人間とコンピュータ

人間とコンピュータ
2006年2学期
第7回
本日の内容
• デザインの力と使いやすさ
– デザインの良くなるサイクル
– デザインのサイクルに逆らう流れ
• 競争原理
• デザインを取り巻く事情など
• 人間とコンピュータシステム
– コンピュータは使いやすいか?
2
デザインの力と使いやすさ
•
道具のデザインの進化のサイクル
1. 道具が世に出る
2. 不備が見える
3. 不備な部分が修正される →1に戻る
だんだん,機能的にも見た目にも良くなっていく
これが理想的な形!
3
デザインの力と使いやすさ
•
道具のデザインの進化のサイクル
– 山登り法とか丘登り法(hill-climbing)
一歩踏み出す
→ちょっと悪くなりそうなら...別の方向を探す
→よくなりそうなら,そちらに進む
それ以上,よくなる部分がなければ,そこで終了
4
デザインの進化の例
• タイプライターの例
– キーボードデザイン qwerty 配列
• アルファベット順
• ピアノの鍵盤のようなデザイン,長方形,正方形
などもあったが,qwertyが定着
OnlineStore WEBO
(http://www.webo-kobe.com/items/interior/olivetti/valentine.html)より 5
タイプライターの例
• なぜに qwerty配列か?
– よく打つアルファベットが近くにあると,バーが
つっかかる
• 右手と左手に離して,スムーズに高速でタイプできるよ
うに試行錯誤が行われた
• 結局,その配列に落ち着いた
その他:英語でよく使われるアルファベットをうまく
配置した→ shrdlu配列
• ETAOIN SHRDLU CMFWYP VBGKQJ XZ
6
デザインサイクル以外の要因
• 事情によりサイクルに乗らないことも多い
– 費用対効果
• コストをかけるだけの利益(利点)があるか?
– 競争原理
• 時間の切迫
• 新しいデザインにしようとする志向
• 個性の主張(デザイナーらしさ)
– デザインを取り巻く事情
→自然な進化でなく,バイアスのかかったデザイン
7
費用対効果
• タイプライター:もっとよいキー配列はない?
– 結論から言うとある
– ドボラク(Dvorak)配列
• qwertyよりも,タイプの速度がはやい.
• 移動距離が短いなどの利点がある
• 使われているか?
– 普及はしなかった→コンピュータ時代もqwerty
• 既にqwertyが普及していた
• Drorakが良いといっても学び直すコストや既存のもの
と置き換えるコストを上回るほどではない
8
競争原理
• 企業が道具を製品として出す時には,競争相
手との戦いがある
– 時間の切迫
製品サイクルの早い現代では,新製品が次から次
に発表される
• 十分にデザインを検討している時間が与えられない
• 前のものを見直す時間もあまりない
(新製品が出ると,その時点では次の製品開発が動い
ている)
9
競争原理(2)
– 新しいデザインにしようとする志向
他社との差別化,自社の従来製品との差別化
モノがあふれた現代では,製品を差別化するため
何か他と「違う」部分をデザインに求める
• ゆえ合って採用されていたデザインが突如捨てられる
• 良いとわかっていても「真似」と思われそうなものを削
る
10
競争原理(3)
– 個性の主張(デザイナーらしさ)
• そのデザイナーらしさ
• そのメーカーらしさ
過度に進むと,ユーザが忘れ去られる(利用面)
一方で,
その見た目の「らしさ」がファンを生むこともある
(商業面)
11
デザインを取り巻く事情(1)
• 「美しさ」優先(偏重)のデザイン
– すばらしいデザイン≠使いやすいデザイン
– 使いやすいデザイン≠見た目に魅力的でない
– デザイン上の何かの賞に輝いた道具(建物など)
=使いやすさは考えられていない という傾向
機能第一のデザインが賞を取ることはまずない
有名建築家の作った使いにくい建物
12
デザインを取り巻く事情(2)
• 「美しさ」優先(偏重)のデザイン
– 東京外国語大学の校舎は使いにくい
• 教室の配置がさっぱりわからない
• ガレリアがムダっぽい
• 教室が足りなかったり...
でも,オープンキャンパスをやると,高校生のウケ
はよい!
• きれい.デザインが格好いいなど.
13
デザインを取り巻く事情(3)
• デザイナーが初心者ではなくなる
– 何度もその道具について考え,操作していると,
その道具に習熟する
• この時点で一般の利用者とは異なる立場になる
• 一旦慣れてしまうと,初心者,不慣れな者のことがわ
からなくなりがち
– どこが分かりにくいかが,わからなくなる
14
デザインを取り巻く事情(4)
• デザイナーのボスはユーザでない
– 誰を喜ばすか?
– デザインを評価する者が変わると,違う評価が行
われることが多い
•
•
•
•
•
メーカー:値段が安く済むデザイン
製造者:製造コストが安い,作りやすいデザイン
メンテナンス業者:修理しやすいデザイン
利用者(購入前):格好いい,安い,斬新など
利用者(購入後):使いやすい,壊れにくいなど
15
デザインの落とし穴(1)
• 機能の無限拡張の呪縛
– 新しい機能を思いつく,リクエストがある,とする
– 今までのものに追加しようと思う
– ある時期10機能追加,次に10機能追加,その次
に10機能追加...
