公管理会計の枠組み再設計 ー 地域再生を目指してー MPM 代表取締役 名城大学 河田 信 本報告の論点 1 国の予算編成中心の公会計フレームと、自治体、地域の実績測定と とアクション中心の公管理会計を補完させる仕組み。 2 両者のシステム接合は可能であり、地域再生のアクションを先行・加 速させる必要がある。 3 企業から学ぶべきものは、発生主義会計ではなく,組織体の進化論 的アプローチである。 4 現金主義(ヨーンスの「債務補填状況の可視化」)は、今日の主要3表 に劣らない公管理会計の有力なツールである。 5 家計簿感覚の現金収支差額の動態把握と住民へのメッセージの与 え方が重要である。 6 地域再生は,文化遺伝子(ミーム) まで深耕する全体系的な診断から の再設計によって可能。 (長野県、横浜市、太田市etc) 公会計変革をうながす圧力 ① 業績圧力 子・孫の負担増を心配する気持ち ② アカウンタビリティ圧力 補助金、地方交付税、地方債は、県民一人当たり 県税額の3倍 (持分か?。Ref.「少数株主持分」) ③市場圧力 地方債の安全性は中央政府が保証 (出所:山本[2001] p.37) 誰が見ても破綻状態の日本国 2001年度(平成13年度) 公的年金債務の積立不足(600兆円) を含め844 兆円の債務超過 中の国債償還額72兆、借換債発行69兆 新規公債発行一切停止と仮定し 844/3=281年 独自財源を見込める経済基盤のある自治体 ? 企業経営のPDCAサイクルを機能させるには 翌年度予算編成検討開始 8-9月頃 その検討作業に前年度の評価結果を反映させるには、 7-8月に、本年度の事務事業評価や施策評価を行う必 要。 予算執行の初期段階で、management cycleの最後に 位置する評価を完了しなければならない論理的矛盾) 「予算中心管理・単年度別会計測定」 → 実績中心管理・時間軸動態会計測定 複式簿記・発生主義会計準拠でこの現実を変えることは困難 自治体首長・職員 平均像 中央の指導に従って動いてきた者に突然、「税源移譲するから自分 達でやれ」といわれても「何をどうしたらよいか分からない。」 「開かれた市政」といいながら、市民が行政に参加することを拒み、 市民が意見を言っても、聞くポーズはとるが受け容れない 住民 平均像 自治体が国に頼ってきたように、住民は自治体に頼ってきた。「 自 分達の町は自分達でよくする」という思考を停止。「道にゴミが落ちて いても自分で拾おうとしない住民」 NPMの問題点 1 成果と効率性の重視 (アウトプットを重視) 2 権限委譲と柔軟性の向上 (分権化) 3 アカウンタビリティと統制の強化 4 顧客・サービス志向(住民は顧客、行政はサー ビス機関) 5 戦略と政策開発能力の強化 6 競争と市場機構の導入 7 政府間関係と政府内部の関係の変革 事務事業評価システム 合理的に歳出削減がはかれる反面、成果が目 標をを上回っても予算の増額にはならない。 公共事業の費用便益分析にみるように、事前評 価で費用便益日が1以上であることを示されると 事業を不採択にすることは困難 結果的に総事業費は固定化 教え、与え、やらされ感,「形」偏重に陥りがち (年次管理サイクルで息切れしないか) 公会計B/S,P/Lの限界 収益および費用によって年度末に算定される「成果 (outcome)」は、いかなる意味をもつのであろうか?これに 関する回答は,スイス・カントンのFDKモデル,KGStモデ ルおよびシュパイヤーモデルのいずれにおいても与えら れていない。(亀井[2004]) 開始B/Sは作成不能 貨幣次元の測定になじまない資産、自然資産や文化遺産 Equity増分中に、自治体や住民の努力の跡が見えるよう にすることは可能か 税収の中の制度増と自然増の区別は可能か 政策ビジョン確立 均衡財政/小さな政府 黄金率(Golden Rule)の復活 「財政規律のうち、経常的費用は、政府借入によって 措置されない」 公会計視点 負債とGDPの水準の監視 資本的経費と経常的経費の区分が必要 (ガバナンスレベルとマネジメントレベル) (桜内 [2004]) 自治体経営システムの5層 ① ② ③ ④ ⑤ 国 首長 :任期中のパフォーマンス評価 議会 : 高処遇 + モラルハザード 職員 : 職員の行動様式をどう変更するか 住民 :地域再生の当事者にするには? --------------------------------------------------------① は別プロジェクト (複式簿記、発生主義,予算中心OK) ②~⑤の4層の活性化と自律再生 どれが欠けてもダメ 住民を主軸とする,総力戦での町起こし、村起こし戦略 全体系アプローチ 診断から再設計へ (現行システム診断) ①現行動・現象 ・とまらない財政赤字拡大 ・発生主義公会計改革論流行 ・全体系モラルハザード ②現構造 (制度, 情報・物・金の流れ) ・三位一体改革 ・事務事業評価 ・NPM ・市町村合併 ③現思考 (目的・手段,機能・解決策) ・予算編成中心 (実績無関心) ・単年度・現金主義による統制 ④ 現トーン・エートス ・管理サイクル 1年 ・予算が大事、実績無関心 ・プロセスより帳尻併せ ・今のまま症候群 診断から再設計へ 全体系アプローチ 企業経営システムのプロセス再設計例 ①新表層行動 