい損失を 報告するケースがあった 減損損失の例 減損損失の例(小田急電鉄) 減損会計の仕組み 減損の兆候の有無を調べる 減損を適用すべきかを判断する 減損損失を測定する 減損会計適用の流れ 減損の兆候 減損の兆候がある資産とは 営業損失が継続しており、キャッシュ・フローが継続し てマイナスである 資産の市場価格が下落している 資産の使用目的・範囲の変更があった などの事象を示す資産 要は、「うまくいっていない=モトを取れそうにない」事 業で使っている資産 減損適用の判断 減損の兆候がある資産についてのみ、減損を適 用すべきか否かが判定される プロジェクト全体の割引前キャッシュフローが基 準となる この基準と簿価を比較し、簿価の方が大きけれ ば減損を適用する 減損損失の測定 簿価と回収可能額との差額を減損損失として認 識する 回収可能額は以下のうち大きい方 正味売却価額(資産を処分したとして得られる金額) 将来キャッシュ・フローの割引価値(資産を継続使用したと して回収できる金額) 減損実施後、仮に事業が好転(<=回収可能額 の上昇)しても損失を戻し入れることは認められ ない 研究開発費の会計 研究開発費 研究費:新しい知識の発見を目的とした計画的な調査および探 求に要した費用 開発費:新しい製品・サービス・生産方法についての計画若しく は設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若しくは 設計として、研究の成果その他の知識を具体化することに要し た費用 研究開発費の会計 現行の会計基準では、研究開発費はそれが発 生した期間(要は、使った期間)の費用として計 上する 経過的な措置として、一部の開発費について資産計 上が認められているが、実際にそうしている企業は非 常に少ない このような会計上の取り扱いが、多額の研究開 発費を必要とする業種(例:製薬業)の財務諸表 にどのような影響を与えるのかを考えてみよう 次回への準備 次回は資金の管理と運用について取り扱う 予習はテキスト7章
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