発音の上達に関わる 要因について

発音の上達に関わる
要因について
明海大学総合教育センター 講師
早稲田大学大学院日本語教育研究科博士課程
木下 直子
[email protected]
0.はじめに
0.はじめに
1.先行研究
2.研究課題
3.研究方法
3-1.調査協力者
3-2.調査手順
3-3.調査内容
3-4.分析方法
4.調査結果
5.考察
6.今後の課題
7.参考文献
1.先行研究
 臨界期仮説(Critical
Period Hypothesis)
Oyama(1976)
米国在住イタリア系移民(6-20歳、5-18年滞在)
↓
12歳以降に移住した人は母語話者のような
発音能力にならなかった
Patkowski(1990) 移民英語学習者67名
↓
15歳以前(5-15歳) 33人 5段階の4か5
15歳以降(15-50歳) 34人 5は「なし」
16
16
14
14
12
12
10
10
8
8
6
6
4
4
2
2
0
0
1 1+
2 2+
15歳以下
3 3+
4 4+
5
1
1+
2
2+
3
3+
4
4+
15歳以上
発音の良さと学習開始年齢の関係(Patkowski,1990)
5
 臨界期はなぜ生じるのか
1)言語機能の側頭化説 (Lateralization)
2)神経の髄鞘形成説 (Myelination)
3)脳の代謝作用説 (Metabolism)
4)小容量・多学習説
(Less Capacity, More Learning)
1)言語機能の側頭化説 (Lateralization)
 Penfield and Roberts(1959)
Lenneberg(1967)
人間の脳は思春期の頃に右脳と左脳の
機能分化がほぼ完成する。
→言語の処理領域が左脳に固定(側頭化)
Krashen(1973) 側頭化は3-5歳で完了
Wuillemin & Richardson(1994)
側頭化と臨界期には関係がない
2)神経の髄鞘形成説 (Myelination)
 Jacobs(1988) Long(1990)
情報伝達:神経の髄鞘形成により促進され、より速く、
より確実になる
↓
思春期を境に髄鞘形成が起こりにくくなる
情報の伝達が遅くなり、伝達の確実性も失われる
↓
新しい言語の習得が困難
3)脳の代謝作用説 (Metabolism)
 Pinker(1994)
脳はある機能が必要なくなれば、
新しい機能に置き換える
↓
母語の獲得が終わった段階で他の機能に!
(Kim, Relkin, Lee & Hirsch(1997)でも同様の結果)
4)小容量・多学習説
(Less Capacity, More Learning)
 Newport(1990)
幼児期・・・情報保持容量が少ないため、
小さな単位で分析している
大人・・・比較的多量の情報を保持して分析し
ようとする
→年齢が上がると情報の保持容量も増えるため
思春期以降の外国語習得が難しくなる
16
16
14
14
12
12
10
10
8
8
6
6
4
4
2
2
0
0
1 1+
2 2+
15歳以下
3 3+
4 4+
5
1
1+
2
2+
3
3+
4
4+
5
15歳以上
発音の良さと学習開始年齢の関係(Patkowski,1990)
-反証①-
 Bongaert (1999)
オランダ人英語上級学習者 11人
オランダ人英語一般学習者 20人
↓
2標準偏差の範囲内 11人中5人(約45%)
すべて母語話者と判定 11人中3名(約27%)
-反証②-
 Moyer(1999)
アメリカ人ドイツ語教師 24名
↓
母語話者より判定上 1名
他の要因:職業的動機
単音および韻律の訓練
-その他の反証-
 Purcell & Suter(1980)
 Marinova-Todd他(2000)
●到着年齢の関係はあるが、決して絶対的な
ものではない
●訓練方法や認知的、社会的、情緒的な要因
次第で年齢による制約が克服できる
2.研究課題
1.発音の判定は「到着年齢」
「学習開始年齢」と関係があるか
2.日本語学習者にも母語話者レベルに到
達する学習者の存在が認められるか
3.研究方法
3-1.調査協力者
3-2.調査手順
3-3.調査内容
3-4.分析方法
3-1.調査協力者
人数
日本語学習者
12名
日本語母語話者
5名
日本語学習者の出生国
国名
人数
国名
人数
ベトナム
1名
イギリス
1名
韓国
5名
フィリピン
1名
中国
3名
アメリカ
1名
到着年齢と学習開始年齢
年齢 0
到着
(人)
学習
(人)
1- 54
9
10- 15- 20- 25- 3014
19 24
29 34
5
1
1
4
2
3
0
1
6
1
0
4
4
1
0
1
日本人
3-2.調査手順
発音タスク 録音 + アンケート
データを切り、ランダムに
並べ替える
判定
文法・表現が不自然なもの
↓
削 除
アンケート結果との
相関関係
3-3.調査内容
 発音タスク(約10分)
 言語学習に関するアンケート
 発音に対する動機・ストラテジー調査(小河原1997)
日本語版・英語版・中国語版・韓国語版
 評価者8名(約1時間)
「発音が上手だ」に対して「同意する」程度を
6段階リカート法で判定する
3-4.分析方法
 評価者間の比較ができるよう、z-scoreに判定
の数値を置き換える
 単語・文・会話別に、年齢と判定の平均の相関
関係をみる
 1標準偏差以内を母語話者レベルとした
4.調査結果
発音の判定は「年齢」と関係があるか
↓
YES
日本語の場合も 判定に
到着年齢や学習開始年齢が関係あり
要
因
(数字はr値を示す)
*5%水準
**0%水準
単語
開始年齢
到着年齢
-.632*
-.575*
文
開始年齢
-.723**
到着年齢
-.606*
開始年齢
到着年齢
-.595*
なし
会話
しかし
母語話者レベルの学習者
の存在が認められた。
①単語
1.0
.5
0.0
-.5
-1.0
-1.5
1
単
語 -2.0
-10
到着年齢
0
10
20
30
40
②文
1.0
.5
0.0
-.5
-1.0
-1.5
1
文 -2.0
-10
到着年齢
0
10
20
30
40
③会話
1.0
.5
0.0
-.5
-1.0
-1.5
1
会
話 -2.0
-10
到着年齢
0
10
20
30
40
1.発音の判定は「到着年齢」
「学習開始年齢」と関係があるか
→ ある
2.日本語学習者にも母語話者レベ
ルに到達する学習者の存在が認め
られるか
→ 認められた
5.考察
 発音の上達に関わる要因は、日本語の場合
にも「年齢」が関わることが明らかになった
↓
臨界期を過ぎたため?
