症例から学ぶHIV感染症診療のコツ インタラクティブ・セッション Dec 1, 2006 第20回日本エイズ学会学術集会・総会 シンポジウム11 企画・協力:HIV Care Management Initiative-Japan 共催:第20回日本エイズ学会学術集会・総会/グラクソ・スミスクライン㈱ 1 症例1 腹痛を主訴として来院した 38歳男性 2 現病歴 2004年5月に上腹部痛があり近医を受診した。 内視鏡検査で胃潰瘍が認められPPI等投与 されたが改善がみられないため当院消化器 内科に紹介され、 胃生検にて悪性リンパ腫(DLBCL)と診断さ れた。 3 既往歴その他 既往歴 肺炎(2002年) 家族歴 特記事項無し 4 入院時検査 全身CT:明らかなリンパ節腫脹なし、 Gaシンチ:異常集積なし、 骨髄検査:明らかなリンパ腫細胞の浸潤はない が、小リンパ球、形質細胞を認め、 リンパ球表面マーカー検査にて免疫グロブリン 軽鎖の偏りを認めた。 臨床病期:Ⅰ期。 LDH 166, β2-MG 2.67, sIL-2R 658, aaIPI low risk 5 入院後経過 悪性リンパ腫に対してCHOP療法を開始した。 CHOP1コース後に、既往歴および合併症状が気に なり、再検討を行った。 6 既往歴および合併症の再検討 肺炎の既往:36歳の時 皮疹:来院時、薬疹と判断され、プレドニン 投与で軽快 血小板減少:プレドニン投与後改善、減量 に伴い再度減少傾向を示した 悪性リンパ腫:CHOP1コースのみ終了 7 HIV検査を実施しますか? Please Vote この患者にこの時点でHIV検査を 1. する 92% 2. しない 8% 8 経過 HIV抗体検査を行なったところ、WB法陽性 CD4陽性細胞 240/μl( 29.4% ) ウイルス量 2.0×104 コピー/μl 9 悪性リンパ腫とHIV感染症の治療 Please Vote どうしますか? 1. 悪性リンパ腫の治療を先行 42% 2. HIV感染症の治療を先行 17% 3. 同時進行 41% 10 HAARTの組み合わせは? Please Vote 以下のうちなら、どれを選択するか? 1. TDF + 3TC or FTC + EFV 15% 2. AZT + 3TC + LPV/r 12% 3. d4T + 3TC + NFV 21% 4. 3TC + ABC + EFV 52% 11 経過 HAART(3TC, ABC, FPV)を開始 CD20(+)であったためリツキシマブを投与 R-CHOP 3回後の胃カメラにて寛解を確認 血小板数はHAART開始後、増加 12 症例2 顔面・頭髪部の丘疹で来院した 33歳日本人男性 13 現病歴 2006年1月から顔面および頭髪部に掻痒を伴う 丘疹が散在するようになる その後、耳介、外耳道及び鼻腔を含めた全身に 出現。それぞれは次第に自潰し痂皮化したほか 一部で貨幣状のびらん局面を形成した。 その他、3月頃には手掌、足底に丘疹が出現し、 陰嚢及び亀頭部には丘疹の他、有痛性の潰瘍 が陰嚢部を中心に広がった。 14 15 既往歴 25歳(8年前)にベーチェット病と診断。緩 解と増悪を繰り返しながら、PSL10mgでコ ントロールされていた。 昨年9月、PSL自己中断で神経ベーチェット 発症。ステロイドパルスで軽快。 16 経過 ベーチェットの増悪と考えられ、PSL30mg に増量されたが皮疹は改善しなかった。 17 経過 一方、4月頃から咳、味覚異常及び舌の 白苔が強くなり、ほとんど食事が摂れずに、 るいそうが進行。 5月10日、全身倦怠感、呼吸困難が増悪し、 前医に緊急入院。 18 前医入院 2006.5.10-5.19 入院時の胸部レントゲンにて、両側肺野に スリガラス陰影を認めた他、左下肺に結節 性病変を確認。 その後の検査でHIV抗体陽性、WB陽性が 確認されたため、拠点病院に転院となった。 CD4陽性細胞数:160 19 胸部レントゲン所見 ‘06.5.11.(前医入院時) 20 主要検査所見 WBC 8,640/l AST 34 IU/l, ALT 30 IU/l Neut 87.5% ALP 271 IU/l, γGTP 33 IU/l Lymph 8.5% LDH 382 IU/l, T-Bil 0.1 mg/dl Mono 2.0% Cr 0.7 mg/dl Eo 0.5% CRP 0.08 mg/dl Baso 0.5% Atypical-Lym 1.0% RBC 470×104/l Hb 12.6 mg/dl Plt 33.5×104 /l 21 どうしますか? Please Vote 1. 間質性肺炎の治療(ステロイド)開始 2% 2. 市中肺炎の治療(抗菌薬)開始 2% 3. ニューモシスチスの治療開始 20% 4. 気管支鏡検査 5. 結核の可能性を考えて個室隔離 23% 6. 上記すべて 19% 34% 22 前医入院 2006.5.10-5.19 BALにてPCPが確定し、5月12日よりST合剤 による治療が開始された。 β-Dグルカン 99 pg/ml Tbc-培養(-)、PCR(-) 23 転院後経過 PCPは当院治療で軽快。 振り返って、皮疹の原因を検討 本当にベーチェット病由来か? 24 何を行いますか? Please Vote 1. 皮疹の生検 19% 2. 下肢静脈の超音波 1% 3. ANCA, HCV抗体, Cryoglobulin 4% 4. 梅毒血清反応 5. 上記、全て 34% 42% 25 経過 TPHA及びSTSが著明に高値をとっており、 STS:96.19 SU/ml TPHA:高値陽性だが抗体価は判定不能 ベーチェットの増悪と考えられていた皮疹 は、二期梅毒であったと診断した。皮疹は サワシリンの投与で軽快した。 