トップレベルの基幹指標の整備,在庫減,キャッ シュ・フロー改善,余剰資源活用など ②新構造: 組織形態 情報・物・金の流れ 情報と金の流れ図と業績の測定評 価体系/ 転がし決算、損益・キャッ シュ・フロー結合計算書など ③新思考: 目的・手段 マップ ワークショップによる指標体系再設計 (フル・コスティングから直接原価、C/F セグメント別生涯採算などへの移行検討) ④新現トーン・エートス 現金収支・超期間計算が重要 (将来システム再設計) (N社の例 – TPSとのリン ク) 俯瞰と深耕 Question Relation to CSD FR DP Score (2+1+2+2)/4 = 1.75 Refine Future State with all Team Members Performance CSD ヨーンス説への回帰 - 超会計年度の資金収支差額の帰趨 地方自治体が景気対策のために地方債を起し て公共事業ばかりやっていたら,将来利用可能な 資源のうち将来の公債償還のため拘束される額 の割合が高くなる。 この問題をヨーンスはどう対応したか。 負債のうち、どの位の部分が将来の公債返還 のために拘束されているか (さらにそのうち赤字 公債のように住民の持分を食い潰している金額 はどれくらいか)を可視化。 YTD法 「地域再生思考促進型」のコンテンラーメン コンテンラーメンは,「自力、他力」、「ガバナンス,メネジ メント」との二次元構造の下での収支分類 ガバナンス マネジメント 自力勘定 環境事業誘致、米百俵 排出権取引,自然増収 他力勘定 護岸工事 物件費 損益勘定(行政コスト計算書)と処分・蓄積勘定を区別す る複会計予算(桜内 [2004]の国ナビと接合可。単独でも 機能) 自力成果の可視化と会計年度を超える資金勘定の rollingがポイント 資金会計論 収支計算への回帰 「拡張された資金概念」 カメラル簿記とヨーンスは,将来を含む3次元画像。 (今日の主要三表はいずれも2次元画像) 複式機構は、要件ではない。 特に発生主義、期間限定計算の枠組みは、管理会計上は逆機能 時間軸に沿って「越し方・行く末」を常時俯瞰,子・孫への 影響を思慮する志(こころざし)をもって,要因を深耕で きる、分かり易い「収支計算」の枠組みの提唱 現金主義と発生主義を同時にサポートするIT(表計 算) 日記帳から元帳転記、費目別、部門別、事業別計算、 B/SもP/Lも日々生成可能 生命体としての「呼気」と「吐気」に相当する資金の「入」 と「出」の均衡が生命体としての自治体の存続の鍵。 資金の「入るを図って出るを制する」ことの日々検 証とアクション (家計簿感覚) 住民参画志向の公管理会計枠組み 形体 (Form) 現金主義会計を、期間的に一部修正し発生主義に若干 接近したいわゆる権利確定主義を基礎に、現金収支計 算を貸借仕訳する複式簿記の部分的な適用 (大蔵省主計局試案:単式簿記現金主義が基本,亀井[2004] p.580-581 ) 実質 (substance) 日々締めて、日々「明日のやりくり」を、議会、職員、住 民が考える家計簿型の仕組みへ 現金主義か発生主義かは, “Or” から“And”の相互補完関係へ 住民の視点による行政評価 行政評価にあっては,企業のように一元的利潤 極大化動機に基づく,定量的分析によって判定 することはできない。(企業でも実はできない。) 住民が、行政評価をし,行政に何らかの刺激を与 え得るような情報の開示方法が見当されることも 亀井[2004] p.365 必要となる。 現金収支差額動態(日替わり) 電光掲示板(あんどん) 実績無関心がモラルハザードの根本要因 決算を議会で審議する意義は予算審議に比べて低い。 議会が決算を否決してみても、すでに1年以上も前に 使用されているために何の効果もない。そのため議 決は行われず、ただ承認されるに過ぎない。 (神野[2002]) 21世紀においては,予算と実績どちらか一つで可。 (執行を事前と事後で挟む方式は前世紀) 公管理会計は「予のない世界」の仮定から 年度予算の逆機能 ①1年に1回しか反省しない。(反省もさせない) ②余らせると、次年度の予算を削減される。 ③かけこみ予算消化、カラ出張, 帳尻合えばプロセス不問 (MBR) 製造業最先端実務 ① 非数値、実体 現地現物重視のプロセスマネジメント(MBM) ② 主役は「年度予算」ではなく中長期経営計画/プロジェクト別生涯採算計画 刻々の実績モニタリング、成行予測,計画修正 (維持管理) ③ 帳尻より中味を問う。 トーン・エートス (ミーム:文化遺伝子) ドーキンスによるミームの定義 ミームは文化の伝達や複製の基本単位である。遺伝 子が生態の物質的な資質(hardware機能)を複製するの に対し,ミームは,精神的な資質(software的機能)を複 製することで先代の資質を子孫に伝達する媒介である。 これらは共に「生体の生きる型」を伝達する仕組みであ る。生きる型には良し悪しはない。それぞれの資質に 従って,適応し、無理なく快適にいきるための一種のリズ ムでありライフスタイルである。組織集団である以上一つ のミームを持っている。厳密にはさまざまなミームが複雑 に混ざり合って作り出されたミーム融合体である。
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