単語/文/会話が
母語話者レベル
の2人の存在
→ 臨界期
否定しうる
データ?
 到着年齢と学習開始年齢は
どちらが優勢か?
↓
学習開始年齢の方が優勢であれば、
早期留学より、早期学習の方が大切?
6.今後の課題
 残りのデータを分析する
 インタビューを行い、発音上達者の具体的な
発音学習ストラテジーを個別に記録する
7.参考文献
Bongaerts, T. (1999). Ultimate attainment in L2 pronunciation: The case of very advance
late L2 learners. In D. Birdsong (Ed.), Second language acquisition and the critical
period hypothesis (pp. 133-159). Mahwah, New Jersey: Lawrence Erlbaum
Associates.
Jacobs, B. (1988) Neurobiological differentiation of primary and secondary language
acquisition. Studies in Second Language Acquisition, 10:3, 303-337.
Kim, K. H. S., N. R. Relkin, K. M. Lee, and J. Hirsch (1997) Distinct cortical areas
associated with native and second languages. Nature, 388, 171-174.
Krashen, S, D. (1973) Lateralization, language learning and the critical period: Some new
evidence. Language Learning, 23:1, 63-74.
Long, M. H. (1990). Maturational constraints on language development. Studies in
Second Language Acquisition, 12, pp.251-285.
Lenneberg(1967)
Marinova-Todd, (2000)
Moyer, A. (1999). Ultimate attainment in L2 phonology. Studies in Second Language
Acquisition, 21, pp.251-286.
Moyer, A. (2004). Age, accent and experience in second language acquisition. Clevedon:
Multilingual matters.
Neufeld, G. (1977). Language learning ability in adults: A study on the acquisition of
prosodic and articulatory features. Working Papers in Bilingualism, 12, pp.46-60.
Newport, E. (1990) Maturational constraints on language learning. Cognitive Science, 14, 11-28.
Nikolov(2000)
Oyama, S. (1976) A sensitive period in the acquisition of a non-native phonological system. Journal of
Psycholinguistic Research, 5, 261-285.
Patkowski, M. S.(1990) Age and accent in a second language : A reply to James Emil Flege. Applied
Linguistics, 11:1, 73-89.
Penfield, W. and Roberts, L. (1959) Speech and brain mechanisms. New York: Atheneum. 〔上村忠雄・
前田利男 訳(1965)『言語と大脳:言語と脳のメカニズム』東京:誠信書房〕
Pinker, S. (1994) The language instinct: How the mind creates language. New York: Morrow. (『言語を
生み出す本能(上、下)』日本放送出版協会)
Purcell & Suter(1980)
Wuillemin, D. & B. Richardson (1994) Right hemisphere involvement in processing later-learned
languages in multilinguals. Brain and Language, 46, 620-636.
小河原義朗(1997)「外国人日本語学習者の発音学習における自己評価」『教育心理学研究』第45巻第4号,
438-448.
助川泰彦(1993)「母語別に見た発音の傾向―アンケート調査の結果から」『日本語音声と日本語教育』文部
省重点領域研究「日本語音声における韻律的特徴の実態とその教育に関する総合的研究」, pp.187222.
竹内理(2003) 『より良い外国語学習法を求めて』松柏社
単語
単語
要 因
開始年齢
(数字はr値を示す)
到着年齢
日本語能力
日本語発音能力
教師訂正
発音満足度
*5%水準
**0%水準
-.632*
-.575*
.760**
.679*
-.641*
.585*
.603*
発音上手さ
-.626*
社会の受け入れ
「コミュニケーション意欲」 -.775**
文
文
*5%水準
**0%水準
要 因
開始年齢
到着年齢
(数字はr値を示す)
日本語能力
日本語発音能力
教師訂正
発音満足度
発音上手さ
-.723**
-.606*
.772**
.750**
-.697**
.671*
.755**
会話
会話
*5%水準
**0%水準
要 因
開始年齢
(数字はr値を示す)
-.595*
日本語能力
.714**
日本語発音能力
教師訂正
.708**
-.612*
「統合的動機」
-.709