26 Secondary syphilis, Ecthyma (HIV+, CD4 156/μl) 東京医科大学 皮膚科 加藤雪彦先生提供 27 Secondary syphilis, Ecthyma (HIV+, CD4 156/μl) 東京医科大学 皮膚科 加藤雪彦先生提供 28 Bechet's disease (HIV +) 東京医科大学 臨床検査医学科 天野景裕先生提供 29 症例3 PCPで発症した 43歳日本人男性 30 臨床経過 2005年10月、PCPにて受診の際、 HIV抗体陽性が判明。 この時、 CD4: 4/μl(1.5%) VL: 27,000コピー/ml 既往歴 うつ 31 どうしますか? Please Vote 1. まずPCPの治療、その後HAART 78% 2. PCPの治療とHAARTを同時に開始 22% 3. 経過観察 0% 32 臨床経過 PCPの治療が終了後、HAARTを開始した。 PCPの治療後 CD4: 5/μl(2.0%), VL: 43,000コピー/ml 33 どのレジメンを選択しますか? Please Vote 以下の中から選ぶとしたら? 1. TDF + 3TCorFTC + EFV 8% 2. TDF + 3TCorFTC + LPV/r 45% 3. TDF + 3TCorFTC + ATV/r 22% 4. ABC/3TC + ATV/r 25% 34 臨床経過 1日1回処方の希望があり、 うつの既往があったため TDF+3TC+ATV+RTV開始。 (途中からTDF/FTC+ATV+RTVに変更) 35 臨床経過 4日目より高熱が持続。肺門部に結節影が 指摘され、胃液PCRにM.avium陽性であり (1回のみだが)、MACの免疫再構築と考え られた。 免疫再構築に対し、CAM、EB、AMK、ステ ロイドを投与し、軽快。 36 臨床経過 ウイルス量の変化 2005.11 2005.12 HIV-RNA CD4 43000 5500 5 100 TDF/3TC/ATV/r開始 TDF/FTC/ATV/rに変更 消化器症状が出たため H2-blockerを追加 (ATVとは12時間あけて投与) 2006.1 2006.2 98 5600 87 41 2006.3/9 3100 136 37 どうしますか? Please Vote 1. アドヒアランスのチェック 22% 2. 耐性検査を実施し、HAART変更を検討 4% 3. ATV血中濃度測定の実施 4% 4. H2-Blockerの中止 2% 5. 上記の全て 6. 経過観察 2% 66% 38 臨床経過 genotype耐性検査実施: M184M/V/Iのみ H2-blockerは中止 ATV血中濃度: 0.69μg/ml(有効域内) 39 臨床経過 ウイルス量の変化 2006.3/14 HIV-RNA CD4 9600 ND genotype耐性検査実施: M184M/V/Iのみ H2-blocker中止 2006.4 3100 97 2006.5 2800 122 ATV血中濃度: 0.69μg/ml(有効域内) 40 どうしますか? Please Vote HAARTの内容を変更する。 1. TDF/FTC or 3TC + AZT + ATV/r 15% 2. TDF/FTC or 3TC + AZT + LPV/r 30% 3. TDF/FTC+ EFV 22% 4. このまま続ける。 * アドヒアランスのチェック等は続けている 33% 41 臨床経過 6月よりツルバダ/NVPに変更 ウイルスは検出限界以下に 2006.6 2006.7 2006.8 2006.9 HIV-RNA CD4 1200 50未満 50未満 50未満 123 154 218 168 42 症例4 58歳男性 38度以上の不明熱で来院 43 臨床経過 58歳男性、38度以上の不明熱で入院。 HIV抗体検査でHIV急性感染症と診断。 既往歴にHBV急性感染、梅毒 HBVはその後、慢性持続感染。 44 Please Vote もしHIVを診断する前に活動性梅毒と慢性B型 肝炎を診断したらどうしますか? 1. B型肝炎の治療 2% 2. 梅毒の治療 3. HIV感染の検査 4. 上記の全て 24% 43% 31% 45 臨床経過 急性期症状が改善し、外来診療となった時点で CD4: 217→136/mm3 VL: 1.6x105/mm3 急速進行型と考えHAARTを開始した。 46 何を選びますか? Please Vote HBVとHIV:両者の治療が必要な場合、 HAARTとして以下のどれを選択しますか? 1. TDF + 3TCorFTC + PI or NNRTI 70% 2. AZT + ABC + PI or NNRTI 13% 3. AZT + 3TC + PI or NNRTI 7% 4. ABC + 3TC + PI or NNRTI 10% 47 もし、こうならどうしますか? Please Vote HBVは活動性: ASTおよびALT:500, HBV-DNA>107 HIVの状態はまだ悪くない: CD4:500 1. B型肝炎の治療のみ開始 52% 2. HAARTを先に開始 3% 3. 上記、両方を開始 35% 4. 様子を見る 10% 48 どうしますか? Please Vote HBVのみ治療、HIVは治療しないなら、何を 処方しますか? 1. 3TC 15% 2. TDF/FTC 4% 3. Adefovir 24% 4. Interferon alpha 2a 31% 5. Entecavir 26% 49 症例呈示を頂いた先生方 前田卓哉先生 東京大学医科学研究所/感染症国際研究センター 山田 治先生 山口大学大学院 医学系研究科 四本美保子先生 長野赤十字病院 内科 坂部茂俊先生 山田赤十字病院 内科 50 本日の講義のスライドデータは、 年内にホームページでフィードバック予定です Visit Our Website http://www.hivcare.jp 51
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