• そんなに使いきれるか?(使いこなせるか?)
• いたずらに複雑
• 機能がハコ(道具)におさまりきらない(機能変換キー)
16
デザインの落とし穴(2)
• 機能の無限拡張の呪縛
– 新しい機能を思いつく,リクエストがある,とする
結果...
– 今までのものに追加しようと思う
いらない機能満載
– ある時期10機能追加,次に10機能追加,その次
に10機能追加...
やりたいことがわかりにくくなって
• そんなに使いきれるか?(使いこなせるか?)
マニュアルが分厚く
• いたずらに複雑
• 機能がハコ(道具)におさまりきらない(機能変換キー)
値段も上がり,機構も複雑
よかったかつての機能が削られたり
17
デザインの落とし穴(3)
• 利用者の問題
– 複雑さを良いものと勘違いする
– 多機能を喜ぶ
• カタログスペックでの比較
• 機能が多いのは製品が優秀だからと思い込む
→本当に自分に必要なものは何か?
見極める消費者,利用者がいないと発展しない
18
良くなる兆し
• UD(ユニバーサルデザイン)
– 「できるだけ多くの人が利用可能であるように製
品、建物、空間をデザインすること」
(ユニバーサルデザインコンソーシアムより)
(バリアフリーとは違う)
– ユニバーサルデザインを意識したマニュアルや
道具のデザイン見直しも行われている(例:松下)
19
人間とコンピュータシステム
• コンピュータは分かりにくさの宝庫?
– 可視性の確保は注意が必要
• うっかりすると,やっていることが見えなくなる
– フィードバックはなかなか得られない
• その時々で,何が起こっているかわかりにくい
20
コンピュータの分かりにくさ(1)
• コンピュータ
実際は,コンピュータ上のアプリケーション
– 部位にカタカナ語,専門用語が多く使われる
• 何を指すのかがよくわからない(対応付けの失敗)
例:ある日のコンピュータ教室で...
– 本職でない人がデザインすることも多い
• 技術者,プログラマが行うことが多い
– やっていいことと悪いことがよくわからない
21
コンピュータの分かりにくさ(2)
• 机の上のコンピュータの電源ボタンを押してコンピュータを起
動する. (しばらく待つ...フィードバックはHDDのLED)
• 認証画面が立ち上がったら,エールティーキーとコントロール
キーを押しながらリターンキーを押し,その後,ユーザIDとパ
スワードを入力する(フィードバックは砂時計?)
• ウィンドウズが立ち上がったら,スタート,すべてのプログラ
ム,マイクロソフトオフィス,マイクロソフトオフィスエクセル
2003を選んで,マイクロソフトエクセルを起動する.
• A1セルをクリックし,キーボードから「1月」を入力した後,A1
セルの右下のフィルハンドルをA12セルまでドラックする.
• こうすると,オートフィル機能によって12月までの自動入力が
行われる.
わかるか?
22
コンピュータの分かりにくさ(3)
• 技術者,プログラマがデザイン
私はわかるよ.
それにマニュアルに
書いてあるから
わかるでしょ
デザイナ=技術者,プログラマ
なんでわかんないのかなぁ?
(その道具のプロ)
23
コンピュータの分かりにくさ(4)
• 技術者,プログラマがデザイン
マニュアルに
書いてあるから
わからねばなりませんか
そうですよね
私が悪いんですよね
利用者=素人
24
コンピュータの分かりにくさ(5)
• 恐ろしく多くの機能
• ソフトウェアなのでどれだけでも拡張可能
– 例:EXCELにはどれだけの機能があるか?
• ためしに数えてみよう
「ツールバー」には機能が貼り付いている
「メニューバー」のカスケードメニュー内に,細かい機能
が貼り付いている
「アドイン」とか「拡張アドイン」「マクロ」など追加もある
マニュアルのマニュアルが必要なレベル
25
コンピュータの分かりにくさ(6)
• やっていいこと,悪いことがわかりにくい
– 押してはいけないボタン,やってはいけない操作
• そんなものがあるのかどうかもよくわからない
• やっていいものが何なのかわからない
このボタンクリッ
クしたらさぁー.
パソコン壊れた
らどうする??
泣くね
謎キー
26
コンピュータの分かりにくさ(7)
•
•
•
•
何ができるかをわかりやすく (可視性)
何をやったのかがわかりやすく(フィードバック)
やってはいけないことはできなく(強制選択)
「やってもうた」でも大丈夫(フェールセーフ)
• 見た目にも美しく
とあってもらいたいものです.
27
まとめ
• デザインがだんだんよくなるサイクルがある
– 発表→使って評価→修正→発表
• サイクルに載らない事情もある
– 競争原理,費用対効果,デザインへの要求
• コンピュータはわかりにくさの宝庫
– もともとソフトウェアはわかりにくい性質を含む
– デザイナでない人がモノをつくることが多い
– なぜわかりにくいかを考えて,良くしていこう
28